九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
港湾施設に適用した電気防食システムの維持管理に 関する研究
小林, 浩之
https://doi.org/10.15017/1441181
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
港湾施設に適用した電気防食システムの 維持管理に関する研究
2013 年 8 月
九州大学大学院工学府建設システム工学専攻
小林浩之
港湾施設に適用した電気防食システムの維持管理に関する研究
目 次
第 1 章 序論 ... 1
1.1 研究の背景と目的 ... 1
1.2 論文の構成 ... 4
1.3 参考文献 ... 6
第 2 章 既往の研究 ... 7
2.1 序 ... 7
2.2 港湾鋼構造物の腐食と電気防食メカニズム ... 7
2.2.1 金属の腐食現象 ... 7
2.2.2 港湾鋼構造物の腐食 ... 10
2.2.3 港湾鋼構造物における電気防食メカニズム ... 11
2.3 港湾鋼構造物の電気防食特性 ... 17
2.4 流電陽極法の維持管理方法... 19
2.5 流電陽極法の更新設計 ... 23
2.6 港湾コンクリート構造物の塩害劣化と電気防食メカニズム ... 25
2.6.1 港湾コンクリート構造物の劣化 ... 25
2.6.2 塩化物イオンによるコンクリート中鉄筋の腐食反応 ... 27
2.6.3 コンクリート構造物における電気防食基準 ... 29
2.7 電気防食適用によるコンクリート中鉄筋の腐食反応 ... 32
2.8 港湾コンクリート構造物における電気防食基準 ... 36
2.9 第 2 章のまとめ ... 38
2.10 参考文献 ... 38
第 3 章 港湾鋼構造物に適用した電気防食システムの維持管理 ... 41
3.1 序 ... 41
3.2 流電陽極法を適用した港湾鋼構造物の維持管理 ... 42
3.2.1 はじめに ... 42
3.2.2 試験方法 ... 42
(1)大井埠頭新 5 バースにおける電気防食試験の詳細 ... 42
(2)アルミプローブを用いたアノード電流の推定手法 ... 46
3.2.3 試験結果および考察 ... 50
(1)大井埠頭新 5 バースの電気防食特性 ... 50
1)アノード電流の経時変化 ... 50
2)カソード電位の経時変化 ... 53
3)潮位とカソード電位,アノード電流の関係 ... 53
4)アノード電流とカソード電位の関係 ... 57
(2)カソード電位とEc-Ia線による陽極消耗量の推定 ... 64
(3)陽極消耗量推定方法の提案 ... 68
1)アルミプローブを用いたアノード電流の推定手法の検討試験 ... 69
2)カソード電位計測による陽極消耗量の推定手法の提案 ... 73
3.2.4 まとめ ... 77
3.2.5 参考文献 ... 78
3.3 流電陽極法を適用した港湾鋼構造物の更新設計 ... 79
3.3.1 はじめに ... 79
3.3.2 現状の陽極更新設計 ... 79
3.3.3 提案する更新設計法の考え方 ... 81
3.3.4 試験方法 ... 84
(1)実験室試験 ... 84
(2)実構造物による新設計法の検証試験 ... 91
3.3.5 試験結果および考察 ... 88
(1)実験室試験 ... 88
(2)実構造物による新設計法の検証試験 ... 91
3.3.6 まとめ ... 92
3.3.7 参考文献 ... 93
3.4 第 3 章のまとめ ... 94
第 4 章 港湾コンクリート構造物に適用した電気防食システムの維持管理... 95
4.1 序 ... 95
4.2 鉄筋表面の環境改善効果を考慮したコンクリート中鉄筋の電気防食設計 ... 96
4.2.1 はじめに ... 96
4.2.2 新設計法の考え方 ... 96
4.2.3 解析および試験方法 ... 97
(1)解析方法 ... 97
1)Cl-濃度の経時変化 ... 97
2)pH 経時変化 ... 98
(2)rcrit値の評価試験 ... 99
(3)新設計法の検証試験 ... 101
4.2.4 試験結果および考察 ... 103
(1)カソード電流によるコンクリート中の Cl-濃度経時変化 ... 103
(2)カソード電流によるコンクリート中の pH 経時変化 ... 106
(3)rcrit値の検討結果 ... 108
(4)鉄筋表面の環境改善を考慮した新設計法の検討 ... 110
(5)新設計法の検証試験 ... 112
4.2.5 まとめ ... 115
4.2.6 参考文献 ... 116
4.3 湿潤環境下における電気防食基準 ... 117
4.3.1 はじめに ... 117
4.3.2 試験方法 ... 118
(1)アルカリ環境下における鋼材のER ... 118
(2)コンクリート試験体の詳細 ... 119
(3)電気防食試験 ... 121
4.3.3 試験結果および考察 ... 124
(1)アルカリ環境下における鋼材のER ... 124
(2)飛沫・湿潤環境下におけるコンクリート中鉄筋の電気防食特性 ... 126
1)飛沫環境下の電気防食特性 ... 126
① 維持電流密度の経時変化 ... 126
② 通電オフ 24 時間後のカソード復極量の経時変化 ... 128
③ 通電オフ 24 時間後の鉄筋の自然電位の経時変化 ... 130
④ カソード復極量と腐食速度の関係 ... 131
2)湿潤環境下の電気防食特性 ... 132
① 維持電流密度の経時変化 ... 132
② 通電オフ 24 時間後のカソード復極量の経時変化 ... 133
③ 通電オフ 24 時間後の鉄筋の自然電位の経時変化 ... 135
④ カソード復極量と腐食速度の関係 ... 136
3)環境に適した電気防食評価基準の使い分け ... 137
4.3.4 まとめ ... 139
4.3.5 参考文献 ... 140
4.4 第 4 章のまとめ... 142
第 5 章 結論 ... 143
1
第 1 章 序 論
1.1 研 究 の 背 景 と 目 的
資 源 が 乏 し く 対 外 依 存 度 の 高 い 日 本 に と っ て , 輸 出 入 物 資 の99.7% を 扱 う 港 湾 は , 国 際 貿 易 の 玄 関 と し て , 国 民 生 活 や 経 済 活 動 を 支 え る た め に 必 要 不 可 欠 な 社 会 資 本 で あ る 1 ). 港 湾 は , 岸 壁 , 防 波 堤 , 航 路 , 臨 港 道 路 と い っ た 多 様 な 施 設 が 一 体 的 に 機 能 し て お り , こ う し た 施 設 は1970年 代 を ピ ー ク に 整 備 さ れ , 現 在 ま で に30年 余 り が 経 過 し て い る . 図-1.1 に 示 す よ う に 港 湾 の 基 幹 的 役 割 を 果 た す 岸 壁 で は , 建 設 後50年 以 上 経 過 す る 施 設 の 割 合 が 2006年 に は5% と な っ て い る が ,20年 後 に は42% に 急 増 す る な ど 急 速 に 老 朽 化 が 進 み ,物 流 ネ ッ ト ワ ー ク を 支 え る 港 湾 機 能 の 低 下 と そ れ に 対 応 す る た め の 改 良 ・ 更 新 コ ス ト の 増 大 が 懸 念 さ れ る .
図 -1.1 岸 壁 の 整 備 時 期 と 老 朽 化 の 進 展2 )
2
港 湾 施 設 は 海 洋 に 面 す る た め , 鋼 製 部 材 や 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 部 材 は 腐 食 に 対 し て 極 め て 厳 し い 環 境 下 に 置 か れ て い る . 特 に 岸 壁 に お い て は , エ プ ロ ン の 変 形 , ひ び 割 れ , 崩 落 や 鋼 管 杭 の 破 断 等 が 生 じ た 事 例 が 数 多 く 報 告 さ れ て い る ( 写 真-1.1) . こ の 原 因 の 多 く は , 飛 沫 ・ 干 満 帯 や 海 中 部 の 鋼 材 腐 食 , 内 部 鉄 筋 の 腐 食 を 起 因 と す る コ ン ク リ ー ト 劣 化 に よ る 強 度 低 下 , 破 損 で あ り , 構 造 物 の 劣 化 ・ 損 傷 に よ る 港 湾 施 設 の 機 能 低 下 が 顕 在 化 し て き て い る .
