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(1)

ヒンディー語母語話者による日本語名詞句構造に関 わる「の」の習得過程 : 被験者Mの来日後5ヶ月間 の事例

著者 久野 美津子

雑誌名 静岡大学国際交流センター紀要

6

ページ 21‑38

発行年 2012‑03‑27

出版者 静岡大学国際交流センター

URL http://doi.org/10.14945/00006612

(2)

静岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

ヒンディー語 語話者による日本語名詞句構造に関わる「の」の習得過程

― 被験者Mの来 日後5ヶ 月間の事例―

    美 津 子

 旨】

ヒンディー語 を母語 とす るイ ン ド人女性 の来 日後5ヶ月間 (4〜 21週)の発話 デー タ を基 に、名詞句構造 に関わ る 「の」 の習得過程 について調査 した。その結果、主 に次の特 徴 が見 られた。(a)「の」の脱落が4週目か ら観察 され、21週目まで続 いた。特 に4週目は 脱落の割合 が高 く、Ll転移 の影響 では説明 し難 い脱落 も多 く見 られ た。(b)適格 な 「の」

4週目に観察 され始 めたが、「の」の出現後 も脱落 は消失せず、適格構造 と脱落 とが混在 していた。(c)「は」「を」「に」「と」「で」 による代用 の誤 りが観察 された。 中で も 「は」

の使用 回数 は比較的多 く、そのほ とん どが早期 に観察 されていた。(d)発 話 の際、一旦「の」

を脱落 した り他 の助詞 で代用 した りす るものの、す ぐに言い直す例 が多 く見 られ た。以上 の特徴 の うち (a)〜 (c)は先行研究でも類似 した報告があることか ら、L2学習者 の 「の」

の習得 には基本 的 に類似 した習得過程があるのではないか と予想 された。

キー ワー ド】名詞句構造、習得過程、ヒンディー語母語話者、格助詞 「の」、脱落 の誤 り

1.はじめに

第二言語 (L2)と して 日本語 の格助詞 を習得す る学習者 は、その過程 で脱落 の誤 りをす ることが知 られ てお り、名詞句構造 に関わ る 「の」 について も脱落 が報告 されてい る (迫 1990、 松 田・斎藤1992、 自畑1994、 久野2004、 白畑・久野2005、 久野2009)。 この う ち、 自畑・久野 (2005)では、名詞句構造 内での 「の」 の発達段階 について、最初期 には

「の」 を脱落す る段階があ り、その後 「の」 を付与す るようになる段階があると述べてい る。 この よ うに、脱落 を分析対象 に含 めた 「の」の習得研究 はい くつかある。 しか し、成 人学習者 を被験者 とした縦断的研究 に限らてみ ると、その数 はあま り多 くない と思われ る。

久野 (2009)は、これまでほ とん ど報告のない成人 の ヒンディー語母語話者1名について、

5ケ 月間の発話デー タを基 に名詞句構造 について調査 した。その結果、習得の最初期 か ら、

適格構造 と共 に脱落や代用の誤 りも観察 され ることが確認で きた。 しか し、観察期 間 を通 じて発話量 が少 な く、信憑性 に欠 けるもの となってい る。そ こで、本稿 では、新 たに ヒン ディー語 を母語 (Ll)と す る学習者1名か ら得 た来 日直後 の発話データを基 に、名詞句構 造 における 「の」 について使用状況 を調査 したい。特 に、データを1週間 ごとに記 し、発 話例 をできるだけ多 く記述す ることによって、習得過程 の最初期 の様子 を明 らかにしたい。

2.L2先行研究

2.1  児童 を対象 と した先行研究

名詞句構造 に関わ る「の」の習得研究 の うち、脱落 の誤 りも視野 に入れ、長期 間にわたつ

‑21‑

(3)

静 岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

て児童 を縦 断的 に調査 したものに自畑・久野 (2005)がある。被験者 は中国語 をLlとす る 児童1名 (A児)、 英語 をLlとす る児童2名 (B児C児)の3名である。来 日年齢 は8〜

11歳、デー タ収集期 間はA児が滞在2〜 26ヶ月 日、B児が滞在1〜 14ケ 月 日、C児が滞 1〜 21ヶ月 日である。彼 らの発話デー タを基 に、「Notln Phase(lCP)1+の +NP2」 構造 お よび「AttectiVe Phrase(AP)+NP」 構造 について、誤 りも含 めたデータを分析 した。その 結果 、彼 らに共通す る主な特徴 が3つ見 られ た。1つ日は、「NPl十 +NP2」 構造 に関 し て、滞在 1〜 2ヶ月 日か ら 「*NPl+NP2」 とい う「の」 の脱落 (例 :*わ た しともだち)

