産業情報論集 Vol.15(No.1・2)March 2019 pp.15-43 Journal of Industry and Information Science
IFRS 任意適用の促進と適用の影響
Promotion of Voluntarily Adopting IFRS and Effects on the Application
清村 英之
Hideyuki KIYOMURA
【要 旨】
本稿では,
IFRS
任意適用の促進がどのように行われてきたのか,また,どのような手順を 踏んで,修正国際基準が設定されたのかを概観した後,IFRS
の適用による影響を繰延税金資 産・負債を題材に検証した。そこで明らかになったことは,以下のとおりである。まず,当初,IFRS
適用企業数は伸び悩んでいたが,任意適用の促進が国家戦略として推進されることに よって状況は一変(急増)した。また,多大な労力と時間をかけて修正国際基準は作成・公 表されたが,これを適用する企業は1
社もないことから,エンドースメント手続には,IFRS
の開発に対してわが国の考え方を表明するという意義しか見いだすことができなかった。さ らに,繰延税金資産・負債の変動を見る限り,IFRS
適用の影響は大きかったことが確認された。【目 次】
1
.はじめに2.IFRS任意適用の促進 3.修正国際基準の設定
4
.IFRS
適用企業の実態分析5
.おわりに1.はじめに
わが国における国際会計基準を巡る議論 は,企業会計審議会が
2013
年6
月20
日に 公表した「国際会計基準(IFRS
)への対 応のあり方に関する当面の方針」によって,ひとまず一段落したといえるが 1,そこで は次の
3
つの具体的方針が示されていた(三~五)。
‣ IFRS
の任意適用要件を緩和し,任意適 用が可能な企業数を増加させる。‣ ピュアな IFRS
の他に,「あるべきIFRS
」「わが国に適した
IFRS」といった観点
から,個別基準を一つ一つ検討し,必要 があれば一部基準を削除又は修正して採 択するエンドースメントの仕組みを設け る。‣ 金融商品取引法における単体開示の簡素
化を図る。「当面の方針」公表から
5
年経過したが,これらの方針はどう具現化したのだろう か。本稿ではまず,「当面の方針」で示さ れた具体的方針のうち,
IFRS
任意適用の1 2013
年6
月19
日における「当面の方針」検討後,企業会計審議会総会が
1
年4
か月行われていない ことからもそれは確認できる。2014年2
月18
日 に監査部会との合同会議が開催されたが,そこで の審議内容は「監査基準の改訂について」である。なお,「当面の方針」公表までの議論の概要につ いては,清村[2015]18-40頁を参照。
促進がどのように行われてきたのか,また,
どのような手順を踏んで,修正国際基準が 設定されたのかを概観する。次いで,IFRS を適用している企業の初度適用に関する開 示を分析することで,
IFRS
の適用によっ て,どのような影響があったのかを繰延税 金資産・負債を題材に検証する。2.IFRS
任意適用の促進(1)連結財務諸表規則改正と株価指数の 創設
IFRS任意適用の促進は,適用要件を緩 和し,適用対象企業を拡大することから行 われた。
2013
年10
月28
日に連結財務諸表 規則が改正され(内閣府令第70
号),IFRS の任意適用の要件から「上場会社であるこ と」と「国際的な財務活動・事業活動を行っ ていること(外国に資本金が20
億以上の 連結子会社を有していることなど)」が撤 廃された(第1
条の2)
。この改正は,IPO 企業に新規上場直後からIFRS
を適用する ことを容認し 2,また,海外に一定規模の 子会社を有しない企業に対してもIFRS
の 適用を容認するもの,換言すれば,有価証 券報告書を提出する全ての企業に「IFRS
適用の門戸を開くというものであり,概ね,市場関係者の支持は得られているようであ る 」 と 評 価 さ れ た( 野 村[2013]19頁 )。 なお,適用要件が緩和されたことにより,
任意適用が可能な企業数が従前の
621
社か ら4,061
社に拡大された(金融庁[2014]2 頁,2013年3
月末現在)。また,
IFRS
の任意適用をインセンティ ブとする株価指数が創設された。自由民主党政務調査会・金融調査会・企業会計に関 する小委員会は「国際会計基準への対応に ついての提言」を
2013
年6
月13
日に公表 したが,提言の1
つに,「IFRS適用拡大に 向けた実効性のあるインセンティブの検討 を進めるべきである。……取引所において,IFRS
の導入,独立社外取締役の採用など,経営の革新性等の面で国際標準として評価 される企業から構成される新指数(「グロー バル
300
社」<仮称>)の創設を早期に実 現すべきである」(7頁)があった。「グローバル
300
社」<仮称>の創設に ついては,自由民主党日本経済再生本部が 同年5
月10
日に公表した「中間提言」が,金融・資本市場の魅力を拡大する施策とし て掲げていたもので,そこでは「ROE,海 外売上比率,海外投資家比率、独立社外取 締役の投入,
IFRS
(国際会計基準)の導 入など,経営の革新性等の面で評価が高い『グローバル
