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わが国におけるIFRS初度適用が財務諸表に与える影響

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わが国におけるIFRS初度適用が財務諸表に与える影

著者

山地 範明

雑誌名

商学論究

66

4

ページ

303-316

発行年

2019-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00027938

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 はじめに

企業会計審議会は2009年6月16日に 「我が国における国際会計基準の取扱 いについて (中間報告)」を公表し、 国際会計基準 (以下、 IFRS という) の 任意適用については、 2010年3月期から、 国際的な財務・事業活動を行って いる上場企業の連結財務諸表に認めることが適当であるとされた。 その後、 この 「中間報告」 を受けて、 2009年12月11日に連結財務諸表規則等に関する 内閣府令が改正され、 2010年3月31日以降終了する事業年度から一定の要件 を満たす上場企業では指定国際会計基準 (IFRS のうち、 公正かつ適正な手 続の下に作成および公表が行われたものと認められ、 公正妥当な企業会計の

わが国における IFRS 初度適用が

財務諸表に与える影響

− 303 − 要 旨 本稿では、 わが国における IFRS 初度適用が財務諸表に与える影響につ いて検討した。 わが国において IFRS を初度適用した調査対象企業につい ては、 EU における調査と同様に、 国内基準に比べて IFRS の当期純利益 は増加し、 負債資本比率は上昇し、 負債総額は増加した。 EU と日本にお ける IFRS の初度適用が財務諸表に与える影響をみてみると、 当期純利益 に与える主要な要因は、 のれんの非償却であり、 同じであったが、 負債総 額の増加要因は、 異なっていることがわかった。

キーワード:IFRS、 国際会計基準 (IFRS)、 初度適用 (First-time Adoption)、 並行開示 (Parallel Disclosure)、 連結財務諸表 (Consolidated Financial Statements)

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基準として認められることが見込まれるものとして金融庁長官が定めたもの) による連結財務諸表の適用が可能になった (連結財務諸表規則第1条の2、 第93条)。 連結財務諸表規則では、 次の要件をすべて満たす株式会社 (指定国際会計 基準特定会社) は、 指定国際会計基準に従った連結財務諸表を提出すること ができる (第1条の2)。  有価証券届出書または有価証券報告書において、 連結財務諸表の適正 性を確保するための特段の取組みに関する記載を行っていること。  指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員または使用人を置 いており、 指定国際会計基準に基づいて連結財務諸表を適正に作成する ことができる体制を整備していること。 日本取引所グループのウェブサイトによれば、 2019年1月現在で IFRS 適 用済会社数が183社ある。 また、 IFRS 適用決定会社数が16社あり、 合計する と199社である。 東京証券取引所の上場企業の6%で、 大企業の採用が多い ため株式の時価総額ではほぼ3分の1を占める (「日本経済新聞」 2018年7 月16日)。 本稿では、 わが国における IFRS 初度適用が財務諸表に与える影 響について検討する。

 わが国における IFRS 初度適用

IFRS を初度適用した企業は、 次の並行開示が要求されている (企業内容 等の開示に関する内閣府令、 第2号様式記載上の注意 (30)c, d)。  日本基準による要約連結財務諸表 (2期分)  連結財務諸表を作成するための基本となる重要な事項の変更に関する 事項 (2期分)  日本基準による連結財務諸表の主要な項目と IFRS による連結財務諸 表の主要な項目との差異に関する事項 (2期分) を概算額で記載 また、 翌年度以降は直近の連結会計年度において、 上記の記載のみ求め られる。

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並行開示は、 有価証券報告書の 「第2 事業の状況 (業績等の概要)」 にお いて、 「IFRS により作成した連結財務諸表における主要な項目と日本基準に より作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に 関する事項」 というような見出しで掲載される。 わが国における IFRS 初度適用の連結財務諸表に与える影響について検討 する。 2018年3月時点において東京証券取引所一部に上場している企業のう ち、 IFRS を任意適用している企業 (米国会計基準を採用していた企業、 新 規上場会社、 金融会社等を除く123社) を調査対象企業とした。 財務データ 等は、 当該企業の有価証券報告書から入手した。

 IFRS と日本基準の差異事項

調査対象企業が、 並行開示で 「IFRS により作成した連結財務諸表におけ る主要な項目と日本基準により作成した場合の連結財務諸表におけるこれら に相当する項目との差異に関する事項」 として掲載された件数 (上位10件) は、 図表1のとおりである。 以下、 IFRS と日本基準の差異事項として掲載された件数の多い順に以下 で検討する。 図表1 IFRS と日本基準による差異事項 事 項 件数 1 のれんの償却 90 2 退職給付費用 39 3 開発費の資産計上 29 4 表示組替 24 5 収益認識 23 6 有給休暇引当金 16 7 減価償却方法 11 8 換算差額累計額 8 9 資本性金融商品 5 10 税効果会計 4

