Title
アポトーシスに関与するcaspase-activated DNaseの調節機構
に関する研究( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
鶴田, 忠実己
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第340号
Issue Date
2008-03-25
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/23525
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏名(本籍) 学 位 の 種 類 学位授与番号 学位授与日付 専 攻 学位論文題目 学位論文審査委員 鶴 田 忠実己(長崎県) 博 士(工学) 甲第 340 号 平成 20 年 3 月 25 日 物質工学専攻 アポトーシスに関与するcaspase-aCtivatedDNaseの調節機構に 関する研究 (Regulatorymechanismsofcaspase-aCtivatedDNaseinapoptosis) (主査) (副査) 敏 子 洋 田 田 吉森 授授 教 教准 幸 夫 昭 一幸利 内 出 井 木北村 授授授 教教教
論文内容の要旨
アポトーシスを誘導する様々な刺激により Caspase-aCtivated DNase(CAD)を始めとす る各種DNaseが活性化されDNAの断片化が進行することが知られている。学位申請者で ある鶴田忠実己さんはCADに焦点を当て、モデル動物においてパーキンソン病様の症状 を引き起こす殺虫剤ロテノンにより誘導されるアポトーシスへのCADの関与と、CAD と複合体を形成して活性を抑制するinhibitor ofCAD(ICAD)に関して、次に示す二つの 点でオリジナルな研究を行った。 一点は、SiRNAを用いたRNA干渉により CADをノックダウンし、ロテノン誘導性 アポトーシスにおける CADの関与を初めて証明したことである。この研究は北出研究 室との共同研究で、SiRNAとして3,末端がカルバミール結合を有するチミジンダイマー で化学修飾したものを用い、RNase分解を受けにくくすることで細胞内での安定性を向上 させている。その結果、より強力なCADに対するノックダウン効果が得られ、本酵素の DNA断片化への寄与を巧みに解明している。すなわち、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa細胞 におけるCADのノックダウン効率は特異的siRNAの濃度が50nMの条件下で、コント ロールと比較してmRNAレベルでは20%、タンパク質レベルでは8%まで減少すること を示した。対照群のHeLa細胞はロテノンによりアポトーシスが誘導され、最終的に caspase-3/7の活性化とDNAの断片化を伴うのに対して、CADをノックダウンした群で はDNAの断片化が顕著に抑制されることを明らかにし、ロテノン誘導性のDNA断片化 には主としてCADが関与していると結論づけている。この研究で明らかにされたロテノ ン誘導性のアポトーシス誘導機構は、異質ドーパミンニューロンの変性脱落によるパー キンソン病の発症機構を解明するうえでの重要な手がかりとなるものと思われる。 もう一点は、ICADが機能していない細胞では産生されたCADは速やかにユビキチン 化され分解されていくことを初めて証明したことである。この研究はアポトーシスを誘 導する刺激に対してNIH3T3細胞ではDNA断片化が生じないことを見出したことに起因している。ICADがCADの安定化に必要なことを、遺伝子導入により蛍光タンパク質と のキメラタンパク質を発現させる手法を用い、生細胞において巧みに証明している。す なわち、CAD-EGFP(緑色蛍光タンパク質)と DsRed(赤色蛍光タンパク質)-ICADの キメラ遺伝子をNIH3T3細胞へ導入することにより、CAD-EGFPのみの場合と CAD-EGFP/DsRed-ICAD複合体の場合での安定性の差異につい.て生細胞中で解析し、前者の場 合には殆ど緑色の蛍光が発しないことでCAD単体の不安定性を証明した。さらに、CAD のユビキチン化とプロテアソームによる分解を示唆する実験結果も得ている。これらの 結果より、ICAD非存在下ではCADが正しく折り畳まれず、異常なタンパク質の会合や 蓄積による小胞体ストレスを回避するために素早く除去されているものと考察している。 一方で、CAD-EGFPと CAD-myC-His遺伝子の発現ベクターを利用して、ICAD存在下、 あるいは、非存在下におけるCAD-EGFPと CAD-myC-Hisのオリゴマー形成の解析を行 っており、少なくとも、CADは二量体よりもさらに大きなCAD/ICAD複合体を形成して 活性化される可能性を示している。CAbのオリゴマー形成はDNA二重鎖をヌクレオソ ーム単位で切断するのに必要ではないかと考えられており、本研究はDelphineらが提唱 するCAD2/ICAD2四量体仮説を支持するもので、誠に興味深い。 以上、これら二つの研究成果はアポトーシス誘導下でのCAD/ICADシステムによるDNA 断片化の分子メカニズムに新たな知見を加えたものである。
