• 検索結果がありません。

IFRS 導入を巡る議論と適用の影響

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "IFRS 導入を巡る議論と適用の影響"

Copied!
49
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1. はじめに

わが国では,国際会計基準を巡って,長 年にわたり 「調和化 (harmonization)」

に関する議論が展開されてきたが,2006 年以降は IFRS と日本基準との「統合・収 斂(convergence)」が進められるように なった。さらに,2009 年からは,近い将 来に起こるであろうこととして,IFRS の

「採用・導入 (adoption)」 が議論される ようになった(平松[2013b]2-3 頁)

その結果,周知のとおり,2010 年 3 月 期から(一定の要件を満たした企業に限定 されるとはいえ)IFRS の適用が容認され ることになり,2014 年 4 月末日現在,38 社が IFRS を適用 (適用を予定) してい 1)。 また,「当 面の方針」 を踏まえ,

ASBJ は修正国際基準の策定に向けた検討

を重ね,同年 7 月 31 日に公開草案「修正 国際基準(国際会計基準と企業会計基準委 員会による修正会計基準によって構成され る会計基準)(案)」を公表した。

このように,国際会計基準を巡る議論は,

ひとまず一段落したということができるだ ろう2)。したがって,これまでの議論を振 り返り,任意適用企業における IFRS 採用 の影響を明らかにすることは意義のあるこ とと思われる。そこで,本稿ではまず,企 業会計審議会(以下,企会審と略す)にお ける議論を,その議事録を参照することで,

IFRS の導入に向けて,どのような議論が 行われてきたのかを概観する3)。次いで,

IFRS を任意適用している企業の初度適用 に関する注記を分析することで,IFRS の 採用によって,どのような影響があったの

IFRS 導入を巡る議論と適用の影響

Discussions on the Introduction of IFRS and Effects on the Application

清 村 英 之

Hideyuki KIYOMURA

【要旨】

本稿では国際会計基準を巡るこれまでの議論を振り返り, 任意適用企業における IFRS 採用の影響を検討した。そこで明らかになったことは,議論が欧米の動向に大き く左右され,国内の政治的影響も強く受けたことである。また,IFRS の適用によって,

当期純利益と包括利益に大きな変動があったものの,それ以外の項目は 5%未満の増減 にとどまる企業が過半数を占めていたことが確認された。過去 10 年にわたる IFRS と のコンバージェンスの成果である。

【目次】

1. はじめに

2. IFRS 導入を巡る議論

3. IFRS 任意適用企業の事例分析 4. おわりに

産業情報論集 Vol.11 (No.2) March 2015 pp.17-65 Journal of Industry and Information Science

(2)

かを検証する。

2. IFRS 導入を巡る議論

(1)「会計基準のコンバージェンスに向 けて(意見書)」の公表

1)審議会開催までの経緯

平松[2010]が指摘するように,従来,

わが国では,国際会計基準とのコンバージェ ンスが必ずしも前向きに検討されてきたわ けではなかった(7 頁)。例えば,日本経 済団体連合会 (以下,経団連と略す) が 2003 年 10 月 21 日に公表した 「会計基 準に関する国際的調和を求める」は,「グ ローバルに共通な会計基準を目指すための 第一歩として,先ずは,日米欧がそれぞれ の基準に基づく財務諸表を相互に受け容れ る体制を作ることが重要」であり,「金融 庁においては,米国 SEC や欧州委員会及 び EU 加盟各国の監督当局等に対して,

わが国会計基準の受け容れについて,強く かつ迅速に働きかけることが不可欠である」

(経団連[2003]Ⅰ.2.)と提言した。

また,2004 年 4 月 20 日に公表された 欧州産業連盟と経団連による「国際会計基 準に関する共同声明」では,「資本市場の グローバル化を踏まえると,財務諸表の比 較可能性を確保するために,会計基準を収 斂させることには全面的に賛成する」が,

「国・地域毎に異なる市場構造や会計基準 を 取 り 巻 く 法 規 制 等 を 前 提 と す れ ば , 2005 年までの短期間にこれを達成するこ とは困難」であり,「収斂を達成する前の 中間的段階として,相互承認の実現に向け て 協 力 す る 」( 欧 州 産 業 連 盟 ・ 経 団 連

[2004] 3.) と述べられている。 なお,

IFRS については,「利用者や作成者のニー ズや,根本的な概念の変更に伴う経済的影 響を精査することなく,全面時価主義的な 考え方を採ることには,理論面及び実践面

での問題も孕んでおり,経済界は,断固と して反対する」(同,1.)と明言した。

さらに,経済産業省に設置された企業会 計の国際対応に関する研究会が 6 月 10 日 に公表した「中間報告」は,「我が国の会 計基準が IFRS と遜色なく同等レベルにあ ることを EC 関係者に十分に認識させ,我 が国の会計基準を EU で受け入れさせる ことを実現させなければならない」(経済 産業省[2004],12 頁)と主張した。た だし,長期的には「主要な資本市場となっ ている米国,欧州及び我が国の会計基準を 収斂させていく努力を行うべきである」

(同,17 頁)と述べている。

以上の見解は,中長期的な目標として会 計基準のコンバージェンスを掲げてはいる ものの,相互承認の実現を目指すものであっ た。このような姿勢に変化を促したのは,

EU に よ る 同 等 性 評 価 で あ る ( 平 松

[2010]3 頁)

EU は「目論見書指令」(2003 年 11 月)

と「透明性指令」(2004 年 12 月)により,

2005 年 1 月から EU 域内の上場企業の財 務諸表に IFRS の適用を義務づけ, 2007 年 1 月(その後,2009 年 1 月に延期)か らは外国企業に IFRS またはこれと同等と 認められる会計基準の適用を求めた4)。そ の結果,日本基準が IFRS と同等と認めら れなければ,EU で資金調達をしようとす る日本企業が,EU 市場からの撤退を余儀 なくされる恐れが生じたのである (平松

[2010]4 頁)

そこで, ASBJ と IASB は 2004 年 10 月 12 日に,会計基準のコンバージェンス を最終目標として,現行基準の差異を可能 な限り縮小する共同プロジェクトの立ち上 げに向けて協議を開始し(ASBJ[2004] 翌 2005 年 1 月 21 日,共同プロジェクト を 立 ち 上 げ る こ と に 合 意 し た (ASBJ

