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RIPA法によるキュウリの3種ウイルス同時検定の改良

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Academic year: 2021

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植 物 防 疫  第66 巻 第 4 号 (2012 年) ― 28 ― 224 は じ め に 植物ウイルス病の効率的な防除には,なにより迅速で 正確な診断技術が不可欠である。現在,ウイルス病の診 断法は,病原遺伝子の検出による遺伝子学的診断法 (PCR,RT―PCR,LAMP 等 ) が 主 に 用 い ら れ て い る。 しかし,高額な機材および試薬が必要であり,またその 操作手法も煩雑であるため,現地での発生調査や多試料 の診断には必ずしも適しているとは言えない。一方,血 清学的診断法の一つである迅速免疫ろ紙検定(RIPA) 法(TSUDA et al., 1992;亀谷,1993;OHKI and KAMEYA-IWAKI,

1996)は,検体を磨砕しガラス繊維ろ紙のストリップを その磨砕液に浸すという簡便な操作で,なんら機材を必 要とせず10 分程度で診断が可能である。このリトマス 試験紙のような簡便さと迅速性から,生産者・普及員等 が現場圃場で診断可能である。病気をおこしているウイ ルス種がわかれば,その後の防除対策(感染株の早期抜 き取り・作業器具の消毒・媒介虫の防除等)をただちに 行うことができる。また,別のウイルス抗体を処理する ことにより同時に2 種以上のウイルスを検出できるよう

に し た も の が, 多 重(Multi―)RIPA 法(TSUDA et al.,

1993)である。

キュウリには多くのウイルス病が知られている。なか でもモザイク病は,Cucumber mosaic virus(CMV)と Zucchini yellow mosaic virus(ZYMV)が主な病原で,全 国的に発生が見られるウイルス病である。これらは汁液 で伝搬するとともにアブラムシにより媒介される。また, キュウリ黄化えそ病は近年西日本を中心に発生が拡大し ている病害で,Melon yellow spot virus(MYSV)が病原 ウイルスである。MYSV は,汁液で伝搬するとともに, ミナミキイロアザミウマにより媒介される。 これら3 種のウイルスによる病徴は似ているため,素 人には病徴からの診断は困難である。また,キュウリで は生育初期にCMV と ZYMV の重複感染により急性萎 凋症状が引き起こされることが報告されており(IWASAKI and INABA, 1988;岩崎ら,1996),ウイルス重複感染の把 握は極めて重要であると考えられる。 そ こ で, 簡 便 さ・ 機 動 性・ 迅 速 性 に 優 れ たMulti― RIPA 法をこれらキュウリの 3 種ウイルス,すなわち CMV,MYSV,そして ZYMV の同時検出に応用できな いか検討した。本稿では,筆者が今回キュウリのMulti―

RIPA 法で改良した点(OSAKI et al., 2011)を紹介し,今

後の新たな他作物のMulti―RIPA 法の実用化の一助に供 したい。 I ウイルス病の診断法 植物ウイルス病の診断法としては,現在PCR(また はRT―PCR)法や LAMP 法等の病原ウイルスの遺伝子 情報に基づく遺伝子学的診断法と,ELISA 法等の血清学 的診断法が汎用されている。遺伝子学的診断法は,数時 間で微量の核酸試料から高感度にウイルス遺伝子を検出 可能である。しかし,遺伝子学的診断法はコストが高く, また検定作業も熟達を要し,さらに現地圃場など野外で の診断は不可能である。一方,血清学的診断法の一つで あるELISA 法は,比較的作業も簡便で多試料検定に適 しているものの結果が出るまで2 日間を要する。 他の血清学的診断法としては,簡易二重拡散法(匠原, 1980)や,赤血球(MOORHEAD and PRICE, 1953;安尾・柳

田,1963), ラ テ ッ ク ス(ABU SALIH et al., 1968 ; BERCKS

and QUERFURTH, 1971 ; OMURA et al., 1984),高比重ラテッ

ク ス( 河 野・ 高 橋,1997), ゼ ラ チ ン(NATSUAKI et al., 1988)等を担体として用いる凝集反応法は,抗原抗体反 応を利用した植物ウイルス病の簡便な診断法として利用 されている。しかし,検定時間は数時間から一昼夜を要 する。 次に紹介するRIPA 法も,抗原抗体反応を利用したも のであるが,簡便な操作で10 分程度で診断が可能であ り,またなんら電気機器を必要としないため,現地圃場 での診断も可能である。 II RIPA 法の原理 RIPA 法の検定手順を図―1 に示した。あらかじめウイ ルス抗体で感作した白色ラテックス粒子液を面相筆でガ ラス繊維ろ紙(ワットマン社製,GF/A)のストリップ(幅 5 mm ×長さ 8 cm)に線状に塗布することにより感作白 色ラテックス粒子を固定しておく。

RIPA 法によるキュウリの 3 種ウイルス同時検定の改良

大  崎  秀  樹

(独)農研機構 近畿中国四国農業研究センター

Improvement of Simultaneous Detection of Three Viruses of Cucumber by RIPA.  By Hideki OSAKI