( a) 港 湾 鋼 構 造 物 ( b) 港 湾 コ ン ク リ ー ト 構 造 物
写 真 -1.1 港 湾 施 設 の 腐 食 劣 化 事 例
こ の よ う な 港 湾 施 設 の 腐 食 劣 化 に 対 し , 電 気 防 食 ( カ ソ ー ド 防 食 ) は 極 め て 有 効 な 防 食 方 法 で あ る . 日 本 国 内 の 港 湾 施 設 に 対 し , 初 め て 電 気 防 食 が 適 用 さ れ た の は ,1953年 の 尼 崎 港 防 潮 堤 の 水 門 扉 で あ る .当 時 は 外 部 電 源 方 式 と 流 電 陽 極 方 式( マ グ ネ シ ウ ム 合 金 陽 極 ) と の 併 用 で あ っ た が , ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 陽 極 の 開 発 を 機 に 流 電 陽 極 方 式 が 急 速 に 普 及 し て い っ た .1976年 に は 運 輸 省 ( 現 国 土 交 通 省 ) に お い て , 新 設 の 港 湾 鋼 構 造 物 に 対 す る 電 気 防 食 の 適 用 が 設 計 基 準 に 明 記 さ れ , 現 在 で は 鋼 矢 板 や 鋼 管 杭 な ど の 海 中 部 に お け る 防 食 法 の 主 流 と な っ て い る3 ). ま た , 塩 害 が 社 会 問 題 と な っ た1980年 代 半 ば に は , 港 湾 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に 対 し て も 電 気 防 食 が 適 用 さ れ る よ う に な っ た4 ).電 気 防 食 は , コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 塩 害 対 策 に 最 も 有 効 な 手 法 と し て 米 国 だ け で な く 日 本 国 内 で も 認 知 さ れ て お り , 適
( 平 均 干 潮 面 直 下 で 生 じ る 集 中 腐 食 .腐 食 孔 が 鋼 管 杭 の 内 面 ま で 達 し て お り ,座 屈 す る 危 険 性 が 高 い .)
( 桟 橋 内 面 の 床 版 部 の か ぶ り コ ン ク リ ー ト が 剥 落 し て い る .塩 分 浸 透 に よ る 内 部 鉄 筋 の 腐 食 が 原 因 .)
3
用 実 績 も1994年 に は56,000m2で あ っ た の が5),2008年 に は 約3倍 の178,000m2ま で 拡 が っ て い る6).
厳 し い 財 政 状 況 の 中 , 限 ら れ た 予 算 で 成 長 力 の 強 化 と 安 全 ・ 安 心 で 質 の 高 い 国 民 生 活 の 構 築 を 実 現 し て い く た め に は , 今 ま で に 蓄 積 さ れ た 膨 大 な 港 湾 ス ト ッ ク を 徹 底 的 に 活 用 し て い く こ と が 重 要 で あ り , 今 後 の 港 湾 施 設 の 老 朽 化 の 進 展 , 維 持 ・ 修 繕 ・ 更 新 費 の 増 大 に 備 え , ラ イ フ サ イ ク ル コ ス ト の 低 減 や 更 新 需 要 の 平 準 化 を 図 る と と も に , 港 湾 施 設 の 安 全 性 の 確 保 の た め , 構 造 物 の 劣 化 ・ 損 傷 に よ る 性 能 の 低 下 を 事 前 に 防 止 し , 戦 略 的 に 維 持 管 理 を 行 う こ と が 求 め ら れ て い る .
こ の よ う な 背 景 か ら , 港 湾 施 設 の 計 画 的 か つ 適 切 な 維 持 管 理 を 推 進 す る た め , 平 成19年 に 「 港 湾 の 施 設 の 技 術 上 の 基 準 を 定 め る 省 令 」 が 改 正 さ れ , こ れ ま で の 設 計 手 法 が 仕 様 規 定 型 か ら 性 能 規 定 型 に 移 行 さ れ る こ と に な っ た . こ の 改 正 に よ り , 要 求 性 能 を 満 足 す れ ば 多 様 な 設 計 法 や 工 法 を 適 用 す る こ と が 可 能 と な っ た が , 一 方 で , 要 求 性 能 を 照 査 す る 際 に そ れ ぞ れ の 性 能 に 対 し 適 切 に 評 価 す る こ と が 必 要 と な っ た .
港 湾 鋼 構 造 物 に お け る 電 気 防 食 で は , 防 食 対 象 物 の 電 位 に よ っ て 防 食 効 果 の 判 定 が 行 わ れ て い る . 電 位 は 防 食 状 態 を 的 確 に 示 し て お り , ま た 測 定 も 容 易 に で き る た め , 非 常 に 優 れ た 点 検 指 標 で あ る . 一 方 で , 電 気 防 食 シ ス テ ム の 寿 命 推 定 を す る 際 に は , 海 中 に 設 置 し て あ る 犠 牲 陽 極 の 消 耗 量 を 調 査 す る 必 要 が あ り , そ の 調 査 費 用 は 非 常 に 高 く , 調 査 回 数 が 限 ら れ て い る . 更 新 コ ス ト の 平 準 化 を 図 る た め に は , 集 中 す る 更 新 時 期 を 分 散 す る 必 要 が あ り , そ の た め に は 電 気 防 食 シ ス テ ム の 寿 命 を 定 期 的 に 把 握 し , 計 画 的 に 更 新 を 行 う 必 要 が あ る . そ の た め に は , 低 コ ス ト で 簡 易 な 寿 命 予 測 手 法 の 確 立 と 更 新 設 計 手 法 の 整 備 が 不 可 欠 で あ る .
港 湾 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に お い て は ,様 々 な 環 境 に 電 気 防 食 が 適 用 さ れ て い る が ,近 年 , 湿 潤 環 境 下 で あ る 干 満 帯 に お い て , 従 来 の 電 位 シ フ ト 基 準 に よ っ て 防 食 判 定 が で き な い ケ ー ス が 報 告 さ れ る よ う に な っ て き た7 ) -8 ).一 方 ,大 気 環 境 下 に お い て は ,電 気 防 食 の 副 次 的 効 果 に よ り ,従 来 よ り も 少 な い 防 食 電 流 で 防 食 効 果 が 得 ら れ る こ と を 示 す 報 告 も 出 て い る9)
-1 1). 現 行 の 防 食 基 準 は , コ ン ク リ ー ト 構 造 物 へ の 電 気 防 食 の 適 用 実 績 が 少 な か っ た 頃 に 採 用 さ れ て お り , 設 計 手 法 も 含 め て 見 直 す 時 期 に 来 て い る と 考 え ら れ る .
以 上 の 状 況 に 鑑 み 本 研 究 で は , 港 湾 施 設 に 対 す る 電 気 防 食 法 の 維 持 管 理 上 の 問 題 点 を , 材 料 上 の 観 点 か ら 鋼 構 造 物 と コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に 分 け て 抽 出 し , 性 能 判 定 基 準 や 設 計 手 法 に つ い て 検 討 を 行 っ た も の で あ る .
4 1.2 論 文 の 構 成
港 湾 施 設 に 設 置 さ れ て い る 電 気 防 食 シ ス テ ム を 長 期 に わ た り 経 済 的 , 効 率 的 か つ 適 正 に 維 持 管 理 し て 行 く た め に , 海 洋 環 境 下 に お け る 電 気 防 食 シ ス テ ム の 諸 特 性 を 把 握 し , 鋼 構 造 物 の 維 持 管 理 手 法 と コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 電 気 防 食 効 果 の 判 定 手 法 に つ い て 検 討 す る こ と が 本 論 文 の 目 的 で あ る . こ の 目 的 を 達 成 す べ く , 以 下 の 検 討 を 行 っ た . 本 論 文 の 構 成 を 図-1.2に 示 す .
第1章 の【 序 論 】で は ,日 本 国 内 の 港 湾 施 設 の 劣 化 状 況 と 維 持 管 理 の 必 要 性 に つ い て 述 べ , 本 研 究 の 背 景 お よ び 目 的 を 示 し た .
第2章 の【 既 往 の 研 究 】で は ,は じ め に 海 水 環 境 下 に お け る 鉄 の 腐 食 メ カ ニ ズ ム と コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 塩 害 劣 化 メ カ ニ ズ ム を 示 し , 電 気 防 食 法 の 理 論 に つ い て 説 明 を 行 っ た . さ ら に , 港 湾 鋼 構 造 物 に お け る 流 電 陽 極 方 式 電 気 防 食 の 維 持 管 理 手 法 , 港 湾 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に お け る 電 気 防 食 効 果 の 判 定 手 法 に つ い て 既 往 の 研 究 と 問 題 点 を 示 し , 本 研 究 の 目 的 を 明 確 に し た . 以 上 の こ と か ら , 本 論 文 で は 港 湾 施 設 を 鋼 構 造 物 と コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に 区 分 け し , 各 々 に 対 し て 電 気 防 食 に お け る 維 持 管 理 上 の 課 題 に つ い て 明 ら か に し た .
第3章 で は ,港 湾 鋼 構 造 物 に お け る 流 電 陽 極 方 式 電 気 防 食 の 維 持 管 理 手 法 に つ い て 検 討 し た . は じ め に 電 気 防 食 シ ス テ ム の 耐 用 年 数 を 決 定 し て い る 犠 牲 陽 極 の 寿 命 の 評 価 方 法 に つ い て , 実 構 造 物 デ ー タ を も と に 検 討 し , こ れ ま で の 質 量 測 定 法 に 代 わ る 新 た な 推 定 手 法 の 提 案 を 行 っ た . 続 い て , 犠 牲 陽 極 の 更 新 設 計 手 法 に つ い て 検 討 し , 新 し い 設 計 手 法 の 提 案 を 行 う と と も に , 実 構 造 物 試 験 に お い て 検 証 試 験 を 実 施 し た .
