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建築と著作権法 -

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Academic year: 2021

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芝浦工業大学工学部建築工学科 2012年度卒業論文・卒業設計梗概

研究指導:赤堀忍 教授 Masayuki WATANABE

建築と著作権法

- 判例から見える関係性 -

Keywords

建築図書 建築物 著作権 K07111 渡辺 雅之 複製 模倣

第1章 はじめに

近年、文芸や美術音楽の分野では、著作権という概念 が明確に認識されるようになってきた。著作者と著作物 の対応関係が比較的明確なこれらの分野では、贋作や盗 作が明らかになれば、それだけで話題を呼ぶことになり、

少なくとも著作権を侵害した者には相応の社会的制裁が 科される時代である。

建築家の著作権の問題は、法学界において必ずしも十 分に論じられてはいないし、それに関する裁判例も極め て少ない。しかし、建築家の著作権という問題領域は極 めて重要であり、今後この問題をめぐる紛争が増加する 可能性は否定できない。

本論文は、判例を元に盗作と呼ばれる著作権侵害の基 準を考察し、今後の著作権法の発展や課題について検討 する事を目的とする。まず建築分野と知的財産分野のそ れぞれで建築がどのように保護されるかを述べ、各分野 での言葉の定義を確認する(2)

次に判例を元に検討するにあたり、先行研究者が参照 した判例以外に、重要な判例や近年の判例を検討する( 3)

最後に今後の展開として、建築の著作権に関する議論 が活発に行われており、我が国においてもこの問題領域 で参照されるドイツにおける著作権と比較する(4)

第2章 建築の保護

知的創作物としてのデザインは、その多くが知的財産 法による保護を受け、権利者はその独占的な実施・活用 が保証されている。建築の創作物である設計図書や建築 物、は建築士法、意匠法および著作権法により保護され ている。

第1節 建築士法での保護

設計の変更については建築士法19条に定義がある。前 段は同一設計図書について、設計上の責任基本的に設計 者に負わせる考えを示している。後段は、設計を行った 設計者に承諾を求めることが出来ない事由がある時、ま たは承諾が得られなかった時には設計図書の一部を変更 することができるが、この場合の設計図書の変更の責任

については、これを行った建築士が負うべきである事を 示している。

建築士法19条はこういった点を考慮して、設計変更で きる者を制限するとともに、設計変更する場合の責任の 所在を明らかにしたものである。

これは変更を行った者が著作権侵害の責任を負わない と定めた規定ではなく、また建築設計図書において認め られる著作権とは無関係の規定である。

第2節 意匠法での保護

建築にも知的財産にも「意匠」という分野が存在する。

どのような違いがあるか定義により明らかにする。

建築での意匠

建築における意匠とは「工夫すること、趣向を凝らす こと」という意味と「形・色・模様・配置などについて の独自の工夫やデザイン」という意味の2つがある。

近代建築以前、19世紀頃の建築意匠は、構造と対比さ れ美的・装飾的な操作を指すものと捉えられてきた。現 代においても「建築意匠=建築美学」の図式で捉える立 場が存在するほか、日本では建築の形態やその構成理論 に関する研究が「建築意匠学」の名のもとに定義されて いる。

知的財産での意匠

知的財産は(1)のように様々な分野が保護されている。

知的財産の分野には技術的思想の創作である発明を保護 する「特許法」や、標章や役務商標を保護する「商標法」

など多岐に渡って保護されている。

(図1)知的財産権の種類 知的財産

著作権

著作者の 権利 著作隣接

産業財産

特許権 実用新案

意匠権 商標権

その他 種苗法な

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芝浦工業大学工学部建築工学科 2012年度卒業論文・卒業設計梗概

