第2章受身文の構造と要素
本章では,第1章1.1で,簡単に説明した「意味・構造的なタイプ」について,より詳し い理論的説明を行う。特に,体系,構造,要素という概念について具体的に説明することで,
本研究の理論的立場を示す。ここでの構造,要素,体系といった概念に対する理解は,多く を奥田靖雄の言語学に依っている。さらに,本研究では,奥田靖雄の連語論を軸に受身文の 意味・構造的なタイプを立てている。そこで,受身文の構造について具体的な記述を進める 前に,奥田靖雄の言語学及び連語論について簡単に紹介したい。この際に,近年,アメリカ をはじめとする言語学界で注目されつつあるGoldberg 1995の構文文法論を概観し,奥田の 文法論と比較しようと思う。両者の構造観を比較しながら,その共通点と相違点を明らかに
し,本研究の理論的な支えとなっている構造,要素,体系といった概念にっいて議論を深め
ていく。
1
「意味・構造的なタイプ」とは
言語の意味は,多くの場合,必ず何らかの言語形式によって支えられている。よく,多義 語や多義の形式の意味について論じられる際に,「いずれの意味であるかは文脈によって判断
される」などという言い方がされる30。しかし,私たちは決して,個別の,偶然的な「文脈」
によって,ある言語作品の意味を解釈しているわけではない。そこに何らかの一般化された 言語形式の支えがなければ,意味を読み取ることはできない。
ソシュールは,言語記号は所記(シニフィエ)と能記(シニフィアン)の結合であるとし た。ソシュールにとって,この定義は言語のもっとも基本的な単位である「語」についての
ものであった。しかしながら,発話の基本単位である文も,またその文が連なった文脈も,
所記と能記の結合した広義言語記号と考えられるのである。文ないし文脈にとっての能記が,
構造=広義言語形式である。そして,この構造は,所記すなわち意味=内容を持っているので
ある。
本研究は,シンタグマティックな体系31としての文が,くり返し発話されることにより,
構造的なタイプとして,いわば「型=パターン(シェーマ)」として抽象化・一般化され,そ 30しかも,ここにおける「文脈」という語は,必ずしも連文のテクストを指すわけでもなく用いられる。
31奥田靖雄の用語。要素=部分と構造=結びつきのパターンが合わさって1っの統合的体系=全体が成り立って
いる。
うした構造(の型)が意味を持っという理論的立場で記述を進める。文の表わす意味は,こ れを構成する要素の意味の単なる総和ではない。全体としての構造もまた意味を持ち,構造 の意味と要素の意味とが相互に影響しあっている。そして,構造の意味と要素の意味との弁 証法的な相互作用の結果,全体=統合的体系の意味が生まれるのである。この,意味を持っ た有限の構造の型のことを「意味・構造的なタイプ」と呼んでいる。
また,こうした意味・構造的なタイプは,異なる意味・機能及び構造的特徴でもって相互 に対立し,同時に共通の意味・機能及び構造的特徴でまとまりながら,パラディグマティッ クな体系(ネットワーク)を成している。この体系内では,対立しているタイプ同士はある 構造的な条件のもとで相互に近づき,移行し合うというダイナミックな関係にある。
本研究は,第1章2.4でまとめたような問題点をふまえて,主語の別,動作主の別,動詞 の語彙的な意味,項の数,テンス・アスペクトといったさまざまな要素が統合された構造的 なタイプを分類していくことで,記述を進め,現代日本語共時態における受身文の体系を探 っていく。そこで,以下では,さまざまな要素が統合された意味・構造的なタイプとはどの ようなものか,また,こうした1っ1っのタイプをどのように体系に位置づけるのかという,
本研究がとる方法論について,用例を用いて具体的に述べていく。
1.1 本研究の具体的な方法論
従来の研究で文の構造を構成する要素として考えられてきたきたものは,主に名詞句,動 詞句といった文中成分の「品詞の別」と「格体制」,及びそれらの成分の述語との関係を示す
「意味」(動作主,対象など)と「機能」(主語,述語など)であろう。すなわち,日本語の 他動詞文の構造であれば次のようなものである。
(1) NP・ガ NP一ヲ V一スル
動作主[主語】 対象[補語] 働きかけ[述語】
これに加え,「語順」もまた,暗黙的にであれ,文の構造にとって重要な要素と見なされる ことが多いだろう。
非常に上位のレベルで文のタイプを捉えるのであれば,こうした特徴だけで十分である。
しかしながら,第1章2.3で見たように,様々な受身文タイプが指摘される中,より下位の レベルの,詳細な文タイプの一般化が必要になっている。こうした細かい文タイプの記述に とっては,さらに多くのさまざまな特徴を構造の要素として考えなければならなくなる。以 下では,意味・構造的なタイプを取り出す際に,文のどのような文法的特徴を要素と見なす かについて,具体的に述べていく。そして,取り出したタイプの間の相互関係をどのように 考察するかについて述べる。
1.1.1
タイプ(構造の類型)を取り出す
ここでは,まず,先の第1章2.3.1で「心理・生理的状態を表わす受身文」としたタイプ を例にとって,このタイプの構造にっいて考えてみる。「心理・生理的状態を表わす受身文」
とは,次のような受身文である。
(2)和夫は{自分の性癖に/リュウマチに/人員の不足に}悩まされている。
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(3) 「夏用の離宮ですの。うんざりするような観光地。でも,薄麹繊叢には,やっぱりびっくり させられますわ」(ドナウ)
(4) 「(徳川)繭が江戸に幕府を開いたのは懸嚢磯叢麟灘謹に魅せられたから。さらに、富 士見は不死身に通じた」(毎日)
(5)昨日と同じに、匡亙は鞍⑬態繕に気圧されるのを感じた。(点と線地)
第1章2.3.1でも述べたように,これらの受身文は,二格で現れる行為者が非情物=原因 であるという特徴を持っているのが分かる。この二格の非情物=原因は明示されるのが普通 で,前後文脈から明らかな場合以外は,省略することができない補語と考えられる。次のよ うに,原因が明示されなければ,文の意味が完結しない。「何に?」と聞き手は聞き返したく なるだろう。
(6)?和夫は悩まされている。
また,「心理・生理的状態を表わす受身文」と名づけたように,こうした受身文のほとん どが,「苦しめられる,悩まされる,困らされる,さいなまれる,焦らされる,いらいらさせ られる,圧倒される,満たされる,魅了される」などの「心理・生理的状態」を表わす動詞 で構成される。
さらには,このタイプの受身文では,対応する能動文が不自然な表現になるか,成立しな い場合が多い。(2)一(5)に対応すると考えられる能動文を挙げてみる。
(7) {特異な性癖が/リュウマチが/人員の不足が}和夫を悩ませている。
(8)夏用の離宮ですの。うんざりするような観光地。??でも,その広さが,やっぱり私をびっく りさせますわ。
(9)??家康が江戸に幕府を開いたのは富士の美しい眺望が彼を魅せたから。
(10)*彼の態度が三原を気圧す。