( キ ー ワ ー ド:Multi―RIPA 法, キ ュ ウ リ,CMV,MYSV, ZYMV)

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RIPA 法によるキュウリの 3 種ウイルス同時検定の改良 ― 29 ― 225 まず検体を緩衝液中で磨砕し,ストリップ下端をその 磨砕粗汁液に浸し,その液を吸い上げる(約5 分)。こ の過程で陽性であれば粗汁液中のウイルス粒子がストリ ップのガラス繊維ろ紙中を下端から上部へ移動し,感作 白色ラテックス粒子が線状に固定されている部位で捕捉 される。その後ストリップ下端の検体磨砕粗汁液で緑色 になった3 mm 程度をハサミで切除する。次に同様にウ イルス抗体で感作した着色ラテックス粒子液にストリッ プ下端を浸し着色ラテックス粒子を吸い上げさせる。ス トリップ中を吸い上げられた着色ラテックス粒子は,白 色ラテックス粒子に捕捉されているウイルス粒子と結合 し,陽性であると数分で着色したバンドが現れる。陰性 であると着色ラテックス粒子は,白色ラテックス粒子が 固定されているラインを越えてさらに上部に移動しバン ドは現れない。複数のウイルス抗体でそれぞれ感作した 白色ラテックス粒子をストリップ上の位置を変え固定す ることにより同時に複数のウイルスを診断できるように したものがMulti―RIPA 法である。 III 改  良  点 Multi―RIPA 法を初心者にも使いやすく視覚的に判別 しやすいものにするため,陽性バンドの色を増やすこと は で き な い か 検 討 し た。JSR 社 製 の 赤 色(cat. no. G0301R)と青色(cat. no. G0304B)のラテックス粒子 をそれぞれMYSV 抗体で感作し,それらを混合して着 色ラテックス粒子液として用いることにより見かけ上紫 色の陽性バンドを作り出すことが可能であった。口絵① 混合比を変えることにより,赤勝ちの京紫や青勝ちの江 戸紫等見かけ上色調が変わったバンドが形成されること が示された。すなわち混合比を調整し色調を変えること により,4 種以上のウイルスの陽性バンドの色による識 別が可能であると示唆された。 亀谷ら(1994)は,ひも状粒子であるポティウイルス 等,ろ紙中での移動が困難と考えられるウイルス種はで きるだけ下端に近いところに固定するよう推奨している ため,下端から15 mm の位置に ZYMV 抗体,20 mm の 位置にMYSV 抗体,25 mm の位置に CMV 抗体でそれ ぞれ感作した白色ラテックス粒子を固定し,三重複感染 したキュウリ葉を供試してMulti―RIPA 法を行ったが, CMV 陽性バンドは形成されたが,他のバンドは明瞭に 形成されなかった。そこでバンドがどの位置まで形成さ れるか検討したところ,CMV は 5 mm 間隔で下端より 15 mm ∼ 35 mm の位置に置いてバンドが形成されたが, MYSV は下端より 20 mm,ZYMV は下端より 15 mm の 位置までしかバンドが形成されず,また形成されたバン ドは不明瞭なものであった(図―2 A,C)。そこで磨砕 緩衝液の組成を検討したところ,牛血清アルブミン (BSA)濃度を 0.1%から 0.2%にしたところ,図―2 B, D に示すように,それぞれ 35 mm まで明瞭なバンドが 形成された。そこで0.2%含有磨砕緩衝液を用い,三重 複感染したキュウリ葉を検定してみると,3 種白色ラテ ックス粒子を下端より15,20,25 mm のどの位置に塗 布固定しても,CMV 陽性,MYSV 陽性,ZYMV 陽性を それぞれ示す明瞭な青色バンド,紫色バンド,赤色バン ドが形成された(口絵②)。 また,磨砕緩衝液のBSA 濃度を 0.1%から 0.2%に上 げることにより3 種ウイルス,それぞれの RIPA 法での 検出感度が,CMV では 2 倍に,MYSV では 4 倍に,そ してZYMV では 8 倍に向上し,より低濃度のウイルス を検出できることが明らかとなった(表―1)。これら結 果から,BSA 濃度を上げることによりウイルス粒子の ガラス繊維ろ紙中での移動度が増したと考えられた。ま た,図―2 からわかるように,BSA 濃度を上げることに より,着色ラテックス粒子のストリップ下部への停滞が ガラス繊維ろ紙 ストリップ (5 mm×8 cm) 感作白色ラテックス 粒子液を面相筆で線 状に塗布し風乾する 検体磨砕液を 吸い上げる 感作着色ラテックス 粒子液を吸い上げる 陽性ならば数分 後にバンドが出 現する 図−1 RIPA 法の検定手順

