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中国における IFRS 導入による影響
―リースおよび減損会計処理を中心に―
杭 ユ ウ
財務会計基準は,総称して「一般に認められた会計原則」(Generally Accepted Accounting Principles;GAAP)と呼ばれる。財務諸表は企業の経営者の責任のもとに作成されるが,一般 に認められた会計基準(GAPP)に基づいて作成されなければならない。しかし,GAAP は世界 共通の基準ではない。現在,世界各国でその支持を広げている代表的な GAPP の一つが,国際 会計基準審議会(International Accounting Standards Board;IASB)によって設定される国際 財務報告基準(International Financial Reporting Standards;IFRS)である。現在では 100 を 超える国々において,IFRS の適用が要求または容認されるに至っており,さらにはコンバージ ェンスへの取り組みも進んでいる。
経済のグローバル化が進展する中,各国の企業が積極的に海外に進出し,本国以外での企業活 動の占める比重がますます大きくなっている。会計基準が統一化されることにより,各企業は同 一の尺度で比較されることを通じて,国際競争力が合理的に把握されるようになり,また海外企 業との経済活動が比較可能となる。
各国の会計基準を国際標準の会計基準である IFRS にコンバージェンスする際,本国企業の利 益を棄損させないようにすることは大きな課題になっている。
中国は,現在,世界経済からみても大きな経済力を有し,GNP は世界第 2 位を占めるに至っ ている。こうした経済的な重要性から中国の企業会計の分析は,世界的にも,特に国際的な機関 投資家からみても意味が深いものと考えられる。中国企業にとって,IFRS は国際化に向けて,
今後ますます不可欠かつ重要な基準と考えられる。
本研究では,中国企業会計基準が IFRS にコンバージェンスする際,主要な会計処理基準の 中でも,中国経済にとってとりわけ重要な二つの会計基準を中心としてとりあげた。そこでは まず基本的な会計準則や会計処理から両者の差異を分析し,公開企業の実例を通じて,実際に,
IFRS が中国企業に対して,どのような影響を与えているのかを検討し,そうした現状分析を通 じて,そこにいかなる課題が存在しているのか等を究明することを目的とする。
本研究の構成は,以下の通りである。
第 1 章では,現在,中国会計基準の制度概要を簡潔にまとめている。
第 2 章では,本研究で取り上げる二つの相違する会計処理について,すなわちリース会計と減 損会計について,先行研究を踏まえてレビューしている。
第 3 章では,リース会計について中国における具体的な背景を紹介し,中国企業会計基準及び IFRS,この両者の間での差異を検討し,事例を通じて,公開企業にどのような影響を与えるの かを分析している。
第 4 章では,減損会計について中国における具体的な背景を紹介し,中国企業会計基準及び IFRS,この両者の間での差異を検討し,事例を通じて,公開企業にどのような影響を与えるの かを分析している。
第 5 章では,今回の研究を通じて中国企業会計基準のもつ課題を考える。
結果として,まずリース分野について述べることにする。中国のリース業務の発展はまだ成熟
しておらず試行錯誤的な段階にあるといってよい。中国においてリース会計に関する企業会計準 則 21 号は,IFRS と米国会計準則を参考にして策定されたが,依然としてまだ多くのファイナ ンス・リースがオペレーティング・リースとして取り扱われ,財務諸表に表れておらず,したが って企業の本来の負債状況を反映していない。これは同時に潜在的するリスクの開示がなされて いないということである。中国におけるリース会計にとって,リース会計処理する時に,リース の分類に対して,特にファイナンス・リースに分類するためのより明確な定義が必要であると考 える。他方,租税面では,脱税などの行為を防止するため科学的かつ合理的な規制が必要である と考える。
次に減損会計の場合,IFRS へコンバージェンスするにあたり中国で作成された新企業会計基 準にはいろいろな問題が含まれていた。これは準則自体の問題だけではなくて,減損損失引当金 の金額の計上や戻し入れ金額の算定など実務上の問題もそこに含まれる。また,減損会計の実務 上の処理において特に上場会社においてはかなり大きな程度の利益を左右することもあり,会計 担当者の業務上の判断能力の向上,外部監督体制の強化など,いまだ不完全な問題が残されてい る。こうした検討を踏まえ,今後は,資産減損損失に関しての項目の認識,金額の算定などより 精緻化する方向でガイドラインを作成する必要があると思われる。例えば,減損損失の計上範囲,
計上の割合,将来キャッシュ・フローの計算,公正価値の算定,のれんの減損テストなどを明確 し減損の算定金額を企業間全体において統一する必要があると考える。