が、「NPl+のNP2」 よ りも先か、または遅 くとも同時期 に観察 されたことである ①。そ して、この 「*NPl+NP2」 と「NPl+の NP2」 は長期 間 (10〜 20ヶ 月間)にわたって 混在 していた。2つ目の特徴 は、「NPl+の +NP2」 構造 で代用 の誤 りが観察 された ことで ある。特 に 「は」 による代用 (例 :*わた しはお とうさん)は 3名共 に観察 され、その出現 時期 は比較 的早期 であった。3つ目の特徴 は、AP tt NP」 構造 に関 して、最初期 には「AP十

NP」 のみが観察 され、その後 「*AP+の+NP」 力`「AP+NP」 と共 に一定期 間観察 され る が、最終的 には適格構造 のみが発話 され るとい う習得過程 をた どったことである。

これ らの結果 を基 に、 自畑・久野 (2005)では名詞句構造 に関わ る 「の」の発達段階 を (1)の よ うに提示 した。「第一段階」は「の」の出現 がな く「*NPl+NP2」 や 「AP tt NP」

が現れ る段 階である。「第二段階」は 「の」 の付与規則 を次第 に認識 し 「NPl+の+NP2」

が出現 し始 めるが、修飾要素である語彙 の素性 の習得 が未完全 なため、依然 として 「の」

を脱落 した り、逆 に 「AP+NP」 に 「の」を過剰 に適用 した りす る②。「の」の付与規則 の 習得期 間は学習者 のLlの特性 の相違 によって左右 され、その差が「第二段階」に留 まる期 間の違い となって反映される。「第二段階」は関連する規則の習得が確実なものとな り、*NPl+

NP2」 や 「*AP十の十NP」 が消失 し、適格構造 だけが適用 され る段階である。

(1)  名詞句構造 に関わる 「の」の発達段 階 第一段 階        第二段階

*NPl+NP2」

AP+NP」

*NPl+NP2」

NPl+の +NP2」

AP+NP」

*AP十の 十 NP」

第二段階

NPl+の +NP2」

AP+NP」

2.2  成人 を対象 と した先行研究

成人学習者 を対象 に、脱落 も含めて分析 してい る縦断的調査 には、松 田0斎 (1992)、

自畑 (1994)、 久野 (2009)な どがある。松 田 :斎 藤 (1992)で は、韓国語 をLlとす る女 2名 (Kと A)から得 た6ヶ月間の発話 デー タ16回分 を基 に格助詞の習得研究 を行い、

その1つとして「の」の使用状況 を記 してい る。調査 開始時期 は被験者が来 日してか ら1〜

2ヶ月後である。データは8回分ずつ前半 と後半 にま とめ られてい る。それ によれ ば、「の」

の脱落 の割合 はKの場合、前半が33.78%(使用数 は148回50回)、 後半が45.04%(131 回中59回)であ り、Aの場合、前半が66.04%(53回 35回)、 後半が34.64%(127回 44回)である。誤 りには脱落 のほか、割合 は少 ないが 「へ」「を」「に」「は」による代用 も

―‑ 22 ‑一

(4)

静岡大学 国際交流セ ンター紀 要 6号

観察 されている。 これ らのデータか らは、成人学習者の場合 も高い割合で 「の」 を脱落す ることがわかる。ただし、データがまとめて記 されていることや、脱落に関す る発話例の 記載がないことな どか ら、習得の最初期の様子 について詳 しく知 ることは難 しい と思われ

る。

自畑 (1994)はタイ語 をLlとす る女性 (Sl)とマ レー語 をLlとす る男性 (S2)の 18ヶ 月間に得 られた発話デー タを基 に、名詞、形容詞、動詞 を修飾要素 とす る連体修飾構造の 習得過程 について、誤 りに焦点 を当てなが ら調査 した。デー タは2ヶ月間 を1期間 とし、

9期間 に区分 し示 されてい る。この うち「NPl+の+NP2」 構造 では、両者共 に第1期か ら 適格 な 「の」が発話 され、同時 に脱落 も観察 されていた。Llで「の」に相 当す る語が必要 slの場合、脱落の回数 は少 なかった。これ に対 し、Llで「の」に相 当す る語 を必要 とし ないs2の場合、脱落 の回数 は多 く、また、全期 間を通 じて観察 されていた。その理 由 とし て、Ll転移 の影響 が示唆 されている。 この よ うに、自畑 (1994)の報告か らは、成人学習 者 の場合 にも 「の」 の脱落が早期 か ら観察 され ることや 、適格 な 「の」が使用 され るよ う

