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ー金沢大学サテライ ト・プラザ ミニ講演 一 会場 :金沢大学サテライ ト・プラザ

日時 :平成 14 年 5 月 10 日 ( 金) 午後 6 時 〜 7 時 30 分

テ ーマ 「 がんの休 眠療法 ‑がん と長 く共存 して天寿 を全 うする‑」

講 師 高橋 豊 ( 金沢大学がん研究所助教 授)

1 .がん休眠療法 とは

今 日はがんの休眠療法 につ いてお話 し

しますが,休眠は睡眠 とは違 います。全

く眠って いるという意味ではな く,活動

を停止す るという意味です。最近では,

休眠 とい う言葉は,例えば 「 オウム真理

教が休眠中だ」 というよ うに使われ まし

た。オウム真理教の人は眠っているので

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ていなければ,無効 と判断されて しまいます。 ・しか し, この状況 を見て無効 と判断するの はおか しいのではないか というのが,私の休眠療法のスター トです。 一皆様 にはおそ らく有 効だ と思 っていただけると思 うのですが,医者 というのは長年,がんを小さく しな くては いけないと思 い込んでいましたので,なかなか これを有効 とは言えません。 この患者 さん の結果 も有効ではないか ということを,ぜひ皆様 に言いたいというのが,今 日の講演 の月 的です。

基本理念は, 「 がんは大 きくな らなければ人は死なない

というきわめて簡単な話です。

がん というのは,存在そのものが毒になるわけではあ りません。心筋梗塞な どは,病気が あるといつ死ぬかわか らない非常に怖い病気ですが,がんはそれがあるか らといってす ぐ 死ぬわけではないのです。例えば肝臓な らば,肝臓が機能を果たせない ぐらいにまでがん が大きくなった ときに初めて人は死ぬわけで, 1 セ ンチや 2 セ ンチでは何 の症状 もあ りま せんし,血液検査で も何の異常 もあ りません。

休眠療法の定義ですが, これまでは,・ がんが縮小 しなければその治療は効果がないとさ れてきました。 しか し,増殖の抑制,つま りどん どん大き くなるのを止めればいいのでは ないか,止めることか ら延命が得 られる,治療戦略だ と理解 していただければいいと思い ます。

増殖の抑制 とは何か ということですが, これは増殖 を止めることだけではな く, ‑腫癌が 小さぐなることや,増殖が遅 くなることも含めます。 このような違いは腫癌の種類 による もので,例えば飛んでいる飛行機が墜ちるのは,ミサイルで飛行機 を撃ち落 とす というこ ともあ りますが,それだけではな くて,燃料がな くなって止 まって しまうと飛行機は墜ち ます。それ と同じように,増殖が止 まる と死んで しまうがんもある。そ うす ると小さくな るということもあ ります。それはがんによって違いますが,増殖の抑制 とい' う意味では同 じだ ということです。

それよ りも,延命す るためには継続することが大事です。つ ま り,一時的に小さくなる ことよ りも,長期間増殖 を遅 くすることがよ り延命 につながるということが重要なポイ ン

トです。 ↓

2∴ がん患者の生存期間

我々は通常 1 セ ンチ ぐらいでがんを発

見 し, 1 0 セ ンチ ぐらいにな ります と,忠

者 さんが死んで しまいます。ですか ら,

自然経過の途中で多少小さくして もiま

た大きくな ります と戻 りますので,延命

期間は短い期間 しか卒 りません。しか し,

速度 を遅 くして長 く続かせると,生存期

間は長 くな ります。ですか ら,長 く続け

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ることが延命にいかに重要か ということがおわか りいただけると思 います。

本 日は,がん休眠療法 を説明す るにあた り,がん とは何か ,抗がん剤治療の問題点,休 眠療法の仕組み,そ して実際 という 4 点について説明させていただきます。

3. 人体が作 られる仕組み

がんを知 るためには,まず ,人体が どういうふ うにつ くられているか ということが重要 です。 1 個 の受精卵が 2 個 , 4 個 と倍 々に増加 し,それ とともに目,脳,骨な ど人間の体 の構成部分 に分化 しなが ら,約 6 0 兆個 になった ときに増殖が停止 します。 もしもこれが もっと手前で止まると,ネズ ミみたいな体 になって しまうか もしれ ません し, もっと増殖 が進めば,ウル トラマンのよ うに大き くなって しまうか もしれ ません。遺伝子が しっか り

しているか ら増殖が止 まって, しか も目や脳,骨な どいろいろな ものをつ くって 1 人の人 間ができるということです。 これが今,

何回 も言 いました遺伝子の働 きによるも のです。

遺伝子 とは何で しょうか。我々の 6 0 兆の細胞 は,すべて DNA を持っていま す。

この DNA というのは, ACGT とい

う4つの塩基 ( 記号). が約数十億個並ん

でいるものです。 これを少 しずつ分解 し

ていきます と,

(4)

4. がんの発生

遺伝子が異常 となるのは,例えば本当は CC だったものをAAにまちがえた りするとき です。 細胞が増えるときにコピーをミス した り, 発がん物質が邪魔 をしてAになって しまっ た り,あるいはウイルスな ど,発がんの原因となるものが変えて しまうということです。

少 し変わっただけや,正常な遺伝子ががん遺伝子 になって しまいます。 このがん遺伝子が 1 個ではがんになることはな く,数個 になるとがんが発生す るといわれています。

ですか ら,脅かすわけではあ りません が,皆様の体の中の何個かの細胞はすで に 2‑ 3個のがん遺伝子 を持っているか もしれない。 それが 4 個, 5 個 になると, ついにがんが発生すると考 え られていま す。

がん遺伝子が 5 個, 6 個 になってがん

化 した細胞は,先程の正常細胞 と同じよ

うに 2個,4個 と増えていきます。ただ,

これは増殖す

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出て くるのがおわか りいただけるのではな いか と思 います' 6・ とにかく ,がん とい うのは時 間をかけて大きくなった ものだ とい うことです。 ,

がんを消滅できるか とい うことですが,成功 したのは比較的早期のがんにおける手術 と 白血病な どごく一部 にお ける抗がん剤治療のみです。

がんを消滅できるか とい う質問は,テ ロを消滅できるか という質問 とよ く似ています。

テ ロ リス トと非テ ロリス トを区別す るのは難 しく,我 々が アラブ人 を見 ると皆オサマ ・ピ ン ・ラディン氏に見えて しまいます し,アメ リカで もそ ういうことが あった らしく,アラ ブ人がすべてテロリス トに見 られたよ うな こともあ りました。 もう 1 つ,テ ロリス トもは じめは普通 の人間であ り,テ ロリス トとして生まれ るわ けではあ りません。そ ういった意 味では, これ を選別す るのは本当に難 しく,不可能です。がんにも同 じよ うな ことが, 言え るのです。

