素材物性学雑誌 第11 巻 第
2号
12‑20(1998)論 文
繰 り返 し摩耗 におけるな じみ機構 について
谷 谷
神 熊
; . i +
賢 省
池 藤
菊 督
Runnlng‑inBehaviorofRepeatedDryWearomMetals by
KenyaKIKUCHII,OsamuKAMIYA††,YoshinoriSAITOTandKazuoKUMAGAエI†† Abstract
BeginnlngOftherepeatedlywear,severewearconditionofhighwearrate becomes predominate. Thewearratedecreaseswithtimeand thewearcondl‑ tlOnChangestoamildwear. Afterthat,awearbecomeshardlyadvanceand becomesstablecondition. Anoxidefilm formsatawornsurfaceandthesur‑ facegeometrybecomessmooth. Thatcondltioniscalled "runnlng‑in". The transitionmechanism from severeto "running‑1n" isImportantforconstant operation ofthemachinethathasa mobile components contacting among metals.A dryingrepeatedweartestofaplnOndiskwasstudiedunderunlu‑
bricationconditioninthisreport. Also,achangeofarunnlng‑1nprocessin magneticfieldhasbeenstudied. Theresultsarereportedasfollows.
KeyWords:SevereWear,MildWear, Wear
1.緒 言
相対すべ り運動をす る金属同士 は必ず摩耗を生 じる。
一般 に機械の相対すべ り運動をす る摩擦面では,初期
平成
10年
8月21 日受付
*秋 田大学大学院鉱山学研究科博士前期課程機械工学専攻
〒010
秋 田市手形学園町1‑
1**秋 田大学工学資源学部機械工学科
〒010
秋 田市手形学園町1‑
1***秋 田県工業技術 セ ンター
〒010
秋 田市新屋町砂奴寄4‑
1TGraduatestudent,GraduateschoolofMechanicaland Englneerlng,MlningCollege,AkitaUnlVerSlty,1‑1 TegataGakuencho,Aklta0
1
0,Japan.TTDepartmentofMechanicalEngineering,Facultyof EngineeringandResourceSclenCeAkitaUnlVerSlty,1‑1 TegataGakuencho,Aklta010,Japan.
††TAkltaPrefecturallndustrlalTechnologyCenter
,
4‑llArayamachlaZaSanuki,Aklta010,Japan.倭, * * 男 * * *
Running‑ln,AdhesiveWear,Abresive
の運転期間中に接触の状態が改善 され,以後の運転 で は摩擦 も低 くなって作動が滑 らかになるなど潤滑性能 が向上す る(1)。
繰 り返 し摩耗では,最初 は摩耗の進み方が早 く, 時 間 とともに次第 に遅 くなってい く。摩耗の初期にお い て高 い突起 は,優先的にその先端部か ら除去 されると 同時に,相手面の突起 によって押 しつぶ されて塑性変 形す る。その結果,高い突起付近 の谷の部分 は,逆 に 塑性変形 によりかな り隆起 して持 ち上 げ られ る。 この 状態を初期摩耗 とよび激 しく摩耗が進行す るので シビ ア摩耗 とも呼ばれ る。
次 に,塑性変形 による隆起が摩耗 により次第 に減 っ てきて,摩耗 の進行が遅 くなった状態を定常摩耗 あ る いはマイル ド摩耗 と呼ぶ。 このように摩耗形態が変 わ る理由は,摩擦 によって表面 に酸化膜が形成 され, そ
12
第 11 巻 第
2号(1998)繰 り返 し摩耗 におけるな じみ機構 について
