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香 川 大 学 経 済 論 叢

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(1)

香 川 大 学 経 済 論 叢

76

巻 第

1

2003

5

113‑176

サービス組織におけるブランド戦略

顧客に対するイクスターナル・マーケティングの展開を中心として

藤 村 和 宏

I . 

は じ め に

モノのマーケティングにおいてはブランドの構築・強化が重視されてきた が,サービスの分野ではこれまであまり強調されることはなかった。この背景 には,何を企業にとって最も価値のあるマーケティング資産と考えるのか,と いうことに違いがあり,製造企業はブランド・エクイティを,サービス組織は

(1) 

カスタマー・エクイティを重要なマーケティング資産と見なす傾向があったた めである。

サービスの場合,顧客に販売されてからデリバリー・プロセス(生産および 提供過程)が開始され,そこには顧客の参加が必要不可欠であるために,サー

ビス組織の従業員および/あるいは設備・機器と顧客との間で相互作用が展開 される。この結果として,サービス組織および従業員は,顧客を個客として認 識し,個々の顧客の属性,購買データ,ニーズ,評価基準などを収集・ 蓄積す ることで,顧客データベースを個人的にあるいは組織的に構築することが可能 であるし,これを用いることで個客化対応が可能である。個客化対応は顧客満 足を高め,さらには顧客との関係性の構築・強化を可能にすることで,利益の

(1) 

「カスタマー・エクイティ

(CustomerEquity)

」という用語を創案したのは

Robert

C .  

Blattberg

であり,共同研究者である

John Deighton

と一緒に発表した論文

"Manage Marketing by the  Customer Equity Test" (Harvard Business Review,  JulyAugust  1996, pp. 136144)

がきっかけとなって,この概念がマーケティング研究者の間で用いら

れるようになっている。彼らによると,カスタマー・エクイティの基本命題は,他の資

産と同様に,顧客もまた企業や組織がその価値を測定・管理し,そして最大化すべき財

務的資産である,ということである

(Blattberg, Getz,  and Thomas,  2001,  p. 3)

(2)

向上を導くことから,サービス組織においては顧客を価値のある資産として重 視する傾向があった。

一方,モノの場合には,製造企業と顧客との間に第三者の流通業者が介在し ていることが多く,両者が直接的に相互作用を行う機会は非常に限定されてい る。つまり,顧客と接するのはブランドであり,ブランドが顧客を吸引し,さ らにはロイヤルティの形成において重要な役割を果たすことから,製造企業に おいてはブランドを価値のある資産として重視する傾向があった。

しかし,サービス・マーケティングの分野においても,モノの場合とは異な る理由があるにしても,ブランドの構築・強化が重要であることには変わりが ない。特に,サービスの特質である無形性および生産と消費の同時性が,サー ビス組織および顧客にもたらす諸問題の解決あるいは低減のために,ブランド の構築・強化は璽要であると考えられる。

そこで本稿では,サービス組織および顧客の視点からブランドの構築・強化 の必要性を検討するとともに,ブランドの構築・強化におけるマーケティング の方向性について考察を行いたい。尚,サービスのブランドの構築・強化にお いては,従業員の行動や態度も重要な役割を果たすことから,顧客に対するイ クスターナル・マーケティングだけでなく,従業員に対するインターナル・マ ーケティングも同時に実施する必要がある。しかし本稿では,誌面の制約上,

顧客に対するイクスターナル・マーケティングについて考察を行い,インター ナル・マーケティングの視点からの考察については次の機会に行いたい。

II  . 

サービスにおけるブランドの意味と分類

1 .   ブランド概念

ブランド概念は研究者によって様々なかたちで定義されているが,明らかに 時代とともに変遷している。このブランド概念の変遷を,青木

(1999)

は表

1

ように整理している。この分類に基づくならば,

1985

年までは,ブランドは,

ブランド・ロイヤルティやイメージなどについては議論されていたが,その認

識は断片的であり,マーケティングを行うための手段の

1

つとしての位置づけ

(3)

115 

サービス組織におけるブランド戦略

‑115‑

しか与えられていなかった。すなわちブランドとは,当該製品(モノあるいは サービス)を他の製品から識別する手段であった。ブランドが識別手段として 機能することで,その提供組織は様々なコミュニケーション・ツールを用いて 製品に関する情報を潜在的および顕在的顧客に提供することが可能であるし,

顧客も選択意思決定過程において様々な情報源から得だ情報や,購入・使用す ることで得た評価情報などを製品と結びつけて記憶し,次回以降の購買に利用 することができる,という認識であった。

次の 1985~95 年の時期においては,ブランドは,マーケティングの結果と して市場に形成された資産として認識されるようになっている。これは,

Aaker (1991)

な ど に よ っ て 「 そ れ ま で バ ラ バ ラ に 議 論 さ れ て い た ブ ラ ン ド の 諸 概 念 が,『ブランド・エクイティ』という総合的な概念に集約され,マーケティン グの結果として,ブランドという器の中に資産的な価値が貯まってくるのだと

(2) 

認識されるようになった」ことによる。ブランド・エクイティ論の登場によっ て,ブランドを総合的・統合的に捉えていくことが重要であり,マーケティン グ の 展 開 の 仕 方 に よ っ て ブ ラ ン ド の 資 産 的 価 値 は 増 減 す る , と い う 認 識 に 変 わっている。このようにブランドを捉えるならば,それは信頼の印として機能 したり,それが有する意味や価値を発信する,あるいは人格を明確に主張する ものとして機能したりすることになる。尚,信頼の印として機能するとは,ブ ランドという器の中に評判や名声などが蓄積されることで,それに対する信頼 が形成されるということである。

表 1 ブランド概念の変遷

時 代 区 分

1985

198595

1996

年〜

(手段としてのブランド) (結果としてのブランド) (起点としてのブランド)

