論文の内容の要旨
氏名:徳 永 悟 士
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:MRIによる顎関節疾患と下顎頭骨髄信号の関係
顎関節疾患は,①顎関節の疾患あるいは障害(先天異常・発育異常,外傷,炎症,腫瘍および腫瘍類似 疾患,顎関節強直症,上記に分類困難な顎関節疾患),②咀嚼筋の疾患あるいは障害(筋委縮,筋肥大,筋 炎,線維性筋拘縮,腫瘍,咀嚼筋腱・腱膜過形成症),③顎関節症,④全身疾患に起因する顎関節・咀嚼筋 の疾患あるいは障害(自己免疫疾患,代謝性疾患)に分類させる。そのうち顎関節症は,顎関節や咀嚼筋 の疼痛,関節雑音,開口障害ないし顎運動異常を主症候とする総括的診断名である。顎関節症の一つであ る顎関節円板障害は,関節円板が転位することにより下顎頭の正常運動を阻害し,下顎頭の形態的変化を 誘発する要因ともされている。形態変化を生じた下顎頭には浮腫性変化による骨髄信号異常が生じること が報告されている。下顎頭に生じた浮腫性変化は MRI で評価することが可能であり,今後の下顎頭の形態 変化を予測するうえで非常に有用であるといえる。また,顎関節疾患の一つである関節リウマチ
(Rheumatoid Arthritis:以下RA)は,全身疾患の一つであり,関節滑膜の非特異的炎症を特徴とする自己 免疫疾患である。同疾患は通常手足から発生し全身の関節に進行していき,顎関節にも2~86%の頻度で発 症するといわれている。同疾患は関節周囲に肉芽組織の増生(パンヌス)を主体とし,骨および軟骨破壊 を引き起こして急速に進行するとされている。それゆえ,RAの早期発見は,RA患者にとって非常に臨床 的に重要である。しかしながら,これら両疾患と下顎頭骨髄信号との関係を述べた研究は乏しい。
本研究の目的は,1)MRI を用いて関節円板の転位および復位の有無と下顎頭骨髄信号の関係および、
2)MRIを用いてRA患者におけるパンヌスと下顎頭骨髄信号との関係を分析し,MRIを用いて顎関節疾 患と下顎頭骨髄信号の関係を検討することである。
本研究は本大学倫理委員会の承認を得ている(EC-15-12-009)。1)MRIを用いて関節円板の転位および 復位の有無と下顎頭骨髄信号の関係の検討は,2016年4月から2018年3月までの期間に,日本大学松戸歯 学部付属病院にて顎関節症の精査目的で MRI撮像を行った患者のうち,基礎疾患の既往がない20歳以上 の 431 症例中,顎関節領域に外傷や腫瘍等の疾患が認められたもの,下顎頭に骨変形を認めたもの,金属 アーチファクトの影響で評価困難であった症例を除外した計 854顎関節とした。関節円板位置の評価は,
Emshoffらの報告を元にSE法矢状断プロトン密度強調像にて閉口時に関節円板の後方肥厚部が下顎頭に対
して12時の位置にみられるものを円板転位なしとし,12時の位置よりも前方に位置しているものを前方転 位とした。また,開口時に関節円板が関節結節と下顎頭の間に位置しているものを復位,関節結節と下顎 頭の間に位置していないものを非復位として分類した。下顎頭骨髄信号の評価は,Hiraharaらの報告を元に STIR法体軸断像にて下顎頭が最大面となるスライス上で,下顎頭骨髄信号が骨体部の骨髄信号と比較して 同程度の信号を示すものを骨髄信号異常なし,下顎頭骨髄信号が骨体部の骨髄信号と比較して高信号を示 すものを骨髄信号異常あり,と評価した。評価は2名の歯科放射線専門医が高精細モニターを用いて個別 に評価した。関節円板の位置および復位の有無と下顎頭骨髄信号の関係について,χ2検定を用い,p<0.05 で有意差ありとした。なお,評価者間の一致率はCohen’s Kappaを用い算出した。2)MRIを用いてリウマ チ患者におけるパンヌスと下顎頭骨髄信号との関係の検討は,2006年8月から2019年3月までの期間に,
本院にて顎関節の痛みを主訴に来院し,MRI撮像を行ったRAと診断された患者の計54顎関節とした。パ ンヌスの評価は, STIR にて下顎頭周囲に信号強度の上昇を示すものをパンヌスありとした。下顎頭骨髄 信号の評価は,STIR法体軸断像にて下顎頭が最大面となるスライス上で,下顎頭骨髄信号が骨体部の骨髄 信号と比較して同程度の信号を示すものを骨髄信号異常なし,下顎頭骨髄信号が骨体部の骨髄信号と比較 して高信号を示すものを骨髄信号異常あり、と評価した。評価には2名の歯科放射線専門医が RA 患者の MR画像を評価した。下顎頭の骨髄信号とパンヌスの関係について,フィッシャーの正確確率検定を用い,
p<0.05で有意差ありとした。なお,評価者間の一致率はCohen’s Kappaを用い算出した。
MRI を用いた関節円板の位置および復位の有無と下顎頭骨髄信号の関係の結果は,関節円板に位置異常 がみられない27顎関節すべてに下顎等骨髄信号異常がみられないという結果となった。一方で,関節円板
に位置異常がみられた827顎関節の中で,下顎頭骨髄信号がない顎関節は683例(82.6%),信号異常がみ られた顎関節は144例(17.4%)であった。さらに,関節円板が復位した顎関節のうち,信号異常がない顎 関節は459例(93.9%),信号異常がある顎関節は30例(6.1%),関節円板が復位しなかった顎関節のうち,
信号異常がない顎関節は224例(66.3%),信号異常がある顎関節は114例(33.7%)であった。また,パン ヌスと骨髄信号の関係の結果は,パンヌスおよび下顎頭骨髄信号異常がみられた症例は70.4%であり,両方 ともみられなかった症例は18.5%であった。パンヌスが存在するRA患者は下顎頭骨髄信号にも信号異常を 生じているという結果となった。本検討により,MRI を用いて関節円板の転位および復位の有無と下顎頭 骨髄信号の関係,およびパンヌスと下顎頭骨髄信号の関係に有意性が認められた。以上の検討結果より,
MRIを用いた顎関節疾患と下顎頭骨髄信号の関係が解明された。