れが表面 を保護す るためであ る。定常状態 にな り, 酸 化膜が形成 されたとき表面 はなめ らかにな り, この状 態 は "な じみ" と呼 ばれている。 この ̀̀な じみ" は, 接触す る可動部 を持っ機械 の運転 で重要な過程である。
な じみ過程 における表面粗 さ,酸化膜形成,表面 硬度 などが,焼 き付 き性や摩耗 に影響 を及 ぼす ことが知 ら れて いる(2ト 〔3).摩耗 にお けるな じみに関 して い くつか 報告 されているが(4)〜(7),どのよ うなメカニ ズムで な じ み過程 にな るか はまだ十分 には報告 されていない。
川根 らば 8),磁場 の存在 によ って,摩耗粉が きわ めて 微細 な黒色酸化摩耗粉 に変化 し, これ らが摩擦面間 に 吸着介在す ることよって,摩擦 の ごく初期 において シ ビア摩耗か らマイル ド摩耗 に遷移 し,結果的に摩耗量 が減少 した と説明 してい る。 この ことを利用 して, 短 い摩擦距離でな じみ過程 に遷移 させ ることができれば, 金属同士 の摩耗 において,摩耗量 の低減 につなが る と 考え られ る。
そ こで本研究 で は,無潤滑条件下で ピン対 デ ィス ク の乾燥繰 り返 し摩耗実験 を行 い,任意 の時点 において 走査型電子顕微鏡 (以下SEMと略す) と三 次元 表面 測定装置を用 いて,な じみ過程 を解明す ることを 目的 とした。 また,磁場 をか けたときのな じみ過程 につ い て も検討 した。
摩耗 機構 の種 類
摩耗機構 には多 くの種類 があるが, ここで代表的 な 例をあげ簡単 に説明をす る。
(1) 凝着摩耗 (adhesivewear)
真実接触面で凝着が生 じた とき,表面問の接線方 向 への相対移動があると凝着部分 の付近で破断が発生 し て相手面 に移着す る。 これが繰 り返 され ると移着物 は 成長す る。そ して,最後 には接触面か ら排 出 され摩耗 粉 とな る。 このよ うな摩耗 をい う。
(2)アプ レシブ摩耗 (abresivewear)
これ は,摩擦面の一方が硬 くて凹凸の激 しい場合 に 生ず る摩耗や,二面問 に硬 い固体粒子が入 った ときに 生ず る摩耗である。
(3)腐食摩耗 (corrosivewear)
雰囲気中に水分,酸 などの腐食性物質が存在すると, 固形異物が無 くて も著 しい摩耗が生ず る。 これを腐食 摩耗 とい う。
本研究 に関連す る摩耗機構 として は,主 に(1)凝着 摩
13
耗 と(2)アプレシブ摩耗である。
2. 実験 方法 2.1実験装置
Fig.1は, ピン ・デ ィスク型摩耗試験装置の概 略 で あ る。回転す るデ ィスクに ピンを所定 の荷重で押 し付 けることによ り摩耗 させ る。
ピンは磁化 コイルの中央 に挿入 されてお り, コイル に種 々の強 さの電流 を流す ことによ り磁化す ることが 可能 である。
デ ィスクと ピンの摩耗量 は,摩耗前後 の質量 を精度 が0.1mgの精密 自動天秤 に よ り計 測 し,質量 の減量 か ら計算 した。
実験 は, ピンに与え る荷重 をP‑1Nと し, 摩擦速 度 はⅤ‑500mm/S,摩擦距離 はL‑3000m,磁 束密 度 はB‑20mTと した。
2.2試験片
実験 は,NiピンとS45Cデ ィスク, お よびS45Cピ ンとS45Cデ ィスク,NiピンとNiデ ィス クの組 み合 わせである。(以後,それぞれ の ピ ンとデ ィス クの組 み合わせ は,Ni/S45C,S45C/S45C,Ni/Niと表 記す ることにす る。)
加工 ひずみ を除去 し, 磁気 特性 を改善 す るため に 1173KX1200Sの真空焼 きなま しを行 った,直径2mm, 長 さ約30mmのNiとS45Cの ピンを使用 した。 デ ィ
スクは,S45C (99.55% Fe,0.45% C)の丸棒 を素材 と して外形約45mm,厚 さ約6mmに削 り出 した もの で,熱処理 は施 していない。Niデ ィス クは市 販 され ているニ ラコ社製¢50×5mm (99.7%)を使用 した。
デ ィスクの摩擦面 の仕上 げは,研摩紙 (九 本工業研
Fig.1 Pinondisktypeweartestapparatus
14
菊池賢靖 ・神谷 修 ・窯藤省律 ・熊谷一男
摩紙 #80,♯180,♯320,♯400)を使 い,手動で磨 き 上 げた。 また, ピンの摩擦面 の仕上 げ は研 摩紙 #400 を使用 した。
