論文内容の要旨
近年,産業活動の活性化および生活様式の変化などに伴い,河川や湖沼などにおける水 質汚濁が深刻化している.このため,水域環境の保全と回復が望まれており,水質汚濁状 況の把握を目的として,定期的な水質調査が実施されている.一般的に行われている水質 調査は,対象となる水域から直接採水し,これらを分析する方法が用いられている.しか しながら,この方法では局所的な水質データは得られるものの,調査水域が広域である場 合,目的とする水域全般の水質分布を推定することは困難である.このため,広域性・周 期性などに優れた特徴を有するリモートセンシングデータを用いた水質分布の解析が行わ れている.
一方,リモートセンシングデータを用いて水質状況解析を行う場合,回帰モデルの利用 が一般的である.しかしながら,確率論に基づいた回帰分析を解析手法として用いるため には,数多くの観測データを用いないと良好な解析結果を得ることは困難になる場合が多 い.また,多数の水質データを取得できたとしても,リモートセンシングデータには各種 外乱(大気効果,水面効果,計測系のノイズなど)やセンサの地上分解能に起因するあい まいさが包含されている.
そこで本論文では,八郎湖の水質状況を対象として,リモートセンシングデータに含ま れるあいまいさを考慮したファジィ回帰分析およびファジィ重回帰分析を用いる解析手法 を提案し,工学上の進歩に寄与することを目的とする.すなわち,さまざまなセンサから
氏 名(本籍) 王 徳健(中国)
専攻分野の名称 博士(工学)
学 位 記 番 号 工博甲第213号 学位授与の日付 平成26年3月22日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当
研 究 科 ・ 専 攻 工学資源学研究科(電気電子情報システム工学)
学 位 論 文 題 名 リモートセンシングデータを用いた八郎湖の水質状況推定に関 する研究
論 文 審 査 委 員 (主査)教 授 景山 陽一
(副査)教 授 西田 眞 (副査)教 授 五十嵐 隆治 (副査)教 授 水戸部 一孝
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取得されたデータを用いて,より詳細な水質状況解析アルゴリズムを開発することを目的 とする.本論文の内容は,①ファジィ回帰分析を用いた水質状況推定,②能動型センサの テクスチャ情報を用いた水質状況推定,③ファジィ重回帰分析を用いた水質状況推定に関 する検討から構成されている.
第一に,ファジィ回帰分析を用いたALOS AVNIR-2データによる水質状況の推定を行い,
水質状況の経時変化に関する検討を加えた.従来研究では,ランドサット衛星の TM セン サから取得されたデータを用いて解析を行った.しかしながら,TMデータの地上分解能は 30 メートルであるため,得られた有効な解が少なく,詳細な水質状況を分析することが困 難であった.そこで本論文では,地上分解能が10メートルであるAVNIR-2データと同期 する水質データを用いて,ファジィ回帰分析を行い,あいまいさを考慮した解析を行った.
次に,ファジィレベルスライス処理より,水質解析結果を出力し,水質分布図を作成した.
さらに,8月と9月に取得されたAVNIR-2データによる結果との比較を行い,水質状況の 経時変化に関する検討を行った.その結果,TMデータによる結果と比較し,有効な解が増 えることを明らかにした.また,提案手法は,リモートセンシングデータを取得した時点 の水質状況を解析可能にするとともに,水質の経時変化も把握できることが示された.
第二に,JERS-1 SARデータおよびALOS PALSARデータのテクスチャ情報を用いた八 郎湖の水質状況の解析手法に関する検討を加えた.ALOS衛星のAVNIR-2センサは受動型
(光学)センサであり,雲がある場合や夜間において,地表から反射される太陽光が検知 できないため,受動型センサによる解析は不可能である.そこで本論文は,気象条件や昼 夜に関係なく,地表を観測可能な能動型センサであるJERS-1 SARとALOS PALSARを 用いた解析手法を提案した.具体的には,レベルスライス処理によりリモートセンシング データを階調変換し,テクスチャ特徴量を算出した.次に,算出したテクスチャ特徴量と 水質データを用いてファジィ回帰分析による解析を行った.さらに,ファジィレベルスラ イス処理により,水質解析結果を出力し,水質分布図を作成した.解析結果は,実際の水 質状況や専門家の知見と一致しており,受動型(光学)センサよりデータの取得できない 期間の水質情報を補完する手法として有用であることが示された.
