LCC を考慮した港湾施設の維持管理計画に関する検討
国土交通省 中部地方整備局 港湾空港部港湾事業企画課 魚住 研司
(株)建設技術研究所 東京本社アセットマネジメント室 正会員 ○下峠 康宏 (株)建設技術研究所 東京本社アセットマネジメント室 北村 隆理 (株)建設技術研究所 大阪本社道路・交通部 正会員 松岡 利一
1.はじめに
高度経済成長期に建設された港湾施設の多くは、加速的に老朽化が進行すると考えられ、効率的かつ低コ ストとなるように計画的に維持管理することが今後求められる。本検討では、国有港湾施設の詳細調査結果、
補修履歴等をもとに、ライフサイクルコスト(以下、LCC)を算出し、効率的かつ低コストとなる維持管理計 画を立案した。維持管理計画書では、今後の点検実施に必要となるこれまでに実施された補修工事内容を詳 細に反映させ、また、今後の劣化進行を効果的に記録するモニタリングツール(3D損傷図)について検討した。
2.LCC 算出に関する検討
(1)LCC 算出対象施設
LCC
の算出対象は、桟橋式岸壁の上下部工を(1)事後保全型、(2)予防保全 型、(3)巡回監視型(更新のみの管理)で管理した場合について算出した。4 施 設を対象にLCC
を算出したが、本稿では1
施設の算出結果を示す。(2)劣化予測による対策実施時期の検討
劣化予測は劣化度割合による対策時期設定を行った(図 1 参照)後、最終 的には「国土技術政策総合研究所資料
No.523
※1」に示されている理論式を用いた劣化予測手法を用いた。本手法では、劣化予 測開始年から塩化物イオン量が
2.0kg/m
3を超過するまでの年 数をFick
の拡散方程式によって算出し、予防保全実施時期と した。塩化物イオン量が2.0kg/m
3を超過した後は、鉄筋の体積 減少率が設定されている閾値を超過するまでの年数を算出し、事後保全対策実施時期とした(図
2
参照)。予防保全型で管理 した場合の対策時期設定結果を図3
に示す。(3)補修数量の設定
補修数量は、
LCC
算出対象施設の部材ごとの表面積と体積に、港湾技研資料 No.1001※2に示されている補修工法ごとの補修 率を乗ずることで算出した。
LCC
算出対象とした桟橋は各ブロックの部材ま たは要素単位で表面被覆と電気防食が 使い分けられているため、
LCC
算出開 始時点で表面被覆が施されている箇所 と電気防食が施されている箇所では適 用する補修工法を区別し、極力実態と 合った補修数量を算出した。キーワード 港湾施設、劣化予測、LCC、3D 損傷図、維持管理計画
連絡先 〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町 3-21-1 03-3668-4640
図 2 劣化予測結果
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090 経過年
塩化物イオン量(kg/m3) 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25
2010 2020 2030 2040 2050 2060 2070 2080 2090
鋼材体積減少率
予防保全 実施時期
事後保全 実施時期
図 3 予防保全型の対策実施時期
経過年 経過年 部材部材
経過年 経過年 部材部材
全体 全体 上 部 工
床板・渡版 補修なし
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
0 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100
0
100年目 更新 100年目
更新
20年目 電気防食 20年目 電気防食 床板・渡版
補修あり 梁 補修なし
梁 補修あり 下部工
(鋼管)
40年目 電気防食 40年目 電気防食
60年目 電気防食 60年目 電気防食
100年目 更新 100年目
更新
20年間隔 20年目
表面被覆 断面修復 20年目 表面被覆 断面修復
35年目 表面被覆 35年目 表面被覆
50年目 表面被覆 50年目 表面被覆
65年目 表面被覆 65年目 表面被覆
80年目 表面被覆 80年目 表面被覆
80年目 電気防食 80年目 電気防食
100年目 更新 100年目
更新