300
社』のインデックスを創 設する」(40
頁)と述べられていた。つまり,株価指数創設の目的が金融・資本市場の魅 力拡大から
IFRS
の適用拡大へと置き換え られたのである 3。新指数の開発は日本取引所グループ,東 京証券取引所(
JPX
グループ)と日本経済 新聞社が進めていくことで合意し(日本取 引所グループ・日本経済新聞社[2013a]),2 すかいらーくは 2013
年12
月期からIFRS
を適用 し,翌年10
月9
日に上場した(日本取引所グループ
HP「IFRS
を適用して新規上場した会社一覧」参照)。他にも
IFRS
を適用して新規上場した企 業が15
社ある(同。2018年6
月末現在)。3
同年6
月14
日に閣議決定された「日本再興戦略-
JAPAN is BACK
-」では,「国内の証券取引所に対し,上場基準における社外取締役の位置付 けや,収益性や経営面での評価が高い銘柄のイン デックスの設定など,コーポレートガバナンスの 強化につながる取組を働きかける」(28頁)と述 べられており,株価指数創設の目的がコーポレー トガバナンスの強化になっている。つまり,指数 創設の目的が「金融・資本市場の魅力拡大」から
「IFRSの適用拡大」へ,さらに,「コーポレート ガバナンスの強化」へと変容している。このこと から,指数創設は何らかの施策の目的を実現する ための手段として位置づけられるのではなく,株 価指数創設が先にあって,その目的は後付けされ たものであることが分かる。
7
月30
日に「共同開発中の新指針に関する 骨子」が発表された。そこでは,銘柄の選 定基準として,①企業業績に基づく指標(資 本効率性に関する指標(例:ROE)などを 想定),②市場流動性指標(市場での取引 量や市場価値などを想定)の2
つの視点を 軸に定量的な指標を総合的に評価して選定 するが,定量的な指標以外に,定性的要素 も銘柄選定に加味することを検討すると述 べられている(日本取引所グループ・日本 経済新聞社[2013b]2頁)。ただし,定性 的要素については,「ディスクロージャー に関する事項など」(同)としか明記され ておらず,具体的にそれが何を指すのか不 明であった。11月
6
日に「新指数『JPX日経インデッ クス400
』の算出・公表開始について」が 公表され,①独立した社外取締役の選任(2
人以上),②IFRS
採用(ピュアIFRS
を想 定)又は採用を決定,③決算情報英文資料の
TDnet
(英文資料配信サービス)を通じた開示の
3
項目を定性的な要素とすること が明らかにされた(日本取引所グループ・日本経済新聞社[2013c]2頁)。
同日,
JPX
日経インデックス400
構成 銘柄が公表されたが,その翌日に,「当社 株式の『JPX日経インデックス400』構成
銘柄選定に関するお知らせ」「新株価指数『
JPX
日経インデックス400
』の構成銘柄 に当社が選定」と題したニュースをHP
上 で公開し,構成銘柄に選定されたことをア ピールする企業が数多く存在した 4。した がって,新指数の構成銘柄に選定されたい 企業 5にとっては,自由民主党企業会計小委員会の思惑どおり,
IFRS
の任意適用が インセンティブとなるであろう。(2)IFRS適用レポートの公表
IFRS
任意適用の拡大促進は,2013
年12
月13
日に金融・資本市場活性化有識者会 合 6が公表した「金融・資本市場活性化に 向けての提言」でも市場環境・市場の魅力 の向上等を図る施策として取り上げら,「国 際会計基準(IFRS
)については,企業会計 審議会において取りまとめられた『国際会 計基準(IFRS)への対応のあり方に関す る当面の方針』(2013
年6
月20
日公表)を 踏まえ,我が国におけるIFRS
の任意適用 の着実な積上げを図るとともに,IFRS策 定への我が国の意見発信を強化する必要が ある」(10
頁)と述べられている。また,自由民主党日本経済再生本部は,
2014
年5
月23
日に「 日本再 生ビジョン 」 を公表し,「コーポレートガバナンスや,会計基準を含む企業情報の開示ルールを早 急に国際水準にそろえることが重要であ る」(41頁)という認識の下に,次頁の
4
項目を提言している(41-43頁)。4
前者はアインファーマシーズ,後者はGMO
イン ターネットによって発表されたものであるが,両 社は構成銘柄の選定を目的として,IFRSを任意 適用しているわけではない(両社ともその時点でIFRS
を適用していない)。5
例 え ば, ア ー ク ス は「JPX日 経 イ ン デ ッ ク ス400
に選ばれ続けることを意識して」(横山[2015]55
頁)おり,また,いちごグループHD
は中期 経 営 計 画「Power Up 2019」 に「2019年8
月 の 定期入替時まで継続的に組み入れられること……を目指しています」(3頁)と明記している(た だし,両社とも構成銘柄の選定を目的として,
IFRS
を任意適用しているわけではない)。6
金融・資本市場活性化有識者会合は,自由民主党日本経済再生本部が
2013
年10
月1
