8 0
山形県温海町摩耶 山西方の新第三系 ( 関川層)
山 野 井 徹 *
1. は じ め に
摩耶山 は,その山頂付近か ら東側 の斜面 は,花 尚 岩類 より構成 され るが,西側 の山麓一帯 は,新第三 紀 の関川層 (安山岩質 の火砕岩 を主体 とし,その中 に頁岩層が爽 まれ る)か らなってい る。 本報告 はこ の関川層が,いっ,どのように してで きたか につ い て現地調査,な らびに花粉化石 の組成か ら検討 した もので あ る。 そ の結 果 ,関 川 層 は ,古 く と も,
1 , 9 0 0
万年 よ り後 に,急 激 に生 じた大 地 の割 れ 目 (断裂) にで きた深 い湖 の堆積 物 で あ り,そ の湖 は 約上6 0 0
万年前 に始 ま る海進 で ,海 に変 わ るまで続 いていた ことが推定 された。 こうした大地 の割れ 目 は,日本列 島が大陸か ら分離 してい く際 に,引 っ張られて生 じた裂 け目であると理解 され る。 第1図 花粉分析用試料採取区域
2 .
地 質摩耶山西方 の地質 につ いて は,田宮 はか
( 1 9 7 3 )や山野井 ( 1 9 9
1) の図幅調査 にその記述 が あ る のみで,とくに,この地区を取 り上 げた研究 の報告 はない。今回筆者が花粉分析 を行 な う対象 と し た地層 は,摩郡山西方 の,小国JlLと流 の新第三系である。 ここの新第三系 は,田宮 はか( 1 97 3)
に よれば,中新世中期 の関川層であ り,この累層 は,さ らにS K ‑ 1
部層,S K ‑ 2
部層 に細分 されている。 山 野井( 1 9 9
1) はこの区域 の地層を三分 しているが,表層地質的な観点であるので,本報告 で は田宮ほか
( 1 9 7 3 )の関川層 の名称 を使用す る
。小国川上流の関川層 は,最下部 は摩耶山を構成す る花尚岩質 の岩体を不整合 に覆 っている。 不整 合面 は凹凸が大 きく,その上 に花園岩質 の基底磯やアル コーズ砂岩がの っている。 これ らは,薄 い
*山形大学教養部地学教室
山形県温海町摩耶山西方の新第三系(関川層)
81
か,あるいは発達せず,安山岩質 の火砕岩 におおわれ る。安山岩質 の火砕岩 は同質 の不淘汰 な岩塊 で暗青灰色を呈 し,硬 い。安山岩片 は数10cm〜数cm以下 の もの と様 々であるが,一般 に上 位層 ほど 細粒 になる傾向がある。 こうした安 山岩質 の火砕岩 の間 に貢岩層が1‑数10mの厚 さで爽 まれて く る。 この頁岩 は粘土〜 シル ト粒子 か らな り,黒色〜灰色 あるいは青灰色 を呈 し,硬 いが,数mm〜
数cmの厚 さの薬理 に沿 って割れやす い。 このよ うな岩質 の関川層 は上位で はやや軟質 になる。
3 .
