団体保険の被保険者に対する募集規制の
明確化と実務上の留意点
古 田 一 志
■アブストラクト 平成26年改正保険業法では,団体保険の被保険者に対する行為規制,加入 勧奨に係る規制の適用関係など,実務を踏まえた保険募集の基本的ルールの 創設・明確化が図られた。このことは団体保険の適正な取扱い,加入勧奨の 一層の品質向上に取り組み,被保険者保護を充実させていくうえで,大きな 意義がある。また,所属保険会社等の賠償責任を定める保険業法283条は, 適用場面に⽛加入勧奨⽜は追加されていないが,加入勧奨の考え方が明確化 されたことによって,形式的に加入勧奨に係る行為であることをもって,同 条の適用対象外と結論付けることは適当ではなく,加害行為の主体,目的, 内容等を勘案のうえ,適用の有無を判断する必要があると思われる。保険会 社・保険募集人は改正された規制に則った募集活動に取り組むことはもとよ り,改正が行われなかった規制についても改正に伴う影響の有無や規制の趣 旨に留意のうえ,慎重な運営に努める必要がある。 ■キーワード 団体保険,加入勧奨,改正保険業法 ⚑.はじめに 平成25年⚖月に金融審議会⽛保険商品・サービスの提供等の在り方に関す るワーキング・グループ⽜(以下⽛保険 WG⽜という)が取りまとめた報告 / 平成28年⚘月31日原稿受領。書(以下⽛保険WG報告書⽜という)を踏まえた平成26年改正保険業法(以 下,⽛改正法⽜という)が本年⚕月29日に施行された。改正法では,保険募 集の基本ルール(情報提供義務・意向把握義務)の創設に伴い,⽛団体保険⽜ が定義されるとともに,団体保険の被保険者に対する募集規制の明確化が図 られた。本稿では,改正法に係る保険業法施行規則(以下,⽛規則⽜とい う)・保険会社向けの総合的な監督指針(以下,⽛監督指針⽜という)案のパ ブリックコメントで示された金融庁の考え方1)(以下,⽛パブコメ⽜という) を参考にしつつ,その規制の変更点,および実務上の留意点を整理するとと もに,改正されていない条文・募集規制への影響等について検討したい。 ⑴ ⽛団体保険⽜の定義 ⽛団体保険⽜はこれまで法令上定義が設けられていなかったが,改正法294 条,294条の⚒,294条の⚓,及び300条⚑項においては⽛団体又はその代表 者を保険契約者とし,当該団体に所属する者を被保険者とする保険⽜と定義 された(以下,⽛団体保険⽜は特段の記載がない限り,改正法の定義で用い る)。この定義によれば,生保実務で用いられる⽛団体保険⽜,損保実務で用 いられる⽛団体契約⽜・⽛包括契約⽜・⽛明細付契約⽜,さらには法人が当該法 人の従業員一人のみを被保険者として加入する保険など,定義の文言に該当 するものを広く含み得る概念とされている(パブコメ19番)。 ⑵ ⽛加入勧奨⽜の考え方 団体保険には,構成員の加入意思を問わず,全員または一定範囲の構成員 を一律被保険者とするものと,構成員の加入意思を問い,加入希望者を被保 険者とするものがあるが,従来,この後者において,⽛保険契約者である団 体がその構成員に対して当該保険に加入するかどうかの勧誘(意思確認)を 1) 金融庁・平成27年⚕月27日⽛⽝平成26年改正保険業法(⚒年以内施行)に係 る政府令・監督指針案⽞に対するパブリックコメントの結果等について⽜にお ける⽛コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方⽜。
行う場合⽜が⽛加入勧奨⽜とされていた2)。 ⽛加入勧奨⽜は,平成18年,保険契約の販売・勧誘時に説明すべき重要事 項(⽛契約概要⽜・⽛注意喚起情報⽜)の明確化の際,監督指針において用いら れた用語であるが,改正法では,⽛団体保険に係る保険契約に加入すること を勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為⽜とされ,行 為主体を団体に限っていた要件が維持されていないことから,保険会社・保 険募集人等,団体以外の者も行為主体となり得る。 ⚒.旧法における団体保険等の被保険者に係る募集規制 ⑴ 保険募集に関する情報提供等 平成26年改正前保険業法(以下,⽛旧法⽜)300条⚑項は,⽛保険契約の締結 又は保険募集に関して⽜禁止行為を定めたものであるが,行為の相手方は ⽛契約者又は被保険者⽜とされており,一般の個人契約や(生命保険の実務 上用いられている)団体保険,(損害保険の実務上用いられている)団体契 約等,契約形態を問わず,被保険者も各禁止行為の相手方に含まれている。 また,旧法300条⚑項から導かれる重要事項説明に関し,法100条の⚒に規 定する保険会社の体制整備義務を受けた旧規則53条では第⚑項で保険会社に 求められる業務運営に関する具体的な措置を規定し,第10号は,⽛保険募集 に際して,生命保険募集人又は損害保険募集人が保険契約者及び被保険者 (保険契約の締結時において被保険者が特定できない場合を除く)に対し, 保険契約の内容のうち重要な事項を記載した書面の交附その他の適切な方法 により,説明を行うことを確保するための措置⽜を講じるよう規定しており, 旧法300条⚑項同様,契約形態を問わず,被保険者に対する説明体制が求め られている。ただし,⽛保険契約の締結時において被保険者が特定できない 場合を除く⽜とされていることから,加入勧奨が保険募集に先後することに 2) 金融庁・平成18年⚒月28日⽛⽝保険会社向けの総合的な監督指針⽞の一部改 正について⽜に係る⽛コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方⽜ 26頁36番参照。
