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速度および膝関節との関連性の検証

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(1)

速度および膝関節との関連性の検証

著者 渡部 峻, 山本 敬三, 安田 智哉

雑誌名 北翔大学北方圏生涯スポーツ研究センター年報

巻 11

ページ 89‑95

発行年 2020

URL http://doi.org/10.24794/00003318

(2)

北翔大学北方圏生涯スポーツ研究センター年報 第11号 2020

Bulletin of the Northern Regions Lifelong Sports Research Center Hokusho University Vol.11

投手の投球動作におけるストライド幅の操作と投球速度および膝関節との関連性の検証

Verification of the Relationship Between Stride Width Operation, Ball Velocity and Knee Joint in Pitching Motion

渡   部       峻 山   本   敬   三 安   田   智   哉

WATANABE Shun YAMAMOTO Keizo YASUDA Tomoya

(3)

─  ─89

Ⅰ.緒言

 野球投手はボールを打者に直接投じるという性質上,

最もボールに触れる機会の多いポジションだと考えられ る。投手は様々な球種を駆使して,打者を打ち取ること が求められる。先行研究では,投球速度は投手において 重要な要素であると述べている1)。投球動作は,踏み込 み足が接地した後,腰,肩,肘,手首そして,ボールの 順に各部位の速度のピークが時間的にずれながら増加す

2)3)4)。いわゆる運動連鎖によって成り立つ5)。そ

のため,最終的にボールを握っている手部の速度をどれ だけ高くできるかが,投球速度を決定する要因になると 考えられる。投球動作について,ボールへ伝えられるエ ネルギーの多くは手関節の関節パワーに起因しており,

そのパワーは体幹や肩関節の運動によって生み出される エネルギーの影響を受けると考えられている6)。また,

投球側の肩関節が最大外旋した時点から投球方向に加速 してからリリースまでの加速局面における体幹の回旋動 作は踏み込み足の床反力によって生じる。この踏み込み 脚に作用する床反力は,軸脚の股関節・膝関節・足関節 の各部が生成したモーメントの総和によって生み出され るものであると複数の先行研究でいわれている7)8)9)

10)。よって,下肢の動作は,体幹の回旋動作および捻転 動作に関係し,投球速度へ影響することから指導上の着 眼点として重要性が指摘されてきた11)12)13)14)15)。さらに,

Mutoら(2016)によるとステップ幅は,野球の投球の 重要な要素であり,ステップ幅の長さは踏み込み足への 荷重,投球速度への影響を及ぼすことからステップ幅を 変更することは,コーチやトレーナーから頻繁にアドバ

イスされる選択肢の1つと述べている16)。先行研究にお いては,投手のステップ幅は投球毎の変動性が少ないと いう研究報告がある7)9)。また,Crotinら(2015)によ ると,疲労度をモニタリングしてステップ幅を変化させ た研究では,ボール速度に影響はなかったと述べている

17)。一方,大室ら(2013)はステップ幅が投球速度に与 える影響を調べ,各被験者が最大の投球速度を記録した 試行のステップ幅は身長の86%であったことを示した。

また,広いステップ幅に対して,狭いステップ幅では投 球速度が低下する傾向にあると述べられ,ステップ幅が 投球速度に影響を及ぼす可能性を示している18)。投球速 度の向上に関する調査研究で,松尾ら(2010)では,指 導者や選手への聞き取り調査から「踏み込み足接地から ボールリリースまでにかけての踏み込み足への荷重」が 重要であると述べられている12)。また,投球速度が大き い投手はストライド中のみならず着地後もピボット足

(軸脚)と踏み込み足の両方に十分な荷重をしていたこ とが報告されている19)20)21)。これらの知見から運動連 鎖により,下肢から体幹,上肢と順にエネルギーが伝わ ることで投球動作は成り立っていると言える。さらに,

