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進行膵がん患者とその家族の療養体験の変容 -

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Academic year: 2021

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(1)

Ⅰ.緒 言

近年,わが国では新たな抗がん剤が保険適用となり,

予後数カ月といわれていた手術不適応の膵がん患者の生 存期間の中央値は,13.1カ月へと延長した1).しかし,

生存率が低い難治性がんと称される膵がん患者は,ほか の消化器がん患者と比べて有意に抑うつ状態を呈し2)唯一の治療である化学療法の有害事象も患者を苦しめ る.このような難題を抱える進行膵がん患者の生活の質 を保つためには,症状マネジメントなどの身体ケアに加

え,患者の療養体験を理解した心理 ・ 社会的適応に向け ての看護を検討する必要がある.

彼らの短期間ではあるが延長した生存期間の生活の質 を保つ看護を検討するには,療養体験に関する知見が十 分でなかったので基礎調査3)を行った.その結果,余命 期間内にあり化学療法を受ける膵がん患者は,身体症状 や有害事象に対処し,化学療法の効果を身体感覚として 自覚した時期を境に活動内容を調整するなど,体験を前 向きに変化させていた.しかし,関係性 ・ 役割に関する 体験に同様の変化はみられず,家族関係になんらかの苦

■ 原 著

進行膵がん患者とその家族の療養体験の変容

看護師とのパートナーシップの過程における相互行為に焦点を当てて

千 﨑 美登子**

**北里大学病院

要 旨

本研究の目的は,進行膵がん患者・家族と看護師とのパートナーシップの過程におけ る相互行為がどのように行われたのか,その特徴を明らかにし,それらによって成し遂 げられる彼らの療養体験の変容を明らかにすることであった.

デザインは事例研究で,大学病院で切除不能化学療法を受ける膵がん患者3名・その 家族各1〜3名計5名を倫理委員会で承認された方法で募集した.拡張する意識としての 健康理論(HEC)に基づく研究プロトコールを参考に,「患者・家族の対人関係を示し た図(関係図)」を取り入れ,対話を中心とした「パートナーシップの過程」を事前に定 めた.先に患者,次に家族を含めた対話を計6回(約2カ月)予定してパートナーシッ プの過程を辿った.

データ収集・分析は,①全対話を録音・エスノメソドロジー的相互行為分析(EM),

②看護師記載のジャーナルを基にその場面を振り返り,発話場面の感情,思考,気づき を分析,③全事例の共通点分析,を行った.

その結果,①進行膵がん患者とその家族の療養体験は,5〜6回の対話を経て段階的に 変容した.②療養生活における家族関係の変化が対話を重ねるごとに表出され,最終的 にはその変化を受け止め,意味づけて家族としての療養生活の方向性を見出すという体 験変容であった.③相互行為の特徴には,看護師の意図していた行為と対話参加者で創 り出した行為があった.

Key words : 進行膵がん患者,家族,療養体験,パートナーシップ,相互行為

(受付日:201832日,受理日:2018719日,公開日:2018919日)

連絡先

千﨑美登子/北里大学病院 〒252─0375 神奈川県相模原市南区北里1─15─1 Phone : 042─778─8111/Fax : 042─778─8419/E-mail : [email protected]

(2)

悩があると推察でき,本研究においては進行膵がん患者 だけでなく,彼らとその家族を含めた療養体験に焦点を 当てた支援について検討することにした.

がんと闘ってきた医療の歴史の中で,「患者が自己擁 護できるように支援する」という,がんサバイバーシッ プ連合の提唱に立脚し,パターナニズムから脱却した

「パートナーシップ」の姿勢が医療者に求められるよう になった.また,がんサバイバーの定義4)2006年に「が ん生存者」からがんが治癒した人だけを意味するのでは なく,がんと診断された直後から治療中の人,その家族,

介護者も含めると拡大された.このような観点から,本 研究の対象も同様で,「パートナーシップ」の概念を含 んだ看護介入が必要と考えた.

がん患者 ・ 家族と看護師とのパートナーシップにおけ る先行研究を概観すると,進行膵がん患者が家族関係に 課題を抱え,医療者が彼らとパートナーシップを組む必 要性が示され5),がん患者 ・ 家族を対象とした関わりで は,拡張する意識としての健康理論(HEC)に基づくパー トナーシップを実践することで患者 ・ 家族が病気体験に 意味づけ,成長できるという知見があった6).本研究に おいて進行膵がん患者 ・ 家族(以下,患者 ・ 家族)を対 象に,HECに基づくパートナーシップを試みることも 検討したが,患者 ・ 家族と対話した経験から,先に患者 と対話をして患者の思いを理解しておく必要があると考 えた(有害事象でパワーダウンしている患者の代弁者に 家族がなる,あるいは家族の辛い思いが優位となり患者 が自分の真意を語れないことを懸念).そのため,患 者・家族を2分しない全体性のパラダイムであるHEC に依拠できなかった.

一方,パートナーシップの概念分析を行ったGallant 7)は,パートナーシップを相互に定めた目的に向かっ て一緒に働く2人以上の対人関係で,パワー配分と交渉 を伴う過程とし,この過程は看護師と患者が相互行為

(interaction)を通じて顕在化されると言及した.そこで,

本研究ではこの考え方に依拠し,患者 ・ 家族と看護師が 事前に定めた「パートナーシップの過程」を辿ることで,

彼らが望む方向に療養体験が変容することを目指してい る.

Ⅱ.研究目的とデザイン

本研究の目的は,患者 ・ 家族と看護師とのパートナー シップの過程(以下,本過程)における相互行為がどの ように行われたのか,その特徴を明らかにし,それらに よって成し遂げられる彼らの療養体験の変容を明らかに

することである.