20年目 電気防食 20年目 電気防食
40年目 電気防食 40年目 電気防食
60年目 電気防食 60年目 電気防食
100年目 更新 100年目
更新 20年目
表面被覆 断面修復 20年目 表面被覆 断面修復
35年目 表面被覆 35年目 表面被覆
50年目 表面被覆 50年目 表面被覆
65年目 表面被覆 65年目 表面被覆
80年目 表面被覆 80年目 表面被覆
80年目 電気防食 80年目 電気防食
20年目 電気防食 20年目 電気防食 20年間隔20年間隔
40年目 電気防食 40年目 電気防食
60年目 電気防食 60年目 電気防食
80年目 電気防食 80年目 電気防食
100年目 電気防食 100年目 20年間隔 電気防食
20年間隔 20年間隔20年間隔 20年間隔20年間隔
図 1 対策実施設定方法 土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
‑439‑
Ⅵ‑220
(4)LCC 算出
LCC
算出結果を図4
に示す。LCCは各維持管 理方針の計算開始から更新にいたるまでの費用を、計算開始から更新までの年数で除した値で比較す る。図
4
から、予防保全型で管理した場合のコス ト縮減効果が定量的に示せた。3.劣化進行モニタリングツール
現況の点検調書の損傷図と損傷写真は、2D 画 像での表現となるので、損傷の発生位置、程度等 の現地状況が把握しづらい場合がある。そこで、
点検時に確認した損傷を継続的に記録するツール として、桟橋上部工を対象に
3D
損傷図を試作し た(図5
参照)。本ツールは、臨場感がある損傷の 発生状況と進行状況を任意の角度と距離から的確 に確認でき、定量的なデータや写真データも合わ せて記録できる。4.維持管理計画のとりまとめ
前項までの検討により、補修履歴を考慮した
LCC
を算出し、予防保全型で管理することで維持管理費用 を縮減できることを示した。また、劣化進行の記録に構造物を3D
画像で再現するモニタリングツールを用 いることで、より的確に損傷状況を把握できる可能性があることを示した。以上を踏まえて維持管理計画書を係留施設の桟橋式岸壁、外郭施設のケーソン式混成堤、重力式護岸、防 潮堤等の
11
の施設でとりまとめた。維持管理計画書のとりまとめにおいては、これまでに実施された点検 調査や補修工事の結果を極力詳細に反映し、現場事務所における今後の点検診断や補修 計画に必要な情報を網羅することを心がけ た。図
6
に示すように点検診断記録表は、より詳細な補修情報を載せることで補修箇 所と未補修箇所を明確に認識して今後の損 傷進行を評価することができる。
参考文献
※1)国土交通省国土技術政策総合研究所:国土技術政策総合研究所資料
No.523 道路橋の計画的管理に関する調
査研究―橋梁マネジメントシステム(BMS)―,2009※2)独立行政法人港湾空港技術研究所:港湾技研資料
Vol.1001 桟橋の維持補修マネジメントシステムの開発,
2001
劣化進行
平成 20 年度時点 平成 25 年度時点(例) 図 5 損傷進行モニタリングツールによる損傷図作成例
図 4 LCC 算出結果
0 5 10 15 20 25 30 35 40
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
経過年 累
計 事 業 費(
億 円)
事後保全型 予防保全型 巡回監視型
合計費用:
34.5
億円 年間費用:0.43
億円/
年合計費用:
34.7
億円 年間費用:0.35
億円/
年 合計費用:18.3
億円年間費用:
0.52
億円/
年維持管理シナリオ 事後保全型 予防保全型 巡回監視型 更新までの累計費用 34.5億円 34.7億円 18.3億円 年間当りのコスト 0.43億円/年 0.35億円/年 0.52億円/年 年間当りのコストの比率 1.00 0.80 1.21
全体図(任意の角度で表示可能)
図 6 点検診断記録表
補修鋼板溶接部詳細 防食パネル設置展開図
a開孔 aひびわれ50%以上
b孔食 b3mm未満のひびわれ
c発錆 c点状の錆汁
d変状なし d変状なし
点検診断記録表
上 部 工 鋼
管 杭 点検診断記録表
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)