投球速度の向上の為には体幹の回旋運動や踏み込み足へ の荷重が重要であることも述べられている。また,ステッ プ幅に関する先行研究においてはステップ幅の長さによ り投球速度は変化しない、あるいは広いステップ幅に対 して,狭いステップ幅では投球速度が低下する傾向があ るなど異なる結果が混在している。そのうえ,ステップ 幅を変更することで,踏み込み足の各関節への負荷が変 化すると考えられるが,ステップ幅の変化が各関節に与 える影響については未解決である。本研究では,ステッ プ幅を変化させた際の各関節の負荷を関節モーメント

投手の投球動作におけるストライド幅の操作と投球速度および膝関節との関連性の検証 Verification of the Relationship Between Stride Width Operation, Ball

Velocity and Knee Joint in Pitching Motion

渡 部   峻

1)

  山 本 敬 三

1)

  安 田 智 哉

2)

WATANABE Shun

1)

  YAMAMOTO Keizo

1)

  YASUDA Tomoya

2)

キーワード:投球速度,ストライド幅,膝関節モーメント

1)北翔大学生涯スポーツ学部スポーツ教育学科 2)北翔大学硬式野球部学外コーチ

(4)

投手の投球動作におけるストライド幅の操作と投球速度および膝関節との関連性の検証

(以下,M)で評価することとした。そこで,本研究の 目的は野球投手の投球動作中のステップ幅を変化させ,

投球速度,踏み込み足の床反力,踏み込み足の股関節・

膝関節の伸展・屈曲Mおよび足関節の底屈・背屈Mへ 及ぼす影響を調査することとした。本研究では,次の2 つの仮説を立てた。ステップ幅を意図的に変更させるこ とで,①踏み込み足への床反力が変化し,投球速度に影 響を及ぼす。②踏み込み脚の膝関節モーメントに影響を 及ぼす。

Ⅱ.方 法

 被験者は大学1部リーグのチームに所属するオーバー スロー投手10名(右投げ8名,左投2名,身長:1.75±

0.04m, 体 重:74.2±7.0 ㎏, 投 球 速 度125.9±5.8km/h)

とした。被験者には,事前に本研究の目的や計測内容,

測定時の危険性について説明し,書面にて実験参加の同 意を得た。被験者には,投球練習を含む十分なウォーミ ングアップを実施させた。実験室内にて,最大努力の直 球投球動作を課した。さらに各条件の計測前に5~6球 の練習を実施した。(規定したステップ幅に慣れるため)

トータルで約40球を課した。被験者の疲労によって球速 の低下や投球動作の変化が起こらぬよう,計測試技は各

条件1球とした。各条件間には5~6球の練習を課した。

実験試技は,通常のステップ幅を1球目とし,+ 5cm,

+10cm,+15cm,- 5cm,-10cm,-15cm条件の順に行っ た(表1)。投球時には,床反力計上にテープで目印を 示し,踏み込み足のつま先を目印に合わせて接地する様 に指示した。指示したステップ幅で違和感なく投球でき ることを被験者に確認した後に,各試技1球ずつ計測し た。その際,測定者が目視にて指定した通りに接地でき ているかを確認し,不十分な場合は再度同じ条件で試技 を行った。指定した1条件につき5球やり直しても既定 のステップ幅にならなかった条件では,被験者や試技ご とに投球数の差が生まれ,疲労の影響が出ないようにす るため,指定したステップ幅に最も近い試技を分析対象 とした。また,実際にマウンド上で行う投球動作と同じ ように動作を実施できたかどうかは各被験者への計測後 の聞き取りにより確認をした。

  動 作 計 測 で は 光 学 式 3 次 元 動 作 分 析 装 置

(MAC 3D,Motion Analysis社製,サンプリング周波数 500Hz, 赤外線カメラ12台Raptor-E)と2台の床反力計

(BP6001200, AMTI社製,サンプリング周波数1kHz)

を用いた(図1)。マーカーセットは,主に下肢の運動 力学的解析に用いられる,ヘレンレイズマーカーセット を使用した22)。赤外線反射マーカーを前頭部,頭頂部,

表1 試技ごとのステップ幅条件

実測したステップ幅(cm)/指示したステップ幅(cm)