第4章 で は ,港 湾 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に お け る 電 気 防 食 効 果 の 判 定 手 法 に つ い て 検 討 し た . コ ン ク リ ー ト 中 鉄 筋 の 腐 食 が 進 行 し て い る 施 設 に お い て 電 気 防 食 を 適 用 し た 際 , 通 電 初 期 に お い て 電 気 防 食 基 準 (100mVシ フ ト 基 準 ) を 満 足 し な い こ と が あ る が , そ の ま ま 通 電 を 継 続 す る と , 経 時 的 に 防 食 基 準 を 満 足 す る ケ ー ス が 報 告 さ れ て い る . こ の 現 象 に つ い て , メ カ ニ ズ ム を 考 察 す る と と も に , 経 時 的 な 鉄 筋 表 面 の 環 境 変 化 を 数 値 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て 解 析 し , 新 た な 設 計 手 法 を 提 案 し た . ま た , 高 湿 潤 環 境 下 に お い て も , 通 電 初 期 に 100mVシ フ ト 基 準 を 満 足 し な い こ と が あ る . こ の 現 象 を 明 ら か に す る た め に , 飛 沫 ・ 干 満 帯 を 模 擬 し た 環 境 下 で 電 気 防 食 試 験 を 行 い , 電 気 防 食 基 準 の 検 討 を 行 っ た .
5
第5章 【 結 論 】 で は , 第3章 か ら 第4章 ま で に 得 ら れ た 結 論 を 取 り ま と め た .
図 -1.2 論 文 の 構 成
6 1.3 参 考 文 献
1) 冨 田 幸 晴 : 港 湾 施 設 の 戦 略 的 維 持 管 理 に つ い て , 建 設 マ ネ ジ メ ン ト 技 術 ,No.3,2009 2) 国 土 交 通 省 港 湾 局 : 港 湾 の ス ト ッ ク マ ネ ジ メ ン ト , マ リ ン ボ イ ス 21,Vol.276,2010 3) 柏 木 達 夫 : 電 気 防 食 の 歴 史 変 遷 に つ い て , 防 錆 管 理 ,Vol.54,No.1,2010
4)(社)土 木 学 会 , コ ン ク リ ー ト 中 の 鋼 材 の 腐 食 性 評 価 と 防 食 技 術 研 究 小 委 員 会 (338委 員 会 ) ,p1. (2009)
5)日 本 コ ン ク リ ー ト 工 学 協 会:コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 電 気 防 食 法 研 究 委 員 会 報 告 書 ,p249,
1994
6) 電 気 化 学 的 防 食 工 法 研 究 会 : 総 会 資 料 ,2008
7)田 代 賢 吉 ,細 田 喜 子 ,山 本 悟 ,石 井 浩 司 ,関 博:湿 潤 環 境 を 考 慮 し た コ ン ク リ ー ト 部 材 の 電 気 防 食 基 準 に 関 す る 研 究 , 材 料 と 環 境2009講 演 集 ,D-207,2009
8)篠 田 吉 央 ,望 月 紀 保 ,高 久 豊 広 ,小 林 浩 之: 湿 潤 環 境 下 コ ン ク リ ー ト 電 気 防 食 の 防 食 評 価 方 法 に 関 す る 検 討 ,コ ン ク リ ー ト 工 学 年 次 論 文 集 ,Vol.33,No.1,p1157~1162,2011 9)高 久 豊 広 ,元 売 正 美 ,菅 野 幹 男:ソ ー ラ ー パ ネ ル と 導 電 性 モ ル タ ル を 用 い た 桟 橋 上 部 工
へ の 電 気 防 食 適 用 事 例 , 材 料 と 環 境2008講 演 集 ,C-114,2008
10) 高 久 豊 広 , 望 月 紀 保 , 仲 谷 伸 人 : 電 気 防 食 さ れ た コ ン ク リ ー ト 中 鉄 筋 の 自 然 電 位 貴 化 現 象 に 関 す る 検 討 , 材 料 と 環 境2009講 演 集 ,D-206,2009
11) 田 中 一 弘 , 岩 崎 隆 : 道 路 橋 に 適 用 し た ア ル ミ ニ ウ ム 系 流 電 陽 極 パ ネ ル 方 式 電 気 防 食 工 法 の 施 工 事 例 に つ い て , 材 料 と 環 境2011講 演 集 ,C-112,2011
12)日 本 エ ル ガ ー ド 協 会 編 ,「 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 電 気 防 食 Q&A」,山 海 堂 ,p25(2004)
7
第 2 章 既 往 の 研 究
2.1 序
港 湾 施 設 は 海 に 面 し て お り , 非 常 に 厳 し い 腐 食 環 境 に 曝 さ れ て い る . 構 造 部 材 に は 主 に 鉄 が 使 用 さ れ て い る こ と か ら , 鉄 の 腐 食 に よ る 耐 久 性 の 低 下 を 最 小 限 に 防 ぐ こ と が 維 持 管 理 で は 必 須 で あ る . し か し な が ら , 潮 汐 や 構 造 の 影 響 に よ り , 各 部 位 に お け る 腐 食 の 度 合 い は 大 き く 異 な る . 港 湾 施 設 に 対 し て 適 切 な 防 食 対 策 を 施 す た め に は , 鉄 の 腐 食 現 象 と 暴 露 環 境 に よ る 影 響 を 理 解 す る こ と が 重 要 で あ る . そ こ で 第 2 章 で は , 鉄 を 例 と し て 金 属 の 腐 食 現 象 を 電 気 化 学 的 観 点 か ら 整 理 し た . ま た , 防 食 対 策 の 基 本 的 な 考 え 方 に つ い て 整 理 す る と と も に , 本 研 究 の メ イ ン と な る 電 気 防 食 の メ カ ニ ズ ム と 電 気 防 食 方 式 に つ い て ま と め を 行 っ た . さ ら に , 電 気 防 食 の 維 持 管 理 手 法 に つ い て , 港 湾 施 設 を 鋼 構 造 物 と コ ン ク リ ー ト 構 造 物 に 区 分 し , そ れ ぞ れ に 対 し て 現 状 の 問 題 点 と 既 往 の 研 究 に つ い て 整 理 し た .
2.2 港 湾 鋼 構 造 物 の 腐 食 と 電 気 防 食 メ カ ニ ズ ム 2.2.1 金 属 の 腐 食 現 象
金 属 の 多 く は , 自 然 界 で は 酸 化 物 や 硫 化 物 の 形 で 存 在 し て お り , こ れ ら の 鉱 石 か ら 様 々 な 製 錬 過 程 を 経 て 得 ら れ る も の で あ る . 鉄 の 場 合 , 地 殻 中 で は 鉄 鉱 石 ( 酸 化 鉄 ) と し て 存 在 し て お り , コ ー ク ス を 還 元 剤 と し て 溶 鉱 炉 、 転 炉 な ど を 用 い て 製 造 さ れ る . 金 属 の 製 造 過 程 は , 化 学 的 に み る と , 鉱 石 中 の 酸 素 と 金 属 を 分 離 す る 還 元 反 応 で あ り , 反 応 を 進 行 さ せ る た め に は 莫 大 な エ ネ ル ギ ー を 必 要 と す る .製 造 す る 際 に 使 用 し た エ ネ ル ギ ー の 一 部 は , 金 属 自 体 の 中 に 蓄 え ら れ る た め , 金 属 は エ ネ ル ギ ー の 高 い 状 態 に あ る 。 し か し な が ら , 自 然 界 の 変 化 は , エ ネ ル ギ ー の 高 い 状 態 か ら 低 い 状 態 へ と 移 っ て 行 く . 例 え ば 、 構 造 物 な ど に 使 用 さ れ て い る 鋼 材 は 、 そ の 内 蔵 す る エ ネ ル ギ ー を 放 出 し つ つ さ び ( 酸 化 鉄 ) へ と 変 化 す る 傾 向 を 持 つ . こ れ が 金 属 の 腐 食 で あ る . 図-2.1 は , 鉄 鉱 石 , 鉄 , さ び の エ ネ ル ギ ー 関 係 を 模 式 的 に 示 し て い る .金 属 が 腐 食 す る と い う こ と は ,金 属 が 酸 素 と 結 合( 酸 化 )し て , も と の 状 態 ( 鉱 石 ) へ と 戻 る こ と で あ る .
腐 食 は , 金 属 が 環 境 の 作 用 に よ っ て 化 学 的 に 侵 食 さ れ る 現 象 で あ る . 腐 食 が 起 き る た め に は , 溶 液 の 水 が 存 在 す る か , あ る い は 高 温 で あ る こ と が 少 な く と も 必 要 で あ る . 高 温 環 境 で は , 環 境 物 質 と 直 接 化 学 反 応 し て 腐 食 が 進 行 す る の に 対 し , 常 温 環 境 で は 水 が 存 在 す る 場 合 に 電 気 化 学 反 応 に よ っ て 腐 食 が 進 行 す る 2 ).前 者 を『 乾 食 』,後 者 を『 湿 食 』と 言 い , 港 湾 鋼 構 造 物 で 生 じ る 腐 食 は ,『 湿 食 』 に 分 類 さ れ る .
