陸上保険契約法における因果関係論再考
⎜⎜ 火災保険契約における保険者免責条項を素材として ⎜⎜
梅 津 昭 彦
■アブストラクト
保険金請求権者は,その請求に際して保険事故と発生した損害との間の因 果関係を証明しなければならない。また,保険者は保険金支払を拒絶する場 合の一つとして,保険者免責事由に該当することを主張し,発生した損害と その原因事実との間の因果関係を証明しなければならない。いずれにせよ,
保険契約において保険金請求が認められるか否かは 因果関係 の存否が問 題となる。そこで,因果関係論は,これまで海上保険契約においては整理・
検討されてきたところであるが,本稿は,これまでの因果関係に関する理解 を整理し,火災保険契約における保険者免責条項に限ってではあるが近時の 判決例を整理・検討することにより,陸上保険契約における因果関係論を再 考するための素材を提供する。
■キーワード
因果関係,火災保険契約,地震免責条項
Ⅰ
保険契約法における因果関係論の諸相1 因果関係が問題となる場面
損害保険契約に基づき保険者は, 偶然なる一定の事故 ,すなわち 保険 事故 の発生 に因りて 生じた損害を塡補する(商法629条)。したがって,
*平成18年6月17日日本保険学会関西部会報告による。
/平成19年2月6日原稿受領。
発生した 保険事故 と発生した 損害 の間に一定の法的関係が存在する ことが,保険者の責任を認めるための要件である。すなわち,商法の文言を もとに形式的に整理するならば, 保険事故 と 損害 との間に因果関係 論を考察する場面がある 。また,各種の損害保険契約では,保険者免責条 項が定められることが通常であり,典型的には 次に掲げる事由によって生 じた損害は塡補しません という文言で約款上規定されることが多い 。し たがって,かかる免責事由(約款)の解釈ないし適用の場面でも因果関係を 検討する必要がある 。
しかしながら,損害保険契約において因果関係が問題となる場面は,以上 のような単純な場合分けに収束されるものではなく,いかなる事実といかな る事実との間の因果関係を問題とするかによってより詳細に見解が分かれて いる。田辺博士は,以下の2つの見解に整理されている。一方は,保険事故 の原因たる 危険事情 と 保険事故 との間,および 保険事故 と 損 害 との間の問題とする見解であり,他方は,保険事故の原因たる 危険事 情 と 保険事故 とを包括した 危険 概念を用い,事故の原因および事 故自体のいずれにも免責事由がない 担保危険 ,そのいずれかに免責事由 がある 免責危険 と区分し,これらの 危険 と 損害 との間で因果関
1) 大森忠夫 保険法〔補訂版〕 有斐閣(1985年)152頁。
2) 約款文言の表面上は, 次に掲げる事由 と 損害 との間に因果関係が要 求されるようであるが, 次に掲げる事由 は,例えば,後述する住宅火災保 険普通保険約款2条2項2号では 地震 , 噴火 , これらによる津波 を掲 げるが,これらの事由は 保険事故 ではなく,いわゆる 危険状態 ないし 危険事情 と呼ばれるものであり,それらと 保険事故 との間の因果関係 が問題となる。田辺=坂口編 注釈住宅火災保険普通保険約款 中央経済社
(1995年)61頁(坂口)。
3) また,免責事由といっても人為的な保険事故の発生により保険者が免責され る場合には,別個の考慮が必要であろう(商法641条)。そして,損害保険契約 ではなくヒト保険契約の場合でも,因果関係が問題となる場面がある(商法 645条2項但書,678条2項,普通傷害保険普通保険約款1条1項,5条1項)。
係を問う見解である 。あるいは,保険法における因果関係論は, 危険
(担保危険および免責危険) と 事故 との間の関係を論じるものだとして,
危険 と 損害 との関係を論じるものではないとの主張も存する 。 保険事故 は保険者の給付義務が生じるところの 偶然なる一定の事 故 であり ,それは契約内容として確定しているはずの担保事故である。
したがって,担保事故でない事故(非塡補事故,免責事故)が発生し損害が 生じたとしても,保険者は塡補責任を負わない。あるいは,担保事故自体の 発生原因に免責事由が存する場合,たとえば,後述する 地震による火災 という場合には, 地震 と発生した担保事故である 火災 の間に因果関 係が認められる場合には,保険者は免責されるということになる 。しかし ながら,担保事故自体の発生原因に免責されていない原因事実と免責されて いる原因事実が混在する,またはそれらが相前後して担保事故である保険事 故が発生した場合には,それ に因りて 発生した損害の全てについて保険 者が塡補責任を負うのか,全てについて負わないのか,または割合的に負わ なければならないのか議論されているところである 。
2 本稿の目的
ところで,保険契約法における因果関係論はこれまで,海上保険契約にお 4) 田辺康平 新版現代保険法 文眞堂(1995年)120‑21頁。
5) 横尾登米雄 保険法における因果関係論の構想 保険学雑誌第407号(1959 年)1頁以下,3‑4頁。
6) 大森・前掲註1)61頁。
7) その立証責任は,保険者側にあるとされていた。大判大正14・11・28民集4 巻677頁。
8) 山下教授は,これまでの研究の成果から,因果関係論を,複数の危険が時間 的に相前後して因果関係の連鎖のなかで生起した場合である 前後継起的因果 関係,複数の危険の一方だけでは保険事故ないし損害は生じないが,それらが 協働することにより保険事故ないし損害が生じた場合である 補完的因果関係,
