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自己表象と自己能力に関する 情報収集行動との関係

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東京都立大学人文学報第307号抜刷

自己表象と自己能力に関する 情報収集行動との関係

東京都立大学人文学部 2 0 0 0 . 3

沼 崎 誠

(2)

自己表象と自己能力に関する 情報収集行動との関係')2)

2 1

沼 崎 誠

自己の表象が人の様々な行動を規定することは,古くから多くの研究者が指 摘していることである(e、9.,Baumeister,1998;Greenwald&Pratkanis,1984;James,

1890;Markus&Sentis,1987;Rogerwi,1961).一方,自己表象が環境からの自己に 関する情報によって多大な影響を受けていることはいうまでもない.このこと から,自己に関する情報収集行動は,自己表象を形成する上で重要な役割を果 たすとともに,自己の表象により規定されていることが考えられる.しかし,

この問題を実証的に扱った研究はほとんどない.そこで,本研究では,自己の 様々な表象と,自己の能力に関する情報収集行動との関係を,自己高揚傾向と

自己査定傾向の関係を中心に,明らかにしようとするものである.

自己の能力に関する情報収集行動

自己の能力に関する情報収集行動を規定する要因について,情報の情報価と する自己査定理論と,情報の感情価とする自己高揚理論の2つの立場がある.

自己査定理論は,人は正確な自己概念を形成するように動機づけられていると いう前提を理論の基礎におき,情報収集行動の際には,セルフ・エステイーム にどのような意味を持つかということに関係なく,自己の能力に関して正確

(診断的)だと予期される情報を収集するよう行動すると予測する(e、9., Festinger,1954;Trope,1975,1983).一方,自己高揚理論は,人はセルフ・エス テイームを維持するまたは高揚するように動機づけられているという前提を理 論の基礎におき,情報収集行動の際には,セルフ・エステイームを維持するま たは高めると予期される情報を収集するよう,セルフ・エステイームを低める と予期される情報を避けるよう行動すると予測する(e,g、,Atkinson,1957;Jones&

B e r g l a s , 1 9 7 8 ) .

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2 2

しかし,これらの理論が前提とする自己査定動機と自己高揚動機のどちらか 一方のみによって自己に関する情報収集行動が規定されるのではなく,この2 つの動機が複合して自己に関する収集行動を規定しており,状況や個人の特性 により,これらの2つの動機の相対的大きさがどう異なるかについての研究が 必要であると指摘されている(e、9.,Brown,l990a;Sedikides,1993;Sedikides&

Strube,1997;Sonrentino&short,1986;Tropel986).そこで本研究では,様々な 自己表象のタイプにより,情報収集行動が異なることを検証しようとするもの である.

自己査定的情報収集自己査定理論によれば,セルフ・エステイームに対し てどのような意味があろうとも,情報の選好は自己の能力の不確実性の低減の 量による(TYope,1975,1983).環境に効果的に対処するには自己を正確に把握し ておく必要があるため,不確実性を低減する情報が選好される.Trope(1975)

は,Atkinsonの期待価値モデルを基礎に置く多くの研究によって見い出された 中程度に困難な課題の選好は,自己高揚的に説明されるものではなく,自己査 定的に説明されることを実証的に示した.Trope(1975)によれば,能力に関する 不確実性の低減量は,ある遂行の結果として与えられる情報の診断性の関数で ある.ある課題を行う達成場面を考えると,その課題が能力の高い者と低い者 とを弁別できるほど診断性が高いといえる.多くの研究において,診断性の低 い課題に比べ診断性の高い課題に対する選好が認められている(e,9.,Bukert,

Meyer,&Schmalt,1979;Tmpe,1975,1980).

自己高揚的情報収集多くの研究が自己査定理論を支持している一方で,自 己を評価する状況では,情報のセルフ・エステイームに与える意味(感情価)

が重要な役割を果たすことを示す研究も多い.自己に関する情報収集行動にお いて特に重要なのは,利己的帰属の高度な利用法として研究されているセル フ・ハンデイキヤッピングと呼ばれる現象である(安藤,1987;Arkin&

BaumgaIdner,1985;Higgins,Snyder,&Berglas,1990:review).セルフ・ハンデイ

キヤッピングとは,行為によってセルフ・エステイームに脅威が生じると予期

される場合,将来自分に有利な原因帰属がなされるよう,行為を遂行する前に

あらかじめ遂行を妨げるような行為を実際に行う,または,妨げる要因がある

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2 3

ことを主張するような行動を指す.自己の能力に関する情報収集行動で特に重 要なのは,前者の実際に遂行の妨げになるような行為を取るタイプの獲得的セ ルフ・ハンディキャッピングである.ゴルフの選手が重要な試合の前に練習を 少なくしておくことなどが獲得的セルフ・ハンデイキャッピングの例としてあ げられよう.成績が悪い場合にはその原因を練習量の少なさに帰属でき,自己 の能力によるものではないと割引くことができるし,成績が良かった場合には 練習が少なかったにも関わらずよい成績がとれたと,自己の能力をより高く割 増しすることができる.実証的研究としては,BeIglasandJones(1978)は,セル フ・エスティームに脅威がある状況(非随伴的成功群)では,テストの遂行を 阻害すると教示された偽薬を選択しやすいという結果を得ている.セルフ・ハ ンデイキャッピング研究は,人は自己高揚することに関心を持ち,自己の能力 を評価するときにも,正確に自己の能力を評価することを犠牲にしても自己高 揚動機が重要な役割を果たすことを示している.

自己査定理論と自己高揚理論の対立点自己査定理論と自己高揚理論からの 予測の対立点であるが,人はある課題を遂行した後に得られると予期される情 報の診断性に対して敏感である点では共通している.しかし,その課題の診断 性が情報収集行動に及ぼす影響については異なった予測がなされる.自己査定 理論からは,能力が高いことが判明するにしても低いことが判明するにして も,能力を弁別できる診断性の高い課題を選好すると予測することができる.

それに対して自己高揚理論からは,能力が高いと判明する課題については診断

性の高い課題ほどセルフ・エステイームに対してポジティブな意味を持つため

に選好されるが,能力が低いと判明する課題については診断性の高い課題ほど

セルフ・エステイームに対してネガティブな意味を持つために選好されないと

予測することができる.つまり,能力が低いことが判明するような課題の場

合,自己査定理論からは診断性の高い課題ほど選好されると予測できるのに対

して,自己高揚理論からは診断性の低い課題ほど選好されると予測できる.こ

の予測の対立点を明確にするためには,能力が高いことが判明する成功時の診

断性と能力が低いことが判明する失敗時の診断性とをはっきりと分けて操作し

なくてはならない.Tmpe(1980)は成功時の診断性(3レベル)と失敗時の診断

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2 4

性(3レベル)を独立に操作した9課題を作り,各課題の選好を測定した.成 功時の診断性は課題の選好と正の相関があり,この結果は自己査定動機からの 予測とも自己高揚動機からの予測とも合致するものであった.一方,失敗時の 診断性も課題の選好と正の相関をしていた.この結果は,自己査定動機からの 予測と適合する結果であり,能力が低いことが明確になる課題は選好しないと 考える自己高揚動機からでは説明できない.この結果から,Trope(1980,1983)