そのために,患者 ・ 家族と看護師が辿る本過程を詳細 に記述し,患者 ・ 家族の療養生活の体験の変化を探究す る.したがって,研究デザインは個人の状況,思考,感 情,現在と過去の行為,意図,環境などについて詳細な 知識を得ることができる事例研究を選択した.事例研究 の恣意性への対処として,研究参加者は募集し,本過程 はすべて録音し,全音声データと逐語録を用いて分析し た.

Ⅲ.研究枠組みと用語の定義 1.研究枠組み(図1

HECに基づく研究プロトコール8)を参考に患者 ・ 家 族の対人関係を矢印で示した図(関係図)を取り入れ,

対話を中心としたパートナーシップの過程を事前に定め (図2.先に患者と対話,次に家族を含めた対話を計 6回(約2カ月)予定し,患者 ・ 家族の都合に合わせて 本過程を辿り,エスノメソドロジー的相互行為分析

(EM)9)を行った.EMは個々の人間がいかに社会生活 を営んでいるかではなく,いかに共同で秩序や理解の意 識をつくり出しているかという点に焦点を当てる.1 の人々(ethno)は,合理性や秩序を達成するために用 いる言語を中心とするやり方(method)で「合理的な 世界」をつくり出しているかを探究する(ology).つま り,活動や実践の当事者としての1群の人々は,そのよ うに相互行為できる能力をもっており,ある目的をもっ た当事者たちの相互行為は目的に関連したなんらかの実 践を達成するということが前提である.EMは,その相 互行為のやり方を記述し,分析するものである.

患者 ・ 家族と看護師も,ケアを受ける人と提供する人 という関係において1群の人々(ethno)であり,対話 を中心とした実践である本過程において,どのように相 互行為し(method),患者 ・ 家族の療養体験がどんなふ うに変容するかを探究した(ology).本研究では,対話 順に相互行為のやり方を記述し,患者・家族の印象に残 る出来事とその時の心身の状態(療養体験)を抽出.特 徴的な相互行為場面は,EMでは明らかにできない看護 師の感情,思考,気づきを回顧的シンクアラウド法10)

により振り返った.このように,実際の相互行為をデー タとしてその特徴を言語化することによって,多くの看 護師が活用できる具体的なやり方(method)を明らか にできる.

患者・家族のパートナーとなる研究者は,消化器がん 看護領域の臨床経験約20年で,がん看護専門看護師と

(3)

して認定更新3回目.患者 ・ 家族の療養生活における課 題について指導 ・ 説得するのではなく,積極的に傾聴し て気づいたことをフィードバックする.

2.用語の定義

進行膵がん患者:切除不能化学療法中のステージⅣ膵

がん患者.

家族:進行膵がん患者の療養生活を実質的に支えてい る近親者.

療養体験:化学療法中の患者 ・ 家族の生活におけ る,印象に残る出来事とその時の心身の状態11).特に,

分析

対話順に音声データと逐 語録を基にエスノメソド ロジー的相互行為分析

相互行為の

特徴の記述 印象に残る出来事と その時の心身の状態

(療養体験)の抽出

特徴的な相互行為場面は NS ジャーナルをデータに 回顧的シンクアラウド FA・NS 対話 3,

ジャーナル記述 FA・NS 対話 2, ジャーナル記述 FA*・NS 対話 1, ジャーナル記述

PT・NS 対話 3, ジャーナル記述 PT・NS 対話 2, ジャーナル記述 PT・NS 対話 1, ジャーナル記述(NS)

*FA(家族)対話にはPT(患者)を含む    データ収集

(パートナーシップの過程)

パートナーシップの開始

パートナーシップの終了

1 研究の枠組み

パートナーシップの終了:療養生活の課題へ,

自分たちで対応していく意志が表明できた時点

・語りの内容を関係図に順次追加しながら,療養生活の課題について更に対話を続けて   (必要時は対話の追加や看護支援)パートナーシップの終了を両者で合意

・作成した家族の関係図を基に家族の意味ある出来事を看護師と共に振り返りながら,

  療養生活において家族だけでは対応できない課題について対話する

・「家族にとって意味ある出来事と人々」という問いへの語りを傾聴する

・語りの内容を関係図に順次追加しながら,療養生活の課題について対話する   (必要時は対話の追加や看護支援)

・作成した関係図を基に患者の意味ある出来事を振り返りながら,

  患者へ関係図の感想や気づきを質問して対話する

・「あなたの人生において意味ある出来事と人々」という問いへの語りを傾聴,

 看護師とのパートナーシップの過程を辿ることを両者で合意する

パートナーシップの開始:「看護師としてあなたの療養生活がより 豊かなものになるよう,力になりたい」という意思を伝える

【対話回数】

 対話回数は先行研究12)を参考に患者(PT),家族(FA)各 3 回を予定し,

 お互いにもう少し対話をしたい場合は追加するなど,参加者の思いを尊重する.

 また,対話の間隔は参加者の希望(受診日など)に合わせる    FA3

FA2

FA1

PT3

PT2

PT1

2  HEC研究プロトコールを参考にしたパートナーシップの過程

(「図1 研究の枠組み」に合わせて下から上に示す)

(4)

本過程において患者 ・ 家族が心身の状態を語る中に示さ れる自らの感情,認識,行動を重視する.

パートナーシップ:複雑で多様な課題を抱える進行膵 がん患者とその家族および研究者である看護師が, 相互 行為において彼らの療養生活の課題を共有してその改善 を目指す協働.

