老化と遺伝子
著者 潮田 嘉子
雑誌名 大手前大学人文科学部論集
巻 4
ページ A145‑A152
発行年 2003
URL http://id.nii.ac.jp/1160/00000614/
Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止
潮 田 嘉 子
要 旨
シ ョ ウ ジ ョウ バ エ 以 外 の 動 物 、 ヒ トを含 め 脳 神 経 細 胞 の 老 化 に つ い て解 説 し、 次 い で シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ を は じめ と して 、 老 化 と遺 伝 子 の 関 係 、 さ らに 環 境 要 因 が 寿 命 ・老 化 の 過 程 で ど の 様 に 関 わ っ て い る か を考 察 す る。
キ ー ワ ー ド 老 化 と遺 伝 子
III.最 近 の 老 化 の 研 究 か ら
シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ か ら ヒ トま で
前 の 論 文 で シ ョウ ジ ョ ウバ エ の 老 化 に 伴 う脳 神 経 球 の 構 造 変 化 に つ い て 説 明 し て きた 。 一 方、 ヒ トの 老 化 は 脳 神 経 系 の 老 化 を は じめ と して 、 循 環 器 系 、 免 疫 系 な ど の 障 害 に よ
る もの が 多 い こ とが 知 られ て い る。 こ こ で は 、 先 ず シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 以 外 の 動 物 、 ヒ ト を含 め 、 脳 神 経 細 胞 の 老 化 に つ い て 取 り上 げ 新 しい 研 究 成 果 を解 説 す る。 次 い で ヒ トの 老 化 の 研 究 に シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ を は じめ と し て 、 他 の い くつ か の 動 物 を用 い た研 究 が モ デ ル と して 使 わ れ て い る の で総 括 す る 。 そ し て 、 最 後 に 、 遣 伝 子 が 老 化 に 密 接 に 関 係 し て い る こ とは 言 う ま で も な い こ とで あ る が 、 さ らに 、 環 境 要 因 が 寿 命 ・老 化 の 過 程 で ど の 様 に 関 わ っ て い る か 研 究 成 果 を含 め て考 察 す る 。
1.脳 神 経 細 胞 と老 化
シ ョ ウ ジ ョウ バ エ は 、 正 常 の 野 生 型 の ハ エ で も加 齢 と と もに 脳 神 経 細 胞 の 数 が 減 少 す るが 、 本 研 究 シ リー ズ1、IIに 用 い た い くつ か の 突 然 変 異 種 で は 、 そ の 減 少 速 度 が 特 に 著 しい 。
種 々 の 動 物 の 脳 で も神 経 細 胞 の 数 と寿 命 とは 密 接 な相 関 関 係 が あ る。 シ ョウ ジ ョ ウ バ エ 以 外 で は 、 ヒ ト、 サ ル 、 イ ヌ 、 ネ コ、 ラ ッ トな ど で大 脳 皮 質 の 神 経 細 胞 の 数 が 減 少 す る こ とが 知 られ て い る。
ヒ トの 神 経 細 胞 の 老 化 に 関 して は 、 生 理 的 な 老 化 と病 的 な老 化 に分 け られ て い る。
前 者 は加 齢 に よ る変 化 で 、 高 齢 者 の 脳 の 重 量 は 約5〜10%減 少 す る 。 こ れ は 、 加 齢 に よ っ て 脳 の 細 胞 の 数 が 減 少 す る こ とで 、 同 時 に 単 純 萎 縮 、 リ ポ フ ス チ ン の 沈 着 な どが 起 こ る。 後 者 の 病 的 な 変 化 は 、 老 年 痴 呆 、 老 人 斑 、 ア ル ツ ハ イ マ ー 原 繊 維 の 変 化 な ど
1)
が あ る と い う。
脳 神 経 細 胞 の 減 少 す る部 域 は 、 あ る特 定 の 部 域 で著 し い 。 本 研 究 のIIの 実 験 で示 さ れ た よ う に 、 シ ョウ ジ ョ ウバ エ の 脳 神 経 球 内 で の 老 化 に 伴 う細 胞 数 の 減 少 は 、 系 統 に