そして,複数の危険が損害の原因となっているが各危険が単独でも損害となり うる場合である 重複的因果関係,に類型化される。山下友信 保険法 有斐 閣(2005年)384‑85頁。
いて盛んに論じられてきた問題である 。複数危険を担保する海上保険契約 には多くの免責事由が存することから保険者の塡補責任を確定するため種々 の因果関係論が多くの先達により詳細に研究されてきたところであるが,同 じ損害保険契約であっても,海上保険契約における議論がそのまま陸上保険 契約において妥当するか否かをも検証する必要性があると思われる 。また,
後述するように我が国の判例・判決例あるいは通説は保険契約法においても いわゆる 相当因果関係 を採用しているようであるが,それを採用する根 拠ないし理由,または 相当性 の意味そしてその判断基準を明確には示し ていないように思われる 。
9) 野津務 保険法上の因果関係 損害保険研究第33巻4号(1971年)1頁以下,
今村有 保険法における因果関係−相当因果関係説と法的原因の選択−⑴・⑵ 損害保険研究第36巻2号(1974年)1頁以下,同3号(1974年)3頁以下。ま た,海上保険法で展開された因果関係論を火災保険契約について整理検討する ものとして,松島恵 火災保険における因果関係 田辺=石田編 新損害保険 双書1火災保険 文眞堂(1982年)305頁以下。
10) 商法815条によれば海上保険契約は 航海に関する事故に因りて 生ずるこ とある損害を塡補することを目的とする契約と定義し, 事故 の包括性を明 言している。すなわち,海上保険契約における保険事故は, 海上危険 であ り,船舶の航海に関連して発生する一切の事故(沈没・座礁・衝突・暴風雨・
火災・爆発・盗難・捕獲・船員の非行等)である。鈴木竹雄 新版商行為法・
保険法・海商法全訂第二版 弘文堂(1993年)166頁。海上保険契約において適 用されるべき因果関係論と火災保険契約において適用されるべきそれとの間に 差異を認める主張として,加藤由作 火災保険における因果関係と海上保険に おける因果関係 保険学雑誌第389号(1955年)1頁以下。また,大谷孝一 海上保険契約における因果関係の諸相 損害保険研究第65巻1・2号合併号
(2003年)179頁以下,182‑83頁では, 海上保険では,海上危険という普遍的,
総合的危険が負担され,その中の一定の危険が免責危険として保険者の責任か ら除外されるという特殊性から,損害が負担危険と免責危険の協力によって生 じた場合に,保険者の責任をめぐって争いが生じやすい という。
11) 例えば,相当因果関係説については, ある特定の結果に対し,ある特定の 事実が原因であると判断されるためには,当該場合においてだけではなく,一 般の場合に当てはめてみても,やはりその事実が同じ結果をもたらすと判断さ れる場合に,その二つの事実の間に因果関係が認められる と述べられている。
民法415条あるいは民法709条に基づく損害賠償責任において用いられてい た 相当因果関係 は,債務者ないし加害者の負担すべき賠償額を決定する 場合に用いられた理論であり ,保険契約に基づき保険者が負担する塡補責 任が問題となる場合にも同じ私法領域に属するからといって当然にそれが用 いられる,あるいは同一に解すべきであるとはいえない。さらに,保険法に おける因果関係の問題は,保険制度の目的ないし当事者の合理的な通常の意 思からみて,当該保険においていかなる保険保護が約束されているかによっ て定まるものであり,保険事故と損害の間の因果関係もまた契約内容のひと つとして,当事者の合理的意思解釈ひいては取引通念により定まるという。
したがって,特別の事情がない限り,保険事故と 相当因果関係 のある損 害が生じた場合に保険者が塡補義務を負うことが約束されていると解するの がかかる通念に合致し,あるいは当事者の合理的意思として 相当因果関 係 が用いられるという 。他方で,保険契約法において独自の因果関係論
田辺・前掲註4)122頁。また,保険事故と損害との間の相当因果関係につき,
その事故が通常そのような損害を生ずるだろうと認められる関係 という。
江頭憲治郎 商取引法(第四版) 弘文堂(2005年)423頁。あるいは, ある 先行事実があるときは,ある後行事実が生ずる,という関係が当該特定の場合 のみならず,一般的・普遍的に認められる場合に,その間に因果関係の存在が 認定される 。田辺=石田編・前掲註2)61頁(坂口)。さらに, (火元の)火災 または火災の延焼・拡大が地震と相当因果関係があるかどうかは,場所的関 係・時間的関係を中心に,具体的事情を総合的に判断する ともいわれている。
北河隆之 地震免責約款の効力 金澤=塩崎編 裁判実務大系26損害保険訴訟 法 青林書院(1996年)203頁以下,215頁。
12) 例えば,民法学説において損害賠償の範囲(特に民法416条の解釈において)
を決するための 相当因果関係論 の今日的意味については,林(安永補 訂)=石田=高木 債権総論(第三版) 青林書院(1996年)136頁以下,平井 宜雄 債権各論Ⅱ不法行為 弘文堂(1992年)79頁以下,内田貴 民法Ⅲ[第 3版] 東京大学出版会(2005年)159頁以下。
13) 大森・前掲註1)152頁,倉沢康一郎 保険法通論 三嶺書房(1982年)69頁。
また,わが国の判例は相当因果関係を採用するのかを明らかにしてないが,契 約当事者の意思として相当因果関係説によるという理解によるべきだという。
山下・前掲註8)388頁。
はないとまで言い切る論者もおられる 。
そこで,本稿ではかつての判例・判決例を再確認したうえで,近時の裁判 例において因果関係について言及している部分を整理・検証することによっ て,陸上保険契約法における因果関係論を再考するための素材を提供するも のである。