よって,説明対象となる被保険者の範囲が異なり得るが,保険募集人にとっ ては団体内部の状況は必ずしも明らかではないことや,保険募集人は通常被 保険者と直接的な接点を持たないため,直接説明を行うことは困難なことか ら,判断が悩ましい面があった。この点については,保険募集人が被保険者 に直接書面を交付する方法に限らず,団体を介して説明するような方法も差 し支えないとの見解3)も踏まえ,実務上は一般的に,団体から被保険者に対 し募集資料を配布する等団体の事情に応じた方法で適切に説明が行われてい た。 ⑵ 加入勧奨に関する行為規制・体制整備 旧法下では,⽛加入勧奨⽜は⽛保険募集⽜には当たらず,基本的には保険 業法上の保険募集に係る規制の対象とはならない旨が明確に示されていた4)。 加入勧奨固有の規制は,保険会社の体制整備の一環として社内規則等の策定 等を求める規則53条の⚗を受けた旧監督指針の規定において,(生命保険の 実務上用いられている)団体保険・(損害保険の実務上用いられている)団 体契約・財形保険の被保険者となる者に対する加入勧奨を対象として,保険 募集に際して顧客に対して行うのと同程度の情報提供や意向確認が行われる ことを確保するための措置を講じることが求められていた(契約概要・注意 喚起情報に係る体制整備関係(旧監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑸①)および意向確 認に係る体制整備関係(旧監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑸②)。 3) 石田満⽛保険業法における業務運営に関する措置⽜損害保険研究65巻⚓・⚔ 合併号103頁(2004)参照。 4) 前掲金融庁注2)27頁39番のほか,平成19年12月21日(規則改正案に係る) ⽛コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方⽜26頁⚔番,平成23年 ⚙月⚖日⽛コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方⽜14頁33番他 参照。
⚓.改正法における団体保険の被保険者に係る募集規制 ⑴ 行為規制 ①情報提供義務・意向把握義務 改正法294条⚑項(情報提供義務)及び294条の⚒(意向把握義務)では, 保険契約の締結・保険募集と並んで,加入勧奨も適用場面とされた。また, 情報提供・意向把握の相手方は,それぞれ⽛保険契約者及び被保険者⽜(改 正規則227条の⚒第⚓項)・⽛顧客5)⽜(改正法294条の⚒)とされており,団 体保険の被保険者に対しても原則として情報提供・意向把握が求められる。 なお,この加入勧奨は,条文上付された括弧書きにおいて,⽛当該団体保 険に係る保険契約の保険募集を行った者以外の者が行う当該加入させるため の行為を含⽜むとされており,引受保険会社・取扱保険募集人が自ら加入勧 奨を行う場合に限らず,契約者である団体自身が行為主体となる加入勧奨に 関しても,原則として当該団体保険の引受保険会社・取扱保険募集人が情報 提供義務・意向把握義務を負うことになる。このように,まずは義務の適用 場面として,加入勧奨に広く網を掛けたうえで,行為規制の必要性や実務等 を勘案し,具体的に適用除外となるものが定められている(後述⑵)。 ②禁止行為 改正法300条⚑項では,⚑号に掲げる行為(被保険者に対するもの)に限 り,加入勧奨(改正法294条⚑項と同一定義)が適用場面に追加された。ま た,ただし書きが新設され,改正法294条⚑項で義務の適用が除外される ⽛保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場 合⽜(後述(2)②)については,⚑号後段の⽛重要事項不告知⽜は禁止行為か ら除外され,前段の⽛虚偽説明⽜のみ適用されることとされた。⽛重要事項 5) 意向確認書面制度導入時の金融庁パブコメでは,意向確認の相手方である ⽛顧客⽜について,保険加入の判断を実質的に行う者が該当し,団体保険にお いて加入勧奨を行う場合の被保険者を含む考え方が示されており,改正法にお ける意向把握義務においても同様と考えられる。平成19年⚒月22日⽛コメント の概要及びコメントに対する金融庁の考え方⽜⚙頁⚓番他参照。
不告知⽜は不作為を禁じるもの(重要事項の告知を求めるもの)であり,情 報提供義務の適用が除外されるケースとの整合が図られている。 ⑵ 適用除外 ①団体の自治に委ねるもの 改正法294条⚑項の加入勧奨に付された括弧書きでは,以下の⚒要件をい ずれも満たすものは義務の適用場面となる加入勧奨から除くこととされてい る6)。 イ.当該団体保険に係る保険契約者又は当該保険契約者と内閣府令で定め る特殊の関係のある者が当該加入させるための行為を行う場合であって, ロ.当該保険契約者から当該団体保険に係る保険契約に加入する者に対し て必要な情報が適切に提供されることが期待できると認められるときと して内閣府令で定めるときにおける当該加入させるための行為 イは,契約者である団体自身が加入勧奨を行う場合のほか,⽛内閣府令で 定める特殊の関係のあるもの⽜,つまり,改正規則227条の⚒第⚑項で定める ⽛団体保険に係る契約者から当該団体保険に係る加入させるための行為の委 託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者その他これに準ずる者 (当該団体保険の引受保険会社・取扱保険募集人を除く)⽜が加入勧奨を行う 場合を要件とするものである。