は自己高揚動機より自己査定動機の方が優位に立つものであると主張してい る.Slmbe,I‑DtI,Le‑Xuan‑Hy,Oxenberg,andDeichmam(1986)も,有意には達し ない効果ではあるがこの結果を追証している.しかしS1rubeandRoemmele (1985)では,実験参加者全体としては失敗時の診断性と課題の選好には正の相 関も負の相関も見い出されていない.そして,この研究では個人差が見い出さ れ,セルフ・ハンディキャッピング傾向の弱い実験参加者では,自己査定動機 からの予測を支持する結果,セルフ・ハンデイキャッピング傾向が高くかつセ ルフ・エスティームの低い実験参加者では,自己高揚動機からの予測を支持す る結果を得ている.また,沼崎(1991)もセルフ・エステイームが低くセルフ・エ スティームの不確実性の高い実験参加者では,自己高揚動機からの予測を支持 する結果を得ている.さらに,成功時と失敗時の診断性を分離していない研究 ではあるが,非随伴的成功経験を持った実験参加者は,診断的でない課題を選 好するという結果をSachs(1982)は報告している.これらの研究は,Trope(1986)

も従来の考えを一部修正し述べているように,自己査定動機と自己高揚動機の どちらか一方のみが優位に,自己関連情報収集行動を規定するのではなく,両 方の動機が複雑に絡み合っていることを示すものである.そこで検討しなくて はならないのは,自己査定傾向と自己高揚傾向の相対的大きさを規定する要因 である.最近では,成功時と失敗時の診断性を分離していない研究もあるが,

この要因を見出すための多く実証研究がなされるようになってきている(e、9.,

Bmwn&Dutton,1995;Dunning,1995;越,1994,1996;西村・浦・長谷川,1998;沼

崎 , 1 9 9 2 ; T m p e & N e t e r , 1 9 9 4 ; S e d i k i d e s , 1 9 9 3 , 1 9 9 5 ; W a y m e n t & T a y l o r , 1 9 9 4 ) . 本

研究では,自己査定傾向と自己高揚傾向の相対的大きさを規定する要因として

個人差要因である自己の表象を取り上げ検討を行った.

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2 5

自己の表象の諸相

様々な社会的行動が自己の表象と関係していることが指摘されているが,最 近の研究においては,自己表象を単一のものではなく多くの自己表象が組み合 わされた多層構造になっていることが指摘されるようになってきている(e、9., Baumeister,1998;Higgins,1989;Markus&Wurfl987).多くの自己表象の中で中 心的存在となるのが,現在実際持っていると考えられる属性の表象としての現 実自己(realself)である.これとともに,達成の基準となる理想として持ちたい 属性の表象としての理想自己(idealself)も,古くから研究がなされ(e、g、,James,

1890;Rogers,1961),理想自己と現実自己のズレが大きいほど抑欝などの社会的 な不適応な傾向を示しやすいことが多くの研究で示されている(Higgins,1989:

応view).それに加えてMarkusandNuris(1986)は,将来なりうる可能性のある属 性の表象としての可能性自己(possibleself)を考慮する必要があることを指摘し ている.また,この可能性自己では,理想自己とは異なり,ポジティブな可能 性自己とネガティブな可能性自己を考慮に入れることが必要であることが指摘 され,実証的にも検証されている(e、9.,遠藤,l992a,l992b;Oysemlan&Markus,

1990).また,Higgins(1989)は,現実自己と理想自己以外に,達成の基準となる 義務や責任として持つべき属性の表象としての当為自己(oughtself),現在にお いて所有できると思える属性の表象としての可能自己(canselD,将来持つであ ろう属性の表象としての未来自己(fUtureself)といった自己表象を考慮する必要 があることを指摘している.さらに,Higgins(1989)は,これら単独の自己表象 のあり方ではなく,自己表象間の関係をケシュタルト的に捉える必要性を強調 している.そして,この自己表象間の関係が,単独の自己表象のあり方それ自 体よりも,情緒的傷つきやすさ(emotionalvulnerability)にとり重要であることを 論じている.実証的研究としては,Higgins,Klein,andStrauman(1985)は,現実 自己と理想自己のズレは憂諺に関連した(dejection‑related)傷つきやすさと関係 しているが,現実自己と当為自己のズレは不安や恐れといった焦燥に関連した (agitation‑relaOed)傷つきやすさと関係していることを見いだしている.さらに,

Higgins,Vookles,andTykocinski(1992)は,それに加え,可能自己や未来自己が

理想自己や当為自己に近い人は,現実自己に近い人に比べ,現実自己と理想自

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2 6

己のズレや現実自己と当為自己のズレの傷つきやすさとの関係がより強いこと を実証的に示している.

ここまで示してきたように,自己表象として多くの表象とそれら関係が指摘 されているが,本研究では,自己の能力に関する情報収集行動に関係が強いと 考えられる,情報収集の対象となる能力に関するポジティブな側面の自己表象 を取り上げ,それら自己表象のあり方ではなく関係を問題にして,自己関連情 報収集行動との関係を実証的に検討を試みた.

自己の表象の諸相と自己の能力に関する情報収集行動

自己の能力に関する情報収集行動に関係が深いと考えられる自己の表象及び 自己表象の関係としてどのようなものを考える必要があるであろうか.

まず第1に取り上げる必要があるのは,現実自己であろう.情報収集の対象 となる能力が高いと予測している人は,低いと予測する人に比べ,より自己査 定的行動を取ることが多くの研究で示されている(e、9.,Brown,1990b;沼崎,1992;

谷口,1985).能力が高いと予測することは,情報収集の対象となる現実自己が 高いことを意味していると考えられるため,次の仮説1を設けて検討を行っ

た .

仮説l:現実自己が高い人は,低い人に比べ,自己査定傾向が強いため,診 断性の高い課題を選択・選好するであろう.

次に考える必要があるのは,その能力の達成の基準となる自己の表象であろ う.自己の能力の達成の基準となる自己表象としては,理想自己と当為自己が 指摘されているが(e、9.,Higgins,1989),本研究では,理想自己を取り上げ,現実

自己とのズレを問題にして検討を行った.SedikidesandStmbe(1997)のSCENTモ

デルでは,自己査定的行動は,将来適切な行動を取るための,つまり,将来に

おいての自己高揚の準備のための意味を持つとしている.この考え方では,自

己査定的行動は,現在ではなく将来の感情価のために行うと主張する.越

(1996)やSedikides(1993)は実証研究を行い,この主張を支持する結果を得てい

る.この考えからすると,理想自己という達成の基準を相対的に高く持ち,現

実自己とのズレが大きい人ほど,自己査定的行動を取ると考えられる.関連す

る研究として,現実自己と理想自己のズレではなく,高い理想自己の有無を問

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2 7

題にしている研究ではあるが,越(1994)は収集する能力に関して高い目標を 持っている人は持っていない人に比べて,自己査定的な行動を取りやすいこと を示唆する結果を報告している.そこで,本研究では,越(1994)とは異なり,

高い理想自己の有無ではなく,現実自己と理想自己のズレを取り上げ,仮説2 を設けて検討を行った.

仮説2:現実自己と理想自己のズレが大きい人は,小さい人に比べ,自己査 定傾向が強いため,診断性の高い課題を選好・選択するであろう.

