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Title 日本における産業遺産の観光資源化プロセス : 地域社会における「空間の記憶」と「価値の消費」の次元か

ら [論文内容及び審査の要旨]

Author(s) 平井, 健文

Citation 北海道大学. 博士(観光学) 甲第13631号

Issue Date 2019-03-25

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/74399

Rights(URL) https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/

Type theses (doctoral - abstract and summary of review)

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File Information Takefumi̲Hirai̲review.pdf (審査の要旨)

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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1

学位論文審査の要旨

博士の専攻分野の名称:博士(観光学) 氏名:平 井 健 文

審査委員

主査 准教授 金 ソンミン 副査 教授 山 村 高 淑 副査 准教授 田 代 亜 紀 子 副査 北海道博物

館館長

石 森 秀 三

学位論文題名

日本における産業遺産の観光資源化プロセス

――地域社会における「空間の記憶」と「価値の消費」の次元から――

本論文は,日本における産業遺産の観光資源化プロセスを研究対象として,地 域社会という生活環境の観光資源化をめぐって生じる力学や社会的排除/包摂の メカニズムを,産業遺産の文化的価値の生産と消費のプロセスと,産業遺産の観 光資源化を通した社会的包摂の可能性を通じて検証したものである。具体的には 北海道の住友赤平炭鉱跡と,兵庫県の生野鉱山を中心とする産業遺産群の 2 つの 事例を取り上げ,集合的記憶の枠組みとして空間が機能するためには,その対象 に対して抽象化された意味づけが必要とされ,その意味づけが,それぞれの主体 が構築する価値や,資源化の実践を規定することを明らかにした。特に赤平にお ける地域社会内部に生じたコンフリクトの性格を開発言説としての観光,真正性 についての認識の差異,観光者とのコンタクトの不在という 3 点から説明し,一 方で主体間のコンフリクトが生じなかった生野においては, 「空間の記憶」の形成 と「価値の消費」の相互作用の重要性とそれを可能にした<愛好家>の実践に注 目することで,客観的な価値の伝達ではなく,空間/場所を体感すること,いわ ば観光の「事後性」の重要性と,学術的な知見に基づかない実践を通じて「価値 の序列化」を防ぐことの可能性について論じた。そしてそうした記述を踏まえ,

本研究の根本的な問題意識に立ち返り,産業遺産の観光資源化プロセスにおけ

る,広範な主体の社会的包摂の可能性について検討し,第 1 に,地域社会の多様

な住民層が直接的な経験を有する「生活」に基づく象徴性が, 「記憶の環境」に見

出される必要があること,第 2 に,こうした行為を促すためには,その空間/場

所に偶有性を持たせなければならないことをアートという手段を用いる観光資源

化の事例を通じて提示した。

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2

本論文は,社会的にも学術的にも注目が高まっているヘリテージスタディーズ 研究の系譜に位置づけられるものであるが,大きく以下の三点で優れた独自性や 新規性を有するものとして評価できる。

第一に,ヘリテージスタディーズにおけるオーセンティシティをめぐる議論に 明確な理論的枠組みを提示した点である。これまで文化遺産の保全やヘリテージ ツーリズムに関する議論は保全対象のオーセンティシティを狭く,固定化してと らえ,また関連するアクターも限定的に捉える傾向にあった。そうした中,ここ 数年来の観光研究における performance turn,authenticity のダイナミックな捉 え方に関する研究と,Halbwachs の「集合的記憶論」 ,Nora の「記憶の場」 「記憶 の環境」 ,Misztal の Dynamics of memory approach など社会学や歴史学分野での

「記憶」に関する議論,という二つの理論的枠組みの接合面を独自の観点で構築

することで, 「空間の記憶」形成プロセスという概念を軸に立て,多様な主体を包

摂する文化遺産価値のダイナミックな構築プロセスを説明することに成功してい

る。これは文化遺産を巡る理論と観光現場との乖離を架橋する,新たな枠組みで

あり,高いオリジナリティを有しているばかりでなく,社会的意義も高い貢献で

ある。第二に,社会学研究の可能性と方法論を大きく飛躍させた点である。社会

学分野の中でも,環境社会学など,現場での実践を重視する学術領域をきめ細か

くレビューしたうえで,調査手法としての質的調査の精度を徹底して高めること

で,実践的社会学における理論的フレイムワークを構築し,文化遺産を巡る現象

を詳細に記述する方法論として確立している点。理念的な議論に終始する傾向に

あった文化遺産をめぐる社会学をより実践的,経験的な学術領域へと進化させる

可能性を示した点は,きわめて高く評価できる。第3に,事例の資料的価値。事

例選択を適切に行ったうえで,赤平,生野といった,きわめて典型的な事例を抽

出し,これを非常に精緻で丁寧な現地調査を通して深堀,とりわけ地域社会に関

連するアクターの声をきめこまかく拾い上げていく手法によって,これまで明ら

かにされてこなかった地域社会をめぐる様々な力学を解き明かすことに成功して

いる。理論的研究をベースにしつつ,フィールドワークによって実証的にそうし

た理論を検証していくことにより,非常に質の高い論文になっており,高く評価

できる。一方で,審査委員会においては,本論文の限界性として,大きく以下の

三点について指摘がなされた。すなわち,第一に,タイトルにあるように「産業

遺産」の観光資源化プロセスについては,非常に緻密な調査を経て明解な結論を

得ているが,論文冒頭の問題意識にあるように広義の「文化遺産」の観光資源化

プロセスに対して,本博論で得た知見はどのように一般化できるのかという点に

ついては十分な説明がなされていない点である。第二に,「地域社会」 , 「ローカ

ルな場」という概念が一貫して本論文の重要な概念となっているが,それらの概

念の使用が厳密性に欠けている記述が見られた点である。第三に,本文中で文化

遺産の政治性,ポリティクスをめぐる議論,グローバル化に対する問題提起をし

ておきながら,分析においては,世界的な文化遺産保護の枠組み,潮流や,国の

法制度等,より上位の政治性を持つ流れ,グローバルな現象といった事項と,ロ

ーカルな現象との間の葛藤について,十分に触れられていない点である。

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このように,本論文は理論構築の面において,今後の課題をいくつか残してい る部分は否めない。しかしながら,本論文は博士論文として十分な水準を満たす 質を持つものであり,提示したデータならびに考察結果,理論的枠組みも,今後 のヘリテージスタディーズ研究ならびに近接する研究分野に新たな視座を先駆的 に提示したものとして,高く評価され得るものである。

以上を踏まえ,著者は,北海道大学博士(観光学)の学位を授与される資格が

あるものと認める。

参照

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