(3)

[2005])。

また,米国の動向もコンバージェンスへ の転換を後押しした5)。FASB と IASB は 2002 年 9 月,米国基準と IFRS との中長 期的コンバージェンスに向けての合意,い わゆるノーウォーク合意を取り交わした。

また, 2005 年 4 月には SEC 議長と EU コミッショナーが会談し,米国市場に上場 する外国企業が IFRS によって作成する財 務諸表について,2009 年までに差異調整 表を不要にするというロードマップにも合 意 し た ( 日 本 公 認 会 計 士 協 会 東 京 会

[2009]11-12 頁,平松[2010]5-6 頁)。

このような状況変化に対して,経団連は 2006 年 6 月 20 日に 「会計 基 準 の統 合

(コンバージェンス)を加速化し,欧米と の相互承認を求める」を公表し,「日本経 団連は,会計基準のコンバージェンスの加 速化を積極的に支持する決意」 であり,

「わが国の関係者が一丸となって,会計基

準のコンバージェンスを加速するとともに,

日米欧の金融当局間で相互承認を実現する ためのフレームワークに合意するよう,米 欧の当局に対して早急に働きかける必要が ある」(経団連[2006]2.)と提言した6) 従来の相互承認からコンバージェンスへと 方針が変更されたのは,「今後,国際会計 基準と米国基準とのコンバージェンスが進 む中で,日本基準だけが大きく乖離してし まえば,世界に日本基準が異質な基準であ るとの印象を与え,国際的にビジネスを展 開している企業の活動を妨げ,日本基準の 孤立化,ひいては,日本市場,日本企業の 信頼性の低下につながる可能性があり,懸 念」(同,1.)を抱いたためである。

ただし,「IASB における業績報告や金 融商品等の議論は,極端に資産/負債アプ ローチに基づいており,全面時価会計につ ながりかねない方向に進んでいる」が,こ れらは「短期的視野に基づく企業経営を助 図表 1 IFRS 導入に至る経緯

2003 年 経団連が「会計基準に関する国際的調和を求める」を公表(10 月)

2004 年 欧州産業連盟と経団連が「国際会計基準に関する共同声明」を公表(4 月)

経済産業省・企業会計の国際対応に関する研究会が「中間報告」を公表(6 月)

ASBJ と ISAB がコンバージェンス共同プロジェクトの立ち上げに向けて協議を開始(10 月)

2005 年 ASBJ と ISAB がコンバージェンス共同プロジェクトの進め方に合意(1 月)

2006 年 経団連が「会計基準の統合(コンバージェンス)を加速化し,欧米との相互承認を求める」を 公表(6 月)

企会審が「会計基準のコンバージェンスに向けて(意見書)」を公表(7 月)

ASBJ が「我が国会計基準の開発に関するプロジェクト計画について」を公表(10 月)

2007 年 ASBJ と IASB が「企業会計のコンバージェンスの加速に向けた取組みへの合意」を公表(8 月)

2008 年 経団連が「国際会計基準(IFRS)に関する欧州調査報告・概要」を公表(3 月)

経団連が「今後のわが国会計基準のあり方に関する調査結果概要」を公表(5 月)

JICPA が「欧州視察報告」を公表(9 月)

経団連が「会計基準の国際的な統一化へのわが国の対応」を公表(10 月)

2009 年 企会審が「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」を公表」(6 月)

IFRS 対応会議が発足(7 月)

2011 年 産業界が「我が国の IFRS 対応に関する要望」を提出(5 月)

経団連が「国際会計基準(IFRS)の適用に関する早期検討を求める」を公表(6 月)

2012 年 企会審が「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点 整理)」を公表(7 月)

2013 年 経団連が「今後のわが国の企業会計制度に関する基本的考え方」を公表(6 月)

自由民主党が「国際会計基準への対応についての提言」を公表(6 月)

企会審が「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」を公表(6 月)

IFRS のエンドースメントに関する作業部会が発足(8 月)

(4)

長し,経済の長期的成長を阻害しかねない と懸念」されるので,『革新的な会計基準』

ではなく,企業側の実務負担に配慮した,

実態に即した基準の開発」(同,3.(1))を 求めた。

また,7 月 7 日に「経済財政運営と構造 改革に関する基本方針 2006 について」が 閣議決定され,「適切な情報開示の確保や 市場監視機能の充実といった市場規律を高 める観点から,……国際的な動向を踏まえ,

会計基準の国際的な収斂の推進を図る」

(閣議決定[2006]12 頁)という方針が 打ち出された。

このような経済界からの要望や政府方針 を具体的に検討するため,企会審企画調整 部会が開催されることになった。

2)企会審企画調整部会

① 第 11 回企会審企画調整部会

2006 年 7 月 19 日に「会計基準を巡る 国際的な動向」等を議題として,第 11 回 企会審企画調整部会が開催された。そこで は,まず,黒澤企画官(当時)による次の ような論点整理が行われた。

国際的なコンバージェンスの加速化に対 して,わが国としてどう対応すべきか。

EU が 2008 年までにコンバージェンス をモニターするという方針なので,これ に対して具体的に,わが国としてどのよ うな手順で対応していくべきか。

国際的な会計ルール作りが進んでいる中 で,わが国としてどのように積極的に参 画していけるのか。

コンバージェンスへの取組み(推進)に ついては,「一段と強化すべき」(永井委員)

「全く賛成」(辻山委員)「この動きを歓迎」

(平松委員)と,多くの同意が得られた7) ただし,「コンバージェンスの加速とい うことには賛成なわけですけれども,どの レベルのコンバージェンスを考えているか」

(小宮山委員)という疑問や,「今後のコン バージェンスの加速化の過程でさらなる差 異が発生することがあるのか気になる」

(同)という懸念も示された。さらに,「ヨー ロッパ市場で資金調達をしようとする企業 にとっての負担を重くしないという観点か ら,(コンバージェンスが:引用者)どう しても間に合わないときには,……国際会 計基準を,日本企業に使わせてやるとか,

そういうオプションを考えるアプローチと いうのはあるのではないか」(弥永委員)

