日本小児循環器学会雑誌 9巻3号 481〜485頁(1993年)
〈症例報告〉
川崎病急性期の経静脈的γグロブリソ大量療法 施行にもかかわらず死亡した1乳児例
一 臨床面からの検討一
(平成5年4月6日受付)
(平成5年8月30日受理)
1)昭和大学小児科,2}昭和大学第1病理,3)東邦大学附属大橋病院病理学研究室
古荘 純一) 野嵜 善郎1) 奥山 和男1) 相沢 共樹2)
神田実喜男2) 高橋 啓3) 直江 史郎3)
key words:川崎病,γグ・ブリン療法,冠動脈瘤,心筋梗塞死亡
要 旨
川崎病の病初期よりγグロプリン療法を施行したにもかかわらず冠動脈瘤を形成し死亡した症例を 経験した.症例は9ヵ月男児で5病日よりintact型γ一グロブリン200mg/kg点滴静注5日間,さらに15
病日より400mg/kg 3日間点滴静注したが,18病日に心筋梗塞にて死亡した.剖検にて,冠動脈瘤内腔が 血栓で充満していたのが確認された.川崎病におけるγ一グロブリン療法により冠動脈障害の発症率や予 後が大きく改善したが,本症例のように病初期にそれを施行しても重度な冠動脈障害を起こす症例も存 在する.重症例においては現在のγ一グPブリン療法にも限界があり,その使用法(量,期間など)の再 検討,および新たなさらに有効な療法の開発が望まれる.また重度な冠動脈障害の発生した症例には,しっかりとした抗血小板・抗凝固療法を行う必要を再認識すべきと考えられた.
緒 言
川崎病は1967年に川崎富作博士によって報告された 疾患であり,冠動脈炎に起因する動脈瘤を形成し,時 に血栓性内腔閉塞のための虚血性心疾患で死亡するこ とで注目された.しかし近年の治療・検査の進歩によ りその致命率は著明に低下している.特に急性期にγ・
グロブリンの大量点滴静注療法が行われるようになっ て以来,致命率のみならず,冠動脈障害の発生頻度の 低下や動脈瘤の消失率も向上している.しかしながら γ一グロブリンを使用してもなお冠動脈障害を抑制しう るものではない.
今回,病初期よりのγ一グロブリン使用にもかかわら ず心筋梗塞で死亡した1乳児例を経験した.本症例の ごとくγ・グロブリンを施行しても重度な冠動脈障害
別刷請求先:(〒142)東京都品川区旗の台1−5−8 昭和大学小児科 古荘 純一
を生じる場合があり,現在も川崎病は,急性期に死亡 することのある重篤な疾患と再認識すべきと考え報告
する.
症例経過 症例:9ヵ月,男児.
家族歴・既往歴:特記すべきことなし.
現病歴:発熱,発疹を主訴に3病日(1991年3月7 日)に昭和大学小児科外来を受診し即日入院となった.
入院時,全身性の不定形紅斑,眼球結膜充血,四肢末 端の硬性浮腫,リンパ節腫脹と高度の炎症所見をみと めたため,各種培養提出後,抗生剤開始.また4病日 には口唇の発赤が明らかとなり川崎病と診断.同日よ りアスピリン30mg/kg/day投与開始した.患児の第 5病日の血液検査所見(表1)および臨床・治療経過
(図1)を示した.発熱は持続し5病日には川崎病の主 要症状全項目を満たし,検査所見ではCRP 6+,白血 球14,800/μ1,血小板24.2×104/μ1,アルブミン2.2g/
発 熱
.一_,. (入院)
(エコー}
一_一. (死亡) (エコー)(エコー)
病 日 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 発 疹
眼球結膜 一
充血 口唇発赤 口腔内発赤 頚部リンパ節 腫 張
硬性浮腫 皮膚落屑
ESR(1時間) 80 30 63
CRP 6〔∋ 6+ 6㊤ 5(↓ノ 6Ψ 6㊥
WBC 6,000 14.800 14,400 15,500 2ア,800 3L900 13,900 Plt 34.1×10 24.2×104 269×104 4].8×104 66.2×}0ぷ 73.4×104 57.5×104 TP/Alb 5,9/3.5 4,9/2.2 5,6/2.2 6.9 6。312.9 5.8
GOT/GPT ア0/126 76/刀 30β9 24川4 23/11
T}bll 3.4 1.7 0.6 0.4 0.4 0.3
帯(ご曲
フ゜一ヘン一一一一・−z−・麟
懸 ノイキノノh・/k・_微_%』
治 療 4m稿/kg 200mg/kgγ一G ⇔ ●
⇔ 阜 ●
ユヘラ10mglkg Alb o o.59/kg