,‑一、ぐ

主たるブランド概念 フフ/ト・ロイヤルティ

、一、

フフ/ト・イメージ ブランド・エクイティ ブランド・アイデンテイティ

ブランド認識 断片的認識 統合的認識 統合的認識

マーケティング手段 マーケティングの結果マーケティングの起点

出所:青木幸弘絹

(1999),

『ブランドを巡る今日的議論』,流通経済研究所,

3

頁 。

(2) 

青木幸弘編

(1999),

『ブランドを巡る今日的議論』,流通経済研究所,

4

頁 。

(4)

さらに

1996

年以降は,ブランドはマーケティングの起点として認識される ようになっている。すなわち,ブランドの資産的価値はマーケティングの展開 によって増減するため,資産的価値を高めるにはマーケティングをどのように 展開すべきなのか, ということへ議論の焦点が移っている。

このようにブランド概念の変遷を捉えるならば,ブランドとは,マーケティ ング活動の成果として市場で形成された資産的価値を蓄積する器であると同時 に,その蓄積されたもの自体であると考えることができる。さらに,ブランド の構築・強化とは,どのような器を作り,どのようなものを資産的価値のある

ものとして蓄積し,その蓄積されたものの価値をどのように高めていくのか,

ということであると考えられる。つまり,どのような形の器を作り(どのよう なネーミングをすれば,識別記号として有効に機能するのか,ということだけ でなく,その中に蓄積された価値を表現できるか,など),その中にどのよう なものを蓄え,どのようなものを蓄えないのかという選別(組織がコミュニケ ーション・ツールとして機能するものすべてを通じて発信する情報,顧客が発 信する情報,市場で形成される評判や名声,競合製品との比較情報,顧客に関 する情報,などの選別),蓄積された資産的価値を活性化させることによる器 および価値のさらなる拡張・ 向上(例えば,蓄積された名声や顧客として抱え ている社会的影響のある人々を積極的に利用することによる,資産的価値の向 上など),および器や蓄積された価値物によるマーケティング活動の濾過(蓄積 された資産的価値,あるいはそれが全体として形成する人格の強化・ 維持に貢 献するように,マーケティング活動の方向づけと選別)に関わる活動である,

(3) 

と捉えることができる。

ブランドの構築・強化に関わるマーケティング活動はこのように広範囲にわ たるが,本稿では,サービス組織がブランドに持たせたい意味や価値の観点か

(3)  時間経過とともに器が大きくなると,器自体やその中に蓄積されたものを全体として 評価・コントロールすることが困難になり,器自体が破壊されたり,その中身がネガティ

ブな価値を持つもので汚染されたりする危険性が高まる。そして皮肉なことではある

が,ブランドが持っている本当の価値の評価が可能となるのは,このような破壊や汚染

が起こったときであるのかもしれない。

(5)

117 

サービス組織におけるブランド戦略

‑117‑

ら器を作り,その中にそれらの意味や価値を実現させるような価値物を選抜し ながら蓄積することで,ブランド人格の強化・維持を図るという視点に絞っ て,顧客に対するイクスターナル・マーケティングについて考察を行いたい。

また,蓄積された資産的価値が形成するブランド人格は濾過装置として機能す ることで,その純度を高める方向にマーケティング活動を精製・調整するとと

もに,顧客および従業員の選抜や彼らの行動にも影響を及ぼす,という視点か らも考察を行いたい。

2. 

1

ブランドとしての提供組織(企業)

サービス組織のブランド戦略について考察する際に注意すべきことが

1

つあ る。それは,モノとサービスでは第

1

のブランドとなるものが異なるというこ とである。モノの場合には,製品名が第

1

のブランドになり,製造企業名は

2

次的であるが,サービスの場合には,第

1

のブランドとなるのは提供組織(企

(4) 

業)である。

Berry (1999,  p. 199)

はこの理由として,顧客に提供される価値物に占める 有形要素と無形要素の割合の違いを挙げている。

Shostack(1977)

が分子論的 モデルで示しているように,市場で提供されている大部分の製品は,触知可能 な素材から作られた有形要素と触知不可能な行為,実行,努力などから構成さ れる無形要素との混合物である。そして,購入されるものの核となる部分(分 子の原子核)が有形要素であるのか,それとも無形要素であるのか,によって,

(4)  欧米では,企業名と製品名は切り離されており,顧客との関係において製品名が第 1 ブランドとして重要な役割を果たしている。しかし日本においては,企業名と製品名が 密接に結びついているだけでなく,企業名の持つ信頼性が顧客との関係において重要な 役割を果たすために,企業名が第

1

ブランドとなり,製品ブランドはその下に

2

次的に 形成されている。このために,例えばプロクター&ギャンブル

(P&G)

社は,日本のトイ レタリー市場では

P&G

社と製品との関連性を強く打ち出しているのに対して,米国市 場 で は 両 者 の 関 連 を あ ま り 強 調 し て い な い

(Rust.Zeithaml,  and  Lemon,  2000, p. 

9 2 ) 。

日本におけるブランド形成にはこのような特殊性があるために,日本市場での製造企 業のブランド戦略は,本稿で考察するサービス組織のブランド戦略に近いものであるか

もしれない。

(6)

製品はモノあるいはサービスに分類されている。さらに,製品を構成する有形 要素と無形要素の割合によって,モノであっても非常にサービス的なものもあ るし,サービスであっても非常にモノ的なものがある。

Berry

はこのような分 子論的モデルに基づいて,サービスの場合には,核となる部分が無形であり,

包装や表示,デイスプレイなどが利用できないために,提供組織そのものがブ ランドになる,と指摘している。また,モノの場合でも,顧客価値の実現に果 たす無形要素の役割が大きくなると,ブランドの重点は製品から企業へと移 る,ということも指摘している。

