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梅毒婦人の分娩について
東京女子讐門前門地校産婦人科教室(主任 堤辰郎教授)助教授 大 村 久 榮
冒「ホ ムラ ヒサ エ (受付昭和18年8月16H) 目 次 1 緒 言 1 調 査 材 晒 亙 調 査 成 績 1 妊娠持綾と梅毒とについて 2 破水顎態について 3 後出血について 4 胎盤重:量:について 5 新産児盤重及び身長について 結 論1緒
言 梅毒なる疾病の沿長が、直ちに國家の盛衰に繋ると云ふ、この重大事を適確に知り、憂慮してみる のは、讐務方面に野心を有する人kの闇においてのみではなからうか。一般世人は罹患後短年月に 最:も悲惨な過程を辿って絡焉をつぐる結核に封してすら近年やうやく、その豫防に、早期獲見に注 目しははじめたほどである。梅毒はこれに比しすべて秘密裡に取扱はれ勝ちの疾病であり、亦一方 この蓮に罹患を乎易に、常習的とさへいって恥ちない様な言融が流布されてるるが故に、その豫 防、治療が等閑に附されがちである。殊に婦人は一暦梅毒に封ずる観念うとく、配偶者の疾病有無は おろか、自己の罹患をさへ感知せぬことがしばしばである。かやうに婦人が梅毒に封して無關心な 理由は、前述の他に、梅毒の初期感染竃の生する部位が、前庭、膣、子宮膣部等である時には形態 的に自己襲見が不能であること、及び感染後の症歌に自畳症を歓くことが多く、亦潰瘍も自然治癒 することが多いので、患婦自身が感染初期を全く自畳しないで経過するために、臨床的診断も極め て難しく、殊に潜伏期にある時は一子困難である◎共:上荷一面婦人は特に性的に無智即ち性教育の 不徹底等、種汝なる因子が相直り糟重って、不知不識の間に愈々婦入は梅毒に蝕まれて、國家の一 大事にまで到達してみるのである。故に吾・b・はあらゆる角度から、凡ての機會を利用して、梅毒の 恐ろしさを嬬入に如實に畳らしめねばならぬ○從來婦入の梅毒に關しては、妊娠に聾して流早産、 ついで先天梅毒見等相當に寒心に堪へぬ結果が列墨されてるるのであるが、しかし梅毒婦人が其の 一一一 13 一一分娩経過中において、梅毒が直接に分娩に及ぼす影響につV・ては未だ論議せるもの少なきの憾があ る。 麟において余は梅毒婦人の分娩経過を相即多数に観察したのた、梅毒婦警は分娩に際して母艦自 身にある程度の危瞼を豫期せねばならぬことを認めたのでs一般導入をして、梅毒に評する關心を 喚起する一助ともしょうと思ひ敢て此の小著を報告する次第である。
豆 調 査 資料
調査贅料は東京女子馨學專門學校で入院分娩した産嬬と新産見である。昭和13年5月より昭和15年12月 までの2年7ケ月間において、前編にi報告した妊娠中、分娩時、及び其の後産褥をすぎて常農に復した時と の3同の梅毒反磨iにより、梅毒罹患嬬と決定したる者と、昭和16年17年の2ケ年間における前誰以外の者 で母燈及び新産晃の駅態に梅毒を疑って、梅毒反鷹を槍偏し、梅毒と診点した者との纏計工12例である。この うち初産婦は40例、輕産婦は72例である。皿 調 査 成績
11妊娠持績と梅毒との關係について 112の分娩例を妊娠持績月面により虚血すれば次の通りであるQ 妊娠39週以上帥ち正期分娩例84、このうち子宮破裂1名があり、38週以下29週までのも の、自口ち早産は28名で、』、ち死産が4例ある。112例の分娩に面し、25%の早産率である。 爾経産婦72名について、既往の妊娠持績歌態を問へば141同の妊娠同数中、流産18臥早 産32同うち死産6同、正期産は91同である。早産見中生存者9名、正期産中生存者81名とい ふ。故に既往妊娠同数に野して、生存者率は63,7%である。 かつてBaischは妊娠後牛期の流早産の63%は梅毒によるものであると云ひHynemann(5)は 63%と云ってみる。省當病院における一般妊婦の流早産頻度は3り%である。本調査に見ても既 ネ 牲症におV・て、妊娠の35,4%が流早産である。實に梅毒の流早産に擁する原因的意義は大である。 2 破水欺態について. 