日に決定した「成長戦略の当面の実行方針」において,「家計の 金融資産を成長マネーに振り向けるための施策を はじめとする日本の金融・資本市場の総合的な魅 力の向上策や,アジアの潜在力の発揮とその取り 込みを支援する施策について,年内に取りまとめ を行う」(3頁)と示されたことを踏まえ,金融 庁と財務省を事務局として設置された(金融庁・
財務省[2013])。
図表 1 日本再生ビジョン
会計基準等,企業の国際化,ルールの国際水準へ の統一
‣ 会計における「単一で高品質な国際基準」策定 への明確なコミットの再確認(内容省略)
‣ IFRSの任意適用企業の拡大促進
2016年の
IFRS
財団モニタリング・ボード のメンバー定期見直し後もメンバーとしての責 任を果たし,IFRSの基準策定に日本として発 言権を維持するためには,要件として課されて いるIFRS
の「顕著な適用」が不可欠なことか ら,自民党・企業会計小委員会が昨年6
月にま とめた提言では,2016年末までに300
社程度 の企業がIFRS
を適用する状態にすることが求 められた。政府は,その実現に向けてあらゆる 対策を検討し,実行に移すとともに,積極的に 環境整備に取り組むべきである。‣ JPX新指数に採用された企業への働きかけ
昨年
5
月の自民党・日本経済再生本部「中 間提言」では,ROEの引き上げや独立社外取 締役の採用と並んでIFRS
の導入を促すことも 狙って,新指数の創設(「東証グローバル300
社」インデックス)を
JPX
に対して求めた。各方 面の努力によって実現した指数(JPX日経イ ンデックス400)では,社外取締役や IFRS
は「加点項目」とされたものの,それぞれの導入 を強力に促進するにはやや力不足である。今後
JPX
においては,当該指数銘柄に採用された 企業に関しては,社外取締役やIFRS
導入動向 状況をモニターし,全体として十分な進展がみ られない場合,当該企業への働きかけや,それ らの加点割合を増加させる等,一層の促進策の 検討を行うべきである。‣ 東証上場規則における企業の
IFRS
に関する考え方の説明の促進及び「IFRS適用レポート(仮 称)」の作成
わが国では,IFRSの任意適用が認められて おり,上場企業の
IFRS
適用の方針への投資家 の関心も高い。こうした状況において,上場企 業に対し,IFRSの適用に関する基本的な考え 方(例えば,IFRSの適用を検討しているか,検討している場合は検討状況等)について,投 資家に説明することを東証上場規則によって促 すことを提案する。
IFRSの任意適用会社(適用予定会社を含 む)は,約
40
社となっている。これらの会社が
IFRS
移行時の課題をどのように乗り越えた のか,また,移行によるメリットには,どのよ うなものがあったのか,等について,実態調査・ヒアリングを行い,未だ
IFRS
への移行を逡巡 している企業の参考としてもらうため,金融庁 において「IFRS適用レポート(仮称)」とし て公表し,移行を検討中の企業の後押しを行う べきである。これらの提言は,
2014
年6
月24
日に閣 議決定された「『日本再興戦略』改訂2014
-未来への挑戦-」で,金融・資本市場の 活性化のための具体的施策として取り上げ られた 7。その内容は以下のとおりである
(
78
頁)。図表2 「日本再興戦略」改訂2014 IFRSの任意適用企業の拡大促進
‣
2008
年のG20
首脳宣言において示された,会 計における「単一で高品質な国際基準を策定す る」との目標の実現に向け,IFRSの任意適用 企業の拡大促進に努める。‣
IFRS
の任意適用企業がIFRS
移行時の課題を どのように乗り越えたのか,また,移行による メリットにどのようなものがあったのか等につ いて,実態調査・ヒアリングを行い,IFRSへ の移行を検討している企業の参考とするため,「IFRS適用レポート(仮称)」として公表する。
‣ 上場企業に対し,会計基準の選択に関する基本 的な考え方(例えば,IFRSの適用を検討して いるかなど)について,投資家に説明するよう 東京証券取引所から促す。
閣議決定に基づき,東京証券取引所は
11
月11
日に「決算短信の作成要領」を改訂 し,例えば,IFRSの適用を検討している7
杉本[2017]が「アベノミクスの第三の矢である『成長戦略』に,会計基準ないし財務報告基準の あり方が初めて盛り込まれた」(1231頁)と指摘 するように,IFRSの任意適用企業の拡大促進が
「閣議決定レベルの文書として,……記載された のは初めて」(企業会計審議会会計部会[2014a]。 油布企業開示課長(当時)による説明)であった。
また,田原[2017]も「閣議決定レベルでは初め て『IFRSの任意適用企業の拡大促進』が明記さ れた」(129頁)と述べている。
か(その検討状況,適用予定時期)など,「会 計基準の選択に関する基本的な考え方」の 記載を上場企業に要請した(東京証券取引 所[2015]2頁。2015年
3
月末の決算短信 から適用)。また,金融庁は
2015
年2
月28
日までにIFRS
を任意適用した企業(40社)及び同 日までにTDnet
においてIFRS
の任意適用 を予定している旨を公表した企業(29
社)の計
69
社を対象として,①IFRS