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(1) のれんの償却 IFRS では、 のれんは資産に計上されるが、 規則的償却は行われず減損処 理される (IFRS 第3号 B63(a))。 これに対して、 日本基準では、 のれんは 資産に計上され、 20年以内に毎期、 定額法その他合理的な方法によって償却 され (企業会計基準第21号32項)、 「固定資産の減損に係る会計基準」 に従っ て、 のれんの価値が損なわれた時に減損処理が行われる。 国際的な会計基準においてのれんが償却されない主な理由は、 ①のれんは、 将来の収益力によって価値が変動する資産であり、 規則的な償却ではなく、 収益性の低下による回収可能性で評価すべきであること。 ②すべてののれん の価値が減少するわけではなく、 減価する場合でも毎期規則的に減少するこ とは稀である。 取得したのれんの耐用年数および償却パターンは、 一般に予 測不可能であり、 恣意的な期間でのれんの定額償却を行っても、 有用な情報 を提供することはできないこと。 ③規則的な償却で必要となる事前の耐用年 数の決定は、 主観的な見積りとなる可能性が高く、 逆に恣意的な費用計上を 助長する危険があることである (企業会計基準委員会 「企業結合会計の見直 しに関する論点の整理」 (2009年7月10日)、 95項。) (2) 退職給付費用 IFRS および日本基準のいずれにおいても、 退職給付債務から制度資産 (年金資産) を控除した額が、 退職給付に係る負債として既時認識される。 IFRS では、 数理計算上の差異はその他の包括利益として認識され、 その後 の期間においてリサイクリング (組替調整) は行われない (IAS 第19号120・ 122項)。 また、 過去勤務費用は即時に費用として認識される (IAS 第19号 103項)。 これに対して、 日本基準では、 数理計算上の差異と過去勤務費用は その他の包括利益累計額として認識され、 原則としてその後一定の期間にわ たって費用処理 (遅延認識) される (企業会計基準第26号24・25項)1) 1) 退職従業員に係る過去勤務費用は、 他の過去勤務費用と区分して発生時に全額を費用 処理することができる (企業会計基準第26号注10)。

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(3) 開発費の資産計上 IFRS では、 開発費について、 将来の経済的便益をもたらす可能性が高い こと、 信頼性をもって測定できること等の一定の要件を満たす場合には無形 資産として計上することができる (IAS 第38号57項)。 これに対して、 日本 基準では、 研究開発費は、 すべて発生時に費用として処理しなければならな い (研究開発費等に係る会計基準三)。 (4) 表示組替 わが国の連結損益計算書では、 営業損益計算区分、 経常損益計算区分、 純 損益計算区分の3つの計算区分が設けられ、 売上総利益、 営業利益、 経常利 益、 税金等調整前当期純利益、 当期純利益が段階的に表示される。 これに対 して、 IFRS では、 継続事業による利益と非継続事業による利益の区分表示 が求められているだけで、 わが国のような段階的な利益は表示されない。 ま た、 IFRS によれば、 売上総利益や営業利益を開示することはできるが、 経 常利益は開示されない。 さらに、 営業利益が開示される場合でも、 営業費用 の範囲はわが国よりも広く、 金融費用以外の継続的な費用は原則として営業 費用になる。 したがって、 わが国において臨時損益とみなされる大部分の特 別損益は IFRS では、 営業損益に含められる。 また、 日本基準では 「法人税、 住民税及び事業税」 と 「法人税等調整額」 は区分掲記されるが、 IFRS では 「法人所得税費用」 として一括して表示される。 (5) 収益認識 IFRS では、 財やサービスに対する支配が顧客に移転した時点で、 履行義 務が充足したと考えられ、 一律に収益が認識される (IFRS 第15号31・35項)。 これに対して、 日本基準では、 収益は実現主義の原則 (主に出荷基準) に従っ て認識される。 また、 カスタマー・ロイヤルティ・プログラムについて、 IFRS では個別に履行義務を識別して収益を認識する (IAS 第18号、 IFRIC 第13号、 IFRS 第15号) が、 日本基準では、 ポイント交換に要する費用を販

