司会(山本) 本日の司会・進行を務めます法学部の山本です。ただ今より今年度第一 回の香川大学法学会講演会を開催いたします。まず初めに法学会会長であります三野法 学部長よりご挨拶をいただきます。よろしくお願いいたします。
三野 みなさんこんにちは。今日は大変お忙しい中,わざわざ高松,香川大学までお越 しいただきました,植田隆子先生,法学会講演会ということでたくさんお集まりいただ いてありがとうございます。学生の皆さんはもとより,一般の方もお見受けしています。
本当にありがとうございます。植田先生のご経歴は後でまた司会者よりご紹介申し上げ ますが,何といってもEUの日本政府代表部次席大使ということで海外でのご活躍が大 変多くあるということと,私どもにとってもある意味身近な先生と,今日お話をしてお 伺いしています。先生は高松でお生まれです。ここから歩いて 分や 分の所にご実 家があるようですが,小さいときはこの香川大学で遊びまわっていたという,そういう 大変私共とも近接性があるということで,大変著名な先生であるにもかかわらず,私共 とこういうご縁ができましたことを本当にうれしく思います。現在,世界各国で様々な 情勢が大変混乱しております。EUに関してはイギリスの離脱とかEU各国の政治状況 の不安定さ,そして私共日本にとっては北朝鮮問題ということであり,非常に日本のみ ならず諸外国の外交,安全問題と大変難しい時代となっております。そういう中で植田 先生にご講演いただきますので,学生の皆さんは今回のご講演をきっかけに今の国際情 勢を考える一助になればと思っております。大変お忙しい中,来ていただいた植田先生
EU
の外交・安全保障政策の 現段階と日・
EU協力
植 田 隆 子
にご講演をいただいて,私共も今後の大学運営にも役立てていきたいと思います。どう もありがとうございました。それでは植田先生よろしくお願いいたします。
司会 ありがとうございました。本日の講師である植田隆子先生のご経歴を簡単に私の 方からご紹介させていただきます。植田先生は先ほど学部長からご案内がありましたよ うに,高松市のご出身であられます。津田塾大学の国際関係学科・大学院の国際関係学 研究科に進学の後,博士後期課程を修了されました。その後,国際基督教大学教養学部 及び大学院の国際関係部門で教鞭をとられまして, 年 月から香川大学客員教授 に就任されました。またこの間,ジュネーブ大学高等国際問題研究所の客員研究員,外 務省欧州連合日本政府代表部次席大使などを歴任され,EUや国際安全保障関係の著書 も多数ございます。本日は,「EUの外交・安全保障政策の現段階と日・EU協力」とい うテーマでご講演をいただくことになっております。それでは植田先生,よろしくお願 いいたします。
⑴ はじめに
植田 ご紹介にあずかりました植田でございます。今日は資料をお配りしておりまし て, 枚組の資料に従ってお話を進めさせていただきたいと思います。それから時々ご 覧下さいと申し上げるのが,欧州連合というカラーの資料と日・EU関係というもう一 つ別になっているカラーの資料でございます。このカラーの資料の方は,外務省のホー ムページの地域−ヨーロッパの箇所が出典です。この 枚組レジュメの 枚目をご覧い ただきますと,一番下に関連情報入手のためのリンクの一覧を記しています。皆さんの 中で日本外務省のホームページのサイトをご覧になったことがある方は手を挙げていた だけますでしょうか。少しですね。外務省のホームページは,外務大臣の演説など以外 にも,世界中の国や国際機関に関する情報や解説が掲載されていますので,ご参考にな ります。
たまたま,東京で , 日前にEU関係の講演をいたしました時に,情報科学がご専 門という理系の方がお見えで,その方が,EUの補助金に申請を考えているが,EUが 何をしているのかよく分からないので講演にいらしたとおっしゃっていました。EUは 研究補助金を日本の研究者にも提供しておりますし,大学院レベルですが,EU圏の大 学院で勉強をするための補助金を日本人の院生にも拠出をしております。その理系の研 究者の方は,日本の外務省のホームページでEUのことを説明している資料があると思 わなかったということで,驚いておられました。
他に,参考になる資料として, ページ記載の駐日EU代表部とは,EUが在外に置 く大使館にあたる組織です。EUの駐日代表部は東京のドイツ大使館の近くにあります が,日本語でもEUのことを説明するホームページを作っています。EUには様々な機 関がございますので,その機関ごとに出しているホームページも掲載しています。それ ぞれのホームページで多くの情報を出しています。
たとえば,学生の卒業論文の指導のときに,材料の少ないテーマで書くのは無理があ るため,EUについて取り上げれば,今動いている問題についてもデータは豊富にある と学生に申しておりました。無論,一次資料だけではなく,研究文献も使う必要はござ います。EUが資料を多く出す理由は,市民から遠いところでブラッセルの官僚が何で も決めているような誤解がEU圏の市民に持たれており,EUが何をしているのか,ど ういう仕組みなのかを知らせる必要があるからです。
今年は日本にとって,EUとの間で重要な協定が二つ締結される年です。皆さんも新 聞で時々ご覧になっていらっしゃるかもしれませんが,日本とEUの間の経済連携協定
(EPA)と,戦略パートナーシップ協定(SPA)という つの協定の交渉が終わってお ります。目下,条文の法律上の細かい審査を,日本の場合,法制局等が行っており,そ れが終わるとおそらくは 月に安倍総理がブラッセルにご出張されてEUの首脳とこの つの協定に署名をし,日本の場合は秋からの国会でこの協定を通すとみられます。