という提案があった8)

② 第 12 回企会審企画調整部会

7 月 31 日に開催された第 12 回企会審 企画調整部会では,前回部会の議論を踏ま えて作成された「会計基準のコンバージェ ンスに向けて(意見書案)」が提示され,

活発な議論が行われた。

「意見書案」に対しては,「強く賛成す る」(柴田委員),「基本的には支持したい」

(辻山委員),「ぜひ原案どおりで進めて頂 きたい」(久保田委員),「異存ございませ ん」(平松委員),「内容的には結構」(斉藤 委員),「基本的に賛成」(藤沼委員)と,

大方の委員の賛同が得られた。

ただし,「コンバージェンスを進めていっ て,その後というのはどうなっていくのか」

(島崎委員)という疑問,また,「金融庁の 権限の範囲内でできること,できないこと を分けて公表文書にすべきではないか」

(大日向委員)という指摘9),さらに,「こ の審議会が ASBJ において審議すべき基 準の内容はもちろん,審議テーマの優先順 位についても,余り具体的な注文を出すこ とはなるべくなら避けて頂きたい」(斉藤 委員)という要望もあった。

③「会計基準のコンバージェンスに向けて

(意見書)」の公表

7 月 31 日,企会審企画調整部会は「会

(5)

計基準のコンバージェンスに向けて(意見 書)」を公表した(図表 2)。

3)「意見書」公表後の動向

2006 年 10 月 12 日,ASBJ は「我が国 会計基準の開発に関するプロジェクト計画 について」を公表した。これは,意見書で

「早急に具体的な工程表の策定」が求めら れていたことに応え,「内外の関係者に対 して ASBJ における取組状況等をより明 ら か に し て い く こ と を 目 標 」(ASBJ

[2006]Ⅰ)として作成されたものである。

そこでは,企業結合(持分プーリング法)

や連結の範囲 (適格 SPE) など 「CESR から補正措置が提案されている項目に関す る現状及び取組方針並びに 2008 年年初の 達成状況の見通し」(同,Ⅲ)が示された。

また,ASBJ と IASB は 2007 年 8 月 8 日に「企業会計のコンバージェンスの加速 に向けた取組みへの合意」を公表した。い わゆる東京合意と呼ばれるもので,その内 容は以下のとおりである (ASBJ・IASB

[2007])。

CESR が補正措置を提案している項目に

ついて,2008 年までに差異を解消する か,または会計基準が代替可能となるよ うな結論を得る。

これまで両者で識別されてきた日本基準 と IFRS との差異のうち,上記プロジェ クトに含まれない残りの差異について,

2011 年 6 月 30 日までにコンバージェ ンスをもたらす。

ディレクターを中心とした作業グループ を設け,会計基準の開発において生ずる 重要な論点をより実践的に議論していく。

(2)「我が国における国際会計基準の取 扱いについて(中間報告)」の公表 1)審議会開催までの経緯

経団連は 2008 年 3 月 18 日に「国際会 計基準(IFRS)に関する欧州調査報告・

概要 」 を 公表 し , 次 の よ う に提 言 し た

([2008a]5.)。

連結財務諸表と個別財務諸表とを区分し,

前者には IFRS を,後者には日本基準を 適用していくことは,有力な選択肢と思 われる。

図表 2 会計基準のコンバージェンスに向けて(意見書)

○コンバージェンスへの前向きな対応

米国や EU を中心に,国際的にコンバージェンスに向けた具体的な取組みが加速化している状況を踏 まえると,わが国会計基準が国際的に通用しないローカルな基準となってしまわないようにするためにも,

会計基準のコンバージェンスに対してより積極的に対応し,より高品質な基準を目指すべきである。その ためにも,関係者が一丸となり,相互の協力体制を確立・強化して対応していくことが望まれる。

○EU の同等性評価等を視野に入れた計画的な対応

EU による同等性評価に向けたスケジュールを視野に入れると,2008 年初めまでに,相互にコンバー ジェンスの達成が可能な項目についてコンバージェンスを図るとともに,コンバージェンス達成に時間を 要する項目についても作業の進捗について一定の方向性を示すことが重要となる。そのためには,早急に 具体的な工程表が策定され,内外の関係者に対し,わが国の取組みが示されていくことが適切である。

○相互承認に向けた外国との対話の強化

EC と連携して双方向にコンバージェンスの進捗をモニタリングする体制を構築し,相互承認に向けて 努力していく必要がある。また,わが国会計基準に基づく財務諸表が受け入れられる可能性を模索するこ とも考えられる。わが国会計基準の相互承認は,現状からすれば,必ずしも容易ではないが,金融庁にお いては SEC との積極的な対話を粘り強く進めていくことが肝要である。

○国際会計のルール作りに関与しうる人材の確保・育成

国際会計基準の策定に関しては,既に,IASB より ASBJ に対し,ASBJ からの人材派遣を受け入れる 旨の提案がなされているところである。本提案については,国際的なルール作りに関してわが国の発言力 を確保していくためにも前向きな対応が期待されるところであり,その際,経済界,公認会計士界等にお いても,人材面での積極的な協力が期待される。

出典)企業会計審議会企画調整部[2006]二 1~4 より作成。

(6)

上場企業でも必ずしも国際的な活動を行っ ていない企業も多いことから,IFRS の 適用は選択制とすることが考えられる。

金融商品取引法上の開示は,個別財務諸 表を開示せず,連結財務諸表に一本化す ることを検討すべきである。

また, 経団連が 5 月 20 日に公表した

「今後のわが国会計基準のあり方に関する 調査結果概要」では,次のような意見が明 らかになった(経団連[2008b]スライド 8-12)

26 社(回答企業 39 社)が IFRS の選択 適用を認めるべきと回答した。

IFRS の適用範囲については, IFRS を 必要とする企業(海外の証券規制当局に より,連結財務諸表を IFRS で作成する ことが認められている企業)とするのが 15 社, 全ての上場企業とするのが 20 社で,意見が分かれている。

27 社が個別財務諸表に日本基準の適用 を継続すべきと回答した。

21 社が連結と個別で,異なる会計基準 の使用を認めるべきと回答した。

33 社が金融商品取引法上の個別財務諸 表の開示を廃止し,連結財務諸表のみの 開示へ一本化すべきと回答した。

さらに,8 月 7 日に開催された SEC の 公開審議で「2014 年からの段階的適用を 念頭に,米国企業に対する IFRS の使用の 義務付けを 2011 年に決定する」というロー ドマップ案が承認されたのを受けて10),経 団連は 10 月 14 日に「会計基準の国際的 な統一化へのわが国の対応」を公表した11) そこでは,以下のような具体的な提案が行 われている(経団連[2008c]3.-4.)