になって も脱落が混在 してい ることな どがわか る。ただ し、データが2ヶ月 ご とにま とめ て報告 されてい るため、長期 間にわたる習得過程 の推移 を把握す ることはできるものの、

最初期 の様子 について詳 し く知 ることは難 しい と思われ る。

久野 (2009)は、 ヒンディー語 をLlとす るイ ン ド人留学生1名 (S、 30代男性)の来 日 3〜 19週 (滞1〜 5ケ月 日)の発話デー タ12回分 を基 に、名詞句構造 の発話状況

を調査 した。その結果、「NPl+の+NP2」 構造 の場合、滞在4週目に、適格構造 だけでな く脱落や 「は」 による代用 の誤 りも同時 に観察 され始 め、 これ らは5週日以降 も断続的 に 観察 されていた。脱落 については、Llからの転移 で説明できない ものもあつた (例:*わ   ともだち)。 代用 の助詞 には 「は」が合計4回観察 され たほか、「を」 も1回観察 され (例 :*わた しは うち、*エスカ レー ター をちか く)。 誤 りにはこの他 に 「*NP2+NPl」

な どもあつた (例 :*まえザザシティ)。 一方、「AP+NP」 構造 の場合、発話 回数 が少 な く、

滞在8週目にナ形容詞 を用いた発話 が3回16週目にイ形容詞 を用 いた発話が3回観察 さ れただけであつた。この うち、ナ形容詞 の発話 では、「きれいな」とすべ き箇所 を「きれい」

とした誤 りが観察 された (例 :*き れいプ レイス)。

久野(2009)で Sの特徴 を自畑0久(2005)の児童の特徴 と比較 した。その結果、NPl+

+NP2」 構造 の場合、脱落 が早期 か ら観察 され た点、適格構造 と脱落 とが数 ヶ月間混在 していた点、他 の助詞 による代用 が観察 された点 で類似点が見 られ た。一方、「AP+NP」

構造 の場合、最初期 に「AP+NP」 のみが観察 され た点 では類似 していたが、Sに「の」の 過剰使用 が観察 され なかった点で異 なっていた。以上 の点 を踏 まえ、久野 (2009)はSの 名詞句構造 の発達段階 について、 自畑・久野 (2005)の提示す る発達段階の うち 「第二段 階」の状態 であった可能性 を述べている。その 「第二段 階」 は 「第一段階」 に非常 に近い ものであ り、また 「*AP+の+NP」 が出現す る前の状態 であると考 えられ た。

久野 (2009)の調査 には課題 も残 っている。それ は、被験者 がSl名である点、 さらに、

発話デー タの量が非常 に少 なかったため、sに見 られ た特徴 がS特有 のものなのか、あるい は、他 の成入学習者 にも見 られ るものなのか不明だ とい う点 である。 これ らの課題 を解決 す るため、本稿 では、Sと同 じくヒンディー語 をLlとす る成人学習者 のデー タを基 に、「の」

―‑ 23 ‑―

(5)

静 岡大学 国際交流セ ンター紀 要 6号

の使用状況 について特徴 を述べ、その特徴 をSの場合 と比較 しなが ら、習得過程 について 考察 したい。

3.調

3.1  デー タ収集方法

被験者 は ヒンディー語 をLlとす るイ ン ド人留学生 (M120代女性)1名である。2010年 4月 5日 に来 日した。来 日前 に 日本語 の学習経験 はなかった。Mは来 日後 4日 目か ら初級 ク

ラスで 日本語 を学習 し始 めた。 日本語 のクラスは週 に3回程度であった。Mは大学院の授 業等で特 に 日本語が必要 とい うわけではな く、普段 は主 に英語 を用 いて生活 していた。デー タの収集期 間は来 日後4〜 21週(滞1〜 5ヶ月 日)である。データ収集方法 は、Mと

観察者 (筆)力1週間 に1度、約 1時間の 自由会話 をし、録音 したものを後 に文字化 し た。デー タ収集 の回数 は合計18回、合計時間は約18時間である。

分析対象 としたのは名詞 を修飾要素 とす る名詞句構造である0。 適格 な発話 だけでな く、

脱落や代用 の誤 りも含 めて調査 した。ただ し、観察者 の発言 を単 に繰 り返 したものや、書 かれた文字 を読 んだものな どは対象外 とした。同構造 は初級 クラスで比較的早期 に導入 さ れ る文法項 目であ り、Mの場合、調査 開始前 (滞1週)に導入 され、その後 の授業で