委託等の先から当該団体保険の引受保険会 社・取扱保険募集人が除かれているのは,委託元の団体による管理が働きに くいことが想定され,適切な情報提供を確保するため,とされている(パブ コメ21番)。なお,加入勧奨では取扱保険募集人がパンフレットを配布した り,被保険者から商品内容の不明点等について照会を受けたりするなど,取 扱保険募集人が加入勧奨に関与する場合が少なくない。イの要件を厳密に解 6) 保険 WG 報告書において,団体における自治による被保険者への情報提供 等の補完を認めるものとして,保険会社や保険募集人に対して改めて被保険者 に対する情報提供等を義務づける必要はない,とされていた類型である。保険 WG 報告書15頁参照。
釈し,引受保険会社・取扱保険募集人が加入勧奨に関与した場合は一律義務 の対象とすると,取扱保険募集人が委縮し,被保険者との接点を避けるなど 加入者に対する情報提供等の程度が低下したり,逆に保守的になり,既に団 体から提供済の情報であっても重ねて提供し被保険者の負荷増につながった りすることなども懸念される。団体から保険募集と同程度の情報提供等が行 われている限り,重ねて引受保険会社・取扱保険募集人に情報提供等を義務 付ける必要性は乏しく,引受保険会社・取扱保険募集人が加入勧奨に関与す る場合であっても,その行為は団体が行う加入勧奨の⽛支援⽜に留まり,① の要件への該当性を否定するものではないと考えて差し支えないと思われる (パブコメ21番)。 ロの要件は,改正規則227条の⚒第⚒項各号で規定されている(以下,同 項に該当する団体保険を⽛適用除外団体保険⽜,同項に該当しない団体保険 を⽛適用団体保険⽜という)。⚑号から14号は,地方公共団体や企業(グル ープ),労働組合,学校など保険業法の適用除外団体として法⚒条⚑項⚒号 および同号を受けた施行令⚑条の⚓に掲げられた団体が契約者となる団体保 険を示している7)。 15号は,バスケット条項として,⚑号から14号のほか,適用除外となる団 体保険の加入勧奨の要件を示すものであり,⽛団体保険に係る保険契約に関 する利害の関係⽜・⽛団体の構成員となるための要件⽜・⽛団体の活動と当該保 険契約に係る補償の内容との関係⽜に照らし,団体と被保険者との間に一定 の密接な関係があり,当該団体から加入勧奨を受ける構成員に対して必要な 情報が適切に提供されることが期待できると認められるか,個別具体的に総 合的に判断するとされている(パブコメ33番・34番)。なお,15号に該当す る具体例として,⽛団体定期保険の運営基準⼧8)(昭和61年⚓月28日発出の旧 7) 第⚑号から第14号には施行令⚑条の⚓第⚒号に該当するものが含まれていな いが,義務の適用を意図するものではなく,第15号に該当するものとされてい る(パブコメ32番)。 8) 保険 WG(第⚘回)事務局説明資料16頁参照。
大蔵省銀行局長通達)に列記された第Ⅰ種~第Ⅲ種団体がその構成員に対し て加入勧奨を行う場合は,基本的にこれらの要件に当てはまるとされている。 (パブコメ28番・29番) 以上より,⚑号~14号までの団体,および15号に該当するとされている第 Ⅰ種~第Ⅲ種団体については,基本的には団体保険として採用される保険商 品を問わず,団体から被保険者に対して必要な情報が適切に提供されること が期待できる類型ということになる。他方,第Ⅳ種団体やその他の団体につ いては,団体の属性だけでは判断できず,採用する保険商品の特性等も踏ま え,上記15号該当の⚓要件に照らして判断することになる9)。 ②保険契約者等の保護に欠けるおそれがないもの 改正法294条⚑項では,⽛保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものと して内閣府令で定める場合は,この限りではない⽜として,上記①とは別途, 適用除外の規定が設けられている。団体保険のように保険契約者と被保険者 が異なる保険契約であって,被保険者に対する情報提供等を求める必要性が 乏しいと考えられるものとして規定されたものであり10),被保険者に対して のみ適用が除外される(改正規則227条の⚒第⚗項⚑号イ~ニ,考え方・留 意点について改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑵⑨)。具体的な類型は以下のとお りである。 イ. 被保険者が負担する保険料の額が零である保険契約11) 9) ⽛必要な情報が適切に提供されることができるかどうか⽜の観点からは,対 象となる保険商品自体の理解のし易さも重要な要素と思われ,旧監督指針の意 向確認書面制度において商品特性に応じて規制の軽重が設けられていたことも 参考になると考えられる。 10) 保険 WG 報告書15頁参照。 11) 保険以外の商品・サービス提供事業者が保険契約者となり,商品・サービス の購入者を被保険者として,購入者(被保険者)に保険をプレゼントするよう な事例は,⽛被保険者が負担する保険料が零⽜に該当するようにも思われるが, 改正監督指針の同号に係る注意書きにある⽛実質的な保険料があると解され る⽜か否か判断が難しく,慎重な判断が必要である。本事例のような保険以外 の商品・サービスの販売促進目的で締結する保険契約は,当該除外類型ではな