本実験で は,デ ィスクの初期 の表面状態 (#80,#
400仕上 げ)を変化 させて摩耗実験 を行 った。
各試験片 は,超音波洗浄機 を用 いてアセ トン洗浄 し, さ らに加工 による磁化 の可能性があるので,その影 響 を除去す る目的で大型 コイルに挿入 す る ことによ り, 磁気 モーメ ン トが小 さ くな るように交流消磁 して使用
し た 。
3. 実 験結 果
3.1 N
l
/S45Cの組み合わせ にお ける摩耗挙動 Fig.2にP‑1N,初期Ra‑0
.4〝mの摩擦距離 と 摩耗量,およびRaの関係 を示す。B‑OmTの場合 は, 摩耗量 は摩擦距離 とともに増加 して,1000m付近か ら 一定 とな っている。Raは摩擦距離 の増加 とと もに増 加 し,L‑50m付近で最大 とな り,その後 は低下 して いる。そ して,L‑1000m付近か ら一定 とな っている。この ころか ら,な じみ状態 にな った と考 え られ る。 摩 擦表面 には摩耗粉が付着 して黒 くな ってい るのが観察
された。
B‑20mTとした場合 は,摩耗量 はB‑OmTの と き に見 られ る急激 に摩耗す る部分が存在 していない こと がわか る。Raの変化 において も, シ ビア摩耗 によ り 粗 さの上昇す る部分が存在 していない ことが わか り, ゆ るやかに増加 していることが見て取 れ る。
Fig.2 Relationshipbetweenwearamount, ReandslidingdistanceofNi/S45C
B uJ ‑N
HunOu J
eJeaNtEdLetjS IIdlng dISlance L.m
Fig.3 Relationshipbetweenwearamount, ReandslidingdistanceofNi/S45C Fig.3に,同 じ条件で初 期 の表面粗 さ (Ra)を大 きくした場合 の結果を示す。摩耗量 は,初 期Raが小 さい ときよ りも少 ない ことがわか る。 これは,摩耗粉 が初期表面 の凹凸間 に堆積 したため と考え られ る。 ま た,Raが安定す るのに時間がかか って い るの も見受 け られ る。
3.2 S45C/S45Cの組み合わせ にお ける摩耗挙動 Flg.4にP‑1N,B‑OmTの摩 擦距離 と摩 耗 量 , Raの関係を示す。摩耗量 は直線的 に増加 し非常 に大
きくな っていることがわか る。初期Raが大 きい場 合 は,約500mまで摩耗量が少 な く,Raの変 化 も安定 していることがわか る。 これ は,摩耗 の初期 には接触
0 10 00
S liding d ista nce L.m
2 0 00
Fig.4 Relationshipbetweenwearamount
,
ReandslidingdistanceofS45C/S45C第 11巻 第
2号
(1998)繰 り返 し摩耗 にお け るな じみ機構 につ いて
3000
0 1000 2000
SHdlng dfStanCe L.m
Fig.5 Relationshipbetweenwearamount, ReandslidlngdistanceofS45C/S45C
面積が小 さ く,凝着摩耗 とそれ にともな う掘 り起 こ し が起 こりに くいためにこのよ うになると推測 され る。
Fig.5にP‑1N,B‑20mTの摩 擦距 離 と摩耗量 , Raの関係 を示す。摩耗量 は磁場 な しの ときの1/100 程度 にな っていることがわか る。 また,初期Raが大
きい場合 はデ ィスクの摩耗量が微量であることがわか る。磁場 の存在 に関わ らず,初期Raが大 きい ときは 摩耗量が少 ない。
これ らの ことよ り磁場 をか けることによ り,同材質 の場合で も摩耗量が少 な くなることがわか る。
3.3 Nl/Nlの組 み合わせにおける摩事毛挙動 摩擦距離 と摩耗量,Raの関係 は, 同 じ材 質 の組 み 合わせ とい うことか ら,S45C/S45Cの ときと同様に, 摩耗量 は直線的 に増加 して非常 に大 き くな った。 こ こ で はグラフは省略す る。
B‑20mTとした場合 も先 に述 べたように,S45C/
S45Cと同様 に直線的 に変化 した ので ここで は グ ラフ は省略す る。
3.4摩擦表面形態の変化
