土の引張 りせん断試験 について*
柴 原 信 雄** 1. ま え が き
土は圧縮強度に比較 して引張 り強度がかな り小 さく,従来土構造物 の設計や解析では土 の 引張 り強度は無祝 して扱われてきている. この原因としてほ引張 り強度の絶対値が一般的に 小 さい とい うことのほかに,わずかなひずみ量に よって強度が急激に低下す るとい う脆性破 壊を示すため,実際問題の導入にひずみ量 の設定が必要な ことな ど困難な点が多いことがあ げ られ る. しか し曲げ応力を受ける地盤や舗装,モーメン トを受ける構造物の基礎周辺の土, 斜面崩壊のきっかけを作 る引張 り亀裂など土が引張 り応力を受ける状態は決 して少な くはな い. ことに垂直切取 り斜面の剥離崩壊のように引張 り強度が直接開通 して くる問題 もある.
これ らの解決のためには土の引張 り強度 とひずみ との関係の解明が強 く望 まれ るところであ る.
これ までに行なわれてきている土の引張 り試験には,直接引張 り試験(1),割裂試験(2)I(3),お よびダブルパ ソチ試験(4)などがある. これ らはいずれ も土 の極限引張 り強度を何 らかの試験 方法に より求めるものであ って,引張 り強度 とひずみの関係,あるいは引張 り直応力下のせ ん断強度はまだ手がけ られていない問題である.
筆者は土のせん断特性 としての破壊包絡線が負の直応力 (引張 り応力)のもとでは どの よ うになるか とい う観点か ら土のせん断試験を行な っている. ここでは この目的のために試作 した土の引張 りせん断試験機を紹介 し,さ らにこれを用いて行なった‑粘性土の試験結果お よび これに よって得 られたせん断特性のい くつかについて報告す る.
2. 実験装置および試料
★ 昭和50年1月 土木学会中部支部研究発表会において発表 榊 土木工学科助教授
原稿受付 昭和50年10月6日
72 F<野 工 賃だ6寄 畑 門学 校 紀 要・妨 6''} 試作 した引張 りせん断試験 政は図1(a)
に示す ような機構の もので,直方体 の土 u:
の供試体に対 してTノア向に一定の引張 り 力を載持 した状態で,∫方向に等速せん 断変位を与 え,せん断抵抗力を測定す る ものである. このとき上 ・下 方向の変位 は拘束 されている.
引張 り力をせん断面に有効に伝えるた め,容掛 ま土 と接触す る上 ・下の面班を 大 き くし,かつ粗面 とす る. また図1(b) に示す ように,T方向の寸法 を減 じた供 試 体に対 し,引張 り力の代 りにC方向に 圧縮力を載荷す ることに より,一面せん 断試験 (ここでは圧縮せん断試験 とい う) を行な うこともできる.せん断面の画枇
3 L'5 1
① せ ん 断 符 ⑥ ひ ず み リ ン グ (参 台 車 ⑦ ワ イ ヤ ー
③ レ ル ⑧ 垂 直 方 向 変位‖「
① モーターおよび変速陵 ⑨ ペソ・L/コーダ‑
⑤ せ ん 断方 向 変 位 計
写真 1
はいずれ も3×18‑54cm2であ る. 装旧の全景を写共 1に示すが, 直方体の容推 (せん断 節)(丑に試料を入れ,一定 の密度を得 るよう締固め,上蓋をす る.せん断箱①はせん断開始 の直前に,せん断面を境に分離で きるような状態にす る.