刀00mg/kg
珍⑲∀
、フルマリン〔=======⇒ フルマリン1
一
|oo而9/kg分3⑰ 100mg〆kg分3⑭
図1 患児の臨床・治療経過
表1 第五病日の血液・生化学的所見 WBC 14800/μl
RBC 361×104/μl Hb 9.5g/dl Ht 28.8%
Plts 24.2×104/μl
hemogram sg 41%
ba 30%
1y 22%
mo 5%
aty ly 2%
CRP
ESRIgG IgA IgM
6十 8⑪/130mm
401mg/d1 31.9rng/dl 51.8mg/dl
尿検査 蛋白 2+
潜血 (一)
沈査wbc多数
TP. 4.3g/dl Alb 2.1g/d]
T.bil 3.4mg/dl dir 2.8mg/dl BUN 24.5mg/dl CRE O.7mg/dl GOT 231U/L GPT 401U/L LDH 4731U/L ALP 6.3U(B.L)
Ca 9.5mg/dl P 3.7mg/dl CK 251U/L HBD 2491U/L Na 134.6mEq/L K 4.1mEq/L CI lO4.5mEq/L
dl, Ht 28.8%と厚生省の冠動脈瘤発症のリスクファク ター1)全項目を満たしたため,5病日よりintact型γ一 グロブリン(ベニPソ)200mg/kg/day点滴静注開始 し5日間使用し,抗生剤は中止した.7病日には解熱 し,当日施行した心エコー検査では冠動脈に異常を認 めなかったが,9病日より再び発熱し高度の炎症所見
は持続した.アスピリンのほか,アルブミソ0.5g/kg輸 血や,心筋保護剤digitalizationを施行し経過観察し たが高熱が持続した.11病日の心電図では洞性頻脈以 外は異常所見はなかった.14病日に施行した心エコー 検査では左右の冠動脈に拡張所見認めたため,15病日 より再びγ・グロブリン400mg/kg/day点滴静注開始 した.発熱,発疹は持続したものの16病日には,口唇 の発赤,眼球結膜の充血は軽快し,四肢末端の膜様落 屑が両上下肢に出現した.16病日に施行した心エコー 検査では図2に示したごとく,右冠動脈起始部に4.3 mmの冠動脈瘤を,左冠動脈には,主幹部の5mmの拡 張と前下行枝に3.6mm瘤を認めた.18病日(3月22日)
早朝に,突然,嘔吐・徐脈・顔色不良となりシ・ック 状態に陥った.心電図検査で,第2,第3誘導,aVfの STの上昇があり(図3)右冠動脈閉塞による下壁梗塞 と診断し,直ちに心肺蘇生とともにウロキナーゼ点滴 静注開始したが,不整脈につづき,心停止をきたし,
ペーシングの準備も間に合わず,心筋梗塞発症後8時 間で鬼籍に入った.なお本児の剖検所見では2)右冠動 脈の起始部に径5mmまでの2連の長楕円形の動脈瘤 の形成を認め,瘤内腔には新鮮赤色血栓が充満してい
た.
考 案
川崎病は,冠動脈を始めとした系統的脈管炎を来す
平成5年10月1日 483−(93)
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図2 第16病日の心エコー検査.
脈所見
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2枚を合成したもので左側が右冠動脈右側が左冠動
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心筋梗塞発症時の心電図所見
疾患であり,最近の全国調査の結果3}では,1年に約 5,500人の患者が確認され,死亡率0.18%,心後遺症 13,1%,再発率3.5%と報告されている.その死亡原因 として心筋梗塞,心不全が大部分4)であることより,治 療は急性期の冠動脈障害の予防,および回復期の冠動 脈退縮と動脈瘤内血栓を予防することにあるといえよ
う.
川崎病の治療として,90%以上の症例でアスピリン 療法が施行されている3)が,古庄ら5)はγ一グロブリソ大 量療法がアスピリン単独療法に比べて冠動脈病変発症 を有意に低下させると報告し,その後多くの報告6) 1°)
がなされ,現在では川崎病の約70%の症例でアスピリ ンと併用されており冠動脈障害の発症頻度は著しく低 下した4).さらに冠動脈障害を発症した症例において も消退率が高いことが報告され6},今後もγ一グロブリ ン大量療法は川崎病治療の中心となると考えられる.