例 えば,テ ロリス トが世界 に点在 しているとします と,これ をどうや って爆撃す るのか。

1 か所だけを攻撃 して もしょうが あ りません。がんで も同 じような ことが起 こって いて, 目に見 えないものが もっともっと点在 して いるか もしれ ませ. ん。すべてを攻撃す るのは無 理です。 しか し,無理だか ら何 もす るな というわ けではあ りません。

それな らば,テ ロリス トがテ ロを起 こさない,あるいは起 こせないようにすればいいの ではないか ということです。 どうした らいいか とい うと,資金源 を止 める,貧困が原 因と すれ ば貧困を救済す る,あるいは憎 しみが原 因とすれ ば,憎 しみ を和 らげるといった こと が考 え られ ます。 これが私 のがん休眠療法の発想 に直結す る話です。

金沢の人な ら皆 さん ご存 じだ と思 いますが,昨年,五木寛之 さんの,「 大河 の一滴 」 が映 画化 され ました。その本の中に以下の文章が書かれています。

がん というのは自己細胞 だ。叩きつぶす とか,焼 き殺すな どとい うことはずれて いる。

がんは悲鳴を上げなが ら暴走 して いる。 どん どん勝手 に増えていって, 自分のせ いではな いのだ と。止めて くれ と叫びなが ら突 っ走 っている。だか ら,必要なのは,細胞の暴走を 制御 し,コン トロール して減速 させ る ことだ。

ここに書 いてある言葉 は,まさに私が先程 「 増殖抑制」 ということで言 ったのと全 く同 じです。

5. 抗がん剤 とは

次 に抗がん剤治療の問題です。 どうして も抗がん剤 の治療が中心 になってきます ので, この辺 をぜひ知っていただきたい と思 います。

抗がん剤 には,まず,旧来 の抗がん剤 というものがあ ります。抗がん剤の歴史は短 く. , まだ 5 0 年ほ どです。この旧来 の抗がん剤 は増殖す る細胞 を殺す とい う作用ですが,今,が ん に特徴的な分子 を抑えるという, 新 しいタイ プの抗がん剤が次々に生まれつつt ・ あ ります。

今 日は この辺 を中心 にお話 ししたい と思 いますが, こういっ た ものが休眠療法 につながる

ということです。

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この旧来の抗がん剤 というのは,驚かれるか もしれ ませんが,実はがんを殺す薬ではあ りません。増殖する細胞 をすべて殺す薬です。ですか ら,抗増殖細胞剤 というべきか も・ し れ ません。

先程,人体は全部眠っていると言 いましたが,骨髄や消化管粘膜,髪の毛な ど,増殖 し ている細胞 もあ ります。こういった ものは 1 日に約 3 0 0 0 億個 ,かな り多 い数ですが,全体 か らいえば人体の 0 . 5 % が増殖 している ということです。 白血球や 胃粘膜 は次々 と生 まれ かわ らな くてはいけないのですが,そ ういった細胞 とがん細胞 を一緒 に殺 して しまうわ け です。それで,下痢,唱吐,あるいは白血球減少 といった ことが副作用 として どん どん出 て くるのです。

国立がんセ ンターの名誉総長である杉村先生は,だれ もが認める 日本のがん研究 の リー ダーです。 この先生か ら,今年 の正月 このような年賀状 をいただきました。そ の中で 「 抗 がん剤 というのは,主作用がいわゆる副作用 といわれて いる骨髄障害や消化管 出血,副作 用ががんの縮小である 」 という,非常 にうんち くのある奥の深 い言葉 をお っしゃっていま す。

確かに, どんな医者で も抗がん剤 を使 って副作用を出す のは簡単です。 しか し,がんの 縮小はだれ にで も出せるものではあ りません。そ ういう薬でがんを消そ うとす る こと自体 がかな り難 しいということがわかると思 います。

歴史 をお話 しします と, 1 9 世紀か ら 2 0 世紀の医学の発展は,梅毒や細菌を克服 しま し た。それな らばがんも消せるのではないか ということで,ナイ トロジェンマスター ドとい う毒ガスの一種 を使 った ところ,悪性 リンパ腫 という血液 のがんの一部が小さ くなる こと がわか りました。それが 1 9 5 0 年代です。

これがきっかけで抗がん剤 というものが どん どん出てきまして,白血病や華丸腰癌で治 癒が見 られ ました。さらに副作用 を軽減す る薬剤や骨髄移植な どによ り, どん どん投与量 を増加す ることができ, こ. れな らがんが克服できるのではないか という感 じで進んできた のです。

ところが,そ う甘 くはあ りませんで した。 1 9 8 0 年代 ぐらいか らは,批判的意見が続出 し ました。結果的にはほとん どのがんで大きな成果は得 られてお らず,わずかな ものだけで 効 いている。抗がん剤はいいのだ という宣伝 をしていますが,実はほとん どの ところでは

うまくいっていないというのが現状です。

目標は どうして も縮小です。「 縮小な くして延命な し」という言葉が,医学界 で も憲法の ようになっています。 これがあるかぎ り,抗がん剤の治療は壁 にぶちあたる ことにな りま す。

6. 現在の抗がん剤治療の問題点

抗がん剤の問題点を見 るために, どのように認可されて いるか ということをご紹介 しま

す。認可までには第 1 相試験か ら第 2 相試験,第 3 相試験が あ ります。 1 番 目は安全性試

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験 , 2 番 目が縮小を見る試験 , 3 番 目で生存期間を見 ます。そ こで初めて EBM, しっか りした医学的根拠のある治療 になるということです。

最初に安全性試験 ( 第 1相試験)ですが, ここで薬の量が決め られ ます。最初,例えば 3 人の人に 2 0 mg 投与 します。そ して,重篤な副作用がゼ ロで あれ ば,次 に 3 0 mg を 3 人に 投与 します。 このよ うにして 6 0 mg で初めて副作用が出た とす ると, もう一度 5 0 mg に戻 し て確認 します。そ して 6 人の副作用がゼ ロだったか ら 5 0 mg に決定 ということにな ります。

この過程で は全 く効果 につ いて触 れて いませんが ,効果 は関係 あ りませ ん。有効例 は 3 0 mg で 3 分の 1 , 5 0 mg , 6 0 mg で も 3 分の 1 です。普通の薬な ら,では 3 0 mg にしましょう という発想なのですが,抗がん剤だけは効果 には関係な しに, とにか く濃度 を高 くしたい というのが現在の決定の しかたです。

これは副作用 に縛 られた量で,決 して この 5 0 mg が いいとは限 りません。限 らない どころ か全然足 りないのです。実は 5 0 0 mg ぐらいまでいけば,がんは殺せ るのか もしません。た だ,人間 も死んで しまいます。結局はそ ういう薬なのです。それでいいわ けはないのです が,抗がん剤 による治療がそ ういう治療だ ということをまず理解 して いただきたい と思 い ます。

第 2 相試験で縮小を見 るのですが,縮小 というのは面積で半分以下 になるということで す。よくマスコミでは 「 抗がん剤が効 きました 」 という表現 にな りますが,それは面積で 半分以下 にな った ことを示 します。有効率が 2 0% ほ どで認可 され るのですが,これは 5 人 に 1 人が半分程度縮小す るということを示 しています。 これだけにす ぎません。 この半分 ということにどれ ほどの意味があるか を,後程説明いた します。