つの協定についてはこの講演の最後の部分の日本との関係というところで概要をお話 ししたいと思います(注: 年 月 日からの豪雨災害により安倍総理のブラッセ ル出張は取りやめとなり,同月 日にユンカー欧州委員長とトゥスク欧州理事会議長 が来日して定期首脳会議が実施され,会議後に つの協定の署名式典が実施された。EPA は 年 月に発効,SPAは同じ時期に暫定発効した)。
私の専門は経済学とか法学ではなく,国際関係が専門ですから,EUを国際関係の中 で位置づけて,そのうえで日本との関係,あるいはEUが国際関係の中で何をしている のかというお話をしたいと思います。今の国際関係がどのような状態にあると捉えるの か,結構長文ですが要約を入れているのが,国連事務総長が 月 日にブラッセルで 欧州委員会の委員長と行った共同記者会見です。つまるところ,国際情勢は危険な方向 へ向かっているとの指摘を国連事務総長がしておられます。国連の事務総長はポルトガ ルの首相をなさっていた時期がありますので,この授業でお話をするEUの首脳会議に は 年代の初め頃まで,ご自身がポルトガルを代表して出席しておられました。で すからEUのことは当然熟知の国連事務総長ということです。この会見で冷戦状況に 戻ってきているとの指摘がなされております。
冷戦というのはアメリカの陣営とソ連の陣営が対立していた時期であるということは
ご存知のことでしょう。冷戦期は,米ソの首脳が,対立をコントロールをしていた時期 でもあります。核戦争が起きないようにお互いホットラインを使うとか,様々な措置に よって軍事衝突などのリスクの管理がある程度,できていました。しかし,現在は紛争 が増大し,テロとも結びつくなど管理できていないと国連事務総長は指摘しておりま す。このような危険な状況がこれ以上進まないようにするためにはどうしたらよいのか ということですが,一つは多国間のガバナンスの強化のための組織が必要だと指摘をし ています。無論,国連が多国間のガバナンスの組織であり,EUも同様との指摘です。
さらに,国際関係における法の支配が必要だと述べておられます。軍事的な力の強い国 が我が物顔にふるまう戦国時代のようにならないようにするにはどうするのか。国連憲 章は武力行使を禁止しているわけですから,このような国際的な約束事にのっとって国 際社会が運営されなければならない。そこでEUは,より統合され,より一層実効性や 存在感を持ち,今日の世界での多国間協調主義の大黒柱としてEUの声がさらに一層聞 かれるようにと事務総長はアピールしました。国連は,イランとのJCPOA(包括的共 同作業計画)を救おうとするEUの努力,平和・安全,持続可能な開発や気候変動をめ ぐる尽力を,EUとの共通の協力対象として強く支持するとしました。今日の世界にお けるマルチラテラリズムは多国間協調主義と日本語で言った方が分かりやすいと思いま す。
これはブラッセルでの発言ですから,EUはもっとまとまり,もっと頑張れという国 連事務総長による激励にもとれます。現今の国際秩序については,昔は「西側」として 一体化していたのですが,トランプ政権は必ずしも西側の一員として動く,あるいは自
らの同盟国の面倒をみるということではなく,同盟国に対して経済制裁をかけると主張 したりしています。同盟国に対する態度のみならず,イランの核開発をめぐるJCPOA から一方的に離脱してみたり,同盟国を困惑させるような行動が続いています。ですか ら時事評論の論者によっては今の国際秩序というのは「断片化」している,まとまりが なくなっていると評価されたりもします。問題ごとに仲間になる国が組み変わっている という状態です。あるいは , 日前の日本経済新聞の時評によれば「液状化」してい るという表現が使われています。
このように国際関係が大きく変動してきている中で,一体EUというのはどのような 位置付けになるのだろうかという点から,この講演は始めさせていただきます。
⑵ 報道からはわかりにくい EU の実態
EUは日本から見えにくいし,自国が加盟国でないからわかりにくい存在だと思いま す。どうして見えにくいかというと地理的に離れているとか,加盟国でないという以外 に,日本では「ヨーロッパ」という言葉の翻訳に問題があるのではないかと私は思いま す。英語あるいはドイツ語でもフランス語でも「ヨーロッパ」にあたる言葉があります。
大西洋からウラル山脈までが地理的なヨーロッパで,日本ではヨーロッパは,地理的 区画として受け取られます。しかし,欧米では,地理的な区画のみを指さず,EUの ことを意味していることが多いのです。日本では「欧州」と訳されるためにEUが見え にくくなるのではないかと私は思っています。欧米では大学の専攻分野としてEuropean Studiesが置かれています。これは地理的区画としての「ヨーロッパ」やそこに位置す る国々を研究する学問ではなく,実態はEUについて教えています。EUは非常に複雑 であるため,専攻は大学院レベルに通常,置かれます。これはアメリカとかカナダでも 同じですが,その中で専攻分野が分かれます。経済学のEU経済であるとか,EU法,
あるいはEU内の政治,または私の専門のようなEUの対外関係部門など,分野別に専 攻が置かれ,教えられています。
EUが日本で見えにくいというのは報道が一つの原因でもあります。イランの非核化 をめぐる合意を作るプロセスを例にとりますと,イランとそのほかの国々が交渉をして いましたが,その交渉に参加していたのはE /EU+ という表現が正確です。E とい うのは英,独,仏です。EUの代表も加わっていました。残りの カ国は米中露です。
しかし,国連の常任理事国としてP+ と新聞が書くことが多く,ここで というの はドイツになります。つまり,国連安保理の 大国とドイツを指しますが,P+ とい う表現ではEUの代表が入らなくなります。このような報道でもEUの存在が霞んでし まいます。トランプ大統領が,このイランの非核化のJCPOAという合意から米国は離