IFRS の採用を含む,今後のわが国会計 基準の方向性に関する検討を加速し,具 体的なロードマップを早急に作成すべき である。

IFRS の適用は, 当面の間, IFRS と日 本基準の選択制とすることが適当である。

将来的に IFRS の義務付けを行う場合に は,3 年程度の準備期間が不可欠となろ う。

適用対象企業の範囲については,上場企 業とすることが適当と考える。

個別財務諸表へ IFRS を選択適用するこ とも検討すべきである。

金融商品取引法上の財務諸表開示は,可 能な限り連結財務諸表に一本化し,個別 財務諸表に関する開示は抜本的な簡素化 を図っていくべきである。

また,日本公認会計士協会も 9 月 3 日 に「欧州視察報告」を公表し,次のように 提言した(日本公認会計士協会[2008]5.)

わが国の企業・資本市場の国際競争力を 一層高めていくためには,IFRS 採用の 選択肢を与えるべきである。

IFRS 採用の選択肢を与える際には,上 場企業の連結財務諸表への適用を優先す ることが適当と考える。

IFRS 採用の選択肢を認めるとした場合 には,円滑な導入のために,「日本版ロー ドマップ」を関係者間で協議の上策定し,

社会に明確に示すべきである。

このような IFRS 導入を求める声に対応 するため,企会審企画調整部会が開催され ることになった12)

2)企会審企画調整部会

① 第 13 回企会審企画調整部会

2008 年 10 月 23 日に「『連結先行論』

について」「国際会計基準(IFRS)につい て」等を議題として,第 13 回企会審企画 調整部会が開催された。

連結先行論については,「連結先行論を とる理由がよく分かりません。……個別に は個別で,税金あるいは配当を確定すると いう役割があって,かつ日本の状況に合っ

(7)

た姿があるだろうと思います。個別も国際 基準にコンバージェンスしていくという努 力はする必要があると思うのですが,すべ て合わせる必要はないのではないか。連単 分離でどうしていけないのだろう」(平松 委員)という反対意見もあったが,「早い うちに個別の方も IFRS にすることが望ま れます」(増田委員),「連結財務諸表につ いては,当然 IFRS にシフトするというこ とを先行させていただきたい」(斉藤(淳) 委員),「連結で走っていって,そのうちに 単体が追いついてくるということでも良い のではないか」(西村委員)と,賛同する 意見の方が多かった13)

また, IFRS の取扱いについては,「選 択適用のようなことはなるべく早めにやっ ていくことが重要」(西村委員)という意 見に代表されるように,任意適用に反対す る発言はなかった。しかし,「任意適用か らまずスタートして,……上場会社 2731 社には全てに強制適用するということは将 来必要」(島崎委員),「将来的にはある程 度のレベルの会社についてはオプションと して認めた上で,さらに強制を考えていく」

(小宮山委員)という強制適用を前提とし た任意適用,「強制の話ですが,これにつ いては慎重な対応が必要」(西村委員),

「とりあえずは容認という形で,世界の,

特にアメリカの動き等を注視していく」

(辻山委員)という強制適用を前提とはし ない任意適用,「単に選択適用を認めるで 良いのではないか」(黒川委員)という強 制適用を考慮外においた任意適用と,様々 な意見が錯綜し,結論は次回部会へ持ち越 された14)

② 第 14 回企会審企画調整部会

12 月 16 日に開催された第 14 回企会審 企 画 調 整 部 会 で は ,「 国 際 会 計 基 準

(IFRS)について」が議題とされた。

前回部会とは異なり,強制適用を前提と した任意適用に賛成する意見(島崎委員,

増田委員,斉藤(淳)委員,久保田委員,柴 田委員,荻原委員,藤沼委員,小宮山委員)

が多数を占めた。また,任意適用は「でき るだけ早いほうがいい」(増田委員),「早 い方が良いだろう」(西村委員)という意 見の他,「2010 年ぐらいから容認」(島崎 委員。これに藤沼委員も同意),「東京合意 の 2011 年まで待つ必要もない」(西川委 員),「原則 2012 年以降」(久保田委員)

と,その時期についての具体的提案もあっ た。

さらに,「ロードマップを考えていくこ とが必要」(島崎委員),「マイルストーン というのですか,それをきちっとしておく」

(久保田委員)「『条件付のロードマップ』

にすることがやはり大事」(柴田委員),

「強制適用するかどうかということをそこ では決定するというような形でのターゲッ トを決めておくことが大事」(荻原委員)

「ロードマップはきちっと示すべき」(藤沼 委員),「ロードマップについて,中味はと もあれ,これを早急に出していくのは当然 あるべき姿」(西川委員)と,ロードマッ プ作成の必要性は説かれたものの,「でき れば,何年ごろというところまで踏み込ん だ,方向性を示していく必要がある」(島 崎委員),「できるだけハッキリした形で目 標を決めて頂かないと,対応ができない」

(増田委員),「極力急いでいった方が良い」

(斉藤(淳)委員),「アメリカからあまり何 年も遅れるというようなことはないように してもらいたい」(久保田委員)と,強制 適用へ移行する時期については,具体的に 年数を提示する意見は見られなかった。

このように,議論の中心は任意適用の時 期と強制適用への移行時期だったが,強制 適用については,「選択適用にとどまらず,

(8)

我が国がいち早く強制適用だと言い切って しまい,それまでの準備として選択適用の 期間をもつのだと,今の時点で決定するこ とについて,我々は後世に禍根を残すこと にならないか,それが心配」(黒川委員)

という懸念や,「IFRS を強制適用するこ とによって日本のプレゼンスを高めるとい うご発言がありましましたが,それが本当 か」(斉藤(静)委員),「基準の統一によっ て国際的な比較可能性を高めるというご発 言が繰り返しありましたけれど,それが本 当か」(同)」という疑問が示された。また,

