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建築の著作物と同一性保持権 東京地方裁判所平成

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(1)

判例研究

建築の著作物と同一性保持権 東京地方裁判所平成

1 5

6

1

1日決定

(判例時報

1 840

1 06

頁 )について

才 原 慶 道

1

事案の概要

債務者は、慶磨義塾大学等を経営する学校法人であ り、同大学に大学院 法務研究科 (法科大学院)を開設す ることを計画 し、「新高来舎」 と呼ば れ る第二研究室棟 (昭和

2 6

年竣工)(1)等がある三田キャンパス西南区域に 法科大学院等の新校舎の建設を予定 している。本件工事は、新高来舎を解 体 し、新校舎の

3

階屋上部分に、後記 ノグチ ・ルームを含む新高来舎の一 部や これに隣接す る庭園を復元又は再現 し、庭園に設置 されている 「無」、

学生」 と題する彫刻

2

点を移設す るとい うものである(2)

新高来舎は、建築家谷 口吾郎

( 1 90 4‑1 97 9)の設計によるものであ り、

新高来舎

1

階の談話室 (ノグチ・ルーム)の室内装飾、上記の庭園及び彫

2

点は、彫刻家イサム ・ノグチ

( 1 90 4‑1 9 88)

の製作によるものである。

無」と題する彫刻は、ノグチ ・ルーム室内か ら見た ときに、落 日の光が 彫刻に点火 して石灯龍のように見えるよ うに設置 されている。一方、「 生」と題す る彫刻は、昭和

6 2

年の新高来舎増築に伴い、竣工当時の設置場 所か ら移設 されている。

債権者ザ ・イサム ・ノグチ ・フアウンデイシ ョン ・インク (以下 「債権 者イサム ・ノグチ財団」 とい う。)は、イサム ・ノグチの死後、同人の著 作物に関す る一切の権利 を承継 した と主張 し、本件工事はイサム ・ノグチ の著作者人格権 (同一性保持権)を侵害するとして、また、債権者イサム・

ノグチ財団を除 く債権者 らは、慶鷹義塾大学の教員であ り、本件工事は世 界的文化財 の同一性 を享受す ることを内容 とす る文化的享受権 を侵害す 知的財産法政策学研究

Vol .3 ( 20 04) 21 7

(2)

るな どとして、新高来舎等の解体 、移設工事 の差止 めの仮処分 を求 めた。

2 決定要 旨

(1) 債権者 イサム .ノグチ財団の申立適格

著作者人格権 が移転 したか とい う点 と移転 した権利 を行使 で きるか ど うか とい う点は別個の問題 であるとし、前者 の問題 は遺贈 の効力の問題 と して米 国法 を準拠法 として判断 され るべ きであ り、他方、著作権 の行使 に ついては 日本法 を基準に判断すべ きものである とい う債権者イサム ・ノグ チ財 団の主張に対 し、裁判所 は、 「本件 において、債権者 イサ ム ・ノグチ 財 団は、我が国の著作権法上の著作者人格権 (同一性保持権)の行使 と し て、債務者 に対 して本件工事の差止 め等 を求 めてい るものである ところ、

‑本件 においては、イサム ・ノグチの本件遺言書 中の記載 をもって、我 が国著作権法

11 6

3

項 にい う「指定」と解す ることがで きるか ど うかを、

我 が国の著作権法に従 って検討す る必要があ り、かつ、その検討 をもって 足 りるものである

」と述べ、「本件遺言書 を全体 としてみた ときに、イサ ム ・ノグチが、 自己の死後 にお ける本件建物 、ノグチ ・ルーム、庭 園及び 彫刻 の改変 に対す る対応 を債権者イサム ・ノグチ財 団に対 して委ねた意思 が読み とれ るか どうかを、検討」し、「本件遺言書 において債権者 イサム ・ ノグチ財 団に遺贈 された (そ して併せ て著作者人格権 の行使 について も委 ね られた と解す る可能性 が存在す る)残余遺産 に何 が含 まれ るかについて は、いまだ疎 明がな」 く、著作権法