112の分娩例中・正期破水をなしたもの73例・早期破水が39例である。皇Pち早期破水は34,8 %を占めてみる。 ・一一 ウ期破水とは、云ふまでもなくb分娩経過中において、子宮口が8cm乃至全開大に開口して破 水するを云ふのである。その歌態は整調に反復されて來た陣痛の獲作と間激とによって、子宮口が 開帯しはじめ、ために卵膜の下端が子宮壁から剥離する。この剥離部位の卵膜は羊水の砥を受けて それに堪へつ明包状に膨隆して、子宮口内に野卑に進入する。子宮口5c:nに開大すれば、一方胎 児前置部と子宮壁とが密接するため、膨隆卵膜即ち胎胞は陣痛間三時にも萎縮弛緩することなく、 絶えず緊張して、子宮口きcm乃至全開大に達し、こエに胎胞の緊張極度となり、途に卵膜の揮力 姓は之に堪へざるに至り、子宮口外に糊粘の部分が破綻するのである。故に子宮口5cmの開大に 一一14一99 至らないで破綻する時は、これを早期破水(前期破水も含む)と云ふ。 早期破水をkこす原因としては第1に卵膜自艦の脆弱性、帥ち正常の堅に堪へぬことを學げねば な. 轤ハ。第2に卵膜には異常なく、受ける塵力の過重のことである。然るに從來後者については三 見先進部と子宮壁との接着状態不充分なるをあげて1共の原因とし}と、骨盤異常、三見の位置、胎 勢、稜育異常及び軟部産道の強靱等何れも子宮牧縮力が飽くまで胎胞に加重するの三態を述べてみ るが前者に甥しては、飴りに多く論ぜられて居らぬやうに思ふ。故に余は本調査において卵膜脆弱 による早期破水と看徹すより以外に認むべき原因もない、この多歎例については、その脆弱卵膜の 因って來るところを梅毒に締すべきではなからうかと思惟するのである。勿論これについては、今 後卵膜の組織病理的研索を行はねばならぬ。
3、後出血について
本調査に溺る後出櫨r勤は313.3cc土14.9 cc、標準偏差23a5・c±10.6ccである。これ四通 分娩における岩瀬(1)の235cc、或は川添G)の200cc乃至400ccとすれば大差がなV・様であるが、高 塚(8)の正常分娩時出血量としての173.5cc土2.63或は三島(6)の179.2cc±0.63ccに比しては多量で ある。しかも本調査に500cc以上め大:量出血者25名、 22%の多数を認め、1000cc以上のもの6名ts 5.3%にも及ぶに至っては、高塚(8)の一般分娩時の500cc以上13。6%、1000 cc以上3。1%或は鴛 山(9)の500cc以上2.3%{1000 cc以上’O.45%、三二來一般に謂はれ居る500 cc以上は18%、 1000cc以上は2%、1500 cc以上はO.2%に比すれば本資料は實に考慮すべき大:量出血である。 鼓に謂ふ後出血とは、胎鬼娩出により、遽かに子宮内墜が減退し、ために胎盤は剥離し、從って 其の部ゐ血管が破断して多少の出血を見るもの、所謂胎盤剥離出血と、それに引丸いて剥離面より 起る出1血畔を指すのである。この串血は胎盤剥離娩出後におこる子宮牧縮によって、断裂血管は二 二せられて■やがて血栓形成が出來るため、大出血となることはない。この際もし子宮筋縷維の牧 縮が不良で、破断せ多子宮胎盤血管を墜迫閉鎖することが璃來ぬ場合は、胎盤剥離面から大出血を 來し、子宮は柔軟となり、所謂子宮弛緩症となるのである。 子宮弛緩症の原因としては次の如きものが墨げられてるる。(1)急速分娩 (2)子宮壁の過度披 .張 (3)胎盤の早期墜出 (4)頻産婦 (5)周圏臓器の充盈 (6)子宮腔若しくは膣内凝血瀦溜 く7)子宮疾患 (8)心臓疾患、獅氣、腎臓疾患 (9)胎盤片淺溜 (10) 胎盤附着部麻痺 (11) 習慣性子宮弛緩症傾向等である。 本調査における22%以上の大量出血者殊に1000cc以上の出1血者が5% を占むる原因として 梅毒に基因するものが加算せられねばならぬことは自明の事實である。而して梅毒に因る子宮筋繊 維の形態的弓は機能的礎化に由回する牧縮不全、子宮胎盤血管壁の攣化(胎盤血管は梅毒に於ては 肥厚性硬攣を見る)及び一血液自身の凝固性低下(梅毒時の肝機能低下等に因るVitamink歓乏) 等が考へられるが、t’・Lcx・“には唯臨床的丁丁に基いて著者の憶測を披回するのみである。 尚1例の子宮破裂例がある。これは5同経産婦であって、分娩開始後三三に陣痛促進剤の注射を 受け、間もなく破裂したもので、本院に紹介され、手術二上で死亡した。旧例は偶然に梅毒婦入に獲 一一 15 ’一一一労した子宮破裂か或は又梅毒に因る子宮筋骨維の攣陛のための破裂か考慮の門地あるものと思ふ。・