この説明は製品を構成する要素の違いの観点から行われているが,顧客への 製品の提供の仕方の違いや,顧客の選択意思決定過程の違いからも,モノとサー ビスにおける第

1

ブランドとなるものの違いを説明することが可能であろう。

まず,顧客への製品の提供の仕方の違いから見ると,大部分のモノの場合,

その提供は独立した小売業者を通じて行われるために,顧客が購入および消費 時点で接触するのは製品それ自体であり,その製造企業との接触機会は極めて 限られている。一方,サービスの場合には,サービス組織が直接にデリバリー を行うだけでなく,顧客もデリバリー・プロセスに参加し,多くの場合には,

従業員と協働を行わなければサービスを消費できないために,顧客はサービス 組織と直接的に接触する。この結果として,モノ消費の場合には,顧客が直接 的に五感で知覚できるのはモノそれ自体であるために,個々の製品についてイ メージ(意味空間)が形成される。一方,サービス消費の場合には,デリバリ ー・プロセスの結果として提供されたサービス(結果品質)だけでなく,そのデ

リバリー・プロセスに関与する様々な要因,すなわち従業員,物理的環境,他 の顧客などのすべて(過程品質)を評価するために,組織に対してイメージが形 成される。

次に,顧客の選択意思決定過程の違いから見ると,モノが独立した小売業者 を通じて販売される場合,小売業者は,顧客の比較・選択の容易性の観点から,

その売場を同ーカテゴリーに属する代替的製品から構成されるものにすること

が多い。中小専業店や専門店は

1

つのカテゴリーに属する代替的製品の深い品

(7)

119 

サービス組織におけるブランド戦略

‑119‑

揃えを形成し,大型店はそのような売り場を複数作ることによって,補完的な 品揃えを形成している。この結果として,顧客は各売り場を構成する様々な製 品ブランドを比較・検討して選択を行うことが多くなっており,選択意思決定 にとって重要なのは,個々の製品が代替的製品と比較して品質(機能的品質だ けでなく記号的品質も含む)あるいは価値(=知覚品質/知覚コスト)において

どの程度優れているのか, ということである。

一方,サービスの場合には,サービス組織が直接的にデリバリーを行うため に,そのデリバリー施設は,核となるサービスだけでなくそれを補完するサー ビスを含む,様々なサービスの集合体をデリバリーすることが可能なように形 成されている。例えばホテル・サービスでは,宿泊という核となるサービスだ けでなく,飲食サービスやランドリー・サービスなどの補完的サービスも同一 施設内で提供することで,顧客の宿泊経験を全体として高めている。これによ

り,顧客は選択意思決定過程やその消費経験に対する満足/不満足形成過程に おいて,個々のサービスやそのデリバリー・プロセスを別々に評価するのでは なく,核となるサービスと補完的サービスの集合体がもたらす全体的な品質や 価値を評価することになる。

以上のようなことから,モノの場合には,製品名が第

1

のブランドとなり,

サービスの場合にはその提供組織(企業)名が

1

つの単位として第

1

のブランド になることが多くなっている。しかし,モノの場合でも,製造企業がその直営 店を通じて自社の製品だけを,補完的製品も取り揃えて販売するならば,そこ

には企業名が第

1

のブランドとして形成されることになる。

3. 

階級社会を基盤に生まれたブランドと平等社会を基盤に生まれたブランド 市場には様々なブランドが存在するが,それらは歴史性の観点から「階級社 会を基盤に生まれたブランド」と「平等社会を基盤に生まれたブランド」に分 類でき,どちらに属するのかによってマーケティング,特にイクスターナル・

マーケティングの重視点は異なったものとなるであろう。

階級社会を基盤に生まれたブランドとは,階級社会において,王室や貴族の

(8)

ために注文生産されていた質の高いモノやサービスが,現在でもその高い品質 を維持しながら熟練の職人よって生産されているものである。このブランドの 価値は歴史性や希少性にあるために,その歴史性を否定するようなマーケティ

ング活動や,希少性を喪失させるような大量生産・大量販売体制の確立は,ブ ランドの蓄積された資産的価値を崩壊させることになる。そのため,市場の拡 大あるいは拡大の速度は意図的に制限されなければならない。

このブランドはどのような顧客を抱えているのかで判断されることが多いた めに,社会的地位や名声を備えた人々をコア顧客としなければならないし,そ うすることで,そのサービス消費には実際の消費経験を超えた意味が付加され ることになる。また,このブランドには「選良性」という機能が備わっており,

ブランド人格が明瞭で尖っているほど,その使用・ 消費に相応しい,良い顧客 を選ぶという特徴がある。しかし一方で,ブランドが強力になるほど,その意 味や価値を共有できない顧客,すなわちブランドが有名だからという理由だけ 消費する顧客や,それを消費することで表面的なアイデンテイティを形成しよ うとする顧客を多く吸引するようになる。これらの顧客は売り上げや利益の向 上には貢献するが,ブランドという器の中に異質物として混入するために,そ の純度を低下させる危険性がある。特に,サービス・デリバリーの空間および 時間が複数の顧客によって共有され,しかもその消費の可視性が高い場合に

は,これらの人々が顧客としてデリバリー・プロセスに参加すること自体が,

あるいは参加の仕方が,ブランドの意味や価値にネガティブな影響を及ぽすだ けでなく,コア顧客の離脱を招来する危険性を持っている。

したがって,このブランドのイクスターナル・マーケティングにおいては,

歴史性や希少性を維持するとともに,高品質なサービスをデリバリーすること に対してネガティブな影響を及ぽすような顧客あるいはその行動を排除するよ うなシステム作りが必要とされる。

次に,平等社会を基盤に生まれたブランドとは,アメリカで生まれた大量生

産のフォーデイズムに基づくものであり,標準化と大量生産を特徴とするもの

である。市場シェアの大きさが組織と顧客の両者に恩恵をもたらすために,市

(9)