その施行においては,厚生省川崎病研究班では冠動脈 瘤形成に関するリスクファクター7項目1)をあげ,① 白血球数12,000以上,②血小板35×104未満,③CRP 3+以上,④ヘマトクリット35%未満,⑤アルブミン3.5 g/dl未満,⑥年齢12ヵ月以下,⑦男児,のうち4項目 以上満たす症例に使用することを勧めている.通常γ一 グロプリンの使用量は200mg/kg/dayを5日間8),400 mg/kg/dayを3日間9),総投与量1,000mg/kg以 上8)1°)をいずれも発病7日以内に開始することが必要 とされている.今回我々の症例では5病日で全ての項 目を満たしており,この時期にすでに冠動脈瘤発症が 危惧されていた.本児は2クール使用したが,第1クー ルはその使用法は200mg/kg/day 5日間であった.こ れにて一旦解熱したが,9病日より再び発熱し持続し 14病日の心エコーで左右冠動脈の拡張を認めたため,
15病日より第2クールを400mg/kg/dayで開始して いた,本症例のように,γ一グロブリンを使用しても重 度な冠動脈障害の発生する症例も存在する11)12).本症
例のγ一グロブリソ投与法の問題点として,①第1クー ルより400mg/kg/dayで開始していたらどうであっ たか,②5日間でなくそのまま継続していたらどうか,
③長期γグロブリン使用時,あるいは再投与時の抗凝 固療法の徹底などが挙げられる.
γ一グロブリン投与終了時期については,5日間の投 与終了翌日の好中球数が正常化すれば,終了して経過 をみれるが,好中球数が改善せず,解熱傾向がない場 合は投与を続ける12),また発熱が続けぽ再投与を奨励 する報告13}がある.本症例は最初のγ・グロブリン療法 施行時の好中球数は開始時10,500,終了時7,600と改善 するも正常化はせず,また一旦解熱したものの投与中 に再発熱をきたしており,γ一グロブリン療法を続けた 方が良い結果が得られた可能性がある.また病初期に 発症した冠動脈瘤に関してはアスピリンに加えて,ジ ピリダモールなどの他の抗血小板薬の併用が必要であ り,症例によってはヘパリンによる抗凝固療法も考慮 すべきとされている14)〜16}.また経過中に心エコーにて 冠動脈内血栓が疑われた場合ウロキナーゼによる血栓 溶解療法も必要といえよう.本症例でのγ・グロブリソ の再投与の際には,γ・グロブリンの大量投与や再投与 で凝固能が充進するという報告もあることから17),積 極的にヘパリンの抗血栓療法を併用すべきであったと 考える.急性期冠動脈の拡張を認めた症例は,それが 中等度の拡張であっても血栓形成することがあり十分 注意して観察する必要がある.また,冠動脈瘤を有す る症例でエコーにて血栓形成が疑われた場合,症状が なくても積極的にウロキナーゼ等による血栓溶解療法 を施行することも考慮すべきと考える.
川崎病は,現在でもなお急性期に死亡することのあ る重篤な疾患であり,γ・グロブリン療法にてもその効 果に限界があると認識すべきと考えられた.
結 語
病初期よりγ一グロブリン療法を施行したにもかか わらず急性期に心筋梗塞で死亡した症例を報告した.
γ一グロプリン療法にても死亡例の存在,すなわちその 限界を認識するとともに,重症例における頻回の心エ
コー検査,抗血栓療法の必要性につき再検討すべきと 考えられた.
文 献
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ACIinical Case Report of Expired Infant in Acute Phase of Kawasaki Disease Inspite of High Dose Intravenous Gammaglobulin Therapy
Junichi Furusho*, Yoshirou Nozaki*, Kazuo Okuyama*, Tomoki Aizawa**, Mikio Kanda**,
Kei Takahashi***and Shirou Naoe***
*Department of Pediatrics, Showa University School of Medicine **Department of Pathology, Showa University School of Medicine ***Department of Pathology, Ohashi Hospital Touhou University Schoo1 of Medicine
We have reported a case of 9 months old boy died of myocardial infarction inspite of vigorous treatment of intravenous gammaglobulin(rVGG). Initially,200 mg/kg/day rVGG was administrated from 5 days to 10 days after the onset and later,400 mg/kg/day IVGG was infused from 15 to 18 days,
however he expired due to myocardial infarction on 18 days of illness. At autopsy, right coronary artery was moderately dilated with thrombus in the lumen. It has been known that high dose IVGG reduced the frequency of coronary artery abnormalities, but there are some cases which dose not respond even to high dose rVGG. In this kind of situation there are some limitation of treatments of IVGG for Kawasaki disease. We suggested that anticoagulation and antipletlets therapy is nessesary in case of Kawasaki disease with severe degree of coronary involvements.