以上の特徴は,すべてこのタイプの受身文を構成する要素の1つ1つである。構造を図式 的にまとめると次のようになる。このタイプは「心理・生理的状態型」と名づけた。
(11)心理・生理的状態型
有情者一ガ 非情物一二 心理・生理的状態動詞ラレル
象語
対主 原因
補語
心理・生理的状態にある
述語 ●能動文が不自然
もう1つ,別の受身文タイプを例にとって説明を続ける。次のような受身文である。
(12)灘一灘灘藩に囲まれた近郊の国立公園では、カンガルーやコアラを野生の姿で観察できる。
(毎日)
(13)丁度干潮時で、澄みきった洋上に直径六〇キロの広さを持っ大環礁が、白々と砕ける波にふ ちどられて浮き出し、その中に、灘繊簸講1識s緑におおわれた大小さまざまな島々が散在し ているのが見えた。 (戦艦武蔵.地)☆
(14)鉄淫遼鑛繋拳の懲鞠に挟まれた一路を通り抜けて、橋を一つ渡ると町の光景がにわかに変る。
(樹々は緑か.地)☆
(15)川中に灘灘に包まれた大きな洲があった。 (金閣寺.地)☆
(16)E≡三亘ヨがあった。両側を購鞭鑓雛に区切られて独立し、芒が馬の量のように、頂上まで葡 い上っていた。 (野火.地)☆
これらの受身文は,二格で現れた非情物の実体を主語にして能動文で述べることが可能で ある。ただし,多少なりとも不自然な文になることもある。
(17)ユーカリ林が近郊の国立公園を囲んでいる。
(18)みずみずしい緑が大小さまざまな島々をおおっている。
(19)鉄とセメントの建物が街路を挟んでいる。
(20)竹藪が大きな洲を包んでいる。
(21)?細い支流が一つの丘の両側を区切っている。
この種の受身文は,非情物が主語に立ち,かつ非情物が行為者である受身文であると見な せる。受身文全体の意味は,主語に立っ非情物と行為者である非情物との位置関係を表わし
ている。2つの実体の間の位置関係を表わしているので,行為者である非情物は構造上必須 の成分であると考えられる。
動詞は,主に包囲を表わす動詞が要素となる。
また,能動文では文末をすべてラレテイル形にしたように,テンス・アスペクト的には先 行する変化の局面をもたない,「特性」32を表わす文である。
さらに,手元の用例を見る限りでは,多くの例が「V・ラレタ+名詞」という連体節構造で 現れており (約100例中およそ6割),連用中止に現れた例を除くと,文末終止の位置に現 れた例は少ない。
以上述べた特徴を,構造として図式的にまとめると次のようになる。このタイプは,「位 置関係型」と名づけた。
(22)位置関係型
非情物一ガ 非情物一二33包囲動詞一ラレテイル
象語
対主 行為者34 補語
位置関係にある
述語 ●ラレタ+名詞で現れることが多い 以上,意味・構造的なタイプを取り出す際に,受身文のどのような特徴を構造の要素と見 なすかという点について具体的に述べた。
1.1.2
タイプ間の相互関係を見る
次に,こうした受身文が,受身文,ラレル文,さらには自動詞系列の文の体系の中でどの
32 「特性」とは奥田靖雄のアスペクト論の用語で,先行する変化が含意されない,実体が恒常的に持っ性質を表 わすアスペクトである。この「特性」のアスペクト的意味は,工藤1995で「単なる状態」と命名されたため,一 般には「単なる状態」という用語が認識されている。しかし,奥田にとって「(ただの)状態」とは,「ふるえる,
しびれる,いたむ,うずく」のような人間の生理的な現象をとらえる動詞,または「いらだつ,あきれる,おど ろく,こまる」といった心理的な現象をとらえる動詞が表わすような時間的カテゴリーである(奥田1994:38)。
これらを「状態動詞」とも呼んでいる。こうした動詞が表わすアスペクトが「ただの状態」であり,実体に恒常 的にそなわった性質とは区別される。
33なお,ここに挙げた用例にはなかったが,行為者はデ格やニヨッテで標示されることもある。
34位置関係型は,実体Aと実体Bとの位置関係を表わすだけなので,二格名詞句は因果連鎖の始点とはいいにく く,「行為者」という意味役割は当てはまらないだろう。しかし,位置関係型の2つの参与者の表わす意味が何で あるか,いまだ確定できないので,便宜的に「行為者」としておく。
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ような位置にあるのか,考えてみたい。まず,〈心理・生理的状態型〉から見ていく。
行為者が非情物の原因である心理・生理的状態型は,次のような心理・生理的状態を表わ す自動詞文に体系上近接していると考えられる。次の自動詞文に現れている二格も非情物の 原因である。
(23)和夫は{自分の性癖に/リュウマチに/人員の不足に}悩んでいる。
この種の受身文タイプが自動詞文に近接していることは,対応する能動文が不自然である か,成立しないという構造的特徴にも表われている。「気圧される,ひかれる,つられる,ほ だされる,うなされる,当てられる」などの動詞は対応する他動詞が存在せず,ほとんど自 動詞化していると言える。
このように,〈心理・生理的状態型〉は,自動詞文と相互関係を持つ一方で,動作主が有情 者である通常の受身文とも相互関係を持っている。〈心理・生理的状態型〉では,本来的に心 理・生理的状態を表す動詞のほか,通常の動作動詞もしばしばこのタイプを構成する。「押さ れる,打たれる,引かれる,縛られる」などの動詞は,本来,接触動詞であるが,二格に非 情物の原因をとることで,心理・生理的状態を表す受身文へ移行する。
(24)和夫は良子に{打たれた/押された}。
(25)和夫は良子の熱意に{打たれた/押された}。
また,「追われる,迫られる,駆られる,つきまとわれる,見舞われる,おそわれる」など,
多くの接近動詞が非情物の二格と共起することで,〈心理・生理的状態型〉へ移行する。
(26)和夫は良子に{追われた/つきまとわれた}。
(27)和夫は{仕事に追われた/漠然とした恐怖につきまとわれた}。
さらに,「あたえられる,うばわれる,とられる」などの所有変化を表わす基本的な動詞で も,主語に立つ有情者の心理・生理を表わす名詞がヲ格に立っことで,〈心理・生理的状態型〉
へ移行する。ただし,かなり慣用的な組み合わせもある。
(28)和夫は両親に自分の部屋を{あたえられた/うばわれた/とられた}。
(29)和夫は彼女の態度に{違和感をあたえられた/心をうばわれた/気をとられた}。
こうした動作動詞による〈心理・生理的状態型〉の多くは,対応する能動文を持っていな い。すなわち,こうした移行関係は,受身文の体系に特有のものであると言えるのである。
さて,本研究では,受身文を主語と動作主の有情・非情の別によって大きく4つのタイプ に分けている。それぞれ,「有情主語有情行為者受身文」,「有情主語非情行為者受身文」,「非 情主語一項受身文」,「非情主語非情行為者受身文」と呼んでいる35。このうち,非情主語一 項受身文は,主語が非情物で行為者が有情者である受身文だが,有情行為者が明示されるこ
とがほとんどなく,一項述語として述べられることが圧倒的に多いので,これを非情主語一 項受身文と呼んでいる。
〈心理・生理的状態型〉は,有情主語非情行為者受身文である。受身文の体系内では有情 主語有情行為者受身文の一部のタイプと移行関係にあり,また,心理・生理的状態を表す無 意志自動詞文とも相互移行関係にある。簡単に図式化すると次のようになる。