Ⅱ
火災保険判例・判決例にみる因果関係1 かつての判例・判決例における言及
陸上保険契約法において上述のような意味で因果関係が問題となる場合,
それはいわゆる 相当因果関係 であることは大審院が,包括火災保険契約 における免責条項,すなわち爆発により生じた損害は保険者は塡補しない旨 の条項の有効性が争われた事件において, 火災ニ因リ爆発ヲ来シ損害ヲ生 シタル場合ニ於テモ苟モ其ノ爆発損害カ火災ト相当因果関係ヲ有スル限リ保 険者ハ其ノ損害塡補ノ責ニ任スヘキモノ と述べていた。そこで,当該大 審院は,別段の意思表示がない限り,火災を原因として生じた一切の損害に つき塡補することを契約当事者の意思として約したものであり,火災と相当 因果関係ある爆発損害も保険者が塡補すべき損害とした 。
14) 岩崎稜 火災による爆発の損害 商法(保険・海商)判例百選(第二版)
(1993年)52頁以下,53頁。
15) 大判昭和2・5・31民集6巻521頁。なお,関東大震災を契機とした地震免責 約款の有効性の争いについて,大判大正15・6・12民集5巻523号523頁,大判 昭和2・12・22新聞2824号14頁,大判昭和9・1・17法律新報358号附録28頁。
16) かかる点に関し,竹田省 民事判例批評 法学論叢第20巻第6号(1928年)
154頁以下,161‑62頁では,爆発損害は異常であり,その範囲も極めて予想し がたいものであるから危険率計算上の基礎には算入されていないのであって,
火災と爆発とは保険取引上は別個の災害として扱うものであり,火災保険が爆 発を付保しないということは,単に爆発損害は火災損害に含ませられないとい うことであり,因果関係の問題を持ち出すべき筋ではないと批判されていた。
同 火災保険と爆発 法学論叢第3巻第2号(1920年)14頁以下。また,松村 寛治 火災による爆発の損害 損害保険判例百選(第二版)(1996年)88頁以 下。
また,昭和45年6月22日東京地方裁判所判決(新潟地震訴訟)がある。こ の訴訟では, 原因が直接であると間接であるとを問わず,地震又は噴火に 因って生じた火災及びその延焼その他の損害 は保険者これを塡補しないと 定める昭和50年4月1日改正前の火災保険普通保険約款5条1項8号の解釈 が争われた。同判決は,地震免責条項における因果関係の有無は地震と保険 事故たる火災との間で問題となり,その因果関係の内容は, 結局,地震免 責条項の規定に即し,具体的事情を検討して決するほかはないと解するを相 当とする。けだし,相当因果関係を要するといつても,保険契約による保険 金の支払関係は,不法行為や債務不履行による損害賠償義務のように,違法 行為をなした者に責任を負わせるという関係ではなく,保険契約独自の理念 によるものであるから,不法行為や債務不履行に基づく損害賠償責任におけ る相当因果関係理論と同一に解する必要はないし,また,近因の原則といつ てもその内容は結局どの原因が最も決定的な影響を実質的に与えたかによつ て何が近因であるかを決するわけであるから,両者の間に実際上大きな差異 があるとも考えられないからである と述べた。同判決では,いかなる因 果関係を採用するかについて相当因果関係説と 近因の原則 とについて
17) 東京地判昭和45・6・22下民集21巻5・6号864頁。本判決における因果関係 が問われる場について,石田満 火災保険約款における地震免責条項の解釈−
新潟地震訴訟を中心として− 保険契約法の基本問題 一粒社(1977年)181 頁以下は,本件地震免責条項の文言解釈から,因果関係は地震と損害の間に要 求していると主張され, もっとも火災損害の場合には,地震と火災損害との 間につながりがあるか否かの判断にあって地震と火災事故との間の因果関係が 論理的に判断される場合があるにすぎない と述べられた。同189‑91頁。小林 登 地震免責条項の解釈 損害保険判例百選[第二版](1996年)92頁以下。
18) “proximate cause”理論は,イギリス海上保険において判例法ならびに学説 において確立された理論といわれ,アメリカ法においても議論されている。
M.A. Clarke, The Law of Insurance Contracts(5th ed. LLP,2006), pp.789‑92;R. H. Jerry,Ⅱ, Understanding Insurance Law(3d. ed. M atth- ew Bender,2002), pp.587‑93. しかしながら, 近因の原則 あるいは 近 因説 といっても, 近因 をどのように解するのかでさらに理解は分かれる。
例えば,木村栄一 海上保険 千倉書房(1978年)131頁以下は, 時間的に
言及している点で注目されるが,地震と保険事故たる火災との間の因果関係 の判断について明確な基準を示しているものではない。
2 近時の判決例における言及(保険者免責条項の適用事例)
不幸な経験であったが阪神・淡路大震災ならびに北海道南西沖地震に関係 したその後の裁判例にあっては,火災保険契約に基づく保険金請求訴訟にお いて,その因果関係論が問題となる場合が散見される。その中でもいわゆる 地震免責条項 の適用にあたって ,地震と保険事故である火災との間の 因果関係が問題となった 。かかる 地震免責条項 は,整理すると,
地震によって生じた(火元)火災による損害(第1類型),
地震によって生じた(火元)火災が延焼・拡大したことによる損害
(第2類型),そして
(火元)火災(その出火原因を問わない)が地震によって延焼・拡大 した損害(第3類型)