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植 物 防 疫  第66 巻 第 4 号 (2012 年) ― 30 ― 226 なくなり,上部への吸い上げが改善したことが示唆され た。口絵③に単独および重複感染キュウリでの検定例を 示した。陽性バンドの色により容易に感染しているウイ ルス種が判別可能であった。 もし3 種ウイルス病を診断する場合,ELISA 法ではそ れぞれの抗体で処理した三個のウェルが必要であるが, Multi―RIPA 法では 1 枚のストリップで十分である。ま たキュウリにおいても数種ウイルスを同時検出できるマ ルチプレックスRT―PCR 法(下元・竹内,2006;奥田ら, 2007)も開発されているが,PCR に基づく診断法は結 A B D C 図−2  BSA 濃度による白色ラテックス固定位置の検討

A と B は MYSV に対する,C と D は ZYMV に対する RIPA の結果を示した. それぞれ左から,ガラス繊維ろ紙ストリップ下端より15,20,25,30, 35 mm の位置に白色ラテックス液を塗布した. A,C:磨砕緩衝液中の BSA 濃度 0.1%. B,D:磨砕緩衝液中の BSA 濃度 0.2%. 表−1  磨砕緩衝液の牛血清アルブミン(BSA)濃度上昇による RIPA の検出感 度の改善 RIPA1) タイプ BSA 濃度 抽出粗汁液の希釈倍率2) 50 100 200 400 800 1,600 3,200 6,400 12,800 CMV 0.1% 0.2% + + + + + + + + + + + + − + − − − − MYSV 0.1% 0.2% + + + + + + + + + + + + − + − + − − ZYMV 0.1% 0.2% + + + + + + − + − + − + − − − − − − 1)白色ラテックス液はそれぞれストリップ下端より15 mm の位置に塗布した. 2)それぞれの罹病葉を半分に切除し,それぞれのBSA 濃度の抽出緩衝液で 磨砕し検定した.希釈は同一の磨砕緩衝液で行った。+は陽性を,−は陰性を 示す.

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RIPA 法によるキュウリの 3 種ウイルス同時検定の改良 ― 31 ― 227 果が出るまで数時間を要する。Multi―RIPA 法は,迅速 性においてELISA 法および PCR 法より優れている。 お わ り に RIPA 法は上述したように簡便さと迅速性が優れてお り,ウイルス病診断には極めて有効であると考えられる が,現在RIPA 法は汎用されているとは言えない。その 原因の一つは,診断が1 種類のウイルス病のみに限定さ れていることが考えられる。そこで,多くの作物におい て2 種以上のウイルスを同時に検出できる Multi―RIPA 法の実用化を検討して,さらにRIPA 法を普及したいと 考えている。そこで本稿で紹介した改良点は,ポティウ イルスなど,ガラス繊維ろ紙中での移動が難しいと考え られるウイルス種の検定へのRIPA 法の応用に有効であ ると思われる。 また,ポティウイルスであるZYMV がストリップ下 端より35 mm の位置まで陽性バンドが形成されること から,5 mm 間隔で(下端より 15,20,25,30,35 mm) 5 種のウイルスの Multi―RIPA 法が可能であろうと考え られた。塗布し固定する位置の間隔を3 mm にすれば, さらに多くのウイルス種を検出できると思われる。キュ ウリにおいては,あと Papaya ringspot virus と Watermelon mosaic virus が本 Multi―RIPA 法に追加できればさらに 便利な診断法になるであろう。

引 用 文 献

1) ABU SALIH, H. S. et al.(1968): J. Gen. Virol. 3 : 299 ∼ 302.

2) BERCKS, R. and G. QUERFURTH(1971): J. Gen. Virol. 12 : 25 ∼ 32.

3) IWASAKI, M. and T. INABA(1988): Ann. Phytopathol. Soc. Jpn. 54 :

584 ∼ 592.

4) 岩崎真人ら(1996): 四国農試報 60 : 1 ∼ 88.

5) 亀谷満朗(1993): 植物防疫 47 : 189 ∼ 192.

6) ら(1994): 日植病報 60 : 784.

7) 河野敏郎・高橋義行(1997): 同上 63 : 403 ∼ 405.

8) MOORHEAD, E. L. and W. C. PRICE(1953): Phytopathology 43 : 73

∼77. l

9) NATSUAKI, K. T. et al.(1988): Ann. Phytopathol. Soc. Jpn. 54 : 548

∼551.

10) OHKI, S. T. and M. KAMEYA-IWAKI(1996): Ann. Phytopathol. Soc.

Jpn. 62 : 240 ∼ 242.

11) 奥田 充ら(2007): 九病虫研会報 53 : 9 ∼ 13.

12) OMURA, T. et al.(1984): Plant Dis. 68 : 374 ∼ 378.

13) OSAKI, H. et al.(2011): J. Gen. Plant Pathol. 77 : 307 ∼ 311.

14) 下元祥史・竹内繁治(2006): 日植病報 72 : 146 ∼ 149.

15) 匠原監一郎(1980): 植物防疫 34 : 106 ∼ 110.

16) TSUDA S. et al.(1992): Plant Dis. 76 : 466 ∼ 469.

17) et al.(1993): Ann. Phytopathol. Soc. Jpn. 59 : 200 ∼ 203.

参照

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