121 

サービス組織におけるブランド戦略

‑121‑

場シェアの大きさがブランドの強さとして評価される傾向がある。また,この ブランドの選択においては利便性や機能性が重視されるために,サービスヘの アクセスのしやすさ,サービス・デリバリーに必要な時間の短さ,デリバリー・

プロセスヘの参加の容易さ,最終的に提供されるサービスの価値などの向上が 重要である。

尚,サービス・デリバリー・プロセスヘの参加の容易さとは,サービス消費 の場合,顧客自身も望む便益を引き出すためにデリバリー・プロセスに参加 し,そこにおいて必要とされる役割を果たさなければならないが,この参加が 容易であるということである。サービス消費とは,顧客自身の保有する消費資 源(金銭,時間,肉体的および精神的エネルギー,知識,技能,空間など)を組 み合わせることでサービス・デリバリー・プロセスに参加し,サービス組織の 従業員あるいは/および設備・ 機器と協働を行う過程で,望む便益を引き出す ことである。そして,その結果として享受できる便益の質は,サービス組織や その従業員の能力だけでなく,顧客自身による消費資源投入の適切性にも大き

く依存している。したがって,参加の容易さとは,顧客自身による消費資源の 適切な投入が容易であるということであるが,この容易には

2

つの意味が含ま れている。その第

1

は,消費資源の投入の仕方(投入すべき消費資源の内容と その組み合わせ方)を学習するのが容易であり,短期間で適切に参加と協働が できるようになる,ということである。第

2

の意味は,適切な役割遂行に必要 とされる消費資源の投入量が全体として少ないために,参加に際しての顧客の 負担が少ない,ということである。

この顧客による消費資源投入の観点から,階級社会を基盤に生まれたブラン ドを見るならば,消費資源の投入の仕方に関する学習が困難であるだけでな く,全体として大きな消費資源の投入が必要とされる,ということである。一 方,平等社会を基盤に生まれたブランドは,消費資源の投入に関する学習が容 易であり(例えばプロセスが標準化されているために),さらに消費資源の投入 が節約できるということである。

平等社会を基盤に生まれたブランドはこのような参加の容易性を特徴とする

(10)

ために,市場の形成・拡大も容易であり,大量生産・大量消費体制が確立され る。しかし一方で,「大量生産・大量消費は逆説的に『希少性』への憧れをか

(5) 

りたてる」ために,意図的に生産を制限することで,希少性という価値の提供 が行われることもある。だが,この希少性は歴史性を伴わないし,それが作り 出す話題性による需要の刺激を目的としているために,階級社会を基盤とした ブランドの希少性とは異なるものである。また,この希少性への憧れは,階級 社会を基盤に生まれたブランドに対する需要を喚起するために,市場の形成・

拡大という点では両ブランドは補完的であるかもしれない。すなわち,階級社 会を基盤に生まれたブランドは生産量の少なさと高価格のために消費が制限さ

れるが,この制限はこれを模倣したブランド(平等社会を基盤にした)が市場を 形成・拡大する機会を生み出す。そして,この模倣ブランドが強力になるほど その元となったブランドを輝かせ,その希少性への憧れを強めることになるた めに,階級社会を基盤に生まれたブランドも市場拡大の機会を得ることにな る。しかし,このような拡大は前述のような危険性を内包しているために,必 ずしも好ましいものとは言えないかもしれない。

また,平等社会を基盤に生まれたブランドの標的顧客グループは,社会的地 位や名声によってではなく,ライフスタイルや価値観などのサイコグラフィッ

ク特性によって決定される。しかし,社会的地位や名声を備えた人々の利用は ブランドの人格形成や顧客吸引に貢献することから,彼らを顧客として巻き込 むようなマーケティングの展開も必要とされる。

ill. 

サービスに固有なブランドの役割

サービス組織は,ブランド・エクイティよりも,カスタマー・エクイティの 方を重要なマーケティング資産と見なす傾向があったために,サービス・マー ケティング分野ではこれまでブランドの構築・強化が強調されることはなかっ た。しかし,サービス・マーケティングの分野においても,ブランドの構築・

強化が重要であることには変わりがない。

(5)  山田登世子 ( 2 0 0 0 ) , 『ブランドの世紀」,マガジンハウス, 6 1頁 。

(11)

123 

サービス組織におけるブランド戦略

‑]23‑

モノのブランド研究において,ブランドの構築・強化の必要性は様々な視点 から論じられており,それらの大部分はサービスにもそのまま該当する。しか しながら,サービス自体およびそのデリバリー・プロセスの特質のために,サ ービスのブランドには,モノの文脈において強調されている以外の役割も果た すことが期待されるし,実際に果たしていると考えられる。ここでは,サービ スの特質である「無形性」および「生産と消費の同時性」がサービス組織およ び顧客にもたらしている様々な問題のいくつかの解決あるいは低減に対して,

ブランドが果たす役割の視点から,サービスにおけるブランド構築・強化の必

(6) 

要性を検討したい。

, .   無 形 な サ ー ビ ス の 有 形 化

無形という言葉には触知できないという意味と知的に把握できないという意 味 が あ り , サ ー ビ ス は こ の

2

つ の 意 味 に お い て 無 形 で あ る

(Bateson, 1977)

。 触 知 と い う 点 に 関 し て は , モ ノ は 人 間 の 生 産 活 動 の 結 果 と し て 産 出 さ れ る 客 体 物であり,時間的・空間的に存在するために触知が可能である。しかし,サー

(6)  サービスのコモデイティ化やインターネットの普及も,モノのマーケティングにおい てと同様に,サービス・マーケティングでのブランドの構築・強化の璽要性を高めている。

コモデイティ化とは,各サービスやモノにおける差別化が無くなり,他のものによっ て容易に代替可能なものとなっていくことである。これにより価格だけが競争の手段と なり,絶え間ない価格競争を強いられることになる。ブランドはこのようなコモデイティ 化 に 対 抗 し , 価 格 競 争 を 回 避 す る 有 効 な 手 段 で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( R u s t ,