11 6

3

項 の 「指定」について疎明が あった とはいえない として、債権者イサム ・ノグチ財 団の申立てを却下 し た。

( 2 )

債権者教 員 らの申立適格

債権者教員 らの主張す る・‑‑『文化的享受権』なるものは実定法上の 根拠 を持たない ものであ り、債権者教員 らの主張 をみて も、どのよ うな理 由に よ り債権者教員 らがその よ うな法的請 求権 を有す るのかは明 らかで はない。」 として、債権者教員 らの 申立て を却下 した。

(3)同一性保持権侵害の有無

裁判所 は、 「事案 にかんがみ、念 のため」 と断 った上 で、同一性保持権 侵 害の有無について、次の とお り判断 した。

21 8

知的財産法政策学研 究

V ol .3 ( 2 0 0 4 )

(3)

建築の著作物 と同一性保持権 (才原)

まず、その前提 と して、著作物 としての、新高来舎 、その一部であるノ グチ ・ルーム、庭園、彫刻 の関係 について、「ノグチ ・ルームを含 めた本件 建物全体が一体 としての著作物であ り、また、庭園は本件建物 と一体 とな るもの として設計 され、本件建物 と有機 的に一体 となってい るもの と評価 す ることができる。 したがって、 ノグチ ・ルームを含 めた本件建物全体 と 庭園は一体 として、一個の建築の著作物 を構成す るもの と認 めるのが相 当 である。彫刻 については、庭 園全体の構成 のみ な らず本件建物 にお けるノ グチ ・ルームの構造が庭園に設置 され る彫刻 の位置、形状 を考慮 した上で、

設計 され てい るものであるか ら、谷 口及びイサム ・ノグチが設置 した場所 に位置 してい る限 りにおいては、庭園の構成要素の一部 として上記 の一個 の建築の著作物 を構成す るものであ るが、同時に、独立 して鑑賞す る対象 ともな り得 るもの として、それ 自体が独 立 した美術 の著作物で もあると認 めることができる

」 と判示 し、「ノグチ ・ルームを含む本件建物全体、庭 園及び彫刻 が一体 となった建築の著作物はイサム ・ノグチ と谷 口の共同著 作 に係 る著作物であ り、独 立の著作物 としての彫刻 はイサム ・ノグチの著 作物であるか ら、イサム ・ノグチは、これ らの著作物 について、共同著作 者 ない し著作者 として、著作者人格権 (同一性保持権) を有す る。」 と し た。

次いで、本件工事 に よって、ノグチ ・ルーム、庭 園及び彫刻 が一体 とな った建築の著作物が改変 され る結果 とな るか ど うかについて検討 し、 「 グチ ・ルー ムについてみ る と、 ノグチ ・ルー ムの東側 についての空間的特 性 が失われ ること、一般的に鉄筋 コンク リー トの建築物 はいったん解体 し て しま うと復元が難 しい とされてお り、本件建物 の壁 面 と一体 となってい るテ ラコッタタイルの復元 は困難 であることな どにかんがみれば、本件工 事 によ り、 ノグチ リレームにつ き、製作者 の意図 した特徴 が一部損 なわれ る結果 を生 じるといわ ざるを得 ない。」、 「庭園全体 についてみ ると、本件 庭園は、イサム ・ノグチが、庭 園部が西側崖上に位置す ることか ら、庭 園 の大地性 の表現のために、西側 の崖 の斜 面か ら伸びてい る樹木 を計算 に入 れ、庭園の南側 がす ぐに演説館 と隣接 してお り、稲荷 山の起伏 、演説館 の 西部分、その裏側 にある巨樹 な どが庭 園にいる者 の視野に入 ることな どを 考慮 して、谷 口と共 に設計 した ものである。本件工事 においては、庭園は、