3.4.1 Nl/S45Cの組み合わせ にお ける摩擦表面 今 回の実験 で得 られた結果 の うち,な じみ評価 につ いて有用であ ると考 え られ る代表的なものを紹介する。
Fig.6にNi/S45C,P‑1N,B‑OmT,初 期Ra‑
0.4〟mのデ ィスクの三次元摩擦表面 を示 す。50mの ときは表面が粗 く,摩擦距離 の増加 にともな って表面 形態 は変化 し,3000mの ときはなだ らか にな っている
L=4001¶
15
L=3000yTl
Fig.6 Shapeof3‑dim ensionalsurfaceofS45C disk (Ni/S45C,P‑ 1N ,B‑Om
T)
L=130Ch L=3000m Fig.7 Shapeof3‑dimensionalsurfaceofS45C
disk(Ni/S45C,P‑1N,B‑20mT)
ことがわか る。 この ときは既 にな じみ状態 にな って い ると推測 され る。
B‑20mT,P‑1N,初期Ra‑
0
.4〟mのデ ィスク の二次元摩擦表面 をFig.7に示 す。 磁場 をか けた場 合 は,摩擦表面 に摩耗痕 はみ られ るものの,磁場 な し の ときのように激 しい凝着 は起 こっていない ものと推 測 され る。3.4.2 S45C/S45C組み合わせにおける摩擦表面 Fig.8にP‑1N,B‑OmT,初期Ra‑
0
.4FLmの摩 擦表面 を示す。同材質 とい うことか ら,摩耗 の進行 はL=900 m
菊池賢靖 ・神谷 修 ・碧藤省律 ・芳賀谷一男
しこ1300m
Fig.8 Shapeof3‑dimenslOnalsurfaceofS45C disk (S45C/S45C,P‑1N,B‑OmT)
S45Cの結果 と類似 した形態で変化 した。
3.5 摩擦表面 のEDSX線分析
摩擦表面 が どのよ うに変化 してな じみにな るのかを 検討す るために,摩擦表面 に付着 している摩耗粉 の質 量含有率 を調べ るため,EDSX線分析 を行 った。以 下 にその結果 を示す。
Fig.10に摩擦距離 と付着摩耗 粉 中 の質量 含有 率 と の関係 を示す。デ ィスク摩耗表面上 にお け る Feの質 量含有率 は,初期摩耗領域か ら遷移領域 に移 るに従い, 急激 に質量含有率が減少 しているのに対 し, ピン摩耗 表面上 におけるNiはそれ ほど大 きな変 化 はみ られ な い。 また,定常摩耗領域 に遷 移 す る とデ ィス クで は, デ ィスクの材質であるFeが, ピンで は ピ ンの材質 で あるNiが,40%前後 に落 ち着 いていることがわか る。
ピンにおけるNl質量含有率 は,定常 摩耗 領域 に遷 移す る際 の減少 の割合がデ ィスクのそれ に比べ急激で ある。 これ は,Feに比べNiの方が軟 らかいため破 砕 した摩耗粉 のか どが とれやす く, ほかの物質 と混合 し やす いためだ と考 え られ る。また,デ ィスク摩耗 表面 上 においてNiは徐 々に遷移領域 まで増 加 し, 定常 摩 耗領域 にいた るまで数値 は安定 している。
これに対 し酸素質量含有率 は初期摩耗領域で はほと ん ど存在 しないが,遷移領域 に達す るとともに急激 に 増加 し,定常摩耗領域 まで少 しずづ増加 していること がわか る。
ピン摩耗表面上 におけるFe質量含有率 は,初 期 摩
L=900r n L=3000n 1 80
Flg・9 Shapeof3‑dimensionalsurfaceofS45C disk (S45C/S45C,P‑1N,ち ‑20mT)
速 く,表面 は凝着 にともな う激 しい掘 り起 こしにより, 凹凸が大 きくな ってい る。摩擦距離が増加 して も,磨 擦表面 の状態 はN
i
/S45Cの ときのように安定 は しないと考え られ る。
Fig.9にP‑1N,B‑20mT,初 期Ra‑
0
・4LLmの 摩擦表面 を示す。初期Raが小 さい場合 は,Ni
/S45Cと同様 に凝着 にともな う掘 り起 こしの後 は特 にはみ ら れない。そのため,摩擦距離が増加 して も表面 はなだ
らか にな ってい ることがわか る。
なお,Ni/Nlの組 み合 わせ も摩擦表面 はS45C/
%ss
e
uj■
量SO d Lu
8E
eUEula
エ31000 2000 3000
S llding distance L.m
Fig.