試技順 通常 (+)5 (+)10 (+)15 (-)5 (-)10 (-)15

被験者A 131/131 138/136 144/141 148/146 128/126 120/121 115/116

被験者B 139/139 148/144 146/149 154/154 135/134 132/129 131/124

被験者C 133/133 139/138 144/143 148/148 128/128 121/128 116/118

被験者D 142/142 147/147 158/152 155/157 138/137 138/132 137/127

被験者E 150/150 156/155 157/160 163/165 148/145 142/140 138/135

被験者F 174/174 174/179 181/184 186/189 177/169 173/164 169/159

被験者G 147/147 149/152 155/157 156/162 142/142 131/137 127/132

被験者H 144/144 148/149 153/154 156/159 141/139 138/134 138/129

被験者I 126/126 134/131 140/135 140/140 130/121 122/116 122/111

被験者J 141/141 145/146 152/151 156/156 136/136 132/131 132/126

図1 光学式3次元動作分析装置および床反力計

(5)

─  ─91 後頭部,左右肩峰,肩甲⾻下角,左右上腕⾻の外側上顆,

左右橈⾻と尺⾻の遠位端の中間位置,左右上前腸⾻棘

(ASIS),左右上後腸⾻棘(PSIS),仙⾻,左右膝関節の 内外側(膝関節裂隙より2cm上方の高さで前後1/ 2 と1/ 3の中点),左右足関節外果突起,左右足関節内果,

左右第2中足⾻⾻頭,左右踵部,左右の大腿部の外側,

および左右下腿部の外側の全身31カ所に貼付した(図 2)。使用球は大学野球硬式試合球を用い,ボールに2 点マーカーを貼付し,ボールの中心座標を求め,投球速 度を算出した(図3)。

 データ処理では,動作分析ソフトウェア(Visual 3D,  C-motion社製)を用いた。ローパスフィルター処理で はバターワース型ローパスフィルターを用い,遮断周波 数マーカー座標は6Hz,床反力データは18Hzとした。

遮断周波数については,Winter23)の技術報告に示され た残差分析法を用いて決定した。

 身体を13セグメント(頭,体幹,上腕,前腕,⾻盤,

大腿,下腿,足)の剛体リンクモデルと仮定した。各セ グメントの重心位置に3次元の局所座標系を設定し,6 自由度を与えた24)。実験室座標系は,鉛直上向きをZ軸,

投球方向軸をY軸,Z軸とY軸と垂直な方向をX軸と定 義した。

 ステップ幅は,踏み込み足挙上時(踏み込み足の膝外 側上顆と膝内側上顆のマーカーから膝の関節中心を算出 し,その算出した点が最も上昇したとき)における軸脚 の腓⾻外果マーカー座標から踏み込み足接地時における 踏み込み脚第2中足⾻⾻頭マーカー座標までの距離と定 義した。本研究では,各被験者の通常ステップ幅を基準 値として,それぞれの条件下でのステップ幅をこの基準 値で除し,正規化した。

 ボールリリースの定義として,左右橈⾻と尺⾻の遠位 端の中間位置に貼付されたマーカー座標とボール中心座 標の距離が0.25mを超えた時点とした。上記0.25mの算 出根拠は,投球腕側の橈⾻と尺⾻の遠位端の中間位置に 貼付したマーカーから中指の先端までの平均距離0.22m

±0.01とボールの半径0.03mを加算した距離が0.25mで あったことによる。

 仮説の検証のため,以下のデータを求めた。ボールリ リース時のボール速度(以下,投球速度),重心(COG)

の鉛直方向成分落下量(踏み込み足が最も上がった時点 からリリースまでの差),踏み込み足に作用する床反力 の2成分(鉛直方向成分・前後方向成分)の最大値,踏 み込み足に作用する合成床反力の力積,踏み込み足の股 関節・膝関節伸展・屈曲M,足関節底屈・背屈Mを求 めた。関節Mは逆動力学的解析によって算出された。