花 粉 分 析花粉分析用の試料 は,第2図
C
に示す地点の頁岩層 よ り採取 した。採取地点 の間隔 はMY14とMY‑5 の間が,他地点 よ り開いて しまった。 ここは,火砕岩が主体であ り,分析 に適 す る泥質 な試料 が得られなか ったためである。 採取 した試料 は室内で乾燥後 ,粉砕 し
,6 0
メ ッシュで節分 した。 その後, 弗化水素酸,王水,アセ トリシス処理 を行 ない,塩化亜鉛溶液 にて比重分離 を して花粉化石 を濃集した。 このように して得 られた残漆 は,グ リセ リンゼ リーでプ レパ ラー トに封入 した。検鏡 は,そ れぞれの試料 につ き,まず全花粒子100個体 を鑑定 し,そ の後 マツ科 を除 く花粉,200個体 を鑑定 し た。 その結果 は,各地点 ごとの花粉化石 の組成 (百分率) として第3図に表わ した。以下 に, 産 出 す る花粉化石 の特徴 を述べ るが,MY‑1か らMY‑4地点 までを関川層下部,MY‑5か らMY‑9までを,関川層 上部 の もの として扱 いたい。
本地域 の関川層全般 を通 じて多産す る花粉化石 は
Li qui damb ar
(フウ),E.Que r c us
(常緑 カシ),C ar y a (
カ リヤグル ミ),Ul mus
(ニ レ),Ze l ho ua (
ケヤキ) な どである。 この うち,Li qui damb ar
TRXODiRCERE
METRSE
Q
UGI R
ロRn
R
YロIUMMY‑9
MY・8
MY‑6
MY‑5
MY‑4
M M M Y Y Y ‑ ‑ l 3 2 l
LUGrRZS PTE
R e
]CR R
YR
mZGmrエRRロHコ nRRPiZUS ∩RSTコZERnORYrUS PRSRZiR PQUERnUS ZELKOVR CYPERRnERECRRロUC)lロERE
PERSl[RRiR
ERICRCERE
TIrlR
RエUS
ト・‑ 100?。 ・.■■■1
s c a l e : 1 d i y . = 2 % ( + m a r k < 2 % )
第
3
図 摩耶 山西方 の関川層中の花粉化石組成は,関川層上部で とくに高率で,多 くの層準 で
4 0 %
に も達 して い る。E ・ Que r c us
は関川層下 部 のM 半4
および,上部 のM Y ‑ 5
とM Y ‑ 6
地点で高率である。そのはか,Pt e r o c ar y a (
サ ワグル ミ),Car pi nus
(クマ シデ),F a gus
(ブナ) の産出 もやや多い。なお,上記のような花粉組成 は考察 の項で述べ るように,NP‑2帯の花粉組成 で あ り,台 島型植物 群 に対比できる。庄内地域 の この時期 の植物群 としては,棚井
( 1 9 5
1)が植物化石の産出を報告 し た鶴岡市 の草井谷で,その後,植松( 1 9 7 3,MS )
が多 くの植物化石を採取 し,その組成 が,台 島型 植物群 に属す るとしたものがある。 この草井谷の植物化石を含む層準 は,善宝寺層 (棚井,1 9 5 1;
西田 。茅原
,1 9 6 6
;土谷 ほか,1 9 8 4 )
で,陸成層 とされている (田宮 ほか,1 9 7 3 )
。 この上位 の地層 は大山層 (西田 。茅原,1 9 6 6
;土谷 はか,1 9 8 4 )
で,海成の員化石の産出の報告 も多い 潮 井,1 9 5 1;
ogas a war aandTanai ,1 9 5 2
;西田 。茅原,1 9 6 6
;野田 。高橋, 1 9 8 6
;小笠原 。長滞,1 9 9 0 )
。こ この員化石群集 は 「八尾‑門の沢群集」 に属 し,中新世中期 の初 めの 「熱帯海中事件」の時期 の もの と考え られる。そ こで,このような員化石群集を含む大山層や,その下位 の台島型植物群 を含 む善 宝寺層の花粉群集 を摩耶山地域 の花粉群集 と比較検討 してみた。ただ し,善宝寺層 のい くつか の試 料か らは,花粉化石を得 ることがで きなか った。