第3に考慮する必要があるのは,達成の基準となる理想自己にどれだけ到達 できると考えているかに関わる自己表象であろう.つまり,現実自己がどれだ け達成の基準に近くまで変化させうるかが重要であると考えられる.

Dweckとその共同研究者は自分の属性(特に知能)が変化させることが可能 かどうかの知覚(統制可能性の知覚)の違いによって,目標に対するアプロー チの仕方が異なってくることを指摘している(e、9.,Dweck,1991;Dweck,&

Leggett,1988).統制可能だと知覚する場合には,統御志向(mastery‑oriented)と 呼ばれる適応的行動を取りやすいのに対して、統制不能でかつ低能力であると 知覚される場合には、無力感志向(helpless‑oriented)と呼ばれる不適応行動を取 りやすいことを検証している(Dweck&Bempechat,1983).沼崎(1992)は,変化 させることが可能かどうかを,収集の対象となる能力の先天性‑後天性によっ て操作して,自己の能力に関連する情報の収集行動との関係を検討している が,能力の重要性や有益性を低く知覚している場合には,先天的で改変が不可 能であると教示された実験参加者は,後天的で改変が可能であると教示された 実験参加者に比べ,自己高揚的行動を取りやすいこと見いだしている.Dun‐

、ing(1995)もほぼ同様の結果を見いだしている.沼崎(1992)やDunning(1995)の 操作では,現実自己を基準としての理想自己へと変化させる一般的な可能性が あるかどうか問題にしており,Bandura(1977)の有名な分類に従うと,結果予期 に当たるものを操作していると考えられる.しかし,社会的行動においては,

効力予期が結果予期とは独立に社会行動に影響を与えることが示されており

(e、9.,Maddux,Norton,&LeaIy,1988),現実自己を基準としての理想自己の方向

へと自分自身を変化させうるかという効力予期も考慮する必要があるである

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2 8

う .

この効力予期は,自己表象の諸相の関係によって決まってくると考えられ る.そこで,本研究では,現実自己と理想自己の他に,将来において持つこと ができるはずの属性の表象としての未来可能自己(fUtuIecanself)を新たに取り 上げてみたい.未来可能自己はHigginsと共同研究者の導入した現在において 所有できると思える属性の表象である可能自己とは,所有できる時期の点で異

なっている.Higgins等の研究関心は,現在の情動問題や身体問題にあり,その 点においてはこの可能自己の概念は有効であると考えられるが,自己の能力に 関する情報収集行動では未来が重要な問題となってくることから,未来可能自 己という表象を考慮する必要があると考える.この未来可能自己を扱った研究 として,工藤(1990)は,可能自己としてこの未来可能自己を測定し,抑欝傾向 との関係を検討している.この研究では,未来可能自己が現実自己に近い実験 参加者は,理想自己に近い実験参加者よりも,抑欝傾向が高いことを見いださ れ,前述のHiggins等の現在の可能自己を測定し,抑欝傾向のとの関係を調査し た研究(Higgins,VOokles,&'Iykocinski,1992)とは異なる結果を報告している.

このことから,可能自己と未来可能自己は,自己に関する別の表象であると考 えられる.それでは,未来可能自己が現実自己や理想自己とどのような関係に あるときに,効力予期が高いといえるであろうか.未来可能自己が,現実自己 から遠く理想自己に近い人は,基準に将来自分が到達できるという信念を持っ ている人と考えられ,効力予期が高いと考えられる.一方,未来可能自己が,

現実自己に近く理想自己から遠い人は,基準に将来自分が到達できないという 信念を持っている人と考えられ,効力予期が低いと考えられる.効力予期と自 己の能力に関する情報収集行動との関係は,結果予期を扱った沼崎(1992)の研 究から,効力予期が低い実験参加者は高い実験参加者に比べ,自己高揚的行動

を取ることが予測される.そこで,仮説3を設けて検討を行った.

仮説3:未来可能自己が現実自己に近い人は,理想自己に近い人に比べ,自 己高揚傾向が強いため,失敗時の診断性の高い課題を選好・選択し ないであろう.

これら仮説を検討するため,本研究では,収集の対象となる能力に関する現

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実自己,理想自己,可能自己を測定し,それら自己表象間の関係と,成功時の 診断性と失敗時の診断性を操作した自己の能力に関する情報の収集行動との関 係を検討した.

方 法

実験参加者実験参加者は,帝京女子短期大学で社会心理学を受講している 163名.このうち,4名は実験に対して疑念をいだいため,また,7名には回答 に不備があったため分析から除外し,152名を分析の対象とした.

手続き実験は1993年12月,帝京女子短期大学にて集団実験の形で行った.

実験参加者には,この調査が今週と来週の2週間にわたるものであり,アメリ カで開発された認知的複雑性能力テストの日本語版を作成するためのものであ るという偽りの目的を告げた.その際,日本語版の妥当性がほぼ確認されてい ることを告げ,実験参加者が将来与えられると予期しているフィードバックが ある程度信頼できることを示唆した.実験参加者に実際にテストを受けるのだ と信じさせ,課題の選択を真剣に行わせるため,調査の概要として,「今週 は,認知的複雑性テストの複数ある課題の中から来週実際に行う課題を自分で 選択するという作業と,認知的複雑性能力に関する簡単な意識調査をして頂

き,来週の授業時間には,今週選択した課題を実際に行って頂きます.」と告 げた.ここで,個人のデータの匿名性は十分保証することを告げた.

その後,認知的複雑性能力と認知的複雑性能力テストに関して説明した.認 知的複雑性能力は,「現代の複雑な状況に対処し,矛盾情報を統合し,様々な より適切で正確な判断を行うための基礎となる能力」であると教示し,従来の 知能テストでは測れなかった能力であることも指摘した.また,訓練や努力に より変わりうる能力であることも教示した.次に,認知的複雑性能力テストに ついて,アメリカで開発されたものであるが,日本でも妥当性がほぼ確認され ており,「能力の高い人」と「能力の低い人」とを弁別するために考案された と告げた.そして,大学生においては性別に関係なく,「能力の高い人」と

「能力の低い人」が50%ずつになるようにテストは榊成されていると告げた.

これは,事前確率の診断性の知覚に対する影響をなるべく少なくするために

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3 0

行った(Trope,1980参照).アメリカでは通常4タイプの課題を使って行う が,今回の調査は,各課題の妥当性を見るため各人1つの課題のみを行うこと を告げた.次に,「心理学では,自分で選択した課題の方からより正確なデー タが得られることが判っているため,以下の質問紙は来週行う課題の各人の希 望をうかがいます」と告げ,自分で課題の選択を行うことに対する疑問が実験 参加者に生じないようにした.また,認知的複雑性能力テストの結果が出しだ い,授業時間に結果を知らせるとし,自分の結果がフィードバックされるとい うことを実験参加者に信じさせた.

成功時の診断性と失敗時の診断性の操作次に4課題の特徴を説明した.4 課題の特徴は2本の棒グラフによって示した.1本は能力の高い人が課題を行っ た場合,90%の確率で取る得点範囲を,1本は能力の低い人が課題を行った場 合,90%の確率で取る得点範囲を示した.各棒グラフの右端と左端には33.70 などの数字を書き,得点範囲を明確にした.また,各課題の全体としての平均 点は皆50点になるように作成されていることも告げた.