「意匠法」は知的財産法の一部の法律であり「意匠の 保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、

もつて産業の発達に寄与することを目的とする」(意匠法 1)とあるように「意匠」を保護し創作意欲を高め、産 業の発達に寄与することを目的としている。

3 意匠権の効果

知的創作物としてのデザインはその多くが知的財産法 における保護を受け、権利者はその独占的な実施・活用 が保証されている。意匠法は物品の形状・模様などの創 作者に対し、設定登録より20年間の独占権を付与する。

これら意匠権の権利者は他人によるデザインの模倣行 為に対し、差止請求権や損害賠償請求権の行使をするこ とで、損害の拡大防止や損失利益の回復をすることが出 来る

意匠権は排他的独占権であり、既に登録された意匠と、

同一な物はもちろん、類似の意匠は登録ができない。( 2,3)は意匠権で保護される組立家屋(意匠登録第1453430 )である。

(図2) 組立家屋のパース

(図3) 組立家屋の立面図(点線部以外が保護範囲)

立面図と同様に、平面図や断面図も同様に意匠権で保 護されている。

意匠登録を受けるには量産され、運搬される一連のシ ステムが必要なため個人の建築家が意匠登録を受けるこ とは難しい。

第3節 著作権法での保護

意匠法など工業所有法が「テクノロジー」の創作を保 護するのに対して、著作権法は伝統的には文化的所産、

すなわち「アート」の創作を保護するものである。

1 建築士の著作権

著作物と言えるためには「思想又は感情」を「表現」

したものでなければならない。表現されず著作者の内心 にとどまっている思想・感情は著作物ではない。

加えて著作物であるためには、思想・感情の表現が

「創作性」を有しなくてはならない。一般的に著作者の

「個性」が読み取れるものであれば、創作性を肯定でき ると考えられている。

建築士の著作権をめぐっては設計図書及び建築の著作 物の複製が問題となりうる。また、建築に関わる著作物 の例示が著作権法にはなされている。

1.1 建築著作物(著作権法10条1項5号)

「建築の著作物」とは建築物(あるいは工作物)によ って思想・感情を表現したもののうち、著作物性の要件 を満たしたものを指す。

その範囲は構築物一般に及び住宅、ビル、宮殿、城、

寺院、教会等が「建築の著作物」に該当しうる。また、

保護される範囲は、建築物の外観だけでなく、教会の内 部などの「創作性」のある内観も含まれる。

1.2 図形著作物(著作権法10条1項6号)

設計図書のうち設計図は「学術的な性質を有する図形 の著作物」として著作権上保護を受けるが、仕様書等は 原則として個性が認められず、著作権上の保護を受けな い。

設計図と建築物とは異なった表現を持っており、建築 物は設計図自体の複製物ではないので、設計図に著作物 性が認められたとしても、建築物の著作物性とは直結し ない。

1.3 複製の問題

建築士の著作物の複製としては、(1)設計図書それ自体 の複製と、(2)既存の建築物を模倣して同一の建築物を複 製すること、そして更に(3)まだ建築されていない建築物 をその設計図書に従って建築することが考えられる。

2 建築士の著作者人格権

(4)に示す通り、著作人格権には公表権、氏名表示 権、同一性保持権という3つの権利がある。

(4) 著作者の権利 著作者の

権利

著作者 人格権

公表権

氏名表示権 同一性 著作財産権 保持権

(3)

芝浦工業大学工学部建築工学科 2012年度卒業論文・卒業設計梗概

著作者人格権は、著作者が著作物について有する人格 的利益を保護するものであり、譲渡はできない。

2.1 公表権

建築物の建築それ自体が建築の著作物の公表であると いえるから、建築物について公表権はほとんど問題とな らない。設計図書についても、基本的に公表しないので ほとんど問題とならない。

2.2 氏名表示権

建築士の氏名表示権が実際に問題となるのは、建築確 認申請手続の際に設計図の作成者欄に著作者の指名を表 示しなかったという場合がほとんどである

2.3 同一性保持権

著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持す る権利を有する。著作者の意に反してこれらの変更、切 除その他の改変を受けないのを原則としている。しかし、