脱することを明らかにしたとき,急遽,米国を除き,EUと英仏独の代表が集まって協 議し,これにイランの外相が加わりましたが,ここでもやはり,英仏独とイランの代表 が集まったという解説が日本の新聞ではなされていました。イランの非核化について,
EU カ国は縛られるのですが,この点もわかりにくくなっています。
日本でEUのことがわかりにくくなっている他の原因として,イギリス発の情報が,
日本国内で普及して広がっているからだと思います。他方,『フィナンシャル・タイム ズ』という高級な日刊紙があり,アジア版とかヨーロッパ版とか様々な版もありますが,
EUについて克明に,正確に報道しています。
日本では,EUの日常的な動きについての報道は限られており,内部の対立が大きく 取り上げられてきました。たとえば,欧州地域でのいわゆるポピュリズムの台頭に関す る報道もこれにあたります。ここでは反EUの政策綱領を掲げているグループが台頭し てきているという説明がなされています。「ポピュリズム」についてはなかなか定義が 難しいのですが,皆さんのレジュメの ページに『ポピュリズム』という白水社刊の翻 訳本を記載しております。必ずしも極右だけがポピュリズムではないので,大衆を基盤 とした政治参加という広い意味で,中南米などにもポピュリズムはございますので,今 のヨーロッパだけに限定した定義が,必ずしも当てはまらないケースが多いのです。極 右政党や既成政党でない新しい政党,あるいは政治団体が台頭してきていますが,すべ てが反EUを掲げているわけではありません。日本では,かなり簡略化された説明が流 布しているように私は思います。
EUは国ではないので,EUとしてどのように政策を形成しているのかについてもな かなか外からは見えにくいのです。EUの加盟国が,自らが国として持っている主権を EUとしての統合体にどのくらい譲り渡しているのかが,分野によって違っています。
わかりやすい説明は配布資料にあります。「EUの深化と拡大」というグラフをご覧い ただけると,統合の歴史が,横軸になっている統合の拡大と,縦軸の統合の深化によっ て示されています。拡大というのは単に加盟国の数が増えるということです。統合の深 化というのは,所掌している政策分野が広がるということでございます。左の下の方に 小さく書いてあるのが石炭と鉄鉱の共同管理です。これらの資源が,ドイツとフランス が戦争をする主な原因で,当時は非常に重要な資源でした。
そこから出発して「第一の柱」といわれたのが経済共同体部分です。通貨統合にまで 発展しました。統合の潮流が大きく変わったのが 年に発効した基本条約であるマー ストリヒト条約からでした。そこで第二の柱,第三の柱と呼ばれた「政治統合」が政策 分野に組み込まれました。外交政策をできるだけ共通化することの他,警察・刑事司法 協力,司法内務協力もEUの政策領域に入りました。 年 月に発効したリスボン
条約では柱に分ける構造は解消されていますが,分野によって統合の度合は異なってお り,完全に主権を統合体にプールしているのが,大雑把に申し上げると経済通貨統合部 分であり,共通通貨ユーロを導入すると,自分の国の中央銀行による自国通貨の発行が できなくなってしまいます。通商分野では,冒頭のところで経済連携協定を日本とEU が結ぶと申し上げましたが,EU加盟国は自分の国が単独で第三国と自由貿易協定(FTA)
を結べなくなります。これは通商政策自体が共通化されてしまっているからです。従い まして,イギリスがEUから離脱しますと,米国や日本とそれぞれ二国間でFTAを結 ばざるを得なくなります。EUの中に入っている限り単独で第三国との通商協定は結べ ません。このように,EU加盟国は全く「普通の国」の体をなしていないということが おわかりになると思います。
わかりにくいだけに,私は自分の学部の授業でていねいに説明してまいりましたが,
社会に出て役に立った授業は何かと卒業生に聞いてみたところ,やはりEUのことを聞 いておいてよかったという卒業生が多いです。独学で本を読んでもEUのことはなかな かわかりにくいだろうと思います。
日本にとってのEUの重要性は,まずはその経済規模です。経済規模については,少 し後の ページ目の⑵統合の現状というところをご覧になると, か国の総人口は米 国の . 倍あり,GDPは米国の . 倍あります。EUの重要性というのは,先進国の集 まりで,これだけの人口とGDPを抱えていることです。さらに,リベラル・デモクラ シーの政治体制を基盤とし,国民が政治参加をする代表制民主主義のみならず,人権の 保障とか少数者の保護も含まれる政治体制です。日本も同様で,EUは共通の価値を共
有している数少ない先進国の集まりです。国際関係における法の支配,ルールに基づい た対外行動をとることも共通しています。そうでないと弱肉強食の戦国時代になります。
周りを核兵器国に囲まれている日本としては,価値を共有するEUとの関係は非常に重 要であると考えられています。
EUについては国際社会におけるルール・メイキングの力を持っていることも重要だ とみなされています。EUの経済統合体部分は様々なルールに基づいており,EUで作 られたルールが世界的にも使われることが多いのです。EUレベルで合理的に作り上げ たルールですから,それなりに汎用性のあるルールが多いのです。EUの国々は高い環 境基準を持ち,模範的なルールを作っています。
最近,新聞でお気づきになった方がおられると思いますが,一般データ保護規則
(GDPR)がEUの中で使われ始めました。これは,個人情報の保護制度です。デジタル 化が進みますと,企業などが個人情報を大量に保有するようになり,それを保護する必 要が出てきます。この規則は米国の大企業に対抗するという説明もあります。もう一つ はあまり報道はされていませんが,中国のことが念頭にあると思います。中国では個人 情報の保護という観点から国内政治は運用されていません。しかし,大量のデータの集 積があります。AIを使って様々な分析もしています。ですから経済競争面では,EUに とって非常に手ごわい相手になってきます。個人情報を中国がどのように使って,経済 競争の場に乗り出してくるのかという警戒心をEUは持っています。このGDPRについ ては,欧州で活動している日本企業が,情報を持ち出すときに規制がかかってきます。