4課題の特徴はTablelに示した通りで,成功時と失敗時の診断性の操作は Tmpe(1980,実験1)にほぼならった沼崎(1991,1992)と同様であった.失敗時の 診断性は,高能力者と低能力者が取る最低点の差(3:診断性小,19:診断性大),

つまり全体の平均点以下の得点範囲の重なる部分の量により操作した(重なる 部分が大きいほど診断性が低くなる).また,成功時の診断性も同様に,高能 力者と低能力者が取る最高点の差(3:診断性小,19:診断性大),つまり全体の平

Tablel

地"わじJ eぴ a8ソ、s"c〃脇 〃 dja @s〃 砿fasAcル、ice d2aぷルクr穆飼段、Ce Diagnosticityofsucccss

DiagnosticityoffailUre

A・ManipulatedlIighability rangesofscoresLowability B・Rateddiagnosticityo》

J り C・TaskchoiceM

D,TaSkpreferencc

』 〃 L o w ( T a s k A )

33‑70 30‑67 2.64.

1.37 1 1 3.38,

1 . 6 1 Low

l I i g h ( T a s k B )

45‑66 26‑63 4.24b 0.97

2 3.69.

1 . 2 7

l I i g h Low I l i g h (TaSkC)(TaskD)

37‑74 34‑55 4.49b 0.96

3 1 4.93b

1 . 2 2

49‑70 30‑51 5.79.

1.08 9 6 5.56c 1 . 3 6

a)MeanswiththesameletterarenOtsiginificantlydifrcrent.

b)ThiSmeasureindicateSthenUmberOfsubjCctSwhOCllOSCeachtask.

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3 1

均点以上の得点範囲の重なる部分の量により操作した.各能力者の取る得点範 囲はTablel‑Aに示した.成功時の診断性と失敗時の診断性の合計と考えられ る全体としての診断性は,2つの能力群が取りうる得点範囲の重なる部分の量 と反比例する.

課題の選択・選好の測定課題の特徴を十分に理解してから,周りの人と相 談せずに回答するよう教示した後,課題の選択・選好を測定する質問紙に回答 させた.まず,来週やりたい課題を1つ選択させた.次に,各課題ごとに,課 題の選好の指標として,「どの程度やってみたいか?」,課題の知覚された診 断性の指標として,「各課題の結果が出たとき,認知的複雑性能力が高いか低 いかが,どの程度明確になると思うか?」を7件法で回答させた.

認知的複雑性能力に関する自己表象の測定全員の回答終了後,認知的複雑 性能力に関する意識調査質問紙に回答させた.その質問紙では,認知的複雑性 能力の社会的重要性・社会的有益性について7件法で回答させた.また,高い 認知的複雑性能力を持つことが望ましいことと思うかどうかについても7件法 で回答させた.

次に,認知的複雑性能力について以下のような説明を行った.

認知的複雑性能力は,生まれつきの部分(遺伝によって決まる部分)があること が知られています.認知的複雑性の能力の最大値を100とすると,生まれつき,ど んなに努力をし,訓練を受けても,30までしかいけない人もいれば,最大値に近い ところまでいける人もいます.

しかし,その一方で,この能力は訓練によって,開発される部分も大きいことが 知られています.普通に生活していて訓練を受けていない人の認知的複雑性能力 は,あまり開発されていません.普通に生活していて訓練を受けていない20歳前後 の人では,平均25くらいの能力しかありませんが,訓練を受けることにより,平均 が50くらいにまでは上昇すると言われています.しかし,先ほども述べましたよう

に,個人個人によって訓練を受けても到達できる最大値は異なっています.

これは,認知的複雑性能力が先天的に規定される部分と後天的に規定される

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3 2

部分の両方があることを明示することにより,また,基準を示すことにより,

実験参加者が認知的複雑性能力に関する様々な自己表象について回答しやすく するために行った.このような認知的複雑性能力の特徴をよく理解してから回 答するように教示した後,認知的複雑性能力に関する自己表象を測定する質問 に回答させた.現実自己・理想自己・未来可能自己に関して,それぞれ,「あ なたの現在の認知的複雑性能力はどのくらいあると思いますか?」,「あなた は,現実に可能かどうかは別として,理想的には,あなた自身の認知的複雑性 能力がどの程度あったらよいと思いますか?」,「あなたは,努力をし訓練を 受ければ,現実的に言って,あなた自身の認知的複雑性能力はどの程度まで高 められると思いますか?」という質問に対して,0から100までの5ポイントき ざみの21件法で回答させた.

実験参加者全てが質問項目に回答を終えた後,来週行うと告げたテストは無 いこととともにこの研究の本当の目的を説明し,デブリーフイングを行った.

また,心理学において認知的複雑性という概念が存在し,研究が行われている ことも指摘した.実験参加者からの質問に答えた後実験を終了した.

結 果

診断性の操作チェック

各課題の知覚された診断性はTablel‑Bに示した通りである.この知覚され た診断性に対して,2×2(成功時の診断性(高・低)×失敗時の診断性(高・

低))の分散分析を行ったところ(成功時の診断性と失敗時の診断性は繰り返 し変数:以下同様),成功時の診断性の主効果も失敗時の診断性の主効果も交 互作用効果も有意であった(R1,139)=366.40,p<、001;R1,139)=274.20,p<,001;

R1,139)=5.17,p<、05).主効果は成功時の診断性,失敗時の診断性ともに,診断

性が高い課題ほど診断性が高く知覚されたことによる効果であり,操作は成功

していたといえよう.交互作用効果は,片方の診断性が低いときには高いとき

に比べ,もう一方の診断性の効果が診断性の知覚に強い影響を与えたことによ

る効果である.意図しない交互作用効果が得られたが,成功時の診断性と失敗

の診断性の主効果が強く有意であり,各課題に対する知覚された診断性に対し

(14)

1 Table2

のJr汐jβ sa四。"g aj JzJ窓aJゴロもaノ jS唾J没 "〃 d蛾e 〃 of

。riノZur汐c saIf"

3 3

てTukey法による多重範囲検定を行ったところ,課題Aが一番低く,課題Bと 課題Cが同程度に続き,課題Dが一番高くなると言う結果が得られたことから (Tablel‑B),診断 性の操作は成功したといえるであろう.

自己表象と実験参加者の分類

分析においては,高い認知的複雑性能力を持つことが望ましいことを前提に して分析を行うため,高い認知的複雑性能力を持つことは望ましくないと回答 した12名の実験参加者を除き分析を行った.その結果,以下の分析に用いた実 験参加者は140名となった.認知的複雑性に関する自己表象の関係から実験参 加者を分類するために次のような指標を用いた.まず現実自己の高さの指標と

して,実験参加者の現実自己の評定値を用いた(以下「現実自己」).この値 が高いほど,現実自己が高いことを意味する.現実自己と理想自己のズレの指 標として,理想自己の評定値と現実自己の評定値の差の値を用いた(以下「現 実と理想のズレ」).この値が高いほど,現実自己と理想自己とのズレが大き いことを意味する.未来可能自己の相対的位置の指標として,未来可能自己の 評定値と現実自己の評定値の差を算出し,この値を理想自己の評定値と現実自 己の評定値の差の値で割った値を用いた(以下「未来可能位置」).この値が 低いほど未来可能自己が現実自己に近く,高いほど理想自己に近いことを意味 することになる.