全体 と して、 ノグチ ・ルーム との位 置関係 を含 めて現状 を復元す る形 で、

知的財産法政策学研 究

Vol.3 ( 2004) 21 9

(4)

移築 され るものではあるが、前記のよ うな、周囲の土地の形状等 をも考慮 に入れた上での製作者の意図は、本件工事の施工によ り失われて しま うこ とになる。 したがって、庭園については、本件工事によ り、製作者の意図 した特徴が損なわれ る結果 を生 じるものである。」 と述べ、「ノグチ ・ルー ムを含 めた本件建物全体 と 「無」と題す る彫刻 を含 めた庭園 とが一体 とな った建築の著作物が、本件工事によ り改変 され、著作物 としての同一性 を 損なわれ る結果 となるといわざるを得ない。」 とした。

その上で、まず、著作権法

20

2

2

号の適用 について検討 した。すな わち、 「著作権法

20

2

2

号は、建築物 については、鑑賞の 目的 とい う よ りも、む しろこれ を住居、宿泊場所、営業所、学舎、官公署等 として現 実に使用す ることを 目的 として製作 され るものであることか ら、その所有 者の経済的利用権 と著作者の権利 を調整す る観点か ら、著作物 自体の社会 的性質に由来す る制約 として、一定の範囲で著作者の権利 を制限 し、改変 を許容す ることとした ものである。これに照 らせ ば、同号の予定 している のは、経済的 ・実用的観点か ら必要な範囲の増改築であって、個人的な噂 好に基づ く窓意的な改変や必要な範囲を超 えた改変が、同号の規定によ り 許容 され るものではない とい うべ きである

」 と著作権法

20

2

2

号の 趣 旨を明 らかに した上で、 「本件工事は、法科大学院開設 とい う公共 目的 のために、予定学生数等か ら算出 した必要な敷地面積の新校舎 を大学敷地 内 とい う限 られたスペースのなかに建設す るための ものであ り、 しか も、

できる限 り製作者たるイサム ・ノグチ及び谷 口の意図を保存す るため、法 科大学院開設予定時期が間近に迫 るなか、保存 ワーキンググループの意見 を採 り入れ るな どして最終案 を決定 したものであって、その内容は、ノグ チ ・ルームを含む本件建物 と庭園をいったん解体 した上で移設す るもので はあるが、可能な限 り現状に近い形で復元す るものであるか ら、イサム ・ ノグチの著作者人格権 (同一性保持権) を侵害す るものではない (仮に、

イサム ・ノグチの著作物 として、上記のよ うな本件建物全体 と庭園 とを一 体 として とらえた建築の著作物ではな く、債権者 らの予備的申立てにい う よ うに、本件建物の うちノグチ ・ルーム部分 と庭園を問題 とした場合であ って も、ノグチ ・ルームは建築物の一部分 として著作権法

20

2

2

号の 適用 を受 け、庭園 もその性質上、同号の規定が類推適用 され るもの と解す るのが相 当であるか ら、上記の結論 は変わ らない)

」 と述べ、著作権法

2 2 0

知的財産法政策学研究

V ol .3 ( 2 0 0 4 )

(5)

建築の著作物 と同一性保 持権 (才原)

20

2

2

号の適用 (又は類推適用) を肯定 した。

そ して、著作権法

60

条ただ し書の適用 について も、 「著作権法

60

条但書 は、著作物 の改変 に該 当す る行為であって も、その行為の性質及び程度 、 社会的事情 の変動 その他 に よ りその行為 が著作者 の意 を害 しない と認 め

られ る場合 には許容 され ることを規定 してい る。そ して、著作者 の意 を害 しない とい う点は、上記の各点 に照 らして客観 的に認 め られ ることを要す るものであるところ、本件 においては、・‑・本件工事 は、公共 目的のため に必要に応 じた大 きさの建物 を建築す るための ものであって、しか も、そ の方法において も、著作物 の現状 を可能 な限 り復元す るものであるか ら、