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売促進費として認識する。 また日本基準では、 売上高は総額で認識されるが、 IFRS では、 対象となる取引が他社の代理人であると判断される場合、 売上 収益は純額で認識される (IFRS 第15号 B36)。 ただし、 新しい収益認識に関 する基準となる企業会計基準第29号 「収益認識に関する会計基準」 (2021年4 月1日より強制適用、 2018年4月1日より早期適用可) では、 IFRS 第15号 とほぼ同様の会計基準となっている。 (6) 有給休暇引当金 企業と従業員との間の契約により、 従業員が有給休暇を消化した場合にも 対応する給与を企業が支払うこととなっている場合には、 企業は、 期末日時 点で従業員が将来有給休暇を取る権利を有している部分について債務を負っ ている (企業会計基準委員会 「引当金に関する論点の整理」、 43項)。 したがっ て、 IAS 第19号によれば、 企業は、 累積型有給休暇の予想コストを、 期末日 時点で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる 金額を負債として認識しなければならない (16項)。 これに対して、 わが国 では、 一般的に有給休暇引当金は計上されない。 (7) 減価償却方法 IAS 第16号では、 使用される減価償却方法は、 資産の将来の経済的便益を 企業が消費すると予想されるパターンを反映するものでなければならない (60項)。 定額法、 定率法および生産高比例法などさまざまな減価償却方法が、 資産の償却可能額を耐用年数にわたって規則的に配分するために用いられる (62項)。 減価償却方法は、 少なくとも各事業年度末に再検討しなければなら ない (61項)。 これに対して、 日本基準では、 減価償却は固定資産の適正な原価配分を行 うことにより、 適正な損益計算を行うことを主たる目的として、 毎期計画的 に、 規則的に実施されなければならない。 減価償却方法には、 定額法、 定率 法、 級数法、 生産高比例法がある。 実務上は、 法人税法上の耐用年数や残存

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価額を用いることが多く、 減価償却方法の定期的な再検討は求められていな い。 (8) 換算差額累計額 IAS 第12号では、 在外営業事業体に関する換算差額累計額は、 その他の包 括利益に認識され資本 (株主持分) の独立項目として計上される。 ただし、 企業の最初の IFRS 財務諸表を作成する場合の基準を定めている IFRS 第1 号によれば、 移行日の在外営業事業体に関する換算差額累計額をゼロとみな す方法を採用することができる (D12, D13)。 日本企業が IFRS を初度適用し、 この免除規定を採用する場合、 在外営業 活動体に関する換算差額累計額を移行日時点ですべて利益剰余金に振り替え られることが多い。 (9) 資本性金融商品 IFRS 第9号では、 市場性のない資本性金融商品についてその他の包括利 益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品に分類された場合には、 市場 性の有無に関係なく公正価値で測定し、 その変動額はその他の包括利益を通 じて認識する (5. 7. 5 項)。 また、 IFRS 第9号に基づき純損益を通じて公正 価値で測定する金融商品に分類された場合には、 市場性の有無に関係なく公 正価値で測定し、 その変動額は純損益を通じて認識する (4. 1. 5 項)。 これ に対して日本基準では、 市場性のない資本性金融商品は取得原価で計上され る。 (10) 税効果会計 IFRS では、 将来に十分な課税所得があるかどうかによって、 繰延税金資 産の回収可能性が判断され、 詳細なガイドラインはない。 また、 繰延税金資 産・負債はすべて非流動項目となる。 これに対して、 日本基準では、 繰延税 金資産の回収可能性を判断するにあたって詳細なガイドライン (監査委員会

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報告第66号 「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」) があり、 繰延税金資産・負債は、 これらに関連した資産・負債の分類に基づ いて、 繰延税金資産については流動資産または投資その他の資産として、 繰 延税金負債については流動負債または固定負債として表示しなければならな い (税効果会計に係る会計基準第三1.)。 ただし、 2018年2月に企業会計基 準第28号 「税効果会計に係る会計基準」 の一部改正が公表され、 繰延税金資 産については固定資産として、 繰延税金負債については固定負債として表示 しなければならない。 以上のように、 IFRS と日本基準には差異があり、 実務対応報告第18号 「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」 (最終改正2018年9月14日) によれば、 在外子会社の財務諸表が、 国際財務 報告基準または米国会計基準に準拠して作成されている場合には、 ①のれん の償却、 ②退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理、 ③研究開発 費の支出時費用処理、 ④投資不動産の時価評価および固定資産の再評価、 ⑤ 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選 択をしている場合の組替調整については、 当該修正額に重要性が乏しい場合 を除き、 連結上の当期純損益に重要な影響を与える場合には、 当期純利益が 適切に計上されるよう当該在外子会社の会計処理を修正しなければならない としている。 さらに実務対応報告第18号によれば、 これらの5項目は、 国際財務報告基 準または米国会計基準に準拠した会計処理が、 我が国の会計基準に共通する 考え方 (当期純利益を測定する上での費用配分、 当期純利益と株主資本との 連繋および投資の性格に応じた資産および負債の評価など) と乖離するもの であり、 一般に当該差異に重要性があるため、 修正なしに連結財務諸表に反 映することは合理的でなく、 その修正に実務上の支障は少ないと考えられた ことによる。