これら指標間のスピアマンの順位相関係数をTable2に示した.「現実自己」

と「現実と理想のズレ」,「現実自己」と「未来可能位置」とは無相関である が,「現実と理想のズレ」と「未来可能位置」の間に有意な負の相関があり,

現実自己と理想自己のズレが大きい程,可能自己の相対的位置が現実自己に近 くなることを意味している.この結果から,3つの指標の値をメデイアン分割

3 Variables

・ わ く . 0 1

−.03

−.62・・

Realself

Real‑idealdiscrepancy Positionoffuturecanself

L2a ‑.12

(15)

2 2 18.41

3 . 5 8 35.00 9.51 47.27 11.62 Table3

7ihen2Z国6ar・of 6リ笹c暦 。 &"sof窃冶aノse〃了寸醐aaJ韮ノ〆 d効fur石Ca〃

j 〆

23 28.04

1 . 1 9 52.61 6 . 0 1 46.30 7.11 Realself

Positionoffuturecanself

Low I I i g h

N R S ・ j N I S b D N R S NIS

1 8 16.39

5.09 7444 13.27 4417 9.59

宮hv一・昭O

L一Ⅱ

一●守

函〃〃卯″妙″皿一︾〃〃釦釦〃釦 pfff−pfff e副副飢一醒理皿皿

rc

雌恥確一・唾11n

i daaa︒.aaa ecc二 Rd・1恥血C l ale−函Ie

恥一恥恥

ol

a一ae一e R・R

1 8 1 8 . 8 9

274 43.61 9.52 36.94 9.72 3 4

して実験参加者を分類して分析することには無理があると考えられるため,ま ず「現実自己」の指標と「現実と理想のズレ」の指標の値をメディアン分割 し,「未来可能位置」の指標は,「現実と理想のズレ」が高群と低群のそれぞ れでメデイアン分割を行った.その結果,各群の実験参加者の数はmble3に 示したようになった.各群の現実自己・理想自己・未来可能自己の平均値は Table3に示した.このように実験参加者を分割したため,以下の分析では,

従属変数に対して,「現実自己」と「現実と理想のズレ」を要因としてまず分 析を行い,その後,「現実と理想のズレ」の高低群ごとで,「現実自己」と

「未来可能位置」を要因とする分析を行った.

1 3 29.62

4.77 85.77 13.36 58.08 11.46

1 4 28.21 5.04 41.07 11.12 52.50 12.52

2 0 16.50

3.66 64.00 14.56 59.25 15.15

a)NRS:Subjectswhose″futurecanSelfグStandSnear″realSelf".

b)NIS:Subjectswhose″futurecanself″standsnear″idealselr".

1 2 30.00

9.29 72.08 11‑77 65.00 16.37

課 題 の 選 択

全体傾向課題の選択の全体の結果は,Tablel‑Cに示した通りである.成功

時の診断性と失敗時の診断性の双方が高い課題Dを68.6%の実験参加者が選択

し,成功時の診断性のみが高い課題Cを22.1%の実験参加者のみが選択し,全

体としては,自己査定傾向が強い傾向がみられた.課題Aと課題Bを選択した

実験参加者が非常に少ないことから(課題A:7.9%,課題B:1.4%),課題の

(16)

3 5

選択の分析としては,失敗時の診断性が高い課題Bと課題Dを低能力が判明す る課題選択とし,失敗時の診断性の低い課題Aと課題Cの選択を低能力が判明 しない課題選択として一括し,低能力が判明する課題と低能力が判明しない課 題の各選択人数を従属変数として分析を行った.

現実自己および現実自己と理想自己のズレ「現実自己」の高低と「現実と 理想のズレ」の高低の各群のごとの課題選択はnble4に示した.低能力が判 明する課題と低能力が判明しない課題の選択人数に対して,2×2(「現実自 己」(高・低)×「現実と理想のズレ」(高・低))のログリニアー分析を 行ったところ,仮説lから予測される「現実自己」の主効果は有意ではなかっ たが(X2=0.48,,.s.),「現実と理想のズレ」の主効果が有意であった(X2=7.86, p<、01).これは,現実自己と理想自己のズレが高い実験参加者は低い実験参加 者に比べ,低能力が判明する課題を選択することによる効果であり(Figurel),

仮説2を支持する結果である.

Table4

7面sZfcルojceasaf c ofJ沼aノーjdbaJdiscJ 〃a" z℃aJse"

Diagnosticityofsuccess

Diagnosticityoffailurc lpw ( T a s k A )

Low High (TaskB)

l I i g h Low l I i g h (TaskC)(TaskD)

Real‑idealdiscrepancy:Low

R 、 a l s e l f M 瀞 6 3 弘

Real‑idealdiscrepancy:lligh

R e a 1 s e 1 f I I 劉 } 8 $ 3 1

現実自己と理想自己のズレが低い群「現実と理想のズレ」が低い実験参加 者における,「現実自己」に高低と「未来可能位置」の高低の各群ごとの課題 選択はTable5‑Aに示した.低能力が判明する課題と低能力が判明しない課題 の選択人数に対して,2×2(「現実自己」(高・低)×「未来可能位置」

(高・低))のログリニアー分析を行ったところ,「未来可能位置」の主効果 と交互作用効果に有意に近い効果が得られた(X差2.72,犀.099;X差2.99,F、084).

「未来可能位置」の主効果は,可能自己が現実自己に近い実験参加者は,理想

自己に近い実験参加者に比べ,低能力が判明しない課題をより選択することに

よる効果であり,仮説3を支持する結果である.しかし,交互作用効果が有意

(17)

3 6

国 R ・ a I S o 1 f L o w 鰯 R o a I S o 肺 H i g h

000000 08642

の一・の石.の﹄︒こ◎雪oqo﹄匹

f§

L o w H i g h R e a l ‑ I d e a I D i s c 「 e p a n c y

盈惣な2℃Z・Theproptionofsubjectswhochosetheta8kswhichhave唾ghfnjlure

d i a g n o 8 t i c i t y .

Table5

な$2t oj asaf血"c" ofr砥aノゴdbaJdjs窓r a"GjZz沼ajsajra"ぴめe siz"〃〆了睡uJで 〃s怠』〆

2 Diagnosticityofsuccess

Diagnosticityoffailure

L O w I I i g h L o w lIighLow H i g h (TaskA)(TaskB)(TaskC)(TaskD)

A・Real‑idealdiSCrepanCy:lpw Rcalself:Low

Positionoffuturecanself

c 一 ー ‐ 一 一 ー ‐ ■ ‐ 。 ‐ 。 。 一 ● ‐ 。 。 ● ‐ ‐ 。 。 ‐ ‐ ‐ ロ ー ● 。 ●

Realself:lIigh

Positionofruturecanself

● ● C ‐ ー

│ W

§

⁝1

:!

a)NRS:Subjects官hose"futurecanselFstandsnear″realself".

b)NIS:Subjects官hose″futurecanself″standSnear"idealself".