著作者の意 を害 しない もの として、同条但書の適用 を受 けるもの とい うべ きである」と述べ、「仮 に本件 工事 について著作権法

20

2

2

号が適用 され ない として も、同法

60

条但書の適用 によ り、本件 工事は許容 され ると い うべ きである

」 とした。

3

検討

本稿 においては、本決定の うち、建築の著作物 と同一性保持権 に関す る 部分 について検討す る。

( 1 )

著作物である建築物

著作権法上著作物 として保護 され るためには、思想 または感情の創作的 表現であることが必要である (著作権法

2

1

1

号)が、学術的、芸術 的 に優れてい る とい うことは要 しない と解 され てい る(3)。 しか し、建築物 については、いわゆる建築芸術 と見 られ るものでなけれ ばな らない とされ

( 4 )

(5)。 もっ とも、本件 においては、本件建物等が著作物 であることにつ いては、当事者 間に争いがない。

(2)建築の著作物の範囲

本決定は、「ノグチ リレー ムを含 めた本件建物全体 と庭園は一体 として、

一個 の建築の著作物 を構成す る」とい う.建築の著作物の範囲については、

(∋土地に定着す る工作物 の うち、屋根 、柱 または壁 をもつ物 、またその附 属物 をい うと解す る見解 と、②庭園、公園、橋等 も建築の著作物 に該 当す る と解す る見解 とがある(6)とされ る。 そ して、前者 の見解 であって も、庭 園等 について も、建築物の一部 を構成 しているものにあっては、建築の著 知的財産法政策学研究

Vol.3 ( 2004) 221

(6)

作物 と一体性があるもの として

、1 0

1

5

号に該 当す る場合 もあろ う(7)

と解 されている。

建築の著作物」に該 当すれば、著作権法上、2

1

項15号 ロ、4

1

、2 0

2

2

、4 6

条の適用があることになる。 「建築の著作物」 とい

う文言か らす ると、独立 した庭園を 「建築の著作物」とい うことは難 しい よ うに思われ る。 しか し、例 えば、公開の美術の著作物等の利用 を規定す

4 6

条 を考えてみ ると、この規定 を適用す る必要があるのは、庭園等が建 築物の一部を構成 している場合 に限 られ るわけではない。 したがって、独 立 した庭園等については、事案に応 じて、上記各規定の類推適用 を検討 し なければな らないであろ う(8)。本決定 も、括弧書 きではあるが、「仮 に、イ サム ・ノグチの著作物 として、・‑‑本件建物全体 と庭園 とを一体 として と らえた建築の著作物ではな く、債権者 らの予備的 申立てにい うよ うに、本 件建物の うちノグチ ・ルーム部分 と庭園を問題 とした場合であっても、ノ グチ ・ルームは建築物の一部 として著作権法

2 0

2

2

号の適用 を受 け、

庭園 もその性質上、同号の規定が類推適用 され るもの と解す るのが相 当で ある」 と述べている。

( 3)

共同著作物の一部である単独著作物

本決定は、 「彫刻 については、‑‑庭園の構成要素の一部 として上記の 一個の建築の著作物を構成す るものであるが、同時に、独立 して鑑賞す る 対象 ともな り得 るもの として、それ 自体が独立 した美術 の著作物で もあ る」、 「ノグチ ・ルームを含む本件建物全体、庭園及び彫刻が一体 となった 建築の著作物はイサム ・ノグチ と谷 口の共同著作に係 る著作物であ り、独 立の著作物 としての彫刻はイサム ・ノグチの著作物である」とい う。この よ うに単独著作物 (例 えば、彫刻)が共同著作物 (例 えば、庭園)の一部 で もあるとされ る場合(9)に、単独著作物の著作権者が当該単独著作物 を利 用す るとき (例 えば、彫刻の作成者が、その彫刻のみの絵葉書を販売す る とき)にも、著作権法