EUのみならず,欧州経済領域(EEA)というノルウェー等も入っている経済圏でも使 われる規則です(注: 年 月,日・EU間の相互の円滑な個人データ移転に関し,
日・EUの市民は,個人データの移転における強固な保護を享受する一方,日・EUの 全ての企業は,お互いの経済圏への自由なデータ移転による便益を享受するとの声明を 日本とEUが発出した)。
他に,海洋生物資源を保護するための規制措置として,使い捨てのプラスチック製品 の問題があります。EU圏内で使い捨てのプラスチック製品を禁止するという欧州委員 会の提案が出されています。例えばストローですが,すべて紙製にする,そうでないと 海洋汚染も悪化する。米国でも一部にこのような提案はありますが,EUは悪化を避け るために様々なルールを提案しています。これが世界的な影響を持つ,あるいは世界的 に採用されるルールに大きな影響力を持っています(注:EUは, 年 月に「特定 プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令」を採択し,使い捨てプラスチック製品 が禁止された)。
資料の ページ目をご覧いただきますと,EUの仕組みというところがございます。
EUの中枢的な機関は欧州理事会,欧州議会,欧州委員会,それから外務省組織にあた る対外活動庁があると書かれています。レジュメの ページ目の政策決定の仕組みとい うのをご覧いただきますと,理事会は,閣僚の集まりであり,外務大臣,財務大臣など の種別がございます。欧州委員会は統合された部分の執行機関で,この資料でも ペー ジ, ページに顔写真で載っていますが,大臣にあたる欧州委員が所掌ごとに任命され ています。法案を提出するのは議会ではなく,欧州委員会になります。
政策形成でもう一つの重要な機関は欧州議会です。直接選挙で選ばれます。加盟国の 閣僚が集まる理事会と共に,欧州議会は議決権を持ちます。ですから,日本のEPA,SPA という二つの協定はここにかかることになります。加盟国に権限が残っている分野が 入っているSPAは,加盟国の批准を二重に取らなくてはなりません。
⑶ EU 加盟国の EU に対する世論の見方
この欧州委員会という統合されている部分の執行機関が,欧州統合に対する世論調査
(ユーロバロメーター)を定期的に遂行してきました。そこで先ほどの ページ目に戻 り,EU圏の世論調査の結果を見てみましょう。昨年の 月の世論調査結果ですが,
そこに書いてあるように①EU加盟国が平和になったということは %のEU圏の人た ちが評価しています。②それからヒト,モノ,サービスの自由移動,国境が取り払われ ていることについては, %がありがたいと思っている。③総じて %がEUに対し て肯定的である。さらに, %がEU圏内は,困難な情勢の世界の中で安定していると みなしている。 %が圏内のどこでも仕事やビジネスができるということがメリットだ とみなしている。④懸念事項としては,移民問題やテロが挙げられている。ユーロ圏内 で調査をすると⑤ %がユーロを支持している。以上の結果からは,欧州統合につい て,日本の報道から我々が受ける印象と,EU圏の市民の意識に開きがあるといえるで しょう。
EUが実際に達成した現状よりも,世論のほうが統合度において進んでいるのは,昨 年 月の調査で,共通安全保障防衛政策に対する支持( %)であり, %がヨーロピ アン・アーミーという「統合EU軍」を支持しています。政治家が集まってEUの将来 をどうするかと議論しても,軍隊の統合にまでは全く踏み切れておらず,加盟各国の軍 隊が維持されています。日本の国内報道からはEU懐疑派が席巻しているような印象を 持ってしまいます。無論,どこの国の新聞でも,珍しいとか突出した動きを報道し,あ まり当たり前のことは報道しないので伝わってこないのかもしれません。要するに,欧 州統合に関する否定的な見解にEU圏が覆われてしまっているわけではないことが世論 調査からはわかります。成果は成果として,たとえば,欧州の地から戦争が廃絶された
ことは市民も評価しているし,学生さんであれば若ければ若いほど大学生の時に,EU 圏の他の国の大学で単位が取れるとか,自国以外のEU圏で仕事ができるようになって いるので,イギリスの離脱についても,英国の若者のほうが離脱に反対しています。そ ういう世代別とか国によって態度は違っていますが,日本の報道ほどに懐疑的な世論に 覆われているわけではないということは申し上げられると思います。
⑷ 外交安全保障分野への政策領域の広がり
EUの政策領域もお話ししたように広がってきています。今日の本題の一つの外交安 全保障政策は,新しい政策分野です。 年にEUの基本条約のマーストリヒト条約 で導入されました。東西冷戦が終わってヨーロッパの情勢が大きく変わり, 年には ソ連自体が崩壊してしまいます。西側の国にとってソ連というのは大きな軍事的な脅威 でしたが分裂したことにより,アメリカに安全保障を冷戦時ほど頼らなくても良いとい う観念が当時は広がりました。もともと 年代から欧州の国々の間で欧州防衛共同 体を作ろうとする動きはありましたが,これは流産してしまいました。その後, 年 に至るまで,経済統合体として活動してきました。冷戦の終結というヨーロッパの大き な変動の中で,外交や安全保障もEU内での共通化をできるだけ進めることになりまし た。ただし,経済分野とは異なり,自分の国の主権を統合体にプールするのではなく,
EU加盟国間で,合意によって一本化できるところは共通化してきました。