8
金 属 の 腐 食 が 電 池 作 用 に よ っ て 生 じ る こ と を 提 唱 し た の は ,イ タ リ ア の 生 理 学 者 Galvani
(1790 年 )で あ る .Galvani は ,異 種 金 属 を 接 触 さ せ る こ と に よ っ て そ の 事 実 を 見 出 し た .
図 -2.1 鉄 鉱 石 , 鉄 , さ び の エ ネ ル ギ ー 関 係 1 )
そ し て , 単 一 金 属 上 に ア ノ ー ド と カ ソ ー ド が 生 起 し , そ の 電 池 作 用 に よ っ て 腐 食 が 進 行 す る こ と ( 混 成 電 位 説 ) を Wagnerと Traud(1938 年 ) が 証 明 し た .
こ こ で は , 中 性 環 境 で 生 じ て い る 鉄 の 腐 食 を 例 と し て , 腐 食 の メ カ ニ ズ ム を 記 述 す る . 鉄 の 表 面 で 生 じ て い る 電 気 化 学 反 応 の 模 式 図 を 図-2.2 に 示 す .
ア ノ ー ド 反 応 ( 酸 化 反 応 ):
Fe Fe
2 2 e
カ ソ ー ド 反 応 ( 還 元 反 応 ):
O
2 2 H
2O 4 e
4 OH
図 -2.2 鉄 の 表 面 で 生 じ て い る 電 気 化 学 反 応 の 模 式 図
9
水 に 浸 漬 さ れ た 鉄 の 表 面 で は , 無 数 の 電 池 ( 腐 食 電 池 ま た は 局 部 電 池 ) が 形 成 さ れ , ア ノ ー ド と カ ソ ー ド が 生 じ て い る . 腐 食 反 応 の 始 ま り は , 鉄 原 子 が 結 晶 格 子 を 離 れ , 水 中 に 鉄 イ オ ン (Fe2+) と し て 移 行 す る 過 程 で あ り , 鉄 1 原 子 当 た り 2 個 の 電 子 を 金 属 に 遊 離 す る . こ れ を ア ノ ー ド 反 応 ( 酸 化 反 応 ) と 呼 ぶ . し か し な が ら , こ の 反 応 は 単 独 で は 起 こ ら ず , 電 気 的 中 性 条 件 に よ り 対 の 反 応 が 必 要 で あ る . す な わ ち , 水 中 の 溶 存 酸 素 は 鉄 表 面 上 で 電 子 を 受 け 取 り , 自 身 は 還 元 さ れ て 水 酸 化 物 イ オ ン (OH-) を 生 成 す る . こ れ を カ ソ ー ド 反 応 ( 還 元 反 応 ) と 呼 ぶ . ア ノ ー ド と カ ソ ー ド が , 時 間 の 経 過 と と も に 位 置 を 交 換 し て い く 場 合 に は 均 一 腐 食 と な り , 固 定 さ れ る 場 合 に は 孔 食 な ど の 局 部 腐 食 と な る 3 ).
鉄 が 水 中 で 腐 食 す る 過 程 の 総 反 応 式 は (2.1) 式 で 表 さ れ る . O nH O Fe O nH O
Fe 2 2 2 3 2
2
2 3 ・・・・・・(2.1)
ア ノ ー ド 反 応 と カ ソ ー ド 反 応 が , 同 一 金 属 上 で 対 に な っ て 進 行 し て い る こ と を 裏 付 け る 実 験 例 を 以 下 に 示 す 4 ).
3% 食 塩 水 を 含 有 す る 寒 天 ゲ ル 中 に 折 り 曲 げ た 1 本 の 釘 を 浸 漬 す る .食 塩 水 中 に フ ェ ノ ー ル フ タ レ イ ン と フ ェ リ シ ア ン 化 カ リ ウ ム を 添 加 し て お く と , 図-2.3 の よ う に 青 色 部 分 と 赤 色 部 分 が 出 現 す る . 青 色 部 分 は Fe2+の 存 在 , 赤 色 部 分 は ア ル カ リ 性 で あ る こ と を 証 明 す る も の で あ る が , こ れ は , 腐 食 反 応 が 電 気 化 学 反 応 で 進 行 し て い る こ と を 示 し て い る .
図 -2.3 ア ノ ー ド と カ ソ ー ド の 存 在
10 2.2.2 港 湾 鋼 構 造 物 の 腐 食
け い 船 岸 に は , コ ン ク リ ー ト お よ び 炭 素 鋼 が 用 い ら れ て い る 5 ). 我 が 国 の 港 湾 施 設 は 高 度 経 済 成 長 期 に 建 設 さ れ た も の も 多 い が , 短 期 間 で 港 湾 整 備 を 行 う た め に 施 工 工 期 の 短 い 鋼 構 造 物 が 多 用 さ れ て い る .
港 湾 鋼 構 造 物 の 腐 食 環 境 は , 図-2.4 に 示 す よ う に , 海 上 大 気 中 , 飛 沫 帯 , 干 満 帯 , 海 中 部 , 海 底 土 中 部 の 環 境 に 分 類 さ れ , 環 境 に よ っ て 腐 食 の 程 度 が 異 な る . 最 も 腐 食 速 度 が 大 き い の は 飛 沫 帯 で あ り ,0.3mm/y に も 達 す る 6 ). 飛 沫 帯 は 海 水 の 飛 沫 を 絶 え ず 受 け る こ と か ら , 鋼 材 表 面 に は 常 に 薄 い 水 膜 が 存 在 し , 酸 素 の 供 給 量 が 非 常 に 多 い . ま た , 平 均 干 潮 面 直 下 で は , 海 洋 鋼 構 造 物 に 特 有 の 腐 食 が 生 じ る . こ れ は 集 中 腐 食 と 呼 ば れ , 環 境 差 に よ る マ ク ロ セ ル 腐 食 で あ る 7 ) - 9 ). 平 均 水 面 か ら 平 均 干 満 帯 が カ ソ ー ド と し て 働 き , 平 均 水 面 直 下 が ア ノ ー ド と な っ て 激 し い 腐 食 を 生 じ る .
図 -2.4 海 洋 鋼 構 造 物 の 腐 食 傾 向 6 )
松 岡 ら は , こ の 集 中 腐 食 の メ カ ニ ズ ム を 実 験 に よ っ て 検 討 し , 以 下 の よ う に 説 明 し て い
る 1 0 ).干 潮 時 お よ び 満 潮 時 の 鋼 管 杭 表 面 で 生 じ て い る マ ク ロ セ ル 電 流 の 様 子 を 図-2.5 に 示
す . 満 潮 時 に は , 空 気 に 触 れ た 干 満 帯 が 貴 な 電 位 を 示 す よ う に な り , 干 満 部 を カ ソ ー ド ,
11
L.W.L 直 下 部 を 含 む 海 中 部 を ア ノ ー ド と し た マ ク ロ セ ル 電 流 が 流 れ る .一 方 ,干 潮 時 に は , L.W.L 直 下 部 が 卑 な 電 位 を 持 ち 続 け , よ り 深 い 海 中 部 を カ ソ ー ド ,L.W.L 直 下 部 を ア ノ ー ド と し た マ ク ロ セ ル 電 流 が 流 れ る . よ っ て , い ず れ の 状 態 も L.W.L 直 下 は ア ノ ー ド と な る た め , 干 満 帯 と 海 中 部 の 両 方 の 影 響 を 受 け て 腐 食 が 極 大 値 を 示 す .L.W.L 直 下 が ア ノ ー ド と な り 続 け る 原 因 は , さ び 層 の イ オ ン 透 過 抵 抗 が 関 係 し て い る も の と 思 わ れ る .L.W.L 直 下 部 は , 満 潮 時 に 干 満 部 と の マ ク ロ セ ル 形 成 に よ っ て ア ノ ー ド 分 極 す る が , 干 潮 時 に な っ て も さ び 層 に よ っ て 溶 液 側 へ の イ オ ン の 拡 散 が 抑 制 さ れ る た め に 復 極 が 鈍 く な り , 自 然 電 位 に 戻 る の に 時 間 を 要 す る こ と が 原 因 と さ れ て い る .
図 -2.5 海 洋 に 浸 漬 さ れ た 鋼 管 の マ ク ロ セ ル 電 流 の 変 化 の 模 式 図
2.2.3 港 湾 鋼 構 造 物 に お け る 電 気 防 食 メ カ ニ ズ ム
金 属 の 腐 食 現 象 は 酸 化 反 応 で あ り 、 か つ 電 気 化 学 反 応 で あ る か ら , 電 極 電 位 を コ ン ト ロ ー ル す る こ と に よ っ て 腐 食 反 応 速 度 を 制 御 す る こ と が で き る . 電 気 防 食 は , こ う し た 考 え 方 に 基 づ い て 行 な わ れ る 防 食 方 法 で あ り , 腐 食 環 境 下 に 陽 極 ( ア ノ ー ド ) を 置 き , 防 食 対 象 物 と の 間 で 直 流 の 通 電 を 行 な う こ と に よ っ て , 電 極 電 位 を コ ン ト ロ ー ル し よ う と い う も の で あ る .