相互行為:本過程における患者 ・ 家族と看護師との互 いに影響を及ぼし合う会話を含む行為であり,求められ た場合には看護師の援助を含む.

行為者役割:社会的存在としての人は,複数の社会的 属性(父親,患者など)を同時に保有し,その属性に期 待される役割(常識的知識としての規範)で日常的に会 話している.本過程を辿る参加者同士も会話場面で「自 分にどんな属性としての役割(相談者,研究者など)が 期待されているか」を互いに表示し合い,理解しながら 行為(会話を含む)する.この表示され,期待される役 割を「行為者役割」とする.行為者役割は,相互行為の 過程で変化していく.

Ⅳ.研究方法 1.研究フィールド

A大学病院内科専門外来 ・ 集学的がん診療センター . 2.データ収集期間

2016127日〜同年84日.

3.研究参加者

進行膵がん患者3名とその家族各1〜3名計5名.患 者の選定基準は先行研究3)に準じて40〜60歳代,化学 療法期間が6〜10カ月程度で,60分程度の対話が可能 な患者.加えて同居の家族がいる者.中止基準は,患者 の病状悪化に伴う対話不可能の主治医指示であった.

4.データ収集内容と方法

研究者である看護師(以下,看護師)が,前述した本 過程に基づいて患者 ・ 家族と対話を行った.対話は1 例が終了した後に次の事例を開始し,対話内容は患者 ・ 家族の同意を得て録音した(逐語緑は,研究者の恣意が 働かないように個人情報保護契約の業者依頼).対話当 事者として看護師が感じたこと,考えたことを,各対話 終了直後に記述した(ジャーナル).患者の属性 ・ 治療 経過は診療録から収集した.

5.データ分析

事例ごとの分析は,対話順に音声データと逐語録を EMに基づき,本過程における相互行為の特徴を記述し て分析.患者 ・ 家族が語った出来事やその時の感情 ・ 認 識 ・ 行動から療養体験を抽出して記述した.特徴的な相

互行為場面の回顧的シンクアラウドは,指導教授が ジャーナルを基にその時の看護師の感情,思考,気づき を聞きとって分析.最後に全事例の共通点を分析した.

6.信憑性の確保

EMについては専門家のスーパービジョンを受け,結 果の記述については参加者チェックを実施し,事実と相 違がないか確認した.

7.倫理的配慮

北里大学看護学部ならびに研究フィールドの倫理委員 会の承認を得,面談時の研究参加者のプライバシー保護 および患者の身体状況を確認し,患者 ・ 家族の主体性を 尊重した.また,結果の公表については匿名性を高め,

個人が特定されないように配慮した.

Ⅴ.結 果

EMに基づく記述は,各回の対話は継続しているとい う観点から開始場面を含む序盤と終了場面を含む終盤を 区分,その間を中盤として3つに分けた.そして,イ)

逐語録より会話を維持した要約記述,ロ)特徴的な相互 行為場面の会話を抜粋し,ハ)回顧的シンクアラウドを 挿入.そのうえで,各回の対話後に相互行為の特徴をま とめ,抽出された療養体験を記述.本項ではイ〜ハ)に ついて,事例1を例として説明,療養体験の変容を紹介 して3事例の共通点を述べる.

1.相互行為の特徴および療養体験の抽出プロセス:

Eさんとの2回目対話

イ)記述の抜粋:対人関係の確認が終えて看護師が感 想を問うと,Eさんは「やっぱり適度に自分に対してプ レッシャーをかけ過ぎていますよね」といって,関係図 を指して「ここまでそんなにね,かけてなくてもっと気 楽な感じでやっていてもよかったのかな」と,振り返っ た.そして,子ども時代はお金がかからない家族の過ご し方を自分から提案したり,アルバイトで仕事を任せら れなかった時は「自分から上司に交渉する方法もあった」

と,対人関係を振り返りながら違った生き方についての 気づきを語り,「(関係図を)自分で作った方がよかった んですね」と言った.

ロ)会話の抜粋:下線発話後,アルブミン(ALB)投 与で10分程度中断した後の確認場面

1 看護師:どうしてそう思われたんですか 2 Eさん:よくまとまっているかなって 3 看護師:ん?

4 Eさん:まとまっているかなって 5 看護師:ああ,うん

(5)

6 Eさん:自分でこうみた時に,どういう関係性が あって,どういうことをやってきたのかなっていう のが,さっきの要約と比べてみていくと分かりやす いかなって

7 看護師:あ,そうですか.それはよかったです 8 Eさん:ん?

9 看護師:それはよかった 10 Eさん:それはよかったです

11 看護師:この後どういうふうに過ごしていくかって,

療養していくかっていうことですよね 12 Eさん:そうですね.はい,そうですね

13 看護師:なにか思っていらっしゃることってありま すか

14 Eさん:今のところは,取りあえず各イベントに参 加できたらっていう感じでいますよね

分析:EMでは会話の繋がり(連鎖)を分析する.看 護師の質問(1)にEさんは回答せず,研究参加者とし て研究手順を賞賛している(2,4,6).褒められたら同意 して謝辞か謙遜を示すところで看護師が,「よかったで す」と発話したので,Eさんが「ん?」と疑問子を発話 したが,次の「よかったです」をEさんが復唱(10)

することでここまでの対話のずれを非明示的に修復して いる.この後看護師はEさんの非明示的な修復には触 れずに今後のことに視点を向ける言い換えをし(定式 化),「ですよね」と両者で共有していることであるよう な確認の発話をし,これにEさんは明確な同意を表示 するという連鎖になっている(12).そして,Eさんは 看護師の質問(13)の意図に,研究参加者として「今の ところは,取りあえず(14)」と,現段階の不確かな表 現で目標を語っている.つまり,Eさんが対人関係を振 り返って過去に着目しているのに対し,看護師はE んの今後である未来に着目している点でかみ合わなさが 生じているといえる.しかし,Eさんによる非明示的な 修復,看護師の定式化に応じる明確な同意によって,対 話は最終的に看護師が意図する方向に進行している.定 式化とは文脈依存的な表現を客観的表現に修復すること で,この場面では会話の受け手である看護師が傾聴した 内容を看護専門職の視点で客観的に言い換える定式化を している.