1
0 Relationshipbetweenmasscompo‑Sitioninadhesionwearparticlesand slidlngdistance
第 11 巻 第
2号
(1998)繰 り返 し摩耗におけるな じみ機構 について
耗領域 において多少減少 し,遷移領域以降は増加 は し ているものの30%付近 で安定 して い る。酸素質量含 有率 は摩擦距離の増加 とともに増 し,定常摩耗領域 に は30%程度 に増加 している。また,定常摩耗領域 にお いてデ ィスクではNiと酸素が ほぼ同 じ質量 を 占めて お り, ピンで はFeが酸素 とほぼ同 じ質量 を 占めて い ることがわか る。
4.
考 察
4.1異種金属同志の組み合わせにおける摩耗挙動 前述の結果か ら,異種金属組み合 わせでは,摩擦距 離の増加 にともない摩擦表面 には摩耗粉が付着 し,酸 化す るということがわか った。
また,磁場 により摩耗粉が摩耗 の初期 に微細化 し, 表面同士の凝着が起 こりに くくな り摩耗量が減少 し表 面 も安定 に保つ ことがで きる。磁場 をか けた場 合 は, 表面同士の凝着があまり起 こらず に摩耗す るというこ
とがいえ る。
初期表面粗 さを大 きくした場合 は,発生 した摩耗粉 が,摩擦表面 の初期表面の凹凸の問 に入 り込んで堆積 し, トラックか ら排出され る摩耗粉が少ないため摩耗 量が減少 しているように見えると考 え られ る。 また, な じみになるのに時間がかか っているように見えるの は,摩耗の初期 に接触面積が小 さいために,ある程度 の大 きさの接触面積 になるまでに時間がかか り, シ ビ ア摩耗 になるのが遅れ,その後マイル ド摩耗 に遷移 す るためにこのようになると考え られ る。
4.2 同材質の組み合わせにおける摩耗挙動 S45C/S45C,Ni/Niの結果か ら,同種金属同士 の 組み合わせでは,摩耗量およびRaは摩擦距離 の増加 とともに増加す ることがわか った。 このような摩耗形 態 になるのは,同材質の組み合わせでは凝着が起 こり やす く,それに伴 う掘 り起 こしが大 きくなるためと考 え られ る。摩擦表面 は酸化す るが,す ぐに凝着 によ る 掘 り起 こしのために,酸化皮膜 は摩耗 して排除 され る ため,な じみにはな らないと考え られる。
S45C/S45Cの場合 は,初期Raを大 き くす ること で摩耗量 は減少 しているように見え るが, これは摩擦 表面が全面一様接触 になるまで摩耗量が少ないだけで あって,一様 に接触す るようになるとき, つ ま り500 m付近か らは激 しい凝着摩耗 が起 こって いることが わかる。 したが って初期Raを大 きくした場合 は,潔
17
着摩耗 による激 しい掘 り起 こしを遅 くす る作用がある と考え られる。
また,同材質の組み合わせにおいて も,磁場 によ る 酸化促進作用 により摩耗粉が微細化 し,それが摩擦面 問に介在す ることにより表面同士の凝着を防いでいる ためと考え られ る。
4.3摩擦表面の酸化
摩擦表面の摩耗粉 は,初期摩耗領域 において破砕直 後 に 「か ど」があり,遷移領域 に移 るに従 い 「か ど」
が とれ,そのか けらが1〃mにもみたない細か い摩耗 粉 となりその摩耗粉が酸化 され,丸みを帯 びて,大 き な摩耗粉 に付着す ることによって,酸素質量含有率 が 増加す ると考え られる。
S45Cデ ィスクに付着 したNiとFeの摩耗粉でNi が酸化 していると述べたが, これについて考えてみる。