35このうち,有情主語有情行為者受身文は第1章2.2で見た〈被動者主役化受身〉に,非情主語一項受身文は〈脱 他動化受身〉にほぼ相当する。
有情主語有情行為者受身文
(接触動詞,接近動詞,所有変化動詞)
有情主語非情行為者受身文(心理・生理的的状態型)
非情主語一項受身文
無意志自動詞文
非情主語非情行為者受身文
図1:心理・生理的状態型と他のタイプ
矢印が表わすように,有情主語有情行為者受身文と〈心理・生理的状態型〉との移行関係 は一方向的である。有情主語有情行為者受身文はより具体的で物理的な動作を表わすもので あるのに対し,心理・生理的状態とは,視覚で捉えられる動作ではなく,より抽象的である からである。また,〈心理・生理的状態型〉から無意志自動詞文への移行も一方向的である。
ラレル動詞が自動詞化することはあっても,自動詞がラレル文化(受身文化)することはな いと考えられるからである。
次に,〈位置関係型〉の位置づけについて考えてみる。〈位置関係型〉を構成する包囲動詞 は,有情者が主語に立ち,行為者が有情者である次のような受身文にも現れ,こうした受身 文が表わす事態はより物理的であり時間性を持っている。この包囲動詞による有情主語有情 行為者受身文は,先に(26)として挙げた接近動詞による受身文に意味・構造的に近いので,
これと同じタイプと見なした。これを〈被接近型〉とする。
(30)「(見据えて)さっき、鑛繍講鞭雛讃に囲まれた」(砂の上の恋人たち)
(31)ロシア革命後、第二次世界大戦までの時期には、社会主義国家はソ連一国に代表されていた だけであり、匡亟目が繋辮鍵義諸国に包囲されていた。(二十世紀)
次の例は,〈位置関係型〉と〈被接近型〉との中間的な例である。(32)は「人波」という動 作主自体が人格性を持っていない上,「の間に」という形式で表示されていることから,非情 物の行為者に近づいている。(33)は,建物の間の位置関係とも言えるが,実体が組織や団体
を表わしていると見れば,有情者性を多少なりとも持っていると言える。
(32)圏は目を閉じて鐵澱の間にはさまれながら、一歩、二歩、三歩ぐらい進んで、また固いもの に突き当った。 (黒い雨.地)☆
(33)北九州ジムは国鉄小倉駅から十分ほど歩いたところにあった。縫綾璽灘欝灘繊繋欝にはさま れながら、辛うじてその存在を主張しているといったかたちの間口が二間あるかないかの小 さなジムだった。(一瞬の夏.地)☆
包囲動詞が対象に非情物を取ると,状態変化のような受身文を構成する。次の例はすべて 状態変化の後の結果状態を表わしている。波下線を引いた非情物のデ格や二格は,行為者的 でもあるが,道具であると考えられ,これは何らかの有情者の動作主が引き起こした変化の 後の結果状態であると見なせる。ただし,(36)は動作主や先行する変化がほとんど意識され ておらず,ほとんど「特性」のアスペクトである。
(34)ぎんは立ち上り男に命じられるままに白い布で囲まれた部屋の片隅へ入った。(花埋み.地)
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(35)『砂糖入りの甘いお汁粉』というビラが下手糞な墨の字で書かれて、その下に、『但し本日は 五人限り』と断わり書きがしてあった。[亘ヨは竹の棒に挟まれて地面に突きさされてあった。
(あすなろ.地)☆
(36)修一郎はセロファン紙に包まれている花束をテーブルの上においた。 (冬の旅.地)☆
また,包囲動詞による受身文は,二格の行為者に現象名詞が立つと,自然現象を表わす受 身文を表わす。これは,主に「おおわれる,つつまれる」という動詞である36。こうした受 身文は,「陽に照らされる」,「風に吹かれる」等と同じタイプであり,〈現象受身型〉と呼ん
でいる。
(37)やがて時間の経過とともに、雲がおりて来て、山という山は繋におおわれ、そして吹雪にな るのだ。 (孤高の人.地)☆
(38)僕は夜明け前に目を覚まして、固が糠撚雛にすっぽりと包まれていることを知った。 (世界 の終わり.地)☆
以上見てきたことを,先のおおまかな体系図にまとめると,次のようになる。
有情主語有情行為者受身文(被接近型)
有情主語非情行為者受身文
非情主語一項受身文(状態変化型[結果状態])
非情主語非情行為者受身文 (現象受身型)
(位置関係型)
図2:位置関係型と他のタイプ
〈位置関係型〉は, 〈被接近型〉, 〈状態変化型〉, 〈現象受身型〉といった他の受身文 タイプに対してもっとも抽象的な受身文である。これは,位置関係型が,意志や力を持った 動作主らしい行為者を持たず,具体的な時間性を失い,動詞文らしさを失っていることから も分かる。よって,位置関係型と他の3つの受身文タイプとの移行関係は一方向的であると
言える。
また,(32)や(33)のように,構造を構成する要素の特徴によって,1つのタイプAが別 のタイプBにある側面で近づき,中間的な例となることがある。このような例の存在は,構 造と要素の関係が静的なものではなく,ダイナミックな相互関係を持っていることを表わし ている。すなわち,いったん出来上がった構造はその構造の要素たるべく,その構造に入る 要素に働きかけるのであるが,やはり構造は1つ1つの要素の質に規定されているので,あ る要素の質が変われば,別の構造へと近づいていくのである。さらに,こうした中間例は,
36さらに,小説の地の文というテクストジャンルに限られるが,次のように人物の身体特徴を描写する受身文が ある。これは,最初の2例のように,当該行為を行った有情者の動作主が存在せず,先行する変化が意識されな い受身文と,最後の例のような,状態変化の後の結果状態を表わす受身文にまたがっている。
・ しかし老師のふくよかな鐡に囲趣垣]は、何の感興もあらわさずに、私を経て隣りの顔へ移って行った。
(金閣寺.地)☆
・ 紺色のセーラー服に似た洋服を着て、女子高校生の年頃である。白粉気のない薄桃色の顔はり撰善で覆われ ているようにみえた。(植物群.地)
・ 一方、隣に灘羅のジョー灘に包まれて、しかし明らかに首をしゃっきりさせて乗っているその姉龍子のほう は、そんな職人の挨拶にはてんで気がつかないようだった。(楡家地)
あるタイプと別のタイプとの関係もまた,静的なものではなく,ダイナミックな関係である ことを表わしている。あるタイプと別のタイプとの間には,要素が変更されることで移行す るというダイナミックな関係が保たれているのである。
以上,どのように1つ1つのタイプの間の相互関係を考察するかという点について具体的 に述べてきた。本研究は,以上のようにしてすべての受身文タイプを他のタイプと関連付け,
その相互関係を見ることで,受身文全体の体系(ネットワーク)を明らかにしていく。
1.2 受身節の内部構造
ここでは,上の1.1で述べた方法論をふまえて,受身文の意味・構造的なタイプの内部構 造を構成する要素にどのようなものがあるかをまとめる。
ここで内部構造と呼ぶのは,主語と述語を備えた1つの節単位に含まれる構造である。節 単位を超えた構造的特徴については,外部構造として次の1.3で述べる。