著作権法2022号により、建築物の増改築、修正また は模様替えによる改変は例外とされている。

一般的には、実用目的の改築等に関するもので、美的 観点や趣味による増改築等は同一性保持権侵害となる。

実用性の高い改変、例えば手すりや冷房設備を設ける改 変は本号の適用を受けるが、趣味的な部分の改変は本号 の適用外であると考えられる

なお建築物を完全に取り壊してしまうことは建築物の 所有者の自由であり、同一性保持権の侵害とはならない と言える。

また著作者が改変を望まないのであるならば、予めそ のような契約をしておくことは可能である。しかし、そ のような条件を事前に要求できるような強い力を持った 著作者は極めて稀である

3 著作権の効果

建築士の著作権または著作者人格権が建築主または第 三者により違法に侵害された場合に、建築士はいくつか の処置を取ることが出来る。

著作者は、その著作権または著作者人格権を侵害する 者、または侵害する恐れのある者に対して、その侵害の 停止または予防を請求することが出来る。著作権を侵害 する模倣建築物が現に建築中である場合には、著作者は、

当該建築工事の差止めを請求することが出来る。また、

模倣建築物の廃棄を請求することが出来る。

さらに、損害賠償請求権および不当利得返済請求権を も行使できる。著作権法では、侵害者が侵害行為によっ て受けた利益の額は、著作権者が受けた損害の額と推定 する規定がある。

第4節 小結

以上のように、建築物は意匠法と著作権法で、設計図 書は著作権法で保護されている。また著作権は無方式主

義に基づき、登録等しなくても創作した時点で権利が自 然に発生する。一方意匠権は特許庁に登録をしてからは じめて権利が認められる。

建築物や設計図は著作権により保護されており、建築 物のうち意匠登録したものは、意匠権で保護されている。

意匠法では、需要者の美感をもってして類似性の判断 をし、類似または同一の場合は措置をとることが出来る。

第3章 建築と著作権

著作権で保護される建築物や、設計図はどこからが複 製にあたり、盗作と判断されるのか判例を検討する。検 討にあたり、判例は先行研究を参考にし、更に近年の判 例を含む27件を考察する。また、それらを4つのグルー プに分けた。

第1節 設計図の複製

「冷蔵倉庫」事件に見られるように、複製権は一個の 著作物の全体的な複製ではなく、一部分の複製であって も、その部分が著作物として価値を有するものである限 り部分複製として保護される。

また「小林ビル設計図書」事件等により、建築士が他 の建築士の設計図の一部を複製、取り込んで自己の設計 図を作成することは、著作権の侵害にあたるとされてい る。

旧法では「原作の再製と感知できるもの」も複製と判 示されていたが、現在の著作権法では、明らかなデッ ド・コピー、もしくは複製者が認めない限り複製と判断 されていない。

16の設計図の事件より、設計図を少しでも改変して複 製をされた場合、具体的には配置の変更、材料の変更、

寸法や勾配の変更があった場合現状では複製と判断され ない事がわかった。

しかし、現状の著作権法では図面に従って建築物を完 成させることが「建築著作物の複製」と考えられてしま う。また、設計図に描かれた建築物が未だに存在してい ない場合でも、第三者がその設計図に従って完成させれ ば、現実には存在していない建築物の複製となる。

第2節 建築物の複製

著作権は「創作性」があれば認められるのだが、「シ ノブ設計」事件等が示すように、建築物の著作権には

「芸術性」が認められないと複製と判断されない。

これは、建築物の著作権を保護する要旨が、建築物の 美的形像を模倣建築による盗用から保護することにあり、

通常のありふれた建築物までを著作物として保護すると、

後続する著作物の多くが複製権侵害となってしまうから である。

しかし、「グルニエ・ダイン」事件(5,6)で分かる通 り、「グッドデザイン賞」という権威ある賞を獲得して

(4)