Zeithaml,  and Lemon,  2000,  p. 80)

また,インターネットの普及もブランドの構築・強化の必要性を高めている。インタ

ーネットの普及によって,顧客は以前ほど時間や労力を負担することなく,代替的なモ

ノやサービスを探し出したり,それらの品質や使用経験にかかわる情報を検索・収集し

たりすることが可能になっている。このことは,顧客のスイッチング・コストを引き下

げ,スイッチングを容易にしている。また,このようなオンライン経済では,顧客のロイヤ

ルティがモノやサービスの提供組織(企業)ではなく,インターネット・プロバイダーやイ

ンターネット小売業者に対して形成される可能性がある。この場合,それらのインター

ネット業者のサイトが扱わなくなれば,モノやサービスの顧客との接点が失われ,販売機

会を失うことになる。このようなことから,スイッチング・バリアの構築やインターネッ

ト業者に対する優位な立場の形成が必要とされているが,これらにおいてもブランドの

構築・強化は有効な手段の

1

つとなり得る

(Blattberg,Getz, and  Thomas,  2001,  pp.  200201)

(12)

ビスは,デリバリー・プロセスにおいて展開される様々な相互作用の結果とし て生成される人的あるいは物的行為,パフォーマンス,努力,プロセスである ために,触知は不可能である

(Rathmell,1974 ; Shostack, 1977 ; Berry, 1984)

また,知的に把握ができないというのは,選択意思決定過程では,顧客はサ ービスの品質やそれの自己ニーズヘの適合性を評価することが困難である,と いうことである。さらに,サービス自体やそのデリバリー・プロセスの評価に 専門的知識が必要とされるようなサービスの場合(例えば医療サービス),消費 後においてさえ,それらを評価できないということである。

選択意思決定過程での評価の困難性を招いている主要な原因としては,以下 の

3

つを挙げることができる。

その第

1

は,サービスは販売されてからデリバリーと消費が同時に行われる ために,評価対象としてのサービスは消費過程においてしか存在しない,とい うことである。大部分のモノの場合には,選択意思決定過程においてすでに,

様々な機能が物的特性としてデザインされて存在しているために,顧客は購買 前にその品質や自己ニーズヘの適合性などを評価することが比較的容易であ る。しかし,サービスの評価は消費過程においてのみ可能となるため,選択意

(7) 

思決定過程では,顧客はサービス品質を直接的に示す本質的属性ではなく,周 辺的手掛かり,すなわち有形な証拠(例えば,設備,機器,従業員の容姿や服 装,客層),価格,評判などからサービス品質を間接的に推測・評価せざるを 得なくなっている。このことは氷山の一角から残りの部分を想像しなければな らないのと似ており,サービスの選択意思決定過程における顧客の品質評価や それの自己ニーズヘの適合性評価を困難にしている。

2

に,サービス・デリバリー・プロセスには従業員だけでなく,顧客も参 加し,各々がそこで必要とされている役割を積極的且つ適切に遂行するだけで なく,協働を行うことが必要とされる。そのため,顧客が知覚するサービス品

(7) 

本 質 的 属 性

(intrinsicattributes)

とは,実際の物理的製品の中に存在し,製品自体を 変更しなければ変えることのできない属性であり,その製品の品質を直接的に示す指標

となるものである。

(13)

125 

サービス組織におけるブランド戦略

‑125‑

質は,サービス組織内の要因だけでなく,状況要因や顧客側の要因にも大きく 依存している。状況要因としては,利用時間・時期(ピーク/オフピーク)や天 候などがある。また,顧客側の要因としては,顧客本人だけでなく,サービス・

デリバリーの空間および時間を共有する他の顧客の属性や身なり,デリバリ ー・プロセスヘの参加や従業員との協働の仕方などがある。このために,新規 利用の場合は当然のこととして,同じサービス組織を反復利用する場合でも,

選択意思決定過程において,デリバリーの結果として享受できるであろうサー ビス品質を推測することは困難になっている。

3

に,無形性のために,サービス組織が顧客にサービス内容を伝達するの が困難であることや,大部分のサービスは零細店によって提供されているため に広告が行われ難い,あるいはサービスによっては広告が法的に規制されてい ることによって,顧客が選択意思決定に利用できる情報の量と質が低いという ことがある。

このようなことのためにサービスの選択意思決定過程においては,顧客はそ の品質を評価することが困難になっており,この結果として比較的高いリスク

(8) 

を知覚する。高い知覚リスクは顧客にその削減努力を要求するために,モノの 消費に比べて,サービス消費においては顧客ば情報探索のためにより多くの努 力を行わなければならなくなっている。

無形性がもたらすこの問題を解決あるいは低減する手段として,サービスの 有形化あるいは鮮明化の重要性が指摘されている。これは,顧客が五感で感じ ることのできるすべてのもの,例えばブランド,ロゴマーク,広告,サービス・

デリバリー施設(店舗)の物理的環境,従業員や顧客の外観や行動,実際のサー ビス・デリバリー・プロセスにおける出来事などを管理することで,顧客に強 烈で明確な印象を与え,明瞭な心的イメージを作り出そうとするものである。

この有形化の手段の中でも特に,ブランドは重要であると考えられる。それは,

強力なブランドは,そのサービスがどのような意味を持ち,どのような価値を

(8) 

知覚リスク概念およびその削減行動に関しては,拙稿

(1990, 1991)

を参照のこと。

(14)

提供し,どのような問題を解決するのか,そして競合サービスに対してどのよ うな差別的優位性を持つのか,などを表現し,顧客にこれを知覚させることで,

選択意思決定過程における顧客のサービスに対する理解を促し,知覚リスクの 削減や選択意思決定時間の節約に貢献するだけでなく,無形なものに対する顧 客の信頼を高めるからである

(Berry, 1999,  p.199)

尚,識別手段としてのブランドの名前(器)自体も,顧客のそれに対する認知 を高めるだけでなく,サービス内容の理解を助けるという点で重要である。例 えば,ダイヤルー

A

ーマットレスという小売業者の社名は,同社が何を売って おり,それを買うにはどのようにすればよいのか,ということを,単純明快に 示している。同社は,

24

時間・年中無休の体制でマットレスの注文を電話で 受け付け,必要であれば

2

時間以内にでも,迅速に商品を配送することで知ら れているが,その社名は,電話をし,ベッティング・コンサルタントと話をす

(9) 

るだけで,商品を購入・配送してもらえることを示している。

このようにサービスのブランドは無形なものを有形化することで,無形性と いう特質がもたらす評価の困難性という問題の解決あるいは低減に貢献するの である。

2. 