第 3 相試験では生存期間を見 るわ けですが,縮小率が高 いけれ ども延命 しないとい うこ とがよく出てきます。つ ま り,縮小 したか らといって延命 につながっていない。 これは非 常 に大きな問題です。

「 縮小な くして延命な し 」 という言葉があるように,我々医者 は縮小 を目指 しています。

もちろん延命が一番大事なのですが,延命 というのはす ぐにわか りませんので, どうして も縮小を目指す ことにな ります。 しか し,縮小が延命 にフなが らないとした ら,医者 は何 をしているのだ ということにな りますかち , これ は非常 に大 きな問題だ と思 います。 どう してか ということは今 までだれ も考 えていません。それが抗がん剤治療の問題点ではない か と,個人的には考 えています。その点については後程 ご説明いた します。

現在の抗がん剤治療の問題点を 3 つにまとめてみ ます と,① 「 効 いた 」 とい うのは,が んが半分 になった ことを意味 します。皆さんは半分 になった ことが いいと思われ るか どう かわか りませんが,例 えば手術で半分 にしたか らといって意味があるとは思えません。 こ の半分 というのが本当にいいのか ということです。

②それで も 「 効 いた」とい う症例 は 2 0 ‑3 0% にす ぎません。そ して,私 はそ の 2 0 ‑3 0%

の中に入 って ラッキーだった と思 って も,結局, 2‑ 3か月苦 しんで,③ 生存期間が 2‑

3 か月延長 したにす ぎないのです。

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それでいいのか,それで も抗がん剤治療を受けますか ということで,近藤誠先生か ら 「 が んと闘 うな 」 という話が出ました。マスコミの方 もほとん どその意見 に賛成 したわけです。

一方で抗がん剤の他の専門家は,今でもそ うですが, 「 奇跡を信 じ,苦 しみに耐えて,聞え 」 と言っています。私は これ を不毛な二者択一 と呼んでいます。 どうせ奇跡 を信 じる. な ら, 民間療法 に奇跡を信 じた方が患者 さんも楽ですか ら,民間療法 に逃げて しまいます。それ ∫ が現状です。

そ こで私は,抗がん剤をうまく使 ってがんと共存 ・和解す るという休眠療法 を,第 3 の 選択肢 として提案 したのです。

もう 1 つ, これまでの専門医の現況ですが,がん患者 さんには敷居が高い治療 にな って います。決め られた投与量があ り,もしその量が患者 さんに投与できないとします と,そ の患者 さんにはもう治療は しないということにな ります。つま り, 1 0 0 mg 投与す ると決まっ ていれば,とて も 1 0 0 mg はいけないか ら 5 0 mg にするという投与法は しません。それが現在 の専門医のや り方です。ですか ら,決め られた投与量を投与できない人は脱落 して しまい ます。そ して,投与ができて も,副作用が強い人も脱落 します。 さらに縮小 しない人 も脱 落 します。結局副作用がな く,効果がある人 しか残 りませんので,きわめて少数の患者 さ んにしか恩恵がない治療になって しまっているのです。

これ もかな り大きな問題だ と思 っています。抗がん剤治療 というのは, もっと広 く多 く の人に恩恵が出るような治療 にするべきではないか と。そ して,脱落 した方は 「 がん難民」

とな り,たくさんの方がさまよっていらっしゃるというのが現状です。

7. 抗がん剤による延命の仕組み

次 に,休眠療法の仕組み という話 に移 りたいと思 います。例えば,治療 によって,結果 的に腫癌の大きさがそれ棟ど変わ らないという場合,いろいろな ことが考え られ ます。ま ず,ぐん と小さくなって,また もとの大きさに戻った人。ある程度小さくなって,また戻 っ た人。それか ら,ほぼ変化な しできた人。いろいろあ ります。しか し,効果判定では,ず っ と腺癌の大きさに変化のない人は無効,いったん半分以下の大 きさになった人は有効 と判 断さ. れます。

皆様はどち らでもいいじゃないか と思われるのではないで しょうか。要するに, これは 薬か ら判定 した効果判定であ り,患者 さんの方か らいうとべつ にどち らで もいい。一度小 さくなって,期待を持たせて,結局 もとの大きさに戻るな ら,ず っと大きさが変わ らな く て もいいのではないか と。それは冗談ですが,患者 さんにとってはこれは関係ないはずで す。

もう 1 つ大きいのは,その先を考えたときにどち らがいいのか ということです。ず っと

大きさの変わ らなかった患者 さんはそのままいくのではないか,逆にいったん小さくなっ

てまたもとの大きさに戻った患者 さんは,そのまま大きくな り続 けるのではないか という

不安が残 ります。今 日はデータをお示 ししませんが,実際,私 は両者 を比較 して,ず っと

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変化のなか った方の生存期間が長 い ことを証明 しました。ですか ら,決 して これは悪 くな いと。本当にそ うなのか ということを示すために,今,臨床試験 を全国規模で行 っている ところです。

手術 と抗がん剤治療の違 いをお示 しします。薬で腫癌が半分にな ります と, これはよ く 効 いた と喜んでいるわけですが,では手術で半分取 って意味があるので しょうか。そんな

・ ことはだれ も思わないで しょうし,我々外科医も, もし手緬で全部取 らな くていいのな ら こんなに楽な ことはあ りません。半分取るだけな ら,すべての手術は 1 時間, 2 時間で終 わって しまいます。半分 にす るのは簡単なのです。

しか し,手術で残 った腫癌 というのは,す ぐに大 き くな って しまいます。 ところが,抗 がん剤の場合 には,す ぐに大 きくな らないで動きが止 まったような状況にな ります。 これ を私は休眠 という言葉 を使 って表現 しているのです。

これをもう少 し分解 します と,小さくなる時期

(A)

,増殖が止 まっている時期

(B

:休 眠),そ して もとの大きさに戻る時期 ( C) になるのですが,縮小のおかげで延命 した期間 というのはAとCを足 した もので,先程の手術 と同 じです。 Bは縮小 とは何 も関係な く, 増殖が止 まっている休眠 による延命です。つま り,抗がん剤 による延命 とい うのは,縮小 による延命 と休眠による延命の 2つか ら構成 されている。これが非常 に大きなポイ ン トで, 手術 と違 うところです。逆 に言います と,手術は縮小 しかな く,抗がん剤の休眠 というの は抗がん剤治療 に特徴的な延命期間なのです。 ここを大事 にしな くてはいけないのではな いか ということです。

実際にいろいろ検討 しています。まず, 縮小による延命は どれ ぐらいか というこ

とですが,縮小率 ( 面積)か ら見て有効 と判断されているものは,わずか 2 か月 しか延びません。長 さが半分,つ ま り面 積で 4 分の 1 になったもので も 1 0 5 日で す. 一確かに,結構小さくな ります とかな り延びてきます。なかなか縮小 した こと が延命につなが らなかったのは,縮小率