ハ) 回顧的シンクアラウド:ジャーナルには,「(治療

がスキップした後だったので)私はEさんの気づきに 驚き,今気づいたというより発病してから考えていたこ とだと判断し,『病気になられて成長されたのですね』

と返答した.すると.『(関係図を)病気になる前に作っ といた方がよかった』といい,自分のやり方がよく表さ

れているとおっしゃった.それで,過去のやり方を振り 返り,今後のことを考える,Eさん自身の力を引き出す ためのパートナーということを強調した」と記載してい た.この場面分析後,Eさんが看護師の質問(1)へ回 答せず,「関係図へのよい評価」を示していたこと.つ まり,会話している時は評価を受けたことも意識してな かったが,この時のEさんは研究参加者の行為者役割 をとることで,非明示的に自分の真意を研究者である看 護師へ語ることを回避していたことが分かった.

以上から相互行為の特徴は,①作成した関係図を確認 しながらEさんの対人関係を共に振り返る,②「もっ と早く関係図を作ったほうがよかったんですね」という 発話の意味を確認しようとする看護師と回答を非明示的 に回避しているEさんとでかみ合わない会話が生じる,

③余命に影響する治療がスキップしたEさんと不確か な目標を共有する.療養体験を,「対人関係を振り返り,

自分に負担をかけてきた生き方を自己洞察され,治療が スキップしたことで不確かになった延命への望みを語 る」とした.

2.Eさんとその家族の療養体験の変容(図3 1回目の対話でEさんは,自分の意味ある出来事を振 り返り,娘たちの成長のイベントへの参加を目標として 進行膵がんの治療に延命の望みをかけながら療養生活を 送るとともに家族との対話を希望し,2回目には治療が スキップしたことで不確かになった延命の望みを語っ た.そして,家族の対話では,夫婦で築いてきた家庭を 振り返り,初めて療養生活の実態におけるそれぞれの思 いを語り合った.家族2回目の対話では,Eさんが看護 師と共に家族の本音を引き出し,感情表出を促して緊急 入院後も看護師との対話継続を望んだ.病床での最後の 対話(家族3回目)では,病の父であるEさんに近づ けなかった次女が家族の輪に入り,Eさんが父親役割を 発揮して療養前の関係性を取り戻した.そして,父親の 病状悪化に納得できない長女は,看護師へ依頼し,医師 からインフォームドコンセント(IC)を受け,Eさんの 予後を受け入れて父親の役割を受け継ぎ,家族を守るこ とを覚悟した.次女は自らEさんへのケアを行うよう になり,延命を目標にしていたEさんの思いを尊重し,

家族は死亡宣告をEさんの前でしないように医療者と 交渉するまでに変容した.

3.本過程における療養体験の変容の共通点

療養体験の変容について先に述べると,患者・家族の 療養体験は,5〜6回の対話を経て段階的に変容した.

事例1の療養体験の変容についてはすでに述べた.ほか 2例も療養体験の内容は異なっていたが,療養生活に

(6)

おける家族関係の変化が対話を重ねるごとに表出され,

最終的にはその変化を受け止め,意味づけて家族として の療養生活の方向性を見出すという体験変容であった.

1に対話回数と所要時間と共に,療養体験の変容を示

す.

4.本過程における相互行為の特徴の共通点

本過程はあらかじめ進め方を定めていたので,看護師 の意図した行為と対話参加者(患者 ・ 家族と看護師)で 1 研究参加者(事例紹介)

事例1.Eさん,50歳代男性,妻,長女,次女

Eさんの状態:治療開始後6カ月目,余命半年〜1年だが治療で半年の延命が期待できると説明を受け,家族の為に延命を目標にして いた.痛みは医療用麻薬でコントロール中

パートナーシップ期間1カ月半(PT 2回→FA 3回 計5200分)家族対話2回目に病状悪化のために緊急入院.最後(家族3回目)

の対話に面会中の次女が参加

療養体験の変容:働き盛りの家長の闘病で介護が余儀なくなり,次女は父親へ近づけなくなった.その理由が分からない長女の質問に 応じる看護師と家族との相互行為の力で,次女が家族の輪に入ることができて療養前の関係を取り戻した

事例2.Fさん,60歳代女性と夫

Fさんの状態:治療開始後6カ月目,余命半年〜1年だが治療で半年の延命が期待できると説明を受け,家族のために延命を目標にし ていた.痛みは非オピオイドでコントロール中

パートナーシップ期間:約2カ月(PT 2回→FA 2回→PTFA6350分) 家族対話3回目の後,緩和ケア中心の治療に移行 療養体験の変容:定年後の老老介護による養母や夫との家事役割の葛藤が生じていた.看護師が提案した家事役割分担に加え,発病し

たことで子どもたちとの関係が修復したことを振り返り,彼らの協力を得て自分らしい療養生活を過ごすことを決意した 事例3.Gさん,50歳代女性と長男

Gさんの状態:治療開始後6カ月目,未治療で余命半年の説明を受けて混乱し,夫と死別後に1人で育て上げた息子たちや友人の支え で治療に向き合うことができていた.痛みは医療用麻薬でコントロール中