12
図-2.6 は 鉄 の 電 位 -pH 図 で あ り , 腐 食 の 起 り 得 な い 領 域 ( 不 感 態 領 域 ), 腐 食 の 進 行 す る 領 域( 腐 食 域 ),お よ び 保 護 皮 膜 に 覆 わ れ て 腐 食 の 進 行 し な い 領 域( 不 動 態 域 )を 表 し て い る .こ の 図 か ら 腐 食 域 A に 存 在 す る 鉄 を 防 食 す る 方 法 と し て ,図 に 示 す よ う な 3通 り の 方 法 が あ る が , 電 極 電 位 を コ ン ト ロ ー ル し て 防 食 す る 方 法 ( 電 気 防 食 法 ) と し て は ,1 ま た は 2 が 該 当 す る .
す な わ ち 1は , 電 極 電 位 を 低 電 位 方 向 に 変 化 さ せ , 材 料 を 不 活 性 域 に 置 く こ と を 目 的 と し た も の ,2 は 電 極 電 位 を 高 電 位 方 向 に 変 化 さ せ , 材 料 を 不 動 態 化 さ せ る こ と を 目 的 と し た も の で あ る . 前 者 を カ ソ ー ド 防 食 法 , 後 者 を ア ノ ー ド 防 食 法 と い う が , ア ノ ー ド 防 食 の 場 合 , 適 用 が 特 定 の 環 境 条 件 に 限 ら れ る ば か り で な く , 腐 食 を 促 進 し て し ま う と い う 危 険 性 も 含 ん で い る た め 実 用 例 が 少 な く , 通 常 , 電 気 防 食 と い っ た 場 合 は カ ソ ー ド 防 食 法 を 指 す . カ ソ ー ド 防 食 法 は , 比 較 的 簡 単 な 設 備 で 広 い 領 域 を 効 果 的 に 防 食 で き る た め , 港 湾 構 造 物 , 各 種 パ イ プ ラ イ ン , 熱 交 換 器 、 船 舶 , 基 礎 杭 な ど の 大 型 構 造 物 を 中 心 に 広 く 使 用 さ れ て い る .
図 -2.6 鉄 の 電 位 - p H 図 1 1 )
一 方 ,速 度 論 的 に は 電 位/電 流 密 度 曲 線( 分 極 曲 線 )を 用 い て 電 気 防 食 メ カ ニ ズ ム を 説 明
13
す る こ と が で き る . こ こ で , 図-2.7 の 模 式 図 を 用 い て 分 極 曲 線 の 説 明 を す る . 図 中 の Ain
と Cin は 中 性 環 境 下 に お け る 炭 素 鋼 の 内 部 ア ノ ー ド 分 極 曲 線 , 内 部 カ ソ ー ド 分 極 曲 線 ( 破 線 )で あ り ,Ao utと Co u tは 外 部 ア ノ ー ド 分 極 曲 線 ,外 部 カ ソ ー ド 分 極 曲 線( 実 線 )で あ る . 内 部 分 極 曲 線 と は ,各 々 の 平 衡 電 位 か ら 示 さ れ た 電 位/電 流 密 度 曲 線 で あ る の に 対 し ,外 部 分 極 曲 線 は ,腐 食 電 位( 自 然 電 位 )か ら 計 測 さ れ た 電 位/電 流 密 度 曲 線 で あ る .外 部 分 極 曲 線 に 示 さ れ る 電 流(io ut)は ,カ ソ ー ド 電 流 を 正 に と る と ,内 部 分 極 曲 線 に 示 さ れ る カ ソ ー ド 電 流 (iin, c) と ア ノ ー ド 電 流 (iin, a) の 差 (iin,c-ii n,a) と し て , 電 流 計 で 計 測 す る こ と が で き る . 通 常 , 我 々 が 計 測 す る 分 極 曲 線 は こ の 外 部 分 極 曲 線 で あ る .
図 -2.7 電 位 /電 流 密 度 曲 線 ( 分 極 曲 線 ) の 模 式 図
図-2.8 は , 溶 存 酸 素 の 拡 散 で 腐 食 が 律 速 さ れ る 系 で の 炭 素 鋼 の 内 部 ( 破 線 で 示 す ) お よ び 外 部 ( 実 線 で 示 す ) の ア ノ ー ド 分 極 曲 線 お よ び カ ソ ー ド 分 極 曲 線 の 模 式 図 で あ る . 外 部 カ ソ ー ド 分 極 曲 線(c2)か ら も 分 か る よ う に ,電 極 電 位 を 低 電 位 方 向 に 移 動 さ せ る た め に は , 目 的 と す る 対 象 物 に 電 流 を 流 入 さ せ れ ば よ い .例 え ば ,ip1の 電 流 密 度 で カ ソ ー ド 電 流 を 通 電 し た と す る と , 電 極 電 位 は Ep1に な り , そ の 時 の 腐 食 速 度 は ic o r rか ら ico r r 1 に 低 減 す る . さ ら に , 電 流 密 度 を 増 加 し ipに ま で す る と 電 極 電 位 は Epと な り , 腐 食 速 度 は ゼ ロ と な る . Ep以 下 の 電 極 電 位 で は ,金 属 の 腐 食 は 完 全 に 停 止 し ,Epは そ の 上 限 の 電 極 電 位 と い う こ と
14
に な る .カ ソ ー ド 防 食 法 の 原 理 上 は ,Epを 防 食 電 位 ,Epを 維 持 す る の に 必 要 な 電 流 密 度 ip
を 防 食 電 流 密 度 と い う . 従 っ て , 与 え ら れ た 環 境 下 に お け る 防 食 対 象 物 の ア ノ ー ド お よ び カ ソ ー ド の 分 極 特 性 が 把 握 で き る な ら ば , 電 気 防 食 条 件 ( 防 食 電 位 , 防 食 電 流 密 度 ) を 推 定 す る こ と は 可 能 と な る .
図 -2.8 カ ソ ー ド 防 食 法 の 原 理 図 1 2 )
【 電 気 防 食 方 式 】
電 気 防 食 方 式 に は 外 部 電 源 方 式 と 流 電 陽 極 方 式 が あ る が , 本 項 で は 港 湾 鋼 構 造 物 の 海 中 部 お よ び 海 底 土 中 部 に 適 用 さ れ る 流 電 陽 極 方 式 に つ い て 述 べ る .
腐 食 環 境 下 で , 電 極 電 位 が 低 い 金 属 と 高 い 金 属 を 電 気 的 に 短 絡 さ せ る と , 電 池 の 原 理 に よ り , 溶 液 側 を 電 位 の 低 い 金 属 か ら 高 い 金 属 に 向 っ て 直 流 電 流 が 流 れ る た め , 電 位 の 高 い 金 属 は 低 い 金 属 に よ っ て 電 気 防 食 作 用 を 受 け る . こ の よ う に ガ ル バ ニ ッ ク カ ッ プ ル ( 異 種 金 属 の 接 触 ) を 利 用 し て 電 気 防 食 す る 方 法 を 流 電 陽 極 方 式 ( 図-2.9) と い い , 電 位 が 低 い 金 属 の こ と を 犠 牲 陽 極 と 呼 ぶ . こ の 語 源 は , 陽 極 自 身 が 溶 解 ( ア ノ ー ド 反 応 ) す る こ と に よ っ て 金 属 を 防 食 す る こ と に 由 来 す る .
15
(a)桟 橋 鋼 管 杭 への適 用 例 (b)概 念 図 図 -2.9 流 電 陽 極 方 式 の 適 用 例 と 概 念 図 1 3 )
犠 牲 陽 極 に 求 め ら れ る 要 件 は 下 記 の 通 り で あ る .
① 使 用 期 間 を 通 じ て , 低 電 位 を 維 持 し て 被 防 食 体 に 対 し 有 効 な 電 位 差 を 保 つ こ と .
② 発 生 電 気 量 が 大 き い こ と .
③ 溶 解 が 均 一 で 表 面 に 固 着 性 被 覆 を 生 じ な い こ と .
④ 適 度 な 強 度 を 有 す る こ と .
⑤ 環 境 を 汚 染 し な い こ と .
⑥ 経 済 性 を 備 え る こ と .
犠 牲 陽 極 と し て は , ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 陽 極 、 亜 鉛 合 金 陽 極 、 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 陽 極 が あ り , 適 用 す る 環 境 に よ っ て 使 い 分 け が さ れ て い る . 港 湾 鋼 構 造 物 で は ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 陽 極 が 使 用 さ れ る . 犠 牲 陽 極 の 電 気 化 学 的 特 性 を 表-2.1 に 示 す .