については,保険者は免責される規定であり,それぞれの類型において因果
損害に最も近い原因,あるいは時間的順序で損害に最も近接した原因,時間的 に最後の原因(最終条件)を近因とする 最終条件説,ある結果をし生ぜしめ た条件の中で,その結果を生ぜしめるについて,他の条件よりもより力があっ た条件をもってその結果の原因とみる 最有力条件説,ある損害がある事故の 不可避的結果として生じたか否かを近因の基準とする 不可避説,事故と損害 の間に,相当因果関係のごとく単なる可能性の程度では足りない蓋然性,結果 発生の可能性が50%に近い場合,それを原因とする 慨然説に分類する。また,
松島・前掲註9)311‑17頁。
19) 住宅火災保険普通保険約款2条2項,参照。
20) 地震保険に関しては,岩崎稜 地震保険と損害 現代損害賠償法講座8損 害と保険 日本評論社(1973年)53頁以下,坂口光男 地震保険−立法史序 説 倉沢=奥島編 昭和商法学史(岩崎追悼) 日本評論社(1996年)569頁以下。
21) 阪神・淡路大震災にかかる火災保険金請求訴訟については,他にも様々な論 点を含んでいる。岡田豊基 阪神・淡路大震災と保険 神戸学院法学第26巻1 号(1996年)1頁以下。また,後記⑤事件を素材として検討するものとして,
小林道生 震災と保険訴訟 損害保険研究第64巻2号(2002年)97頁以下。
関係が問題となる。そこで,かかる免責条項自体は有効であることを前提に,
以下では,因果関係が認定された判決例と否定されたそれとを区分して,判 旨をみていくこととする(判決例番号は,以下⑴⑵それぞれについて,基本 的に判決年月日順に付してある。そして,枝番号を付したものは同一事件で ある)。
⑴ 因果関係が認定された事例
①大阪地判平成9・12・16判時1661号138頁
第2類型の適用にあたり,裁判所は,本件建物火災が本件火災の延焼によ ることを認めたうえで, 延焼 の 原因 は, 神戸市長田区及び須磨区一 帯の家屋の多くが倒壊したため,たやすく延焼しうる状態となった一方で,
交通渋滞や人命救助の必要性から消防隊の迅速な移動が妨げられたこと,断 水により消火栓が使用できなくなったこと,同時に広範囲で火災が多発した ことなどにより消防能力の限界を超えたこと と認め,これらの 原因 が いずれも本件地震に起因することは明らか として, 延焼と本件地震との 間には因果関係が認められるのであって,出火原因は不明であっても,本件 火災は地震によって延焼したものということができる。 と判示した。
②−1神戸地判平成10・6・26判タ992号217頁
本件は,第1類型および第2類型の適用・解釈も争点とされているが,特 に第3類型について裁判所は以下のように述べる。 免責条項の文言( 次に 掲げる事由(地震) によって 生じた損害 )上は,地震と火災ないし火災 損害との因果関係が要求されるにすぎず,また,免責条項の趣旨は,地震の 際における社会的混乱や同時火災多発による消防力の不足低下,交通事情の 悪化等の事情をも考慮したものであると考えられることからすれば,第三類 型を,地震前の火災の場合に限定したり, 地震 を地盤の揺れ自体に限定 したりする理由はないのであり,結局,地震と火災ないし火災損害との相当 因果関係の有無如何によって第三類型の該当性を決するのが相当である 。 そして, 十分な消防体制でなかった ことが 本件火災が延焼拡大して本 件建物を全焼したことについて,本件地震よりも有力な要因であったとは到
底認められないのであるから,本件地震との相当因果関係を否定することは できない という。
さらに,認定事実から 本件建物から出火しそれが延焼拡大して全焼する に至ったこと と 本件地震 との相当因果関係を認めながらも, 本件地 震がなくても,本件火災ではボヤ程度の火災損害(この限りでは本件地震と の因果関係は全くない。)が生じていたことも明らかなのであるから,被告 らがいかなる範囲で免責されるかについて,更なる検討を要する。 として,
本件裁判所は,保険者が免責される範囲について以下のように述べる。 本 件地震がなくてもボヤ程度の火災は生じていたものであり, 地震による延 焼拡大 部分,すなわち地震と因果関係のある火災損害は,ボヤ程度の火災 によって被る損害を超える部分ということになる。 と。そして,本件火災 は保険地震がなければ, ボヤ程度の火災による損害部分は多くとも全損害 の半分を超えることはあり得ないと考えられるのであるから,結局,本件地 震と相当因果関係のある火災損害部分として被告らが免責されるのは,全損 害の半分の限度であると認めるのが相当である と結論づけた 。
③神戸地判平成11・4・28判時1706号130頁
保険の目的に生じた損害と本件火災との間の因果関係を認めたうえで,免 責条項の解釈について裁判所は, 地震によって発生した火災 は, 地盤
22) 山下友信 阪神大震災時の火災保険契約,盗難保険契約および火災共済契約 における地震免責条項の適用の有無 私法判例リマークス第20号(2000年)
116頁以下,119頁では,この②−1事件判決を批判して,次のようにいう。地 震と火災(延焼を含む)との間に 相当因果関係があるとしながら火災損害の 一部については条件的因果関係すらないという判断は論理的なものとはいえな いように思われる。仮に地震によらない火元火災が発生し,その通常の結果と して何らかの損害が生じうるとしても,地震という異常な事態が発生した場合 には,火元の火災と損害との間の因果関係は地震により中断され,このような 場合には地震がなければどうであったかというような仮定的判断を差しはさま ずに,現実に生じた損害は地震による損害として保険者免責となるというよう に考えることが,地震免責条項の文言に照らしても正当な解釈であると思われ る 。