5 0% という不十分な ものを有効 と判断 したか らなのです。縮小率の低 いものを有効 と判断 すれば,かな り延命がなされ るわけです。

では,そ ういうものを有効 とすればいいではないか と思われるで しょうが,そ うします と効 く薬がな くなって しまいます。 こんな に小さくなる症例 はないのです。そ うす ると, 近藤先生がおっしゃる 「 がん と闘 うな」,抗がん剤無用論 と全 く同 じなのです。ですか ら, 縮小だけを考えるとこういう 矛盾がお こり,近藤先生のがん と闘 うな という話 に賛成する

しかな くなって しまうのです。

もう 1 う,では,私が大事だ と言 っている休眠 ( B) が,全体 ( A +B+C) のどれ ぐ

(10)

らいを占めているかということを計算 してみました ところ,平均 3 分の 2 なのです。小 さ くなった症例でさえも,延命の 3 分の 2 は休眠か ら得 られてお り,縮小か らの延命は 3 分 の 1しかあ りません。それな らば,休眠をもっと大事 にすべきではないか,休眠を延 ばす ことが最 も重要になって くるのではないかということがおわか りいただけると思 います。

先程,「 縮小な くして延命な し」と言いましたが,そのアンチテーゼのよ うな 「 S u r vi v a l wi t h o u tT u m o rS h r i n k a g e ( 縮小なき延命 )」 という英語の論文 を書き, これが 1 9 9 5 年 に,

「JNC I」 というアメ リカのがんセ ンターの雑誌 に載 りました。がんの専門誌 としては 世界でも一流で,そ こに出た ことによ り, この休眠療法が世界的に認め られました。

要するに, B が長 くて,AとC は短い。AとC が短い理 由は,それほど小さくな らない か らです。それな らば,縮小には こだわ らずにBを長 くす る という治療をすべきではない か と考えるに至ったわけです。

8. がん休眠療法 にはどのような ものがあるか ?

休眠療法の実際について次 にご紹介いた します。私が これ を考 え出した 1 0 年前には,そ の理論はわかるが,実際には難 しいだろうといわれていました。 しか し,最近,血管新生 抑制剤や増殖因子の抗体 といった新 しい抗がん剤が どん どん開発 され,休眠療法の現実化 が期待 されるようにな りました。 このような抗がん剤は,数年以内に使えるようになるの ではないか と予想 しています。その一部 として,乳がんではハ」セブチ ンという抗がん剤 がすでに使われるようになっています し, こういった新薬がす ぐに使えるようになって く ると思います。

将来的には, ーがんワクチ ンや遺伝子治療が進みます。遺伝子治療 というのは誤解が多い のですが,ウイルスの遺伝子操作で どん どん物質を作るよ うにす るということです。結局 のところ,なかなかがんを殺す ということにはつなが らないようで,増殖 を抑える治療 に なっていくのではないか と思います。

そ うは言いましても, これ をただ待 っているわけにはいきませんので,私は抗がん剤の 投与方法の変更を考えたわけです。そのほかには免疫療法やホルモン療法があ ります。ホ ルモン療法は一部の乳がんな どで しかないようです し,免疫療法 もそれほど強 くはないよ うですが,免疫 も重要なポイ ン トではあると思います。. 今 日は抗がん剤 と血管新生抑制剤 の話 を簡単にご紹介 します。

9.少量分割投与の仕組み

休眠療法では,抗がん剤 をどのように投与するかについて説明 します。

今の投与方法は,先程 も申しましたように,人が耐えう・ る最大量 を投与するものです。

これは決 して効 く量ではあ りません。例えば最大耐用量 といいまして も,効 く量の 1 0 分の

1 か もしれません。耐えうる最大量 というのは,個人によってかな り違います。そ して,

投与間隔というのは単 に副作用が回復するまでの時間です。・もちろん 目的はがんの縮小で

(11)

す。その結果 として,効果 は大 した ことがないのに副作用はひ どい,危険を及ぼす ことす らあるというのが現在の抗がん剤治療です。

これを簡単 にアルコールで例えます と,皆 さん もご存 じのように,飲める量は人によっ てかな り違 います。それは肝臓 にある酵素で規定 され,個人 によって 5‑ 1 0 倍違 います。

つ ま り,ビールが 1 本 しか飲めない人 もいれば, 1 0 本飲める人 もいるということです。

抗がん剤 も同様で,同 じよ うにや は り酵素で規定 されてお りまして, 5‑5 0 倍 も違いま す。 これ ほど違 うのに,同 じような量で治療 してい くことの方がかな り危険だ といわざる をえません。

要するに, 3‑ 6 人にお酒 を飲 ませて限界の量 を調べ,それでいいのだ ということで多 くの人に飲 ませる。その中にはどうして もお酒に弱い人が含 まれ ますので,多 くの急性ア ル コール中毒症の患者が出て しまいます。

例えば, 自分の息子 さんが二十歳 ぐらいになってお酒 を初めて飲む ときに, どういう飲 ませ方 をしますか。 どれだけ飲めるかわか らないというときには,や は り少 しずつ飲 ませ るのではないで, しょうか。 ところが,抗がん剤の治療は どん と飲 ませ るのです。それで急 性アルコール中毒のようになって も,お上が決めた量だか ら仕方がないという感 じです。

結局のところ,さじ加減が非常 に重要にな ります。 さじ加減が大事なのはわかるのです が,これは非科学的だと批判 され ます。つま り,ある人には 1 0 mg ,ある人には 1 0 0 mg 投与 しています と,何が効 いたかわか らず,データとしてなかなか出てきません。そ ういった 意味では非科学的 といわざる. をえないのですが,患者 さんの ことを考 えれば,さじ加減が 大事なのです。

ここで葛藤が起 こり,非科学的で もかまわないという方 もた くさんい らっしゃいます。

例 えば,マスコミを賑わわせている平岩先生な どというのは,まさにさじ加減の名手で有 名 になっているのですが, どうして も学会では非科学的だ と批判されて しまいます。

私 は大学 にいる人間ですか ら,なん とか これを科学的にしよ うといろいろ考 えてきまし た。それの一つが少量分割法 という方法です。

CPl1 ( 塩酸イ リノテカ ン) とい う抗がん剤は,通常, 2 40 mg を例えば月曜 日に投与 します と,次の次の週の月曜 日にまた 2 40 mg という治療法がな されています。 これ を一度 に投与す るのではな く, 6 回に分 けて投与する方法 を考えました。 これはどんなに分割 し て もいいというわけではないのですが, 効果があ りそ うな最低量が 4 0 mg といわれています ので,そ ういった ことか ら逆算 したのです。

一番わか りやす い例 えでいいます と,運動によるダイエ ッ トです。例えば, 2 週間に 1

回,日曜 日に 2 4 0 分

(4

時間)の運動 をするとします。ところが,4 時間も運動 します と,

疲れてダウンして しまって, 次のときにはできません。そ ういうことが抗がん剤でも起 こっ

ていまして, 1 回 目は投与 したけれ ども,副作用が強 くて,次 の投与ができなかった・ 。 も

うあとは しませんよと言われて,治療がなされない。今 日も私 のところに来た手紙でそ う

いうお話があ りましたが,そ ういうことは多いのです。本当に運動 と一緒です。

(12)