芝浦工業大学工学部建築工学科 2012年度卒業論文・卒業設計梗概

いようと、侵害は認められず、正常な習慣に反する行為 である盗作が放置されるおそれがある。

建築物の複製が認められたことは無く、これは著作 権法2条の規定により、複製と認めることが難しくなっ ている。

(5) 立面図の比較

(6) 建物の写真の比較

またこの「芸術性」を判断するのが、芸術の知識が無 い「一般人」をもって判断をするので、一般住宅はもち ろん「芸術性」があると判断される建物はごく僅かであ る。

設計図の場合、複製したかどうかは、それぞれの図面 の類似箇所や同一箇所を元に判断される。しかし建築物 の場合、一応はそれぞれの類似箇所の判断はするものの、

重要な判断材料は、元の建物に「芸術性」があるかどう かである。

第3節 著作者人格権の侵害

「各著作権侵害差止等請求」事件ではエスキスにも著 作権が存在する事が示され、エスキスの表現を改変する と、同一性保持権の侵害となるとされた。

「セキスイツーユーホーム」事件では、広告使用に撮 影した写真にも著作権はあると示された。

著作者人格権については現行の著作権法で問題がない。

第4節 その他の侵害

憲法21条に関わるとした「公文書公開拒否処分取消請 求」事件など、相手が市や国でも同様に著作権は行使で きることが分かる。判断も個人に対するものと変わるこ とはなくその他の行政法、憲法での問題も無いものと考 えられる。

第4章 これからの著作権

第1節 ドイツの著作権法との比較

ドイツの著作権法でも建築物の著作権が認められるに

は「芸術性」と同旨と考えられる「美術性」が要件とし て必要である。

しかし、ドイツの場合は実用目的が建築物の美術保護 を排除しない。そして美的内容が実用目的を凌駕するこ とが必要ではないとされている。一方日本は、実用的な 住宅には芸術性はまず認められないと判断されている。

また建築物と周囲の世界との関係や複数の建物相互の 配置も、美術性の判断の重要なポイントと判示されてお り、美術性の評価に積極的である。

個々の建物の造形だけを考える日本と違い、景観のは め込まれ方、個々の建物の相互作用も美術性の有無の基 準となり、美術性の高低では判断しない。

芸術の知識の無い一般人で芸術性の評価をする日本と 違い、ドイツは「美術に対して感受性があり美術品をか なり熟知している素人」が美術性を判断する。

第2節 これからの著作権

建築という分野だけでなく、今後益々技術は進歩し、

著作権も時代とともに変化していかなくてはいけない。

現状の著作権法では、図面が盗用されても複製かどう か判断が難しい。また建築物そのものには「芸術性」が 無いと著作権は認められないため、存在する多くの建物 のデザインは模倣に対して対抗力をもたない。

建築において部分や全体の盗作や複製が容易に出来て しまう時代である。そのため立法をも視野に入れて、救 済を検討すべきである。

第5章 まとめ

建築において、法律により保護される規定はいくつか ある。しかし現状、設計図においては著作権はほぼ認め られておらず、建築物においては、全く認められていな い。

そのため時代の移り変わりによって、著作権法2条の 複製についての改正が出てきたと考える。

ドイツの法学者Locherは建築の著作物を控えめな言い 回しとして「建築学の手段を持って実現された創作物で、

造形及び個性が認められるもの」と表現した。

建築家の個性である「作風」が建築物に具現されてお り、ある程度の造形水準が満たされているものを保護す ることが必要である。

正当な保護のもとに生まれる競争が、本当の意味での

「芸術性」のある建築物を誕生させるのである。

(参考文献)

角田政芳ほか 『知的財産法』 (有斐閣アルマ、第6版、2012) 日向野弘毅『建築家の著作権』(成文堂、初版、1997 松本克美ほか『建築訴訟』(民事法研究会、第1刷、2009) 中山信弘 『著作権法』 (有斐閣、第6刷、2010) 大森文彦 『建築の著作権』 (大成出版社、第1版、2006)

参照

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