日本看護倫理学会誌 VOL.8 NO.1 2016 87
■ 日本看護倫理学会第8回年次大会 シンポジウムⅡ
病気・障がいのある子どもの教育を受ける権利を問う
Educational rights for sick or disabled children
二宮 啓子
◉神戸市看護大学
病気・障害のある子どもの教育を受ける権利につい て考える際には、病気・障害がある子どもの教育環境 や教育上の課題について理解しておく必要がある。
このシンポジウムでは、医療や教育の場で病気や障 害のある子どもを支援している4名のシンポジストの 方々にそれぞれの立場から、病気や障害のある子ども の教育を受ける権利についての考え方や教育的な取り 組みについて紹介していただいた。
最初に、小児科医の立場から、宅見 徹氏に、「1型 糖尿病の子ども達の学校生活を支える」というテーマ でご発表いただいた。宅見氏は病気のある子どもの教 育環境として学校での配慮や支援が必要であり、学習 の機会を他の子どもと同じように与えることが重要で あること、また、小児糖尿病キャンプについて紹介 し、同じ病気をもつ者同士がふれあい、学び合う環境 が社会性を発達させることを話された。
次に、教育者の立場から、中尾繁樹氏に、「障がい のある子どもたちへの教育の現状と課題」というテー マでご発表いただいた。中尾氏は、特別支援教育の現 状について話された後、自閉症や発達障害のある子ど もへの教育的取り組みの実際について紹介され、子ど もをみる視点をたくさん持つことの大切さについて話 された。
次に、学校看護師の立場から、植田陽子氏に「豊中
市立小中学校における看護師による医療的ケアの実施 状況についての報告:豊中市立A中学校に人工呼吸器 を使用しながら通学するBさんの事例を通して」とい うテーマでご発表いただいた。植田氏は、豊中市が合 理的配慮として医療的ケアの必要な子どものいる小中 学校に、看護師を派遣し、安全に安心して医療的ケア を受けながら学校で教育が受けられる環境を整えてい る状況や医療的ケアの実施に伴う課題について話され た。
最後に、社会福祉士の立場から、小俣智子氏に、
「こどもにとって「教育」とは」というテーマでご発表 いただいた。小俣氏は、ご自身の闘病経験や小児がん 経験者の調査結果を交えながら入院中に感じたこと、
退院後に学校で困ったこと等を紹介しながら、授業や 学校行事への参加など、学ぶ機会と教育の質の保障が 重要であることを話された。
シンポジストの方々とのディスカッションから、病 気・障害のある子どもの教育を受ける権利を保障する ためには、多様な教育ニーズをもつ子ども達の気持ち を聞きながら、学校関係者、保護者、医療・福祉関係 者がお互いに立場を考えて歩み寄り正直に話し合うこ と、多様な学びの場を提供すること、退院後の復学に 向けた支援では他職種を交えた組織的な取り組みが必 要であることが示唆された。
1 型糖尿病の子ども達の学校生活を支える
宅見 徹(北播磨総合医療センター 副院長・小児科総括部長)
子どもの糖尿病『1型糖尿病(インスリン依存型4 4 4)』
は毎日数回のインスリン注射が必要で、自主的・積極 的に取り組まなければ治療はうまくいきません。健康 を維持していても、絶えず将来への不安がつきまとい 本来大きな喜びである進級・進学、就職、結婚、出産 等でも大きな問題・負担となることがあります。日常
では周囲に同じ糖尿病の子どもがいることは稀で、孤 独な闘病を続けなければなりません。
子ども達は学校でも医療行為(インスリン注射、血 糖測定、場合によっては補食)をしなければなりませ ん。好奇の目にさらされるストレス、終わりのない治 療を続けなければならないストレスに加えて多くの不
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安を抱え、自身の思いをあきらめて行動を「自制」し てしまったり、万一を心配する周囲に「規制」された りしがちで本来の個性、能力を充分に発揮できずにい ます。ともすると自身の特徴、能力に否定的になり目 標をあきらめてしまいます。学校生活で多くの不安、
悩み、否定的感情を持っている場合、支えるご家族の 気持ちにもゆとりがなくなり、家庭さえもが安心でき る居心地の良い場でなくなってしまいます。
学校では、過剰な特別扱いで疎外感を抱かせたり、
無理解による言動で心を傷つけたりすることのないよ う子どもの糖尿病について正しく理解していただき、
安心して医療行為ができる環境を提供していただくこ とが重要です。また、事故防止のためにもある程度周 囲への情報公開が必要ですが一律ではなく個々の子ど もの気持ちをふまえた対応が大切です。
学校生活は子ども達が知識を習得する場であるとと もに、自己肯定感を育み社会人として独り立ちしてゆ く準備のためにとても重要です。糖尿病の子ども達 も、「安心してのびのび生活できる学校」で成功体験 を積み重ねて自己肯定感、目標を持つことができれば
「健康な子ども」とかわらず成長できます。
また、子ども達ご家族同士が繫がりを持つことも大 切で、全国で糖尿病療育キャンプが行われています。
