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磁場の三次元可視化教材の開発

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Academic year: 2021

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磁場の三次元可視化教材の開発

(理科教育講座・物理学教室)

中本 剛

(新居浜市立中萩中学校)

中野 徹

Development of a teaching material for three dimensional visualization of magnetic field

Go NAKAMOTO and Toru NAKANO

(平成 27 年 7 月 2 日受理)

抄録:A teaching material for three dimensional visualization of magnetic field has been developed to observe magnetic fields generated by various permanent magnets, electromagnets and electric currents. An iron needle is fixed and sealed into a sphere capsule with cocking oil and the capsule is floated in water to rotate freely along the magnetic field. We have succeeded in clear observation of magnetic fields generated by permanent and

electromagnets.

キーワード:磁場(Magnetic field), 可視化(Visualization),教材(Teaching material)

1. はじめに

磁気に関わる物理現象は、小学校以来身近であるにも 係わらず目には見えないために、その本質を捉えにくく 苦手意識を持つ児童・生徒が少なくない。

学習指導要領における磁性に関わる内容としては、小 学校第5学年の「鉄心の磁化,極の変化」と中学校第2 学年の「電流がつくる磁界」がある[1, 2]。

磁場は本来三次元的に空間に存在するものであるが、

教科書では、永久磁石や電磁石が発生する磁場を、鉄粉 を用いて二次元的に観察する方法が多く紹介されている [3, 4]。また、磁場観察用の市販教材も、鉄線を分割した セル入れたものや、回転可能な鉄針や方位磁針を二次元 的に配置したものなど磁場を二次元的に視覚化するもの が殆どである[5]。鉄針や鉄粉をシリコンオイルとともに

透明なアクリル容器に封入した三次元観察が可能な教材 もいくつか存在するが、専用の永久磁石が発生する磁場 の観察にのみ制限され、様々な形状の永久磁石や電磁 石、電流が発生する磁場の観察には対応できない。さら に、使い続けると鉄が磁化されて塊となり、観察が困難 になるという欠点をもつ。また、大阪市立科学館の斉藤 は、大人数用の三次元磁場観察教材を開発している[6,

7]。透明の容器に数cm程度の針金入りのビニール帯を

入れ、それを大型のネオジム磁石の周りに積み上げるこ とによって、永久磁石が発生する磁場を三次元的に描く というものである。空間が磁場の垂直方向に対して分割 されているので、ビニール帯の並進運動が制限され、磁 極近傍にビニール帯が集中することがなく、大人数で観 察できるという利点を持つが、広い空間に強力な磁場を

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164 発生する大型のネオジム磁石が必要であり、学校現場で の準備や保管には困難が伴う。

本研究では,義務教育で扱われる磁性に関わる単元に おいて、様々な形状の磁石や電流が発生する磁場を三次 元的に比較的簡便に学校などの教育現場で観察できる教 材の開発を目的とした。教材開発において不可欠である

「安全性」、「扱いやすさ」、「安価であること」、「手に入 りやすさ」、についても考慮して製作したので、その内容 について報告する。

2. 教材の製作

磁場を可視化するための材料として、一般的には磁場 に対する応答性が高い強磁性体である鉄の粉末や線材を 用いることが多い。磁場の二次元観察においては、方位 磁針に代表されるように、二次元平面内のみでの磁針の 自由な回転を実現すればよいが、磁場を三次元的に観察 するためには、三次元的に自由に針が回転できる機構が 必要不可欠である。さらに、様々な形状の磁石や電流が つくる磁場の観察に対応することも考慮しなければなら ない。本研究では、鉄製の針を食用油とともに球形のプ ラスチック製カプセルに固定・封入し、それを容器内で 水に浮かべることで鉄針の三次元的な自由な回転を実現 した。さらに、その一つ一つの容器を立体的に組み合わ せることで、様々な形状の磁石や電流が発生する磁場の 観察を可能にした。以下に詳しい製作法を述べる。

2-1 回転鉄針の製作

鉄針の製作には長さ38 mm、直径2.2 mmの市販の鉄 釘を用いた。鉄のような強磁性体の磁化のしやすさは、

磁化率の大きさだけでなく、磁性体の形状によっても異 なる。有限の大きさを持つ強磁性体を外部磁場の印加に より磁化した場合、磁化に伴ってその両端に磁極を生 じ、それにより印加磁場とは逆向きの反磁場を生ずる。