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 IFRS 初度適用が財務諸表に与える影響

欧州連合 (EU) の売上高上位30社を対象に行った Moody’s Global Corpo-rate Finance (2008) の調査によれば、 2005年前後の各国の会計基準による当 期純利益と IFRS による当期純利益を比較すると、 IFRS の当期純利益は 914.3億ユーロから1,146.7億ユーロに25.4%増加し、 負債持分比率は59%か ら69%に10%上昇し、 負債総額は5,784.6億ユーロから6,505.6億ユーロに12.5 %増加した (図表2参照)。 当期純利益の増加の主な要因はのれんの非償却 であった (Moody’s Global Corporate Finance (2008), p. 2)。 また、 負債総額 の増加は、 Daimler 社 (210億ユーロ)、 Fiat 社 (135億ユーロ)、 Deutsche Telekom 社 (73億ユーロ)、 France 社 (60億ユーロ) の影響が大き く、 4社の負債総額478億ユーロのおよそ90%が債権の証券化・流動化に関 連する過去のオフ・バランス借入の連結やリース債務、 複合金融商品の組替 えによる負債の増加によるものであった (Moody’s Global Corporate Finance (2008), p. 4)。 一方、 前述のわが国における調査対象企業123社について、 日本基準によ る当期純利益と IFRS による当期純利益を比較すると、 IFRS の当期純利益 は36.6%増加し、 負債資本比率は108%増加し、 負債総額は18.5%増加した (図表3参照)。 図表2 IFRS の適用が財務諸表に与える影響 (EU) 国内基準 IFRS 増加 当期純利益 914.3億ユーロ 1,146.7億ユーロ 25.4% 負債持分比率 59% 69% 10% 負債総額 5,784.6億ユーロ 6,505.6億ユーロ 12.5% (注) 当期純利益は非支配株主に帰属する利益を控除している。 持分には非支配株主持分を含まない。

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収益、 費用、 資産および負債の増減に与える影響は次のとおりである。 1. 収益の増減 ①収益の認識 日本基準では製品の出荷等に基づいて売上高が認識されるが、 IFRS では 物品の所有に伴うリスクと経済価値が買手に移転した時点で売上高が認識さ れる。 また、 IFRS では実質的に代理人として財やサービスを提供する場合 には、 純額で手数料を収益として認識することになるが、 日本基準では総額 で収益を認識するので、 IFRS の適用により収益が減少する場合がある。 ②表示組替 わが国において臨時損益とみなされる大部分の特別損益は IFRS では、 営 業損益に含められるので、 営業損益の金額が増減する。 2. 費用の増減 ①のれんの償却停止 日本基準ではのれんについて償却するが、 IFRS では非償却であるため、 IFRS の適用により費用が減少する。 ②退職給付費用 日本基準では、 数理計算上の差異は、 即時に費用として処理されず一定の 期間にわたって費用処理 (遅延認識) される。 一方、 IFRS では、 数理計算 上の差異は償却せずにその他の包括利益として既時認識される。 したがって、 IFRS の適用により、 費用が減少する (桜井 (2016)、 p. 63)。 図表3 IFRS の適用が財務諸表に与える影響 (日本) 日本基準 IFRS 増加 当期純利益 156,630億円 214,023億円 36.6% 負債持分比率 166% 274% 108% 負債総額 1,701,095億円 2,017,194億円 18.5% (注) 当期純利益は親会社株主に帰属する純利益を表している。 持分は株主資本とその他の包括利益累計額の合計額である。