論文審査結果の要旨
学位論文は平明に書かれており、該当分野で先端を行く内容であった。審査した論文 の新規性及び独創性に関する評価は次の通りである。 ・本論文では、ロテノン誘導性アポトーシスによるDNA断片化にcaspase-aCtivated DNase (CAD)が関与していることを証明するために、SiRNAを用いたRNA干渉技術によりCAD をノックダウンして解析を行っている。分子生物学分野における新しい手法を取り入れ ただけでなく、協同研究にて、RNaseにより分解されにくい修飾を施したsiRNAを利用 し、その効果を実際に示したことは独創的である。 ・農薬として用いられているロテノンは、ラットを用いたモデル動物ではパーキンソン 病様の症状を引き起こすことが知られており、ヒトに対しても同様の神経毒性を示すものと考えられている。このような状況下で、ロテノンが誘導するDNAの断片化に主とし
てCADが関与することを示し、治療のためのターゲットを明らかに.したことは創薬の点 から有意義であると思われる。 ・Inhibitor ofCAD(ICAD)がシャペロン機能を有することを証明する上で、アポトーシ スが誘導されても DNA断片化が起こらないNIH3T3細胞に目を付けたことは、研究者と しての高い資質を示すものである。CAD及びICADの遺伝子導入による解析の中で、こ の細胞においてアポトーシスの際にDNAの断片化が生じない原因を突き止めたことは評 価できる。・ICADが機能していないNIH3T3細胞を用い、プロテアソーム阻害剤であるMG132で 処理することにより、CADのユビキチン化を明らかにした実験系は独創性に富んでいる。
この実験によりICADがCADタンパク分子の正しい折りたたみに必須であることを簡潔
に立証している。 ・生細胞内でのCAD/ICAD複合体の挙動を解析するために、異なる波長の蛍光タンパク 質とのキメラ遺伝子を有する発現ベクターを用いて実験している。良く用いられる分子 生物学的実験手法であるが、本実験には非常に有用な手法で、見事にCAD/ICAD複合体 の挙動をリアルタイムに分析しており、高度な技術手法を身につけているものと考えら れる。 ・本論文では、アポトーシス誘導下においてCAD2/ICAD2の四量体が存在するという Delphineらの仮説を支持するCAD/ICAD複合体のオリゴマー形成について言及しており、 CADが二量体の形でDNA二本鎖を挟むようにして切断するモデルも取り上げて、ICAD のCADに対するシャペロン機能について深く考察している。 ・考察は過去の論文をよく吟味して選出した上で書かれている。また、この論文の内容 は中枢神経系における神経変性細胞死のメカニズム解明に対して少なからず貢献するも のと思われる。 以上の審査結果を踏まえて、本論文は学位論文としての内容を有し、質的に高いもの と判定した。最終試験結果の要旨
(1)公表論文について 学位論文の骨子となる原著論文(筆頭著者)2報は査読審査のある国際専門誌(英文) に掲載あるいは受領されていることを、学位論文に添付されている資料により確認した。 これらの原著論文が掲載されたあるいは掲載予定の専門誌、NeurochemistryInternational 及びBiochimica etBiophysicaActaは、いずれも該当分野では良く知られており、Impact hctorの合計は5.452であった。協議の結果、学位論文の基本となる公表論文2報は学位 授与に催する内容を有していると判断した。(2)単位取得について
工学研究科博士後期課程物質工学専攻の修了に必要な単位数の取得を学業成績証明書 にて確認した。 (3)審査及び試験について 2月 6 日の公聴会においては、学位申請に係わる論文の説明は分かり易く丁寧なもので あった。また、主査、副査及び公聴会出席者の質疑に対し、的確な応答を行っていた。公聴会終了後、審査委員により申請者鶴田忠実己君が学位を授与するに催するか審議を
行った。その結果、研究対象のCADとICADに関連する知識、研究を進める上での問題 解決のための戦略、得られた結果に対する考察の論理的展開など、いずれも優秀であり、博士の学位を授与するのに相応しい人物であると認定した。また、海外出張のため公聴 会に出席できなかった北出幸夫教授(副査)とは2月15 日に個別の公聴会を行った。さ らに、最終試験の課題として、アポトーシスを引き起こすカスパーゼカスケードの概略、 及び、異常タンパク質のユビキチン化とプロテアソームによる分解の分子メカニズムに ついての設問を与え、これらに対する解答は博士後期課程を修了するに相応しい一定レ ベル以上のものであった。 以上の結果を踏まえて、審査委員会では鶴田忠実己君は最終試験に「合格」と判定し た。