パートナーシップ期間:約1カ月半 (PT 2回→FAPTFA5155分)

療養体験の変容:新社会人の次男と暮らす母親である自分の為に,介護休暇をとった長男の転職を含む夫婦問題に悩んでいた.特に心 配していた転職後の孫の行く末において,休暇中の父親(長男)が育児もしていると知った看護師が,「子どもの成長には幼児期 の愛着が大切」と言ったことで,子どもと触れ合っていることで孫がのびのびと育っていることを実感し,長男を信じるという方 向性を見出した

その後

60 分FA3

50 分FA2

40 分FA1

20 分PT2

30 分PT1

対話回数時間 5 週後:

永 眠

4 週後:

病状悪化7 カ月目

3 週後:

緊急入院腹水増加

2 週後:

下肢浮腫ALB 投与

初回:治療再開 6 カ月目 対話時期経過

・E さんの予後が 1 週間未満という IC を受けた長女は,父親の役割を受け継ぎ,

家族を守ることを覚悟する

・次女は自ら E さんへのケアを行うようになる

・自分の延命を目標にしていた E さんの思いを尊重し,家族は死亡宣告を E さ んの前でしないように医療者と交渉する

・自分の意味ある出来事を振り返り,娘たちの成長のイベントへの参加を目標と して進行膵がんの治療に延命の望みを掛けながら療養生活を送るとともに,家 族との対話を希望する

・対人関係を振り返り,自分に負担を掛けてきた生き方を自己洞察され治療がス キップしたことで不確かになった延命への望みを語る

・E さん夫婦が築いてきた家庭を振り返り,家族で初めて療養生活の実態におけ るそれぞれの思いを語り合う

・E さんの療養により家族間の役割交代を余儀なくされると共に,E さんの病状 悪化へ混乱する

・療養で負担を掛けている家族を案じる E さんが看護師と共に家族の本音を引 き出し,感情表出を促して入院後も看護師との対話の継続を望む

・病の父に近づけなかった次女が家族の輪に入り,E さんが父親役割を発揮して 療養前の関係性を取り戻す

・父親の病状悪化に納得できない長女が医師からの IC を看護師へ依頼する

3 パートナーシップの過程におけるEさんとその家族の療養体験の変容

(7)

創り出した行為があった.

1)看護師の意図した行為1)-(3

(1)患者 ・ 家族が自ら選択した「意味ある出来事と 人々」語りの逐語録から①出来事を要約し,②出来事を 時系列に並べ,③出来事の登場人物との関係を図式化し,

④この関係図(図4で患者 ・ 家族の対人関係を共有.

(2)関係図を用いて療養生活における患者 ・ 家族の重 要な関心事を確認し,家族の特徴と進行膵がんに患者が 罹患した後の家族の変化について理解するために家族を 含めた対話.

(3)療養生活で生じている家族役割の葛藤へ関連する 話題を提供し,その話題への患者 ・ 家族の反応を見きわ め,患者 ・ 家族から求められた場合の援助,であった.

2) 対話参加者で創り出した行為

本過程における具体的な相互行為は,場面や状況に依 存し,相互反映性(reflexivity)のあるものとして対話 当事者によって創り出されていた.相互反映性とは,エ スノメソドロシーの創始者であるGarfinkelが提唱した 中心概念で,日常的な相互行為によってその場で作り続 けられることを意味する.

特徴1:本過程の開始時点は(図5,対人関係の語り を依頼する看護師に患者が研究参加者という行為者役割 として応じるという連鎖であった.看護師は(3)「〜

お話ください」と依頼.日常会話ルールでは,依頼への 応答は「承諾 ・ 拒否」だが,Eさんは質問で応じる.こ

こに本対話開始の特徴が表れており,「看護師の依頼」

に先行して,(1)の看護師の「〜説明しましたように」

という発話は,Eさんに研究参加者としての依頼に応じ るという行為者役割を促し,Eさんが依頼の拒否を避け,

「看護師の問いについて話す」準備として「質問」で応 じたといえる.そのうえで,「考えたことないですね(6)」

と,依頼に回答できないことを表明しつつも「ただ」と 断ったうえで,話題を自ら選択して語りを始めた.F んは「ポイントだけ言えばいいのに余計な話ししそうで すね」という前置きから,Gさんは「具体的になにを話 す?」という質問から開始した.特徴2:自分の希望を 可能にすることを非明示的に成し遂げるは,Eさん家族 2回目の対話終盤(図6で示す.入院になったので看護

参加者への関係図の説明概要:がんの診断を受けた E さんと妻・長女間は互いに気遣うような関係に変化し ていたので相互に一方向的、妻と長女は協力して介護 していたので双方向的、E さんは次女を案じていたの で一方向的としたが、次女の思いは不明だったので破 線で示した。また、妻とパート先の関係は語られなかっ たので不明、長女が語った大学生活(含むアルバイト)

は双方向的な語りではなかったので一方向的、家庭で は語らなくなった次女だったが、学校では変わりなく 元気に過ごしていたので双方向的に示した。

*大学の仲間

*アルバイト先の上司 E さん

*学校

在宅療養(家族の状況を時系列に記載)

*妻

*長女

次女*

*パート

通院の為運転 を始め、最初 はビビル妻

介護してくれる妻と 長女のプレッシャー を案じて気分転換を 願う

手探りで介護 する妻と長女

対人関係を表す記号 一方向的 双方向的

いさかいのある関係 断絶

不明

4 Eさん家族の対人関係を示した図(関係図)

先行連鎖

依頼 質問

研究参加者として依頼に応じる 1 看護師:それでは先ほどご説明しましたように E…さん 2 E さん:はい

3 看護師:人生において意味ある出来事,あとは意味   ある人々についてお話しください

4 E さん:意味ある出来事ですか 5 看護師:はい

6 E さん:そういうのっていうのは,ちょっと考え直したと   いうか,考えたことないですね.ただ,この病気になって   初めて…

5 看護師の依頼に研究参加者という行為者役割として 応じる連鎖(パートナーシップの開始)

(8)

師は,(1)で今後のパートナーシップの継続について理 由を提示し,判断を家族に委ねる2者択一の質問をする.