なお,受身文の研究では,事態に関与するもっとも重要な参与者の2つを,主語と行為者
(動作主)という呼称で呼んでいる。主語とは,ある名詞句の文内における成分としての機 能であり,行為者とは,名詞句の動詞に対する関係的な意味のことで,レベルの異なる呼称 である。しかしながら,受身文の場合,主語は意味的に「対象」であるとは限らず,いわゆ る相手の受身や持ち主の受身,はた迷惑の受身では,対象以外の名詞句が主語に立っている。
よって,こうしたさまざまな関係的意味を有する参与者を統一的に指示するには「主語」と 呼ぶのが便宜的に都合がよい。一方,行為者(動作主)の方は,文内では補語であったり修 飾語であったりするため,これは「行為者(動作主)」という呼称の方が統一的な呼び方にな
る。このような理由で,本稿でも受身文の表わす事態に関与する第一参与者を主語,第二参 与者を行為者(動作主)と呼ぶことにする。
また,本研究では,Foley&Van Valin 1984で提唱されたmacroroleとしてのActorの訳 語として「行為者」を用いる。すなわち,意志の有無や有情か否かに関わらず,広く因果連 鎖(causal chain)の始点と考えられるものを「行為者」と呼ぶ。特に必要な場合は,有情 行為者を動作主(Agent),非情行為者を原因(Cause)と呼ぶ。
1.2.1 主語
先に第1章2.1で述べてきたように,受身文のもっとも上位レベルの意味・機能的対立を 支える構造的特徴は,主語が有情者であるか非情物であるかという別である。この,人名詞 かモノないしコト名詞かという違いは,名詞の語彙的な意味(カテゴリカルな意味)である。
(39)匝]は,雛にたたかれた。
(40)新しい駅ビルが建てられ,匡Σミ]が配られた。
ただし,有情者と非情物という対立は裁然と分けられるものではなく,意志と感情を持っ た人格者としての人名詞から人格性が無視された人名詞まで様々である。こうした主語の「有 情者らしさ」も,構造全体の意味・機能に影響する。本研究における「人名詞(有情名詞)」
については,本章3.2で詳しく議論している。
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また,主語に立つ名詞のラレル動詞との関係的な意味(いわゆる意味役割)も構造の特徴 として重要である。非情物が主語に立つ場合は,ほとんどの受身文でこれは単に「対象」を 表わすと言えるだろう。これに対し,有情者が主語に立つ受身文では,主語に立っ有情者は,
元の動詞との関係では対象(被動者)であり,ラレル動詞との関係では受影者であることに なる。つまり,(39)のような受身文の主語は「対象=受影者」であると考えられる。
1.2.2 行為者
受身文の表わす事態には,主語に立つ名詞句以外に,必ず行為者が含意される。この行為 者が人名詞かモノないしコト名詞かという違いも,受身文のタイプにとって重要な特徴であ る。行為者は,人間の動作主であることが多いが,1.1の方法論でも見たように,抽象名詞 や現象名詞が二格(ニヨッテ,デ格)に立っ場合もある。
(41)匝]は,鑛鍛麟懇灘に悩まされている。
(42)[麺ヨが繭に打たれ,購に吹かれて舞っている。
ただし,行為者の場合も,有情者であっても非常に動作主性が高い場合と低い場合がある。
特定の個人の有情者で,意志と感情といった人格性を持ち合わせた有情者がもっとも動作主 性が高いと考える。これに対し,動作主が特定の個人ではなく,組織や団体であったり,不 特定多数の一般の人々である場合は,動作主性は低くなる。すなわち,行為者の「有情者ら
しさ」も,構造の特徴づけに関与していると考える。
また,こうした行為者が,文の構造にとって必須の成分か否かということも,重要である。
対象が非情物で行為者が有情者の場合,行為者の存在は不問に付されていることの方が圧倒 的に多い。これに対し,有情者が主語に立つ場合は,動作主も明示されるか文脈から明らか であることが多い(志波2006)。よって,このような行為者の必須性も構造の特徴になって いると考えられる。
1.2.3
動詞の語彙的な意味
1.1の方法論では,〈心理・生理的状態型〉と〈位置関係型〉の構造的特徴を考察した。こ のとき,受身文タイプの表わす意味にとって重要な要因となるのが,動詞の語彙的な意味(カ テゴリカルな意味)である。すなわち,〈心理・生理的状態型〉は心理・生理的状態動詞で構 成され,〈位置関係型〉は包囲動詞で構成されるということが,このタイプの表わす意味を決 定付けている。受身文タイプを分類する上での基準となる動詞の分類については,本章3.1 で議論している。
1.2.4
文中成分の語彙的な意味と関係的な意味
受身文中には,主語と行為者以外にも,その構造を特徴づけている様々な成分がある。こ うした様々な成分の語彙的な意味と関係的な意味も,文の構造にとって重要な要素である。
例えば,言語活動動詞による次のような受身文は,ヲ格,ト格,ニツイテなどで表わされる 抽象名詞句,ないし一トで導かれる引用節が発言内容を表わし,これが構造にとって義務的な 要素である。
(43)匡垂ユ]は,饗に{子供のことを/子供が欲しいと}言われた。
しかし,動作の様態を表わす副詞句を伴うと,発言内容がなくとも意味的に完結すること
がある。
(44)匡i亘]は,灘親にガミガミ言われてばかりだ。
このように,ある場合には副詞句も,構造の特徴的な要素となる。
1.2.5
能動文との対立の仕方
受身文がどのように能動文と対立するのか,ということも,構造にとって重要な要素であ る。1.1の方法論でも見たが,〈心理・生理的状態型〉は,「生活に追われる」,「彼女の態度 に気圧される」など,対応する能動文を持たない受身文も少なくない。これは,このタイプ の構造にとって重要な特徴である。また,鈴木1972が提唱した〈相手の受身〉,〈持ち主の 受身〉,〈第三者の受身〉などの分類37は,当該事態に関わるいずれの参与者が主語に立っの か,という分類であるが,対応する能動文との関係で見れば,〈相手の受身〉は能動文の相手 二格が主語に立ち,〈持ち主の受身〉では対象の所有者が主語に立ち,〈第三者の受身〉は対 応する能動文を持たないのいずれの成分が主語に立つのか,という分類になている。このよ
うに,受身文が能動文とどのように対立するか,という観点も要素として取り入れなければ
ならない。
1.2.6
行為者の標示形式
受身文研究では,行為者の標示形式と受身文の意味・機能との関係が議論されることがあ る。特に,Kuroda 1979は,受影の意味が表れる受身文を二受身文,受影の意味のない受身 文をニヨッテ受身文として,行為者の標示形式を意味の違いの重要な特徴と見なしている38。
(45)団が日繋繋に破壊された。
(46)回が口繋難によって破壊された。
しかし,受影の意味の表れを動作主の標示形式に第一義的に求めるのは難しいだろう。(39)
と(40)の対立に比べて,(45)と(46)の対立で意味の違いを読み取るのは困難である。有情有 情受身文の行為者標示が基本的には二格であり,非情一項受身文で行為者を表示する場合は ニヨッテが用いられやすいことは確かだろうが,この標示形式の違いは,両タイプの意味の 違いを決定づけるものではない。さらに言えば,受影の意味を帯びるか否かは,構造を構成 する様々な要素の相互作用による。よって,行為者の標示形式のみが例外的でも,他の要素 が有情主語有情行為者受身文の特徴を持っているのであれば,その受身文は受影の意味をそ れほど失っていないはずである。