6 5

条が適用 され、当該単独著作物その ものの著作権 者ではないが、当該共同著作物の著作権者ではある者 との間で合意が必要 とされ るのであろ うか。二次的著作物であるとい う前提ではあるが、最判 平成

1 3 . 1 0 . 2 5

判時

1 7 6 7

1 1 5

頁は、 「二次的著作物である本件連載漫画の利 用に関 し、原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者であ る上告人が有す るもの と同一の種類の権利 を専有 し、上告人の権利 と被上

2 2 2

知的財産法政策学研究

V o l .3 ( 2 0 0 4 )

(7)

建築の著作物 と同一性保持権 ( 才原)

告人の権利 とが併存す ることになるのであるか ら、上告人の権利は上告人 と被上告人の合意 によらなければ行使す ることができない と解 され る。」

とす

る( 1 0

)。 この見解 に立てば、上記の例 において も、65条が適用 され るこ とになるのであろ う。同条

3

項は、「各共有者は、正当な理由がない限 り、

‑‑合意の成立を妨 げることができない。」 と規定は しているものの、 こ のよ うな帰結には疑問がある。

( 4 )

建築の著作物 と翻案権

建築の著作物の変形は

27

条の問題 とされ る(ll)(12)。 しか し

、46

条は、建築 の著作物 について、「建築によ り複製 し、又はその複製物の譲渡によ り公 衆 に提供す る場合」 (2号)等 を除き、 「いずれの方法によるかを問わず、

利用す ることができる。」 と規定す る(13)。 同条

2

号は、その ものず ば りの 複製のほか変形、翻案 した ものの複製 も含む と解 されている(14)

、46

条は、

その作品を変形 して利用す ることも可能であ り(15)建築の著作物について は原則 として模倣建築及びその公衆‑の譲渡以外 の行為 に著作権 が及 ば ない(16)といわれ る。 しか し

、46

条の趣 旨は、誰 もが 自由にアクセス しうる ものの利用行為に対 して権利 を及ぼす と、公衆の行動の 自由を過度に阻害 す ることにな りかねない(17)とい うことにあるのであるか ら、現実に存在す る建築の著作物そのものの変形 についてまで、自由利用 を認 める必要はな いはずである。著作物の原作晶そのものの変形 にも著作権が及び得 るとい う以上は、現実に存在す る建築の著作物そのものを変形す ることによって 二次的著作物 を創作 した と評価 し得 る場合には、著作権者の明示又は黙示 の許諾がない限 り、翻案権侵害に当たると考 えるべきではないだろ うか。

(5)建築の著作物 と同一性保持権

著作物が無断で改変 され る場合 には、その創作 した著作物が 自己の意に 沿わない表現を有す ることにな り、著作者 は精神的な苦痛 を受 ける

。2 0

1

項の同一性保持権は、このよ うな精神的苦痛か ら著作者 を救済す る制度 である

( 1 8 )

とされ る。

しか し

、2 0

2

項は、「建築物の増築、改築、修繕又は模様替 えによる 改変」 (2号)については、20

1

項 を適用 しない と規定す る。居住者や 見学者の安全確保

( 1 9 )

、更には、多大な投資をな していることも少な くない 使用者 を保護す るために、建築物の使用に随伴す る改変 を許容 した もので ある(20)とされ るOそのため、建築芸術 とい う観点か ら居住者の意に添わな 知的財産法政策学研究

Vol .3 ( 2 00 4) 2 23

(8)

いので改築す る とか、美的な価値 の観 点か ら居住者 の好みの意図で直す と い う行為 については、ここで読む ことについては問題 があろ うか(21)とされ る。

そ して、増築、改築及び模様替 えに よる改変については、建築物の同一 性 を保持 しよ うとす る著作者 た る建築家の利 益 と、もっぱ ら実用的観点か ら増築、改築又 は模様替 えによる改変 を行お うとす る建築物 の所有者の利 益 とを比較衡量 した うえで、その よ うな改変 の許否 を決すべ きであ り、建 築家 と所有者 の各 々の利益 の比較衡 量の際 に考慮すべ きファクター とし ては、 当該建築物 の改変 の態様 、範 囲及 び 目的並 び に当該建築物 の創 作 性 ・美術性 の程度 、特徴及び用途 を挙 げることができよ う(22)といわれ る(23)0

