高速度鋼工具の摩耗について
工具摩耗からみた被削材への適合性
高 本
洋
祐*
(昭和47年9月30日受理)
A study on the wear of high speed steel tool in metal cutting
一 Adaptability of high speed steel tool to work materials 一一一一一一
Yousuke KouMoTo
(Received September 30, 1972)
As a method of examining the adaptability of high speed steel (H. S. S) tool to work materials, relations among wearr esistance, hardness at high temperature and so on from the characteristics of cutting temperature was inves−
tigated,
The main results are as follows.
(1) Whether the wear of H. S. S. tool is apt to be affected by the heat or not is estimated from the slope of Vrwe diag1am (log−log scale). Namely, the smaller the slope of the straight line, the more the wear of H.
S. S. tool is apt to be affected by the heat
(2) The larger the energy required to take away particles oi tool, the higher the cutting temperature becomes in the region of low velocity. And so the abration resistance of H. S. S. tool is estimated irom the VA一・e diagram.
1. ま え が き
切削工具として多く用いられる高速度鋼はタングステン
(W)系とモリブデン(Mo)系に大別され,要求される性 能は耐摩耗性,高温かたさ,靱性などである。とくに耐摩 耗性と切刃の形状を維持する高温かたさは切削能力を維持 するために必要である。しかしこれらの性能をすべて兼ね 備えたものは現在のところなく,やはり工具の化学成分や 熱処理法などによってそれぞれ特徴を有している。このた め,切削工具の特徴をうまく利用して切削することが必要 になってくる。
そこで,本研究は与えられた被削材への高速度鋼工具の Tabl 1
適合性を調べる手段として,工具の切削温度特性より耐摩 耗性と高温かたさなどの関連性について考察する方法を検 討した。
2. 実 験 方 法
切削方式はパイプの端面を切削する二次元であり,切削 油剤は用いていない。実験に用いた工具は高速度鋼工具
(完成バイト)で,W系としてSKH4, Mo系としてSKH57の 二種類を用い,工具形状はすくい角25。,逃げ角5。である。
被削材は焼ならしした試錐用継目無し鋼管(STM−R 70,
89.1φ×4.0)で,肉厚,4 mmのものを3mmに成形して使用 した。Table 1は使用した工具および被削材の化学成分を Chemical composition of the tools and the work used (%)
STM−R70 SKH 4 SKH 57
c
o.4s 1
O.79 1.22
si Mn
O.25 1.23
P
O.022
s Cu
O.017i O.02 Cr
4.09 4.06
Mo
O.52 3.51
W
18.26 9.89
1v
1.49 3.50
Co
9.89 9.79
*機械工学科
一 281 一
津山高専紀要 第3巻 第3号(1973)
5TM−R70 5KH 4 ,SKH 57
Fig. 1 Photomicrographs of the tools and the work used (×600)
示し,Fig.1はそれらの顕微鏡組織写真である。中興材お よび工具のかたさはビッカース硬度計を用いて測定した。
それぞれのかたさは(STM−R70)HV=235,(SKH 4)、HV ==
906,(SKH57)Hγ=913であった。
切削実験は送りを0・3mm/revと一定にし,切削速度(V)
は5〜45m/minで,5m/minの速度間隔である。工具摩耗 量の測定は切削顕離50mごと(途中で切削不能になった場 合はその時点で実験を中止した)に行ない,切削距離が 200mになるよう切削した。予備実験の結果から200mの切 削で測定には十分な摩耗量が得られた。切削距離50mごと に測定した項目は切削開始直後に切削温度(θ),切削の始 めと終りに切削抵抗,切屑厚さ,またそれぞれの終りに測 定する工具の逃げ面摩耗溶着物を考慮したクレータ最大 深さである。
Mercury contact
Chuck
i,・ll,li Ll ,,
AC
100 V
Transtormer
;,Hti
Insulatio6
o
gtrom−et
Copper ring
c穆
jl(/auptel
Toot
Work
Recorder
Chip Tool
Fig.2 Experimenta1 setup used to determin cutting temperature
Copper wire
切削温度の測定は工具一二削材熱電対法によった。