16
表 -2.1 犠 牲 陽 極 の 電 気 化 学 的 特 性 1 4 )
流 電 陽 極 方 式 に よ る 電 気 防 食 系 で は , 以 下 の 関 係 式 が 成 立 す る . ・・・・・・(2.2) こ こ で , : 犠 牲 陽 極 の 内 部 電 位 : 被 防 食 体 の 金 属 内 部 電 位
: 犠 牲 陽 極 近 傍 の 溶 液 内 部 電 位 : 被 防 食 体 近 傍 の 溶 液 内 部 電 位
同 一 照 合 電 極 で 電 極 電 位 を 測 定 し て い る も の と し ,ア ノ ー ド 電 位 を
E
a,カ ソ ー ド 電 位 をE
c, 通 電 電 流 をI
, 極 間 抵 抗 をR
sを す る と ,と お く こ と が で き ,(2.2) 式 は 次 式 の よ う に 整 理 で き る . ・・・・・・(2.3)
さ ら に , ア ノ ー ド 分 極 特 性 , カ ソ ー ド 分 極 特 性 に 直 線 分 極 を 適 用 す る と ,
・・・・・・(2.4)
た だ し , : ア ノ ー ド 自 然 電 位 : カ ソ ー ド 自 然 電 位
: ア ノ ー ド 分 極 抵 抗 : カ ソ ー ド 分 極 抵 抗
: ア ノ ー ド 表 面 積 : カ ソ ー ド 表 面 積
電 気 防 食 す る 上 で の 最 適 条 件 と は , 少 な い 電 圧 で 大 き な 電 流 を 得 る こ と が で き , か
aM
cM
aS
cS
aM
aS E
a
cM
cS E
c
aS
cS IR
S EcEa IRS( E
*h I ) (
*)
S E h I
S IR
c c
c
a a
a
SI E E
h
S R h
S
c a
a a
S c
c
* *
E
a*E
c*h
ah
cS
aS
c
cM
S c S c S a S a M a M c M
a
ア ル ミ ニ ウ ム 系 亜 鉛 系 マ グ ネ シ ウ ム 系 閉 路 電 位 ( V vs.Ag/AgCl[SW] ) -1.06 -1.00 -1.45
有 効 電 位 差 ( V) 0.25 0.20 0.65
有 効 電 気 量 ( A・h/kg) 2700~ 2900 820 2210
適 用 環 境
海 水 中 海 底 土 中
海 水 中
土 壌 中 淡 水 中
17
つ 陰 極 の 防 食 電 流 が 小 さ い こ と で あ る . こ う し た 条 件 を 満 足 さ せ る た め に 必 要 な 条 件
を 図-2.10よ り 考 察 す る と ,
① 犠 牲 陽 極 の ア ノ ー ド 分 極 抵 抗 を 小 さ く す る .
② 被 防 食 体 の カ ソ ー ド 分 極 抵 抗 を 大 き く す る .
③ 環 境 の 抵 抗 が 小 さ い こ と .
が 必 要 で あ る こ と が わ か る . 従 っ て , 実 際 の 電 気 防 食 に お い て は , 上 記 条 件 を 満 た す た め に 種 々 の 工 夫 が な さ れ て い る .
図 -2.10 流 電 陽 極 方 式 に お け る 分 極 曲 線 模 式 図 1 5 )
2.3 港 湾 鋼 構 造 物 の 電 気 防 食 設 計
港 湾 構 造 物 の 電 気 防 食 設 計 の 概 要 に つ い て 述 べ る . な お , 電 気 防 食 設 計 の 詳 細 に つ い て は ,「 港 湾 の 施 設 の 技 術 上 の 基 準 ・同 解 説 」16 )( 以 後 ,港 湾 基 準 と 記 す )に 詳 し く 記 述 さ れ て い る.
流 電 陽 極 方 式 に よ る 電 気 防 食 系 に お い て は ,(2.5) 式 が 成 立 す る .
Rsa a c a
E
I E ・・・・・・(2.5)
Ia: 陽 極 発 生 電 流 Ea: ア ノ ー ド 電 位 Ec: カ ソ ー ド 電 位 Rs a: 陽 極 1 本 当 た り の 接 水 抵 抗
18
港 湾 基 準 で は ,Ec-Ea を 有 効 電 位 差⊿E で 表 し て お り ,0.25V が 用 い ら れ て い る . さ ら に 回 路 抵 抗 Rsは , ア ノ ー ド 接 水 抵 抗 Rs a, 環 境 抵 抗 Rs ’, カ ソ ー ド 接 水 抵 抗 Rs cの 和 で 表 さ れ る が ,海 水 環 境 中 の 電 気 防 食 設 計 で は ,Rs≒Rs a (Rs a≫Rs ’,Rs c)と み な し て い る .な お , ア ノ ー ド 接 水 抵 抗 と は ,陽 極 形 状 と 環 境 抵 抗 率 に よ っ て 定 ま る 値 で あ る .ア ノ ー ド 電 位 Ea は ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 陽 極 の 場 合 , -1050mV vs.Ag/AgCl[SW]を 用 い る .
施 設 を 防 食 す る の に 必 要 な 電 流( 所 要 防 食 電 流 I)は ,(2.6)式 に よ っ て 求 め る こ と が で き る .
c
p S
i
I ・・・・・・(2.6)
I: 所 要 防 食 電 流 ip: 設 計 防 食 電 流 密 度 Sc: 防 食 対 象 面 積
よ っ て , 施 設 を 防 食 す る の に 必 要 な 陽 極 本 数 N は (2.7) 式 に よ っ て 求 め る こ と が で き , 電 流 分 布 を 考 慮 し な が ら 均 等 に 配 置 さ れ る .
I
aN I
・・・・・・(2.7)近 年 , 電 気 防 食 特 性 を 評 価 す る 手 法 と し て ,Ec-ic プ ロ ッ ト が 用 い ら れ て い る 17 ) - 18 ). こ の 手 法 は , カ ソ ー ド 電 位 / カ ソ ー ド 電 流 密 度 平 面 上 に デ ー タ を プ ロ ッ ト し , そ の 形 状 を 基 に 犠 牲 陽 極 の ア ノ ー ド 特 性 お よ び 被 防 食 体 の カ ソ ー ド 特 性 を 評 価 す る も の で あ る . こ の 考 え 方 は ,W.Wang ら 1 9)に よ っ て 初 め て 導 入 さ れ た . す な わ ち ,(2.5) 式 の 陽 極 発 生 電 流 を 陽 極 1 本 が 担 う 防 食 対 象 面 積 Sc’で 除 す と , 設 計 防 食 電 流 密 度 icが 得 ら れ る ((2.8) 式 ).
' c
' S
1
sa a c c a
c R
E E S
i I ・・・・・・(2.8)
さ ら に ,(2.8) 式 は (2.9) 式 の よ う に 書 き 換 え る こ と が で き る .
a sa c c
c i S R E
E ' ・・・・・・(2.9)
(2.9) 式 は , 傾 き Sc’・Rs a, 切 片 Ea の 一 次 直 線 で あ り ,Ec-ic 平 面 上 に 示 す と , 図-2.11 と な る .
19
図 -2.11 Ec-icプ ロ ッ ト の 模 式 図
-800mV vs.Ag/AgCl[SW]に 対 す る カ ソ ー ド 電 流 密 度 が 設 計 防 食 電 流 密 度 ( 図-2.11 で は 100mA/m2)と な る .流 電 陽 極 方 式 の 場 合 ,犠 牲 陽 極 設 置 直 後 の プ ロ ッ ト は 高 電 流 密 度 域( ① ) に あ る が , 時 間 の 経 過 と と も に カ ソ ー ド 電 流 密 度 は 低 減 す る た め , プ ロ ッ ト は 低 電 流 密 度 域 ( ① ⇒ ② ⇒ ③ ) に 向 か っ て 変 化 す る . こ の 原 因 は , エ レ ク ト ロ コ ー テ ィ ン グ の 析 出 に よ る カ ソ ー ド 分 極 抵 抗 の 増 大 で あ り ,(2.4) 式 に よ っ て 確 認 す る こ と が で き る .
本 手 法 は , 海 水 環 境 下 の 電 気 防 食 特 性 の 評 価 に 用 い ら れ て き た が , 最 近 で は 淡 水 環 境 下 や コ ン ク リ ー ト 環 境 下 に お い て も 用 い ら れ て い る .
2.4 流 電 陽 極 法 の 維 持 管 理 方 法
高 度 経 済 成 長 期 の 建 設 ラ ッ シ ュ に よ り , 電 気 防 食 の 適 用 実 績 も 右 肩 上 が り に 増 加 し て い っ た . そ の 時 代 に 建 設 さ れ た 港 湾 施 設 の 電 気 防 食 シ ス テ ム の 更 新 時 期 が 5~10年 後 に 集 中 し て や っ て く る . し か し な が ら , 長 引 く 経 済 不 況 で 国 家 財 政 が 苦 し い 現 状 で は , 更 新 時 期 を 迎 え た 全 て の 施 設 に 対 し て 電 気 防 食 シ ス テ ム の 更 新 を 行 う の は 困 難 な 状 況 で あ る . 限 ら れ た 予 算 の 中 で 効 率 よ く シ ス テ ム を 更 新 し て い く た め に は , 施 設 の 状 態 を 的 確 に 把 握 し , 重 要 度 の 高 い 施 設 か ら 計 画 的 に 更 新 を 進 め て い く 必 要 が あ る . そ れ を 実 現 す る た め に は ,
20 定 期 的 な 点 検 と 調 査 が 不 可 欠 で あ る .