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③減価償却方法 減価償却方法として、 IFRS では定額法、 日本基準では法人税法の規定に 従って定率法が採用される場合が多いので、 IFRS を適用すると費用が減少 する。 3. 資産の増減2) ①開発費 日本基準では、 研究開発費は、 すべて発生時に費用として処理しなければ ならないが、 IFRS では、 開発費について、 一定の要件を満たす場合には無 形資産として計上することができるので、 IFRS の適用により資産が増加す る場合がある。 ②繰延税金資産 前述のように日本基準では、 繰延税金資産の回収可能性を判断するにあたっ て詳細なガイドラインがあるが、 IFRS では、 将来に十分な課税所得がある かどうかによって、 繰延税金資産の回収可能性が判断され、 詳細なガイドラ インはない (IAS 第12号)。 したがって、 IFRS の適用により繰延税金資産の 金額が増加する場合がある。 ③みなし原価 IFRS 第1号によれば、 IFRS 初度適用企業は、 移行日において、 固定資産 を公正価値で測定し、 その公正価値を移行日時点のみなし原価として使用す ることが認められている (D5, D7)。 固定資産について、 この免除規定を採 用し、 移行日時点の公正価値を当該固定資産のみなし原価とする場合は、 IFRS の適用により資産の金額が増減する。 ④非上場株式 IFRS 第9号によれば、 非上場株式などの資本性投資は公正価値で測定さ 2) IFRS によればリース取引開始日に、 借手は原則としてすべてのリースについて使用 権資産およびリース負債を認識する (IFRS 第16号22項) ので、 IFRS 適用により資産 と負債が増加する。 ただし、 IFRS 第16号 「リース」 は、 2019年1月1日以後開始す る事業年度からの適用 (早期適用可) である。

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れる (B5. 4. 14) が、 日本基準では取得原価で評価されるので、 IFRS の適用 により、 資産の金額が増減する。 4.負債の増減2) ①未消化の有給休暇 日本基準では認識されない未消化の有給休暇について、 IFRS では負債が 認識されるので、 IFRS の適用により負債が増加する。 ②条件付対価 特定の将来事象が発生した場合や条件が満たされた場合に、 被取得企業の 旧所有者に対し、 被取得企業に対する支配との交換の一部として、 取得企業 が追加的な資産または持分請求権を移転する義務 (IFRS 第3号付録A) に ついて、 日本基準では、 企業結合契約における条件付対価は企業結合後にそ の交付または引渡しが確実となる時点まで負債を認識しない (企業会計基準 第21号27項)。 一方、 IFRS 第3号では、 企業結合時点における公正価値を金 融負債に認識する (39項) ので、 IFRS の適用により負債が増加する場合が ある。 5. 資本 (株主持分) の増減 ①換算差額累計額 在外営業事業体に関する換算差額累計額の免除規定を適用した場合、 IFRS 移行日の在外営業事業体に関する換算差額累計額をゼロとみなし、 IFRS 移行日時点ですべて利益剰余金に振り替えることが多い。 したがって、 IFRS の適用により資本 (株主持分) の金額が増減する。 ②数理計算上の差異 日本基準では数理計算上の差異の増減による資本の増減影響は、 「その他 の包括利益」 に表示されるが、 IFRS では、 「その他の資本の構成要素」 に認 識した上で 「利益剰余金」 に振り替えられる。 この影響により、 IFRSの 「その他の資本の構成要素」 および 「利益剰余金」 は、 日本基準の 「その他

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の包括利益累計額」 および 「利益剰余金」 に比べて、 資本 (株主持分) の金 額が増減する。

 むすび

本稿では、 わが国における IFRS 初度適用が財務諸表に与える影響につい て検討した。 わが国において IFRS を初度適用した企業については、 EU のトップ30社 を対象に行った Moody’s Global Corporate Finance (2008) の調査と同様に、 国内基準の場合と比較すると、 IFRS の当期純利益は増加し、 負債資本比率 は上昇し、 負債総額は増加した。 EU と日本における IFRS の初度適用が財務諸表に与える影響をみてみる と、 当期純利益に与える主要な要因は、 のれんの非償却であり、 同じであっ たが、 負債総額の増加要因は、 異なっていることがわかった。 わが国における IFRS 適用企業が増加する中、 引き続き IFRS による財務 諸表の影響について検証していく必要がある。 (筆者は関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授) 参考文献 五十嵐則夫 「IFRS の導入による財務諸表への影響と日本の課題」 特集 国際会計基準と企 業経営、 日立総合計画研究所編 日立総研 Vol. 53 (2010年10月)、 1827頁。 金融庁 「IFRS 適用レポート」 2015年4月15日。 桜井久勝 「IFRS 財務諸表による医薬品業界の国際経営分析」 商学論究 第63巻第3号 (2016年3月)、 5367頁。 日本経済団体連合会 IFRS 実務対応検討会 「IFRS 任意適用に関する実務対応参考事例」 2014年1月15日版。 山地範明 「わが国おける IFRS 適用企業に関する利益情報の価値関連性」 商学論究 第63 巻第3号 (2016年3月)、 315327頁。

IASB, International Financial Reporting Standards. IFRS 財団編 企業会計基準委員会 公益 財団法人財務会計基準機構監訳 国際財務報告基準 (IFRS) 2016 中央経済社、 2016 年。

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Commission, October 2007.

参照

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