に近い効果であったことから,この主効果は制限を受ける.交互作用効果を詳 しくみるために,「現実自己」の高群低群ごとに,低能力が判明する課題と低 能力が判明しない課題の選択比率に「未来可能位置」の高低によって差がみら

B,Real‑idealdiSCrepancy:IIigh Realself:Low

P・sitionoffutumc…c1f蝿

Realself:Ⅱigh

P o s i t i o n o f f u t u r e c a n S e l f l W §

!← 18 24

(18)

現実自己と理想自己のズレが高い群「現実と理想のズレ」が高い実験参加 者における,「現実自己」に高低群と「未来可能位置」の高低群ごとの課題選 択はTable5−Bに示した.低能力の判明の可否課題の選択人数に対して2×2

(「現実自己」(高・低)×「未来可能位置」(高・低))のログリニアー分 析を行ったが,全ての効果とも有意ではなかった(x2=0.01,,.s.;x差0.57,,.s.;

X 2 = 0 . 3 9 , , . s . ) . 課題の選好

全体傾向実験参加者全体における各課題の選好はTablel‑Dに示した通り である.この選好に対して,2×2(成功時の診断性(高・低)×失敗時の診断 性(高・低))の分散分析を行ったところ,成功時の診断性の主効果も失敗時 の診断性の主効果も有意で(R1,139)=206.01,p<、001;R1,139)=12.45,p<、001),

国 R ・ a l S e l 愉 L o w 鰯 R e a l S o I f : H i g h

OOOOOO O8642

の一○①石.のちこ◎一己︒﹄Q

N R S N I S Positionof, FutureCanSeIf厨

F閉gzzre2・TheproptionofsubjectswhtilowreaIFidealdiBcrepancywhochose thetask8whichhavehighfhilurediagnosticity(NRS=Subjectswho8e

,'血turecanser'8tand8near'real8eIfo,NIS=SUbjectswho8e叩釦turecanself,

Btand8near''idealself').

3 7

れるかX2検定を行い検討したところ,「現実自己」高群では「未来可能位置」

によって選択比率に差がみられず(x2=0.00,,.s.),「現実自己」低群においての

み,可能自己が現実自己に近い実験参加者は理想自己に近い実験参加者に比べ

低能力を判明しない課題を選択するという仮説3を支持する方向の有意な差が

み ら れ た ( X = 6 . 2 1 , P < 、 0 5 ) ( F i g u r e 2 ) .

(19)

3 8

交互作用効果に有意に近い効果がみられた(R1,139)=3.20,F.076).主効果は成 功時の診断性,失敗時の診断性ともに,診断性が高いほど課題を選好すること

による効果であり,失敗時の診断性がこの方向で有意であることから,全体と しては自己査定的行動を取ったことを示している.交互作用効果は,片方の診 断性が高いときには低いときに比べ,もう一方の診断性の効果が課題の選好に より強い影響を与えたことによる効果である.さらに,各課題に対する選好に 対してTukey法による多重範囲検定を行ったところ,課題Aと課題Bが同程度 で一番低く,次に課題Cが選好され,最も選好された課題は課題Dであった ( T a b l e l ‑ D ) .

現実自己および現実自己と理想自己のズレ「現実自己」の高低と「現実と 理想のズレ」の高低の各群ごとの課題の選好はnble6に示した.この選好に 対して,2×2×2×2(「現実自己」(高・低)×「現実と理想のズレ」(高・

低)×成功時の診断性(高・低)×失敗時の診断性(高・低)の分散分析を 行ったところ,自己表象に関連する効果としては,「現実と理想のズレ」×失 敗時の診断性の交互作用効果に有意に近い効果がみられたのみであった (F(1,136)=2.81,p=、096).この効果を詳しくみるために,「現実と理想のズレ」

高群低群ごとに,2×2(成功時の診断性(高・低)×失敗時の診断性(高・

低))の分散分析を行ったところ,「現実と理想のズレ」高群では,失敗時の 診断性が高いほど課題を選好する方向で失敗時の診断性の主効果が有意であっ

Table6

乃蓉Utpr程fなr程" an"c〃 ⑥f・ aj−j剛aajdi J君pa"〃 d aIseJr Diagnosticityofsuccess

DiagnostiCityOffailUre Low ( T a s k A )

Lo官 I I i g h ( T a s k B )

l I i g h

Lo官 High

(TaskC)(TaskD)

Real‑idealdiscrepancy:Low

Lo圃多雑淵?:::淵

Realself

Ⅱighs;i::淵撹認

一ロー■●。●−−−口−つの●=‐■一一一一一一●‐■。。‐=−−−pCoや一宇一一一画。‐●●‐‐一一一‐=−つ■。ー‐==ー−−つ。◆Cローーーー‐‐−つ‐−−●

Real‑idcaldiSCrepancy:Iligh

L o o j ; 調 : 淵 機 淵

Realself

IIighs;リ淵瀧撹謡

(20)

L o w H l g h D i a g n o s t i c i t y o f F a i I u r e

F靴gTzr石3.Ta8kprefbrenceaBafUnctionof 'real‑idealdiscrepancy,and diagno8ticityoffnilure(Low三ra8kAandTaskC;HighTaskBandTaBk D).

現実自己と理想自己とのズレが低い群「現実と理想のズレ」が低い実験参 加者における,「現実自己」に高低群と「未来可能位置」の高低群ごとの課題 の選好はTable7‑Aに示した.この選好に対して,2×2×2×2(「現実自己」

(高・低)×「未来可能位置」(高・低)」×成功時の診断性(高・低)×失 敗時の診断性(高・低))の分散分析を行ったところ,自己表象に関連する効 果で有意になったものはなかった.

現実自己と理想自己とのズレが高い群「現実と理想のズレ」が高い実験参 加者における,「現実自己」に高低群と「未来可能位置」の高低群ごとの課題 の選好はTable7‑Bに示した.この選好に対して,2×2×2×2(「現実自己」

一ReaI‑IdealD圏crepancy:Low

. . e ・ ・ R e a I ‑ I d e a I D i s c r e p a n c y : H I 9 h

54

①︒匡⑩﹄皇の﹄ユニ切飼﹄

3 9

たが(R1,62)=12.20,p<、001),「現実と理想のズレ」低群では失敗時の診断性の

主効果は有意ではなかった(R1,76)=2.46,,.s.).これは,現実自己と理想自己の

ズレが小さい実験参加者は,大きい実験参加者に比べ,相対的に自己査定的選

好ではなく自己高揚的選好を示すことを意味しており,仮説2を支持する結果

で あ る ( F i g u I B 3 ) .