よ っ て 多 少 異 な っ て い た が 、medullaの 部 分 で も っ と も著 し く、 次 い でantenalgan‑
glionで 多 くの 細 胞 が 消 失 して い る が 、lobula、lobulaplateで は 、 あ ま り減 少 は 見 られ な か っ た 。 脳 神 経 球 内 に 空 胞 が 生 じ るの は 、 神 経 球 を構 成 して い る 細 胞 が 老 化 に よ り消 失 す る こ とで あ る 。 言 い 換 え れ ば 細 胞 が 死 ぬ こ とに よ っ て そ の 数 が 減 少 す る。
2)
Brodyに よ る と、 ヒ トの 脳 神 経 細 胞 で 高 齢 者 の 神 経 細 胞 の 減 少 は 、 前 頭 葉 の 上 前 頭 回 で最 も著 し く、 最 も減 少 の 少 な い部 分 は 頭 頂 葉 の 後 中 心 回 で あ る と い う。 例 え ば 、 90歳 の 老 人 の神 経 細 胞 数 は 上 前 頭 回 で は50〜60%減 少 し、 側 頭 葉 の 上 側 頭 回 で は30%
減 少 、 後 中 心 回 な ど で は 有 意 義 な 減 少 を示 さ な か っ た(図1)。
シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ 、 ヒ ト と も に 、 脳 神 経 細 胞 は 老 化 に 伴 い そ の 数 が 減 り、 細 胞 質 中
図1ヒ トの 脳 の 様 式 図
の 微 細 構 造 も消 失 し て 、 細 胞 が 収 縮 し、 そ の 機 能 が 消 失 して い く。 さ ら に 、 ヒ トで は 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ で は 明 らか で な い神 経 回 路 を 形 成 し て い る神 経 突 起 の 変 化 や 減 少 に
3)
つ い て 詳 し く調 べ ら れ て い る。
こ の 研 究 に よ る と、 神 経 突 起 の 減 少 に よ っ て神 経 機 能 が 低 下 し、 老 化 に 伴 っ て 脳 が 萎 縮 す る と い う。Buellら は 、 ゴ ル ジ法 に よ る神 経 細 胞 の 染 色 で 樹 状 突 起 を 観 察 し て
4)
い る 。 そ の 結 果 、 高 齢 者 ほ ど樹 状 突 起 の 減 少 が み ら れ 、 老 年 痴 呆 で と くに 突 起 の 減 少 が 著 し い とい う こ とで あ る。 興 味 深 い の は 、 知 能 の 保 た れ た老 人 で は 、 逆 に樹 状 突 起 が 増 え て い て 、 神 経 細 胞 の 代 償 機 能 を も ち 、 神 経 回路 の 補 修 を し て い る よ うに 思 わ れ る との こ とで あ る 。
脳 の 老 化 に よ り痴 呆 性 老 人 に な る主 な 原 因 は 、 脳 血 管 障 害 に よ る もの とか ア ル ツハ
5),6)
イ マ ー 病 に よ る。 こ の こ と に つ い て 多 くの 研 究 者 に よ っ て 詳 し く調 べ られ て い る 。 吉 川 に よ る と ア ル ツ ハ イ マ ー 病 は 、 進 行 性 の 記 憶 障 害 と知 能 低 下 を 主 症 状 とす る脳 の 変 性 疾 患 で あ り、 患 者 の 脳 で は 、 ニ ュ ー ロ ン(神 経 細 胞)が 大 量 に 変 性 死 を起 こ し、 高 度 の 萎 縮 が 見 ち れ る こ と。 ニ ュ ー ロ ン 内 に神 経 原 繊 維 の 変 化 が 起 き ニ ュ ー ロ ン外 で は ア ミロ イ ドの 沈 着 が 起 き る。 こ れ が 老 化 性 変 化 の 特 徴 で あ る と い う。 こ の ア ミ ロ イ ド
を構 成 して い る タ ンパ ク質 が 所 謂 老 化 物 質 で あ る。
7)
