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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

サレンとシクロペンタジエニル(Cp-)配位子は、触媒化学、合成化学、及び、材料科学 の分野で幅広く用いられている。またCp-の炭素原子を他の14族原子に置き換えることに よって、対応する metallole アニオン若しくはジアニオンを生成する。鉛原子に置き換え て生成したmetalloleジアニオンはplumboleと呼ばれ、最も重い原子を含む芳香族性化合 物として報告されている。これらの metallole ジアニオンは種々の遷移金属に配位して金 属錯体を生成する。これらの配位子から成る金属錯体の詳細な電子構造や分光学的特性に 関する詳細な知識は重原子化学の理解に必須である。この論文の全体的な目的は、サレン 配位子と鉛原子を含む metallole ジアニオン配位子をもった金属錯体の詳細な電子構造と 分光学的物性について、重原子に必要となる相対論補正を考慮した信頼性の高い量子化学 的方法を使って検討することである。以下に各部の目的を具体的に記述する。

第一部では、チタン、バナジウム、クロム、マンガンのdi-µ-oxo二核錯体の電子状態を 計算し、各錯体の安定性を電子的な要因と分子構造的な要因に分けて考えている。二量化 によって回転の自由度が制限されるため、di-µ-oxo二核錯体はdiastereomer を形成する。

先行研究ではチタン二核錯体は P-helical 型の構造が安定であり、一方、マンガン二核錯

体では M-helical 型の錯体が安定であることが指摘されている。本論文の主目的は、

P-helical型とM-helical型diastereomerの選択性的生成の原因を密度汎関数法計算で明 らかにすることである。

第二部では、モノロジウムplumbole錯体、ジロジウムplumbole錯体、及びplumboleジ アニオンのC-13 及びPb-207 NMR 化学シフトを、種々の非相対論的密度汎関数法及び相対 論的補正を加えたZORA密度汎関数法によって計算し、plumboleの配位によって生じるNMR 化学シフトとPlumboleの電子状態との関係を議論することを目的とする。Pbやその隣接原 子の NMR 計算には高精度な量子化学的方法が必要であり、この方法論的な検討は本学位論 文の特徴的な内容である。

第三部では、モノロジウムplumbole錯体によってアセチレンが三量化される触媒反応解 析を実施することが目的である。モノロジウムCp-錯体による先行する理論研究が存在する が、モノロジウムplumbole錯体の反応性が高いことを理論的に予測している点で新規な内 容を含んでいる。

第四部では、星間化合物の赤外線吸収スペクトルを量子化学的方法によって詳細に検討 し、実験的方法で得た結果のアサイメントを実施することが目的である。

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2 研究の方法と結果

第一部では、各種の第一遷移金属(チタン、バナジウム、クロム、マンガン)から成る di-µ-oxo 二核錯体の安定性を量子化学計算によって解析している。立体障害の少ない仮想 的な配位子を使って、安定性に寄与する電子状態的な要因を探査したところ、金属種によ らずM-helical型錯体が常に安定であることが判り、この要因がdi-µ-oxoコアーにおける

O-M-O-M-O の結合の安定性に起因していることを明らかにした。立体障害の大きな現実の

salene配位子では、構造的な要因が加わることによりチタン錯体側で M-helical型が不安

定化し、相対的に P-helical 型が安定になることが判った。更に、モデル的な計算によっ て、この構造的要因が錯体全体の安定性に寄与していることを確認している。

第二部では、鉛のmetalloleであるPlumboleに関しての化学的性質について電子状態と NMR化学シフトを対応させて議論している。計算方法として非相対論的密度汎関数法及び相 対論的補正を加えたZORA密度汎関数法を用いている。軌道相関図とETS- NOCV解析によっ

てPlumnole ジアニオンから Rh へのπ型の電子供与が錯体形成に重要である事を示してい

る。ロジウム錯体からの逆供与も観察されたが、その重要性は低いと判断している。ジロ

ジウム Plumbole 錯体ではπ型の電子供与が更に増大し、これによって Pb-C 結合が更に伸

長する傾向にあることを示した。

次に、Pb-207及びC-13 NMR化学シフトの計算を実施した。計算値は実験的傾向を合理的 に再現しており、以後の解析の信頼性を保証している。Pb については相対論効果が必須で あることが示されている。密度汎関数法では汎関数の依存性が極めて大きいことを計算値 によって示した。溶媒効果についても検討がなされているが、その効果は限定的であるこ とが示されている。鉛原子に隣接するα炭素とβ炭素の C-13 NMR 化学シフトについては、

NMR 化学シフトの値を分解したところ、α炭素の錯体依存性は、para 項(軌道項、磁場応 答項とも云う)が支配的であり、β炭素の化学シフトはpara項に加えてスピン-軌道相互 作用による変化が重要であることが示されている。

第三部では、モノロジウムplumbole錯体を触媒とするアセチレンの三量化反応を計算し、

その全過程のエネルギー変化を計算した。計算結果はこの反応過程が熱力学的に可能であ ることを示している。提案された反応メカニズムによると、反応の律速段階は二つのアセ チレンが酸化的付加反応を起こして、metallacyclopentadiene を生成する過程であること が示された。先行研究が存在するモノロジウムCp-錯体と比較して、本学位論文で採用した モノロジウムplumbole錯体の方が、この過程を容易に通過することができることが示され た。ETS-NOCV解析では、この反応過程に於いて、前章と同様に、plumbole配位子が強いπ 電子供与体として働くことを示している。

(3)

第四部では、星間物資について、本学位論文では、先ず、孤立分子モデルによる振動計 算と結晶モデルによる振動計算の違いについて詳細に検討しており、幾つかの違いを指摘 するも、その違いは限定的であると結論付けている。その後に孤立分子モデルによって幾 つかの分子の振動解析を実施し、実験スペクトルのアサイメントに寄与している。

3 審査の結果

本学位論文では、金属錯体、特に、重原子を含む金属錯体を中心として、NBAやETS- NOCV 解析、相対論補正を含めた NMR 化学シフト計算、自由度の大きな触媒化学反応解析など、

幾つかの高度な量子化学的手法を用いて種々の問題に取り組んでいる。第一部では、立体 障害の小さな仮想的な配位子を設定して、金属錯体の安定性に関する電子的要因を直感的 に明らかにした点を高く評価する。第二部においては、重原子であるPbを含む化合物のNMR 化学シフトの計算を実施している。Pb 化学シフトは相対論的効果が大きいために通常の量 子化学的方法では計算が困難である。本論文の主たる方法はZORA-密度汎関数法であるが無

限次 Douglas-Kroll 法と比較するなど緻密な検討を重ねている。計算結果は実験値を良く

再現しており、実験で観測される化学シフトに合理的な解釈を与えた点で高く評価できる 内容である。第三部の触媒反応解析に於いては、Pb を含む新規な反応を取り上げ、反応の 全過程を網羅する計算を実施した点で労作である。類似反応での先行研究はあるが、

Plumbole が極めて強いπ電子供与を示す点から両者の違いには大きな意義があると考える。

4 最終試験の結果

本学の学位規定に従い、最終試験を行った。公開の席上で論文の内容を発表し、化学専 攻教員他との質疑応答をもって試験に充てた。また、論文審査委員が本論文および関連分 野について試問を行った。その結果、専門科目および外国語(英語)についても充分な学 力・能力があることを認め、合格と判定した。

参照

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