(21)

3.49 1.70 3.50 1 . 6 5 Table7

勉鍬p f腰r沼"ceasafhj"c〃 ofr程aJ‑JdhaJα J没 " 刀穆a」 " J鋤e β J〃 of』r" 〃 」〆

4.78 1 . 2 8 5.21 1 . 3 1 Diagnosticityofsuccess

Diagnosticityoffailure

Low l I i g h

Low l l i g h (mskC)(TaskD)

L o w ( T a s k A )

l l i g h (TaskB)

B・Real‑idealdiscrepancy:Ⅱigh Rcalselr:LOw

N R S H P o s i t i o n o f 6 1 0

f u t u r e c a n s e l f N I S

Realself:Ⅱigh

NRS

P o s i t i o n o f j M D

f U t u r e c a n S e l f N I S H A・Real‑idealdiscrepancy:Low

Realself:Lo曹 Positionof 畑so》

f u t u r e c a n s e l f N I S b 》

Realself:IIigh Positionof NRS

f u t u r e c a n s e l f N I S

〃 3 . 5 6 Ji01.54

〃 3 . 3 6 S p 1 . 7 6

3.78 0.73 3.50 1 . 3 0

5.06 4.96 4.95 1.13

5.17 1.54 5.18 1.50

〃釦〃釦 3.65 1.15 3 . 7 1 1 . 1 4 4 0

6.11 0.96 5.55 1.10 5.52 1 . 3 1 5.50 1 . 2 9

3.38 1.56 2.17 1 . 4 7

3.92 1 . 6 6 3.08 1 . 0 8 3.50

1.54 3.65 1 . 4 6

3.55 1 . 4 2 4.20 1 . 5 1

4.94 4.75 4.75 0.97

a)NRS:Subjects官hose″futureCanSelf"StandSnear″realself".

b)NIS:Subjccts官hosc″fULUreCanSelf々Standsnear″idealself=.

5.38 1 . 7 6 6.33 1 . 2 3 4.54

1 . 6 6 5.33 0.65

(高・低)×「未来可能位置」(高・低)×成功時の診断性(高・低)×失敗 時の診断性(高・低)の分散分析を行ったところ,自己表象に関連する効果と

しては,「現実自己」×成功時の診断性の交互作用効果と「未来可能位置」×

成功時の診断性の交互作用効果に有意に近い効果が(R1,59)=3.91,犀.053;R1,

39)=2.97,p=090),「現実自己」×「未来可能位置」×成功時の診断性の交互作

用効果に有意な効果が認められた(R1,39)=16.77,p<、001).2要因の交互作用効

果はそれぞれ,現実自己の高い人ほど成功時の診断性が課題の選好に強い影響

を与えること,未来可能自己が理想自己に近い人ほど成功時の診断性が課題の

選好に強く影響を与えることによる効果であるが,3要因の交互作用効果が有

意であることから,これら効果は制限を受ける.この3要因の交互作用効果を

詳しく検討するために,「現実自己」高低群ごとに,2×2×2(「未来可能位

置」(高・低)×成功時の診断性(高・低)×失敗時の診断性(高・低))の

(22)

Pp8itio回。f叩FutureCanSeIr'・NRS

‐‐‐・‐PoBitionof'Fnコmr9CanSeIf':NIS

4 1

分散分析を行ったところ,「現実自己」高低群とも「未来可能位置」×成功時 の診断性の交互作用効果が有意であったが(低群:R1,36)=5.03,p<,05,高群:FU,

23)=9.60,P<、01),その方向は異なっていた(Figure4).現実自己が低い実験参加 者においては,未来可能自己が現実自己に近い人ほど,成功時の診断性が課題 の選好に強く影響を与えていたが,現実自己が高い実験参加者においては,未 来可能自己が理想自己に近い人ほど,成功時の診断性が課題の選好に強く影響 を与えていた.また,現実自己が高く未来可能自己が理想自己に近い実験参加 者において,成功時の診断性が課題の選好に最も強く影響を与えていた(Figure 4).この結果は,未来可能自己が高い場合には,現実自己が高いほど自己査定 傾向が強いことも意味しており,部分的に仮説lを支持するものである.

L o w H 1 g h L o w H l g h DiagnosticityofSuccessDiagnosticityofSuccess

RealSeIfmw RealSelfH埴h

五 % g z エ r 石 等 . T a s k p r e f b r e n c e a s a f i m c t i o n o f " r e a l B e l f ' , t h e p r o p t i o n o f , ' 丘 t i r e c a n s e l f ' ( N R S = s u b j e c t 8 w h o 8 e , ' f U t u r e c a n s e l f8 t a n d 8 n e a r' r e a l s e l f , ;

NIS=subjectswho8e 'fUtreCanSelf・ stand8near,,idealser)and diagnoBticityofBucce88(Lowざra8kAandTa8kB;HighゴraskCandTaSk

D).

2 2

①︒5﹄坐①﹄匹希⑩﹄

⑩︒この﹄g①﹄Q希⑩﹄ ︒︒◆・Coo①

(23)

4 2

考 察

自己表象と自己の能力に関する情報収集行動との関係

本研究では,収集の対象となる能力に関する自己表象により,情報収集行動 が異なるかどうかを検討した.

本研究で得られた結果をまとめてみたい.まず,現実自己と理想自己のズレ が小さい実験参加者は,大きい実験参加者に比べ,失敗時の診断性の低い課題 を選択しやすく,失敗時の診断性が高まることによって課題の選好が高まらな かった.これは,理想自己を現実自己の近くに持つ人は,相対的に,自己査定 傾向が低く,自己高揚傾向がより顕著にみられることを意味しており,仮説2 を支持する結果といえよう.ただし,理想自己を現実自己の近くに持っている 人の中でも,現実自己が低く,未来可能自己が現実自己に近い実験参加者にお いて特に,自己高揚的課題選択しており,自己高揚傾向が最も顕著に現れるこ とが見られた.これは,仮説2が特定の条件においてのみ成り立つことを示す とともに,部分的に仮説1と仮説3を支持する結果といえよう・一方,現実自 己と理想自己のズレが高い実験参加者においては,仮説とは異なった結果が得 られた.現実自己が高く未来可能自己が理想自己に近い実験参加者が最も,成 功時の診断性が高い課題を選好する傾向がみられた点は,仮説lに合致する結 果であるが,現実自己が低い実験参加者においては,未来可能自己が現実自己 の近い実験参加者の方が,未来可能自己が高い実験参加者よりも成功時の診断 性の高い課題を選好する傾向がみられた.

本研究における仮説は全て,自己表象に関しての単純な効果を予測したもの であったが,これら結果のまとめからわかるとおり,本研究で得られた結果 は,もっと複雑な交互作用効果を含んだものであった.つまり,現実自己の高 さや現実自己と理想自己のズレや未来可能自己の相対的位置が,独立に自己の 能力が明確になる情報の収集行動に影響を与えるのではなく,それらが複合し て影響をしていることを示すものであり,Higgjns(1989)が主張するように,自 己表象間のケシュタルト的関係により目を向ける必要があることを示唆する結 果といえよう.

そこで,自己表象の特徴(Table3)と自己の能力に関わる情報収集行動の特徴

(24)

4 3

(I泡ble5,Table7)の関係についてより詳しく検討してみる必要があるだろう.

