氏 名 いけぞの ごう
池園 剛
学 位 の 種 類
博士(医学)
報 告 番 号
甲第
1860号
学位授与の日付
令和
3年
3月
16日
学位授与の要件
学位規則第
4条第
1項該当(課程博士)
学 位 論 文 題 目
Gastric metaplasia of the duodenal mucosa in Crohn’s disease: Novel histological and endoscopic findings
(クローン病の十二指腸粘膜における胃上皮化生:特徴的な病 理組織学的所見と特徴的な内視鏡画像所見の検討)
論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授
平井 郁仁
(副 査) 福岡大学 教授
向坂 彰太郎
福岡大学 教授
二村 聡
内 容 の 要 旨
【目的】
炎症性腸疾患には大きくクローン病と潰瘍性大腸炎に大別される.上部消化管内視鏡検
査と生検は,大腸型クローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別診断に有用である.しかし,近年,
クローン病の特徴的な病理組織学的所見である非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の検出率が減
少している.そこで, Helicobacter pylori ( H. pylori )未感染のクローン病患者を対象
に用い,新しい上部消化管における特徴的な病理組織学的所見と特徴的な内視鏡所見を
見いだすことを目的とし研究を行った.
【対象と方法】
試験デザインは単施設後ろ向き研究である.福岡大学筑紫病院消化器内科において、2018
年 4 月から 2020 年 3 月までの期間において拡大内視鏡を用い上部消化管内視鏡を施行し
た連続した H. pylori 未感染のクローン病患者 50 例を対象とし,同時期の連続した H.
pylori 未感染の潰瘍性大腸炎患者 50 例を対照に用いた.
H. pylori 未感染の定義は,(1)内視鏡所見で H. pylori 未感染胃の特徴を認め,(2)
H. pylori 除菌歴がなく,(3) H. pylori 感染診断検査で少なくとも2項目が陰性( H.
pylori IgG 抗体,尿素呼気試験,便中抗原検査,迅速ウレアーゼ試験,生検による培養法,
生検による検鏡法),のすべての条件を満たすものを H. pylori 未感染と判定した.
クローン病患者と潰瘍性大腸炎患者に対し上部消化管内視鏡検査を施行し,粘膜病変を
認めた場合は, 同部位に対して NBI (narrow-band imaging)併用拡大内視鏡を行い,同
部位から狙撃生検を行った.通常内視鏡で粘膜病変を認めない場合は,胃体部, 胃前庭部,
十二指腸球部, 十二指腸下行部の 4 ヶ所より NBI 併用拡大内視鏡を行い, 同部位より生
検を行う. 最低でも 4 カ所から生検を行った.
【結果】
クローン病群と潰瘍性大腸炎群において, H. pylori 未感染の十二指腸粘膜における生
検標本においての組織学的な胃上皮化生の頻度は,クローン病群が 46% (23/50),潰瘍性
大腸炎群が 16%(8/50)であり,統計学的に有意差を持ってクローン病群の頻度が高い結
果となった ( P =0.002,Fisher’s exact test).クローン病群において,組織学的に胃上
皮化生を認めた 23 症例のうち 22 症例に通常内視鏡所見により粘膜病変を認めた.さら
に,NBI 併用拡大内視鏡を加えて検討すると,組織学的に胃上皮化生を認めた 23 症例のう
ちの 21 症例の NBI 併用拡大内視鏡所見は,絨毛構造の消失,腺窩辺縁上皮が弧状という
特徴的な所見であった.本所見を Magnifying endoscopic finding characteristic for
gastric metaplasia (M-GM)と定義した.クローン病における通常内視鏡所見による組織
学的な十二指腸の粘膜病変を指標とした場合の胃上皮化生の感度,特異度,正診率はそれ
ぞれ,95.7%, 63.0%, 78.0%であった.クローン病における十二指腸の M-GM を指標とした
場合の胃上皮化生の感度,特異度,正診率はそれぞれ,91.3%, 96.2%, 94%であった.通
常内視鏡に NBI 併用拡大内視鏡を加えると特異度,正診率が統計学的に有意差を持って上
昇した (特異度 : P=0.004, 正診率 : P=0.039,Fisher’s exact test).