最近の情勢としては,トランプ大統領が自国の利益のみを追求しているように見える 政策をとっていることと,ロシアによるクリミアの併合という事態も外交政策の共通化 を促進させました。第二次大戦後のヨーロッパで,ユーゴで内戦はありましたけれど,
軍事力を行使して領土を奪い取ったという事態はクリミアが初めてで,ロシアと隣接し ているポーランドあるいはバルト三国は,安全保障上の脅威を感じています。
欧州統合の段階として,共通通貨ユーロはできましたが,先ほど申しましたように,
ヨーロピアン・アーミーという統合軍は組織されていません。この点は,EU加盟国間 で合意がありません。警察部門についても統合的なEU警察というものはできておりま せん。外国からEUの加盟国が侵略された場合に,EUとして軍隊を動かして反撃する ということにも加盟国の合意がありません。
集団防衛はNATOという別の団体の任務です。 加盟国図をお配りしていますように,
NATOとEUは加盟国が同じではありません。NATOは「大西洋同盟」ですからアメリ カとカナダが入っております。アメリカが重要な役割を持っている同盟です。ですから EU内のNATO加盟国はNATOによって防衛され,いわゆる中立・非同盟の国,そこ に書いてありますスウェーデン,フィンランドやアイルランドなどは自主防衛になって
います。
EUには集団防衛機能がございませんけれど,外交安全保障政策は共通化されてきて おります。改訂された共通の安全保障戦略として, 年に「グローバル・ストラテ ジー」と呼ばれる戦略が採択され,履行されています。採択の準備段階で,EUのシン クタンクは世界で 人の識者から意見を求め,私もその 人でした。EU加盟国にとっ て共通の脅威として,不規則な,「イレギュラー」というのがもとの英語ですが,移民が 挙げられています。不法移民が押し寄せて来るというのも安全保障上の脅威として認識 されています。それからハイブリッドの脅威が挙げられています。ここで,様々な複合 的な脅威が指摘されています。軍事的な脅威だけではありません。皆様もよくご存じの サイバー攻撃による脅威です。たとえば, 年にエストニアがロシアからサイバー 攻撃を受けて,銀行なども機能が止まりました。銀行のみならず,国家機能がマヒして しまいます。さらに,脅威としてテロが挙げられます。昨日の報道によれば,ベルギー で過激派に洗脳されたと疑われる若者が警官から銃を奪って殺傷したという事件が発生 しました。テロであるとか,ラディカライゼーションと言われる急進主義的な思想に染 まる人々も脅威になります。さらに,麻薬,人身売買などの組織犯罪も脅威になります。
安全保障上,外国からの核攻撃のような脅威のみではなく,国内治安の問題も脅威とし て挙げられています。そのほか国境管理,さらに日本が非常に関心を持っている海洋安 全保障も重要です。EU加盟国の中で,海に接している国もあります。以上が,EUと して,安全保障上,非常に神経をとがらせている問題であり,EUとして共通の政策を 進めたいということです。
それでは,EUは実際に何をしているのかと言えば,戦略を作って一緒にやりましょ うというだけではなく,皆さんにお配りした資料の中で,最後の ページをご覧いた だきますと,EU共通外交安全保障政策,ミッションの派遣状況というデータがござい ます。EUの加盟国で賛同する国から集めた軍隊を展開して,日本語で言うPKOを実 施しています。軍隊のみの派遣ではなく,黄色のところが文民ミッションです。文民と いうのは軍人以外で,文民警官や非武装の要員を派遣して安定化に努めています。この データでは軍事ミッション ,非軍事 です。
インドネシアのアチェの和平合意後,独立派の武装解除時にEUのミッションが派遣 されましたが,今は,中近東からアフリカ,バルカン方面といったEUから地理的に近 いところの安定化を図る作戦を遂行しています。先ほど,国連の事務総長の国際情勢の 認識をご説明しましたけれども,EUは多国間協調主義に基づく組織であり,国際機構 の分類から言えば,主権の一部を統合体に譲り渡しているので超国家的な国際組織にな り,世界的には無二の存在です。
このような組織のため,日本以上に「国連中心主義」です。国連のPKO局と当初か ら緊密に情報共有し,協力してEUのミッションを展開しているので,国連を支援して いるという性格があります。このほか,ソマリア沖の海賊対策も実施しています。日本 も海上自衛隊を派遣しているので現地で協力しています。旧ユーゴの安定化のためにも 熱心に活動しています。ジョージアの停戦監視,アフリカから地中海を越えて北上して くる難民・移民を念頭に置き,アフリカの国々の国境管理の強化も支援しています。EU が自らのPKO活動に軍隊を展開し始めたのは,このように東西冷戦が終わってからで す。
冷戦時にはアメリカはNATOを中心として対欧州政策を実施していました。冷戦後 にEUがPKOとして軍事活動をすることに対し,アメリカはEUの「軍事化」を非常 に嫌がり,批判しておりました。しかし,ブッシュ政権の二期目から,EUの平和維持 活動は,米国にとって負担の分担になるとして,反対しなくなりました。EUの軍事ミッ ションにはアメリカは要員派遣をしませんが,アメリカはEUの「コソボ法の支配ミッ ション」などに要員を派遣してきました。
EUのPKOにあたる活動に日本からも参加して欲しいと言われておりますが,まだ 派遣したことはありません。他方,ソマリア沖の活動では現場での情報交換を行い,EU がマリで治安部門の能力構築をしておりますが,機材の提供などを日本は行って協力し ています。ニジェールでもEUの活動に合致する,機材の整備支援を日本は実施してい ます。EUのPKOに要員を派遣する場合は,EUとの第三国参加枠組協定あるいは個別 の参加協定を作ります。私が日本のEU代表部に勤務していたときからこの提案は出て いましたが,戦略パートナーシップ協定の交渉が先になりました。