なお,S45C摩耗粉をFe摩耗粉 と呼ぶ ことにす る.先 に述べたS45C/S45Cなどの同種金属の組み合わせ の 場合 は,親和力が大 きく,凝着 が起 こりやす いために 摩耗量が増大す る。Ni/S45Cの組み合わせで考 え る と,摩耗 の初期 にはシビア摩耗 とな り,摩耗量 は増大 している。 このときの表面の摩耗粉 は,NiとFeが凝 着 しているものであると予想がっ く。それが摩擦距離 の増加にともな って,摩擦表面 に付着 または摺込 まれ てい く。 また, シビア摩耗のときは,摩擦距離 の増加 にともなって摩擦表面の温度 は上が り,その後,摩擦 表面 は酸化す る。FeがFeにこす られ ると,凝若 しや す くな り温度の上昇 も大 きいはずである。 この ことか ら,デ ィスクに付着 したNi摩耗粉 はNiピンに こす られ,それによりFeの部分 よりも温度上昇 が高か っ たために酸化 したので はないか と考 え られ る。Niピ ンに付着 したFe摩耗粉 もこれ と同 じよ うに考 えて, S45Cディスクと摩擦す ることによ り酸化 したので は
ないか と考える。
5.同材質 の組 み合 わせでの摩耗 の改善
乾燥繰 り返 し摩耗 中で は, 同材質 の組 み合 わせ の 場合 には摩耗量 が非常 に大 き くな るとい う こ とが, S45C/S45CおよびNi/Niの結果か ら得 られた。 こ れを何 らかの方法で,な じみ状態にす ることがで きな いか と検討 した。Ni/S45Cで は,摩擦表面 に酸化摩 耗粉が付着す ることでな じみに遷移す ることがわか っ たので,摩耗の初期 にある種の粉末を添加す るとな じ
菊池賢靖 ・神谷 修 ・賓藤省律 ・熊谷一男
みになるのではないか と考えた。粉末の種類 によって は摩耗 に大 きな影響を及ぼす ことがわか ったので以下 にその結果を報告す る。
5.1 S45C/S45Cの組み合わせでの摩耗の改善 摩擦表面問に金属粉を介在 させ ることにより,摩擦 面同士の凝着を防 ぐ金属粉があるのではないか と考え た。そ こで,S45C/S45Cの組み合わせで50m摩耗 さ せた後 に,摩擦表面 に以下 に示す金属粉および酸化金 属粉を添加 して摩耗 した。摩耗 にほとん ど影響を及 ぼ さない粉体 は,A1203(約25〟m),酸化鉄 (Fe203(約 l〟m),Fe304(約l〟m)),純Ni(約10〃mう,NiO (約5〟m)であ り, これ らを添加 したときは,粉体 を 添加 しない ときの50mまで の摩耗形態 と変 わ らず, 掘 り起 こしの激 しいシビア摩耗のままであった。 しか
し,純Fe粉 (約25〟m)を添加 した ときだ けが,瞬 時に してシ ビア摩耗の激 しい掘 り起 こ しの苦 が消 え, マイル ド摩耗時のような摩擦音 に変化 した。マイル ド 摩耗状態 は,Fe粉 1回 の添加 でお よそ250‑350m続 いた。1回の添加量 は50mgである。
Fig.11に50m摩耗 してか ら純Fe粉 を添加 して, その後3.3m摩耗 した ときのデ ィスクお よび ピ ンの sEM写真を示す。摩擦距離が50mときのデ ィスク表 面 は,凝着 による掘 り起 こしのために凹凸の激 しい こ
とがわか る。摩擦距離 が53.3mの摩擦面 は,50mの ときと変わ りないよ うに見 え るが,50m摩耗 してで きた摩耗粉 にFe粉が付着 していることがわか る。 ピ ン表面 にはデ ィスクよりも小 さなFe粉 が付着 して い る。
Fig.12にS45C/S45C,P‑1N,L‑3000m (50m 摩耗後,約200m間隔で純Fe粉 を添加 す る) の摩擦 距離 と摩耗量,Raの関係を示す。 ピンの摩耗量 は50 mのときか らはば変化 はな く,微量 づっ摩耗 して い
る。ディスクには,添加 した純Fe粉 が付着 して い る と考 え られ,摩耗量 は減少 して い ることが わ か る。