4、胎盤重量について
胎盤重量の調査に際しては、特に正期分娩帥39週以上のもののみについて行った。叉非梅毒胎 盤との比較槍討の必要上同じく39週以上の非梅毒胎盤543をも調査した。其の結果は次の通り である。 梅毒胎盤重量は522・09土5・479,標準偏差74・5±3・889である.。これを非梅毒胎盤の541.09士・ 2.999標準偏差103.29士2.119に比すれば梅毒胎盤の方が小である。 胎盤重量については訓導、普通胎盤の平均重量は5009と云ひ、薪産見騰重とは1:5(1)或ぼ 1:5・5(2)又は1:6(3)と云はれてるる。本調査におV・ても非梅毒胎盤と非梅毒見禮重との關係 は1:5.5瞬である。而して一般には梅毒胎盤は非梅毒胎盤よりも大であると云はれてるる。然る に本調査itakViては梅毒胎盤と梅毒見髄重との關係は1:5.6彊であり、むしろ普通胎盤の方が實数 においても比率に於ても大である。 伺胎盤の大きさと後出血量との相關を調査したが相關關係は成立しない。 5、i新産児髄重及び身長について 妊娠39週以上のものについてi新産帰艦重及び身侵を調査し、前項同様非梅毒児543名とを比較一 した。 艦:璽平均は29429±22.79標準偏差3099土16。19である。これを非梅毒見29969士:10.29 標準偏差3529±7,29に比し大差を認めない。これを性別にすれば男見29549±27.49標準偏差 266g±16.1g女兇2888g±35.1g標準偏差333g±24.8gである。非梅毒男」;e300g±:エ1.3g標準偏 差2409±839女見29089士12・49標準偏差2549±9・49で特別においても同じく大差を認めなln。// 身長ギ均は49.7cm±0.14 cm、標準偏差ユ.9cm±0.10 cm、非梅毒晃49.9cm±0.06 cm、 標準偏差2.Ocm士0.04 cmに比し大差を認めない。Iv結
論 余は昭和13年5月よb昭和17年12月までの間において、梅毒罹患婦人の分娩経過を臨床的・ 罐即して・つぎの錆果を得た。 1)妊娠持綾期間について、早産は26% に及ぶ。既往症では流産を加へて、既往妊娠に饗し 35.4%の流早産である。 2)分娩に際して早期破水は34.8%の高率を示す。 3)子宮弛緩症とも云.}・tgtき大量歯血者22%以上に達してみる。 4) 胎盤の重量は非梅毒胎盤晃に比し増大を認めない。 5)薪産児の艦重、身長ともに一般新産児と大差を認めな。 以上により梅毒嬬入の妊娠分娩は早産、早期破zk、子宮弛緩症等、分娩それ自燈が直ちに母、見 の生命を脅しつsあると云ひ得ると思ふ。就中早産の頻繁なるは産見の増加を阻止する國家的肝心 一一 16 一一事と謂はねばならぬ。 擢筆に臨み御懇篤なる御指導並に御校闘を賜った恩師堤教授に瀧腔の謝意を表し、禽甚大なる御助力を椰 いだ細菌教室検査部各位に深謝す。 交 献 1)磐瀬雄一:新撰産科學、昭和3年02)川添正道:簡明産科學、昭和12年。3)塚原伊勢松:薪産科 學 上、昭和17年。4)塚原伊勢松:新産科學 下、昭勲16年Q5)長谷川敏雄:日本日婦人科學會雑誌 27巻、昭和7年06)語島馨:産科と婦人科、2雀、昭和9年。7)小畑惟清:目本婦人科學會雑誌b29 管、1號、昭和9年08)高塚勇:日本嬬人科學會雑誌、30巷、7號、昭和10年。9)鷲山吉冶:産科 と婦人科、4巻、12號、昭和11年。 10)柵田忠:臨床産婦人科、13巻、P.180、昭和12年。 11) Baisch, n. : M. m. ’W. Nr. 38, 19ego