写真1において,奥行方向がT方向,左 ・右方向がS方向に相当す る.それぞれの方向に 摩擦な く滑 らかに,かつ正確にせん断箱①が変位す るように符は台車②に載せ, レール③ の
仮綱ロ ー ム 2.755 I100 r59141
1 2
4J40136乾椎怒腔(gJc
lュo 60 70
8 0
90 100/J 水 比 (%) 図 2 50
上を移動 させ る.垂直応力は,写ilT.で はせん断箱の裏側にあ るため見えない が,沿串 を介 しで分銅 を下げ ることに より一定 の引張 り力を徽荷す る.せ ん 断変位は,手前側のせん断箱に ワイヤ ー⑦ を接続 し, これをモーター④ で一 定速度で巻 くことに よって与え られ る せん断速度は毎分1ミ1)メ‑ トルを既 準 とす る. ワイヤーの途中にひずみ リ
ソグ⑥ を接続 し, ここか らせん断応 力 を検出す る.せん断方向お よび垂直方 向の変位はそれぞれ差動 トラソス変 位 計⑤,⑧ に よって検 出す る.引張 りせ ん断試験 の場合,破壊は瞬時に起 るこ とが多いため,応力お よび二方向の変 位はいずれ も等速ペ ソ ・レコーダーに 記録す る.
試料は粘性土 として飯綱 p‑ムを使 用 してい る.その物理的性質は蓑 1の
土 の引張 りせん断試駿につい て 73
通 りである.また,引張 り試険の容易さの観点か ら,含水比が比較的高 く,密度のあまり高 く ない状態を選定 している.供試体の締固め条件は,直径100mm,高さ127mmのモール ドに, ランマー重量2,650g,落下高50mm,5層,18回を基準 とした.これはJISA1210の標準突固 めの約1/5の締固めエネルギーである.標準突固め曲線 との比較を図2に示す.使用 した供試 体の状態は図示の通 りで,含水比63%,73%,85%,91%および100%の供試体を得ている.
3. 実験結果および考察 3・1応力 ・変位曲線
種 々の含水比,引張 り直応力状態の代表的なせん断応力 ・変位曲線を図3に示す.図(a), (ら),(C)にみ られ るごとく, せん断応力 ・変位曲線はこれ ら3つの形に分類できる.
せん断応力(...g/8) (膨張)IT(収垂れ変位(El) 柿) 42十十 02
W=63%
♂‑0.014 kg/cm2 (引張 り)
II.I+l‑.,.
0 2 4 6
642000000
せん断応力(kg/壁 4⁝0十+(膨張)IT垂耽変位(a)
せ ん断創立(mm) 収繍) ̲2 2 4 6 8
一∠oL 2 4 6 8 0604020000002せん断応力(kg/e)
せ ん 断 変 位 (m ) 収̲2
(a)
‑ 図 3
(a)は含水比が比較的小さい場合,および含 水比が高 くても引張 り直応力が大きい場合に 生ず る形で,ひずみが非常に小さい範囲で最 大せん断応力が生 じ,直ちに破壊する. した が って垂直変位もこの瞬間に 0より直ちに急 激に増大するもので,いわば引張 り直応力が 主体的に働 く破壊形態である.
(ら)紘 (a)よりも含水比が大きい場合,およ び引張 り直応力が比較的小さい場合に生ずる 形で,せん断変位の増大にともなってせん断 応力はなだ らかに増大 し,最大値を示 した後 もなだ らかに減小 しついには 0となる.垂直 変位は次第に急激に増大 して行 き,ついには 供試体は完全に二つの部分に分離する.
(C)はさらに含水比が 大 きい場合や, 引張
(b )
0.10 せ
0.(追 ん 断 0.06
応力(kg/盟 00 0042
2 4 6
せ ん断変位 (n )
(C)
4 6 8 10 12 I‑ 。.̲̲.̲ ■一 .‑ ●‑ .‑ ■̲
せん 断変 位 (nth)
図 4
74 長野工業高等専門学校紀要 ・第6号
り直応力がさらに小さい場合 もしくは圧縮応力 とな'った場合に生ず る形で,せん断変位が増 大 してもせん断応力は一定値 より減少す ることはな く,垂直変位 も一定値以上に増大 しない.
これはせん断応力が主体的に働 く破壊形態 といえ る.
図に示す ように含水比が増大す るにつれて(a)より次第に(C)のような形をとる傾向がある が,含水比が等 しく,直応力が変化す る場合にも図4のごとく同 じような変化がみ られ る.