1000m付近か らデ ィス クの摩耗量 の変化 ははば一定 となってお り,またRaの変化 も一定 になってい るこ とか ら, この ころか らな じみになったと考え られ る。
以上の ことか ら,純Fe粉添加 によ り瞬時 にマイル ド摩耗状態 にな り,摩擦表面 はなだ らかになるとい う ことがわか る。 また,純Fe粉を摩擦面 に添加 した と きは,磁場をかけたときと同様 に摩耗量軽減の効果 が あると考えることがで きる。
(a)L三50m.S45C
デ ィスク
(b)L=533m,S
45
Cデ ィスク
(C)L=53.3m,S45Cビン
Fig・ll Scanningelectronmicrographshowlng wornsurfaceofS45Cdュsk
(S45C/S45C,P‑1N,Fepowderisadded after50m wear)
0
1000 2000 3000Slidlngdistance L.m
Fig・12 Relationsbipbetweenwearamount,Ra andslidingdistanceofS45C/S45C (Fepowderisaddedinabout200m inter‑ Valsafter50m wear)
第 11巻 第
2号
(1998)繰 り返 し摩耗 にお け るな じみ機構 につ いて
5 2 Nl/ Nlの組み合わせでの摩耗の改善
S45C/S45Cのときと同様 に,50m摩耗 した後,摩 擦表面 に金属粉 を添加 したところ, この場合 も純Fe 粉を添加 したときだけが,瞬時にマイル ド摩耗 に変化
した。マイル ド摩耗状態 は,純Fe粉 を 1回 の添加 で およそ220‑300m続 いた。
50m摩耗 してか ら純Fe粉 を添加 して, その後100 m摩耗 したときのSEM写真 をFig.13に示 す。50m 摩耗 したときの写真 より,デ ィスク表面 はピンとの凝 着 による激 しい掘 り起 こしの様子がわかり,表面は荒々 しくなっている。150mのデ ィスクに は,表面 の凸部 付近 に純Fe粉が付着 しているのがわか る。 デ ィス ク にはおよそ20〟mの大 きさの純Fe粉 が付着 してお り, ピンにはディスクよりも細かいお よそ5〝mの純 Fe粉が付着 している。
以上の ことより,Ni/Niの場合 も純Fe粉 を添加 す ることで ピンとディスクの凝着を防 ぐことで,瞬時 にマイル ド摩耗 に遷移す ると考え られ る。
Fig.14にNi/Ni,P‑1N,L‑3000m (50m摩耗 後,約200m間隔で純Fe粉を添加す る) の摩擦距離 と摩耗量,Raの関係を示す。摩擦表面 は摩擦距離 の 増加 にともな って小 さな凹凸が とれていることが分か る。S45C/S45Cの組み合わせ と同様 に, 摩擦距離 の 増加 とともにデ ィス クには 純Fe粉 が付着 して い る と考え られ,摩耗量 は減少 して い る部分 が見 られ る。
ディスクが1500m付近か ら摩耗量 が少 し増加 して い るが,Raに変化がみ られないところか ら, これ は表 面 に付着 しているFe粉が摩耗 した もので はないか と 考え られる。
なぜ摩擦表面 に純Fe粉を添加す ると摩耗量 が減少 す るのかを考えてみる。A120。やFe20。,Fe。0。,NiO などの酸化物 は表面 には移著 し難 く,かえ って表面 に くいこみ,砥粒 の役 目を してアプレシブ粒子 となって いると考え られ る。そのため,摩耗す ることで アプ レ シブ摩耗が起 こり,それまでの摩耗形態 と変 わ らず, 掘 り起 こしの激 しい摩耗が起 きていたのではないか と 考える。純Niは表面への移着力が弱 いため に,潤滑 剤の役 目はで きなか ったので はないか と考 え る。純 Feはある程度表面 に移著 しやす く, また, とれやす いとい うことが摩耗を減少 させ る原因 となったのでは ないか と考え る。また,大気中の摩耗なので酸素 と接 す る面積が大 きいため酸化 しやす く,摩耗 している間