実用的な見地か ら改変 の具体的な必要性 があ り、改変の範 囲や態様がそ の必要性 に照 らして相 当とい える場合 に

、2 0 粂 2

2

号の適用が認 め られ るべ きであると考 える。つま り、既存 の建築物 を利用す ることが、所有者 に とって経済的な合理性 を有す る場合 といえよ う。

我 が国においては、建築物 を完全 に取 り壊 して しま うことは、建築物 の 所有者 の 自由であ り (所有権 の性質上、当然である。)、同一性保持権の侵 害 とはな らない(24)と一般 に解 され てい る(25)。そ うであれ ば、た とえ改変が 許 され ない場合であって も、所有者 には、建築物 を完全 に取 り壊 して、新 たに建て直す とい う選択肢が残 されてい ることになる。

本件 において も、本件建物等 の保存 に関す る取 り決 め等がない限 り、債 務者 には、本件建物等 を完全 に取 り壊 して しま うとい う選択肢 も法的には あったわけである。同一性保持権 が、自己の著作物 に無断で手 を入れ られ た とい うことに対す る著作者 の名 誉感 情 を法的 に守 る権利 と して理解 さ れている(26)ことか らすれ ば、実用的な見地か らは本件建物等 を復元又は再 現す る必要が少 ない と思われ る本件 の よ うな事案 においては、その よ うな 改変 を許容す るか否か、著作者の判断 に委ね るべ きであると考 える。傍論 ではあるが、著作権法

2 0

2

2

号の適用 (又は類推適用)を肯定 した本 決定には疑 問がある。

( 6 )

死後の人格的利益の保護

著作権法

6 0

条本文は、 「著作物 を公衆 に提供 し、又 は提示す る者 は、そ の著作者 が存 しな くなった後において も、著作者 が存 してい るとしたな ら ばその著作者人格権の侵 害 とな るべ き行為 を してはな らない。」 と規定す

2 2 4

知的財産法政策学研 究 v

o1 .3 ( 2 0 0 4 )

(9)

建築の著作物と同一性保持権(才原)

る。生 きている人間の人格的利益の保 障 を完全 なもの とす るためには、そ の死後 において も人格 的利益が損 なわれ ることがない、とい う期待 をもっ て安心 して死ぬ利益 を保障す る必要がある(27)(28)か らである。 しか し、著作 者 の死後 においては、故人の意思 を尊重 しよ うにも、その意思の確認 が不 可能 になっている。 くわえて、故人が具体的に精神的苦痛 を受 けることが 無 くなってい るためにその要保護性 は生前 に比べれ ば相対的 に小 さくな ってお り、時の経過 とともに著作物 の 自由利用 の利益 を優先 しなけれ ばな らない場面が増 えて くる(29)とい える。 そ こで、同条ただ し書は、 「その行 為 の性質及び程度、社会的事情 の変動その他 によ りその行為 が当該著作者 の意 を害 しない と認 め られ る場合 は、 この限 りでない。」 と規定す る(30) 本件 においては、著作者 の死後十数年 しかたってはいない ものの、既存 の 建築物等の文化財 的な価値 に着 目して、新建築物 中にその一部 を復元又 は 再現す ることは、それ 自体社会的な意義 を有す ることであるか ら、かか る 改変は認 めない 旨著作者 自身が生前 に表 明 していたな ど、著作者 の意思が 明 らかな場合 は別 として、その よ うな事情が認 め られ ないのであれ ば、著 作権法