の揺れによって発生した火災 に限定されず, 地盤の揺れによってガス管 が破損し,通常の日常生活では考えられない異常なガス漏れが生じ,それに 何らかの火が引火して火災が発生した というような場合であっても,この ような異常なガス漏れ以外により有力な要因が認められない限り,含まれる と解するのが相当である。 と述べ,本件事実に基づき, 本件火災の発生原 因は,山本文化ないし原告大野宅のプロパンガス供給設備のどこかに本件地 震の揺れによって損傷が生じ,そこから漏出したプロパンガスに何らかの火 が引火し,爆発したことにあるものと認められ,他に,漏出したプロパンガ スに誰かが意識的に放火したといった,本件火災の発生についてのより有力 な要因は窺われないから,本件火災は,本件免責条項における第一,第二類 型の 地震によって生じた火災(及びその延焼) に該当するものと解する のが相当である。, 本件損害は,本件免責条項の規定する第一類型,第二 類型に該当し,被告らは本件各保険契約に基づく保険金の支払義務を免れ る と判断した。
④−2大阪高判平成11・6・2判時1715号86頁
住宅金融公庫融資住宅等火災保険特約条項2条2項所定の地震免責条項に いう 地震によって発生した火災 という要件について裁判所は,それは地 震と火災との間に相当因果関係の存在することが必要であり, 社会通念上 相当と認められる限度において,地震と火災との間の因果関係を肯定すべき である と述べた。そしてかかる見地からいわゆる 地震火災 の因果関係 を検討し, 地震によって平時に比べると可燃物に極めて容易に着火しやす い状態となったことが原因で火災(いわゆる通電火災)が発生した場合には,
一般的にみて, 地震による震動のために作り出された異常状態 によって 生じた火災として,地震と火災との間に相当因果関係がある と判示した。
そして,裁判所は, 現に人の居住する普通の一戸建て家屋であれば,通 常は,地震後二,三日もすれば,居住者により目視できる範囲で屋内の危険 箇所はひととおり点検され,それによってかなりの程度に火災の発生を未然 に防止することが可能になることが十分考えられるところである。したがっ
て,…居住者が地震後に容易に火災発生の危険を除去しうるのにこれを怠っ たことが火災発生の直接的な原因となっているような場合には , 仮に地震 以外の原因で電気ストーブなどの火源となりうる器具が転倒した場合でも,
その転倒した器具を居住者がそのままにしておくという 居住者の不注意に より火災が発生することがあり, 本件のような場合に生じた火災について は,地震による影響よりも,居住者の不注意による失火であることを重くみ るべきであると解せられる , このような場合には,本件保険契約に直接の 規定はないが,信義則の適用により,右火災の原因となった地震による影響 と居住者の失火のそれぞれの寄与の程度など,火災発生に至った一切の事情 を考慮し ,契約所定の保険給付金額のうち,保険契約者に支払われる保険 給付金額を減額するのが相当であると判断した 。
②−2大阪高判平成11・11・10判タ1038号246頁
被告保険者側は,免責条項の解釈について, 地震と延焼拡大との間の相 当因果関係は,延焼拡大して全焼したという結果に対して火元火災と地震と のいずれが優勢であったかによって決せられるべきであり,相当因果関係の 存否はいわば悉無率(オールオアナッシング)で評価されるべきである。す なわち,現実に発生した結果に対して地震が決定的な影響を及ぼしたか否か,
地震が最大の原因であったか否かという合理的な価値判断により判定される べきものであり,仮定の事情を付け加えて判定されるべきものではない と 主張した。それに対し,裁判所は第3類型の免責事由について, 保険約款 の解釈は文言中心になすべきところ, 地震によって延焼または拡大して保 険の目的に与えた損害 という表現からすると,免責されるのは火災による 全損害ではなく,地震により延焼または拡大した部分の損害に限られること
23) この判決の特徴として 本判決では,相当因果関係が認められているにもか かわらず, 地震とX2の過失がそれぞれ本件火災にもたらした寄与の程度
(影響度)等の一切の事情を考慮 して約六割の保険金請求を認めるという,
免責条項を部分的に適用したかのような,いわば割合的・和解的な解決が採用 されている 点が異例なものであるという。安井宏・判例評論第506号(2001 年)37頁以下,38頁。
は明らかである。保険約款は,免責される要件を定める共に,免責される範 囲(損害)をも定めている。第一審被告らの解釈は,保険約款の規定を無視 したもので到底採用できない と述べていることが注目される。
⑤函館地判平成12・3・30判時1720号33頁
まず,地震免責条項における によって という文言は,いずれも相当 因果関係を意味するものと解することができる と述べる。そして,本件損 害が地震またはこれによる津波と相当因果関係が認められ,地震免責条項に おける免責事由に該当することについての立証責任は保険者に存するとした うえで, 因果関係の判断方法 としての 因果関係の立証の程度について は 一般に,訴訟における因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然 科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が 特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することで あり,その判定は,通常人が疑いを差し挾まない程度に真実性の確信を持ち 得るものであることを必要とし,かつ,それで足りる。このことは,本件訴 訟における本件地震又はこれによる津波と本件損害との間の因果関係の立証 に捌いても異なることはない と述べる。そこで,因果関係の判断は, 通 常人からみた常識的な判断として,原因と結果の関係が肯定されれば足り る という 。