の任意 適用を決定した理由・経緯,②IFRS
への 移行準備・移行コスト,③IFRS
移行時の 課題をどう乗り越えたか,④監査対応,⑤IFRS
移行によるメリット・デメリット,⑥
IFRS
に関連する要望,⑦IFRS
の任意 適用を検討している企業へのアドバイスな どの調査(質問調査票の送付とヒアリング)を行い(金融庁[
2015a
]4
頁),4
月15
日 に「IFRS適用レポート」(本編16
頁,資 料編61
頁)を公表した。「
IFRS
適用レポート」が公表された4
月15
日に,企業会計審議会第2
回会計部会が 開催されたが,「IFRS適用企業の実情が的 確に捉えられて」(逆瀬委員)おり,「上場 企業がIFRS
の適用を検討する際に極めて 参考になる資料」(山澤委員)で,「今後の 任意適用の拡大に向けて非常に参考になる もの」(石原委員)であると(企業会計審 議会会計部会[2014b
]),多くの委員から 評価された 8。(
3
)会計基準の選択に関する基本的な 考え方の開示内容の分析2015年
6
月30
日に閣議決定された「『日 本再興戦略』改訂2015
-未来への投資・生産性革命-」では,金融・資本市場の活 性化等のための具体的施策として,「
IFRS
任意適用企業の更なる拡大促進」が取り上 げられた 9。その内容は以下のとおりであ る(129
頁)。図表3 「日本再興戦略」改訂2015 IFRSの任意適用企業の更なる拡大促進
2008年の
G20
首脳宣言において示された,会 計における「単一で高品質な国際基準を策定する」との目標の実現に向け,引き続き
IFRS
の任意適 用企業の拡大促進に努めるものとする。IFRS適用企業や
IFRS
への移行を検討してい る企業等の実務を円滑化し,IFRSの任意適用企 業の拡大促進に資するとの観点から,IFRS適用 企業の実際の開示例や最近のIFRS
の改訂も踏ま え,IFRSに基づく財務諸表等を作成する上で参 考となる様式の充実・改訂を行う。上場企業は,本年
3
月末の年度決算に係る決算 短信から,その中の「会計基準の選択に関する 基本的な考え方」において,IFRSの適用に関す る検討状況を開示している。これについて,東京 証券取引所と連携して分析を行い,各上場企業のIFRS
への移行に係る検討に資するよう,IFRS の適用状況の周知を図る。閣議決定に基づき,東京証券取引所は決 算短信に「会計基準の選択に関する基本的 な考え方」を記載した東証上場企業など
8
部会では,「適用レポートの積上げもやっていただ ければ」(森委員),「今後もある程度定期的にこ のような適用レポートを整理していただき」(石 原委員)たいという要望や,「海外に向けて,こ れを活用して情報発信するということが可能だ と思う」(平松委員)という意見があった(企業 会計審議会会計部会[2014b])。後者については,金融庁の
HP
上で「IFRS適用レポート」の英語 版が公表されている。9
金融庁が2015
年9
月に公表した「平成27
事務年 度金融行政方針」でも,「引き続き,国際会計基 準の任意適用企業の拡大促進に努めるとともに,企業会計基準委員会と連携し,国際会計基準に関 する我が国からの国際的な意見発信の強化及び日 本基準の高品質化に向けた取組みを進めていく。
こうした取組みを一体的に進め,我が国上場企業 等において使用される会計基準の品質が,より高 水準なものとなることを目指す」(金融庁[2015b]
9
頁)と述べられている。つまり,閣議決定され た内容が金融行政の重点施策として取り上げられ ている。2,374
社を対象に分析を行い(東京証券取 引 所[2015
]3
頁 ),9
月1
日 に「『 会 計 基 準の選択に関する基本的な考え方』の開示 内容の分析」を公表した 10。分析の結果,IFRS
適用に関する検討を実施している企 業(194
社)は,マニュアル・指針の整備,影響度調査・分析,会計基準の差異分析,
会計基準の知識取得などを検討事項として いることが明らかになった(
13
頁)。 また,金融庁は,IFRS
に基づく連結財 務諸表の作成に当たり企業の実務の参考と なるものを示すという観点から(金融庁[
2016a
]),2016
年3
月31
日 に「IFRS
に 基づく連結財務諸表の開示例」を公表し,2016
年7
月8
日には「IFRSに基づく四半 期連結財務諸表の開示例」を改訂した。(
4
)国家戦略としてのIFRS
任意適用促進 2016年6
月2
日に閣議決定された「日本 再興戦略2016
-第4
次産業革命に向けて-」では,コーポレートガバナンス革命に よる企業価値の向上を図る具体的施策とし て,「情報開示,会計基準及び監査基準の 質の向上」が取り上げられた 11。その内容 は以下のとおりである(
148
頁)。図表4 日本再興戦略2016 会計基準の品質向上
我が国において使用される会計基準の品質向上 を図るため,財務会計基準機構,企業会計基準委 員会,日本公認会計士協会,日本取引所グループ,
企業等と連携して,以下の取組を推進する。
‣ IFRSの任意適用企業の拡大促進
関係機関等と連携して,IFRSに移行した 企業の経験を共有する機会を設けるとともに,
IFRS