Hardyら の 学 説 に よ る と、 ア ミロ イ ドの 成 因 は 、 先 ず 老 人 斑 が 現 れ る 。 こ れ に は AβPとPHFと い う2種 の タ ンパ ク質 が 蓄 積 し て い る と い う。 次 い で 加 水 分 解 酵 素 の リ ソ ゾー ム(lysosome)に よ っ て 分 解 さ れ る と所 謂 神 経 細 胞 死 が 起 き る わ け で あ
る。
2.老 化 研 究 の モ デ ル と し て の シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ な ど
こ の 研 究 シ リー ズ1で は 、 シ ョウ ジ ョ ウ バ エ の 遺 伝 的 な 系 統 に よ っ て 生 存 期 間 が 異 な っ て い る こ と を示 し、 老 化 遺 伝 子 の 存 在 を示 唆 し た。 次 い で 、 生 存 率 の 低 下 は 生 体 機 能 な ど と と もに 、 老 化 の 指 標 に な る こ と を 明 らか に した 。 シ リー ズIIで は 、 系 統 間 の 生 存 率 と老 化 に 伴 う脳 神 経 球 内 で の 構 造 変 化 に つ い て 詳 し く調 べ た 。 そ の 結 果 、 生 存 率 と神 経 球 内 の 細 胞 の 空 胞 化(細 胞 死 に よ る消 滅)は 密 接 な 関 係 が あ り、 空 胞 化 の 速 度 は 遺 伝 的 系 統 の 遺 伝 子 制 御 に よ る相 異 と見 な し た 。
こ の よ う な シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ で の 研 究 が 、 人 の 老 化 を理 解 す る た め に どの 程 度 ま で 有 用 か 。 こ こ で は他 の い くつ か の 動 物 を含 め て 、 老 化 の モ デ ル と な る動 物 に つ い て考 察 す る 。(な お 厳 密 な 意 味 で 老 化 と、 い わ ゆ る加 齢(エ イ ジ ン グ)と い う こ と は 一 致 しな い こ とが あ る 。 加 齢 は 、 ヒ トや マ ウ ス の よ う な 哺 乳 動 物 で は 生 ま れ て か ら死 ぬ ま で の 時 間 、 シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ や 線 虫 な どは 成 虫 に な っ て か ら 死 ぬ ま で の 時 間 を 指 し て い る。 ま た 、 老 化 は 成 長 期 以 降 、 生 体 の機 能 の 衰 え を指 し て い る し、 寿 命 と い う も の
は 、 生 ま れ て か ら死 ぬ ま で の 期 間 を 言 っ て い る 。)
老 化 モ デ ル と して の 条 件 は 、 ヒ トの 加 齢 の 過 程 で み られ る分 子 、 細 胞 の 微 細 構 造 、 細 胞 、 組 織 、 器 官 さ ら に 個 体 と い う よ う に ど れ か の レベ ル で似 て い る こ と で あ る。 見
8)
か け は 似 て い て も本 質 は 異 な っ て い る こ とが あ る 。 つ ま り、 細 胞 レベ ル で 老 化 が 共 通 して い て も、 個 体 レベ ル で の 老 化 とは 必 ず し も一 致 しな い とい う こ とで あ る。
線 虫 の 一 種 のCaenorhabditiselegansも 、 シ ョ ウ ジ ョウ バ エ と 同 様 に 全 ゲ ノム が 解 明 さ れ 遺 伝 的 研 究 が 行 い や す い の で 、 多 細 胞 生 物 の モ デ ル と し て 有 用 で あ る。 線 虫 は 円 形 動 物 で 、 十 二 指 腸 虫 とか 回 虫 に 近 い 動 物 で 、 加 齢 変 化 が ヒ トの 加 齢 過 程 で 見 られ る もの に 似 て い る。 そ の た め 、 近 年 、 こ の 動 物 を用 い た老 化 の 研 究 は 著 し い 。 そ の 理 由 と し て 、 寿 命 が 短 く約25日 余 りで あ る こ とや 、 寿 命 の 遺 伝 学 的 解 析 や 、 分 子 レベ ル で の 加 齢 の 変 化 が 詳 し く調 べ られ て い る こ とで あ る。 した が っ て 細 胞 レベ ル で は 老 化 モ デ ル と し て 応 用 され る こ とが 大 い に 期 待 さ れ て い る。