【結論】
クローン病の内視鏡による消化管粘膜(胃,小腸,大腸)から採取した生検病理組織検査
では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が特異的な所見であり,生検での検出率は26〜67%程度と
報告されている.しかし,われわれの最近の経験によると,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の
検出率が減少している.そこで本研究において, H. pylori 未感染のクローン病患者にお
いて胃・十二指腸粘膜から採取した生検標本の組織学的検索を行ったところ,十二指腸の
胃上皮化生が,クローン病患者に多く検出されることが判明した.化生とは、持続的な障
害がおこることで一旦分化した組織が、他の性状を示す組織に置き換わることを指す.一
般的に十二指腸粘膜における胃上皮化生を来す要因として, H. pylori 感染が関与してい
ると報告されている.我々の知りうる範囲では,クローン病を初めとする慢性の炎症性腸
疾患の十二指腸粘膜を対象とし,胃上皮化生の存在について組織学的に検討した報告はな
い.本研究により初めて, H. pylori 未感染の十二指腸粘膜に胃上皮化生がクローン病患
者に優位に多く存在していることが判明した.この結果から,十二指腸における胃上皮化
生の出現は,新たなクローン病における病理組織学的に特異的マーカーになる可能性が示
唆された.
さらに,内視鏡所見の検討を行うと,クローン病においての粘膜病変の頻度は潰瘍性大
腸炎に比べ高く,統計学的に有意差を認めた ( P <0.001).次に内視鏡像の形態について
の検討を行った.胃上皮化生の通常内視鏡像の多くは隆起を呈していることが多いとの報
告がある.本研究では平坦・陥凹を呈している病変からの生検にて72.2%の頻度で胃上皮
化生を認めた.その理由の一つに H. pylori 感染による胃上皮化生は表層にある粘膜上皮
を首座とした炎症であるがクローン病は全層性炎症をきたすことにより,炎症の一部が表
層に発現すると平坦な病変を限局して認めるのかもしれない.引き続きNBI併用拡大内視
鏡の検討を行った結果,組織学的に胃上皮化生を有する粘膜のNBI併用拡大内視鏡の特徴
像は,絨毛構造の消失と腺窩辺縁上皮が弧状であるという所見 (M-GM) であった.また,
通常内視鏡に引き続きNBI併用拡大内視鏡を用い観察すると統計学的に有意差を持って特
異度,正診率が上昇し,NBI併用拡大内視鏡による胃上皮化生の診断能に対し上乗せ効果
があることが判明した.具体的には,感度,特異度,正診率はそれぞれ91.3%, 96.2%, 94.0%
と高い診断能を有し,十二指腸粘膜において胃上皮化生を通常内視鏡と比較してより正確
にNBI併用拡大内視鏡により診断できる可能性が示唆された.
また,NBI併用拡大内視鏡により偽陽性であった2症例について組織学的所見を詳細に再
検討すると胃上皮化生の面積が極めて少ないことが判明した.そのため,拡大内視鏡でM-
GMの所見を捉えられなかったのではないかと考察している.また,NBI併用拡大内視鏡に
より偽陰性であった症例を再検討するとM-GMの所見は捉えることはできていたため正確
に狙撃生検が観察部位から採取できなかった可能性がある.
本研究により得られた結果に基づき, H. pylori 未感染のクローン病における十二指腸の
組織学的な胃上皮化生を診断するストラテジー(Figure 1)を提案した.具体的には,十二
指腸に通常内視鏡にて粘膜病変を認めた際は,引き続き同部位に対しNBI併用拡大内視鏡
を行いM−GMを認めれば高い診断能を持って内視鏡のみにより胃上皮化生を効率よく診断
できるストラテジーと成りうる可能性がある.NBI併用拡大内視鏡にてM-GMを認めなけれ
ば通常内視鏡により粘膜病変がある部位は,粘膜病変がない部位より,胃上皮化生の出現
率は高いので病変部位から狙撃生検を行う.粘膜病変を認めない場合はランダム生検を行
う.今後,前向き試験によりこのストラテジーの有用性を検証する課題が残されている.
H. pylori 未感染のクローン病患者では,対照となる潰瘍性大腸炎患者に比べて十二指腸
粘膜の胃上皮化生の頻度が高い結果となった.この内視鏡所見は、十二指腸における胃上
皮化生の組織学的診断のための新しい指標となる可能性がある。
Figure 1
審査の結果の要旨