論文審査の結果の要旨
氏名:津田悠一
博士の専攻分野の名称:博士(生物資源科学)
論文題名:アミノ酸の疲労軽減作用に関する研究
審査委員:(主 査) 教授 関 泰一郎
(副 査) 教授 高橋 恭子
教授 細野 朗 教授 川井 泰
運動は,高血圧,脂質異常,耐糖能異常などの生活習慣病の危険要因を改善し,多くの疾患を予防・
改善することが可能な身体活動である。健康に対する国民の意識の向上,スポーツに対する関心が高 まっている一方,運動の際に克服しなくてはならない問題として疲労がある。運動により身体は疲労 し,その疲労感は運動能力の低下に加えて運動に対するモチベーションをも低下させる。本研究では,
運動時に摂取することで疲労感を軽減することが可能な新規アミノ酸混合物を開発することを目的と し,アミノ酸およびアミノ酸混合物の効果について基礎的な研究を展開した。
第1章では,運動時の生理機能に影響を与えるBCAAに着目し,バリン,ロイシン,イソロイシン が運動時の生体応答に与える影響について比較検討を行っている。ラットにバリン,ロイシン,イソロ イシン,または対照として蒸留水を経口投与し,その後 1 時間の水泳運動を実施し,運動前後の各種 血液生化学的解析,肝グリコーゲン量を測定した。その結果,バリン投与群では,対照群と比較して運 動後の血糖値,肝グリコーゲン量が有意に高く,血漿コルチコステロン濃度は有意に低値を示した。一 方,ロイシン投与群は,対照群と比較して運動後の血糖値および血漿コルチコステロン濃度が有意に 低く,イソロイシン投与では,対照群と比較して顕著な差はなかった。1時間の水泳運動後の自発行動 量はバリン投与においてのみ,対照群と比較して有意に高値を示していた。以上の検討により,バリン が運動時の血糖および肝グリコーゲンの低下を抑制すること,コルチコステロン分泌を抑制すること を発見し,バリンが運動時の疲労を軽減する可能性をはじめて明らかにしている。
第2章では,第1章で運動時の糖質コルチコイド分泌を抑制することが動物実験により示されたバ リン,脂質代謝を促進することが報告されているアルギニン,コルチゾール分泌を抑制することが報 告されているホスファチジルセリンの基質であるセリンに着目している。これら 3 種のアミノ酸を利 用した新規アミノ酸混合物を作製し,このアミノ酸混合物の摂取が運動時のコルチゾール応答に与え る影響についてランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー比較試験を行った。健常男性20名に 対し,アミノ酸混合物,あるいはプラセボを摂取させ,30分後に自転車エルゴメーターを用いて80分 間の運動を実施させた。1週間のウォッシュアウト期間を設定し,同様の試験を繰り返した。プラセボ 摂取群では,運動後の血漿コルチゾール濃度は運動前と比較して有意に高値を示した。一方,アミノ酸 摂取群においては,血漿コルチゾール濃度は運動前後で有意な差はなかった。さらに,アミノ酸摂取群 では,プラセボ摂取群と比較して,運動前後の血漿コルチゾール濃度の上昇は有意に低値であった。一
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方,運動関連の糖・脂質代謝などの各種血中パラメーターについては,両群間で有意な差はなかった。
以上の結果から,本アミノ酸混合物の摂取は運動時のコルチゾール応答を抑制し,運動によるストレ ス・疲労の軽減,あるいは身体コンディションの改善に貢献する可能性を明らかにしている。
第3章では,アミノ酸混合物が運動時の疲労感に与える影響についてヒトで評価した。健常男性 39 名を被験者としてランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー比較試験を実施した。アミノ酸混 合物,あるいはプラセボを1日2回14日間摂取させ,摂取14日目に自転車エルゴメーターを用いて 120分間の自転車運動を実施させた。2週間のウォッシュアウト期間後,同様の試験を繰り返した。運 動前後の疲労感をビジュアルアナログスケール(VAS)および自覚運動強度(RPE)により測定し,さらに 各種血中および身体パラメーターを測定している。VASおよびRPEによる疲労感は,アミノ酸混合物 摂取によりプラセボ摂取と比較して有意に改善していた。運動時の血清中総ケトン体量の上昇と血漿 中トリプトファン/分岐鎖アミノ酸比は,アミノ酸混合物摂取でプラセボ摂取と比較して有意に低値を 示したが血漿アンモニア濃度は条件間で有意な差はなかった。これらの結果から,本アミノ酸混合物 の摂取は,運動時の疲労感を軽減することが示され,作用機序としてケトン体の利用効率の上昇,脳内 セロトニン産生の抑制,アンモニアの過剰産生の抑制などが示唆されたとしている。
以上のように本研究では,アミノ酸が運動時の疲労軽減作用を有することをはじめて明らかにして いる。本研究は,アミノ酸の新規生理機能の解明にとどまらず,運動・スポーツにおける疲労感の軽減 や身体コンディション・パフォーマンスの維持に貢献する新たな機能性食品の開発に役立つ基礎的な 知見を提供しており,審査員一同,本研究の内容は博士(生物資源科学)の授与に十分値するものであ ると判断した。また,本研究の内容がすでに国際誌,専門誌に公表され,インパクトのある成果として 評価されていることを確認した。
以 上
令和 3年 2月 22日
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