動作主の標示形式には,この他,カラ格,「現象IN一デ」,「AN一ノ身体部位一デ」などがあ
る。
(47)図は,事件のことを懸親から知らされた。
(48)蛭]力轡で覆われている。
37第1章2.Ll参照。
38これは,井上1976の動作主の標示形式と意味の表れに関する議論に影響されたものであるが,議論の内容は,
松下1930の発想に非常に似ている。
30
(49)[亟は,糠の手で境内に運ばれた。
また,動作性名詞が主語に立つ場合は,その動作性名詞の規定語としてノ格ないし一ニヨル で表わされることもある。
(50)麟劉こよる圏が続けられた。
こうした行為者の標示形式は,受身文のタイプによって使い分けられているのであるが,
本研究ではその点に踏み込んだ分析を徹底させることができなかった。受身文タイプと行為 者標示形式のより詳しい議論は,今後の課題としたい。
1.2.7 テンス・アスペクト
すべての受身文タイプにとって,テンス・アスペクトの特徴が重要なわけではないが,ある 種の受身文タイプでは,テンス・アスペクト的に特徴的なものがある。第1章2.3.6の属性 叙述受動文は動作主が不特定多数の一般の人々であったが,こうした動作主の一般性と連動 して,この文のアスペクトは反復アスペクトの習慣的な事態を表わしている。また,第1章 2.3.2で見た状態受身は結果状態ないし存在様態のアスペクトであるし,先に1.1で見た〈心 理・生理的状態型〉や第1章2.3.3の現象受身やも,状態的な作用(動き)である。
(51)窓際に囮が飾られている。(状態受身(存在様態))
(52)亟は隷繋鱒蒸難に悩まされている。〈心理・生理的状態型〉
(53)囲が繊磯鐡に照らされて,ゆれている。〈現象受身型〉
さらに,1.1の方法論で見た〈位置関係型〉は,先行する変化が存在せず,時間軸上に起 きた出来事としては位置づけられない,超時的な事態を表わしている。
(54)この国は海に囲まれている。〈位置関係型〉
このように,文のテンス・アスペクトもまた,受身文タイプを特徴づける,構造にとって の要素になると考える。
1.2.8 主題性
受身文の主語は,それに焦点を当てたいという積極的な理由で主語に立っている場合と,
動作主を背景化するために主語から降ろした結果,「一般に,ガ格を含まない表現が許されな い(例えば「*事故の原因を発表された」)ので,付随的にガ格以外の名詞句のガ格への昇格 が起こる」(益岡1987:183)場合がある。
(55)このビルは,ランドマークと呼ばれている。
(56)その日は,広場で[亟1が行われ,匡亟璽】が鳴らされた。
(55)のような受身文タイプや第1章2.3.6で見た属性叙述受動文などは,通常,主語が「ハ」
で主題化されて表れる。一方,(56)のような受身文の主語は主題化されないのが普通(デフ オルト)である。
また,受身文ではほとんどの場合,対象(被動者,受影者)が主題化されるのだが,ある 種の受身文タイプでは,行為者である二格名詞句が主題化されることがある(第1章2.3.8
参照)。
(57)雛灘には,ビタミンCが豊富に盒⊇亙。
(58)馨量難雛繋欝鞭纏難糠議には,近代国家のイデオロギーが凝縮されている。
こうした受身文に現れる二格名詞句は基本的に非情物で,意志的な行為者とは大きく異な る。意志的な有情者が行為者である通常の受身文では,二格名詞句が主語に語順上先行し,
主題化されるようなことはほとんどない。こうした,二格名詞句が主題化されるという構造 的特徴は,この種の受身文が存在文に近いタイプであることを表わしているのだろう。
このように,名詞句の主題性も,受身文の構造にとって要素となる。
1.3 受身節の外部構造
ここで外部構造と呼ぶものは,1つの節単位を超えたところにある構造的特徴である。外 部構造には,当然様々なレベルがあり,一文内におさまるレベルから,前後2文の連文構造,
さらには,いくっもの文が連なった文脈39もまた,外部構造である。だが,ここでは,まず は一文内におさまるような構造的特徴を受身節の外部構造として考えていく。
例えば,有情主語有情行為者受身文である〈被動者主役化受身〉は,話し手の視点の置か れた有情者(実際には多くの場合話し手自身)の主観的な感情を表わす外部構造に,要素と
してなじみやすい。主観的な感情を表わす外部構造とは,例えば次のようなものである40。
(59)「V一ても困る」:そんなこと言われても困る
(60)「V一たくない」:年下に見られたくない
(61)「V一のは嫌だ」:たたかれるのは嫌だ
(62)「V一たら大変だ」 あの仕事を頼まれたら大変だ
これに対し,非情主語一項受身文である〈脱他動化受身〉がこうした外部構造の要素とな ることはまれである。
また,「要求的態度動詞」が要素となる次のような受身文は,「V一ラレテ意志V」スル」と いう外部構造で用いられることが多い。
(63)匝]は,難1に頼まれて,コピーをとった。
また,先に第1章2.3.7で触れた「形容詞相当の受身」や第1章2.3.5の「一ト呼ばれる」
のような受身文は,主語相当の名詞句が被修飾語になった連体節の外部構造で用いられるこ
とが多い。
(64)限られた時間で何ができるか考えよう。
(65)駅前に,ランドマークと呼ばれるビルがあります。
39受身文を取り巻く文脈にも一定のパターンがあり,これが外部構造となって,要素としての受身文に対し,そ の構造にふさわしい要素(意味・機能)たるべく働きかける。つまり,ある受身文のタイプとその外部構造は相 互に影響し合い,受身文のタイプと外部構造の間には一定の関係が成立するものと考える(村上1983:30)。
40このうち,(59)と(60)は,受身文の主語が視点のある有情者でなければならない。
32
この他,受身文の主語相当名詞句が前後文の述語の主語と同一一か否かということなども,
外部構造に関わる問題である。先行研究では,「主語をそろえるため」に受身文が用いられる と言われることがあるが,こうした機能はすべての受身文タイプが果たしているものではな いだろう。例えば,上の(63)の例などは,文の主語を統一させるため,という動機が働いて 受身文を用いていると考えられる。一方,次のような例では,一つの大きな主題(テーマ)
について述べる文脈であるが,前後文の主語はばらばらである(直線下線が受身述語,波下 線は前後節の述語を表わす)。
(66)統一後の中国は、かなりの発達をとげはした。鉄道の延距離数は二倍に、近代的道路は四倍 にもなった。五百をかぞえる国内関税も三二年には廃止され、繭もつくられるように なった。また国外関税の支配権は回復され、外国に与えた領土や特殊権益もいくらか返って きた。四三年までには、いっさいの治外法権が撤廃された。 (二十世紀)
しかしながら,本研究では,こうした前後文の主語と受身文主語との関係にっいてまでは,
考慮に入れることができなかった。今後の課題としたい。