も折 に触れて文法説 明や練習 な どが行われていた。

表記 に関 して、構造形式 と実際の発話例 とを区別す るため、以下では便宜的 に、構造 は

NPl+の+NP2」 構造 のよ うに、発話例 は「NlのN2」 (例 :わた しの本)や*Nl φ N2」

(例:*わた し本)のよ うに記す。「φ」は 「の」 の脱落 を表す。また、久野 (2009)では、

名詞 が2つか ら成 る名詞句 (例 :私 の兄)と 3つか ら成 る名詞句 (例 :私 の兄の本)と

特 に区別 しなかつたが、本稿では使用状況 をよ り詳細 に記述す るため、前者 は「NPl十+

NP2」、後者 は 「NPl+の+NP2+の+NP3」 と区別 して記す ことにす る。

3.2  ヒンデ イー語の名詞句構造

被験者 のLlであるヒンディー語 の名詞句構造 (名詞 を修飾要素 とす る場合)について簡 単 に記 し、日本語 の表現 と比較 したい。「の」に相 当す るヒンディー語 には後置詞 ka(ま ke、 kl)があ り、語順 は 日本語 と同じである (「NPl+ka+NP2」)0。 例 えば 「あなた の息子」は「aap(あなた)+ka(の)+beta(息)」 の よ うに表現す る。古賀・高橋 (2006) によれ ば、kaには多 くの用法があ り、所属や帰属 の関係 (例 :彼の弟)、 動作・作用 の主体

(例 :彼の死)、 ある性質や状態の主体 (例 :睡眠の不足)、 動作・作用 の場所や方 向・対 象・範 囲 (例 :イ ン ドヘ の旅行)、 材料 (例 :木 の箱)な どを表す ことができる。ka、 ke、

klの使 い分 けは、被修飾要素である名詞 (NP2)の性、数、格 (格を明示す る後置詞 を伴 う

「斜格形」、後置詞 を伴 わない 「直格形」)の違い によつて決 まる。(2)は直格形の場合 の 用例 である。(2a)は ka(NP2が男性名詞で単数)の例 、(2b)は ke(NP2が男性名詞 で複 )の例、(2c)(2d)は kI(NP2が女性名詞 で単数 または複数)の例 である。

beta (1人)息

(2)a.

‑ 24 ‑一

(6)

静 岡大学国際交流セ ンター紀要 6号

¨拠一¨¨締¨一一締一.

b. aap あなた

bete 息子達

betl

(1人)娘

betiy五

娘達

また、人称代名詞 の場合、「NPl+ka」 に相 当す る表現 を1語で表せ る属格 がある。例 え ば、maI(私)は mera(私)にhaln(私達 は)は hamara(私達 の)にな り、その語 尾はkaの場合 と同様、NP2の性・数0格に応じて変化する (例 :mertt beta私 の′巨子、mer華

betl 私の娘)。

ただし、NPl+の+NP2」 が全て「NPl+ka+NP2」 に対応 しているわけではな く、NPl+

の」 に相 当す る表現 が ヒンデ ィー語の形容詞や副詞 で表せ る場合 な どは、kaは必要 ない。

例 えば国名 を含 む表現 の場合、bhalrtlya(ィン ドの)と na亘 (女)で bhttlya narI(イ ン ドの女性)と表現で きる。数量 を表す場合 は、tin(3)と dost(友 達)で tln do飩 (3人 の友 )、 時 を表す場合 は、kal(明 )と am(晩)でkal sham(明 日の晩)などと表現す る

ことがで きる。

以上の点 を踏 まえ、ヒンディー語 をLlとす る学習者 のLl転移 の可能性 について考 えた い。 ヒンディー語 で名詞句構造 を表す には、多 くの場合、kaが必要であ り、さらにkaは NP2の性・数・格 によつてkeや klに変化 させ る必要がある。そのため、 ヒンディー語で

は、名詞句構造 を表す形式が複数 あると言 えるだろ う。一方、 日本語ではNP2の性 ・数・

格 に関係 な く、「の」とい う1つの形式 によって表す ことができる。このことか ら、ヒンディー 語母語話者 にとつて、 日本語の 「NPl+の +NP2」 構造 の習得 はそれ ほ ど困難 ではないだ ろ うと予想 され る。そ して、習得 の最初期 の段階か ら 「の」力ゝ適格 に付与 され、発話 され る可能性 が高い と考 えられ る。仮 に、Llで NPl+ka+NP2」 と表現できる名詞句 につ いて、 日本語 の 「の」を脱落 した場合 には、Ll転移 の影響 とは考 えがたい。ただ し、上述 したよ うに、ヒンディー語 にはkaを用いない名詞句 の表現 もあ り、そのよ うな名詞句 にお いて脱落 が観察 された場合 には、Ll転移 の影響 の可能性 も否定できない と思われ る。