に係る解釈について発信・周知するこ と に よ り,IFRS適 用 企 業 やIFRS
へ の 移 行 を検討している企業等の実務の円滑化を図り,IFRS
の任意適用企業の拡大を促進する。‣ IFRSに関する国際的な意見発信の強化
のれんの会計処理やリサイクリング(その他 の包括利益に計上した項目を,純利益に振り替 える会計処理)等に関して,我が国の考える,
あるべき
IFRS
についての国際的な意見発信を 更に強力に行う。‣ 日本基準の高品質化
企業会計基準委員会における我が国の収益認 識基準の高品質化に向けた検討が加速されるよ う,必要な支援を行う。
‣ 国際会計人材の育成
関係機関等と連携して,IFRSに関して国 際的な場で意見発信できる人材のプールを構 築する。また,日本公認会計士協会を通じて,
IFRS
に基づく会計監査の実務を担える人材や その育成に係る監査法人の状況について把握 し,監査法人に対して適切な取組を促す。閣議決定に基づき,財務会計基準機構は 国際会計人材プール(国際会計人材ネット ワーク)の構築を開始し,2017年
2
月3
日 に第1
回国際会計人材プールに関する検討 会を開催した(財務会計基準機構[2017a
]2
頁)。検討会では,国際会計人材プール(「国 際会計人材ネットワーク」)への登録・公 表リストの作成手順,目的に沿った活用を 行うための利用方法,運用状況のフォロー アップが議論され(同),4
月27
日に国際 会計人材ネットワークへの登録者753
名の リストを財団HP
で公表した(財務会計基10
分析は定期的に行われ,日本取引所グループのHP
上で公表されている。11
「平成28
事務年度金融行政方針」でも,「我が国 上場企業等において使用される会計基準の品質 が,より高品質なものとなることを目指し,関 係者と連携して,引き続き以下の取組みを進め る。/(ア)国際会計基準(IFRS)の任意適用 企業の拡大促進/(イ)IFRSに関する我が国 からの国際的な意見発信の強化/(ウ)日本基 準の高品質化/(エ)国際会計人材の育成(IFRS に基づく会計監査の実務を担える人材の育成,IFRS
に関して国際的な場で意見発信できる人 材のプールの構築)」(金融庁[2016b]16頁)と述べられている。
準機構[
2017b
]2
頁)。国際会計人材ネッ トワークは財団主催のセミナーへの参加,登録者間による同業・異業種間のコミュニ ケーションの促進,登録者間による研修の 依頼など,関係者が目的に応じて活用する こ と が 期 待 さ れ て い る( 金 融 庁[
2017a
]15
頁)。また,会計教育研修機構の主催で,「IFRS 移行経験共有セミナー」が
2017
年3
月10
日と28
日に開催された。セミナーの内容 は,①IFRS
任意適用の拡大推進に関する 取組み,②IASB
での最近の審議動向,③IFRS
適用予定会社のアンケート結果,④ わが国会計基準との差異分析,⑤IFRS
選 択時の監査上のポイント,⑥IFRS
適用企 業の経験談と多岐にわたり(会計教育研究 機構[2017
]1
頁),これらは「参加者の幅 広いニーズに十分応えたものであり,関係 者にとって,IFRS移行経験を共有する絶 好の 機 会と な った」(橋本[2017]36頁 ) と評価された。さらに,
2017
年6
月9
日に閣議決定された「未来投資戦略
2017
-Society 5.0
の実 現に向けた改革-」では,実効的なコーポ レートガバナンス改革に向けた取組みを深 化させるための具体的施策として,「会計 基準の品質向上」が取り上げられ,「我が 国において使用される会計基準の品質向上 を図るため,関係機関等と連携して,国際 会計基準(IFRS)の任意適用企業の拡大 促進,のれんの会計処理等IFRS
に関する 国際的な意見発信の強化,日本基準の高品 質化,国際会計人材の育成に向けて必要な 取組を推進する」(117頁)ことが 12,また,2018
年6
月15
日に閣議決定された「未来 投資戦略2018
-『Society 5.0
』『ビッグデー タ駆動型社会』への変革-」でも,コーポ レートガバナンス改革を進めるための具体 的施策として,「関係機関等と連携し,国 際会計基準(IFRS
)への移行を容易にす るための更なる取組を進めることによりIFRS
の任意適用企業の拡大を促進する」(
131
頁)ことが確認された。以上のように,国をあげて
IFRS
任意適出典) 金融庁[2018]「会計基準の品質向上に向けた取組み」2頁(一部修正)。なお,2018年6月末現在,IFRS任意適用(適用予定)
企業数は197社(上場194社,非上場3社)で,上場企業194社の時価総額は約218.7兆円(全上場企業の時価総額に占 める割合は32.12%)である。棒グラフ(左軸)はIFRS任意適用(適用予定)企業数(積上部分は非上場企業。単位:社), 折線グラフ(右軸)はIFRS任意適用(適用予定)企業の時価総額の割合(単位:%)を示している。
「『日本再興戦略』改訂2014」
(2014年6月24日)
「『日本再興戦略』改訂2015」
(2015年6月30日)
「未来投資戦略2017」
(2017年6月9日)
「未来投資戦略2018」
(2018年6月15日)