「アドプションすることになる基準の中味 の問題は冷静に分析していく必要があるの ではないか」(辻山委員),「強制適用する というところの論点の中には,やはり我が 国でエンドースメント手続を入れるべきな のか,入れるとしたらどういうふうにすべ きなのかということは,よく検討すべき」

(弥永委員)という指摘もあった。

③ 第 15 回企会審企画調整部会

2009 年 1 月 28 日に開催された第 15 回企会審企画調整部会では,これまでの議 論を踏まえて作成された「我が国における 国際会計基準の取扱いについて(中間報告)

(案)」が提示され,活発な議論が行われた。

「中間報告(案)」の「任意適用」「将来の 強制適用の検討」のポイントを示せば,以 下のとおりである(図表 3)。

「中間報告(案)」に対しては,「非常に よく検討された内容」(島崎委員),「総論 的にはこの方向でよろしい」(増田委員),

「全面的に賛成」(久保田委員)「現実的で,

賛成」(永井委員),「非常に細かい点まで 配慮が行き届いた中間報告(案)」(引頭委 員)「方向性については大筋こういうこと」

(小宮山委員)「基本的に賛成」(弥永委員)

「前向きにはとらえております」(藤沼委員)

「基本的に賛成」(弥永委員),「十分に配慮

されて,非常によく書かれているというこ とで賛成」(辻山委員),「支持したい」(岩 原委員)と,大方の委員の賛同が得られた。

しかし,強制適用の判断時期が明示され なかったことについて,「2012 年,米国 が判断するプラス 1 年とする点などを明 らかにすべきではないか」(島崎委員),

「将来どういう判断をするかどうかは別に して,判断する時期ははっきりさせたほう が良いのではないか」(永井委員),「ここ まで来たものについて,腰が引けているよ うな印象を持たれることで本当に日本の国 益にかなうのかどうか,強制適用の時期の 表現も含めて,お考え頂ければ幸だ」(荻 原委員),「ゴールがよく見えない」(藤沼 委員),「強制適用の時期というのはやはり 図表 3 事務局案

○任意適用

継続的に適正な財務諸表が作成・開示されて いる上場企業であり,かつ,IFRS による財 務報告について適切な体制を整備し, IFRS に基づく社内の会計処理方法のマニュアル等 を定め,有価証券報告書等で開示しているな どの企業であって,国際的な財務活動を行っ ている企業または市場において十分周知され ている一定規模以上の企業等の連結財務諸表 を対象とすることが考えられる。

2010 年 3 月期の年度の財務諸表から IFRS の任意適用を認めることが考えられるが,諸 課題の取組状況,欧米等の国際的な動向を十 分見極めた上で判断する必要があるものと考 えられる。

○将来的な強制適用の検討

強制適用の判断時期は,とりあえず 2012 年 を目途とすることが考えられるが,様々な考 慮要素の状況次第で前後することがあり得る ことに留意する必要がある。

強制適用はグローバルな投資の対象となる市 場において取引されている上場企業の連結財 務諸表を対象とすることが適当であると考え られる。

IFRS の移行が適当であると判断された場合 に,実務対応上必要かつ十分な準備期間(少 なくとも 3 年間)を確保した上で,上場企業 の連結財務諸表を一斉に IFRS に移行するこ とが考えられる。

出典)第 15 回企会審企画調整部会,資料 1「我 が国における国際会計基準の取扱いにつ いて(中間報告)(案)」より作成。

(9)

ある程度はっきりしたほうが良い」(増田 委員)という指摘があった15)

また,強制適用の方法についても,「段 階的に強制適用することも可能な余地を残 すような工夫があったほうが良い」(島崎 委員),「段階的な適用という可能性も残し ておいて頂いたほうが良い」(久保田委員)

「段階的に適用のほうが現実に即している のではないか」(永井委員)という要望が あった。

④ 第 16 回企会審企画調整部会

第 16 回企会審企画調整部会が 6 月 11 日に開催された。修正された「『中間報告』

(案)について」が議題であったが,委員

からの確認・質問に対して事務局が答える という形で議事は進められたので,その詳 細は割愛する。

⑤「我が国における国際会計基準の取扱い について(中間報告)」の公表

6 月 30 日,企会審は「我が国における 国際会計基準の取扱いについて(中間報告) を公表した(図表 4)。

「中間報告(案)」から修正された点は,

①任意適用の対象となる企業の範囲,②任 意適用の時期の明確化,③強制適用の時期 の具体的明記,④段階的適用の検討である。

3)「中間報告」公表後の動向

2009 年 7 月 3 日,「IFRS 導入にあたっ 図表 4 わが国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)

○わが国企業への IFRS の適用に向けた基本的考え方

国際会計基準委員会財団(IASCF)のガバナンス改革の状況や米国の動向をはじめとするわが国の会 計を取り巻く国際的な諸情勢には流動的な部分も多いことから,今後の状況変化に応じ柔軟に対応して いくことが重要である。

○IFRS 適用に向けた課題

IFRS の内容,IFRS を適用する場合の言語

IFRS の設定におけるデュー・プロセスの確保

IFRS に対する実務の対応,教育・訓練

IFRS の設定やガバナンスへのわが国の関与の強化等

○任意適用

IFRS の任意適用の対象となる企業の範囲については,例えば,継続的に適正な財務諸表が作成・開示 されている上場企業であり,かつ,IFRS による財務報告について適切な体制を整備し,IFRS に基づ く社内の会計処理方法のマニュアル等を定め,有価証券報告書等で開示しているなどの企業であって,

国際的な財務・事業活動を行っている企業の連結財務諸表(およびその上場子会社等の連結財務諸表)

を対象とすることが考えられる。

任意適用の時期については,IFRS の国際的な広まりを踏まえると,企業および市場の競争力強化の観 点から,できるだけ早期に容認することが考えられ,具体的には 2010 年 3 月期の年度の財務諸表から IFRS の任意適用を認めることが適当である。