私の在勤時にできたことは,EUの欧州委員会の市民保護人道支援総局ECHOとの協 力でした。ECHOは災害や戦乱時などの人道支援に特化した役所です。私のおりました 時にはまだ日本の安保法制ができておらず,日本の自衛隊派遣が現在よりは難しかった ということもあり,災害救難であれば自衛隊も出やすいので,被災した第三国での協力 を念頭に置き,EUのこの組織と協力をするマッチングをいたしました。東日本大震災 の時にはトモダチ作戦でアメリカが支援してくださいましたが,EUのECHOは,日本 支援のためにEU加盟国の要員派遣をコーディネートし,救援物資も送達しました。韓 国,オーストラリアとか,あるいはノルウェー,カナダなどはEUのPKOに要員を派遣 するEUとの枠組みができています。
先ほどのレジュメのところに戻りますが,トランプ政権とEUの関係が,今のところ 良くないという懸念材料はあります。このEUの共通外交安全保障政策ですが,加盟国 すべての合意のもとに,リスボン条約が発効し,欧州対外活動庁という外務省組織を新
しく創設しました。加盟国全部が合意しているからできることですが,外交安全保障政 策に対する熱意の入れ方というのが加盟国によって異なります。その中でイギリスは,
外交安全保障政策の共通化について,マーストリヒト条約を交渉しているときから,EU は共通市場でよいのだとの意見で,政治統合を導入することに反対でしたが,イギリス は妥協しました。EUに理解を示したブレア首相は例外的で,イギリスはNATO中心の 立場でした。したがって,EUが軍隊を動かす必要はないという考えでしたが,イギリ スの妥協によって可能になりました。とはいえ,イギリスはEUレベルで軍事協力を進 めていくことにブレーキをかけておりました。
このような状況下で,イギリスが離脱することになったので,EUレベルでの防衛協 力が急速に進み始めました。ただし,外からの侵略時にEUとして侵略を排除するとい うことではありません。何をもってEUが「防衛協力」と言っているのかと言えば,例 えば防衛装備品の協力です。装備開発をEUの場合は,産業政策としても位置付けてお ります。日本の場合は武器輸出に関して厳しい規制がかかっていますが,EU加盟国の 場合は異なります。装備品協力については,加盟国ごとに戦車を製造することは,開発 にそれぞれ,多額の費用がかかります。運用上も装備品の共通化がプラスです。このた め,EUの共通予算に防衛基金を新設し,研究開発に拠出するなどが一挙に,ここ , 年で進んでいます。もともと防衛面では有志国が集まって先に進むという枠組みがす でにできていましたが,一度も運用されず,死文化していました。イギリスのEUから の離脱が現実化することになって,急速に装備品の開発協力のような形で予算もついて 進むようになってきたのが現状です。
⑸ 日本と EU の関係
最後に日本とEUの関係についてお話を進めさせていただきます。詳しいことはお手 元の日本とEUという別建てのカラーのプリントをご覧いただけるとおわかりになりや すいと思います。日本とEUとの関係というのは 年代に入るまでは,ご年配の方は よくご存じだと思いますが,当時はECでしたが,日本がECに輸出攻勢をかけ,日本 がECにバッシングをされていました。経済摩擦と言われておりまして,アメリカも日 本をバッシングしていましたが,アメリカは同盟国ですからある程度はマネージできま した。他方,ヨーロッパとの関係では単にバッシングされるだけで,フランスのクレソ ンという女性の政治家によって,日本人は働き中毒とかウサギ小屋に住んでいるなどと 揶揄されたこともありました。歴史的故事から「ポワチエの戦い」と呼ばれた事態は,
日本産のビデオレコーダーの輸出に関し,到着する港湾の近くではなく,わざわざ内陸 にあるポワチエというところで通関手続きが行われたため,滞貨して山積みになりまし
た。このような嫌がらせを日本がされていた時期がありました。
年代に入りまして日本の輸出攻勢が段々減ってきたということもありましたが,
年に日本とECの共同宣言が出ました。これはハーグというオランダの首都で発出 されたため,ハーグ宣言とも呼ばれます。これ以降,毎年,日本とECの首脳が定期的 に会談することになりました。ハーグ宣言では,経済以外の分野でも様々な協力を一緒 に遂行することに合意しました。この宣言をもって,日本とECとの関係は異なる段階 に入り,ここで完全に経済摩擦の時代から切り替わりました。
このようなリーダーシップを日本がとったのは,国際司法裁判所(ICJ)の小和田判事 が外務省の政務担当の外務審議官を務めていらした時期でした。同氏がEC,NATOや 欧州の国々との政治協力も推進された賜物でした。私はこの時期は日本のベルギー大使 館に出向しており,小和田外務審議官がよく出張していらしてECとの交渉を遂行され,
お話をお伺いする機会もございました。日本の輸出も鈍化し,経済摩擦も緩和され,日 本とECは西側としての共通の価値を持っているということで,資料にございますよう な様々な分野での定期対話や協力が進みました。研究分野の協力や学生間交流も盛んに なってまいりました。
さらに,一層,協力の段階を上げようとしているのが,交渉がすでに終わり,批准,
発効過程にあります日本とEUの経済連携協定と戦略パートナーシップ協定です。これ はイギリスが離脱してしまうとテクニカルに複雑になるので,イギリスが来年の 月 日をもって,離脱してしまう前に発効させるということで日本とEUは一生懸命に 準備をしています(注:ジョンソン首相の要請により,離脱設定日は 年 月末)。
この経済連携協定の意義は,EUと日本の両方を合わせると貿易の輸出入額やGDP が巨額であり,貿易の保護主義というトランプ政権の方針などに対し,日本とEUが自 由貿易を守っていることです。単なるFTAに留まらず,新型の協定になっており,こ れを日本とEUが発効させるということは,トランプ政権の保護主義的な動きに対して 一矢を報いるというか,一矢どころではなく,何本も矢を放っているというメッセージ になります。