質の高い従業員と顧客の吸引と活性化

サービス・デリバリーには顧客の参加が必要とされるために,ある顧客に とってデリバリー・プロセスに参加している従業員および他の顧客の属性(性 別,年齢,人種,社会的地位など),身なり,行動,態度,などもサービスの 重要な一部である。さらに,従業員および顧客(他の顧客を含めて)の参加と協 働のあり方はサービスの結果品質および過程品質の形成にも重大な影響を及ぼ すために,両者ともに知覚品質およびブランドの意味や価値の形成において重 要な役割を果たしている。特に,デリバリー・プロセスの可視性が高いサービ スの場合や,デリバリーの空間および時間が多くの顧客によって共有されるよ

(9)  Berry, 

L .  L .  

(1999),  Discovering The Soul of Service:  The Nine Drivers of Sustainable  Business Success,  New York, NY The Free Press,  p. 207. 

(15)

1 2 7   サービス組織におけるブランド戦略

‑127‑

うなサービスの場合には,そこを利用する顧客の属性や身嗜みは重要な役割を 果たすことになる。また,可視性が低い,あるいはデリバリー空間が共有され ることがない場合でも,どのような属性の顧客が利用しているのか,というこ

とはブランドの意味や価値の形成に影響を及ぼす。このことは,社会的地位の 高い人や有名人が利用しているサービスは,ブランドとして高く評価されるこ

とからも明らかであろう。

このことから,サービス組織は質の高い従業員と顧客を吸引し,彼らとの関 係を維持することが璽要であるとの認識から,両者に対するマーケティング展 開の必要性が指摘されている。尚,両者に対するマーケティングが必要とされ るのは,多くのサービス・デリバリー・プロセスでは従業員と顧客の間でサー ビス・エンカウンター(デリバリー・プロセスでの人的相互作用)が展開される ために,顧客の消費経験に対する満足/不満足と従業員の職務満足/不満足の

(10) 

間に循環的な相互影響関係が発生しやすいことにもよる。

大部分のモノの場合には,顧客はその生産現場から完全に分離されており,

顧客と生産現場の従業員とが直接的に接することはないために,生産に関与す る従業員の職務満足やそれが生みだす行動や態度が顧客の品質知覚や満足/不 満足に直接的に影響を及ぼすことはない。そのため,従来のモノのマーケティ

ングでは,その戦略の対象は顧客に限定されていた。関係性マーケティングの 文脈では,顧客だけでなく,企業の様々な活動に関わる人々や組織に対する戦 略展開が強調されるようになっているが,サービス・マーケティングにおいて は,特に従業員がサービス組織の存続と成長において重要な役割を果たすこと から,組織と従業員との間に関係性を構築するためのマーケティングの展開が 強調されている。すなわち,顧客と同様に,従業員も組織の存続と成長に必要 な人的資産とみなし,市場における顧客を外部顧客,組織内の従業員を内部顧

( 1 0 )   顧客満足と職務満足の間の循環的な相互影響関係については,拙稿 ( 1 9 9 7 ) を参照のこ と 。

サービス・エンカウンターは顧客のサービス消費経験に重大な影響を及ぼし,彼のブ

ランドに対する意味や価値の形成において重要な役割を果たすだけでなく,彼の発信す

るロコミを通じて他者のブランド認知や,その意味や価値の理解にも影響を及ぽす。

(16)

客と捉えることで,前者に対してはイクスターナル・マーケティングを,後者 にはインターナル・マーケティングを同時且つ適切に展開することの必要性が 強調されている。

しかし,インターナル・マーケティングは既存従業員の組織に対するコミッ トメンや職務に対するモチベーションの向上にとっては有効であるが,新規従 業員の吸引という点では有効性は低いかもしれない。むしろ強力なブランドの 方が,資金を投入することなく,有能な新規従業員を吸引できる点で優れてい るかもしれない。『フォーチュン』は

2000

年に,

2

つの企業グループの求人に 対して,平均で何人の応募者がいるのか,という興味深い比較を行っている。

2

つのグループとは「称賛される会社トップ

10

」というリストに載っている企 業と「働きたい会社ベスト

100

」というリストに載っている企業である。前者 のリストはマーケティングと経営の実績が指標となっており,マイクロソフ

ト,デル,インテル,ウォルマートなどの強力なブランドを擁する企業が含ま れ て い た の に 対 し て , 後 者 の リ ス ト は 従 業 員 の 働 き や す さ が 指 標 と な っ て い た。その比較の結果では,

1

人の求人に対し,強力なブランドを擁する企業の 方が,懸命に従業員を満足させようとする企業の

2

倍の応募者を集めていた

(26

(11) 

人 v s .