Fig・2は切削温度の測定方法を示し, Fig.3は熱起電力と 温度の較正方法を示す。送り0・1〜O・5mm/revのV〜θ線図 は常に新しい切刃を用い,定常状態の熱起電力値を示すま で測定して得られた値をプロットした。
機械的すきとり摩耗に対する切削性能はセメントモルタ ル(型込め後1日置き,その後28日間水中養生したもの)
切削で調べた。この時のセメントモルタルのかたさはショ アー硬度で23,工具形状は(0。,25。,5。,5。,8。,45。,
!ce baV/h 11 ua wawa lee 困Rec。而・・眺 講
lce, box CA−Thermometer
Fig.3 Experimental setup used to calibrate tool−work thermocouple
0)であり,切削条件はV×d×f−2・5〜10m/min×1.5mm
×0.2mm/revである。
3.実験結果および考察
Fig・4はFig.3の較正方法で得た工具一二削材熱電対 の熱起電力〜温度の較正曲線である。これを用いて切削速 度と切削温度の関係を両対数グラフにプロットしたものが Fig.5である。 Fig.5の二つのグラフについてV〜θ線図は 大体二本の折れ曲った直線で表わされ,折れ点は500。C近 Toot( )一Chip(+) Thermat etectromotive force
O.5
o
。5
0 L @0 5
O
ロ コ ︵︾E︾.﹂.Σ.国
SKH 4 . STM−R70
o
1co s(oc}4(ioXsoO ooO 700 800
一〇.5
一1.0
400 5KH 57−5TM−70
100 200 300 500 600 e(Oc)
O 800
Fig.4 Calibration curves for tool−work thermocouples
used
︵︒︒︶o .α∈Φ一9ヨδ
5KH 4−STM R 70
800 T00 R00 Q00
一.ζ 1
脇ま享象 一 一 『 9
100
.0・1
5 10 20 30 50
Cutting speed v(mimin)
AU
乞¢ 800
asooE
th
炉・ R00
pmg 200ヨ
コ
リ 100 1
SKH 57−5『rM R70
i
稽牽。 [_ 0.3 ・
α2.
ミ」 一一
5 ro 20 30 50 Cu賦ing speed v(m/min)
Fig.5 Cutting temperature as a fungtion of cutting speed
傍にあり,送りを増せばその位置は低連側に移っていく傾 向を示す。しかし低速域における切削温度はSKH57の方が 高く,一番大きな違いはSKH 4工具とSKH57ユ:具の勾配で ある。特に送りが大きくなった場合この差異は顕著に表わ
れている。また折れ点以降の温度上昇をみるとSKH57工具 はSK:H 4工具に較べて殆どないことも解る。これらの差異 が両工具のどのような性能の違いを示しているかを検討す
る。
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ie轡(・)沿。 m 」 (4) 200m
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5 10 20 30 50 5 10 20 30 50
Cu ing speed V(mtmin) Cutting speed V(mlmin)
Fig.6 Specific abrasion work on rake surface as a function of cutting speed
Fig.6は切削距離50mごとに求めたすくい面上の比摩耗 仕事Wab(工具1mm3を摩耗させるのに必要な摩擦仕事 量)と切削速度の関係を示したものである。この場合すく い面上の摩擦仕事量は記録した切削抵抗,それに切屑厚さ と切削長さから次のようにして求めた。すなわちすくい面 上に働く摩擦力は工呉に作用する力の関係から
Ff==F.cosa+Fasina (1)
となる。ここで Ff:摩擦力 Fx:背分力
Fa:主分力 α;すくい角 また摩擦距離は切屑の長さ1に等しく 1=五×7
と表わせる。ここで L:切削距離
γ:切削比(γ ・= t1/t2)
tl:切取厚さ t2:切屑厚さ 故に摩擦仕事量はTfは(1),(2)より
(2)
一 283 一
津山高専紀要 第3巻 第3号(1973)
Tf=Ff x t (3)
となる。次に,高速度鋼工具の特に実用的な切削速度の大 部分では構成刃先が生成し,これを完全に取り除くことは 困難である。従って工具の摩耗量:をその重量より計ったも の1)もあるが,ここでは切刃に垂直なクレータ断面を三角 形で近似して,クレータ最大深さ,クレータ長さ,切削幅 から幾何学的に求めた。なお低速域においてはクレータ断
面を三角形で近似できないものもあり,これはグラフには プロットしていない。Fig. 6から(1),(2),(3),(4)いず れの切削距離でも比摩耗仕事は低速でSKH 4とSKH57との 間に大きな差を認めることができる。しかし速度が増加す るにつれて両者の差は小さくなってゆき,35m/minを越え るあたりからは殆ど逆転している。このことはFig.7に示 す工具摩耗の写真観察からも認められた。
︷bKHH
57
V言25m/min V=30 mlmin V=35m/min
Fig.7 Photographs of tool wear (Cutting length 200m)
急goo8
宅 800g・
1> 700
600塗
S 500電 蓄40。薯
ヌ300 200 100
SKH 57
=il,S!2H4.}i−IX〈N(xxTiL…一
ヰ斗4
i)vu.