戦略パートナーシップ協定のほうは,権限が統合体の方に移っている分野については 暫定発効することになっています。戦略パートナーシップ協定というのは基本的には通 商,投資以外のあらゆる分野を扱っており,環境,気候変動,開発政策,災害救難,大 量破壊兵器の不拡散などの安全保障分野も入っています。この交渉をするときにEU側 が最初に主張してきたのが法的拘束力を持つ協定でなければならないということでし た。日本とEUの政治協力の最初の出発点である,先に述べましたハーグ宣言というの は政治宣言でした。日本の発想から言えば,貿易協定とか安全保障条約に法的拘束力が
あるというのは理解できるのですが,政治宣言に法的拘束力を持たせることは,日本の 慣行にありませんでした。日本とEUは,日・EU共同宣言及び日・EU行動計画を作り ましたが,法的拘束力を有する政治協定は初めてになります。政治宣言に法的拘束力を 持たせるという発想が日本にはありませんでしたが,経済連携協定が日本にとっては非 常に重要でしたので,同調しました。
なぜEUとの経済連携協定が日本にとって重要だったのかと申しますと,当時,韓国 とEUの間の自由貿易協定の交渉が進んでおり,韓国とEUの間のFTAは 年 月 に暫定適用されました。ヨーロッパに居住するとよくわかるのですが,韓国製の家電と か自動車が多く使われております。韓国とEUの自由防衛協定ができる前から日本の家 電や自動車よりも,韓国製のほうが値段は安かったのです。韓国製品がヨーロッパの市 場に非常に多く入っており,日本製品と競合していました。韓国とEUの間の協定がで きて,関税が下がってきたら,日本のEU向けの輸出がさらに厳しくなります。このた めに,財界は急いで日本とEUとの協定を進めてほしいという立場でした。
EU市場への日本のアクセスについては,日本側の資料で外務省のリンクから経産省 とか農水省のリンクに移れ,ご関心のある方はお調べになれると思います。たとえば,
自動車の場合,日本の乗用車にかかる関税は 年目に撤廃されます。自動車部品は,約
%の品目が発効と同時に撤廃されます。農林水産品関連では,日本食がヨーロッパで 大変なブームになっており,例えば,ブラッセルのスーパー・マーケットでもお寿司の パックを売っています。ヨーロッパ各地で,日本食のレストランも非常に繁盛していま す。それと同時に日本茶や日本酒など,日本産品が好まれるようになってきています。
日本茶の関税はすぐに撤廃されます。日本から輸出しやすいようになっています。日本 の消費者にとってはヨーロッパから入ってくるワインの関税がなくなります。ただし,
競合するソフト系チーズ(カマンベールなど)については,日本が譲らなかったところ が残っていますが,とにかく自由貿易という観点からは全般にめでたいことで,お互い の消費者,あるいは日本の輸出にもプラスになると見込まれています。このご時世です から,大きな経済力を持っている日本とEUが自由貿易を守るという意味で,協定を発 効させることの意味というのは,非常に大きいと思います。
それと同時に,政治協力については大量破壊兵器の不拡散など,さまざまな分野です でに協力は進んでいます。今までの実績がありますので,突然,急に変わるというより もこれまでの蓄積に積み上げられるとみております。
EU加盟国は,月に 回, 月以外に定期的に外務大臣による会議(外相理事会)が 開催されております。最近の外相級会議の合意として,中国やインド,日本や韓国と 言ったアジアの主要国やASEANとの様々な安全保障分野の連携をさらに強めるという
方針が打ち出されています。北朝鮮問題もございまして,あるいはアメリカと中国とが なかなか厳しい関係になっており,このまま安定するのかという懸念をEUが持ってい ると,私は推測しております。アジアが安定するようにEUも日本との協力体制を強め たいという意思表示をしております。
とくに,海洋安全保障分野が俎上にあります。これは南シナ海の問題にも繫がります が,中国の態度に関して,もちろんEUも懸念を持っています。EUは中国の経済力が 上がってくることがEU側にとってのBusiness Opportunityだと喜んでいるだけではあ りません。中国の人権問題についても懸念の声明は出しておりますし,EUは,リベラ ル・デモクラシー,法の支配,人権の尊重という立場は変えておりません。アジアにお ける平和が非常に危うくなってくるということは,EUが経済的に発展するためにも貿 易は必要なため,アジア地域が安定していることが必要です。特にアジア方面の平和の 維持のためにEUが力を入れるという方針を,今週,EUが出しております。これが具 体的にどのように実施されるのか,今後見守る必要があると思いますが,日本と同じ方 向性です。自由貿易を維持し,国際社会における法の支配,これは人権の尊重を含むと いう世界を目指す点では共通性があります。アメリカの政権の動きからも,日本とEU の協力をしっかりしたものにしていく必要があるのではないかということも,痛感して いる次第でございます。多少話が長くなりましたが,ご質問を受けさせていただきたい と思います。ご清聴ありがとうござました。
(質疑応答)
司会 それでは質疑応答の時間に移りたいと思いますが,ご質問のある方はいらっしゃ いますでしょうか。
植田 全く余計なことですが,ここに紙コップがあります。去年の後半,ブラッセルに まいりましたときにEU機関の建物の中で,使い捨てのプラスチックを規制しないとい けないという話が出ました。EU側によりますと,ミネラル・ウォーターが会議の時に 出てきますが,プラスチックのカップは禁止されるそうです。たまたまここにございま すカップが紙コップだったので,EUでの話を思い出しました。難しい質問でなくても さしつかえございませんのでご質問ください。