6 0

条ただ し書 については、その適用 を肯定 して もよい と考 える。こ の点に関す る本決定の判断には賛成 である。

本稿は、北海道大学大学院法学研究科の平成

1 5

年度後期知的財産法演習における 筆者の報告に加筆修正したものである。同演習に参加された方々からは多くの貴重 なご意見を頂いた。また、本稿の執筆に当たっては、北海道大学大学院法学研究科 田村善之教授から懇切丁寧なご指導を賜った。この場をお借 りして、改めて感謝申

し上げる。

(1)本件決定の別紙 「本件建物の現在の状況」(最高裁判所ウェッブページ)を参照 されたい。

(2)後掲の 「寓束舎移築保存計画」(本件決定の別紙 「本件工事の概要③

」 )

のほか、

同決定の別紙 「同①」、「同②」、「同④」(最高裁判所ウェッブページ)を参照され たい。

(3)田村善之 「著作権法概説

」 [ 第 2版] ( 有斐閣)1 2 頁 ( 2001

年)0

知的財産法政策学研 究 V

o1.3 ( 2004) 225

(10)

( 4 ) 福 島地決平 3 . 4 . 9 知裁集 2 3 巻 1 号 2 2 8 貢。大阪地判平成 1 5 . 1 0 . 3 0 平成 1 4 ( ワ) 1 9 8 9 等 ( 最高裁判所 ウェ ッブページ) 同旨。

(5)

ベル ヌ条約 にお ける建築の著作物の扱 いに関す る変遷 について、阿部浩二 「 建 築の著作物 をめ ぐる諸問題」コピライ ト( 著作権情報セ ンター )4 6 7 号 8、9 頁 ( 2 0 0 0 午) 0

( 6 ) 上 田洋幸 「 最近の著作権判例 について」 コピライ ト 51 4 号 1 3 頁 ( 2 0 0 4 年) 0 ( 7 )加戸守行 「 著作権法逐条講義」 ( 四訂新版) ( 著作権情報セ ンター) 1 21 頁 ( 2 0 0 3 午) 。

( 8 )4 6 条の適用についでは、独立 した庭園等は 「 美術の著作物」に当たるとい う見 解 もあ り得 よ う。 しか し、この見解 が、同一性保持権の制限を規定す る 2 0 粂 2 項の 適用の場面において、独立 した庭園等については 4号で対処す ることになるとい う のであれ ば、一般的に4号の適用が 2 号の適用 よ りも厳格 に解釈 され るとい う傾 向 があるとすれば、事案 によっては不都合 な結果 が生 じて しま うことはないであろ う かO

なお、前掲 田村2 11 寅は 、4 6 条にい う 「 美術 の著作物」 と 「 建築の著作物」 との 関係 は、前者 が後者 を包含す る関係 にある とし、 「 美術 の著作物」 と 「 建築の著作 物」 を排他的に解 していない。

(9)

この よ うな例 として、前掲 田村 7 3 頁参照。

( 1 0 ) この事件 の第一審及び控訴審判決の評価 として、前掲 田村 3 7 3 、3 7 4 頁。

( ll )前掲加戸 2 0 7 頁参照。

( 1 2 ) 複製 を介在 させ ることな く新 たな商品を生み出す行為に対 して、翻案権でカ ヴ ア‑す ることができるか とい う問題 がある と指摘す るもの として、前掲 田村1 1 6 頁 の注 3)

0

( 1 3 ) 著作権法 4 6 条 2 号の趣 旨については、前掲 田村 21 0 頁。

( 1 4 ) 前掲 田村 21 0 頁。

( 1 5 ) 前掲加戸 2 9 9 頁o ( 1 6 ) 前掲加戸 3 0 0 頁。

( 1 7 ) 前掲 田村 2 0 8 頁。

( 1 8 ) 前掲 田村 4 3 3 貢。

( 1 9 ) 斉藤博 「 著作権法」 〔 第 2 版〕 ( 有斐閣) 2 0 4 頁 ( 2 0 0 4 年) 0 ( 2 0 ) 前掲 田村 4 4 7 頁o