⑥大阪高判平成13・10・31判時1782号124頁
本件裁判所は, 普通保険約款中の条項の文言は,一般通常人の認識・理 解を基準にして解釈すべき であるとしたうえで,第1類型および第2類型 にいう 地震によって生じた(火元)火災 とは, 地震による物理的被害 の結果として発生した火災全般を指し,第一審原告らが含まれないとして挙 げる,地盤の揺れによってガス管に亀裂が生じてガス漏れを生じ,そこにタ バコの火が引火して火災が発生したとか,地盤の揺れによって電線の被覆が
24) 出口正義・ジュリスト第1215号(2002年)179以下,181‑82頁では,本件にお ける相当因果関係の存在を認める判断が妥当であると評価している。なお,黒 木松男・判例評論第506号(2001年)41頁以下。
破れた状態で通電が行われたためにショートして火災が発生したというよう な場合も含まれると解するのが相当である と述べた。
さらに,第3類型にいう (火元)火災が地震によって延焼・拡大 した とは, 本件地震のような大地震が発生した場合,地震直後から同時多発的 に火災が発生し,すべての火災に迅速に対応することは困難になること,交 通や通信の途絶・混乱が消防活動を阻害すること,水道管の破損による断水 が原因で消火栓が使用不能となり消防活動が阻害されることなど様々な理由 によって,平常時よりも広範に火災が延焼・拡大する事態は容易に予測され るところであって,たとえ防火体制がより充実していれば延焼・拡大の範囲 が異なっていたはずであるという場合であっても,平常時においてすら通常 の火災の延焼・拡大を防ぐことができないような状況でない限り,このよう な防火体制の不足をもって人為的な延焼・拡大であるというのは相当でなく,
地震によって火災が延焼・拡大したものと評価すべきである と述べて,人 為的要素により火災が拡大または延焼したはこれに含まれないと主張した被 保険者側の限定的解釈を退けた 。
25) 笹本幸祐・判例評論第530号(2003年)31頁以下,石田満・損害保険研究第64 巻2号(2002年)193頁以下,李芝研・ジュリスト第1266号(2004年)196頁以 下。なお,本件判決については,その第一審を素材として,潮海一雄 地震火 災保険訴訟と割合的解決−神戸市東灘区魚崎北町火災保険訴訟を素材とし て− 現代民事法学の理論上巻(西原古稀) 信山社(2001年)271頁以下。
上告審では,保険会社側の説明義務・情報提供義務違反について慰謝料請求が 認められるか争われたが,否定された。最判平成15・12・9民集57巻11号1887頁。
なお,盗難保険契約における地震免責条項の適用について(盗難保険普通保 険約款4条4項),それを肯定した事例として,神戸地判平成10・2・24判時 1661号142頁がある。同じような内容を有する住宅火災保険普通保険約款2条 1項3号については,紛失または盗難による損害と火災との間の相当因果関係 存在の立証の困難を避けるという実際的要請から,紛失または盗難による損害 については相当因果関係の有無を問うことなく保険会社は一切免責させる趣旨 だという。田辺=坂口編・前掲註2)77‑78頁(坂口)。鈴木辰紀 火災時の保険 の目的物の盗難・紛失と保険者の責任 田辺=石田編・前掲註9)39頁以下。
⑵ 因果関係が否定された事例
⑦神戸地判平成10・4・27判時1661号146頁
本件は,生活協同組合との間で締結された火災共済契約に基づく共済金の 支払いを求めた事例である。裁判所は本件組合規約20条にいう 原因が直 接であると間接であるとを問わず,地震《略》によって生じた火災 という のは,社会通念上,火災の発生・拡大が地震と相当因果関係にある場合を意 味すると解されるが,右判断には,当時の火災発生状況や消防活動に関係の ある社会状況等,火災の発生・拡大に影響を及ぼす諸般の事情をも考慮すべ き ことを指摘し,認定事実から, 本件火災の発生が本件地震を直接の原 因とするものではないことは明らかである と判断した。そして, 本件地 震は大規模なものであり,これによって惹起された社会的混乱は顕著なもの があったが,本件火災は,本件地震発生から六日後の一月二三日に発生した ものであり,当初の混乱は収束に向かいつつあり,送電も再開され,火災が 頻発するような状況にはなく,長田区内においても当日発生した火災は本件 火災のみであったことからすれば,本件火災の発生が当然に本件地震と相当 因果関係にあるものと推定することはできない。 として, 地震 と 火災
(の発生) との間の因果関係を否定した。
④−1神戸地尼崎判平成10・8・10金判1048号10頁
本件裁判所は,地震と火災との間の因果関係は,単なる条件的な因果関係 では足りず,その間に相当因果関係の存在することが必要であり,その因果 関係は社会通念上相当と認められる限度で肯定されるとしたうえで,本件に ついては,次のように述べて,地震と火災との間の因果関係を否定した。す なわち, 空家や倒壊した家屋であればともかく,現に人の居住する普通の 一戸建て家屋であれば,地震後二,三日もすれば,家人により目視できる範 囲で屋内の危険箇所はひととおり点検され,それによってある程度火災の発 生を未然に防止することが可能になることは,われわれの経験則に照らし明 らかといわねばならない。すなわち,家人による安全管理がある程度可能に なれば,その程度に応じて地震の影響は薄れていくのであり,家人が容易に