「日本再興戦略改訂2016」
(2016年6月24日)
図表5 IFRSの適用状況
用の拡大促進が推し進められ,その結果,
任意適用が容認された
2010
年3
月末の適 用企業は僅か1
社,その後も増加の兆しは 見られず 13,2014年6
月末には44
社しか 適用(予定)していなかったが,2015
年6
月末(「『日本再興戦略』改訂2014
」公表 後1
年)には91
社,2016年6
月末(「『日 本再興戦略』改訂2015」公表後 1
年)には120
社,2017
年6
月末(「日本再興戦略改 訂2016
」公表後1
年)には167
社と増え続け,2018
年6
月末現在,197社がIFRS
を任意 適用(適用予定)している(金融庁[2018]2
頁)。杉本[
2017
]は,「取り組むべき事案が 政府の政策に結び付くとき,それまでとは 見違えるほどの効果を発揮することが期待 される。『IFRS
の任意適用企業の拡大推進』の方策についても同じで,政府の『成長戦 略』に盛り込まれ,舵取りが行われること によって,IFRSsの任意適用のあり方は飛 躍的に前進している」(
1231
頁)と述べて いるが,図表5
を見れば,それは明らかで あろう。3.修正国際基準の設定
(
1
)公開草案公表までの経緯「当面の方針」は「具体的なエンドース メントの手続については,まず,会計基準 の策定能力を有する
ASBJ
において検討 を行い,さらに,現行の日本基準と同様 に,ASBJが検討した個別基準について,当局が指定する方式を採用することが適当 である」(四)と述べていた。これを受け,
2013
年7
月25
日にIFRS
のエンドースメ ントに関する作業部会が設置され,その委 員名簿が発表された(企業会計基準委員 会[2013
])。作業部会は企業会計基準委員 会のスタッフに加え,財務諸表の作成者5
名,利用者2
名,監査人3
名,学識経験者2
名により構成されたが,IFRSの個別基 準をエンドースメントする際の判断基準と して,「当面の方針」が実務上の困難さを 挙げていたため 14,財務諸表の作成者が他 のセクターよりも多く選任された(小賀坂[
2013
]37-38
頁)。作業部会は設置後
1
年弱の間に,17
回も 開催されたが(小賀坂 ・ 紙谷[2014]32
頁), それぞれの審議内容を示せば,以下のとお りである。まず,第
1
回から第4
回の作業部会では,IASB
が設定した個々の会計基準等を修正 することなしに採択可能か否か,どのよう な項目にガイダンスや教育文書等の作成が 必要かについて,IFRS
と日本基準を比較 することにより,検討が必要な項目の候補 の抽出を行った。また,第5
回から第8
回 の作業部会では,検討が必要な項目の候補12
「平成29
事務年度金融行政方針」でも,「国際会計基準審議会(IASB)において,国際会計基 準(IFRS)の取組みが概ね完了しつつある中,
企業会計基準委員会(ASBJ)においては,我 が国の会計基準を国際的に整合性のある,高品 質なものとしていく方針であり,その取組みを 適切にサポートする必要がある。/このため,
引き続き,IFRSの任意適用企業の拡大促進,
IFRS
に関する国際的な意見発信の強化,国際 的な会計人材の育成に向けた取組みを推進する とともに,収益認識基準の策定や金融商品会計 基準の検討等の日本基準の高品質化に向けたASBJ
の取組みをサポートしていく」(金融庁[2017b]13頁)と述べられている。
13 IFRS
任意適用(適用予定)企業数は2010
年12
月 末 に3
社,2011年6
月 末 は4
社,2011年12
月末も4
社で,2012年12
月末にようやく10
社 に達した。また,「当面の方針」公表後の2013
年6
月末にも20
社しかIFRS
を適用(予定)し ていなかった。14「当面の方針」は,公益及び投資者保護の観点 から,例えば,①会計基準に係る基本的な考え 方,②実務上の困難さ(作成コストが便益に見 合わない等),③周辺制度との関連(各種業規 制などに関連して適用が困難又は多大なコスト を要することがないか)等を考慮すべきである とした(四)。
について,詳細な分析を行った(第
285
回 企業会計基準委員会,審議事項 (3
)-1
審議 資料)。また,第
8
回から第11
回の作業部会では,特に詳細な整理が要望されたリサイクリン グ,当期純利益の論点とのれんの非償却の 論点について,国際的な主張とわが国の主 張を整理し,仮に修正を行った場合の論点 の検討,仮に修正を行った場合の条項の内 容について検討した。次いで,第
12
回の 作業部会では,これまでの検討状況の整理 を行った上で,今後の方向性について議論 を行い,エンドースメント手続の位置づけ,仮に「削除又は修正」を行う場合の考え方,
「削除又は修正」に関する整理,会計基準 の構成について検討した(第
288
回企業会 計基準委員会,審議事項 (3
)-1審議資料)。 第13
回から第17
回の作業部会では,仮 にのれんの非償却,リサイクリング及び当 期純利益について「削除又は修正」を行う とした場合の取扱いを例として,公開草案 の公表に向けて,会計基準の様式や内容等 の検討を行った(第292