 体幹の回旋速度(角速度)については,実験室座標系 に対する体幹セグメントの水平回旋速度・垂直回旋速度 として求めた。

 統計処理では,得られた変数の平均値と標準偏差を求 めた。ステップ幅と投球速度,踏み込み足に作用する床 反力鉛直成分・前後方向成分,力積および膝関節伸展・

屈 曲Mの 相 関 関 係 を 調 べ る た め にMicrosoft Excel

(Ver.16)を用いてピアソンの積率相関係数分析を行っ た。有意水準は5%未満とした。相関係数の解釈では,

0~ 0.25を相関なし,0.25 ~ 0.50を弱い相関あり,0.50

~0.75を相関あり,0.75~1.0を強い相関ありとした。

Ⅲ.結 果

 全70試技の平均投球速度は102.5±8.6㎞ /hであった。

各条件の平均投球速度は通常が102.5±10.5㎞ /h,+5 cmが 102.1±9.4㎞ /h,+10cmが103±8.4㎞ /h,+15cmが102.1±

8.4㎞ /h,-5 cmが101.2±7.1㎞ /h,-10cmが101.8±8.9㎞ / h,-15cmが104.5±7.5㎞ /hであった。

 次に図4にステップ幅と投球速度の関係を示した。ス テップ幅と投球速度との間に,有意な相関関係は認めら れなかった(r =-0.12,p=0.29)。 

図2 使用マーカセット

図3 使用球(両側にマーカーを2点貼付)

(6)

投手の投球動作におけるストライド幅の操作と投球速度および膝関節との関連性の検証

 図5にステップ幅と踏み込み足における床反力鉛直方 向成分の最大値との関係を示した。ステップ幅と踏み込 み足における床反力鉛直方向成分の最大値との間に,有 意な相関関係は認められなかった(r =0.07,p=0.51)。

ステップ幅と床反力前後方向成分の最大値との間に有意 な相関関係は認められなかった(r =0.02,p=0.86)。さ らに,ステップ幅と床反力合成成分の力積との間に有意 な相関は認められなかった(r=-0.01,p=0.90)。

 また,ステップ幅と重心(COG)の落下量との間に は相関関係は認められなかった(r =0.23,p=0.04)。図 6にステップ幅と踏み込み足の膝関節屈伸Mの関係を 示した。ステップ幅と踏み込み足の膝関節屈伸Mとの 間に有意な相関関係は認められなかった(r =0.125,

p=0.30)。さらに,ステップ幅と股関節屈伸Mとの間に 有意な相関関係は認められなかった(r =0.20,p=0.09)。

ステップ幅と足関節屈伸Mとの間に弱い正の相関関係 が認められた(r =0.26,p=0.02)。

 ステップ幅と体幹の水平回旋速度(角速度)との間に 有意な相関関係は認められなかった(r =0.05,p=0.67)。

ステップ幅と体幹の垂直回旋速度(角速度)との間に有 意な相関関係は認められなかった(r =0.14,p=0.24)。

Ⅳ.考 察 1.ステップ幅と投球速度の関係

 全70試技の投球速度は102.5±8.6㎞ /hであった。本研 究の被験者は大学1部リーグに所属しているチームの投 手であり,本研究の被験者のマウンドでの投球速度は,

平均で125.9 km/hであり,大室ら(2013)の被験者(123.5  km/h)18)および蔭山ら(2015)の被験者(127.1 km/h)25)

と同程度であることから,被験者の競技レベルとしては 同程度であるといえる。蔭山ら(2015)は,マウンドを 使用した際の投球速度と平地での投球速度を比較した結 果,マウンドを使用した際の投球速度は平地と比べて有 意に高いことを報告している26)。研究も平地での試技で あったことが,本研究結果が示す低い投球速度の主要因 であると考えらえるが,加えて床反力計測のためにスパ イクを使用できなかったことも低い投球速度の要因とし て考えられる。しかし,被験者への聞き取りにおいて投 げにくさや明らかに普段の感覚と異なるという意見はな かったため,本研究の計測データを採用し,分析を行っ た。

 ステップ幅とリリース時の投球速度の間に有意な相関

図4 ステップ幅と最大速度(球速)の関係

横軸ステップ幅は各被験者の1投目(通常ステップ幅)を1として正規化した値

図5 ステップ幅と床反力鉛直方向成分最大値の関係

横軸ステップ幅は各被験者の1投目(通常ステップ幅)を1として正規化した値

(7)