ロ. 保険期間⚑ヶ月以内,かつ被保険者が負担する保険料が千円以下の 保険契約 ハ. 被保険者に対する商品の販売若しくは役務の提供又は行事の実施等 に付随して締結する保険契約(当該保険契約への加入に係る被保険者の 意思決定を要しないもの,かつ,当該主たる商品の販売等と関連性を有 するものに限る)12) ニ.確定拠出年金等,年金制度の運営者が契約者となり,同制度の加入者 が被保険者となる保険契約 ⑶ 体制整備 ①適用除外団体保険の加入勧奨に係る体制整備 適用除外団体保険の加入勧奨には,行為規制の適用はなく,改正前と同様, 引受保険会社・取扱保険募集人は,団体から被保険者となる者に対して必要 な情報が適切に提供されること,および団体による被保険者となる者の意向 の適切な確認を確保するための措置を講じることが求められる(改正規則53 条第⚑項第⚕号,227条の⚘,改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑵⑩キ,Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑶④イ(注))。ただし,保険募集に関して求められる情報提供自体が改正 されていることには留意が必要である13)。 く,後述のハ.の類型で適用除外の該当・非該当を判断することになる。 12) クレジットカード付帯の旅行傷害保険などのように主たる商品の販売等の販 売促進目的で締結する保険契約であって,その被保険者一人あたりの保険料が 主たる商品の販売等と比べ,社会通念上,景品(おまけ)程度のものであると 考えられるものは,⽛主たる商品の販売等との関連性を有する⽜という考え方 が示されている(改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑵⑨エ.)。 13) 情報提供が必要な事項として,その他保険契約の締結・加入判断に参考とな るべき事項や比較推奨に係る事項,直接支払サービス等が追加されている(改 正規則227条の⚒第⚓項⚒号・⚔号~15号)。ただし,比較推奨に係る事項(⚔ 号)については,加入勧奨は通常,保険募集人ではなく,⽛団体⽜が選別・採 用した保険契約を構成員に案内するものであり,基本的には加入勧奨の場面で は情報提供を要する事項に該当しないと考えられる。
②適用団体保険の加入勧奨に係る体制整備 ア.情報提供義務・意向把握義務に係る体制整備 適用団体保険の加入勧奨については,改正法294条,294条の⚒,294条の ⚓,300条⚑項(各条文に係る監督指針の規定を含む)の対象とされ,これ らに基づいた対応が必要となる(パブコメ416番)。つまり,適用団体保険の 引受保険会社・取扱保険募集人は団体保険以外の一般の契約と同様,上記対 象条文・監督指針に沿った対応・措置が求められ,自ら情報提供義務,意向 把握義務を履行するとともに,これらの義務を適切に果たすための体制整備 が必要となる。情報提供義務・意向把握義務に関して,団体自身が当該団体 保険の取扱保険募集人である場合は,加入勧奨と並行して,団体自ら保険募 集人の立場で両義務を履行する必要がある。 一方,団体と取扱保険募集人とが異なる場合は,引受保険会社・取扱保険 募集人自らが義務を履行することが求められるが(パブコメ418番他),引受 保険会社・取扱保険募集人は団体の構成員個々の情報は保有しておらず,ま た直接的な接点を持たないことが通常である。取扱保険募集人が情報提供義 務に係る事実行為の一部を団体に委託することも認められる余地はあるとさ れており(同パブコメ),実務上は引受保険会社・取扱保険募集人が作成し た情報提供や意向把握・確認を行うための書面の配布,引受保険会社・取扱 保険募集人が作成したトークスクリプト・Q&Aに基づいた照会対応など事 実行為の一部を団体を通じて行うことも活用しながら,適切に義務を果たし ていくことが考えられる。 イ.その他の体制整備 適用団体保険の加入勧奨は保険募集と同等の行為であり,情報提供義務・ 意向把握義務のほか,募集規制に準じた取扱いが求められるとされており (パブコメ420番他),加入勧奨における情報提供及び意向把握・確認等を行 う場合においては,特に以下の点について適切な措置を講じることが求めら れる(改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑷)。
❞ 募集規制の潜脱防止 加入勧奨にあたっては,改正法300条⚑項に規定する禁止行為の防止など 募集規制に準じた取扱いが求められ,募集規制の潜脱が行われないような適 切な措置が求められる(改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑷①)。 改正法300条⚑項は,適用場面に団体保険の加入勧奨が追加されたが,加 入勧奨に関しては,前述のとおり,⽛同項⚑号に掲げる行為かつ被保険者に 対するものに限る⽜とされており,引き続き⚒号以下の行為には適用されて いない。改正監督指針で⽛300条⚑項に規定する禁止行為の防止など募集規 制に準じた取扱いが求められ⽜としているのは,⚒号以下の取扱いと整合し ていないようにも見えるが,その趣旨は⚒号以下も加入勧奨に直接適用され るということではなく,⽛加入勧奨に係る体制整備として当該規制の潜脱が 起こらないよう措置を求めるもの⽜とされている(パブコメ422番他)。 取扱保険募集人は募集人自身が加入者と接点を持つ場合は当然として,加 入者と接点を持たない場合でも,加入者と接点を持ち得る団体に対して,禁 止行為等,団体保険の運営上の注意点を説明し遵守を求めるなど,不適切な 行為が行われないよう措置を講じる必要がある。 ❟ 銀行等窓販に係る規制 保険募集を行う銀行等が契約者となり,その預金者が被保険者となる適用 団体保険の加入勧奨にあたっては,当該団体保険の締結保険会社又は取扱保 険募集人は,改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚖-⚒~Ⅱ-⚔-⚒-⚖-10に規定されてい る銀行等窓販に係る規制を踏まえた適切な措置を講じる必要がある(改正監 督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑷③)。 なお,改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑷③は,団体保険を取り扱った保険募集 人等の加入勧奨における監督上の着眼点であり,当該団体保険の取扱代理店 が銀行等ではない場合は適用がない(パブコメ434番)。 ❠ 電話による加入勧奨に係る規制 適用団体保険において,電話による加入勧奨を行う場合は,電話による新 規の電話募集等に係る改正監督指針Ⅱ-⚔-⚔-⚑-⚑⑸の規定を踏まえた適切
な措置が求められる(改正監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑷④)。なお,適用除外団 体保険に係る加入勧奨は同規定の対象外となる(パブコメ594番)。 ※ 団体保険に係る改正法令等の一覧,および適用除外団体保険・適用団体 保険の加入勧奨に係る行為規制等の当事者関係図は,それぞれ本稿末図表 ⚑および図表⚒参照。 ⚔.改正されていない募集規制への影響・留意点 ここまで,改正された条文に係る団体保険の被保険者に対する募集規制に ついて整理してきたが,適用場面に⽛加入勧奨⽜が明示されていない他の条 文・募集規制では⽛加入勧奨⽜は規制対象にならないと考えるのであろうか。 今般の改正により,改正されていない条文・規制の考え方等に影響が及び得 るか,また,募集規制に準じた取扱いが求められるとされている適用団体保 険では,改正されていない主な条文・募集規制についてどのような点に留意 すべきか,以下,検討してみたい。 ⑴ 法275条(保険募集の制限) 法275条が保険募集を担う主体を制限しているのは,保険募集においては 保険契約者の利益を侵害する不適正な勧誘等が行われる危険があるので,募 集主体の資格を限定しておく必要があるため,と説明される14)。また,旧 ⽛保険募集の取締に関する法律⽜においても本条の前身となる⚙条(募集を 行うことができる者) は,⽛保険契約者の利益を保護し,あわせて保険事業の 健全な発達に資する⽜という同法の目的を達するための規定とされていた15)。 改正法では,適用団体保険における加入勧奨についても,法275条は直接 適用されるものではなく,法293条の⚓等に基づく体制整備義務の一環とし て,加入勧奨が適切に実施されるための措置を講じることが求められること 14) 山下友信・保険法146頁(有斐閣,2005)参照。 15) 鴻常夫監修・保険募集の取締に関する法律 コンメンタール137頁〔落合誠 一〕(安田火災記念財団,1993)参照。
とされている(パブコメ420番・421番)。適用団体保険であっても,団体自 身が加入勧奨を行うこと自体制限されるものではないが,団体保険の契約者 になれば保険募集人でなくとも実質的に保険の販売ができることになっては, 本条の存在意義・募集制度の根幹を揺らがすことになりかねない。募集規制 に服することなく,構成員に対する保険販売が実質的にできてしまうような 形とならないよう,団体保険における行為規制適用有無(適用除外団体保険 の該当性)の判断は特に慎重を期すべきであり,また,適用団体保険を採 用・運用する場合には,団体の商品説明等の範囲を限定する16),団体に保険 募集上の禁止行為を行わないよう指導するなど,団体が誤った説明等を行う ことで被保険者に不利益を与えることにならないよう十分な措置を講じるこ とが重要である。 ⑵ 法283条(所属保険会社等の賠償責任) ①第⚑項 法283条⚑項では,⽛所属保険会社等は,保険募集人が保険募集について保 険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う。⽜とされている。条文構成要 素のうち,加入勧奨への本条適用有無の判断のポイントになると思われる以 下⚓つの観点から検討してみたい。 ア.加入勧奨に関して生じた損害は⽛保険募集について⽜加えた損害に該当 するか。 ⽛保険募集について⽜とは,保険募集の定義にある⽛保険契約の締結の代 理又は媒介⽜に限らず,保険募集と密接な関連関係のある行為も含む趣旨と されている17)。 ⽛加入勧奨⽜と⽛保険募集⽜は保険に加入しようとする者に対する勧誘・ 商品説明・申込受領・保険料領収等,具体的な行為・プロセスで明確に区分 16) 保険会社・保険募集人が作成した募集資料に掲載されている範囲を超えた商 品説明は行わせない。 17) 鴻・前掲注15)155頁参照。