大山層の試料採取地点 は第
2
図 と4
図に示 した。 この うち,S Y ‑ 1
は草井谷植物群 の産 出地点 の近 くで,岩質 は炭質物が多い粘土層を主体 とし,む しろ陸成層的であ り,直上 の海成層 に削 り込 まれ ていることか ら,善宝寺層最上部 の可能性 もある。S Y ‑ 2,3
は菱津の西南の土取 り場で,ここか らは, 小笠原 。長滞( 1 9 9 0 )
がAnada r ahahe hat ae ns i s
の産出やTe l l i ni de ae
の多産を報告 しているはか,vi c ar y
aの産出 もあった とい う (小笠原 。長滞両氏,読) 。S Y
朝 ま国道7
号線 の西 に面 した下清水 の露頭で,ここで は員化石 を多産す るほか,国道 をはさんだ工場側か らは,か ってVi c ar y
aを産 し山形県温海町摩耶山西方 の新第三系 (関川層)
83
た とい う (植村和彦氏 談
) 。O N ト1
は,鬼坂峠南方 の海緑石砂岩層の直下の もので あ る。
海緑石 は鼠ヶ関累層の最下位 に介在 されていること (西田 。茅原,1
9 6 6 )か ら,本層準 は大山層 の最上部 に
当たると考え られる。大山層 の分析結果 は第4
図 にまとめた。産出する花粉は,Car y
a,E.Que r c us
,Li qui damb ar
などを主体 としている。 最 下 位 層 準 のS Y ‑ 1
では,Car y
a,E.Que r c us ,Li qui damb ar
: 100% :
METRSEQUOiR
DRCRYDIUM
ONH
S0‑6 S0‑5 SO・4 SO・3 SO‑2 SO‑1
MIRInRTRXC]ロiRCERE PT
E
ROCRRYRBmTUrRRrZUS [RRPIZUS nRSJRZmRCC]RYLUS
PQUERCUSscale:1dⅣ.=2% い mark<2% )
第
4
図 庄 内平野南西縁 および鬼坂峠の大山層 の花粉化石組成が上位層準のものと比べて低率であるほか
,Pi c e
aの産出が多 い点 に特徴がある。4 .
考 察摩郡山西方の関川層 の花粉 の組成 は
,Li qui dambar
やQue r c us
を多産 し,多 くのCar y
aを伴 う ことなどか ら,山野井 (1978)の設定 した花粉層序のNP‑2帯 の特徴を もっ ものであ る。NP‑2帯 の花 粉組成 は,温暖な気候で生育 した植生を反映 した もので,Tanai(1 9 6
1) の中新世 中期 の台島型植 物群 に対比 される。大山層の花粉組成 もNP‑2帯の特徴を もっ ものであ る。 ただ し,S Y ‑ 1
のよ うに, 陸成 と思われる岩質でありなが ら,Pi c e
aが多産す ることは,当時の古気温 がやや冷涼で あ った ことを意味 し,NP12帯 の時期全般 を通 じて一律 に暖温ではなか った ことを示す ものである。
さて,関川層 と大山層 は,どち らもNP‑2帯 の花粉群集を もっ ことが明 らかにな った。 両者 の層序 的関係 については,大山層 は,関川盆地では,温海川付近で関川層をおお うし,鶴 岡市南方 の湯 田 川や西方 の大山では,善宝寺層 をおお う(土谷 ほか,1984)。 この ごとか ら,関川層 と善宝寺層 はど ち らも大山層 に整合的におおわれ るとい う意味で,少な くとも両層の上位 は,ほぼ同時代 の地層 と 考え られる。 関川層 の堆積水域 の通常の堆積物である頁岩層 は,粘土や シル トを主体 とし黒色 を呈 す るものが多いことか ら,かな り深 い水域 の堆積物 と見なす ことがで きる。 また,海成層であれば, 花粉化石 とともに頻繁 に産出す る海生 の渦鞭毛虫類 の シス トが関川層か らは見 出せない ことか ら, この地層 は淡水域の堆積物 の可能性が強い。 また,関川地域 の関川層か らは,淡水魚 の化石 の産 出 報告 もある (山添高校科学部,1983,MS)。 このような ことか ら,関川層 の分布域 には,かな りの