自分が現在低い能力しか持っていないと考え,理想として持ちたい能力も低い が,それにも達成できないと考えている実験参加者においては(「現実自己」:

低&「現実と理想のズレ」低&「未来可能位置」:現実自己に近い),課題選 択や課題選好において最も自己高揚的行動を取っており,自己高揚傾向に比べ 自己査定傾向が最も低いと考えることができよう.一方,理想として持ちたい 能力が現在持っていると考える能力とあまり差がなく,その段階以上に達成で きると考えている実験参加者は,現在持っていると考える能力が高い実験参加 者も低い実験参加者も(「現実自己」高低&「現実と理想のズレ」低&「未 来可能位置」:理想自己に近い),そして,現在高い能力を持っているが,達成 できる可能性は低いが,理想として持ちたい能力が現在持っていると考えてい る能力と差がない実験参加者(「現実自己」:高&「現実と理想のズレ」:低&

「未来可能位置」:現実自己に近い)とともに,課題選好と失敗時の診断性との 間に正の相関も負の相関もないことから,自己高揚傾向と自己査定傾向が桔抗 していると考えることができよう.理想として持ちたい能力に比べ理想として 持ちたい能力の差が大きい実験参加者(「現実と理想のズレ上高)は,課題D を選択し失敗時の診断性が高まると課題の選好が増すことから,自己高揚傾向 に比べ自己査定傾向が高いと考えられるが,現在高い能力を持っているが,理 想も高く,そしてそれに相当なレベルまで近づくことができる実験参加者

(「現実自己」:高&「現実と理想のズレ上高&「未来可能位置」:理想自己

に近い)は最も自己査定傾向が高く,それについで,現在低い能力しか持って

いないが,理想を高く持っており,しかし達成できないと考えている実験参加

者(「現実自己止低&「現実と理想のズレ」:高&「未来可能位置」:現実自

己に近い)が自己査定傾向が強いと考えられる.このように,自己表象の単独

なあり方や単独の自己表象間の関係ではなく,自己表象の全体像により,自己

の能力に関する情報収集行動に関わる傾向が異なっていると考えられる.今後

は,この結果を踏まえ,自己表象間のゲンシュタルト的な関係について洗練さ

れた測定法を考え,社会的行動との関係を検討する必要があろう.

(25)

4 4

抑欝との関係

自己表象間の関係を扱った研究は,もともと精神的健康との関係を扱ったも のが多い(e、9.,Higgms,1989;工藤,1990).本研究の結果は,これら研究とどの ように関わっていると考えられるであろうか.本研究では,達成の基準として 理想自己を用いたため,理想自己と関係が深いと指摘されている抑欝との関係 を考察してみたい.先行研究において,一貫してみられることは,現実自己と 理想自己のズレが高いほど抑欝傾向が高いという傾向である.また,未来可能 自己を考慮にいれた研究では,未来可能自己が現実自己に近い人は理想自己に 近い人よりも,抑欝傾向が高いという傾向がみられている(工藤,1990).本研 究では,現実自己と理想自己のズレが高いほど,失敗時の診断性の高い課題を 選択する傾向がみられた.このことは,現実自己と理想自己のズレが大きい実 験参加者ほど,自分の能力が低いことを明確にしてしまいがちであることを示 している.これが抑欝と関係するのかもしれない.さらに,現実自己と理想自 己のズレが大きい実験参加者の中で,現実自己が低くそれに達成できないと考 えている実験参加者においても,相対的に強い自己査定動機がみられた.つま

り,低い能力しか持っていないと考えているが,高い理想を持っており,しか

もそれに達成できないと考えている実験参加者において,自己高揚的行動では

なく,自己査定的行動が取られたことになる.これは,低い能力しか持ってい

ないと考えているが,現在の能力とあまり変わらない理想を持ち,しかしそれ

に達成できないと考えている実験参加者において,自己高揚的行動が取られや

すいことと対照的な行動であるといえる.もし,現実自己の表象がある程度正

確な自己の能力を反映しているとしたら,現在低い能力しか持っていないのに

もかかわらず,高い理想を持っているために,失敗時の診断性も成功時の診断

性も高い課題を選択することとなり,自分が低い能力しか持っていないことが

明確になってしまう.そして,高い基準と比較して,現在の自分に対して非常

にネガティブな感情を持ってしまうと考えられる.そして,将来もその基準を

達成できないと考えてしまうのではないだろうか.つまり,現実自己と理想自

己のズレが大きい実験参加者の中でも,この現実自己が低く,現実自己に比べ

て高い基準(理想自己)を達成できないと考えている実験参加者は,抑欝傾向

(26)

4 5

を生み出すような行動を取り,抑欝的な自己表象を確認するような行動を取っ ていると考えられる.先行研究でみられた,自己表象と抑欝の関係はこのタイ プの実験参加者と強く関係する可能性を,本研究は示唆すると考えられる.ま た,抑欝傾向の高い人は自己高揚的な行動が取れないという知見(e、9.,Alloy&

Abramson,1979;Golin,T℃rTell,Weitz,&Dmst,1979)と一致する結果であるとも考 えられる.問題でも述べたように,自己の能力に関する情報収集行動は,自己 表象の形成に取っても重要な役割を果たすものであり,今後さらなる研究をす すめる必要があると考える.

本研究の限界

最後に本研究の限界について考察を加えたい.まず第1に,本研究において は,達成する基準として理想自己を取り上げた.しかし,達成する基準として は,義務や責任として持つべき属性の表象としての当為自己が指摘されてお り,本研究で得られたような結果が当為自己においても見られるかは不明であ り,今後の検討が必要であろう.さらに,基準の源泉として自己以外にも重要 な他者があることが指摘されている(Higgins,1989).つまり,自己に対して重 要な他者が理想として持って欲しい属性や義務として持っているべきであると 考えている属性も自己の表象として重要な役割を果たすことが指摘されてい

る.これら自己表象を含んだモデルを今後検討していく必要があろう.

次に,本研究では,収集する対象の能力として,「認知的複雑性能力」とい

う実験参加者にとって馴染みのない能力を持ちいた点を考慮する必要があろ

う.実験参加者は,本研究が実施される前の段階では「認知的複雑性能力」に

関する自己表象を持っておらず,実施した段階で,新たに自己表象を形成した

と考えられよう.これは既存の自己表象から作られたものであり,部分的には

すでに持っている自己表象の反映と考えられるが,明確に持っていたわけでは

ない点は重要かも知れない.特定の自己表象が自己に関する情報処理に与える

影響を検討した研究においては,その自己表象の有無が情報処理に影響を与え

ることを示す研究が多い(e、9.,MaIkus,1977).また,Higgins(1991)は個々人の自

己表象の独自性を捉える必要があることを主張している.本研究で扱った自己

表象が新たに作られたことは,本研究の結果になにかしらの影響を与えた可能

(27)

4 6

性は否定できない.今後は,既存の自己表象を用いる形での研究で明らかにし ていく必要があると考える.

本研究には以上のような限界はあるものの,自己表象と自己表象間の関係に より,自己の能力に関する情報収集行動が異なっていることが示された.自己 の能力に関する情報収集行動は,逆に,自己表象の形成において重要な役割を 果たすことは明かである以上,今後はその相互依存関係についてより洗練され た研究が必要であろう.

注1:本研究の実施にあたっては,平成4.5年度文部省科学研究補助金(一般研究 B:04451030(研究代表者:末永俊郎/研究題目「社会的認知における自己情報 処理システムの研究))の交付を受けた.本論文は,提出した報告書の一部を加筆 修正したものである.

注2:本研究の一部は,日本心理学会第58回大会において発表された.

(謝辞:本研究の計画の骨子は山陽学園大学助教授越良子先生との議論から生まれたも のです.記して感謝申し上げます.本研究の実施にあたっては,帝京大学文学部講師滝 聞一嘉先生のご援助を受けました.記して感謝申し上げます.また,青山学院女子短期 大学助教授工藤恵理子先生には,本研究の実施・論文の作成の段階で貴重なご意見をい ただきました.記して感謝申し上げます.)

引用文献

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参照

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