ヒ トと 同 じ哺 乳 動 物 で あ るマ ウ ス や ラ ッ トの 老 化 もす ぐれ た 老 化 モ デ ル で あ る 。 マ ウ ス の 寿 命 は 、 約35ヶ 月 で あ るが 、 平 均 寿 命 が 短 く2ヶ 月 ほ どの 早 老 症 の マ ウ ス が 見
9)
出 さ れ て い る 。 こ の マ ウ ス は は じ め 正 常 な 成 長 を す る が 、 老 化 の 症 状 が 突 然 現 れ る 老 化 促 進 マ ウ ス(Senescenceacceleratedmouse:SAM)で あ る 。
ヒ トの 早 老 症 で あ るWerner症 候 群 の 患 者 は 、20歳 代 か ら 老 化 が 始 ま り40歳 半 ば で 死 亡 す る 。 そ の 原 因 は 、 ヘ リ カ ー ゼ を コ ー ドす るWRN遺 伝 子 の 変 異 で あ る と い
10)
う 。 ま た プ リ ジ ェ リ ア(Hutchinson‑Gilford)症 候 群 の 患 者 で や は り 早 期 の 老 化 症
11)
が 知 られ て い る 。 幼 児 の と き の 外 見 は 正 常 で あ る が 、14歳 ぐ ら い の 少 年 に な る と急 に 老 年 性 の 変 化 が み られ 、 容 貌 、 体 躯 、 失 わ れ た 頭 髪 な ど100歳 の 老 人 の そ れ よ り著 し い と い わ れ て い る。 こ の ケ ー ス も生 理 的 老 化 に 見 ら れ る。 多面 的 変 化 の 形 質 を支 配 す
12),13)
る遺 伝 子 に よ る こ とが 解 明 さ れ て い る 。
早 老 症 の マ ウ ス で は 老 化 を制 御 す る 遺 伝 子kl/kl(klotho遺 伝 子)が 見 出 され て い る。 こ の 遺 伝 子 は 、 単 一 の 劣 性 遺 伝 子 で 、 こ の 遺 伝 子 に よ り成 長 障 害 が お き、 ヒ トに
14)
見 られ る よ う な 老 年 障 害 が 見 ら れ る。
前 の 論 文IIで 示 し た シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ のdrd(drop‑dead)は 、 成 虫 に な っ て か ら 1日 目か ら2日 目 に 突 然 転 倒 死 を起 こす ハ エ で あ り、 こ れ も老 化 遺 伝 子 の 発 現 に よ る 致 死 と い え る。
以 上 シ ョ ウ ジ ョウ バ エ 、 線 虫 、 マ ウ ス 、 ヒ ト等 の 老 化 を短 縮 す る遺 伝 子 の 説 明 を し て き た が 逆 に 寿 命 を延 ば す 遺 伝 子 も見 出 さ れ て い る 。 シ ョ ウ ジ ョウ バ エ の 長 寿 の 雄 と 雌 を掛 け あ わせ る方 法 で 、 正 常 の ハ エ よ り も約2倍 長 く生 き る 系 統 が 作 り出 さ れ て い
15)
る。 こ の ハ エ は 、 長 く生 き る だ け で は な く丈 夫 で ス トレ ス に 強 い ハ エ で あ る。 そ の ハ エ と普 通 の ハ エ が 合 成 す る タ ン パ ク質 を比 較 し た と こ ろ 、 長 寿 の ハ エ の 細 胞 質 に は 抗
酸 化 酵 素 で あ る ス ー パ ー オ キ シ ッ ド ・デ ィ ス ム タ ー ゼSOD(superoxidedis・
mutase)の 合 成 量 が 増 加 し て い る と い う。 こ の こ とは 、 長 寿 命 の ハ エ で は 正 常 の 酵 素 を 規 定 す る 遺 伝 子 に 違 い が あ る こ と を 意 味 して い る。 言 い 換 え る と、SODが 活 性 酸 素(ス ー パ ー オ キ シ ッ ド、02)と 呼 ば れ る有 害 な フ リー ラ ジ カ ル を 還 元 し て 、 酸 化 に よ る障 害 か ら ま も っ て い る 。 こ の 遺 伝 的 な 違 い に よ っ て 、 普 通 の ハ エ は 長 寿 の ハ エ よ り早 く老 化 す る。