IFRS を連結財務諸表作成企業の個別財務諸表に適用せず,連結財務諸表のみに適用することを認める ことが適当であると考えられる。

○将来的な強制適用の検討

様々な考慮要素の状況次第で前後することがあり得ることに留意する必要があるが,IFRS の強制適用 の判断の時期については,とりあえず 2012 年を目途とすることが考えられる。

IFRS による財務諸表の作成を強制する対象としては,現時点では,国際的な比較可能性を向上すると いう観点を踏まえれば,グローバルな投資の対象となる市場において取引されている上場企業の連結財 務諸表を対象とすることが適当であると考えられる。

IFRS を段階的に適用するか,一斉に適用するかは,IFRS の強制適用を判断する際に,任意適用の状 況等を基に作成者の対応能力等を見極めた上で,改めて検討・決定することが適当であると考えられる。

強制適用に当たっては,実務対応上必要な期間として,強制適用の判断時期から少なくとも 3 年の準 備期間が必要になるものと考えられる(すなわち 2012 年に強制適用を判断する場合には,2015 年ま たは 2016 年に適用開始)

上場企業の連結財務諸表への IFRS の適用に加えて,上場企業の個別財務諸表(連結財務諸表を作成し ていない企業のものを含む。)へ適用することについては,強制適用の是非を判断する際に,幅広い見 地から検討を行う必要がある。

出典)企業会計審議会[2009]二 2 より作成。

(10)

ての各般の重要課題についてその解決,推 進等の方針,戦略を立案し,実務対応委員 会での検討及び関係機関・団体の対応を要 請する」ことを目的として,IFRS 対応会 議が発足した。また,その傘下に IASB 対 応検討委員会などの実務委員会も設置され た(IFRS 対応会議[2009]1 頁)。

また, 12 月 11 日に 「連結財務諸表の 用語, 様式及び作成方法に関する規則」

(以下,連結財規と略す)等の一部が改正 され(内閣府令第 73 号), 一定の要件を 満たした企業(特定会社)に対して16),指 定国際会計基準に基づく連結財務諸表の作 成が容認された(第 1 条の 2,第 93 条)。

この改正に伴い,2010 年 3 月期までに 米国基準によって連結財務諸表を作成する 企業については,その使用が 2016 年 3 月 期までとされた(附則 3)。つまり,2016 年 4 月以降,米国基準の使用が認められ ないことになった17)

その後,金融庁は「国際会計基準に基づ く連結財務諸表の開示例」を公表(12 月 18 日 ),「 EDINET 概 要 書 」 等 を 改 正

(2010 年 4 月 12日),「国際会計基準に基 づく四半期連結財務諸表の開示例」を公表

(4 月 14 日),「国際会計基準(IFRS)に 関する誤解」を公表(4 月 23 日),「IFRS

(国際会計基準)の任意適用及び初度適用 について」を公表(6 月 17 日)した。

これらの措置は,杉本[2012b]が指摘 するように,「まさに IFRS 導入に向けた 対応」(63 頁)であり,「IFRS に基づく連 結財務諸表の開示例や,民間関係者との必 要な協力を行いつつ,IFRS の任意適用の 円滑 な 実 施 に努め る」( 金融 庁 [2011]

163-164 頁) という金融庁の施策を具現 化したものあった18)

さらに,2010 年 9 月 30 日,連結財規 が改正され(内閣府令第 45 号),特定会

社の子会社が一定の要件を満たす場合,そ の子会社を特定会社とみなして,IFRS を 適用することができるようになった(第 1 条の 2 第 2 項)。つまり,任意適用の範囲 が拡大された。

なお,企会審は「中間報告」公表後,

「単体財務諸表の会計基準のあり方(コン バージェンス)について」を審議していた が,8 月 3 日に「会長発言(骨子)」を公 表し,「連結と単体の関係については,中 間報告のとおり, 連結先行のアプローチ

(ダイナミック・アプローチ)」を採ること を確認した19)

(3)「国際会計基準(IFRS)への対応のあ り方についてのこれまでの議論(中間 的論点整理)」の公表

1)審議会開催までの経緯

2011 年 5 月 25 日,産業界から「我が 国の IFRS 対応に関する要望」 が提出さ 20), 以下の 2 点が要望された (産業界

[2011]3 頁)

上場企業の連結財務諸表への IFRS の適 用の是非を含めた制度設計の全体像につ いて,国際情勢の分析・共有を踏まえて,

早急に議論を開始すること。

全体の制度設計の結論を出すのに時間を 要する場合には,不用な準備コストが発 生しないよう,十分な準備期間(例えば 5 年),猶予措置を設ける(米国基準に よる開示の引き続きの容認)ことが必要 である。

また,日本労働組合総連合会(以下,連 合と略す)は 6 月 7 日に「2012 年度連合 の重点政策」を公表し,次の 2 点を政府・

政 党 に 求 め た ( 日 本 労 働 組 合 総 連 合 会

[2011]Ⅱ2.【「働くことを軸とする安心 社会」の実現に向けて】(1)④b))

上場企業の連結財務諸表に対して IFRS

(11)

を強制適用することを当面見送る方針を 早期に明確にする。

個別財務諸表に対する会計基準は,注記 などによる透明性確保を前提に,日本の 産業構造や企業活動の実態に照らして適 切な事項のみをコンバージェンスし,そ の結果として,連結財務諸表と個別財務 諸表の会計基準が異なることも許容する。

産業界と連合の要望・提言を受け21),自 見金融担当大臣(当時)は 6 月 21 日の会 見時に「IFRS 適用に関する検討について」

を配布し(図表 5),「少なくとも 2015 年 3 月期についての強制適用は考えておりま せん」「仮に強制適用をする場合でも,そ の決定から 5(年)ないし 7 年程度の十分 な準備期間の設定を行う」「2016 年 3 月 期で使用終了とされている米国基準での開 示は,使用期限を撤廃し,引き続き可能と する」と述べた22)

このような産業界や連合の要望・提言と,

これに応えた自見金融担当大臣の政治的判

23)により,「中間報告」で示された方針 を見直すため,企会審総会・企画調整部会 合同会議(以下,合同会議と略す)が開催 されることになった。

なお,経団連も 6 月 29 日に「国際会計 基準(IFRS)の適用に関する早期検討を 求める」を公表し,以下のように,企会審 の早期再開を求めている(経団連[2011]4.)