以上,外部構造としてここで見てきた構造的特徴は,当該の受身文タイプを直接的に構成 する要素ではないが,その全体構造を特徴付ける間接的な要素と見なすことができると考え
る。
1.4 意味・構造的なタイブのレベル
意味・構造的なタイプには,いくつかのレベルが存在する。例えば,奥田1968−72に代表 される一連の連語論では,従属的な関係を持つ「単語+単語」の組み合わせにおける意味・
構造的なタイプが扱われている。従属的な関係とは,「主語+述語」という陳述的な関係と「り んごとみかん」のような並列的な関係を除いた,2単語(以上)の組み合わせのことである。
連語論が扱う,従属的な関係を持つ単語の組み合わせにおける意味・構造的なタイプを「第 1レベルの意味・構造的なタイプ」と呼ぶことにする。
これに対し,本研究は受身文の研究なので,「主語一ト述語」という組み合わせを扱わない わけにはいかない。すなわち,本研究は「主語+述語」という陳述的な関係を持っ単語の組 み合わせにおける意味・構造的なタイプを扱うことになる。この「主語+述語」という陳述 的な関係とは,本来,モダリティ及びテンス・アスペクトと切り離されたところには存在し ない関係である(奥田1983:6)。しかし,本研究では「ガ格名詞句+ラレル動詞句」という 組み合わせを,いったんはテンス・アスペクト及びムードと切り離して,意味・構造的なタ イプを考えようと思う。これは,「ガ格名詞句+動詞句」という組み合わせが,連語論が扱う 従属的な関係同様,単語の結合価によって指定されるものと考えるからである。
例えば,「あげる」という動詞は,(これだけではないだろうが)次のような結合価を持っ ていると考えられる。この図式は,「あげる」という動詞が「付着行為」を表わす場合はく人 名詞一ガモノ名詞1一ニモノ名詞2一ヲアゲル〉という3つの名詞句と組み合わさり,「授与行 為」を表わす場合はく人名詞1一ガ人名詞2・ニモノ名詞・ヲアゲル〉という3つの名詞句と 組み合わさることを意味している。ここには,それぞれの名詞句がどのような名詞グループ
で,動詞とどういった意味的関係を持っているか(動作主,対象など)という情報も含まれ
る。
(67)「あげる」の結合価
①付着行為く人名詞一ガモノ名詞1一ニモノ名詞2一ヲアゲル〉
動作主 付着対象 対象 付着行為 ②授与行為く人名詞1一ガ人名詞2一ニモノ名詞一ヲアゲル〉
動作主 相手=対象 対象 授与行為
このように,単語の結合価は,他のいかなる単語と組み合わさるかということをすべて指 定しているものの,動詞のテンス・アスペクトやムードまでは指定しないものと考える41。
この,結合価によって指定される要素のみを含む意味・構造的なタイプを「第2レベルの意 味・構造的なタイプ」と呼ぶことにする。「第2レベルの意味・構造的なタイプ」は,ガ格 を要素として含むものの,テンス・アスペクトなど,単語の結合価に含まれない要素は含ま ない。先に1.1で見た〈心理・生理的状態型〉は,この「第2レベルの意味・構造的なタイ プ」であると考えられる。
一方で,受身文の中には,テンス・アスペクトにも特徴があり,これが要素として構造を 特徴づけているものがある。1.1で見た〈位置関係型〉は,アスペクトが「特性」を表わす
という特徴を持っていた。また,次のような非人称受身(第1章2.3.4参照)は,動作主が 不特定一般の人々であることと連動して,アスペクトが反復を表わすという特徴を持ってい
る。
(68)糖尿病は,生活習慣病の一つと{される/言われる/考えられている}。
テンス・アスペクトを要素に含むレベルは,より「文」の構造レベルに近いものである。
1.2.8で見た「主題性」もまた,このレベルの要素である。このように,テンス・アスペク トや主題性を要素として含む意味・構造的タイプを「第3レベルの意味・構造的なタイプ」
と呼ぶ42。
「第2レベルの意味・構造的なタイプ」と「第3レベルの意味・構造的なタイプ」の大き な違いは,その意味・構造的なタイプの表わす意味にも見られる。「第2レベルの意味・構造 的なタイプ」では,その構造が持つ意味は,要素となっている動詞の語彙的な意味が多くを 負っている。有情主語有情行為者受身文と非情主語一項受身文からそれぞれ2例ずつ挙げて
みよう。
(69)被心理的変化型:和夫は良子にだまされた。
(70)被知的認識型:私は両親に将来のことを心配された。
(71)位置変化型:封筒に切手が貼られた。
(72)知的認識型:早急な対策が考えられた。
41奥田氏は,単語の結合価にはガ格名詞は含まれないと考えていたのかもしれない。
42なお,本稿で「第1レベルの意味・構造的なタイプ」としたものは,南1993のA類の要素を含み,「第2レ ベルの意味・構造的なタイプ」としたものはB類,「第3レベルの意味・構造的なタイプ」としたものはC類の要 素を含んでいると,大まかには言えそうである。
34
(69)の「被心理的変化型」は,有情者の心理的な変化を引き起こす心理的変化動詞で構成 され, (70)の「被知的認識型」は,知的認識を表わす思考動詞で構成されている。そして,
いずれのタイプも,「有情者が動作主から動詞が表わす動作を被る」ことを表わしている。つ まり,構文は「有情者が動作主から動作を被る」という意味を持っており,当該の動作を具 体的に表わしているのが,動詞の語彙的な意味であることになる。また,(71)の「位置変化 型」は,位置変化動詞で構成されており,(72)の「知的認識型」は思考動詞で構成されてい るが,いずれも動詞の表わす事態をおこうなう動作主が背景化されている。ここでは,構文 は「動作主背景化」という機能を果たしている。
これに対し,「第3レベルの意味・構造的なタイプ」では,動詞の語彙的な意味に加え,
構文自体が特別な意味を持っている。「第3レベルの意味・構造的なタイプ」の例として,有 情主語と非情主語の受身文の例を2例ずつ挙げる。
(73)陥る型:彼は悲惨な状況に追い込まれた。
(74)不可避型:多くの人々が移住を余儀iなくされた。
(75)社会的言語活動型:近年,日本では格差が拡大したと{言われる/される}。
(76)存在確認型:多くの国に共通の現象が見られる。
(73)の「陥る型」は,「置かれる,立たされる,追い込まれる」などの位置変化動詞が要 素となるが,動作主から動作を被ることを表わしてはおらず,主語に立っ有情者を取り巻く 状況から,彼/彼女の意志に関わらず当該の状態に陥ることが表わされている。この「陥る型」
は,具体的な動作主を想定できず,二格名詞句も具体的な場所ではなく,立場や状況といっ た抽象名詞が立つ。これにより,動詞は位置変化動詞であっても,具体的な位置変化は表わ さず,構文全体として抽象的な事態を表わしている。また,「陥る型」にはすべての位置変化 動詞が要素となるわけではなく,要素となる動詞がかなり限られている(生産性が低い)こ
とから,慣用的であるとも言える。(74)の「不可避型」も,「陥る型」同様,具体的な動作主 が想定できず,主語に立つ有情者を取り巻く状況から,ヲ格名詞句で表わされる動作の実現 を避けられないことが表わされている。動作主が想定できないことから,やはり動詞の表わ す動作の具体性も欠けている。また,「不可避型」の要素となる動詞も,「迫られる,求めら れる,強いられる,望まれる」などの一部の要求的態度動詞に限られており,慣用的である。