19
(a)L=
5 0r n,Ni ディ
スク(b)L=150m.Niディスク
(C)L=150m.Nlビン
Fig・13 Scanningelectronmicrographshowing wornsurfaceofNidisk
(Ni/Ni,P‑1N,FepowderlSaddedafter 50m wear)
6LU
▲ P三
UnOLUP)eaNt ∈TyEetj
0 1000 2000
Slidlngdistance
L
,m3000
Fig.14 Relationshipbetweenwearamount,Ra andslidingdistanceofNi/Ni
(Fepowderisaddedinabout200m inter‑ valsafter50m wear)
菊池賢靖 ・神谷 修 ・奈藤省律 ・熊谷一男
に微細化 して表面問に介在 し,凝着を防 ぐのではな い か とも考え られる。
固体潤滑剤の代表的な ものは,二硫化 モ リブデ ン, 二硫化 タングステ ンなどがある。 これ らが固体潤滑剤
としてつかわれる条件 としては,表面 に移着 しやす く, 容易 にせん断 されるとい うことである(9)。 この条件 を 純Fe粉が満足 しているために,摩擦表面 に添加 す る ことで瞬時 にマイル ド摩耗 に変化す るのではないか と 考える。
以上のことより,同材質の組み合 わせ に純Fe粉 を 添加す ることで,瞬時にマイル ド摩耗 に変化 させ,磨 擦面同士の凝着を防 ぎ,摩耗量を軽減で きるとい うこ
とがわか った。
6.
結 言
無潤滑下で ピン対 ディスクの乾燥繰 り返 し摩耗実験 を行 い,シビア摩耗か らマイル ド摩耗 に遷移 し,な じ み機構 になるまでを検討 した結果,以下のようなこと が明 らかになった。
(1) 乾燥繰 り返 し摩耗で は,異種金属同士の組み合 わ せだけがな じみになる。
(2)ディスク表面 にはピンか ら発生 した摩耗粉が付着 して,また,ピン表面 にはデ ィスクか ら発生 した摩耗 粉が付着 して,それが摩擦距離の増加 に伴 って酸化 し て,な じみになると考え られ る。
(3)磁場をかけることにより,デ ィスクの初期の摩擦 面が維持 され摩耗す る。
(4)同種金属同士 の組み合わせでは,純Fe粉 を摩擦 表面 に添加す ることで瞬時にマイル ド摩耗に遷移 した。
これにより,摩擦距離を増加 したときで も,磁場 をか けたときと同 じような効果が得 られ,摩耗量が軽減 で きた。
参 考 文 献
(1) 佐藤博紀 ・京極啓史 ・中原網光 :潤滑,31,2 (1986),102.
(2)山本雄二 ・橋本正明 :潤滑,27,(1981),697. (3)久門輝正 ・築添正 :潤滑,21,4(1975),228.
( 4)
杉村丈一 ・木村好次 ・網野一夫 :潤滑,31,ll
(1986),813.
(5)鏡重次郎 ・畑沢鉄三 ・川 口尊久 ・山田国男 :潤滑, 33,12(1988)900.
(6)久門輝正 ・須田博 :トライポロジス ト,42,2 (1997),135.
(7) 貴志強 ・相原了 ・梅津栄記 ・松本克之 :トライポ ロジス ト,42,3(1997),233.
(8)川根秀明 :真空中の摩耗 における磁気効果,秋 田 大学大学院鉱山学研究科 機械工学専攻修士論文, (1990).
(9) 日本機械学会編,新材料の トライボロジー,養賢 堂,(1991).