ところが, これを 4 0 分ずつ 6 回するのです。よく運動は 3 0 分以上 しな さいといわれ ま すが,月,火,水 と毎 日 4 0 分ずつ運動 して, 4 日休んで,また月,火,水 と運動す る。こ ういうことな ら,きっと多 くの人ができるのではないか と思 います。 これな らば続 きます か ら,効果が出て くるのではないか。そ ういうふ うに考えたわけです。

実際,抗がん剤 というのは,低濃度で もがん細胞の増殖 を止める効果がある ということ がわかっていました。 しか し,がん細胞 を殺す ことしか考えてお りませんので, これはい つの間にか忘れ られて しまったのです。

低用量 を少 しずつ投与 し,増殖 を止めるという作用を使えばいいのではないか,そ うい うアバウ トな感 じでいけば,本当に安全で,皆さんが続け られる治療 になるのではないか ということがいえます。

これを ま一つの症例ですが, 8 0 歳の方で, 5 セ ンチほどの胃がんの肝転移があ ります。普 通, 8 0 歳 にもな ります と抗がん剤治療はほとん ど行わないと思 いますが,私 は先程の治療 をやってみました。そ うした ところ,ず っと外来で治療を行 ってお り,ゆっくりゆっ くり 小さくなっていきました。血液検査で腫癌マーカーの値が下がっていますが,大きさはま だ小さくなっていません。普通, 2 か月たって も小さくなっていなければ,抗がん剤の評 価では無効 と判断され,それ以上は治療がなされません。大きさが変わ らない ことを有効 と判断 しているか らこそ続けているわけですが, その結果,ゆっくりゆっくり腫癌マーカー の値が下がって,正常値まで入 りました。

しか し,これだけ治療 して うまくいっていて も,やは りがんはなかなか消えません。 こ れはもうしかたがないといわざるをえません。 どうして も耐性な どいろいろ問題があ りま す し,全部消えるような もので もないのです。ただ,こういう状況が続けば,先程か ら言っ ていますように,患者さんは亡 くな らないのです。この人はず っと外来です し, 81 歳, 8 2 歳, 8 3 歳 とな りまして,今,これが 2 年半続いています。これはうまくいった症例だ と思 います。

小さくなった例 もあ ります。ひ どい肝転移 と肺転移があうたのですが,肺転移はほとん ど消え,肝転移 も同じです。 こういう症例 ももちろんあ ります。

この症例は, 1 0 セ ンチ, 8 セ ンチ, 5 センチの 3 つの大きな肝転移があ りまして, こ のまま放っておきます と,あと . 2‑ 3か

月で確実 に亡 くなると思われ ました。 し か し,今では休眠期間が 5 か月間ずっと 続いています。小さくなるというのが確 かに理想ではあ りますが,小さくなるこ

とを目指 した治療ではな くて, このまま で もいいと思って治療 していて結果的に は小さくなったのです。

私 どもの症例は,結果的に見れば小さ

(13)

くなっている ことか ら,お前 も結局小 さくなることを目指 しているのではないか と批判 さ れ ますが,そ うではあ りません。結果的に小さくなったのであって,決 しては じめか ら縮 小を目指 しているわけではあ りません。結果 として, しか も長い時間をか けて小さくなっ た という症例が多いのです。

この人は下行結腸の肝転移です。大腸がんがあって,肝転移が あるのですが,大腸がん を手術せず にこの治療を行 いました。普通,大腸がんは手術で取 って しまうのですが,そ うや って しまいます と,肝転移は どん どん大きくなって しまいますので,そ ういう治療は 私 はまちがっていると思 っています。 この方は大腸がんで亡 くなるのではな く,肝転移で 亡 くなる ことはまちがいあ りません。そ ういう点では,一番大事な ものを優先 して治療 し ていくというのも非常に重要なポイ ン トではないか と考えてや っています。

結果ですが,低用量法 と従来法 とでは,副作用に極端に差が出てきます。低用量法 とい うのは,量はかな りた くさんいっていますが,副作用は少ないのです。量が少ないか' らた くさんいけたのか,副作用が少ないか らた くさん量がいけたのか, どち らが先かわか りま せんが,いずれ にして も従来法では 6 5 % ,低用量法では 1 9 % と,かな り副作用が少ないこ

とがおわか りいただけると思います。

その結果 として,投与期間は約 4倍,投与量 も4‑ 5倍 という治療ができました。抗が ん剤治療 というのは手術 と違 って一発勝負ではな く, どれだけ継続できるか ということに かかっています。そ ういう意味では,副作用が出て しまっては継続できないわけです ので, 副作用がないか らこそ続 ける ことができた。 しか も,その効果判定 として,小 さくな らな くて もいいと思って,増殖が抑制できた ということで見たか ら長 く継続できた ということ です。

縮小 した症例 (PR) は,従来法で 3 0% なのに対 して低用量法では 5 0% 程度で,それほ ど目立つ差ではあ りませんが,全 く効かなかった症例 (PD) は,低用量法で 1 例,従来 法では 6 例 ということで,かな りの差が認め られました。

一番言 いたいのは休眠期 間で, 9 0 日よ り長 いもの と定義 します と,従来法ではわずか 1 7 .6 % ,低 用量法では 6 8 . 8% ということで,かな り長 い期間継続が得 られ ました。従来法 では有効な症例が約 3 0 % あったにもかかわ らず,休眠期間が 9 0 日以上の症例 はそれよ り も少な くなっています。 これは何 を示すか といいます と,一時的にしか小さくなっていな い。ですか ら,患者 さんを喜 ばせてお いて,結局す ぐに大 き くなって しまう症例が多 いと い うことです。低用量法では,有効な症例が 5 0% なのに対 して,休眠期間が 9 0 日以上の 症例は 7 0% と上がっている。ですか ら,NC ( 不変)の症例 の中にも休眠期間 9 0 日以上 に入 ってきているものがある, うまくいっているということです。それ に関連 して生存期 間も延びてお り,非常にいいかたちか と思 っています。

実際に,低用量法を行 った症例では,吐き気止めや骨髄 を刺激す る薬の使用量が減 って

お り,医療経済的にも決 してむだではないと思 っています。現在,スター トしたばか りで

はあ りますが, この比較試験 を東京 のがん研病院と一緒 に 日本全国で行っているところで

(14)

す。

欧米ではタキソール とかタキ ソテール という抗がん剤があ り, これが同 じよ うな結果 に なっています。発想は全然違 うd )ですが, 3 0 0 mg を 3 週間に 1 度投与 されて いた ものを, 1 0 0 mg 毎週投与 に変更 した という投与の しかたです。なぜ こんな ことを したか というと, アメリカのある先生が, 3 週間に 1 度では間隔が開きす ぎるのではないか と,毎週 した方 がいいのではないか と考えたか らだそ うです。そ うした ところ,副作用が激減 して効果が 高まった という報告が され, これは世界中に広 ま り,乳がんや卵巣がんでタキ ソールや タ キソテールを使 うときには, こういった方法がメジャー になってきています。