T
OLrd6−mbtm−tm
Temperatute (ec)
Fig.8 Vickers hardness of the tools and the work use(1 as a function of temperature
一方,工具の高温かたさを調べた結果をFig.8に示す。
400。C位まではSKH57の方がSKH 4より硬いが,更に温度 が高くなればその関係は逆転しており,この現象は前述の 比摩耗仕事の場合とよく一致している。従って高速度鋼工 具の高温における摩耗は工具の高温かたさ特性により大き な影響を受けると見なすことができる。
またFig・5においてSKH57工具の折れ点以降の温度上昇 が殆どないのは,すくい面上ですでに相当の軟化が生じて いるためと考えられる。本実験のような方法で得られる切 削温度が600。C位の時,工具すくい面の金属学的観察から 実際は800〜900。Cになっていると推定されるとの報告2)
もあり,この推定でいけば工具の相当の軟化ということは 十分推察される。
以上の考察によりv〜θ線図(両対数)の勾配の小さ いもの程,工具の摩耗は熱の影響を受けやすいといえる。
これまで対象としてきた摩耗は熱の影響を受ける溶着摩 耗と機械的なすきとり摩耗の両者を含んでいたが,次に耐
0 5
1 ∩U︵三E︶↑ 2 91 ∩u O
Φ︸= 一〇〇↑
O.04 1 2 5 10 20 30
Cutting speed V(mlrnin)
唆魁
@
ら ︑ ︑︑
、、、A
、 、 A 、
、、A ︑ ︑ ︑︑ ︑
1 、 、、 、
Fi晋.9 Tool life curves for ceme1並一皿ortar cutting Cutting conditions V×d×f=2.5tv 10m/min×1.5rnin × O . 2mm/rev
Shore hardness of the work 23 Value of wear for tool life VB := 1.Omm
すきとり性を分離して調べるため溶着摩耗を防いですきと り摩耗だけを起こさせるようセメントモルタルを低速で切 削し,工具寿命線図を求めた。その結果をFig唇9に示 す。SK:H:57工具はSK:H 4工具より寿命は長い。このこと はFig.8の低温域における工具の硬度差からも推測され る。そしてFig.6の比摩耗仕事と切削速度との結果から 考えて,V〜θ線図における勾配の小さいもの程工具の粒 子を掘りおこすのに多くのエネルギーを要し,そのためす くい面上の温度がやや高くなるのにもかかわらず,なおそ の摩耗量は少なく耐すきとり性が大きいことが解る。
,,!
烈誉1二 烈
被削材STM一一一R70切削における逃げ面摩耗の測定結果 は両工具とも大差ない。
切削速度とせん断角との関係はFig・10に示し,切削速 度と摩擦係数との関係はFig.11に示す。両者の実験結果 とFig.6の結果と対比して考えると, SKH57工具は切削 速度25:n/min以下でせん断角や摩擦係数の変動も少なく,
安定していて,Fig.6に示した比摩耗仕事量の大きいこと と一致し,切刃形状が安定していることを示している。こ のことからFig.10,11の実験結果は工具切刃の安定性を 推測するうえで有効であると考える。
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婁:l
lザ57
1書
Cuttin9 length
5 10 15 20 25 30 35 40 45.
Work sTMR70
Feed e.3rnrnSrev
・一_ r/で診 一嘱
の
(2)
SKH 4 Work sTMR70 Cutting length
Feed O−3 mbrnirev ((2i i i osoOll i
\、ご義
Lgsrtrm−fte一一ttis 2 36Tsts一一zt5ztso 4s Cutting sPeed V mlmin
Fig.11 Relation between coefficient of friction and cutting speed
蓼
蕊42 38 34 30 26 22
5 i,
/洲57麟
1. kL..
15 20 25 30 35 40 45
S丁MR70 0.3mmtrev
{2)
(1)
4.結 論
以上の実験および検討の結果,次のように結論できる。
(1)高速度鋼工具の摩耗が熱の影響を受けやすいか否か はV〜θ線図(両対数目盛り)の勾配により比較,
推定できる。すなわち直線の勾配の小なるもの程,温 度の影響を受けやすい。
(2)工具の粒子を持ち去るに要するエネルギーが大なる 程,低速域における切削温度は高くなり,V〜θ線 図より高速度鋼工具の耐すきとり性は推定される。
終りに,実験装置製作に御協力頂いた山下技官と終始御 鞭捷頂いた矢吹助教授に厚くお礼申しあげます。
5 10 15 20 25 30 35 4D 一4S
Cutting speed V rnlmin
Fig.IO Relation between shear angle and cutting
speed
文 献
1) J. Poumy; Microtecnic Vol. XVI, No.4 15e.
2)菊地,田中;精密機械 VoL 37, No.5(1971−5)355.
一 285 一