IFRS 強制適用の是非に関する判断に当 たっては,国際的な流れに充分配慮する とともに,日本の国益・国情に合致した 対応を,幅広い関係者の納得を十分に得 ながら的確に判断をしていく必要がある。

早期に企会審を再開し,「中間報告」に 掲げた諸課題の達成状況等の検証も踏ま え,2012 年に予定される強制適用の是 非の判断に向けた総合的な検討を直ちに 開始すべきである。

激化する国際競争環境下において過剰な 準備対応・過大なコスト負担を強いられ ることがないよう配慮する必要がある。

図表 5 IFRS 適用に関する検討について

○わが国における国際会計基準(IFRS)の適用に関しては,2009 年 6 月に,企業会計審議会より「我 が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」が示され,2010 年 3 月期以降任意適用が認 められたが,その後,国内外で様々な状況変化が生じている。

米国ワークプランの公表(2010 年 2 月)

IASB と FASB がコンバージェンスの作業の数か月延期を発表(2011 年 4 月)

「単体検討会議報告書」の公表(2011 年 4 月 28 日)

産業界からの「要望書」の提出(2011 年 5 月 25 日)

米国 SEC の IFRS 適用に関する作業計画案の公表(2011 年 5 月 26 日)

連合 2012 年度重点政策(2011 年 6 月)

未曾有の災害である東日本大震災の発生

IFRS への影響力を巡る,アジアを含む国際的な駆け引きの激化

○IFRS 適用については,「中間報告」において方向性が示されているが,上記の「中間報告」以降の変 化と 2010 年 3 月期から任意適用が開始されている事実,EU による同等性評価の進捗,東日本大震災の 影響を踏まえつつ,さまざまな立場から追加の委員を加えた企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議 における議論を 6 月中に開始する。この議論に当たっては,会計基準が単なる技術論だけでなく,国に おける歴史,経済文化,風土を踏まえた企業のあり方,会社法,税制等の関連する制度,企業の国際競争 力などと深い関わりがあることに注目し,さまざまな立場からの意見に広く耳を傾け,会計基準がこれら にもたらす影響を十分に検討し,同時に国内の動向や米国をはじめとする諸外国の状況等を十分に見極め ながら総合的な成熟された議論が展開されることを望む。

○一部で早ければ 2015 年 3 月期(すなわち 2014 年度)にも IFRS の強制適用が行われるのではないか と喧伝されているやに聞くが,「少なくとも 2015 年 3 月期についての強制適用は考えておらず,仮に強 制適用する場合であってもその決定から 5-7 年程度の十分な準備期間の設定を行うこと,2016 年 3 月期 で使用終了とされている米国基準での開示は使用期限を撤廃し,引き続き使用可能とする」こととする。

出典)2011 年 6 月 30 日合同会議,資料 1「自見金融担当大臣談話『IFRS 適用に関する検討について』

(2011 年 6 月 21 日)」より作成。

(12)

加えて,IFRS の適用については,十分 な準備期間が確保される必要がある。

2)企会審総会・企画調整部会合同会議

① 2011/6/30 合同会議

2011 年 6 月 30 日 に 「 国 際 会 計 基 準

(IFRS)について」等を議題とした合同会 議が開催された。企画調整部会の臨時委員 として 10 名が新たに委員として就任し24) 会長・幹事を含め 48 名もの委員による大 会議となった25)。また,会議の冒頭,自見 金融担当大臣による挨拶があり26),今後の 検討事項が提示された(図表 6)。

会議では,「中間報告の当時からします と,大きく変わってきており,いわば大前 提が変わってきた」(佐藤委員),「原点に 立ち返って,日本の企業の競争力,経済発 展にとって,IFRS というのが真に意義の あるものかどうか,こういう視点から抜本 的な再検討をすべき」(同),「強制適用す ることについては当面見送るべき」(逢見 委員),「ゆっくりやろうということに異論 はありません」(鈴木委員),「国際文化と しての IFRS,これが地域文化としての各 国の会計基準と本来は相入れないはずなの です。そういうところに,一つ強制適用と いうところに……問題があるのではないか」

(河崎委員),「このまま進んで行ったら,

間違いなく混乱を来して,日本の経済には マイナスになるということは確信を持って 申し上げたい」(和地委員)と,多くの新 任委員から「中間報告」を見直すべきとい う意見が寄せられた27)

また,「いたずらに先延ばしするつもり はありませんが,2012 年にこだわらなく てもいいのでは」(八木委員),「期間をど うするかということについても,また見直 すという方向性,これについては……賛成」

(引頭委員),「準備期間を長くとるという ことは大変時宜にかなったもの」(永井委

員),「日本でも早急に妥当な準備期間に関 する再検討が始まるべきだと考えておりま したので,本日の会議は非常に時宜にかなっ たことである」(辻山委員)と,議論の再 開を歓迎する意見もあった。

これに対して,「どうしても避けていた だきたいのは,2012 年に将来の方針を決 めるといったことの撤回はしないでいただ きたい」(山崎委員),「日本版ロードマッ プも 1 年弱時間をかけて, かんかんがく がく議論をしたわけで,経済に与える影響 とか,そういうことも議論したように記憶 しているのです。それを見直すには,見直 すなりのデュープロセスが要る」(島崎委 員),「(議論の:引用者)の結果と 2012 年の意思決定とは切り離さないといけない」

(西川委員),「2009 年の中間報告で,あ る程度明確に方向性が示された」(八田委 員),「基本的なあるべき方向性が見えない ままにブレーキを踏んでしまうと,もう一 回アクセルを踏み直すというのは大変なエ ネルギーを必要とする」(同),「この議論 をしている間に,IFRS に対して日本の姿 勢が変わってくるとなってしまうと,これ は非常に大きな影響がある」(関根委員)

と,上記の意見に反対する発言もあったが,

少数だった28) 図表 6 検討事項

1. 強制適用の判断に当たって,国内の任意適 用の状況等,中間報告において要検討とされ た事項について

2. 今後予定される開発費やのれんの基準開発 についての ASBJ での活動が今般の内外情勢 の変化を踏まえたものとなっていくよう,今 後のコンバージェンスの方向性,あり方につ いて