16)
線 虫 も数 多 くの 突 然 変 異 体 が分 離 さ れ 遺 伝 子 解 析 が 行 わ れ て い る。 そ れ ら の 中 に は 、 長 寿 突 然 変 異 体 で 平 均 寿 命 が 野 生 型 の 倍 に な るdaf‑2遺 伝 子 や 、 死 亡 率 を低 下 さ せ 、 最 長 寿 命 が 野 生 型 の 約2.2倍 、 平 均 寿 命 で も1.7倍 延 長 さ せ る ㎎6‑1遺 伝 子 が 見 出 さ れ て い る。 こ の 線 虫 で も細 胞 質 のSODと カ タ ラー ゼ の2つ の 抗 酸 化 酵 素 が 上 昇 して い る とい う。 こ れ ら の 遺 伝 子 の 発 現 は 、 神 経 細 胞 で の エ ネ ル ギ ー 代 謝 に 大 き な 役 割 を
し て い る こ と で あ る。
ま た 寿 命 が 延 び る だ け で は な く発 生 速 度 の 遅 いclk(clock)と い う系 統 も見 出 さ れ て い る 。 代 謝 速 度 が 遅 い 動 物 は 老 化 速 度 が 遅 い こ とが 知 ら れ て い る。 このclk‑1遺 伝 子 と先 のdaf‑2遺 伝 子 を2重 に もつdaf‑2/clk‑1と い う二 重 の 突 然 変 異 体 は 、 両 遺
17)
伝 子 の 相 互 作 用 に よ っ て 寿 命 が 正 常 の6倍 に 達 した とい う。
以 上 の よ う に 線 虫 で 見 出 さ れ た 老 化 の 遺 伝 子 に は ヒ トを含 め た 多 くの 動 物 に も存 在 す る も の が あ る。 した が っ て シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ と共 に 老 化 の メ カ ニ ズ ム を研 究 す る上 で 重 要 な モ デ ル で あ る とい え る 。
3.環 境 要 因 との か か わ り
シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ や 線 虫 で 寿 命 や 老 化 に 対 す る遺 伝 子 の働 きに つ い て 次 々 と研 究 成 果 が あ が っ て い る。 しか し、 老 化 が す べ て 遺 伝 子 に よ っ て解 明 さ れ る とは 考 え ら れ な い 。 こ の 報 告1で もふ れ た が 、 遺 伝 子 に 関 係 な く低 温 は 寿 命 を延 長 させ る し、 高 温 は 短 縮 させ る こ とが 報 告 さ れ て い る。 少 し古 い研 究 で あ る が 、 シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ で 遺 伝 的 に均 一 な 集 団 を用 い て 、 成 虫 の 飼 育 温 度 を3℃ 〜37℃ で 飼 育 し、 そ の 平 均 生 存 日数
18)
に 与 え る影 響 を 調 べ た 実 験 が あ る。 そ の 結 果 、3℃ で は225日 、15℃ で は145日 、27℃
で は18日 、30.5℃ で5.1日 、35℃ で72.2分 、36℃ で34.9分 と い う よ うに 低 温 ほ ど生 存 日数 が 長 く、 高 温 で は 著 し く短 命 で あ っ た 。
ま た 、 神 経 系 に 異 常 を もつ い くつ か の 突 然 変 異 種 を用 い た 実 験 で 、 平 均 寿 命 が 短 く 野 生 型 の 半 分 ほ ど のHK」pと かShy系 統 の 酸 素 消 費 量 お よ び 翅 の 振 動 に よ る 「う な り」(buzz)の 活 性 が 比 べ ら れ て い る。 そ の 結 果 、 平 均 寿 命 の 短 い 系 統 で は何 れ も酸 素 消 費 量 お よ びbuzzの 活 性 が 野 生 型 よ り高 く、 酸 素 消 費 量 は 平 均 寿 命 と逆 の 相 関 関
19}
係 が あ っ た 。 こ の 他 、 飼 料 の種 類 、 飼 育 の と きの 光 周 期 、 飼 育 密 度 な ど外 部 の 環 境 に