─  ─93 関係は認められなかった(図4)。この結果は,意図的 にステップ幅を変化させても,投球速度には影響を及ぼ さないことを示唆している。Crotinら(2015)の報告で は疲労の影響をモニターしながらステップ幅を変化さ せ,投球速度への影響を調査しており,両者に有意な相 関関係は認められなかった17)と述べられている。本研 究でも同様な結果を得た。

 本研究では,ステップ幅の意図的な変化と踏み込み足 の床反力鉛直方向成分との間に有意な相関関係が認めら れなかった(図5)。さらに,体幹の動作における加速 局面での股関節・膝関節・足関節の合計の関節モーメン ト(以下,M)の発揮によって発生した床反力の影響に よる体幹の回旋運動が投球速度を高めると報告されてい

7)8)9)10)ことからステップ幅と体幹の水平回旋速度(角

速度)の相関係数(r=0.05,p=0.67),ステップ幅と体 幹の垂直回旋速度の相関係数(r=0.14,p=0.24)を求 めたが,有意な相関関係は認められなかった。

 したがって,Crotinら(2015)の先行研究17)を力学 的な観点から支持する結果と考えられた。また,ステッ プ幅を変化させても投球速度は変わらないことから試合 の中で,ピッチャーマウンドの掘れ具合やグラウンドコ ンディションなどによる変化・状況により,ステップ幅 を変更しても投球速度パフォーマンスには影響しない可 能性も示唆された。しかし,本研究では実際のピッチャー マウンドの傾斜を利用した計測ではないため,その点に ついては十分に考慮すべき点でもあると考えられる。ま た,本研究では指示したステップ幅が広いほどステップ 幅の統制が困難であった。そのため,予想していたステッ プ幅よりも狭い範囲での変化になってしまった。本研究 のステップ幅の変化は,大室ら(2013)18)のステップ 幅と比較して小さな変化であったため,投球速度に与え た変化も小さく,関連性が認められなかった要因として 考えられる。

2.ステップ幅と踏み込み足の床反力との関係

 ステップ幅と投球速度の関係性が確認できなかった要 因として,先行研究において下肢に作用する床反力が体 幹の回旋動作および捻転運動に関係し,投球速度へ影響 することが指摘されている11)12)13)14)15)。そこで,床反 力の変化について検証を実施した。ステップ幅と踏み込 み足の床反力鉛直方向成分最大値との間には有意な相関 関係は認められなかった(図5)。また,ステップ幅と 床反力前後方向成分の最大値との間にも有意な相関関係 は認められなかった(r=0.02,p=0.86)。この結果は,

ステップ幅の変更が踏み込み足の床反力鉛直方向成分お よび床反力前後方向成分に影響を及ぼさないことを示唆 している。ステップ幅と床反力の大きさとの間に関係性 が確認できないことから,本研究では,ステップ幅の変 化により,踏み込み足への床反力が変化し,投球速度に 影響を及ぼす仮説を立てたが棄却された。

3 .ステップ幅と踏み込み足に作用する床反力の力積の 関係

 松尾ら(2010)は,投球速度の向上には,「踏み込み 足接地からボールリリースまでにかけての踏み込み足へ の荷重と下肢の動作の重要性」を指摘している12)。よっ て,ステップ幅と踏み込み足に作用する力積の関連を検 証した。ステップ幅と踏み込み足の合成床反力の力積に は 有 意 な 相 関 関 係 は 認 め ら れ な か っ た(r=-0.01,

p=0.9)。この結果は,ステップ幅を変更しても踏み込み 足の合成床反力の力積に変化を及ぼさないことが示唆さ れた。

4 .ステップ幅と踏み込み足膝関節伸展・屈曲Mの関 係性

 ステップ幅と踏み込み足の膝関節伸展・屈曲M最大 値の間には,有意な相関関係は認められなかった(図6)。

この結果は,ステップ幅と膝関節の伸展・屈曲Mに影

図6 ステップ幅と踏み込み足膝関節伸展・屈曲Mの関係

横軸ステップ幅は各被験者の1投目(通常ステップ幅)を1として正規化した値

(8)