日常会話ルールでは通常,質問には「回答 ・ 回答拒否」

の応答だが,Eさんはどちらでもない「いちおう6回を 目標」と本過程の回数を確認する応答をする.そして,

残りの回数を発話して「目標まではクリアして」と,続 けてもよいと提案.看護師はこの提案に回数ではないと 説明を続け,Eさんはこの説明には同意を示すが,終了 の有無については無回答.その後,看護師が「1週間後 に声をかける」と提案し,Eさんが同意するという連鎖 になっている.つまり,Eさんは研究参加者としての行 為者役割で応答するやり方で,看護師の質問に回答する ことを回避し,看護師から別の選択肢を引き出すという 連鎖だった.特徴3:家族を含めた対話では,患者は開 始時点などで看護師との対話の橋渡しをする,看護師は 必要時に患者の代弁をする行為者役割をとっていた.特

4:患者 ・ 家族の対人関係を示した図は,看護師と一

緒に確認し合う連鎖により,患者 ・ 家族がそれらを自ら 振り返る語りを引き出すこと,看護師が確認したい点を

質問することを可能にする.また,これらの連鎖の中で 患者 ・ 家族がうまくいっていないと感じている役割関係 が語られた.Eさんの場合は家族2回目の対話で次女が 家族から離れている関係図(図4を看護師が指し,「E さんが次女のことを心配されていると思った」という感 想を述べると, Eさんは次女の立ち位置を「仲間はず れっぽい」と言い,病気の説明後から自分にあまり近寄 らなくなった関係を語った.Fさんは療養における主婦 役割の負担を述べ,Gさんは長男夫婦へ迷惑をかけてい ると語った.特徴5:患者 ・ 家族の行為者役割が,研究 参加者から現在困っていることを語る相談者に変化する のは特徴4が現れた後であった.特徴6:相談者役割へ の変化は,看護師が患者の苦痛の緩和などの直接的援助 行為,対処法のアドバイスなどの行為の後に現れていた.

特徴7:療養生活における家族関係の変化から生じてい

る課題に対する家族員個々の受け止め方を看護師は相づ ち,復唱,定式化することで語りを促し,本人たち自身 がそれに応じてさらに語り合うという連鎖だった.特徴 8:7の連鎖は患者 ・ 家族と看護師の対話が常に噛み合っ ている訳ではなかった.しかし,患者 ・ 家族は看護師の 発話に明確な非同意を示さず,看護師の発話が示す方向 に応じる形で連鎖が進行していた.つまり,患者 ・ 家族 が看護師に合わせて応答することによって,看護師が拒   1 看護師:じゃあ,どうしましょうか,これで終わりにす

るのか,まだ何かお話ししたいようなことがあったら伺っ てもいいですけれども,どうしましょう.ご家族で,も うやっていけるかなと思っていらっしゃるようだったら   2 E さん:いちおう 6 回を目標に書かれている

  3 看護師:そうです,そうです   4 E さん:きょうで 3 回目? 

  5 看護師:1,2,3,4 回目になっていますね   6 妻:4 回目

  7 E さん:4 回目?

  8 看護師:4 回目

  9 E さん:あと 2 回ぐらい.だから目標まではクリアして いただいても構わないから

10 看護師:ああ,そうですか.いや,目標とかの回数では ないんです

11 E さん:ああ,そうなの

12 看護師:これを見ながら,自分たちでやっていけるなと 思えるかどうか.じゃあ,ご入院されているので,1 週間 ぐらいたった後にいかがですかって,病室にいらっしゃ るようだったらお声をかけまけしょうか

13 E さん:そうですね

14 看護師:では,そのようさせていただきます 15 E さん:ありがとうございます

対話回数の確認

研究参加者として応答するやり方で看護師の対話終了の質問に 回答することを回避して別の選択肢を引き出している

2 者択一の質問

6 自分の希望を非明示的に成し遂げた連鎖

  1 看護師:F さんは,F さんらしさを大事にされたほうがい いと思います

  2 Fさん:ああ,はい,ねえ(笑).そうですね はい.毎日ね(笑)

  3 看護師:ん?