13

人 ) 。

彼らが強力なブランドに引きつけられる理由の

1

つは名声であり,もう

1

つ は職場の雰囲気である。名声は,彼らのアイデンテイティを示すものとなるだ けでなく,将来の活動あるいは転職の可能性を拡大するためである。また,有

(12) 

能な従業員が集まることで,全員の目標や能力が向上し,職場が活力のあふれ た場所となり,新しいアイデアに満ちていることが多いためである。このため に,強力なブランドは有能な従業員を吸引し,彼らのパフォーマンスを高める

(11)  D'Alessandro,  D. F.  (2001),  Brand Warfare:  JO Rules for Building the Killer Brand,  McGrawHill. 

鬼澤忍訳,『ブランド戦国時代 キ ラ ー ・ ブ ラ ン ド 構 築 の

10

の鉄則』,

早 川 書 房

2001

年 ,

208‑209

頁 。

(12)  Scifter,  Harvey  and  Peter  Economy(2001), Leadership  Ensemble: Lessons  in  Collaborative Management from the  World's Only Conductorless Orchestra,  New York,  NY Time  Books. 

鈴木主税訳,『オルフェウス・プロセスー指揮者のいないオーケス

トラに学ぶマルチ・リーダーシップ・マネジメントー』,角川書店,

2002

年 ,

87

頁 。

(17)

129 

サービス組織におけるブランド戦略

‑129‑

だけでなく,職場を活性化することで,さらにそれ自身を強化するという好循 環を生みだすことが可能である(図

l

参照)。

また,強力なブランドは質の高い顧客を吸引・維持することも可能にする。

ここでの質が高いとは,詳細な検討は次章で行うが,

2

つ の 意 味 を 持 っ て い る。第

1

の意味は,ブランドの持つ意味や価値を共有することで,その人格の 構築・強化に貢献できるということである。階級社会を基盤に生まれたブラン ドの場合には,そのブランドの歴史性や意味を理解した上で,その消費におい て相応しい身嗜みや行動をとることができる高品位な顧客である, ということ である。この場合,その人の社会的地位や財力も関係あるが,それ以上に重要 なのは,デリバリー・プロセスにおける行動や態度である。社会的地位が高く,

財力もあるとしても,それらをひけらかすだけで,デリバリー・プロセスにお いて期待されている役割を適切に遂行し,従業員や他の顧客と協働できない低 品位な顧客は,質の高い顧客とは言えない。例えば,高級車に乗っている人ほ ど運転マナーが悪く,他の運転者を威圧したり,歩行者に危険を与えるような 運転をしたりする傾向があるが,このような顧客は高価な自動車を購入するだ けの財力はあるとしても,質の高い顧客ではない。なぜならば,彼らはその運 転マナーを通じてそのブランドを傷つけているからである。同様なことは平等 社会を基盤に生まれたブランドにも該当することである。

2

の意味は,ブランド人格の構築・強化に直接的には貢献しないが,高い ロイヤルティによって長期的に高い利益をもたらすとともに,ポジティブな口 コミの発信を通じて新規顧客の吸引に貢献する顧客である,ということである。

この第

2

の意味における質の高い顧客は,サービス組織がその存続・成長のた めの安定的な顧客基盤を形成するとともに,ブランドを強化するのに必要な投

形成・強化 形成・強化

有能て信頼てきる従業員

I ~

二a~ こ

itl

質の高い顧客

図 1 ブランドと質の高い従業員・顧客の関係

(18)

資を生み出すことになる。しかし,ブランドはどのような顧客を抱えているの かで判断されることが多いために,ブランド人格を傷つけない顧客である必要 がある。ブランドの売り上げや利益の向上に貢献するだけの財力を持っている 顧客でも,その社会的行動やデリバリー・プロセスでの行動が他の顧客の知覚 品質にネガティブな影響を及ぼしたり,第

1

の意味での質の高い顧客が敬遠し て離脱することを招いたりするような場合には,質の高い顧客とは言えない。

強力なブランドがこのような質の高い顧客を吸引するのは,顧客にとって も,利用しているサービスが自分と他者を識別する主要な手段の

1

つであり,

自身のアイデンテイティを形成する主要な構成要素の

1

つとなっているためで ある。そして,ブランドが質の高い顧客を吸引することで,第

1

の意味での質 の高い顧客同士が相互に影響を及ぼすことで,さらには彼らが第

2

の意味での 質の高い顧客にポジティブな影響を及ぼすことで,サービスの結果やそのデリ バリー・プロセスの品質が向上していくことも期待される。

このように強力なブランドは資産として価値のある従業員および顧客を吸引 するだけでな<'その活性化を促し,逆にまた,両者はブランドの構築・強化 に貢献するという好循環を生み出す可能性が存在している。尚,従業員も顧客 も,彼らがサービス組織と関係を保っているというだけでは人的資産にはなら ない。それぞれが持っている能力や価値が活用されて初めて,それは人的資産 となるのである。金鉱石もそこから金を取り出す技術がなければ,それはただ の石に過ぎないのと同様に,両者もその能力や価値を活用するための技術やシ ステムがなければ,価値のある人的資産とはならない。ブランドは,金をとり だす技術と同様に,両者から能力と価値を引き出すシステムの

1

つとして機能 するのである。

3. 

従業員および顧客の意思決定と行動の調整

従業員,特にフロントルームにおける従業員は,様々なコミュニケーション・

ツールを通じて顧客に提供することを約束したブランドの価値や意味を,経験

へと転換する重要な役割を担っている。しかし,彼らは,サービス・デリバリ

(19)

131 

サービス組織におけるブランド戦略

‑131‑

ーにおいてどれだけ努力するのかについて,かなりの自由裁量が認められてい る 自 発 的 な 労 働 者 で あ る 。 そ の た め , 最 高 の 努 力 を 行 わ せ る よ う な モ チ ベ ー ションが必要となるが,ブランドはこのモチベーション機能を果たすものの