3. 税法等との関わり,日本基準の位置づけ,

単体開示のあり方を踏まえた「連結先行」の 考えの見直しについて

4. 会計基準適用の前提となる多様な資本市場 のあり方,単体開示の廃止といった制度に関 わる論点について

出典) 2011 年 6 月 30 日合同会議, 配付資料

「自見庄三郎大臣提案検討事項」より作成。

(13)

② 2011/8/25 合同会議

8 月 25 日に開催された合同会議では,

前回会議同様,IFRS 全般について委員か らの発言があり,「中間報告」の方針に対 して,十分に時間をかけて慎重に議論すべ きという意見と,これに反対する意見が対 立した29)

慎重な議論を求めるものとしては,「い ささか時間的な問題もあり,なおかつ諸般 の環境,あるいは欧米の動きの変化という ものもあって,これをある程度見直すとい いますか,延ばすこと自体は理解できる」

(斉藤(淳)委員),「できるだけ早いことが 望ましいわけですが,それ以上に議論が尽 くされることが重要」(佐藤委員),「2012 年にこだわらずに,真剣に対応について検 討していく」(逢見委員),「十分に時間を かけながら,そうした世界を実現していこ うという方向性について,……非常に評価 させていただいている」(引頭委員),「全 面的に IFRS に反対と言っているわけでは なくて,もう一度原点に立ち返って議論を 尽くして,作成者側の意見もきちんと取り 入れて,企業の競争力強化につながる,国 益にもつながる,そういったプラスの方向 に向けての議論の見直しではないか」(永 井委員),「戦後,混乱の中で日本経済,特 にものづくりがここまで来たというのは,

ベーシックには日本の企業会計原則,ある いは企業会計の基準がきちっとあったこと,

そして,それを遵守してきたからこそここ まで来たんだと思います。この重みという のは非常に大事にしなきゃいけないんで,

グローバルの時代だからといって軽視して いいということは決してない」(和地委員)

という意見があった。

これに対して,「国の政策はもう示され ている……。/したがって,これも覆さな きゃいけないのかという議論がこれから始

まるのかどうか。これは非常に大きな問題 であると同時に審議会自体の権威にも関わ る」(八田委員),「国内で IFRS 採用につ いての論争が国際関係にも大きな影響を与 えることを皆さんに理解していただきたい」

(藤沼委員),「少なくとも IFRS の議論の 中に参加できるというポジションを保持し ておかないと,日本独自のものに固執する ということになると,日本の国益はどうな るか。日本の今の金融市場,資本市場を守 るということも重要な国益だと思います。

資本市場がなくなってメーカーさんが存続 できるかどうかは……非常に疑問」(山崎 委員),「2012 年を目途に何からの方向性 を出すという前提で議論を進めるべき」

(島崎委員)と,「中間報告」で示された方 針を重視すべきであるという意見が寄せら れた。

両者の隔たりは大きく,このままでは収 拾がつかないと考えたのか, 事務局から

「今後の議論・検討の進め方」が提示され

(図表 7),次回以降,各テーマについて議 論することになった。

③ 2011/10/17 合同会議

10 月 17 日に開催された合同会議では,

「我が国の会計基準・会計制度のあり方」

を論点として審議が進められたが,会計基 準における基礎概念としてのゴーイングコ

図表 7 今後の議論・検討の進め方

○わが国の会計基準・開示制度全体のあり方

○諸外国の情勢・外交方針と国際要請の分析

○経済活動に資する会計のあり方

○原則主義のもたらす影響

○規制環境,契約環境等への影響

○非上場企業・中小企業への影響,対応のあり方

○投資家と企業とのコミュニケーション

○監査法人における対応

○任意適用の検証

○国内会計基準設定主体のあり方

○国際会計基準設定主体のガバナンス

出典)2011 年 8 月 25 日合同会議,資料 2「今 後の議論・検討の進め方(案)」より作成。

図表 12 IFRS 任意適用・任意適用予定企業 企業名 業種 適用時期 発表日 日本電波工業 電気機器 2010 年 3 月期 *1 2010 年 6 月 25 日 HOYA 精密機械 2011 年 3 月期 2011 年 1 月 31 日 住友商事 卸売業 2011 年 3 月期 *2 2010 年 12 月 1 日 日本板硝子 ガラス・土石製品 2012 年 3 月期第 1 四半期 2010 年 11 月 4 日 日本たばこ産業 食料品 2012 年 3 月期 2012 年 2 月 29 日 ディー・
図表 17 IFRS 任意適用の影響(包括利益計算書項目) 単位:百万円 日本基準 IFRS 差異 差異(%) 日本基準 IFRS 差異 差異(%) 日本電波工業(~2009/3) HOYA(~2010/3) 売上高 59,170 59,429 259 0.44% 413,525 402,430 △11,095 △2.68% 当期純利益 △28,873 △28,731 142 0.49% 38,172 41,517 3,346 8.76% 包括利益 - - - - - - - - 日本板硝子(~2011/3
図表 20 IFRS 任意適用の影響(財政状態計算書項目) 単位:百万円 日本基準 IFRS 差異 差異(%) 日本基準 IFRS 差異 差異(%) 日本電波工業(2009/3) HOYA(2010/3) 資産合計 67,632 67,348 △284 △0.42% 549,737 560,290 10,553 1.92% 負債合計 47,232 46,681 △551 △1.17% 198,265 201,541 3,276 1.65% 資本合計 20,399 20,667 268 1.31% 351,4

参照

関連したドキュメント

IFRSでは、IFRSを初めて適用する会社(以下「初度適用企業」という。)に対して、原則として、IFRSで要

1.はじめに

既存する自国の会計基準への IFRS

一斉または段階的にIFRSに移行させる(す

費用の増減 ①のれんの償却停止 日本基準ではのれんについて償却するが、 IFRS では非償却であるため、

*4  回答企業一覧は、IFRS適用レポート22頁から23頁に記載されている。 3.IFRS適用レポートの構成、調査

 韓国事例から見たシステム対応 3.1  システムにおける IFRS 適用 連結,単体,また,税務においても

この財政部門の寄与度の大きさは、財政収支の変動が経済全体の変動に影響しやすいということ