されるものではない。にもかかわらず,旧法下において,両者が異なるもの とされ,⽛加入勧奨⽜は募集規制の適用対象外とされていたのは,行為主体 (⽛団体⽜か⽛保険募集人⽜か),および目的(⽛団体構成員の福利・生活・サ ービスの向上を目的に行うもの⽜か,⽛契約・手数料獲得目的で行うもの⽜ か)において明確に異なる行為であったからではないか。たとえ,募集人が 加入勧奨に関与したとしても,当該行為は団体が行う加入勧奨の支援に過ぎ ず,あくまで団体が主体の行為と考えられていたのではないか。 しかしながら,改正法では,加入勧奨はその目的を問わず,保険募集人も 行為主体となり得ることとされるとともに,原則として募集規制の適用対象 とされた。具体的には,適用除外団体保険において保険募集人が団体の支援 を超えて加入勧奨に関与する場合や,適用団体保険の加入勧奨を行う場合は, 保険募集人は情報提供義務・意向把握義務を負うことになり,両義務は,保 険会社・保険募集人のみが履行し得る(パブコメ420番他)ものであるため, 保険募集人は保険会社からの委託業務の一環として両義務を履行することに なると考えられる。このような主体・目的の面でも保険募集との差異が明確 ではなく,また,募集規制の対象となり,加えて,保険会社・保険募集人の みが行い得る行為は,⽛加入勧奨⽜に関する行為という形式面をもって,⽛保 険募集と密接な関連関係のある行為⽜に該当しないとする結論は適当とは思 えない。また,改正法では,⽛既契約の一部の変更をすることを内容とする 保険契約⽜として,保険契約の一部を変更する契約(変更契約)も法294条 ⚑項の⽛保険契約⽜に該当するものとされている(パブコメ66番)。被保険 者が団体保険に加入する場合,団体保険の契約変更(加入者追加等)を行う ことになることから,保険募集人が行う加入勧奨は(保険加入の判断を実質 的に行う被保険者に対する)⽛変更契約の勧誘⽜・⽛変更契約に係る情報提 供・意向把握⽜として,⽛保険募集と密接な関連関係のある行為⽜に該当す ると考え得るケースもあるように思われる。 以上より,改正法下では,形式的には加入勧奨に関する行為に起因した損 害であっても,⽛保険募集について⽜加えた損害に該当する可能性があり,
個別の事案に応じて,対象となる具体的な行為の主体や目的を勘案のうえ, ⽛保険募集と密接な関連関係⽜の有無を判断すべきと思われる。 イ.加入勧奨の相手方となる被保険者は⽛保険契約者⽜に該当するか。 この点につき,被保険者や保険金受取人も保険募集に関して損害を被った のであれば賠償請求権者となりうると解すべき18),という見解や,保険契約 者が被保険者等の委任を受けて,実質的に被保険者等の代理人的立場で保険 契約を締結する場合は,当該被保険者等に賠償請求を認める意味がある,と いう見解がある19)。また,改正法では,情報提供義務は⽛被保険者⽜に対し ても負うことが明らかにされていることに照らしても被保険者に生じた損害 も対象になると考えるべきであるという指摘もある20)。 加入勧奨を伴う団体保険では,形式的には団体が契約者となるが,提供さ れた情報に基づき,当該団体保険への加入を判断するのは被保険者であり, その判断次第で実際に不利益を被り得るのは当該被保険者であること,また, 改正法では保険会社・保険募集人が加入勧奨に係る行為の主体として被保険 者に損害を与え得るものになったことから,団体保険の被保険者も本条の ⽛保険契約者⽜に該当し得ると考えるべきであろう。 ウ.加入勧奨に関して加えた損害は⽛保険募集人が加えた損害⽜に該当するか。 適用団体保険では,保険募集人が直接被保険者との接点を持ち,情報提供 等を行うことで義務を履行することが考えられ,この際,虚偽説明等によっ て被保険者に対して不利益を与えた場合は⽛保険募集人が加えた損害⽜に該 当することは疑いない。 一方,加入勧奨では,適用団体保険であっても加入申込の受付や団体内制 度としての説明など,引き続き団体が主体となる行為も存在する。また,保 険募集人が情報提供等の義務に係る事実行為を団体に委託等することも考え 18) 山下・前掲注14)160頁参照。 19) 竹濵修⽛保険業法逐条解説(ⅩⅩⅧ)⽜生命保険論集176号129頁(2011)参 照。 20) 山下友信⽛保険募集の意義・団体保険の加入勧奨行為の規制⽜ジュリ1490号 38頁(2016)参照。
られ,引き続き団体と被保険者との接点は相当程度生じることになる。この ような場合において,団体が被保険者に損害を与えてしまった場合,当該損 害が⽛保険募集人が加えた⽜と評価されるかどうかが問題となる。 この点,保険募集人が団体の行為を利用している以上は,団体は当該義務 の履行を補助する者として位置づけられ,保険募集人の不法行為責任が成立 する可能性は否定されないとする指摘がある21)。この指摘のとおり,適用団 体保険は,取扱保険募集人が情報提供等の義務を履行するため,一定の事実 行為を団体に委ねることも想定されており,団体が当該事実行為の遂行につ き,被保険者に損害を与えた場合は⽛保険募集人が加えた損害⽜と評価され 得るであろう。ただし,⽛加入勧奨⽜は本来,保険会社や保険募集人が団体 に委託等するものではなく,団体に委ねることがあるのは,加入勧奨のうち, 一部(情報提供等の義務に係る事実行為)に過ぎない。また,団体保険は構 成員向けの福利・生活・サービスの向上を図る等,団体側の目的で利用され るものである22)。 このような事情を踏まえると,取扱保険募集人が団体に義務の履行に係る 事実行為を委ねていない場合,団体は義務の履行を補助するものではなく, ⽛保険募集人が加えた損害⽜には該当しないと考えるのが適当と思われる。 また,一定の事実行為を団体に委ねる場合であっても,団体の行為は必ずし も保険募集人の履行を補助するものとは限らず,団体自身の目的に基づく行 為である可能性もあり,個々の事案に応じて,加害行為の内容・経緯・目的 等を勘案し⽛保険募集人が加えた損害⽜と評価し得るか否か判断すべきと考 える。 以上ア.~ウ.の検討を踏まえると,本条は改正されていないものの,改正 法において加入勧奨の考え方が見直されたことによって,加入勧奨に関して 21) 山下・前掲注20)38頁参照。 22) 改正監督指針に実例として示されているようなクレジットカード会社や金融 機関等がカード会員や預金者等を被保険者として締結する団体保険であれば, 当該事業者の本業顧客に対するサービスの充実等,本業の営業推進方針・政策 に基づき利用されているものと考えられる。