危険を除去しうるのにこれを怠り,その結果火災が発生した場合は,社会通 念上,この火災は家人の過失による失火と見るのが相当であり,地震によっ て発生した火災には当たらない(地震と火災との間に相当因果関係を肯定す ることはできない)というべきである と。
⑧神戸地尼崎支判平成10・8・10金判1048号13頁
平成7年1月17日の大震災の発生翌日に出火した火災の延焼による損害に ついて,本件火災の火元の出火原因については証拠および弁論の全趣旨から 特定することはできず,また消防署の公式見解においても 不明火 とされ ていることに加え, 不審火による疑いもなくはないと見る余地がある こ とから 出火と地震(本震及び余震)との間に相当因果関係 は存しないか ら,地震免責条項の適用を退けた 。
⑨−1神戸地判平成11・4・28判タ1053号239頁
本件は,上記⑦事件と同様の火災共済の規約の解釈・適用が争われた事案 である。裁判所は, 火災が地震を直接の原因として生じた場合とは,例え ば,建物内において火力を使用中に地震によって建物が倒壊して火災が発生 した場合であると解される と述べ,本件火災が地震発生から約8時間経過 して発生しているという時間の経過に照らし,本件火災が本件地震を直接の 原因として生じたとも,また間接的な原因により生じたとも認めなかった。
そして,本件地震のような大地震により社会が混乱している状況では,特段 の事由がない限り,事実上地震による火災であると推定すべきであるとの被 告の主張に対して, そのことを理由に,被告主張のような本件免責条項の 適用について立証責任を軽減するとすれば(被告の主張するところは,事実 上右立証責任を契約者に転換するものといえる。),そのことによる不利益は そのまま本件契約者が負うことになる。火災原因の調査,解明については,
個々の契約者に比べて事業者たる被告の方が圧倒的な能力を有していると考 えられることからすれば,右被告の主張の不合理性は明らかというべきであ る として退けた。
26) 山本哲生・ジュリスト第1159号(1999年)157頁以下。
⑨−2大阪高判平成12・2・10判タ1053号234頁
結論として免責条項の適用はないとの第一審の判断を維持しつつ,裁判所 は本件免責条項の解釈として, 本件規約の火災の定義や本件免責条項の文 言だけからは,延焼火災のうち,(原因の如何を問わず)発生した火災が,
地震によって延焼した火災(第三類型)をも免責の適用対象とするかどうか について,一義的に紛れもない形で解釈できるものではない と述べ,いわ ゆる第3類型損害を免責対象とするものではないと判示した。
Ⅲ
近時の判決例から読み取れる因果関係の問題(まとめに代えて)1 近時の判決例にみる因果関係論の整理
冒頭でも概観したように,保険契約法における因果関係論はまず,いかな る事実といかなる事実との間の因果関係かが問題となる。それは,本稿にお いて取り上げた地震免責条項の文言解釈に限定していうならば,第一に,地 震という事実と火災という事実との間の問題として捉えることができる。さ らに,地震による火災の延焼・拡大という点からは,地震と火災の延焼・拡 大との間の因果関係が問題となる。そして,事実と事実との間の因果関係の 評価の問題がある。すなわち,当該事実と事実との間に 相当性 という形 で因果関係の存在が認定されるかという問題である。また,かかる因果関係 が,保険者の有責または免責を判断するとともに,その範囲を画することに なる。例えば,②−1事件ならびに②−2事件で裁判所は,保険者はどの範 囲で免責されるのかも主張立証しなければならないと述べる部分が注目され る。それは,機能としての因果関係ということができよう 。
そこで,近時の判決例が示す因果関係の 相当性 は,その象徴的な言い 回しとして,④−1事件,④−2事件そして⑦事件判決では 社会通念上
27) ④−2事件判決にみられるような,因果関係を認めながらも,被保険者側の 事情(寄与度)等火災の発生に至った一切の事情を考慮して保険者の責任の範 囲について決定する場合については,因果関係の問題とは異質なものと考えら れる。
地震と火災との間の因果関係が認められるか否かによる判断,あるいは⑤事 件判決では 因果関係の判断は,通常人からみた常識的判断として,原因と 結果の関係が肯定されれば足りる とする判断がなされている。また,ある 事実とある事実との間に介在する様々な状況をも考慮した因果関係の認定の 仕方もある。すなわち,地震により発生した一定の社会状況が火災の延焼を もたらした場合が指摘されている(①,②−1,③,④,⑥事件。⑦事件で は,本件火災の発生と本件地震の発生との時間的間隔,その間の社会情勢の 平穏化を考慮して因果関係を否定している)。それに対しては,相当性の判 断が一連の流れのなかで地震の結果として通常生じうる損害としてなされて いるという評価がある 。他方で,火災をもたらした他の要因が優位にある 場合,あるいは他に有力な要因がある場合には,地震と火災との間の因果関 係が否定されることになる(③事件の指摘)。例えば,⑧事件のように不審 火による失火と疑う余地があるとして因果関係が否定されている。
以上のような近時の判決例の整理からすると,保険者免責条項の適用に関 する因果関係の存否の判断についてではあるが,裁判所は,保険者免責条項 の適用の主張に関してはそれを主張する保険者が因果関係を立証し, 通常 人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信 があれば相当性が認定される 民事訴訟における一般原則が用いられているようである 。