質問者 人道支援の部門とPKOの部門は別なんでしょうか。
植田 スクリーンでデータをお目にかけます。ECHOというリンクを出していただけま すか。EU内では,人道支援というのは政策目的があって行うとは位置付けられていま せん。完全に価値中立的ではありませんが,飢えている人がいれば急いで食べ物を供給 するという人道的な趣旨で実施されます。ECHOという組織は日本ではあまり知られて いませんが,そのホームページを今,出していただいています。これが,欧州委員会の 中にある人道支援に特化した部署です。ご質問はPKOとの違いですね。通常,人道支 援というのは,例えば地震で崩壊した建物の中に埋まってしまった人を掘り出して助け るというのは, 週間かかっていたら助けられないですよね。このため,緊急人道支援 が発動されます。難民の救援も緊急性のもとに行われます。PKOにもそのような役目 はありますが,むしろ山本先生がご専門で,山本先生がお答えになられたほうが良いと 思いますが,PKOの中に様々な任務がありまして,紛争を予防,それからすでに起こっ てしまった紛争で停戦合意ができているところを監視するなど,バリエーションがあり ます。ここでは,緊急性という意味では人道支援と非常に異なっています。他に平和や 安全の構築も行われますが,外務省組織の下では政策意図との関係も出てきます。
繰り返しになりますが,緊急人道支援というのは食べ物がなくて人々が飢えていると ころに食べ物を配るようなもので,政策意図と関係なく急いで実施するというところが あります。ECHOを訪問してお尋ねしても,この組織の要員は,政策の中立性,それか ら人命の保護を強くアピールしていました。つまり,EUの政策目的を遂げるために,
人道支援を使っているということではないことをアピールしておられます。
質問者 ありがとうございます。EUからイギリスが抜けますけれどもこれが与える影 響はどのようなものかということと,それと先ほど先生が言われた日本とEUとの協定 がイギリスがいる間にしないと厄介になると言われましたけど,それはどういうことか ということと,イギリスが抜けた場合に,また日本とイギリスがもう一度協定を結び直 さなければいけないのかというのが つ目と,最後は安全保障の中で軍事的にはヨー ロッパはNATOがあると思うんですけど,NATOとEUの安全保障における軍事的な 部分についてご説明をお願いします。
植田 イギリスがEUから抜けるという意味は,もちろんイギリスにとって大打撃にな るということは明白ですが,EUにとっても予算面で大きな影響があります。EUの予 算というのは円建てに換算すれば 兆ぐらいで大きな予算ではありません。日本の国 家予算が , 兆程度で,EUの共通の予算は非常に規模が小さいのです。EUの制度 として, 年間の中期予算計画という枠組みで実施していますので, 年までが中
期予算計画に入っており,イギリスは 年までの予算を分担することになっていま す。日本の新聞では「手切れ金」と書かれているのですが,必ずしも制裁金ではなく,
この分担部分はイギリスが離脱しても支払います。離脱後は,EUの中でイギリスが 担っていた役割をどうやって回復するのかなどの諸点もあります。これはEU側から見 たご説明になりますが,例えばアフリカでPKOをEUが実施するために,域外に展開 できる軍事能力を持っているのは,イギリスとフランスです。ドイツは日本と同じで,
遠征する装備編成にはなっておりません。したがって,イギリスの離脱後,協力の枠組 みを組み直すという問題が残ります。ただし,もともとイギリスはEUのPKOに多大 な貢献はしておりませんでした。イギリスについてはもちろん,大打撃を経済的に受け ると思います。イギリスの離脱派はこの打撃論に立たず,自分たちが世界中を相手にし てEUに縛られない活動をするので,打撃がないという趣旨の説明をしますが,この説 明は妥当ではないと言われています。
日本とEUの間の経済連携協定をイギリスが離脱する前に発効させてしまおうとして いるのはなぜかというご質問については,協定はイギリスを加盟国として策定していま すので,それをまた再交渉して作り直さなければならなくなるからです。これには時間 もかかるでしょう。イギリスの離脱の場合は,イギリスと日本の二国間の貿易協定を作 らなければならなくなります。イギリスと第三国との交渉はイギリスがすべて,自分で 交渉することになります。自由貿易協定の交渉というのは通常,非常に時間がかかりま すので,厄介な問題をイギリスが抱えることになると思います。
EUとNATOの関係については,どこの国も セットの軍隊しか保有していないので,
NATO用の軍隊とEU用の軍隊を自分の国の軍事力の中で分けてはいません。たとえ ば,NATOに入っている国はNATOの防衛計画の中で,有事の時に自国の部隊をどの ように動かすのかが全部,プランニングされています。自国の軍隊がNATO領域の防 衛のために果たす役割は決まっています。NATOも別途,PKO的な役割も担ってはい ます。他方,EU加盟国はEUの領域防衛の任務はありません。EUはNATOと異なり,
現下では集団防衛を取り決めていないからです。EUが加盟国の軍事力を使うのはPKO の場合です。EUが何らかのPKOを遂行するという合意ができても,自分の国がこれ に貢献するかどうするかは,それぞれの国々の判断になります。EUとNATOは組織間 で協力を進めることにはなっています。トップレベルでは,NATOのノルウェー出身 のイェンス・ストルテンベルグ事務総長と,例えばEUの外務大臣にあたるモゲリーニ 外交安全保障政策上級代表の会合なども含め,両組織間の協力関係は作っています。
EUとNATOは,役割がもともと異なっています。NATOの中核的な役割というのは 外部から侵略された場合にそれを排除するという集団防衛です。EUでは集団防衛では