そこで釘の両端を尖らせることで反磁場の影響を軽減 し、磁場に対する応答性が向上するようにした。釘の頭 の部分を切り落とし、さらにグラインダーを用いて釘の 両端を尖らせた。長さは、鉄針を固定する球形カプセル の内径に合わせて約26 mmとした。このようにして製 作した鉄針は油や水の中での視認性を上げるために、塗 料で赤色に塗装した。

成形・塗装した釘を図1に示すようにプラスチック製 の球形カプセルの中心軸に沿うように接着剤で固定し た。これは、鉄針が磁場に対して敏感に応答するために は、その重心が球形カプセルの中心近傍に位置する必要 があるからである。

鉄針を固定した球形カプセルの内部には、比重・安全性・

観察のしやすさを考慮して食用油を充填した(図 2)。こ れを水に浮かべて磁場の観察を行う場合、自由な三次元回 転と鉄針の視認性の両方を考えると、カプセルはその殆ど が水中に沈んだ状態が望ましい。このためには、鉄針・油・

球形カプセルを合わせた比重が水のそれよりわずかに小 さい必要がある。今回、鉄針の形状及び用いる食用油を吟 味することで、鉄針・油・球形カプセルを合わせた比重は 0.9となり、水の比重1.0よりわずかに小さく、カプセル 全体がほぼ水中に沈んだ状態でありながら浮かせること に成功した。また、カプセル内を油で満たすことにより、

鉄針の酸化などの経年劣化も防ぐことができる。

図1 球形カプセル中心に固定した鉄針

図2 鉄針を油とともに球形カプセルに固定・

封入した回転鉄針

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165 2-2 観察水槽の製作

次に 2-1 で製作した回転鉄針を水とともに収納し磁場 の観察を行うための観察水槽の製作を行った。透明な塩化 ビニール板を用いた1段9セルからなる観察水槽を12セ ット製作した。この観察水槽の各セルに図3に示すように 回転鉄針を収納し水を満たせば観察の準備は完了である。

永久磁石や電磁石の周りにこの観察箱を配置して磁場を 観察する。格子状のセルに回転鉄針を一つずつ収納するこ とにより、磁場中で鉄針同士が互いに引き合って塊になっ てしまい、磁力線の観察が妨げられるのを防ぐこともでき る。この観察箱を1段のまま平面上に並べて使えば磁場の 二次元観察ができる。立体的に組み合わせることで、様々 な形の磁石や電磁石が発生する磁場の三次元観察が可能 となる。

2-3 制作費と安全性

1段9セルの観察箱12セット及びそれに収納する回転鉄 針100個の製作に必要な費用の目安は表1に示す通りで ある。

表 1 製作に要した材料と費用

材料(数量) 費用

鉄釘(100本) 300円 瞬間接着剤(1本) 500円 球形カプセル(100個) 3,700円 塩化ビニール板(0.6 m2) 1,000円 塩化ビニール板用接着剤 500円 食用サラダ油(1000 g) 300円

合計 6,300円

表1に示すように、本教材は、市販教材に比べても比較 的に安価に制作することができた。製作に必要な材料もホ ームセンターやインターネットの通信販売で購入可能で ある。市販されている磁場を三次元的に観察できる教材の 中には同程度の金額で購入できる物もあるが、本教材に比 べてかなり小型であり、多人数が同時に観察を行うには不 向きである。

理科の観察・実験においては児童・生徒がそれを安全に 実施できる環境を確保しなければならない。それは、観察・

実験の中で取り扱う教材においても同様の安全性が求め られる。本教材において主に使用している材料は、水と食 用油であり、人体に対して害はない。ただし、今回製作し た観察箱には上蓋を設けていないので、電磁石や電流が発 生する磁場を観察する際は、観察箱に充填した水がこぼれ て感電する危険が伴う。実際に学校現場で使用する際は、

これを防ぐために、上蓋を設けることや各観察箱を固定す るなどの水漏れに対する対策を講じる必要がある。

3. 磁場の観察 3-1 二次元観察

まず、永久磁石であるネオジム磁石の周りに、観察箱 を図4のように配置し磁場の二次元観察を行った。点線 は永久磁石が発生する磁場を想定して描いた磁力線であ る。永久磁石から最大25 cm程度離れている鉄針までほ ぼ磁場に応答しており、ネオジム磁石が発生する磁場を 明確に観察することができた。