よ っ て 平 均 寿 命 に 影 響 が あ る こ とが 報 告 さ れ て い る。 こ れ ら の 事 実 は 、 寿 命 に 関 わ る 遺 伝 子 は あ る け れ ど も環 境 の 影 響 も大 い に 関 与 して い る とい え る。
次 に 非 常 に 重 要 な研 究 成 果 で あ る が 、 カ ロ リー 制 限 に よ っ て 寿 命 が 大 幅 に延 び る だ け で な く、 老 化 に 関 連 し て い る病 気 の 発 症 が 遅 れ 、 様 々 な 生 理 的 な機 能 の 加 齢 に よ る
za),zi)
変 化 が 遅 くな る こ とが 分 っ た 。 こ の こ とは 、 カ ロ リー 制 限 が 老 化 の 基 本 的 メ カ ニ ズ ム に影 響 し て い る と い え る。 例 え ば 、 血 圧 や 免 疫 の 調 節 に 関 わ る遺 伝 子 に 欠 陥 を もつ 短 命 の モ デ ル 動 物 も、 カ ロ リー 制 限 をす る と、 健 康 な動 物 の 寿 命 に 近 づ く。 ま た 、 適 切
22)
な運 動 をす る こ と は 、 抗 老 化 作 用 が あ る こ と も知 られ て い る 。 これ らは 環 境 要 因 が 寿 命 ・老 化 の 過 程 に 介 入 し う る こ と を示 して い る。
先 に 述 べ た 線 虫 のdaf‑2や ㎎ θ一1を も っ た 系 統 で は 、 寿 命 が 延 び て 長 寿 に な る が 、
23)
こ の 遺 伝 子 構 造 が ヒ トの イ ン シ ュ リ ン レ セ プ タ ー 遺 伝 子 に 近 い こ とが 分 っ た 。 こ の こ とは 、 栄 養 の と り こ み が 妨 げ ら れ カ ロ リー が 制 限 さ れ る と、 寿 命 が 延 び る とい う こ と を示 唆 し、 カ ロ リー 制 限 に よ っ て 活 性 酸 素 生 成 抑 制 が お き る と考 え ら れ る。 ま た マ ウ ス を用 い た最 近 の 研 究 で カ ロ リー 制 限 と老 化 に よ っ て 、 特 定 の 遺 伝 子 が 活 性 化 さ れ た り、 抑 制 さ れ た りす る こ と。 さ ら に 、 カ ロ リー 制 限 に よ っ て 、 老 齢 マ ウ ス の 遺 伝 子
24)
発 現 の パ タ ー ン が 若 齢 の マ ウ ス に 近 づ く とい う報 告 も あ る。
カ ロ リー 制 限 に よ っ て 、 さ ら に イ ン ス リ ン あ る い は イ ン ス リ ン様 因 子 の 値 が 低 下 す る こ と も知 ら れ て い る。 こ の こ とは 、 老 化 ・寿 命 の 制 御 に 重 要 な 役 割 を果 た して い る
25),26)
こ と を 意 味 し て い る 。
シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ で も よ く似 た 事 実 が 明 ら か に さ れ て い る 。 こ の ハ エ のChico遺 伝 子 はIRSタ ン パ ク 質 を コ ー ド し て お り、 こ の タ ン パ ク 質 は イ ン ス リ ン 様 レ セ プ タ ー 、 InR(insulin‑likereceptor)か ら 入 る 情 報 を 伝 達 す る 働 き を も つ と い う 。 こ れ に よ っ て 、Chico/Chicoと い う ホ モ の 突 然 変 異 体 は 野 生 型 に 比 べ て48%、Chico/+と い う ヘ テ ロ の 突 然 変 異 体 で も36%寿 命 が 延 び た と い う。 また、InR遺
27)
伝 子 を もつ ハ エ は28)
野 生 型 に 比 べ て 雌 で85%、 雄 で43%余 命 が 延 長 し た 。
エ ネ ル ギ ー の 消 費 を抑 制 す る こ とは 、 そ の 副 産 物 の 活 性 酸 素 の 生 産 を 抑 制 す る の で 酸 化 傷 害 が 低 め られ 、 寿 命 が 延 長 す る こ とが 考 え られ る。
あ とが き