気持ちの通じあえる同じ「糖尿病」の子ども達と交流 することで孤独感から解放されその後の治療、家庭生 活、学校生活に積極性が出てくることが少なくありま せん。
子ども達が成功体験を積み重ね、自己肯定感、目 標、希望を持てるよう、学校、家族、医療機関、そし て患者会が良好な連携をとり支えることが大切です。
障がいのある子どもたちへの教育の現状と課題
中尾 繁樹(関西国際大学)
1.現状と課題
今の教育現場が抱える問題点は以下のようなものが あげられる。
〈通常の学校〉
・発達障害を含めた、配慮の必要な児童の増加や特別 支援学級在籍者数の増加
・人手不足や体制整備の遅れ、教師の理解不足からく る授業や学級経営の困難さ 他
〈特別支援学校〉
・子どもの重度重複化や医療的ケア等の問題に対応す る専門性の低さ
・発達障害の高等部在籍数の増加にともなう環境面で の整備の遅れ
〈共通事項〉
・教師、管理職、教育委員会の指導力と理解不足によ る実態把握の資料準備不足
・相談機関の少なさや保護者との連携と理解不足 これらのような問題はなぜ起こってくるのだろう か。教育現場だけの問題ではなく、社会全体の変化と 子育ての仕方が変わってきたことにも要因がある。子 どもが起こす問題は社会と学校と家庭という器の中で 継続的に起こっていく。子育ての仕方に関しても、密 着型の子育ての仕方が崩れ、愛着形成の問題が生じ、
ADHDのようにふるまう行動や虐待が増加している。
また、スマホ、パソコン、ベビーカー等の便利なもの が普及していくことで、人に対しての興味の薄れや脳 の覚醒レベルの低下、低緊張の姿勢獲得の問題や不器 用児の増加等の問題も起こってきている。こういった 子どもや教師、保護者の多様化にどう対処していくか
も大きな課題となっている。
2.「みんなの特別支援教育」と「インクルーシブ」と いう考え方
「みんなの特別支援教育」とは障害の有無にかかわ らず、すべての子どもたちのためにすべての教員がか かわる教育である。そのためには、一人一人違う学び 方をしている子どもたちを理解し、楽しく「わかる、
できる」ように工夫、配慮された授業を行う必要があ る。集団の中での指導の個別化を図るためには、従来 の障害児教育という観点だけではなく、子どもの実態 をどう把握するかの視点をたくさん持つことが大切に なってくる。子どもの躓きを予測できるだけでも様々 な二次的な問題が予防できると考える。この考え方が 特別支援教育の本質につながっていく。
インクルーシブとは、これまで必ずしも十分に社会 参加できるような環境になかった人たちが、積極的に 参加・貢献していくことができる社会である。それ は、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々 の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会 である。このような社会を目指すことは、我が国にお いて最も積極的に取り組むべき課題である。これを実 現するためにもインクルーシブ教育システムの構築が 必要になる。同じ場で共に学ぶだけでなく、個別の教 育的ニーズのある子どもたちに対して、自立と社会参 加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に 応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備 することが重要である。通常の学級、通級による指 導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性の
日本看護倫理学会誌 VOL.8 NO.1 2016 89 ある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要で
ある。
特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インク ルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なもの である。「合理的配慮」は施設設備だけではなく、子 どもの障害の状態や特性等を踏まえた指導法の工夫、
意思疎通のための支援も含まれる。さらに「基礎的環 境整備」は施設等のバリアフリーやユニバーサルデザ イン化だけではない子どもの認知特性を踏まえた教材 の整備や適切な指導法等に関する研修も必要になって くる。
豊中市立小中学校における看護師による医療的ケアの実施状況についての報告:
豊中市立 A 中学校に人工呼吸器を使用しながら通学する B さんの事例を通して
植田 陽子(豊中市教育委員会事務局 児童生徒課 支援教育係)
本市では公立小中学校に通学する医療的ケアを必要 とする子どもに対して、看護師を学校に配置してい る。シンポジウムでは、小中学校での看護師による医 療的ケアの実施状況を、豊中市立A中学校に人工呼吸 器を使用しながら通学するBさんの多様な学びの様子 を通して紹介するとともに、その成果や課題を報告す ることで、病気や障害のある子どもの教育を受ける権 利に関する話題を提供した。