回企業会計基準委 員会,審議事項 (2)-1審議資料)。以上のような作業部会での検討を経て,
2014
年7
月31
日 に「 修 正 国 際 基 準 の 適 用(案)」「企業会計基準委員会による修正 会計基準公開草案第1
号のれんの会計処理(案)」「企業会計基準委員会による修正会 計基準公開草案第
2
号その他の包括利益の 会計処理(案)」が公表された。(
2
)公開草案第1
号・第2
号1
)公開草案第1
号「のれんの会計処理(案)」 修正会計基準公開草案第1
号「のれんの 会計処理(案)」は,次のように規定して いる(4-5
項)。公開草案第
1
号が,企業結合で取得した のれんを償却するようにIFRS
第3
号の規図表6 修正会計基準公開草案第1号
► 企業結合で取得したのれん
のれんは,耐用年数にわたって,定額法その 他の合理的な方法により規則的に償却しなけれ ばならない。のれんの耐用年数は,その効果の 及ぶ期間によるが,20年を超えてはならない。
償却費は,純損益に認識しなければならない。
► 関連会社又は共同支配企業に対する投資に係る のれん
関連会社又は共同支配企業に対する投資に係 るのれんは,耐用年数にわたって,定額法その 他の合理的な方法により規則的に償却しなけれ ばならない。のれんの耐用年数は,その効果の 及ぶ期間によるが,20年を超えてはならない。
償却費は,純損益に認識しなければならない。
定を「削除又は修正」したのは,「企業結 合後の利益計算に与える重要性に鑑み,の れんの非償却については我が国における会 計基準に係る基本的な考え方との相違が大 きい」(
16
項)と判断したからであり,また,耐用年数については,「短すぎる年数を設 定すると実態を反映することが困難になる ことも考えられたため,
IAS
第22
号(1998
年)や日本基準を参考にして上限を20
年 とした」(18項)。さらに,企業結合で取得 したのれんを償却するように「削除又は修 正」したことを受けて,関連会社又は共同 支配企業に対する投資に係るのれんについ ても,同様に償却するようにIAS
第28
号 を「削除又は修正」することとした(19項)。 公開草案第1
号に対しては,11
件のコメ ントが寄せられたが 15,「のれんの償却は,ASBJ
を中心に我が国の多くの関係者の従 来からの主張であり,のれんの非償却に関1
5
公開草案全体に寄せられたコメントは19
件(団 体等14
件,個人5
件)であるが,第1
号に寄 せられた意見は11
件(団体等9
件,個人2
件), 第2
号に寄せられた意見は13
件(団体等10
件,個人
3
件)だった。コメントは企業会計基準委員会
HP「公開草案『修正国際基準(国際会計
基準と企業会計基準委員会による修正会計基準 によって構成される会計基準)(案)』に寄せら れたコメント」で閲覧することができる。
図表7 公開草案第1号に対するコメント 賛 反
のれんの償却
9
耐用年数の上限
20
年4
持分法に係るのれんの償却1 1
毎年におけるのれんの減損テスト2 1
企業結合で取得した無形資産の識別3
耐用年数を確定できない無形資産の非償却
1 5
出典)企業会計基準委員会HP「公開草案『修正国際基準(国 際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準 によって構成される会計基準)(案)』に寄せられたコ メント」より作成。賛成・反対が明記されていなくても,
文意からこれを判断した。
する規定の『削除又は修正』について,基 本的に同意する」(日本証券アナリスト協 会)という意見に代表されるように 16,の れんの償却を要求したことに反対するコメ ントはなかった。ただし,「のれんの非償 却を支持する意見に対する完全な反論を構 成しているとまではいえない部分があり,
国際的主張としても論理の堅牢性や説得力 に欠ける部分が存在することも懸念され る」(有限責任監査法人トーマツ)という 意見や,「IFRS第
3
号の適用後レビュー終 了後,その帰結が修正会計基準第1号(案)の内容と異なる場合には,修正会計基準第 1号(案)について改めて見直しの要否を 検討することが望ましい」(日本公認会計
士協会)という要望もあった。
また,耐用年数の上限を
20
年とするこ とに対しては,4件の反対意見が寄せられ た。ただし,「のれんの効果が及ぶ期間は 各企業の状況により判断されるべきもので あるので,年数の上限を明示する必要はな い」(あらた監査法人)という意見 17,これ とは逆に,「最近の海外でののれんの償却 を許容する基準の償却期間の設定状況を勘 案すれば,例えば10
年に短縮することを 検討されたい」(プロネクサス総合研究所)という意見のように,反対する根拠は分か れた。
さらに,関連会社又は共同支配企業に対 する投資に係るのれんを,企業結合により 生じたのれんと同じように償却することに 対しては,「関連会社又は共同支配企業に 対する投資に係るのれんについても,連結 子会社への投資に係るのれんと同様に,買 収における『超過収益力』である点は相違 ないことから,『削除又は修正』する提案 に同意する」(日本経済団体連合会)とい う意見の他に,「我が国においては支配の 獲得に至らないが共同支配又は重要な影響 力を行使可能な性質を有する投資が多いこ とから,本修正を要求することの適否につ いては,本公開草案に寄せられるコメント を十分踏まえて検討を行うこと」(日本公 認会計士協会)を求める提案があった。