3・2破壊包絡線
せん断試験 の結果得 られた垂直応力 とせん断強度 との関係を図5に示す.
まず この試験機に よる圧縮せん断試験に よって得 られ るせん断強度が,通常の一面せん断 試験に よって得 られ る値 とどの程度相違す るかを調べている.図中,含水比91%の自丸印は, 直径60mm,厚 さ12mmの通常の一面せん断試験による結果である.また図中,黒丸印は同
じ密度の供試体に対す る圧縮せん断試験の結果である.図示のごとく両者の結果はよく近似 してお り,通常の試験機 と試作 した試験機 との関連性が よい ことを示 している.
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‑0.02 ‑0‑ 十0.02 +0.04 +0.06 十0.08
(引弓にL))(圧縮)
垂 砿 応 力 q (kg/cm2) 図 5
土の 引張 りせん断試験について 75
さて図5の破壊包絡線は,すべての含水比について直応力が圧縮応力で値が大 きい問は破 壊包絡線は直線を示すが,直応力が小さくな り, もしくは引張 り応力になると破壊包絡線は 曲線を描いて下降 し始め,ついには q軸 と垂直に交わるようになる.ここで,この直線 と曲 線 との境界の位置 (図中の矢印)に注 目すれば,含水比の大 きい土はどこの位置が圧縮応力 の小さい側へ移動 して くることがわかる.特に含水比が100%の場合にはこの直応力が引張
り応力の側に位置 している.
ここで前節のせん断応力 ・変位図 との対応を調べてみ ると,破壊包絡線の曲線部分では図 3の(a)および (ら),直線部分では(C)の形を生 じていることがわかる.これは曲線部分におけ る破壊では正のダイラタンシー (膨張)が著 しいため,せん断抵抗が急激に減少す るため と 考え られる.これに対 し,直線部分では負のダイラソシーを生 じ,変位の進行に よっても, せん断抵抗がほぼ‑定借を保つ もの と考え られる.
土は含水比が異なれば塑性を示す度合 も変化するため, この ように直線か ら曲線に移 る点 に対応する垂直応力の値 も変化するものといえよう.
3・3引張 り強度特性
Ramanathan(a)らは最適含水比以下の,塑性および含水比の異なる幾つかの試料について, 割裂試験に よって得 られた引張 り強度 ∫′と,‑軸圧縮強度 β"との比較を行ない,両者の 間には,塑性および含水比に関係な く次式が成立つ ことを発表 している.
st‑0.48(Su‑0.25) ・・・・‑・・‑・・・(1) これに対 しFand5)は,最適含水比で締固めた種 々の試料について, 割裂試験およびダブ ル パソチ試験に よる引張 り試験 と,‑軸圧締試晩を行ない,図6のごとく塑性指数の大 きい 土はどSu/SEが小さい値をとることを示 している.Jagdishら(2)も以前に図6と類似の図を 発表 している.
これ らの結論はいずれ も割裂試験および一軸圧縮試験を行ない うる状態の土,つま り最適 含水比附近および これ より乾燥側の状態に対するものである.
これに対 して筆者が今回行な った試験は最適含水比 より液性限界 までの範囲の含水状態の 土であ り,割裂試験お よび一軸圧縮試験が不可能であるため, これ らの結果 と直接比較する
ことはできない.
含水比Ist(kg/cm2)
l s u ・ ( k g / c m 2 ) I
c(kg/cm2)Jsu・/st100 0.014 0.036 0.013 2.57 91 0.017 0.093 0.026 5.44 85 0.024 0.171 0.048 7.13 73 0.018 0.296 0.068 16.4 63 0.022 0.241 0.063 ll.0
12
;ut10 8
6
4 l
\ 1IdJl‑;耽 1 l Ill
I lFahg I l
l l l l l
0 20 40 60 80 100 盟). 性 指 数
図 6
76 長野工業 高等専 門学校紀要 ・第6号
しか し図5において,破壊包絡線 とol軸 との交 点におけ る直応力は引張 り強度 SEに相当 し,一 方破壊包絡線に接するモールの応力円を描 くこと に より‑軸圧縮強度に 相当す る 強度Su事も得 ら れ る. これ らの値をみかけの粘着力 Cと共に表2 に示す.