抗がん剤の少量分割投与 というのは,何 といって も継続が重要です。「 継続は力な り 」 と はよ くいった もので,やは り継続 というものが抗がん剤少量投与 にとっては重要だ とい う ことです。

先程,ダイエ ッ トの話 をしましたが,それ と同 じです。テ レビでは 1 週間で どれだけや せ られるか という番組があ り, 1 週間で 1 0 キ ロやせ る とか, 5 キ ロやせ るとか競争 して い ますが,ダイエ ッ トというのはいうまで もな く長丁場の話です。 1 週間で 1 0 キ ロやせ るよ りも 1 年間で 1 0 キ ロ,それが続 くことが大事で,結果的に成人病 を予防す るという発想で いかないと,がんの治療 もまちが った方向に行 くのではないか。そ ういうことで継続が重 要だ ということです。

10. 血管新生の調節の仕組み

次に,新 しい抗がん剤の一つである血管新生の抑制を紹介 します。がん細胞 もや は り栄 養 と酸素がないと生きていけません。血液があるところで しか生き られ ませんか ら,がん 細胞は血管の周 りで しか増えて いくことはできないのです。 ところが,血管が増えて いき ます と,がん細胞が どん どん増えていきます。逆 に言 えば,がん細胞が増えるためには, 血管が どん どんできなければいけないというこ と です。

これは道 と考 えていただければいいと 思 います。道がないと家が建て られ ませ ん。道が どん どんつ くられてきた ことに よって,家が建て られ,町が発展す るわ けです。そ うします と,入 って くる物流 も多 くな りますので,道 ( 血管)が太 く なる。あるいは, どん どん入 って くるも のが多 くなる。そ して,がん細胞が増え ていくのです。まちづ くりにはまず道づ

くりが大事だ

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す。

鶏卵の紫尿膜で も, どん どん血管が集 ま り,その血管 も太 くな ります。 こういった もの が血管新生です。

がん細胞 というのは, 血管な しでは中心部 に栄養が行 きませんので, 死んで しまいます。

これはがん細胞を球状 に培養するテクニ ックで実験 した ものですが, 培養液が周 りにあ り, がん細胞はマ リモのようにな ります。そ うすると,周 りの細胞 しか生きていません。中身 は全部死んでいます。中の細胞が生きていくためには,栄養 を送る血管が必要で血管新生 が いかに大事か ということにな ります。要するに,血管新生 を止めればがんを殺せ るので はないか ということを考えるに至 る研究結果です。

血管新生では,がん細胞が血管新生因子 を産生 し, これが血管内皮細胞 という血管 をつ くる細胞 に行 き,血管内皮細胞が増えます。血管が どん どん増えて,またがん細胞が増え る。その繰 り返 しです。わか りやす く言えば,がん細胞が雄 しべで,花粉 を飛ばして雌 し べにつながっている。 こういったものが血管新生です。

私 は大腸がんの血管新生の調節機構 をアメリカの方で研究 してきたのですが ,VGEF

物質が産生され,それが レセプター と結びついてがん細胞 の転移や増殖 を高めます。そ う であれば, vGEF をブロックす るか, レセプター をブロックすれば,がん細胞は増殖で きないのではないか ということが簡単 に予測できる と思います。つま り,花粉 をブロック するか,花粉が雌 しべ にくっつ くところをブロックすれば,実ができないという話です。

実際に, この治療が現在 アメリカではなされてお りまして,次 にその結果 を紹介 いた し ます。

まず,花粉 をブロックす る VGEF の抗体ですが,抗がん剤のみの場合 とこの抗体 を併 用 した場合の縮小率 を比べ ると,抗がん剤のみでは 1 7% ,併用すると 4 0 % に増えるという いい結果が出ています。休眠期間も, 5 . 4 か月か ら9 か月に増えています。

アメリカでは, これまでは縮小率だけだったのですが, こういった薬では休眠期間 (こ れは私が勝手 に言っている言葉ですが,同じような発想で使 っています) も実際に 2大評 価項 目として使われは じめていました。なぜ こういうものが使われたか というと,血管新 生 というのは増殖するために必要な もので,血管新生を止めたか らといってがんが死ぬわ けではあ りません。今,血管があって,そ こに栄養が行 くわけですか ら,今あるものが死 ぬわ けではあ りません。 これか らできるものをブロックす るという治療ですか ら,縮小で は評価できないのではないか と考 えて,増殖が止 まる休眠期間を評価 しようということに なったのです。

結果的には縮小もかな りうまくいったので, この薬 に関 しては うまくいった ということ です。 これが どん どん進んで,うまくいけば大腸がんでは こういう薬が実現す る可能性が 高いと思います。

もう 1 つは レセプタ一括抗剤で,花粉が雌 しべに くっつ くのをブロックする薬です。 こ

の薬はまさに私の理論 にぴ った りと合 う薬で,併用 して も,抗がん剤のみで も,縮小率は

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変わ りません。 ところが生存期間は,併用 した らかな り延びています。

なぜか ということをいろいろ検討 した結果,縮小 したもの と長い休眠期間の症例を合わ せ ます と,かな り差が出て くるということがわかったのです。つまり,縮小 しな くて も休 眠期間が長 い症例はちゃん と生存期間が延びるということを, この抗がん剤で も証明でき たということです。まさに,こういった ことが どん どん出て くるのではないか と思 います。

つま り, 2 1 世紀の抗がん剤 というのは,がんのみを標的 とした治療で,副作用は少ない のです。私の出していただいたNHK 「 ためしてガッテ ン 」 の ときに,山瀬 まみさんが,

「 副作用がないな らば, どん どん使 って全部消せばいいじゃないか

という質問をされ ま した。そのとき,司会の志の輔 さんは 「 あとか ら答えます

と言 いなが ら,結局答えなかっ たのですが,これはどういうことか というと,た くさん使 うのではな くて,長 く使 ってず っ とがんを抑えていくということなのです。ですか ら,̀ ず っと眠 らせることができる可能性 が高いという治療です。

がんを殺す という発想ではな く,ずっと眠 らせるということが, 2 1 世紀の抗がん剤の特 徴です。逆に言います と,がんのみを標的とした薬で こういう効果が出るということは,

これが本当のがんの治療ではないか ということを,最近,私は逆 に学んでいます。

それな らば,今までの 2 0 世紀の抗がん剤 もこれを見習えばいいのではないか。そ ういう 発想で抗がん剤治療をするべきだと思っています。

先程か らも言っている話ですが,抗がん剤 というのは,量が少なければ細胞の増殖 を止 め,多ければ細胞を殺 します。アルコールで も,ほろ酔 いか ら泥酔,急性膳炎 となってい くわけですが,ほろ酔い加減は健康 によ く,がんの発生率が低 いともいわれています。ア ルコールでほろ酔い加減がいいということは,抗がん剤 もその程度の量で使 うのが本当は よかったのではないか。このように考えます と, 決 して抗がん剤は怖い薬ではあ りません。

