市民生活の安全安心を目指した 除染ロボットシステムの研究開発
1. はじめに
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災に 伴い東京電力福島第一原子力発電所事 故が発生した.1 号機から 3 号機まで の建屋ではメルトダウンが起きている とされ,とくに 1 号機と 3 号機建屋の 爆発および 4 号機建屋の火災により放 射性物質が広く拡散した.これにより 福島県内を中心とし,隣県や関東まで が汚染される結果となった.
事故直後,福島県内では原発中心部 から南北に高い空間放射線量が記録さ れた.現在までにそれら都市部の放射 線量は事故直後の 20 分の 1 以下まで 低下し,市民生活は表面上,落ち着い てみえるが,その放射線値は事故前の 平常時を超えている.低線量の長期間 被曝の影響はまだ明らかにされておら ず,被曝量を極力抑えることが強く望 まれている.
2. 放射性物質除去を目的とした 除染活動と除染方法
事故直後より民間人ボランティアな どにより子どもたちの通学路などの動 線を中心とした除染作業が精力的に実 施されてきた.ここで,路面表面線量 を十分に下げるためには長時間の作業 が必要である.加えて,周辺の家屋や 樹木などからの放射線の影響もあり路 面の除染のみでは空間放射線量が低下 しない.このため,民間人ボランティ アのみによる除染は次第に継続困難と なってきた.
一方で,2011 年 11 月に政府が年間 被曝線量 1mSv 以上の地点を除染する と発表したことを受け,行政機関主導 での調査・除染作業が進められてい る.これはあらかじめ実施される線量 調査を受け,対象となる地域の家屋を 委託された事業者が除染する形式であ る.このため,除染作業の進捗や除染 効果は事業者の作業方法に大きく左右 される結果となった.
福島県郡山市は約 25 000 戸の家屋 を対象とした 2012 年度内の除染計画 を発表した.しかしながら実際の作業 ペースは月に 50 戸程度に留まり,
2013 年 8 月現在も作業は継続されて いる.一般に事業者の作業では作業速 度が重視されるあまり,洗浄作業が完 了した地点においても除染しきれない 領域が斑に残る場合がある.また,前
述のように環境のさまざまな地点から の放射線の影響があるため,作業後の 空間線量が十分に低下せず,年間被曝 線量 1mSv をわずかに下回る程度に留 まるケースも多い.
このような現状から,十分な除染効 果が期待でき,かつ,作業効率も高い 除染方法の確立が急務となっている.
福島県内でも「廃炉・除染ロボット研 究会」を始めとし,さまざまな研究会 やシンポジウムなどが活発に開催さ れ,国などによるファンドが用意され つつある.しかしながら,進行中の技 術開発は主に原子力発電所の廃炉に向 けたものであり,市民の生活空間の除 染に目を向けたものはまだ少ない.
もちろん市民生活のうえでも現在ま でにさまざまな除染方法が提案され試 験されてきた.これらは大きくは放射 性物質を除染面ごと除去する方法,除 染面から遊離させて回収する方法およ び除染面から洗浄する方法に分けられ る.
除染面ごと除去する方法は高い除染 効果が見込めるが,除染面を損傷する.
遊離させる方法は作業時間の短縮が見 込めるが,散布した界面活性剤による 環境汚染に対して策を講じる必要があ る.洗浄する方法は一般的であり市販 装置でも施工可能ではあるが,現状で は効果が高いとは言えない.文部科学 省(以下,文科省)発行の除染作業ガ イドラインでは高圧洗浄による手法を 用いている.筆者らもガイドラインに 従って除染効果を検証したが,実験対 象での除染効果は6割程度に留まった.
3. 複数ロボットを用いた除染ロ ボットシステム
当研究室では市民生活空間のための 除染作業に着目し,高圧洗浄を効果的 に活用する除染システムの開発を進め ている.本システムは除染面を高圧洗 浄する洗浄モジュール(図 1)と,洗 浄モジュールを位置決めする移動モ ジュールからなる.移動モジュールを 換装することにより,路面や屋根面,
壁面などの洗浄を実施する.
本システムは家屋などの生活環境を 対象とするため, 洗浄モジュールの除 染方法において除染面の損傷や環境へ の影響が懸念される手法は避ける必要 がある.そのため,高圧水により洗浄
する手法を用いる.使用する高圧洗浄 装置は市販のものであるが,筆者らの 手法では文科省ガイドラインより高い 8 割〜9 割の除染効果が実現できる(図 2).本手法は高い除染効果をねらう ことから,結果として 1m2の除染に 15min 以上かかることになる.一見冗 長とも思えるが,だからこそロボット 化する意味があると言える.
われわれは複数台の本洗浄ロボット が協調して洗浄する方法も合わせて提 案している.これは 1 台当たりの作業 速度が遅くても,複数台で分担して作 業することで高い洗浄効果を維持した まま作業時間の短縮を実現することが ねらいである.
4. おわりに
福島県はいまだに被災し続けてお り,市民の多くは 1 日でも早く地震前 の平穏な生活に戻りたいと願ってい る.ここで述べた除染作業は数年で決 着がつく問題ではなく,数十年単位で 対処する必要がある.しかし,これを 1 年でも短くするための技術開発も求 められているのが事実である.半ばあ きらめもあって,現在では下火になり つつある市民のための除染作業を本シ ステムで少しでも加速できるようわれ われは努力していきたい.
(原稿受付 2013 年 8 月 27 日)
〔遠藤 央 日本大学〕
図 1 高圧洗浄を用いた除染ロボットシステム
図 2 提案手法による除染効果
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日本機械学会誌 2013. 11 Vol. 116 No.1140 794