Bさんは現在中学校3年生で、小学校入学時から特 別支援学校ではなく地元の小中学校に人工呼吸器を使 用しながら通学している。学校ではほとんどの時間を 同級生と同じ教室で過ごし、教職員の支援や看護師の 医療的ケアを受けながら学習している。気管切開をし ているが、発声ができるので、授業中、看護師は別室 で待機し、Bさん自身から吸引等の要請があれば看護 師が対応している。Bさんの保護者は、将来はBさん が親元を離れBさん自身で支援者に自分の意志を伝え ながら毎日の生活を成り立たせて欲しいと願っておら れる。
Bさん本人は現在高校進学を目指し受験勉強中であ
る。Bさんを担当している教員は、Bさんへの効果的 な学習方法について保護者と連携し、Bさんが学級の 一員として活動に参加できるよう様々な取り組みをし ている。
〈障害者権利条約〉や〈子どもの権利条約〉あるいは
〈障害者差別解消法〉の全面施行など、障害者も地域 で当たり前に生活する社会を目指す方向性が国から示 されている。厚生労働省においては〈小児在宅医療連 携推進事業〉の取り組みの中で、〈医療〉〈福祉〉〈教育〉
が連携できる体制整備の必要性を示している。しかし 現状は、学校で勤務する看護師については、法的な基 準やルールが示されたものは何もない。
文部科学省は〈学校への看護師の配置〉も合理的配 慮事項としているが、看護師配置についての基準や業 務内容の明示がない現状では、人材確保や予算確保に ついても限界が生じている。
今後、小児在宅医療の推進に伴い、医療的ケアを必 要とする子どもが増えつつある現状において、国は看 護師が学校で働くこと自体を看護師の業務と位置付 け、何らかの基準を示すことが必要である。
学校教育の確保に必要な体制の構築:小児がんのこどもたちを中心に
小俣 智子(武蔵野大学人間科学部社会福祉学科)
小児がんは、脳腫瘍から血液腫瘍まで300以上の疾 患を総称している。その治療は、心身に相当の影響を 及ぼす過酷で濃厚なものである。治療効果が高いこと などから、濃厚な治療の結果、生存率は7〜8割と大 きく向上している。一方、疾患そのものや治療の影響 から、臓器や四肢、感覚器官などの欠損、妊孕性や精 神的な障害、知的な障害と多岐にわたる晩期合併症が その後に発生する。加えて、学齢期のこどもたちは、
治療内容や体調などの理由で学校教育を受ける機会が 充分ではないことも多い。
2011年小児がんを経験した80名に、学校に関連す
る体験や意見を聞いたところ、「院内学級はあったも のの学習期間が短かったため、かなりの(勉強の)遅 れが目立った」「同じクラスの子からいじめを受けま した」「入院中は一日も早く復学したかったのに、先 生たちの過剰な対応で不登校気味になりました」(い ずれも原文)といった、何らかのマイナス体験をした 人が多く存在した。
一方で、「院内学級があったお蔭で退院後も他の人 たちに遅れなく授業を受けることができました」「長 期入院して忘れられるのではと不安がありましたが、
入院前と同じように関わってくれたことを感謝してい
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ます」「脱毛などの用紙の変化に対し、同級生が守っ てくれた」(いずれも原文)などのプラス体験の声も あった。
そもそも入院したこどもへの学校教育の体制は、医 療機関や地域によって格差が存在する。つまり、居住 地、発症した疾患、入院した医療機関によって、その こどもの教育の機会および内容に差異が出ることにな る。さらには、通学している教育機関や、直接関わる 大人たちによって、復学や通学、学習支援にも差異が 発生する。
言うまでもなく学齢期のこどもにとって、学校の存 在はその生活のほとんどを占めるといっても過言では ない。そして年齢に応じて学ぶ学校教育および学校生 活での体験は、その後のこどもの人生に多大な影響を 及ぼす。病気や障害を持つこどもたちが、差異なく十 分な学校教育を享受できるようにするためには何が必 要か。火急の課題として、入院・療養中の教育の機会 確保が挙げられる。
2012年に15の小児がん拠点病院が指定され、院内 学級の設置は必須の整備要件となり、この設置要件に
関連し、翌年には文部科学省が「病気療養児に対する 教育の充実について」通知を出している。指定された 15病院のうち、わずか2病院のみが特別支援学校併設 というのが現状である。その後の自立した生活を送る うえで重要な高等部の学校教育も深刻な課題として残 留している。
15の病院は小児がん以外のこどもをむしろ多数診 ているため、小児がん拠点病院の学校教育体制の底上 げにより、教育の機会確保や復学支援体制等の構築へ とつながることを期待する。併せて、教育現場・医療 現場・行政などの病気や障害のあるこどもたちに関わ る周囲の大人の関わり方も、こどもへ重大な影響を及 ぼす。そのこどもの今と将来をみつめながら、そして 成人していくこどもの先を見据えた周囲の関わりが必 要となる。
上記の具体的実現に向け、当事者であるこどもた ち、そしてこどもを全力で支えている保護者の方たち や関係者の方々の声を拾い、当事者視点を政策やしく みづくりに生かす一端を微力ながら担っていきたいと 考える。