抗がん剤が怖いのは量が多いか らであって, 1 0 0 m g は怖いけれ ども 1 0 m g は怖 くないという 発想で見ていただければ,それほど怖いものでもないということがおわか りいただけると 思います。

もう 1 つ, これはアメリカで違 う角度か ら,抗がん剤 を少 しずつ投与すれば血管新生が 抑え られるという,まさに今私がお話 しした 2 つが結びついたような説を,血管新生を初 めて発見 した F o l k m a n という世界的に有名な先生が出されました。

これは,がんをターゲ ッ トにしているのではな くて,血管新生を抑えたのだ ということ を実験的に証明 してお り,血管新生を抑えるスケジュールなのだ ということで大変話題 に なっている,アメリカのデータです。

私は血管新生 と低用量抗がん剤 を休眠療法で結びつけた ということで,先生にアメリカ に招待 していただきました。

「 F o l k m a n ' sW a r 」 という本には ,F o l k m a n 先生ががん と闘っている,がんだけではな く 当局 とも闘っているということが詳 しく載っています。

ここまで休眠療法を説明 してきましたが,決 して抗がん剤だけの話ではあ りません。が

(17)

ん治療全体が変革するとい うことを私は考 えています。がんの治療は, .大き く分 けて手術 と抗がん剤があ りますが,手術 というのは局所,抗がん剤は全身です。 この 2つのバ ラン スが重要なのです。ですか ら,比較的早期は手術が主 になるで しょうし,高度 に進行 した がんは抗がん剤が主にな ります。

現在の治療戦略でいいます と,まさに消滅 を目指 してお り,そ うす ると,手術 も抗がん 剤 も大きくな ります。 このいい例が,人気アナウンサーであった逸見政孝 さんです。最初 に大きい手術 をした ときには,手術 の神様 といわれた主治医の羽生教授が週刊誌で持ち上 げ られたのですが,抗がん剤 を使 って患者 さんが逆 に早 く亡 くなって しまいます と,今度 は治療がまちがっていたのではないか と報道 されました。

しか し,がんの消滅を 目指す という発想か らいいます と, これは正 しいのです。 これを 中途半端 にした ら消滅は 目指せ ません。つま りこの戦略はまちがって いないが,がんの消 滅 を目指す という戦略がまちがっているのだ と思 います。

休眠療法 を目指 します と,手術 も抗がん剤 もや さしくな ります。つま り,よ りや さしい 治療でよ り長 い延命が得 られ るのではないか。信 じられな いか もしれ ませんが, これ まで 戦略 をまちがっていたか らこそ,これが可能なのです。要す るに,がん と共存 を目指せば, 延命期間も長 くなるということです。

私はすべて休眠療法をすればい いと言 っているわけではあ りません。肺小細胞がん,華 丸腫癌,あるいは白血病な ど,結構抗がん剤の効果が期待 されるものは,抗がん剤 をた く さん使って一生懸命治療す るべきだ と思 います。 しか し,ほ とん どのがんでは難 しいので す。乳がんで,骨髄移植な どいろいろ含めて,通常の 2倍か ら3倍の量を使 うという試験 が世界的になされたのですが,世界 中で これは否定 されま した。効果が少 しは期待 される 乳がんで も否定されたわ けですか ら,効果がほとん ど期待 されないがんでは困難 と言わざ るを得ません。

こういったものは,先の血管新生な ど 21 世紀の抗がん剤 と現在の抗がん剤 を併用する。

同 じ発想で これを組み合わせなが ら休眠療法にもっていくのがいいのではないか と思 いま す。実際,アメリカではすでにこういう臨床試験がなされています。

ただ, これはがんを消滅す るという発想ではな くて,がん と長 く共存 していくというも

のです。人間には寿命があるわけですか ら,それ と共存 して寿命が勝てば,つま りがんで

死ななければ, これはがんに勝 った といえるわけです。それ を目指せばがんの克服 もでき

るのではないか と思います。 まちが った方向に行 くと,一生苦 しみなが ら,イス ラエル と

パ レスチナのように苦 しい争 いを しなが ら競っていかなけれ ばいけないのではないで しょ

うか。つま り,共存 といいま して も,共存する相手はお互 いに憎 しみのある相手ですか ら,

非常 に難 しいことはまちが いあ りません。私たちにとって も,がんというのは憎 しみある

敵です。イス ラエル にとってパ レスチナは嫌で しょうし,パ レスチナ もイス ラエルの こと

が嫌で しょうが,共存 して いかな けれ ば未来 はな いと考 えて い くべ きではないか と私 は

思 っています。

(18)

l l.がんの「生における点 と繰

最後 に,がん治療の点 と線 という話ですが,少 し角度 を変えてみます と,がんの一生に は,発生 して,発見されて,再発 して死亡するという4 つの点があるわ けです。 この間を 潜伏期,転移期,共存期 と名づけたのですが,現在の治療は この点を消そ うという治療で す。

確かに手術は成功 しました, しか し, 抗がん剤はうまくいっていません。です か ら,私が言っているのは, この線 を延 ばせばいいのではないか という発想です。

がんが再発 したか らといってす ぐ死ぬわ けではな く,少な くとも半年間 ぐらいは あるわけです。半年 もあるのに,最初の 1 か月でなんとか しようという発想はな

くて,その半年を使って, 1 年, 2 年 と延 ばしていくような治療

ができるのではないか と 思 うのです。

がんの予防も,発生 という点を消す のではな くて, 4 0 才でがんになるのは困る

か ら潜伏 期 を長 くして,発現を 6 0 , 7 0 , 8 0 才 と延 ばしていく。これがが

んの予防だ という発想 をし

ていけば,よ りや さしく,それほど苦 しみのない治療になって

(19)

今 日ご説明させていただきま したが,当 然行きつ く治療になるのではないか とい うことがおわか りいただけたのではない か と思います。

さ らに,抗がん剤治療だけではな くて, 手術 にも大きな変革をもた らします。

これが皆様の幸福 につなが ると私 は固 く信 じ,今 日の講演 を終わ らせていただ きます。 どうもあ りが とうございました。

質疑応答

( フロア 1) 1 2 年度にがんの開放講座があ り,その ときにもいろいろ質問があ りました し,医科歯科大学の先生が予防医学 ということで説明され ました。私が,先程言われた近 藤誠さんのお話を少 しすると先生のお名前が出て,休眠 という言葉が出たのです。そ

のと

きはそ

(20)

( 高橋) 効かないというのは,小さくな らないと. いう意味なのです。

(フロア 1 ) もう 1 つは,昭和医科大学の ドクターで,脳外科の名医で,慶鷹大学 にい らっしゃる方の徹底的に腫癌 を切る,切って,切って,切 りまくるという本が 2年前にベ ス トセ ラーになっています。その方は今 ご存命か といった ら,おそ らくお亡 くな りになっ たと。