1

つである。

ブランドは,彼らの行動や態度を方向づけ,さらに彼らに質の高いサービス をデリバリーするための努力を行わせることに貢献する。従業員がブランドの 中核的価値を共有することでサービスは卓越したものになるが,リーダーは組 織の内部から彼らの行動や言葉を通じてそれを伝え,組織全体にそれを浸透さ せるが,ブランドは組織の外から同じような役割を果たす。ブランドの中核的 価値があらゆる従業員に浸透することで,デリバリー・プロセスにおける彼ら の役割やその重要性の理解が促され,権限委譲が行われているならば,彼らは デリバリー・プロセスの各場面において必要とされる意思決定や行動を適切且 つ迅速に遂行することが可能になる。

顧客もデリバリー・プロセスに参加し,提供されたものをその場で同時に消 費していく。しかし,彼らはデリバリー・プロセスを単に傍観している存在で はなく,彼自身もそこで必要とされている役割を果たさなければならない。デ リバリー・プロセスは従業員と顧客の協働プロセスであり,両者がそれぞれに そこにおいて期待されている役割を適切かつ積極的に果たすだけでなく,効果 的且つ効率的にサービス・エンカウンターを展開しなければ,ブランドの価値 や意味は実現されない。ブランドは彼らに適切な役割を認識・実行させる要因 の

1

つである。

平等社会を基盤として生まれたブランドの場合,そのデリバリー・システム はかなりの程度に標準化されているために,ブランドはそこで必要とされるス クリプト(台本)を顧客に理解させ,適切に遂行させることに貢献する。また,

階級社会を基盤に生まれたブランドの場合には,その選良性によって,ブラン

ドの価値や意味に適合した役割を遂行できない顧客を排除してしまう。そのた

め,そのようなブランドを消費しようとする顧客は,ブランドの価値や意味を

理解し,デリバリー・プロセスにおける服装や行動をそれに相応しいように調

(20)

整することが要求される。

4. 

諸刃の剣としてのブランド

このようにブランドの構築・強化は,サービスそれ自体およびそのデリバリ ー・プロセスがもたらす問題のいくつかの解決あるいは低減に貢献するが,他 方で問題を悪化させる危険性も内在している。その大きな問題としては,需要 の急速な拡大がもたらす負のネットワーク外部性,供給の拡大がもたらすブラ

ンドの価値の喪失,スキャンダル化などがある。

負のネットワーク外部性の問題とは,ブランドの構築・強化によって需要が 急速に拡大することでもたらされる品質の低下問題である。サービスの場合,

在庫ができないことによって需給調整が困難であるという問題や,不確定な人 間(従業員と顧客)がデリバリー・プロセスに参加し,協働しなければならない が,そのコントロールが困難であるという問題がある。これらの問題は,品質 の時系列的および共時的一貰性の維持を困難にしているが,需要の拡大はこの 問題をさらに悪化させるということである。

サービスの需要は特定に時期や時間に集中する傾向があるのに加えて,在庫 形成による需要変動への対応ができないために,需要超過あるいは供給超過と いう状況が生じやすい。供給超過の場合,例えば,ホテルの空き室やレストラ ン空席は在庫ではなく,デリバリー能力の浪費となる。逆に,超過需要の場合,

設備や人員を迅速に補充する,あるいは予想される最高需要に対処可能なデリ

バリー能力を常備する,などでの対応が困難であることが多いために,購入を

断るか,あるいは現有能力で超過需要に対応せざるを得なくなっている。ブラ

ンドの構築・強化が急速な需要拡大をもたらし,さらにその平準化が適切に行

われない場合,これらの問題をさらに深刻なものにすることになる。需要超過

に対して現有のデリバリー能力で対応しなければならない場合には特に問題は

深刻であり,品質低下による顧客の不満足形成や離脱を招くだけでなく,希少

な従業員という人的資産に負担を課すことで,彼らの職務満足の低下や離脱を

招くことにもなる。需要の急速な拡大に対して従業員の増員で対応しようとす

(21)

133 

サービス糾織におけるブランド戦略

‑133‑

る場合でも,デリバリーに必要とされる資質や技能を持った従業員を必要なだ け採用することが困難であったり,あるいは採用した従業員に対して充分な訓 練を行うだけの時間が確保できないことによって,不十分な知識や技能しか持 たない従業員がデリバリー・プロセスに参加することになり,品質を低下させ る危険性がある。

また,ブランドが市場を拡大するということは,様々なニーズや特性を持っ た顧客を吸引してしまうということでもあり,ブランドはそれらのニーズのす べてを充足することができないために,不満足な顧客を多く生み出すことにな る。さらに,サービス・デリバリーでの役割を十分に理解し, しかもそれを適 切に遂行することができない顧客を参加させることになるために,デリバリ

ー・プロセスの中断や遅延を多発させてしまい,彼らだけでなく,他の顧客の 満足やブランド評価を低下させる危険性がある。

ブランドの構築・強化による需要の急速な拡大はこのような品質の低下を招 くだけでなく,信頼を崩壊させる危険性もあることから,需要の拡大は意図的 に制限されるか,あるいはデリバリー能力の増強と歩調を合わせる形で行われ る必要がある。

2

に問題として価値の喪失があるが,このことは特に階級社会を基盤に生 まれたブランドに該当することである。階級社会を基盤として生まれたブラン ドの場合,希少性やそれがもたらす権威性に価値があり,それらが顧客を吸引 する。しかし,需要が拡大し, しかもそれに対応するようにデリバリー能力の 拡大が行われ,大量にデリバリーされるようになると,ブランドは崩壊するか もしれない。なぜならば,大量生産されることで,陳腐化し,希少性や権威性 というオーラが喪失してしまうからである。また,平等社会を基盤に生まれた ブランドの場合でも,それがあまりにも大衆化してしまうと,それは各顧客の アイデンテイティを形成する手段でも愛着の対象でもなくなり,単なる消費物 となってしまう危険性がある。

3

の問題として,ブランドが強力になるほどスキャンダルが捏造されやす

くなり,その結果としてブランドに対する信頼が崩壊してしまうという危険性

参照

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