被保険者に生じた損害であっても,事案によっては本条の対象となり得,当 該保険募集人の所属保険会社に損害賠償責任が生じる可能性が高まったよう に思われる。なお,このことは適用団体保険に限らず,適用除外団体保険に おいても同様と思われる。前述のとおり,適用除外団体保険であっても, ⽛団体保険に係る保険契約の締結又は保険募集を行った者⽜が加入勧奨に関 与する場合,団体の支援の範囲に留まれば行為規制の対象とはならないが, 団体の支援の範囲を超える加入勧奨は行為規制の対象となる(パブコメ21 番)。取扱保険募集人による(団体の支援を超えた)主体的な加入勧奨や, 課せられる義務の履行に関する行為については,適用団体保険と適用除外団 体の場合とで取扱いに差異を設ける合理的な理由はないと思われ,募集規制 に準じた取扱いが求められるとされている適用団体保険のみならず,適用除 外団体保険においても留意が必要であろう。 ②第⚒項(保険会社の免責事由)・⚔項(保険会社の求償権) 上記①で所属保険会社に損害賠償責任が認められる場合,⚒項・⚔項の適 用を検討することになる。⚒項では,所属保険会社は,保険募集人の選任・ 雇用・委託について相当の注意をしたこと,および保険募集人の行う保険募 集につき,保険契約者に加えた損害の防止に努めたことをいずれも立証すれ ば⚑項の損害賠償責任を免れるとされているが,従来,本条の保険会社の責 任は事実上無過失責任に近い解釈・運用が行われてきたところと理解されて いる23)。本条と同趣旨の銀行法の規定(銀行法52条の59)においても,金融 庁の法令解説では⽛実際に(所属銀行の)免責が認められる場合は限定され る⽜という考え方が示されているが24),銀行代理業者(許可制・乗合可)に は体制整備義務が課せられている(銀行法52条の44第⚓項)ことも踏まえる と,加入勧奨に係る業務を含めて保険募集人に体制整備義務が導入され,保 険会社と保険募集人の具体的関係に変化が生じ得ると思われるものの,本項 23) 竹濵・前掲注19)131頁参照。 24) 金融庁⽛【法令解説】銀行法等の一部を改正する法律⽜アクセス FSA36号 (2005年11月30日)参照(http : //www.fsa.go.jp/access/17/200511d.html)。
の解釈・運用が直ちに変更されることは考えづらいように思われる。 この点,保険募集人による不適切な保険募集の発生防止等の観点から, ⽛保険会社による保険募集人の実効的な監督指導が期待できず,かつ保険募 集人が賠償資力を有する場合は,⚒項の免責規定を活用すべき⽜とする見 解25)があり,まさに改正法の背景・趣旨に整合するものと感じられる。今後 の本項の解釈の動向を注視したい。 また,⚔項に基づき,所属保険会社等が保険契約者(団体保険の被保険 者)にその損害を賠償したときは,保険募集人に求償することができるが, 保険募集人は所属保険会社の補助者として保険会社のために活動しており, それによって保険会社は利益を得ていること,一方で保険募集人は資力の十 分でない者も多いことから,保険会社と保険募集人の具体的な関係により, 求償権を制限することも認められるべきとされている26)。 保険 WG 報告書では,保険募集人の体制整備義務等改正法の効果を見極 めたうえで,改めて検討することが適当とされ,導入は見送られたが,特に 乗合代理店を念頭に保険会社による管理・指導の規律付け補完・強化の観点 から,保険会社による求償権行使を義務づける考え方が示されている27)。改 正法の保険募集人の体制整備義務に関して,所属保険会社の指導・監督に従 い適切かつ主体的に業務を実施する体制で足るとされている個人代理店・小 規模法人代理店(パブコメ452番)は引き続き従来の考え方も当たり得ると 考えられるが,保険募集人の規模や業務の特性等に応じて改正法の趣旨を踏 まえた適切な判断・運営が必要である。 ⑶ 改正法294条⚓項(顧客に対する説明) 顧客に対する保険募集人の権限等の説明については,保険募集人は保険契 25) 木下孝治⽛募集チャネルの多様化と保険募集規制の課題⽜保険学雑誌588号 76頁(2005)参照。 26) 鴻・前掲注15)159頁参照。 27) 保険 WG 報告書20頁参照。