そ して話が飛んですみませんが,昭和 3 0 年代, 私たちが就職 した ときには,国民セ ンター の *ささきゆうぞ う*先生は,塩分が非常に悪いのだ と。そ ういう本を私は今で も持 って いるのです。それがずっと,がん研 のセ ンター長は,すべてがんで死んでいる感 じです。

ああいう姿 を見ると,やは り時代時代においてがんの定義が違 って くるし,そ ういうこと を考えると,私は先生のお考えは非常 にユニークだ と思 います。素人か ら見れば。しか し, やは り苦 しまなければな らないわけで しょう。共存はできないですよ。

( 高橋) ですか ら,抗がん剤 を苦 しいほど使 うのではな くて,抑えていくような治療 を するのです。 1 年で再発するような ものを, 2 年, 3 年, 5 年 と延ばしていくわけです。

人間の寿命が 1 5 0 ぐらいまで延びます と,おそ らく全員がんで死にます。がん というの は,もしか した ら人間があま り長生きしないようにす る病気か もしれません。そ ういう病 気なのです。そ ういうふ うに考えなければ,がんという病気は克服できないと思います。

( フロア 1 ) もう 1 つついでに,簡単に。丸山ワクチ ンというものは, 3 0 万人の人間が 受けているのです。石川県で も,丸山ワクチンを打ってあげるという ドクターはた くさん います。丸山ワクチ ンは 3 0 万人の実績があって,そ して 3 万人の結果があるけれ ども,あ れは全然効果がない。 こういう考 え方で しょう。だか ら,医学界の中でもいろいろ意見 を 戦わせるのは当然で しょう。当然で しょうが, 先程言われたように民間療法 もあるのです。

ですか ら,そ ういう方法でも,少 しで も長生きできれば,苦 しみが少ないという生き方 の 共存になるのは私は理解できるのです。

( 高橋) アガ リクスな どの民間療法を信 じる人 もい らっしゃいます し,あるいは宗教 を 信 じる人 もいます。私は西洋医学,現代医学の立場か ら,抗がん剤をうまく使 うともっと いい話ができますよということを言っているのです。それで も, 嫌だ という方はい らっしゃ います。そ こまで私は強要 しません。

( フロア 1) 強要ではな くて,もしも先生のおっしゃることで長 く生きられたのな らば, これはノーベル賞ものですよ。

( 高橋) それほど大 した ことはないのですが。

(21)

( フロア 2) 非常にわか りやす い ご説明で,大変よ く理解 できました。個人的な質問に なって申し訳ないのですが,実は私 の身近で,実際に 3 週間に 1 回病院に行 って,抗がん 剤 を打っている人がいます。その人は髪の毛が全部抜 けて,眉毛 も抜 けて,白血球がな く なって しまいました。非常 に切迫 した状況だ と思 っています。

先程か ら出ています 『 患者よ,がんと闘 うな』という本 を呼んで,絶望的になったので すが,今 日のお話 を聞いて,ある意味光 を兄 いだ したような気が します。実際, この治療 法を全国 どこでで も受けることはできるので しょうか。

( 高橋) その先生が同 じよ うな発想をして くだされば簡単です。副作用 も出ません し, 安全ですので,従来の投与法よ りも簡単なのです。

( フロア 2) 先生のところに押 し掛けるのがいいか と思 うのですが,現在,千葉 に住ん でいますので,もしお差 し支えな ければ,そ ういうことをや って いる病院を紹介 して いた だきたいのですが。

( 高橋) そ ういう質問がよ くあるのですが,私 にしか出来ない治療では有 りません し, 誰 にでもできる治療です。それが医療だと思っています。

( フロア 3) 私 も手術 を受けたのですが,現在再発 してお ります。で も, とて も元気で す。まさに休眠療法 に近い状況にいるのだ と思います。

私が 5 年前に抗がん剤の投与を受 けた ときには,非常 に大量に使 ったものですか ら, 1 回 目のときに,それ こそ毛がな くな りました。 どん どん無 くなる,爪 も変形すると言 った 具合 に副作用が強い。けれ ども, 体 力のある人にもない人にも同 じ量 を使って いる ことに, 当時,私 は大きな疑問を持 っていたのです。今 日のお話を聞いて,希望 を持 ったというか, 裏付けが取れたのではないか という気が します。

もう 1 つ,金大で,どこの科 もそのよ うなかたちで対応 してい らっ しゃるのかそのあた りをお聞き したいのですが。

( 高橋) それを聞かれると非常 に答えにくいのです。

( フロア 3) 今 は,患者がお医者 さんのや り方 に対 して, 自分 は こうしたいと言 う時代 にな って きている と思 うのですが,先生がお っしゃるよ うなかたちの治療 を受けた いと 言った場匹璽 ロケ どうなので しょうか。

( 高橋) 何でも言 って くださいと言 うのではないで しょうか。それでいいと思います。

現在は患者 さんの選択の時代ですか ら,遠慮な くおっしゃればいいと思います。

(22)

( フロア 3) そのときに嫌な顔をして ・・・。

( 高橋) もうそんな ことは許 されない時代ですか ら,大丈夫です。 ‑医者 もいぼってい ら れる時代ではあ りません。

(フロア 3) 気の強い人間だけがそ ういうことができる。現実にそ うだ と思 うのです。

ですか ら,そ ういうことをみんなが言えるような状況 を作ってほしいと思 うのです。

( 高橋) もう大丈夫です。そ うなっています。

(フロア 4) 私の姉 も去年の 1 1 月に大腸がんの手術 をしましたが,まだ 4か月 しかたっ ていないのに肝臓 と肺の方 に転移 した ということで, 5月 2日に再入院 しまして, 7日か ら抗がん剤の治療が始 ま りました。本人がやは り怖がっているので,今 日,先生のお話 を 聞きに来たのです。

始 まったその治療のや り方は, 5‑FU とアイソボ リンを 1 週間に 1 回,それ を 6 サイ クルで 1 クールです。それを何回するかは検査 しなが ら決めると言われています。休眠療 法にあたるのかなとかすかな希望 を持っているのですが,違いますか。

( 高橋) 近いと思いますが,重要なのはその治療をどう評価す るかです。つま り,小さ くな らなければもうだめだ と判断するか,大きさが変化 しないということは効 いているの だと思ってそれを継続するか どうかです。

今の 5‑FU の抗がん剤が効 いても効かな くて も,また薬 を変えていくというふ うに, あき らめないで どんどん続 けていくことが重要なのです。例 えば,糖尿病だ とイ ンシュ リ ンでずっといけばいいわけですが,がんはそ ういうわけにはいかな くて,やは り薬はず っ と効 くわけではあ りません。

何がいいのか という問題ではな くて,いいものをいつ も用意 しておいて,● 次々と使 って

い く。 1 つの薬で半年, 1 年。それで 5 つあれば 5 年 といった発想でいくべきではないか

と思 います。今の治療はまちがってはいませんので,受けてかまわないと思います。

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