  4 F さん:毎日が,本当に自分らしく生きる為の戦いかもし れない(笑).うん,そうですね

  5 看護師:身体がつらい時は言っていただいて,すごくしっ かりされている方なので,いえるとおっしゃっていたので いえると思うんですよね

  6 F さん:はい,言えます

  7 看護師:あとは 3 人で,4 人で療養生活をされるんですけれ

  8 F さん:はい . だから次男とか娘とかも,今この病気になっ ても双方向になったりしているんで

  9 看護師:そうですね

10 F さん:それまではね,本当にどっちかといったら私のほ うが強くて,相手はもう干渉しないでというふうな感じで したけど,でも今はね,ちゃんとなってきているから,ちゃ んとしたね,力強い味方がいる訳だから,もっと私も強く なっていきます,はい

11 看護師:そうですね

提案

看護師の提案を受けて自己表明

課題提示

看護師の課題に自ら考えて方向性を語る 7 患者が自ら見出した家族との方向性を語る連鎖

(9)

否や否定と受け止めないで対話が継続していた.特徴9: 本過程の終了時点では,看護師が行う患者 ・ 家族の療養 生活に関する定式化や提案に応じるやり方で,患者また は家族自らが見出した方向性を語るという連鎖であっ た.Eさんの場合は家族の変容として記述した.Fさん の例を7に示すが,子どもたちを支援者にすることを 決断された.Gさんは長男が介護休暇を取ることで育児 参加し,孫の成長にも項を奏していることを再認識され

た.特徴10:患者 ・ 家族と看護師のパートナーシップ

における目的の共有は,最初から成立している訳ではな く,明示的に確認し合うという対話がなされなくても,

上記のような具体的な連鎖を通して共有され,成し遂げ られていた.

Ⅵ.考 察

1.進行膵がん患者 ・ 家族の療養体験変容を成し遂 げたパートナーシップの過程における相互行為 について

前述したようにGallant7)はパートナーシップの過 程に,パワー配分(power sharing)と交渉(negotiation)

を伴うことに言及したが,患者看護師のパートナーシッ プが展開する看護場面は,広範囲(vast)で多様(variety)

な場面であることを強調して典型例を示さなかった.本 研究では事例研究として,その相互行為の一端を示せた のではないだろうか.

まず,パワー配分においてGallant7)は,患者・看 護師とのパートナーシップは,パターナニズム(医療を 受ける弱い立場の患者,医療者としての看護師)から脱 却できるかと,問題提起していた.本過程で患者は研究 参加者として行為者役割を上手く活用しており,看護師 自身も気づかずに相互行為が進んでいた.このような相 互行為を成し遂げた要因は,患者はその社会的属性にお いて日常的な相互行為ができる能力をもった人物という 点である.つまり,日常会話では拒否に比べて同意が優 先して選択される13).患者は看護師との相互行為で同 意し難い場面でも,まずは日常生活で培った相互行為の 仕方を優先して示し,看護師が拒否されたことに気づか ずに対話が進んでいた.これは,Certeau14)19世紀に 形成されていった規律と監視システム15)に論及した,

人々は場所の掟をすり抜け,監視の眼を逃れ,さまざま な知恵を借りながら日常的な実践を「なんとかやってい く」という見方として説明できる.すなわち,医療の受 け手で弱い立場といわれている患者であっても,その時 その場で生じる相互行為において,患者自らに備わって

いる相互行為能力を駆使し,看護師との相互行為を成し 遂げたとも考えられた.

次に交渉は,患者 ・ 看護師間では共通の目的を合意し Win-Winの交渉16)が適しているという.Maynard17)

によると,交渉の参与者は,延期(Demur)などのや り方で,合意に到達するか,断念するまで自分の交渉上 の立場を表示し合うという.延期は「提案−返答」の産 出が適切な場所で関連した内容を挿入することで,事例 1の「対話終了の有無へ返答しないで回数を質問する」

やり方である.このように,患者-看護師間パートナー シップにおけるパワー配分と交渉の相互行為の場面を記 述できたことに事例研究としての意義があると考える.

2.進行膵がん患者 ・ 家族の療養体験の変容過程の 5段階

本過程で示した10の相互行為の特徴から,自分たち では解決できない療養生活の課題を抱えていた患者 ・ 家 族は,類似した5つの段階を経て療養体験の変容に至っ たと考えられた.①患者は看護師の問いに研究参加者と して自ら選択して意味ある出来事や余命宣告を受けて治 療に向き合った病を語り,家族や周囲の人たちの支援で 乗り越えられたことに感謝を示して療養生活における家 族との関係性を案じる,②患者は関係図を基に,現在ま での対人関係を看護師と一緒に確認し合い,改めて意味 ある出来事を振り返ることで現状を受け止め,限りのあ る療養生活を見据える,③看護師の問いに家族が研究参 加者として意味ある出来事を語ることを患者が手助け し,3者で関係図を振り返ることで療養生活において変 化した家族関係を再認識する,④療養生活における家族 関係の変化を理解している看護師の肯定的な見方を交え て語り合う中で,研究参加者から相談者への行為者役割 へと変化しながら療養生活で生じている課題について家 族員それぞれの立場で表出する.⑤家族関係の変化から 生じている家族だけで対処できない療養生活上の課題に 対し,看護師の専門的な提案や対応を受けることによっ て,課題に関連した療養生活の方向性を自ら見出す,で ある.事例研究であっても療養体験の変容過程を概念化 できたことで,新たな看護介入として臨床導入が目指せ ると考えている.

3.本研究の限界

本研究は同施設に通院する患者に限定し,看護師1 の実践で,患者側の振返りができていない.今後の課題 は,異なる治療環境において複数の看護師が本過程を辿 り,その相互行為を分析し,研究参加者それぞれの振返 りをするというデザインで実施すること.そして,事例 を積み重ねたうえで,効果検証型の研究により,「新し

(10)

い看護介入」として提示していきたい.

Ⅶ.結 論

本過程において抽出できた相互行為の特徴は,対話場 面の状況の中で,患者と家族と看護師が相互反映性のあ る行為として創り上げていた.そして,相互行為の当事 者である看護師が,行為している時には気づいてないこ ともあることが明らかになった.つまり,看護師はその 場その場の状況,および対話の相互反映性に依存して彼 らとの相互行為が進行するという特徴を理解しおくこ と.そして,患者 ・ 家族が日常会話のルールを使って対 話できる相互行為の能力をもっていること,すなわち,

複雑で多様な課題を抱える進行膵がん患者とその家族の もっている力を信じてパートナーシップに臨むことが重 要といえる.