8 4
水深 のある湖が分布 していた ことが推定 され る。 ただ し,.関川層の上部 は砂岩 など粗粒 な堆積物 の 介在 も増え ることか ら,後 に,より浅 い湖 とな った ことが考え られる。 他方,善宝寺層 は泥岩 や砂 岩を主体 として,植物化石など炭質物を含む ほか,亜炭層などの介在 もある。 この ことか ら,善宝 寺層の分布域 は,当時水深の浅 い湖沼性の堆積環境が考え られる。 このような関川層 と善宝寺 層 と は,両者 はほぼ同時代のものか,関川層の上位のみが善宝寺層 に対比 されるのかその時代的 な決 め 手 はない。 しか しなが ら, いずれにせ よ,関川盆地 には,善宝寺層の堆積域 にはなか った よ うな深 い湖が分布 していたことになる。 その湖 は,関川層や相当層の分布 (田宮 ほか
,1973;
矢 内 はか ,1979
,土谷 ほか,1 984)
より,北 は金峰山南部 (更 に北 に延 びる可能性 あ り) か ら,摩耶 山系 の西 側 のいわゆ る関川盆地 を中心 に,南 は新潟県 の山北町の雷方面 まで,分布 していた と考 え られ る。この湖の出現 は,関川層の最下位層準で もNP‑2帯の花粉群集を含む ことか ら
,1, 900
万年頃よ りは古 くはな らないであろう。 そ して,大山層の海進が,八尾…門の沢動物群 の時期 と考 え るな らば,こ の湖 は,1, 600
万年頃の海進があるまで深い湖 として存続 していた ことになる。 この間,周囲の陸域 では安山岩質 の火山活動が盛んで,そこか ら供給 された火山性の物質 は湖底 の中央部 に向か って, 湖底地すべ りなどによって何回 も運 び込 まれていた ものと推定 される。 このような湖 は,当時 の 日 本列島が大陸か ら引 き難 されようとした際にできた大地 の割れ目 (断裂)であり,やがて日本海 の 誕生 とともに海 と化 してい くまでの過渡的な産物 として理解す ることがで きる。引 用 文 献
西田彰一 ・茅原一也
( 1 9 6 6 )
:西田川地域の新第三系 一層序 。構造 。火成活動‑.新潟大理地鉱研報,No . 1
,3 1‑5 7.
野田浩司 。高橋宏和
( 1 9 8 6 ). ・Anadar a ( Hat ai ar c a)hahe hat ae ns i
sの分布 と共産する員化石群集 の特性.瑞浪市化石博物館専報.第
6
号,4 9‑5 8 .
棚井敏雅
( 1 9 5
1):山形県西田川炭田北部の地質構造.地質経,Vol.5 6,1 5 7‑1 7 0 .
Tanai ,T.( 1 9 6
1):Ne oge nef l oralc hangeofJapan.∫.Fac.S° i .Hokkai doUni v.Se r
.4,Vol . l
l,1 9 9‑3 9 8.
土谷信之 。大沢 禾農。池辺 穣
( 1 9 8 4 )
:鶴岡地域の地質,5万分の 1図幅.地質調査所.植松芳平
( 1 9 7 3,MS )
:庄内海岸線地域の植物化石 とその教材化について.昭和47年度内地留学報告 田宮良一 ほか16
名( 1 9 7 3 ):5
万分の1
地質図幅 「温海」。同説明書.山形県.矢内桂三 ほか
3
名( 1 9 7 9 ):5
万分の 1地質図幅 「湯殿LLLい 同説明書.山形県.山野井 徹
( 1 9 8 6 )
:花粉か ら見た新第三紀の海岸気候事牲 海洋科学,Vol. 1 8,1 4 0‑1 45 .
山野井 徹( 1 9 9
1):5
万分の1表層地質図 「三瀬 。温海」・同説明書.土地分類基本調査,山形県.山添高等学校科学部