か つ て の 港 湾 施 設 の 電 気 防 食 に は 外 部 電 源 法 が 適 用 さ れ て い た が , ア ル ミ ニ ウ ム 系 の 犠 牲 陽 極 が 開 発 さ れ て か ら は メ ン テ ナ ン ス を ほ と ん ど 必 要 と し な い と い う 理 由 か ら , 流 電 陽 極 法 が 急 速 に 普 及 し て い っ た . し か し な が ら , 近 年 電 気 防 食 シ ス テ ム が 設 計 寿 命 に 近 づ い た 際 に 行 わ れ る 詳 細 調 査 に お い て , 犠 牲 陽 極 が 予 定 よ り も 消 耗 し て い な か っ た り , 反 対 に 予 定 よ り も 早 期 に 犠 牲 陽 極 が 消 耗 し , 防 食 シ ス テ ム が 機 能 し て い な か っ た ケ ー ス が 報 告 さ れ る よ う に な っ て き た . 前 者 の 場 合 , シ ス テ ム 寿 命 が 設 計 寿 命 を 上 回 っ て い る の で 防 食 上 問 題 と な ら な い が , 後 者 の 場 合 に は , 腐 食 劣 化 が 進 行 し て い る 状 態 で あ る た め , 早 急 な 防 食 対 策 が 必 要 で あ る .
現 在 の 電 気 防 食 の 設 計 技 術 で は , 寿 命 設 計 に 高 い 精 度 は 期 待 で き な い . そ の 理 由 は 以 下 に 示 す 通 り で あ る .
① 港 湾 施 設 に お け る 流 電 陽 極 法 の 歴 史 は 短 く , 実 構 造 物 の デ ー タ が 十 分 で は な い .
② 陽 極 発 生 電 流 は , 施 設 の 状 況 ( 海 底 面 の 変 動 ) や 水 質 ( 河 川 の 流 入 , 生 活 排 水 に よ る 汚 染 ) に 大 き く 左 右 さ れ る .
③ 陽 極 発 生 電 流 の 低 減 ( 電 流 低 減 率 ) を 推 定 す る 技 術 が 確 立 さ れ て い な い .
あ ら か じ め 現 地 の 環 境 調 査 を 行 い , 環 境 デ ー タ を 設 計 に 反 映 す る こ と は 可 能 で あ る が , 数 十 年 先 ま で の 施 設 の 状 況 や 電 流 低 減 を 推 定 す る の は 困 難 で あ る . ま た , 港 湾 基 準 で は , 耐 用 年 数 に 応 じ て 表-2.2 に 示 す 電 流 低 減 率 を 規 定 し て い る が , あ く ま で 経 験 に 基 づ く も の で あ り , 誤 差 も 大 き い . よ っ て , 施 設 を 健 全 な 状 態 で 長 期 間 維 持 し て い く た め に は , 定 期 的 に 点 検 を 行 っ て 電 気 防 食 シ ス テ ム の 寿 命 を 把 握 し , 計 画 的 に 更 新 し て い く 必 要 が あ る . 電 気 防 食 の 効 果 は 電 位 測 定 に よ っ て 確 認 す る こ と が で き , 岸 壁 か ら 照 合 電 極 を 海 中 に 落 と し 込 む こ と に よ っ て 港 湾 施 設 の 概 ね の 電 位 測 定 が 可 能 で あ る . 一 方 , 電 気 防 食 シ ス テ ム の 残 存 寿 命 は , 犠 牲 陽 極 の 消 耗 量 ( 以 下 , 陽 極 消 耗 量 と 記 す ) か ら 推 定 さ れ る . 陽 極 消 耗 量
表 -2.2 電 流 低 減 率 2 0 )
耐 用 年 数 電 流 低 減 率
5 年 0.60
10 年 0.55
15 年 以 上 0.50
21
を 確 認 す る 方 法 と し て は , ① 周 長 測 定 と ② 質 量 測 定 が あ る . し か し な が ら , 水 中 に 設 置 さ れ た 犠 牲 陽 極 の 消 耗 量 を 調 査 す る た め に は 潜 水 作 業 が 必 要 で あ り , 非 常 に 高 額 な 調 査 と な る . 非 常 に 限 ら れ た 予 算 の 中 で 効 率 良 く 維 持 管 理 を し て い く た め に は , 点 検 コ ス ト を 出 来 る だ け 低 く 抑 え る 必 要 が あ り , 低 コ ス ト で 陽 極 寿 命 が 推 定 で き る 点 検 手 法 の 早 期 開 発 が 望 ま れ る .
以 下 , 流 電 陽 極 方 式 電 気 防 食 シ ス テ ム の 維 持 管 理 に 関 す る 既 往 の 研 究 事 例 を 示 す .
【W.wang ら の 研 究 】21)
W.wang,W.H.Hartt ら は ,(2.9)式 を 用 い た 電 気 防 食 特 性 の 評 価 手 法( ス ロ ー プ パ ラ メ ー タ 法 ) を 提 案 し , 実 験 室 試 験 お よ び 実 構 造 物 試 験 に よ っ て , そ の 有 用 性 を 示 し た . い ず れ の 試 験 に お い ても,カソード電 位 /カソード電 流 密 度 平 面 上 にプロットしたデータは,理 論 直 線 上 を変 化 することを実 証 した.また,図-2.12 に示 すように,実 測 した電 気 量 と,実 測 した被 防 食 体 の電 位 をもとに理 論 式 から推 定 した電 気 量 は,非 常 に良 い一 致 を示 した.これは,施 設 の電 位 測 定 によ って電 気 防 食 システムの残 存 寿 命 が推 定 できることを示 唆 するものである.
図 -2.12 実 測 し た 電 気 量 と 理 論 式 よ り 推 定 し た 電 気 量
【 若 林 ら の 研 究 】22)
若 林 ら は , 被 防 食 体 の 電 位 か ら 犠 牲 陽 極 の 発 生 電 流 ( 以 下 , 陽 極 発 生 電 流 と 記 す ) を 推 定 す る W.Wang ら の 手 法 を 導 入 し , 実 構 造 物 試 験 デ ー タ を 用 い て 陽 極 消 耗 量 の 推 定 を 試 み た . 試 験 は 桟 橋 鋼 管 杭 で 行 わ れ , シ ャ ン ト 抵 抗 内 蔵 の ア ル ミ ニ ウ ム 合 金 陽 極 ( 以 下 , ア ル ミ 陽 極 と 記 す ) を 設 置 し , 陽 極 発 生 電 流 と 被 防 食 体 の 電 位 ( 以 下 , カ ソ ー ド 電 位 と 記 す ) を 連 続 的 に 計 測 し た . 陽 極 消 耗 量 の 推 定 方 法 は 以 下 の 通 り で あ る .
22
実 海 水 環 境 下 に お け る 流 電 陽 極 方 式 の 電 気 防 食 系 で は ,(2.10) 式 が 成 立 す る . R
I E Ec a
a
c I R E
E ・・・(2.10)
Ec: カ ソ ー ド 電 位 Ea: ア ノ ー ド 電 位 R: 極 間 抵 抗 I: 陽 極 発 生 電 流
陽 極 発 生 電 流 と カ ソ ー ド 電 位 ( 陰 極 電 位 ) と の 間 に は 直 線 関 係 が 成 立 し ,Ec-I プ ロ ッ ト は こ の 直 線 上 を 変 動 す る こ と に な る . 電 気 防 食 系 の 設 計 条 件 (Ea,R) が 決 ま れ ば 理 論 式
( 推 定 直 線 ) が 求 ま る の で , カ ソ ー ド 電 位 を 測 定 す る こ と に よ り 陽 極 発 生 電 流 を 算 出 す る こ と が で き る . こ の 陽 極 発 生 電 流 を 時 間 積 分 し て 積 算 電 気 量 を 求 め , 有 効 電 気 量 ( ア ル ミ 陽 極 は 2600A・h/kg) で 除 す る こ と で 陽 極 消 耗 量 の 推 定 が 可 能 と な る .
図-2.13 よ り ,試 験 期 間 を 通 し て ,カ ソ ー ド 電 位 と 陽 極 発 生 電 流 の 関 係 は , 一 定 の 直 線 上 に 沿 っ て 変 化 す る こ と は な く , 推 定 直 線 か ら も ズ レ が 生 じ て い た . 実 際 の 陽 極 発 生 電 流 か ら 求 め た 陽 極 消 耗 量 と 推 定 直 線 か ら 推 定 し た 陽 極 消 耗 量 に は , 約 1 割 の 誤 差 が 生 じ た . こ の 原 因 と し て , 極 間 抵 抗 ( こ こ で は ア ノ ー ド 接 水 抵 抗 ) の 変 化 が 考 え ら れ る .