こ の 研 究 シ リー ズ で の シ ョウ ジ ョ ウバ エ の研 究 は 、30年 程 前 か ら行 っ て き た 実 験 デ ー タ を ま とめ た もの で あ る 。 研 究 段 階 の 初 期 で は 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ の 寿 命 の 研 究 な ど た だ の 生 物 科 学 と して の 基 礎 研 究 で 、 直 接 ヒ トに役 立 つ とは 考 え て い な か っ た。
そ の 後 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ の 遺 伝 的 研 究 が 進 む と共 に ヒ トの 老 化 を研 究 す る為 の モ デ
ル と し て極 め て 重 要 な動 物 で あ る こ とが 認 識 され 、 本 文 で と り上 げ た よ うに 研 究 成 果 も あ が っ て き た。
現 代 の 高 齢 化 社 会 の 中 で は 寿 命 を延 ば す こ とそ の もの よ り も、 老 化 の 有 害 な 作 用 を く い 止 め 、 遅 ちせ る こ とが 大 切 な 課 題 で あ る 。
本 文 で 最 も興 味 深 か っ た こ と は 、 老 化 を 遅 らせ 寿 命 を延 長 させ る唯 一 の 方 法 と して は 、 カ ロ リー 摂 取 を制 限 す る こ と と い う こ と で あ る。 こ れ は 、 食 物 の 種 類 とか 成 分 に あ ま り 関 係 な く、1日 当 た りの 総 カ ロ リー の 摂 取 量 を減 らす こ とが 重 要 で あ る と い う。
カ ロ リー 制 限 の 老 化 ・寿 命 に た い す る効 果 は 、 ラ ッ トや マ ウ ス な ど の 研 究 で も証 明 さ れ て い る だ け で は な く、 シ ョウ ジ ョ ウバ エ 、 ク モ、 線 虫 を は じめ 、 多 くの 生 物 種 で 認 め
29),30)
ら れ て い る。 ヒ トに 近 い サ ル で も カ ロ リー 制 限 の 生 理 学 的 効 果 と同 様 の 効 果 が 認 め られ て い る 。 こ れ ら モ デ ル 動 物 に よ る研 究 成 果 は 、 ヒ トで も カ ロ リー 制 限 に よ っ て 老 化 の 遅 延 、 さ らに 寿 命 の延 長 の 効 果 が 得 ら れ る こ とが期 待 さ れ る。
そ れ で は 、 私 た ち 人 間 で は ど の く ら い カ ロ リー 制 限 を し た ら よ い か 。 動 物 実 験 で 、 寿 命 を著 し くの 延 ば す た め に は 、 自 由 に 食 事 を摂 取 して い る状 態 の50%〜70%カ ロ リー を 制 限 す る必 要 が あ る 。 こ れ は 、 毎 日の 食事 を半 分 に減 らす か1食 抜 くこ とで あ る。 そ れ は 大 変 な こ とで と て も出 来 な い と思 わ れ る 。 や は り空 腹 で 過 ご す 程 な らば 無 理 に 長 生 き
し な くて も よ い と諦 め そ うに な る 。
しか し、 も し強 度 の 食 事 制 限 を す る こ と な くカ ロ リー 制 限 の 効 果 を 上 げ る こ とが 出 来 た ら ど う な る か 。 こ の ア イ デ ィ ア がCR(caloricrestriction)mimeticsと 呼 ば れ る薬 剤
31)
の 探 索 に つ な が る。 こ の ア イ デ ィ ア を 可 能 に す る た め に は 、 人 で の カ ロ リー 制 限 の 老 化 遅 延 、 寿 命 延 長 の メ カ ニ ズ ム を 明 らか に し、 さ ら に エ ネ ル ギ ー 代 謝 と老 化 ・寿 命 の分 子 生 物 学 的 関 係 を明 ら か に す る 必 要 が あ る。 た だ 老 化 の し くみ は 複 雑 で 困 難 さ を伴 う こ と は い う ま で も な い。 しか し近 い 将 来 、 こ の よ う な こ と を含 め て 老 化 研 究 の 発 展 が 社 会 に
多 くの 恩 恵 を も た ら す よ う期 待 さ れ て い る。
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