4.結果 と考察

4.1  調査結果

調査 の結果、観察 を開始 した4週目に適格 な 「の」力`観察 され始 めた。 それ と同時 に、

脱落や他 の助詞 による代用 の誤 りも観察 された。表1にMの発話状況 を記 した。

誤 りには様 々なパ ター ンがあ り、脱落 には 「*Nl 

φ N2」 *Nl 

φ N2 φ N3」 *Nlの N2

φ N3」*Nl 

φ N2の N3」 が、代用 には「*Nlは N2」*Nlは N2の N3」*NlをN2」*Nl N2」*Nlで N2」*Nlに N2」*Nlに N2のN3」*NlのN2に N3」 があつた。この他、

*Nl 

φ N2の(例:*わたし かばんの)や *Nlは N2の(例:*わた しはかぞ くの)も 観察 された。また、「*わたしは の ほん」のように、まず 「は」を発話 し、途中で 「の」に 言い換 える例な どもあったが、これは代用の誤 りとみなした0。

―‑ 25 ‑一

(7)

静岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

1の結果 を基 に 「の」「φ」「代用」等の回数 を週 ごとにま とめたものが表2である。

例 えば 「*Nlの N2φ N3」 (例 :*わたしの にほん ともだち)の場合、「の」が1回、「φ」

1回として数 えた。表内の数字 は、上段 が回数、下段 が割合 (%)である。

被験者Mの名詞句構造の調査結果

形式\週 14

*Nlφ N2 5 5 4 1

Nlの N2

*NlはN2 1

*NlをN2 1 1

*Nlφ N2の 1

*NlはN2の

*Nlと N2

*NlでN2

*Nlヤ こN2 1 1

*Nlφ N2φ

lヾ3

*NlはN2のN3

*NlにN2の N3

Nlの N2の N3 1

*NlのN2φ N3 2

1 1 1

*Nlφ N2の N3

*NlのN2にN3

名詞旬構造内の 「 φ」「の」「代用」等の回数 と割合 (%)

項 目\週 6 7

「 φ」 22

52 5

θヱ

9 18

11

5

"

7 37

8 25

4

2 15

13 θ∂

7

′イ 3 9

「 σ)」

13 θθ

2 6 14

5̲9 40

4 0

11 α

17 77

11 58

18 δ7

42

81 3 5

11 85

21

0 2

2 2

2 2

3 0

3 0

代用 「は」 4

θ 3

2

θ

1

2

代用 「を」 3

7 1

2

1

2 1 δ

1 2

代用 「に」 2

8

2 θ

1 5

3

II 1

2 2 5

1 θ

代用 「と」 1

代用 「で」 1

2

その他 1

2 5

回数計

―‑ 26  …

(8)

静岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

また、 この表2を基 に、「φ」「の」「代用」「その他」の週 ごとの回数 を示 したものが グ ラフ1であ り、害J合 (%)を示 したものが グラフ2である。

日 φ 国の 回代用 口その他 45

40 35 30

25 20 15 10 5 0

̲      

l

  │

  I F

=[島 =I園 I=「 l .賄  =『

8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19

滞 在 週 数

グラフ1「φ」「の」「代用」「その他」の回数

□ φ 国の 国代用 日その他 100%

90%

80%

70010

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

7   8   9   10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21 滞 在 週 数

グラフ2「φ」「の」「代用」「その他」の割合

以上の結果 か ら、Mに見 られ た主 な特徴 について述べ る。まず1つ目は、「の」の脱 落が 早期 か ら観察 され た とい う点である。名詞句構造 に関す る基本的な文法的説 明は 日本語 ク ラスで導入 されてお り (例:静岡大学の学生、私 の本、車の雑誌)、 Mには同構造 に関す る 基礎的知識 が多少 な りともあつただろ うと思われ る。それ にもかかわ らず、「の」の脱落 が 観察 され た ことになる。脱落の割合 は観察 を開始 した4週目が最 も高 く、発話全体の51%

を占めていた。

2つ目の特徴 は、代用 として用い られた助詞の うち「は」の発話回数 が比較的多 く(12回)、

‑ 27 ‑

(9)