( 2 1 )前掲加戸 1 7 4 、1 7 5 頁。

( 2 2 ) 日向野弘毅 「 建築家の著作権」 ( 成文堂) 51 頁 ( 1 9 9 7 年) 。 これ に対 し、修繕 に ついては、それが新築に匹敵す るものでない限 り、建築主は原則 として 自由にこれ を行 うことができるとい う。

( 2 3 ) 上野達弘 「 著作物の改変 と著作者人格権 をめ ぐる一考察 ( 二 ・完)‑ ドイツ著

226

知的財産法政策学研 究

Vo l .3 ( 2 004)

(11)

建築の著作物 と同一性保持権 ( 才原)

作権法にお ける 「 利益衡畳」か らの示唆 ‑ 」民商法雑誌 ( 有斐閣) 1 2 0 巻 6 号 ( 1 9 9 9 午) 4 2 ‑6 4 頁は、 ドイ ツ法の改変禁止権 についての利益衡丑にお ける考慮要素の分 析 の中で、著作者 の利 益 をはかる評価基準 と して、侵害行為の態様 ( 侵 害の強度 、 公衆 アクセス性 、著作者名 の表示)、著作物 の性質 ( 著作物 の創作性 、原作品性)、

著作者の性質 を、利用者 の利益 をはかる評価基準 として、利用者 の有す る権利 ( 普 作物利用権者 、 自由利用権者、所有権者)、著作物 の性質 ( 著作物の実用性 、分野 の実務慣習)、侵害行為の態様 を挙げる。

( 2 4 ) 前掲 日向野 5 2 貢。前掲 田村 4 3 8 頁、前掲加戸 1 7 3、1 7 5 頁同旨。

( 2 5 ) 著作物が有体物 に化体 しているか らといって、その破棄 ・破壊 によって著作者 に精神的苦痛が生 じない とは考 えに くいので、改変 として同一性保持権の侵害の問 題 になるとした上で、改変 を行 った者 が所有権 を有 していた こと、建築物等著作物 が実用性 を有す ること、破壊 され ることによって公表や公衆のアクセスが不可能 に なった こと、原作晶に対す る改変であるか等 を、やむ を得 ない改変 にあたるか とい う判断の際に考慮すべき とい う見解 もある。村井麻衣子 「 批評 における漫画カ ッ ト の引用 一脱 ゴーマニズム宣言事件 ‑」北大法学論集 51 巻 3 号 2 9 9 頁の註 ( 6 5 )( 2 0 0 0 年) 。 ( 2 6 ) 前掲 田村 4 3 6 貢。

( 2 7 ) 前掲 田村 4 5 8 頁。

( 2 8 ) 故人の一般的人格権 に関 して、斉藤博 「 人格権法の研 究」( 一粒社) 2 1 1 貢 ( 1 9 7 9 午)は、そ もそ も、人間の尊厳 な り、生存 中にお ける人格の 自由な発展その もの も、

人間の生活像 がその死後 も少 な くとも粗野 な名誉穀損的歪 曲か ら保護 され るこ と を信頼 し、その期待の中で生存 し続 ける場合 にのみ、十分保護 され るとい うO ( 2 9 ) 前掲 田村 4 5 9、4 6 0 頁。

( 3 0 ) 著作権法 6 0 粂ただ し書の 「 その他」 について、前掲加戸 3 6 0 頁は、侵害者 の意 図が死亡 した著作者 の人格 を傷つ けるために行為 したのではな くて、む しろ善意 に 出ていた とい う場合 も考 え られ ます とい う。

知的財産法政策学研 究 v

o 1 .3 ( 200 4) 227

(12)

蔦束舎 移築保存計画 別紙 「本 件 工事 の概要③

( 最 高裁判所 ウェ ッブペー ジ知 的財産権裁判例集 よ り)

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知的財産法政策学研 究

V ol .3 ( 2 0 0 4 )

参照

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