【 審 良 ら の 研 究 】23) - 24 )
審 良 ら は ,W.Wang ら が 提 案 し て い る ス ロ ー プ パ ラ メ ー タ 法 を 用 い , 実 構 造 物 試 験 デ ー タ を 用 い て 電 気 防 食 特 性 の 評 価 を 行 っ た .
実 構 造 物 試 験 は , 東 京 湾 内 に あ る ジ ャ ケ ッ ト 式 桟 橋 で 行 わ れ た . 防 食 仕 様 は , 海 中 部 が ア ル ミ 陽 極 に よ る 電 気 防 食 , 飛 沫 ・ 干 満 部(L.W.L-1.5m よ り も 上 の 部 分 ) は , 耐 海 水 性 ス テ ン レ ス 鋼 被 覆 で あ る .計 測 用 の ア ル ミ 陽 極 を 水 深-3mと 水 深-12mの 位 置 に 設 置 し て ,陽 極 発 生 電 流 と カ ソ ー ド 電 位 を 連 続 モ ニ タ リ ン グ し て お り , 約 7 年 の 試 験 デ ー タ で あ る .
ジ ャ ケ ッ ト 式 桟 橋 で 実 施 し た 電 気 防 食 試 験 の Ec-Iaプ ロ ッ ト を 図-2.14 に 示 す . 試 験 デ ー 図 -2.13 Ec-I プ ロ ッ ト
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タ と 理 論 直 線 を 比 較 す る と ,水 深-12.0m の 場 合 ,通 電 初 期 の 段 階 で は ,試 験 デ ー タ の 方 が 卑 な 値 を 示 し , 時 間 の 経 過 と 共 に 貴 側 に 推 移 し て い る こ と が わ か る . ま た , 耐 海 水 性 ス テ ン レ ス 鋼 被 覆 近 傍 の 水 深-1.5mの 場 合 は ,通 電 初 期 か ら 貴 な 値 を 示 し て い る こ と が わ か る . 耐 海 水 性 ス テ ン レ ス 鋼 近 傍 の 場 合 に は , ス テ ン レ ス 鋼 に 集 中 的 に 電 流 が 流 れ る . し た が っ て , ス テ ン レ ス 鋼 近 傍 で は カ ソ ー ド の 面 積 が 見 か け 上 小 さ く な る た め , カ ソ ー ド 近 傍 の 電 流 経 路 内 の 電 気 抵 抗 Rcが 無 視 で き な く な る た め で あ る .ま た ,い ず れ の 水 深 の 場 合 も 時 間 の 経 過 と 共 に , 理 論 値 よ り も 貴 側 に 移 動 し て い る 傾 向 が 認 め ら れ る . こ の 原 因 と し て , ア ル ミ 陽 極 の 消 耗 に 伴 う ア ノ ー ド 接 水 抵 抗 の 増 加 , ま た は エ レ ク ト ロ コ ー テ ィ ン グ の 生 成 に 伴 う カ ソ ー ド 近 傍 の 抵 抗 値 の 増 加 が 考 え ら れ る .
(a)水 深 -12.0m ( b) 水 深 -1.5m
図 -2.14 ジ ャ ケ ッ ト 式 桟 橋 で 約 7 年 間 実 施 し た 電 気 防 食 試 験 の Ec-Iaプ ロ ッ ト
2.5 流 電 陽 極 法 の 更 新 設 計
流 電 陽 極 法 に よ る 電 気 防 食 に お い て は , カ ソ ー ド 電 位 が 防 食 管 理 電 位-800mV vs.Ag/AgCl[SW]よ り も 貴 化 し た 場 合 に 寿 命 と 判 定 さ れ , 電 気 防 食 シ ス テ ム の 更 新 と な る . 一 般 的 な 電 気 防 食 シ ス テ ム の 更 新 の 流 れ に つ い て 説 明 す る . は じ め に , 電 気 防 食 シ ス テ ム の 設 計 寿 命 が 近 づ く と , 現 地 の 詳 細 調 査 が 実 施 さ れ る . こ の 現 地 調 査 で は , カ ソ ー ド 電 位 測 定 と 陽 極 消 耗 量 調 査 ( 周 長 測 定 あ る い は 質 量 測 定 ) が 行 わ れ , 消 耗 量 か ら 求 め ら れ た ア ル ミ 陽 極 の 平 均 発 生 電 流 に 基 づ い て 更 新 時 期 が 決 定 さ れ る . 近 年 は 水 質 が 浄 化 さ れ た 影 響
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に よ り , 設 計 寿 命 よ り も シ ス テ ム 寿 命 の 方 が 長 く な る 傾 向 ( 余 剰 設 計 ) に あ る . こ こ で 問 題 と な る の が 更 新 設 計 で あ る .
新 規 設 計 に 関 し て は , 港 湾 基 準 や 『 港 湾 鋼 構 造 物 ・ 防 食 補 修 マ ニ ュ ア ル 』 に 設 計 値 や 設 計 手 順 な ど が 記 載 さ れ て い る が , 更 新 設 計 に 関 し て は 基 準 や マ ニ ュ ア ル 類 が 存 在 し な い . よ っ て ,新 規 設 計 と 同 様 の 手 法 で 更 新 設 計 も 行 わ れ て い る の が 現 状 で あ る .し か し な が ら , シ ス テ ム 寿 命 が 設 計 寿 命 を 上 回 っ た 施 設 に お い て 新 規 設 計 を 適 用 し た 場 合 , 同 様 の 電 流 低 減 率( 表-2.2)が 採 用 さ れ る た め ,2回 目 の 更 新 時 も シ ス テ ム 寿 命 が 設 計 寿 命 を 上 回 る の は 明 白 で あ る . シ ス テ ム 寿 命 が あ た か も 延 び て い る よ う に も 思 え る が , こ れ は 明 ら か な 過 剰 設 計 で あ り , 更 新 コ ス ト を 増 大 さ せ て い る . 設 計 寿 命 に 見 合 っ た 質 量 の ア ル ミ 陽 極 を 設 置 す る こ と が , 更 新 コ ス ト の 適 正 化 に 繋 が る と 考 え ら れ る . そ の た め に は 更 新 時 期 の 電 気 防 食 シ ス テ ム の 状 態 を 把 握 し , そ の 時 の 電 気 防 食 特 性 を 更 新 設 計 に 反 映 さ せ る こ と が 必 要 と な る . 日 本 国 内 に お い て は 流 電 陽 極 法 の 更 新 設 計 に 関 す る 研 究 報 告 は 極 め て 少 な い . 海 外 に お い て は 米 国 の W.H.Hartt ら の 研 究 報 告 の み で あ る . 以 下 に そ の 概 要 を 示 す .
【W.H.Hartt ら の 研 究 報 告 】25) - 26 )
W.H.Harrt ら は ,自 ら が 提 案 す る ス ロ ー プ パ ラ メ ー タ 法 を 用 い て ,更 新 設 計 に つ い て 検 討 し て い る .自 然 短 絡 試 験 よ り 得 ら れ た Ec-icプ ロ ッ ト( 図-2.15)を 解 析 し ,電 気 防 食 特 性 は ,
① 陽 極 発 生 電 流 は 低 減 し た ま ま で 構 造 物 は 低 電 位 を 維 持 し た 状 態( 分 極 状 態 ),② 陽 極 発 生 電 流 は 増 加 傾 向 に あ り ,カ ソ ー ド 電 位 も 上 昇 傾 向 を 示 し て い る 状 態( 部 分 的 復 極 状 態 ),③ ア ル ミ 陽 極 は 完 全 に 消 耗 し , 自 然 電 位 を 示 し て い る 状 態 ( 完 全 復 極 状 態 ) の 順 に 変 化 す る こ と を 示 し た .ま た ,こ れ ら の 状 態 の 時 の 定 常 電 流 密 度 is sを 求 め ,更 に 部 分 的 お よ び 完 全 復 極 状 態 か ら 再 び 完 全 防 食 状 態( 再 分 極 状 態 )に し た 時 の 定 常 電 流 密 度 is sを 求 め ,こ れ ら の 関 係 か ら 更 新 後 の 設 計 防 食 電 流 密 度 i0を 決 定 す る 式 ((2.11) ~ (2.12) 式 ) を 導 き 出 し た .更 新 時 の 電 気 防 食 特 性 を 考 慮 し た 式 で は あ る が ,kσ に つ い て は 現 場 試 験 に よ る 確 認 が 必 要 で あ る .
is s(repol)=1.47×is s(depol)+3.53+kσ ・・・・・・(2.11) i0(repol)=23.1×is s(repol)+32.47+kσ ・・・・・・(2.12)
is s(repol): 再 分 極 状 態 の 時 の 定 常 電 流 値 ,is s( depol): 部 分 的 復 極 状 態 の 時 の 定 常 電 流 値 ,i0(repol): 再 分 極 状 態 の 時 の 設 計 防 食 電 流 密 度 ,k: 定 数 ,σ: 標 準 偏 差