静 岡大学 国際交流セ ンター紀要 6号

しか も、そのほ とん ど (12回 中11回 )が 4〜 7週目の早期 に観察 されていた とい う点 であ る。代用 には他 にも 「を」 (7回)や 「に」 (12回)な どが観察 されていたが、 これ らは期 間 を通 じて断続的に観察 されてお り、「は」の観察 され た時期 とは異なっていた。

3つ目の特徴 は、名詞 が3つか ら成 る「NPl+の+NP2+の+NP3」 が、NPl+のNP2」

ほ ど多 くはない ものの、断続的 に観察 された点である。「NPl+の +NP2+の+NP3」 5

週 目に観察 され始 めたが、5〜 7週 目は脱落や代用 な ど不適格構造 のみの発話 であつた。そ の後、8週目以降になって適格構造が観察 され るよ うになつた。

4つ目の特徴 は、発話時の様子 に関す ることであるが、一旦、「の」を脱落 した り、ある いは、他 の助詞 を用 いて発話 した りす るものの、す ぐに 「の」 を用 いて言い直す例 が多 く 見 られた とい う点である。

以下では、実際の発話例 を記 しなが ら、使用状況 を詳 しく見てい きたい。

4.2  発話例

4.2.1  脱落の発話例

まず、脱落 の発話例 について見てい く。脱落 が観察 された名詞句 を見てみると、国名 (ま たは言語名)や数量 に関す る語彙 を修飾要素 とす る名詞句 が多かった。その割合 は国名が

32%(135回44回)、 数量 が30%(135回40回)であつた。また、時 に関す る語彙 を 修飾要素 とす る場合 の名詞句 は、脱落全体 に占める割合 は高 くない ものの (135回 中9回)、

観察 された時期 が他 の名詞句 に比べて遅い とい う傾 向があつた。そ こで、 これ らの特徴 を 考慮 し、修飾要素の語彙 を便宜的 に「国名等」「数量等」「時」「その他」の4つに分類 して、

脱落 の例 を記す ことにした。表3は、週 ごとの発話例 と発話 回数 (「φ」の回数)を分類別 に記 したものである。紙面の都合上、発話例 には漢字 も用 いた。

‑ 28 

(10)

週 数 国名等 数量等 その他 日本語 本

イ ン ド人 先生  (5)

パ ソコン 雑誌 先生 か ばん  (17)

日本語 本

タイ ラン ド本  (7)

松本 うち イ ン ド語 本

日本語 劇    (2) 一人 友達

イ ン ド 下

イ ン ド マ ップ  (2)

二 人 ひ と 彼 ホー ム タ ウン

イ ン ド 果物

モ ンゴル 歌  (3) ニ人 ウーマンいち フェスティバル (2)

OL

/{ l-. r: -/i/ (4)

デ リー 地 図

イ ン ド サ リー  (3)

い ち 場所

全部 湖     (3) 大学 写真わた し 友達   (5)

イ ン ド 電話

日本語 茶    (5)

クラス あ とで イ ン ド 大学

日本 語 音楽   (4) コン ピュー タ 会社

た くさん 学生 ふ たつ カ レッジ (6)

病気 ひ と 私 のイ ン ド フォー ン

(1)

全部 イ ン ドじん 全部 人 の ダンス (2)

昨 日 晩 祭 リ ピ リオ ド

イ ン ドの全部 文化 た くさん 友達  (4)

木 うえに 水 ちか く 私 のイ ン ド 友達

私 のイ ン ド 先生 (2)

昨 日 朝 に 日本のパ ソコン 会社

(1)

今 日 朝 私 の先生 名 前

私 のイ ン ド 先生

イ ン ド 歌   (2) 二台 バスた くさん 人   (7)

晩 に

朝 に    (3) 私達 ペ ア レンツ

日本語 グラマー 二人 女 の人

全部 女 の人   (5)

先生 の 日本 友達 私 の 中国 友達  (4)

二人 子供 の

一人 友達    (2)

ゴールデンシャワー下に

(1)

私 のイ ン ド 先生 さん 山 茶道 カ ップ

私 のイ ン ド 先生 私 のた くさん 友達 ひ とつ 部屋   (3)

昨 日 晩 に

今 日 晩 に    (2)

プレゼンテーション あと

(1)

44回 40回 9回 42回

静岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

修飾要素別に見た脱落の発話例 と発話回数

以下では、実際の脱落の発話例 を修飾要素別 に、適格な例 も交えなが らい くつか記す0。

発話例の表記について、会話形式での発話者Rは観察者 を示す。例 中の ()内の語は筆者 が補ったものである。()には発話時の状況 を記 した。発話例最後の ()内の数字は観察 時の週数である。本稿で分析対象 とした名詞句 には全て網がけをした。

