国立歴史民俗博物館研究報告 第207集 2018年2月
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添い寝中の死亡事故からみた 育児と授乳
Childrearing and Breastfeeding as Seen from Fatal Accidents : Focusing on Newspaper Articles and Childrearing Books
本論は『朝日新聞』,『読売新聞』の記事から,添い寝中に子どもが死亡する事故について,なぜ発生する のか,死因,住環境,授乳姿勢,死亡年齢を検証することにより,添い寝と授乳の実態と変化を明らかにし た。さらに育児書の検討から添い寝がどう捉えられていたのか,適当とされる授乳期間はどの程度だったの か明らかにした。
添い寝で死亡する事故は明治期から発生しており,時代によって死因は異なった。1870 ~ 1910 年代は 80% 以上が乳房で圧死していた。1920 年代になると乳房で圧死は 67%,布団と夜具での死亡事故が 20% と なる。1930 年代には乳房での圧死が 50% まで減少し,布団と夜具での死亡事故が 26% となる。こうした事 故は職業には関係なくあるゆる住宅地で発生していた。
1940 ~ 1960 年代前半には深刻な住宅不足問題を背景に,スラムなど極めて劣悪な住環境に居住するブルー カラーの家で事故が発生した。1960 年代後半にも住宅の狭小が原因による圧死事故が発生するが,高度経 済成長による所得の増加による家電製品の普及とともに,タンス,学習机などの物があふれて部屋が狭小化 し,そのため圧死するという事故が発生した。1970 年代にはアメリカの育児法が紹介され,うつぶせによ る乳児の死が問題視され,さらに死の多様化が進んだ。
18 冊の育児書の検討から 11 冊の育児書が添い寝を否定,5 冊が注意すべきこととされたこと,また添い 寝中の授乳により乳房で窒息死する危険性を指摘する育児書が 12 冊あったことからも,添い寝の危険性を 喚起する新聞記事と一致し,社会問題となっていた。
20 冊の育児書の検討から,適当とされた離乳開始時期は 5 ヶ月頃からが 3 冊,10 ~ 12 ヶ月が 4 冊,もっ とも遅いのは 2 ~ 3 年だった。時代による離乳期の特徴は特にみられなかった。離乳時期は遅く 4 ~ 5 歳児 への授乳,特に末子は 5 ~ 6 歳まで授乳するケースもあった。授乳は母親にとって休息がとれる貴重な時間 であり,それが遅い離乳の要因の一つだった。
母子健康手帳では添い寝が否定されたが,現実には多くの母親は添い寝をしていた。育児における民俗知 と文字知にはズレがみられる。1985 年に『育児読本』が大幅改訂され,これまで否定されていた添い寝が,
親子のスキンシップとして奨励されるように変化した。
【キーワード】添い寝,授乳,乳房,窒息,住宅不足
宮内貴久
MIYAUCHI Takahisa
新聞記事と育児書を中心に
[論文要旨]
はじめに
❶寝ている間に小さな子供が窒息死する事件は,
ほんとうにあったのか?
❷戦前にも狭小住宅で事故があったのか?
❸戦前,添い寝で乳児,幼児を窒息死させる事故 はあったのか?
❹どのような事故が発生しているのか?
❺なぜ乳房で死ぬのか?
❻いつ事故が起こるのか?
❼何歳が多いのか?
❽育児書における添い寝と授乳
❾育児書における授乳期間 戦後の添い寝と授乳 現代の添い寝は?
おわりに