非情主語の受身文として挙げた(75)の「社会的言語活動型」と(76)の「存在確認型」も,
動作主に具体性がなく,個人の動作主を想定することができない。動詞も,「社会的言語活動 型」では,すべての言語活動動詞が要素となるわけではなく,「言われる,される」にほぼ限 られる。「存在確認型」の要素となるのもほとんど「見られる」で,このほかには「確認され る,認められる,識別される」などわずかな動詞が見つかるのみである。こうした動詞が表 わす動作は,言語活動や知覚認識といった具体的意味をほとんど失っている。また,テンス・
アスペクト的には,「社会的言語活動型」はある社会的範囲における不特定多数の人々の反 復・習慣的な事態を表わしており,ラレルvs.ラレテイルの対立が中和している。「存在確認 型」では,テンス対立は持つものの「見られる」という現在形で述べられるのが通常で,二 格に存在場所が現れることから,存在文のテンス・アスペクトに近いと考えられる。
このように,「第3レベルの意味・構造的なタイプ」は,動作主やテンス・アスペクトの 特徴や,要素となる動詞の生産性の低さゆえの慣用性など,「第2レベルの意味・構造的なタ
イブ」とは異なる構造的特徴を多く持っている。さらに,意味的には,構造全体の表わす意 味が抽象化されて強固になっており,要素となっている動詞の語彙的な意味はほとんど具体 性を失って,漂白化している場合もある。
以上,本研究で対象とする受身文の意味・構造的なタイプには2つのレベルがあることを 述べた。このレベルの違いを確認しながら,記述を進めたいと思う。
1.5 構造の提示の仕方について
本研究の記述では,以上述べてきた意味・構造的なタイプの構造を以下のように図式的に 表示する。ここでは,「被相手要求的態度型」という意味・構造的なタイプを例にとって説明
する。
(77)被相手要求的態度型
a Nrガ AN2一二!カラ 動作性N/V一スルコトーヲ 要求的態度V一ラレル 相手動作主二受影者 動作主=与影者 受影者の動作内容 動作実行の要求を受ける [主語] [補語] [補語] [述語] 【個別有情行為者】
「わたしは母親に庭の掃除をたのまれた」
⇔能動文:AN2一ガAN1一二動作性N/V・スルコトーヲ要求的態度V一スル
動作主 相手動作主43 動作内容 動作実行の要求
〆 「一ラレテ意志Vスル」という外部構造
構造の表示は上のようなものである。以下,各行ごとに,説明する。
1行目
・ 意味・構造的なタイプの名称を表記する。
2行目
・ 当該のタイプにとってもっとも基本的と考えられる構造をaとして提示する。以下,
b,cというように下位構造を提示する。
・ ANは有情名詞(Animate Noun),INは非情名詞(Inanimate Noun),Vは動詞,
Adjは形容詞/形容動詞を表わす。「具体IN」とは,具体名詞でかつ非情名詞であ ることを表わす。
・ 動詞にラレルvs.ラレテイルの対立がある場合にはV一ラレルで代表させ,ラレテイ ル形でのみ用いられる場合はV一ラレテイルと表記する。ラレルvs.ラレテイルの対 立がない,もしくは中和する場合は,V一ラレル/ラレテイルと表記する。「/,/」は 「ないし」を意味する。
3行目
・ 動詞以外の成分の動詞に対する関係的な意味と受身動詞の表わす意味を表示する。
スペースに余裕があれば,ここに各成分の機能も表示する。
43「相手動作主」とは,要求を行う動作主(AN2)にとってAN、は要求する「相手」であるのだが,同時に「AN、」
は,動作性名詞で表わされる動作を実行する「動作主」でもあると言う意味で,AN1の意味役割を「相手動作主」
とした。
36
4行目
・ 各成分の文内での機能を大括弧([])で表示する。
・ 【】には行為者の特徴を示す。
5行目
・ 典型的例文を1例挙げる。
6行目
・ 対応する能動文の構造を簡単に提示する。これは,受身文の主語が,能動文におい てはいかなる成分であるかということを確認するためである。能動文との関係は,
特に有情主語の受身文にとって重要な要素である。非情主語一項の受身文の場合は,
対応する能動文の対象が主語に立つのが基本なので,この場合は能動文の表示を省 略する。
7行目以下
・ 外部構造やその他の構造的特徴を箇条書きで記す。
なお,実例の例文には,ラレル述語に直線下線,主語に枠囲い,動作主に網掛け,当該タ イプで注意すべき補語・補部ないし成分に波下線を施す。例文内の/は段落が変わっている ことを表わす。例文末尾に出典のないものは志波の作例である。また,例文・引用文内の[]
は,志波の注であることを示す。さらに,用例が少ないため,他のテクストから補充した例 については☆をつけているが,これらの用例は統計の対象にはしていない。実例の例文は,
特に断りがない限り,要素となる動詞を挙げた順に例を挙げている。
1.6 意味・構造的なタイプをどこまで取り出すか
さて,以上述べてきたような方法で意味・構造的なタイプを取り出していくのだが,こう した意味・構造的なタイプをどこまで取り出すか,という問題を議論しておかなければなら ない。ここには,それほど明快な答えが用意されているわけではない。Goldberg 1995では,
1つの構文の存在は次のように定義されている。
(78)Cが形式と意味のペア〈Fi, Si>であるときに, Fiのある側面あるいはSiのある側面が, C の構1成部分から,または既存の確立した構文から厳密には予測できない場合,かつその場合 に限り,Cは一っの「構文」である。 (河上他2001:5)
この定義は非常にもっともな定義であるが,「厳密には予測できない」ということが具体的 にはどの程度の予測不可能性なのか,明らかではない。
本研究では,受身文の「文」としての内部構造をできる限り記述できるように,また,い ろいろな文タイプを体系に位置づけられるように,様々な構造的特徴を受身文構造の要素と 見なした。このうち,受身文の内部構造の要素と見なすべきかで問題になるのが,文のアス ペクトである。文のアスペクトは,動作主の性質にかなりの程度連動している。すなわち,
動作主が不特定多数の一般の人々になれば,文のアスペクトも個別具体性を失い,非アクチ ュアルなアスペクトになる。こうして,本研究で立てた受身文タイプである〈習慣的社会活 動型〉は,動作主が不特定一般の人々であり,かつ反復・習慣の非アクチュアルなアスペク
トであることを特徴として取り出されている。
しかしながら,〈習慣的社会活動型〉はすべての動詞についてタイプが存在するわけではな く,心理動詞を中心とした一部の動詞に限られている。これは,そうした心理動詞において は,個人の動作主の個別具体的な事態としてよりも,不特定一般の人々の反復的な事態とし て述べられることの方が多いという事実による。これに対し,動作動詞の場合は,たとえ反 復のアスペクトで述べられたとしても,それは当該の受身文タイプの単なるアスペクト的な 対立と見なされ,受身文のタイプとしては取り出されていないのである。