まず、 (3)は 「国名等」を修飾要素 とす る名詞句の発話例である。例 えば、(3a)「にほん ごのほん」と (3b)「*にほんご(の)ほん」、(3e)「*イ ン ドご (の)ほん」と(3f)「イ ン ドの ほん」、(3g)「*にほんご (の)げき」と (3h)「にほんごのげき」のように、同じ物について 表現 しているにも関わ らず、適格な 「の」 と脱落 とが同時期 に観察 されることがあつた。

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これ らの例 か らは、「の」の使用 が定着 していない様子が うかがえる。また、(3m)「*にほん じん (の)ライス」は 「日本 の」 とすべ き箇所 を 「にほん じん」 と発話 してい る例 である。

(3) 「国名等」 を修飾要素 とす る発話例

:穏i難灘聾難妻攣難:凛1議響麟蝉灘裁、です。(4) R:これ は何 の本 ですか?

M:*これは にほんご、経葬轟暴器轟薦輔響轟群です。(4)

*これは灘撻碁導郵諮盤:華懇聾轟圭翼學難轟:癬です。(5)

*イ ンド  螺壽諸彗難鸞轟:轟総鼻(5)

*これはインド、難蠅 導警聾饗:轟難ですか。(6) これは ヒンド難難繋彗轟彗導難ですか、ほんです。(0

*藝鍵華聾強藝:難:難で難議華銘難理鞭難:攀:、 げき(を)みました、みます。(6) わたしは :轟:華1難::馨:彗:を ならいています。(6)

*わたしは榊轟難黎撃禁議繋蒸:を うたいました。*Uさ(は)襲:瀦軍攀1謹締熱妻癬(を)

g.

h.

1.

うたいました。(8)

*わたしたち:響1華1器:纂藝彗:華響、モデル をつかれ、つくれました、つくりました。(9)

.*これば彗鸞1籠:磁灘帯:藝軸 です。⊂ω

*イ ンドの、にほんごも、:難:撃1聾::│【曇諄:驀葬難彗寒:も ききます。(11)

m・

轟 鍵 轟 轟 製 聾 璽

l簑

琴 警

Pが

(aか

ぃ ま し た 。 す き じ や な い で す 。

一棘¨一一聾一一一

o。 *:攀

:難羅播難暑雲:業:輔華輔難彗雌は せんせいもレきたい。(21)

この よ うに 「国名等」 を含む名詞句 で脱落が多 く見 られた一因には、 ヒンディー語 (あ

るいはMの よ く使用す る英語)の転移 の影響 もあるか もしれ ない。例 えば 「日本語 の本」

kIを用 いて 「japani(日 本 の)bhasa(言)kI(の)kitab(本)」 と表現す ることも可能 である。 しか し、kIを用 いず 「japanI(日 本 の、 日本語、 日本人、等)」 と「kitab(本)」 用いて 「japanl kitab(日 本 の/日本語 の本)」 と表現す ることもできる。そのため、これ ら

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静岡大学国際交流セ ンター紀 要 6号

の脱落 には、Ll転移 の影響 が少 なか らず あるのではないか と思われ る。

次 に、「数量等」の語彙 を含む発話例 は (4)の とお りである。 これ らは6週日以降 に観 察 され るよ うになったが、6〜 13週目の発話例 は全 て「の」が脱落 していた。14週目になっ て初 めて、(4e)「た くさんのひ と」の よ うに 「の」が観察 され るよ うになった。

(4)「数量等」 を修飾要素 とす る発話例

a.│=ユ繁湛

=1答

│ン警ゆ:1鮮:ヤこ碁薄│,11(ゆ>:ひ│(が)あ ります、います。(7)

b.*,デ│夕1肇│み│ず:暮│、 1彗1澪:(豪11みずう│み│、 きれいです、きれいじゃないです。(9)

c.1舞││:1彗 │ル│11■│111=を '着:く:さ:葎│(●11馨│〜│に あります。│た│く:さ:〜│(│)111ⅢI尋:に

ひ とは ざっしと ほんは かいます、かきます、nOかき、よみます。(12)

d.1菫│:纂│1籍:と,ヽ1群 1舞111暴:く:彗1碁:11豪)i:│と :も 'だ

│ち:と ランカをいきました。(14)

e。 これはこうえんです。│た│く11さ1葬│● │●:と│(が)レます。(14)

f.鷲んぶ│:01と:は ハッピーです。(14)

g。 (異カースト間の結婚について〉サ│11111101と│は だいじょうぶです。│た│く│き│々:̀│)