さて,公開草案第
1
号は企業結合で取得 したのれんの償却を要求することに関連し て,①毎年におけるのれんの減損テスト,②企業結合で取得した無形資産の識別,③ 耐用年数を確定できない無形資産の非償却
16
この他にも,「我が国は,貴委員会などを中心に,従来,のれんの償却について国際社会に向 けて主張してきています。現在,のれんの償却 は
IFRS
第3
号の適用後レビューにおける検討 課題の1
つとなっており,また,米国基準では 非公開企業がのれんの償却を選択することが認 められています。これらの状況を踏まえ,のれ んの償却を削除・修正の対象とすることに同意 します」(あずさ監査法人)という意見や,「『の れんの非償却』を『削除又は修正』する提案及 びその結論の背景に同意する。IFRS,米国基準 を含めた国際基準に『のれんの償却』処理が再 導入され,『のれんの償却』処理による国際的 なコンバージェンスが図られるように,オール ジャパンでの意見発信を継続していくべきと考 える 」(日本経済団体連合会)という意見があっ た。17
この他にも,「客観的な証拠によって,20年を 超える効果を測ることができるのであれば,耐 用年数を20
年までに限定することは,むしろ のれんについて償却処理を行うことの正当性を 歪めてしまう恐れがある」(日本公認会計士協 会東京会会員有志一同)という意見があった。についても「削除又は修正」を行うかにつ いて検討を行ったが(
23
項),「削除又は修 正」を必要最小限とする観点を勘案し,そ れぞれ「削除又は修正」しないこととした(
25
,28
,31
項)。まず,のれんの減損テストを毎年行うこ とに対しては,「基準の求める以上の実務 対応が要求されている可能性があり,この 点は検証が必要」(日本経済団体連合会)
なので,「再度の検討をお願いしたい」(同)
という意見の他に,「会計基準として……
両方を求める以上は,より積極的な理由が 必要であると考える」(新日本有限責任監 査法人)という意見のように,「削除又は 修正」を必要最低限とすることだけでは,
根拠が弱いのではないかというコメントが あった。
また,企業結合で取得した識別可能な無 形資産をのれんと区分して認識することに 対しては,反対する意見はなかった。むし ろ,「企業結合で取得した無形資産をのれ んと区分することで,取得した資産が無形 資産として適切に財務諸表に計上されるこ とになるため,財務諸表の利用者にとって 有用であるといえる。また,のれんと区別 して識別される無形資産は,のれんとは償 却年数が異なる可能性があり,無形資産を のれんと区別しない場合と比較し,企業結 合後の財務諸表が財政状態及び経営成績を より適切に表すことになる」(新日本有限 責任監査法人)という意見のように,同意 を示すコメントが多かった 18。
これとは反対に,耐用年数を確定できな い無形資産を非償却とすること対しては,
理論的な観点,実務上の観点から多くの反 対意見が寄せられた。前者の代表的なもの としては,「『のれん』の償却の場合には,
耐用年数の限度がない『のれん』の存在を 予定して上限が決められているのであり,
無形資産についてのみ耐用年数が確定でき ないことを理由として非償却とするのは論 理矛盾ではないのか」(プロネクサス総合 研究所)という意見が 19,また,後者の代 表的なものとしては,「両者は企業買収な どで同時に発生することが多いが,その際 の両者の区分は非常に曖昧であり,恣意的 に区分される危険性を排除するためには,
両者に同一の会計処理を求めるべき」(日 本証券アナリスト協会)という意見が挙げ られる 20。
2)公開草案第 2
号「その他の包括利益の会計処理(案)」
修正会計基準公開草案第
2
号「その他の 包括利益の会計処理(案)」は,次頁のよ うに規定している(4-6項)。公開草案第
2
号が,原則として,全ての ノンリサイクリング処理をリサイクリング19
この他にも,「のれんから切り離されたブランド 等の無形資産もその多くはのれんと似た性質を もつと考えられる。上記ののれんを償却する考 え方に従えば,無形資産の価値も永続すること はなく,経済的便益は徐々に消費されることに なる。/したがって,のれんを償却するのであ れば,耐用年数を確定できない無形資産の非償 却に関する定めも修正すべきと考える」(新日 本有限責任監査法人)という意見があった。20
この他にも,「ブランドなどの耐用年数を確定で きない無形資産はのれんとの区別が難しいこと から,一方は償却し,他方を償却不要というこ とにしてしまった場合,償却の要否の判断(の れんとするべきか無形資産にするべきかの判 断)に恣意性が介在する余地を残すことになり,当基準の信頼性を損なう恐れがある」(日本公 認会計士協会東京会会員有志一同)という意見 があった。
18
この他にも,「削除・修正を必要最小限とする観 点から,……企業結合における無形資産の認識(いわゆる