約の締結の代理をする場合と媒介をする場合があり,どちらの場合かによっ て告知や保険料の受領の方法等が異なることがあるところ,保険契約者が保 険募集人の権限(代理か媒介か)を誤解して不測の損害を被ることを防止す る趣旨とされている28)。本項の適用場面に加入勧奨が追加されなかったのは, 保険会社は保険募集人に対し,適用団体保険の被保険者に対する情報提供義 務・意向把握義務の履行を委託することはあるが,加入勧奨自体を委託する ものではなく,被保険者からの加入申込みの受付や保険料相当額の受領等, 加入手続きに関して保険募集人になんら権限を与えるものではないことを踏 まえたものと思われる。 実務上は募集資料上,団体保険の仕組みや保険期間,告知や保険料の払込 み方法など対象となる商品や団体に応じた加入手続き等を説明しており,実 態として本項の趣旨である顧客の誤解等の防止は図られていると思われるが, 被保険者に対し,保険募集人の権限の誤解を招かないよう留意が必要であろう。 ⑷ 法309条(保険契約の申込みの撤回等) 法309条はクーリングオフに関する規定であり,⽛保険会社等若しくは外国 保険会社等に対し保険契約の申込みをした者又は保険契約者(⽛申込者等⽜)⽜ は,書面により,申し込みの撤回等を行うことができるとされている。申し 込みの撤回等を行うことができるのは,⽛保険会社等に対し保険契約の申込 みをした者又は保険契約者⽜とされていることから,団体保険の加入勧奨に おいて,被保険者が契約者である団体に対して行った加入申込みに適用がな いことは明らかであろう。 団体保険は,保険期間⚑年以下の保険商品,ま た被保険者が自発的に郵便等で加入を申し込む形態,つまりクーリングオフ 対象外の商品・形態が採られることが一般的であり,その限りでは保険募集 の取扱いと差異はなく,手当の必要性は乏しい。 なお,団体保険の中には,団体内の加入申込受付の仕組みを構築する中で, 自主的にクーリングオフのように申込受付け後の取消可能期間を設けること 28) 安居孝啓⽛改訂版 最新 保険業法の解説⽜979頁(大成出版社,2010)参照。
で,実質的に保険募集との差が解消されている例も見られるところである。 ⚕.まとめ 改正法において,実務にも配慮のうえ,団体保険の被保険者に対する募集 規制の明確化が図られたことは,今後,団体保険に係る保険募集・加入勧奨 の一層の品質向上に取り組み,被保険者の保護を充実させていくうえで,大 きな意義を持つものである。また,今後,ICT の進展や他業界からの参入 等,環境変化によって,団体保険の類型や加入勧奨の方法も多様化していく ことが考えられる中,団体と構成員の関係が希薄な団体での安易な団体保険 の利用に慎重な対応を促す意味でも重要である。 保険会社・保険募集人は今般の改正の趣旨を踏まえ,新たに出現する団体 保険の類型も含め,行為規制の適用有無を慎重に判断するとともに,情報提 供,意向把握・確認,その他募集規制が一層実効性のあるものになるよう, 創意工夫・改善活動に努めていくことが肝要である。また,改正されていな い募集規制についても当該規制の趣旨や,改正に伴い考え方が変わり得る点 を踏まえ,適切に措置を講じることを怠ってはならない。 なお,家電製品等の製造・販売業者等が製品購入者に提供している延長保 証と類似の機能を果たすものとして損保分野で取り扱われている団体保険類 型(家電製品販売業者が契約者となり,家電製品購入者を被保険者とする動 産総合保険など)は,改正法では適用団体保険に該当するものとして規制が 一定強化されるが,延長保証は保険業に該当せず保険業法の規制が及ばない。 延長保証はその類型が多様化しており,ICT の進展等により今後の市場規 模の拡大が予想されるが,⽛延長保証⽜と⽛保険⽜の線引きの在り方は,改 正法施行による規制のバランスや顧客保護の必要性,顧客利便等の観点から, 別途検討すべき重要な課題と思われる。 (筆者は損害保険ジャパン日本興亜株式会社勤務)
【図表⚑】改正法における団体保険の被保険者に対する募集規制に係る条文 規制 ⑴ 行為規制 ⑵ 適用 除外 ⑶ 体制整備 対象/保険会社 対象/保険募集人 ・法294条⚑項(情報提供義務) ・法294条の⚒(意向把握義務) ・法300条⚑項⚑号(禁止行為/虚偽説明・重要事項不告知) ・規則227条の⚒第⚑項(団体保険の契約者と特殊な関係にある者) ・規則227条の⚒第⚒項(団体保険における保険契約者から加入者に対 して必要な情報が適切に提供されることが期待できると認められる とき) ・規則227条の⚒第⚗項(情報提供義務の適用除外) ・規則227条の⚖(意向把握義務の適用除外) ・監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑵ ⑨(情報提供義務の適用除外) ・法100条の⚒(体制整備義務)) ・法294条の⚓(体制整備義務) ※旧法から改正なし ・規則53条⚑項⚔号(情報提供に ・規則227条の⚗(社内規則等) 係る体制整備) ・規則227条の⚘(適用除外団体保 ・規則53条⚑項⚕号(適用除外団 険における保険契約者から加入 体保険における保険契約者から 者への情報提供等の確保) 加入者への情報提供等の確保) ・監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑵⑩キ.(適用除外団体保険における保険契約 者から被保険者への情報提供の確保) ・監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑶①カ.(適用除外団体保険における意向把 握・確認の方法) ・監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑶④イ.(注)(適用除外団体保険における被保 険者への意向確認の確保) ・監督指針Ⅱ-⚔-⚒-⚒⑷(適用団体保険の加入勧奨に係る体制整備) 出典:筆者作成
【図表⚒】団体保険の当事者関係図
(改正前の団体保険および改正後の適用除外団体保険の当事者関係図)
(改正後の当事者関係図/適用団体保険)
(改正後の当事者関係図/適用除外団体保険・例外ケース)