Ramanathan(3)に よる式(1)と表2の値 とを比較 す ると図7の通 りとなる.両者の結果は強度の範 囲が異な ってお り比較す るには十分 とはいえない が,筆者の結果 より得 られ る直線は勾配が非常に 緩 く,Su*の小 さい場合 も若干の引張 り強度Stを 有す るとい う点が異な っている.
次に図6においてFangの曲線 と著者の実験結 果 とを比較す る.Fangの曲線か らは飯綱 ローム の塑性指数に相当す る Su/SEは7となるが筆者 の結果では標準突固めの場合の最適含水比に近い W‑63%でSu*/St̲は11とな り,かな り過大 な値 を示 している. しか し, これは筆者の求めたSu* が最適含水比でな く標準突固めで もない試料につ いて間接的に求めた結果であること等の原因でこ のような相違が表われた ものとも考え られ る.
次に,含水比の変化が土の引張 り強度に与える 影響について検討す る.含水比を液性指数に換算 し,表2の引張 り強度 gJおよびみかけの粘着力 Cとの関係を求め ると図8が得 られる.土のみか
Ooa(kg/Nue)
くー
I..5 i
se
‑
A ‑0.25 0.50 0.75 1.00 Su(kg/cmう
図 7 C
St̲‑‑ ‑I
一一一 ヽ、、
20 40 60 80 100 液性指数
けの粘着力 Cは含水比の変化に よって著 しく変化 図 8 す るが, これに対 し,引張 り強度 SLはあま り変化 していない ことがわか る.
4. 結 論
負の直応力のもとでの土の破壊包絡線を実験的に求めるため,引張 りせん断試験機を試作 し,ほぼ 目的にかな うものができ上 った.
これを用いて‑粘性土について,含水比を変え,一定 のエネルギーで締固めた供試体のせ ん断試験を行い,次の結論を得た.
(1)直応力が引張 り,圧縮の両方である場合を通 じて,せん断応力 ・変位曲線の形を3種 規に大別す ることができる.
(2)土の破壊包絡線は直応力がある値 より小さくなると直線か ら下向きの曲線に変 るが こ の境界に対応す る直応力の大 きさは土の含水状態に よって異なる.
(3)破壊包絡線 より間接的に‑軸圧縮強度を求め, 引張 り強度 と の関係 を Ramanathan および Fangのそれぞれの報告 と比較 したが, 試験条件の違いにも原因 し, 異なる値
土の引張 りせん断試畝について 77 となった.
(4)土のみかけの粘着力は含水比に著 しく影響 され るが, これに対 し引張 り強度は影響が あ らゴっれない.
今後,試験機の改良に より低含水比の試料や,不撹乱試料についても実験を行な うととも に,引張 り強度 とひずみ との関係を明 らかに して,土の壊破機構の解明の一助 としたい.
終 りに本研究に閑 し貴重なる御指導,御助言を頂いた信州大学工学部 川上浩教授に感謝 の意を表 します.
参 考 文 献
(1)伊藤雅夫外 :土の引張 り試験法について,土木学会第29回年次学術講演会,1974.
(2) JagdishNarainandPrakash,C.Rawat:Tensilestrengthofcompacted soils,Jourllal oftheSoilMechanicsandFoundationDivisionASCE.Vol.96,No.SM6,pp.2185‑2190.
1970.
(3) Ramanathan,B.andRam an, V.:Splittensilestrer)gthofcohesive soils, Soilsand FoulldatioIIS,γol.14,No.1,pp.71‑76,1974.
(4) FaT】g,汁.Y.andChell, W.F.:New methodfordeterminationoftensilestreI1gth of soils,HighwayResearchRecord,No.354,pp.62‑68,1971.
(5) FaT】g,H.Y.:Discussionto"SplitteIISilestrengthofcohesivesoils",SoilsandFounda・
tions,γol.14,No.3,pp.81‑82,1974.