投手の投球動作におけるストライド幅の操作と投球速度および膝関節との関連性の検証

響が認められないこと示唆している。本研究の仮説のひ とつとしてステップ幅が膝関節の伸展・屈曲Mへ影響 を及ぼすと考えられたが棄却された。さらにステップ幅 と股関節伸展・屈曲Mとの間に有意な相関関係は認め られなかった(r=0.20,p=0.09)。ステップ幅と足関節 伸展・屈曲Mとの間には弱い正の相関関係が認められ た(r=0.26,p=0.02)。この結果は,ステップ幅の変化 が踏み込み足の床反力に影響を及ぼさなかったためと考 えられた。踏み込み足の足関節においては弱い正の相関 が認められたが,相対的にステップ幅との間に力学的変 化が少ないことが示唆された。したがって,ステップ幅 を意図的に長くすることや短くすることにより,各関節 への負担度すなわち関節モーメントには大きな影響を及 ぼさない。この知見は,障害予防の観点から有益なもの だといえる。

4.研究の限界と今後の課題

 計測実験に関して,測定者が指示したステップ幅と被 験者の実際のステップ幅が一致しないことが多くみられ た(表1)。理由として,指定した1条件につき5球や り直しても既定のステップ幅にならなかった条件では,

被験者や試技ごとに投球数の差が生まれ,疲労の影響が 出ないようにした。そのため,指定したステップ幅に最 も近い試技を分析対象としたことが考えられる。被験者 への指示方法や条件設定を工夫する必要がある。また, 各ステップ条件での動作計測が1試技のみであったた め,条件毎の動作の再現性については検証できなかった。

 今後の課題は,計測方法を再検討し,条件毎の動作の 再現性についても検証を実施する。

Ⅴ.まとめ

 本研究から以下の知見がみられた。

1 )ステップ幅と投球速度(球速)の変化に有意な相関 は認められなかった。

2 )ステップ幅と踏み込み足の床反力鉛直方向成分・前 後方向成分の最大値に有意な相関は認められなかっ た。

3 )ステップ幅と踏み込み足の合成床反力の力積に有意 な相関は認められなかった。

4 )ステップ幅と踏み込み足の股関節・膝関節伸展・屈 曲Mに有意な相関が認められなかった。ステップ幅 と足関節底屈・背屈Mとの間には有意な弱い相関が 認められた。

付記

 本研究は,2020年度北方圏生涯スポーツ研究センター・

センター選定事業として実施した。 申告すべき利益相反 状態はない。

引用文献

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(参照2021-03-05)

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動作に着目して.体育学研究,61:517-535, 2016

抄録

 本研究の目的は野球投手の投球動作中のステップ幅を 変化させ,投球速度,踏み込み足の床反力,踏み込み足 の股関節・膝関節の伸展・屈曲Mおよび足関節の底屈・

背屈Mへ及ぼす影響を調査することとした。被験者は 大学チームに所属する投手10名(右投げ8名,左投げ2 名, 身 長:1.75±0.48m, 体 重:74.2±7.0 ㎏,M±SD)

とした。実験室内にて,最大努力の直球投球動作を7試 技課した実験試技は,通常のステップ幅を1球目とし,

+ 5 cm,+10cm,+15cm,- 5 cm,-10cm,-15cm条 件の順に行った。動作計測では光学式3次元動作分析装 置(サンプリング周波数500Hz)・カメラ12台と2台の床 反力計(1kHz)を用い,ヘレンヘイズマーカーセット を適用した。統計処理では,得られたデータの平均と標 準偏差を求めた。仮説の検証のため,相関分析を行った。

有意水準は5%未満とした。その結果,本研究から以下 の知見がみられたステップ幅と球速の変化の有意な相関 は認められなかった。ステップ幅と踏み込み脚の床反力 鉛直方向成分の最大値および合成床反力の力積との有意 な相関は認められなかったステップ幅と踏み込み足の膝 関節伸展・屈曲Mとの有意な相関が認められなかった。

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参照

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