│ひ,(は)できません。(17)

h.*パーティーに、躍簑成議(め)=おんな おんなのひとはinvited。 (18)

i。 (イ ンドの3つの山の話〉素:ル:韓:や:暮:ル:筆や葺│(が)あります。そこやまは おてらやまにおてら(が)あ ります。│た│き│ル│■1尋:ど:は まいにちのぼります。(20)

j.1肇:た,葺 IⅢ I毒│三

'さ

:筆:│(111彗:も1暮│こ こにいきました。(21)

次 に、「時」 を修飾要素 とす る発話例 は (5)の とお りである。 これ らが最初 に観察 され た時期 は、適格構造 が12週日、脱落が13週 日であつた。発話回数 は適格構造 を含 めて15 回であ り、その うち9回で脱落が見 られた。

(5)「時」 を修飾要素 とす る発話例

a。 141=:華:妻│び1響:戦1苺│1事 │,│、 ねません。(12)

b.*1華1蒙:::モ豪丼1螺│ヤ Rさ(は)おしえました。(13) c.*:き1発 │夕│(め ,:あ:き

'に

 くすりをのみました。(15)

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d。 わたしは にちようび、難鐘難機:が難熱麟彗に たべる。(15)

e.鍵難難攀:::【1詳総導に わたしとNさんと 轟灘:難菱難轟澪:甕難難華郡轟華難(は)い しょにりょうりを インドリょうりを つくりました。(17)

わたしはごはんを フライ ドライス つ くりました。(17)

藝響 輔 議警檬善趣攀難:難:(が)あ ります。(20)

上記 (4)の 「数量等」 に関す る名詞句 は、 ヒンディー語ではkaを必要 としない (例:

do adm1 2人の男性、sab admI全ての男性)。 また、(5)の「時」に関す る名詞句は、 ヒン ディー語ではkaが必要な場合 (例 :ravivar kl rat日 曜 日の晩)と必要でない場合 (例 :助

rat今日の晩)とがあるが、「の」が脱落 した発話 は全 てkaを必要 としない表現であつた。

この ことか ら、「数量等」や 「時」に関す る語彙 を修飾要素 とす る場合 には、Ll転移 の影響 によつて 「の」 を脱落 した可能性 もあるのではないか と考 え られ る。また、数量 を表す場 合、 日本語 では 「の」 を用い る表現 (例 :2人の子供がい る)の他、「の」 を用 いない表現

(例:子供が2人い る)もあることか ら、「の」が必要 な場合 と必要でない場合 との使 い分 けが難 しかった とい う可能性 も考 え られ る。

最後 に、以下 (6)には 「国名等」「数量等」「時」以外 の 「その他」の語彙 を修飾 要素 と す る発話例 を記 した。これ らの例 のほとんどはヒンディー語でkaを必要 とす るものである0。

発話例 の (6a)「しずおかだいが くのが くせい」は4週目に観察 された 自己紹介 の表現 であ る。 自己紹介 は 日本語 の授業でまず学習す る項 目であ り、入学後、何度か 自己紹介す る機 会 もあるため、ほぼ暗記 していた と思われ る。同じ く4週目には、(6b)「*パワーでん き(の)

かい しゃいん」や (6c)「IMCのかい しゃいん」のよ うに、「会社員」 とい う共通の語 を用 いて所属先 を表現 してい るにも関わ らず、「の」を使用 した り脱落 した りす る例 が観察 され ていた。これ らの例 か らは「の」が定着 していない様子 が うかが える。また、(6g)(6i)(6k)

(61)(6n)では 「*せんせ い (の)う ち、せ んせいの うち」や 「*き (の)うえ、きは うえ」

の よ うに、一旦 「の」を脱落す るものの、その直後 に 「の」「は」な どを用いて言い直す例 も見 られ、試行錯誤 しなが ら 「の」 を習得 してい る様子が うかがえる。

(6)「その他」の語彙 を修飾要素 とす る発話例

a。 わたしはインドじんです。1難攀華:灘攀鞭難檬:攀彗華:難難です。(4) R:Mさ んは静岡大学の学生です。 じゃ、S

M:囃響群壕轟難轟轟纂:壽難轟轟轟癬です。

R:ここはIh/1Cですね。じゃこの人は?

M:こ のひとは総攀:難::華攀紺難:難

'難

です。

さんは?

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参照

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