また,本研究では,「存在様態」のアスペクト44で述べられた受身文をタイプとして取り 出している。一方で,単に「結果状態」を表わす受身文については,受身文のタイプとして は取り出していない。これは,両者の頻度の違いによる。
本研究で,受身文タイプを1つの意味・構造的なタイプとして取り出す際の基準にしたの は,当該の受身文タイプとしての用例の頻度(トークン頻度)と,当該の受身文タイプの生 産性45(タイプ頻度),及び,能動文との対立の不自然さである。用例の頻度が高いという ことは,その受身文が意味・構造的なタイプとして定着していることを表わしている。また,
構造の要素となる動詞の種類が多く,タイプの生産性が高ければ,これも構造として一般化 され,定着していることを表わしている。一方,能動文との対立の仕方については,能動文 で述べると不自然である,ないし能動文で述べることができないような受身文は,受身文と して,非常に特徴的な意味・構造的タイプであることを表わしているだろう。すなわち,能 動文としては当該動詞による文は構造的なタイプとして存在しないのに対し,受身文として はタイプとして存在しているということである。例えば,本研究で取り出した〈不可避型〉
などは,すべてのテクストにおいて,それほど頻度の高いタイプではなく,また動詞の生産 性も高くはない。〈不可避型〉とは,次のような受身文である。
(79)彼は,対応を迫られている。
このタイプに用いられる受身動詞は,「余儀iなくされる,求められる,強いられる」などがあ るが,動作主が想定不可能な受身文であり,能動文で述べることができない。こうしたタイ プは,受身文として特徴的であるので,頻度と生産性が低くても,タイプとして取り出す意 味があると考えた。
しかしながら,本研究で立てた受身文タイプが,受身文の意味・構造的なタイプとして存 在するものかどうかは,未だ見当の余地があるだろう。また,受身文タイプとして取り出さ れるべきタイプが取り出されていない可能性もある。今後,能動文の体系との関連も含めて,
より緻密に調査していかなければならない課題である。
2 奥田の連語論とGoldbergの構文文法論
本節では,奥田の言語学及び連語論の内容を紹介するとともに,基本的な発想において奥
44第1章2.3.2参照。「存在様態」のアスペクトとは,「場所一二N一ガV一テイル(机の上にりんごが転がってい る)」という存在の構造を持つテイル文のアスペクト的意味である。一方,結果状態とは,「あ,ネクタイが汚れ ている」のように,変化の後の結果状態として述べられるアスペクトである。
45本研究では,「生産性」という用語を,当該の意味・構造的なタイプに用いられる動詞の種類が多いほど,当 該タイプの「生産性が高い」という使い方で用いている。
38
田の構造観といくつかの共通点を持つGoldberg 1995の構文文法論を概観する。
奥田の言語学の源流は,ヴェ・ヴェ・ヴィノグラードブをはじめとするソビエトの言語学 にある。奥田の言語学の最大の特徴は,言語の構造46を形骸的な枠組みとは捉えず,物質的 な中身を持っ豊かな構築物と捉える点だろう。また,このことと関連して,全体(体系)が 先か,部分(要素)が先か,という議論自体が無意味であるとし,「体系47と要素,全体と 部分とはつねにひとつにまとまっていて,きりはなすことができない」,すなわち両者の存 在は同時的であるということを非常に強調しているところである(奥田1980−1:
〔1996:201〕)。志波の理解するところでは,奥田とGoldbergのもっとも大きな違いはこの点 にある。すなわち,Goldbergは構文の独立性を強調するあまり,構文を要素から切り離して
しまっている。以下,具体的に議論していこう。
2.1 奥田靖雄とGoldbergの共通点と相違点
奥田は,ガ格(主語)及びト格に代表される並列の組み合わせを除いた「単語+単語」の 組み合わせを連語と呼んで,これを言語の構造的な単位と考えているのだが,その連語の構 造について,次のように述べている。「連語もそれ自身の内容と形式とをそなえている言語 の単位である。このばあい,形式的な側面は,連語の内的な構造,っまり連語を成立させる 単語のあいだの構造的なむすびつきである」(奥田1976:13(20),太字は志波による)48。そ
して,このように「内容と形式をそなえた言語の単位」である連語は,単語と同じような「名 づけ的な単位」であるとも述べている。こうした奥田の主張は,単語と単語の組み合わせに は(一般化された)構造があり,その構造は意味を持っていて,レキシコンに登録されてい る,と言い換えられるだろう。
一方,Goldbergの文法論の中心的な主張は,「英語における基本的な文が『構文』の具体 例であり,構文とは,個々の動詞とは独立して存在する『意味と形式の対応物』である(basic 8entences of English are instances of eonstruetions−form−mealling correspondences that exist independently of particular verbs)(Goldberg 1995:1,河上他2001:1)という
ことである。また,別のところでは,「構文は,語彙項目,イディオム,一一部分語彙的に満た されている構文,あるいは満たされていない他の構文などと並んで,レキシコンの内部に貯 えられた独立した実在体」(河上他2001:304)とも述べている。こうした主張は,統語的な 構文が「もっぱら一般原理の相互作用の結果として生じる付随的な現象にすぎないと言われ てきた(Chomsky 1981,199249)」(河上他2001:1)ことへのアンチテーゼとして提唱され
46本研究では,「構造」という用語を construction の訳語として使っている。よって, Goldbergの文法論で
「構文」と訳されているものと,同じものを指していると考える。
47ここで言う「体系」とは,特にシンタグマティックな,統合的な体系のことである。
48より具体的には,例えば,奥田1976の中で,「りんごをわる」,「くるみをくだく」,「えんぴつをけずる」な どの連語について,次のように述べている。
・ これらの連語のなかにみとめられる構造的なむすびつきは,いまかりに《もようがえ》と名づけて,タイプ に一般化しておこう。つまり,ふたつの単語のあいだには,《動作が物=対象にはたらきかけて,その物のか たち,あり方に変化をあたえる》という,むすびつき方が存在しているのである。(奥田1976:4)
ここでの「むすびっき方」というのが,すなわち「構造」である。つまり,「もようがえ」という構造のタイプが,
上の《》内のような意味を持って存在している,と考えている。
49Chomsky, Noam.1981. Lθeturθs on Go vernment and Bin ding. Dordrecht:Foris.
Chomsky, Noam.1992. A Minimalist Program for Linguistic Thθory. MIT Occasional Papers in Linguistics 1.Cambridge, Mass.:Dept. of Linguistics and Philosophy. MIT