2 保険契約法における因果関係論の問題として
それでは,以上のような裁判所の態度に対して,陸上保険契約,とりわけ 28) 山下・前掲註22)118頁。
29) ⑤事件判決は,訴訟における因果関係の立証について,最判昭和50・10・24 民集29巻9号1417頁と同様の基準を採用している。さらに,最判平成12・7・
18判時1724号29頁。笠井正俊 訴訟上の証明 民事訴訟法判例百選[第三版]
(2003年)134頁以下,伊藤眞 民事訴訟法[第3版補訂版] 有斐閣(2005年)
301頁。他に,武田昌之 自動車損害賠償責任保険契約における相当因果関係 についての蓋然性の一局面−自動車事故損害賠償請求訴訟における相当因果関 係についての蓋然性概念の性格とその多様性− 倉沢=今泉=大谷編 保険の 現代的課題(鈴木還暦) 成文堂(1992年)411頁以下。
火災保険契約における保険者免責条項の適用にあたり,保険契約あるいは保 険制度の特質から因果関係論の再考を促す指摘ができるだろうか。
地震損害が火災保険契約の塡補範囲から除外される趣旨は,地震による損 害発生の蓋然性を測定することの困難さ,発生した損害が巨大であればそれ を塡補することは保険者には耐えられないこと,あるいは,そのような特別 危険を考慮して保険料が割高になることを通常の保険契約者はその意思とし て望んでいないことがあげられる 。そうであるとすると,保険制度におい ていわゆる地震損害を通常の火災保険契約の塡補範囲から明確に除外する必 要性があり,保険契約者の意思にもそのことが明確に認識されている限り,
地震免責条項は適切に適用されなければならない。そこで,以上のような地 震免責条項の趣旨は,その適用に際して判断される因果関係に何らかの影響 を与える可能性があるかを考えてみる必要がある。例えば,第3類型と呼ば れる免責条項の適用に関してではあるが,大地震による非常事態の中で火災 の延焼・拡大があれば,その延焼・拡大は当該地震と因果関係があると 一 応の推定 がなされるという意味で,保険者側の立証活動は著しく軽減され たと指摘されている 。また,そのことは⑨−1事件において保険者によっ て主張されたところでもあった。確かに,大地震による家屋の倒壊あるいは 倒壊物の散乱による出火そして延焼が発生することは,経験上想像に難くな い。だからといって,積極的に一般に,大地震が発生した場合には,一応,
地震による損害と推定し,被保険者側が地震を原因とする損害でないことを 立証すべきであるということにはならない。そのような 一応の推定 が働 くのは,それは保険制度ないし保険契約の特質からというより,地震あるい
30) 西島梅治 保険法〔第3版〕 悠々社(1998年)254頁。なお,岩崎・前掲註 20)59頁は 多くの立法例や約款が地震を戦争などの社会的変乱と一括して免 責事由に掲げている点から考えさせられるように,耐震建築物が増大している 今日においては,地震リスクの自然災害性よりも公共施設・社会資本の破壊・
麻痺がもたらす社会混乱性を地震損害免責根拠としてもっと重視すべきではな かろうか。 と指摘されていた。
31) 北河・前掲註11)215頁。
は大震災による社会的混乱状態と火災の発生またはその延焼・拡大との間に 因果関係が経験則から認められるということにすぎないと思われる。
さらに進んで, 地震にさいして発生した火災の大部分は地震に因って発 生したものといってよいし,また保険者が全機能を動員しても地震と損害と の因果関係を十分に立証することが困難であるから,地震・噴火などの非常 危険にかぎり因果関係の証明責任を被保険者に転嫁する約款の効力を認める べきであろう ,との見解もある。しかし,地震免責条項に該当しないこ と,すなわち地震と火災との間に因果関係がないこと,あるいは地震による 延焼ではないことの立証は,被保険者側にとっては保険者に立証責任を負わ せること以上に重荷ではないだろうか。やはり,地震免責条項の適用に際し てはその法律効果が有利に働く側である保険者がその因果関係を立証すべき であり,とりわけ家計保険としての火災保険契約に関する限り,そのような 負担を保険者に課しても酷ではないであろう 。
地震保険契約が別途用意され,火災保険契約と地震損害との関係が徐々に 一般に認識されてきている現在,少なくとも地震免責条項の適用にあたり判 断される因果関係の問題は, 相当因果関係 を事案に即して個別具体的に 判断されている。このことを陸上保険契約における因果関係論一般に敷衍す ることができるか否かは,訴訟上の理論的理解をも基礎にしたうえで,検討 を進めていかなければならない。
(筆者は東北学院大学教授) 32) 西島・前掲註34)257頁。現行約款改正前の約款において, 原因の直接であ
ると間接であるとを問わず,地震又は噴火によって生じた火災およびその延焼 その他の損害 については保険者はそれを塡補しない旨が規定されていた当時,
野津 務 地震免責約款の解釈 損害保険研究第34巻第3号(1972年)1頁以 下,19‑25頁においても,一応の推定が成立することを主張されていた。また,
北澤宥勝 火災普通保險論 文雅堂書店(1940年)354‑63頁。
33) それに対し,被保険者側は,⑧事件が典型的に述べているように,地震の発 生と火災の発生との時間的間隔の大きさ,あるいはその間の社会情勢の平穏化 による消火活動の様子を主張することでそれを覆すことができるともいわれる。
岡田・前掲註21)76頁。