第三に,ファジィ重回帰分析を用いた水質状況推定に関する検討を加えた.ファジィ回 帰分析では,リモートセンシングデータに対して一つの特徴量(水質データ)のみを考慮 しているため,対象とするバンドデータや水質データによっては,解析が困難となる場合 を認めた.そこで本論文では,AVNIR-2データを用いて,ファジィ重回帰分析による水質 状況解析手法を提案した.ファジィ重回帰分析では,リモートセンシングデータに対して 二つの特徴量(水質データとバンドデータ)を考慮できるため,ファジィ回帰分析と比較 し,より詳細な水質状況の解析が可能である.その結果,ファジィ回帰分析による結果と 比較し,ファジィ重回帰分析による有効な解が増えることが明らかになった.また,同じ バンドデータと水質データを用いた条件下においても,より詳細な水質状況を推定できる ことが示された.
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以上の成果は,本論文で用いた解析手法が八郎湖の詳細な水質状況推定に寄与すること を示唆している.
論文審査結果の要旨
近年,河川や湖沼などにおける水質汚濁が深刻化しており,その状況把握を目的として,
定期的な水質調査が実施されている.一般的な水質調査法としては,対象となる水域から 直接採水し,得られたサンプルを分析する方法が採用されている.しかしながら,この方 法で得られる水質データは局所的であり,対象地域全般の水質状況を推定することは困難 である.
一方,広域性・周期性などに優れた特徴を有するリモートセンシングデータを用いて水 質状況を解析する場合,回帰モデルの利用が一般的である.しかしながら,確率論に基づ いた回帰分析を解析手法として用いたとき,数多くの水質データを用いないと,良好な解 析結果を得ることは困難になる場合が多い.また,リモートセンシングデータには,各種 外乱やセンサの地上分解能に起因するあいまいさが包含されている.
そこで本論文では,八郎湖の水質状況を対象として,リモートセンシングデータに含ま れるあいまいさを考慮したファジィ回帰分析およびファジィ重回帰分析を用いる解析手法 を提案し,工学上の進歩に寄与することを目的とする.本論文の内容は,(1)ファジィ回帰 分析を用いた水質状況推定,(2)能動型センサのテクスチャ情報を用いた水質状況推定,(3)2 つの特徴量を考慮可能なファジィ重回帰分析を用いた水質状況推定に関する検討から構成 されている.本論文は全5章より構成されている.
第 1 章を緒論とし,ここでは本研究の背景とその目的を述べ,本研究に対する筆者の立 場を明らかにした.さらに,本論文の主題であるリモートセンシングを用いた水質解析に ついて,現在までの研究状況を概観するとともに,本研究の内容について述べた.
第2章では,あいまいさを考慮可能なファジィ回帰分析を用いたALOS AVNIR-2データ による水質状況の推定を行った.さらに,8月と9月に取得されたAVNIR-2データを用い て水質状況の経時変化に関する検討を行った.その結果,提案手法はデータ取得時におけ る水質状況を解析可能にするとともに,水質の経時変化も把握できることが示された.
第3章では,気象条件や昼夜に関係なく,地表を観測可能な能動型センサであるJERS-1 SAR とALOS PALSAR データのテクスチャ情報を用いた八郎湖の水質状況の解析手法を 提案した.具体的には,レベルスライス処理によりデータを階調変換し,テクスチャ特徴 量を算出した.次に,算出したテクスチャ特徴量と水質データを用いてファジィ回帰分析 を行い,ファジィレベルスライス処理により水質分布図を作成した.解析結果は,実際の 水質状況や専門家の知見と一致しており,受動型(光学)センサによるデータの取得でき ない期間において,水質情報を補完する手法として有用であることが示された.
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第 4 章では,ファジィ重回帰分析を用いた水質状況推定法を提案した.ファジィ重回帰 分析では,2つの特徴量(水質データとバンドデータ)を考慮できるため,ファジィ回帰分 析と比較し,詳細な水質状況の解析が可能である.実験の結果,ファジィ回帰分析による 結果と比較し,ファジィ重回帰分析による有効な解が増えることが明らかになった.また,
同じバンドデータと水質データを用いた条件下においても,より詳細な水質状況を推定で きることが示された.
第 5 章は結論で,本研究で得られた主な成果と本論文の工学的意義および今後に残され た課題について述べている.
以上のように本論文で得られた成果は,リモートセンシングデータを用いた解析手法の 開発と,環境変化のモニタリングの研究に対し重要な指針を与えるもので,工学的に寄与 するところが大きい.よって,博士(工学)の学位論文として十分価値あるものと認めら れる.
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