謝 辞

本研究は,北里大学大学院実践看護学に提出した博士論文の一 部をまとめたものである.小山幸代指導教授に深甚の謝意を表す とともに,EMに関するご指導を頂いた東海大学法学部北村隆憲 教授に厚く御礼申し上げます.

なお,第32回日本がん看護学会学術集会において一部を発表し た.

利益相反 本研究における利益相反は存在しない.

文 献

1) Ueno H, Ikeda M, Ueno M, et al. Phase I/II study of nab–pacli–

taxel plus gemcitabine for chemotherapy-naive Japanese pa–

tients with metastatic pancreatic cancer. Cancer Chemotherapy and Pharmacology. 77(3), 595603(2016)

2) Jia L, Jian SM, Shang YY, et al. Investigation of the incidence of pancreatic cancer-related depression and its relationship with the quality of life of patients. Digestion. 82(1), 4─9(2010)

3)千﨑美登子.化学療法を受けている進行膵がん患者の療養生活 における体験;手術適応にならなかった患者を対象として. 里看護学誌.18(1),9─20(2016)

4) The National Coalition for Cancer Survivorship. 2006.

https: //www.Cancer advocacy.org/about-us/our-history/ 2016─09─16)

5) Gerritsen A, Jacobs M, Henselmans I, et al. Developing a core set of patient-reported outcomes in pancreatic cancer: A Delphi survey. European Journal of Cancer. 57, 68─77(2016)

6) Endo E, Nitta N, Inayoshi M, et al. Pattern recognition as a car- ing partnership in families with cancer. Journal of Advanced Nursing. 32(3), 603─610(2000)

7) Gallant MH, Beaulieu MC, Carnevale FA. Partnership: an anal–

ysis of the concept within the nurse–client relationship. Journal of Advanced Nursing. 40(2), 149─157(2002)

8) Newman MA. Health as Expanding Consciousness. 2th ed.

Sudbury, MA, Jones and Bartlett Publishers, 1994, 147─149 9)西阪 仰.分散する身体;エスノメソドロジー的相互行為分析

の展開.東京,勁草書房,2008, 42─51

10) Collins S, Britten N, Ruusuvuori J, et al.(北村隆憲,深谷安子監 訳).患者参加の質的研究.東京,医学書院.2012, 19─51 11)中木高夫,谷津裕子,神谷 桂.看護学研究論文における「体

験」,「経験」,「生活」の概念分析.日本赤十字看護大学紀要.21, 42─54(2007)

12) Endo E. Pattern recognition as a nursing intervention with Jap- anese women with ovarian cancer. Advances in Nursing Sci- ence. 20(4), 49-61(1998)

13)前掲9),110─118

14) Certeau M(山田登世子 訳).日常的実践のポイエティーク. 京,国文社,1987, 89─125

15) Foucault M(田村 俶 訳).監獄の誕生;監視と処罰.東京,新 潮社,1997, 198228

16) Roberts SJ, Krouse HJ. Negotiation as a strategy to empower self–care. Holistic Nursing Practice. 4(2), 3036(1990)

17) Maynard DW. Demur, Defer, and Deter; Concrete, Actual Prac- tices for Negotiation in Interaction. Negotiation Journal. 26

(2), 125143(2010)

(11)

Abstract

Transforming Experiences of Advanced Pancreatic Cancer Patients and Their Families, Focusing on Interactions in the Process of Partnership with a Nurse *

by Mitoko Senzaki **

from

** Kitasato University Hospital

The purposes of this research are: to examine what were the specific characteristics of the interactions that occurred between advanced pancreatic cancer patients (and their families) and a researcher-nurse in the pro- cess of partnership, and to clarify how the experiences of the patients and their families were transformed by those interactions through which the partnership was achieved.

Research design is case studies.Three patients with pancreatic cancer who underwent unresectable che- motherapy at a university hospital and their family members (1 to 3) were recruited by the method approved by the ethics committee.With reference to the research protocol based on “Health as Expanding Conscious- ness (HEC)” “a figure showing interpersonal relationships among family members” and “a partnership pro- cess” were created, focusing on dialogue.Following the partnership process, a total of 6 dialogical conversa- tions were held, first with the patients, and then with their family members within two months.

Data collection and analysis methods are: ①audio-recording, transcribing and analyzing all the dialogues, using ethnomethodological interaction analysis (EM); ②examining the recorded dialogues by reflecting on the emotions, thoughts and consciousness of the researcher-nurse, based on her journal, and ③analyzing and identifying common characteristics.

The findings of this research are: ①advanced pancreatic cancer patients and their families experienced gradual transformations in the process of their dialogues with the researcher-nurse; ②the transformations that the patients experienced were that they increasingly came to express their felt transformations in their re- lations with their family, and ultimately to accept those transformations and their fates by trying to make meaningful sense of their experiences and thus to find their own directions of how to live their limited life as a family; ③while some actions were implemented deliberately by the nurse, other actions were created collabo- ratively by all the participants through the continuous dialogues.

Key words: advanced pancreatic cancer patient, family, experience, partnership, interaction

Address reprint requests to:

Mitoko Senzaki. Kitasato University Hospital

1─15─1, Kitasato, Minami-ku, Sagamihara-shi, Kanagawa 252─0375, JAPAN Phone: 042─778─8111/Fax: 042─778─8419/E-mail: [email protected]

参照

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