描いた磁力線と鉄針とを比較すると、ほとんどの鉄針 は磁力線に沿った方向に向いているものの、いくつかの

図3 観察水槽に収納された回転鉄針

図4 永久磁石が発生する磁場の二次元観察

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166 鉄針は応答していないことが判る。特に、線で囲ったセ ル内にある鉄針の向きは、描いた磁力線の向きとは異な る。永久磁石から同程度の距離にある他の鉄針は正常に 応答していることから、回転鉄針に主な原因があると考 えられる。球形カプセルに固定した鉄針の重心位置に個 体差があり、球の中心から重心が大きくずれているため に磁場に対する応答が悪いと考えられる。実際に他の回 転鉄針に入れ替えたところ正常な応答を示した。今後は 回転鉄針の重心位置に個体差が生じないような製作上の 工夫が必要である。

図5に永久磁石近傍を拡大した写真を示す。永久磁石 近傍では磁場が強いために、鉄針は磁場に対して強い応 答を示す。しかし、点線で描いた磁力線に比べて鉄針は 磁力線を滑らかに表していないことが判る。これは、今 回観察に用いた永久磁石の大きさに比べて鉄針が相対的 に大きいために、特に磁極近傍の磁力線の向きが大きく 変化する場所では、滑らかに磁力線を表現できないと考 えられる。これを改善するためには、磁石の形状や大き さに合わせて鉄針の大きさを変える必要がある。鉄針と 球状カプセルをより小型化することによって、磁極付近 の磁力線を滑らかに表すことができるだけでなく、比較 的小さな永久磁石の磁場を観察する際にも役立つだろ う。

次に、図 6 に示すように電磁石の周りに観察箱を配置 し、電磁石が発生する磁場の二次元観察を行った。電磁石

から最大20 cm程度離れた位置の鉄針まで磁場に応答し

ており、電磁石の場合でも磁力線を明瞭に観ることができ た。

しかし、電磁石の場合、永久磁石では応答があった磁極

から25 cm程度離れた枠線で示したような位置では、鉄

針の磁場に対する応答性が悪いことが判る。これは、今回 使用したネオジム磁石の磁束密度1 T程度に比べて、今回 使用した電磁石のそれが小さいからである。教科書で扱わ れている円電流やアルニコ磁石、児童・生徒が自作する電 磁石などの磁束密度は1×10-6 Tから0.1 T であり、今回 使用したネオジム磁石に比べて100万分の1から10分の 1の大きさである。これらが発生する弱い磁場の観察をす るためには、鉄針を磁化させるなどの更なる工夫が必要と 考えられる。

電磁石の磁極近傍を拡大した様子を図7に示す。永久磁 石の観察結果と同様に、磁極近傍では鉄針が磁力線を滑ら かに表していないことが判る。今回用いた電磁石は扁平な 形状を持つため、磁極近傍では磁力線の曲率が大きく磁力 線の向きが大きく変化する。このような磁力線に対して、

図5 永久磁石近傍の磁場の様子

図6 電磁石が発生する磁場の二次元観察

図7 電磁石磁極近傍の磁場の様子

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167 その接線方向を指し示す鉄針が大きすぎるために、滑らか に磁力線を表現できないと考えられる。より滑らかな磁力 線を観察するためには、永久磁石の場合と同じく、観察対 象の形状や大きさに合わせた鉄針を用いることが必要で ある。

3-2 三次元観察

二次元観察で用いた永久磁石と電磁石が発生する磁場 の三次元観察を試みた。

図8に示すように、永久磁石の周りに観察箱を立体的に 配置した。観察箱内の鉄針は永久磁石が発生する磁場を三 次元的に描いており、本教材が磁場を三次元的に観察する のに有効であると言える。

しかし、一方で観察箱の上面や側面から観ることができ る鉄針の中には、永久磁石の近くに位置するにもかかわら ず磁場に応答していないものがいくつか確認された。これ は、回転鉄針の重心が球の中心からずれていた場合、三次 元観察のとき重要となる鉛直方向の回転が二次元観察時 の水平方向のみにおける回転に比べて、より重力の影響を 受けやすいからだと考えられる。回転鉄針の重心が球の中 心からずれているとき、鉛直方向に回転させるには、その 重心を持ち上げるための余分な仕事を行う必要があるた め、磁場に対する応答が悪くなると考えられる。特に三次 元観察の場合には、回転鉄針の重心の調整が重要であると 言える。

次に磁極近傍の磁場の様子を詳細に観察するために、図 9と10のように観察箱を配置した。いずれの場合も、磁 極から磁場が三次元的に広がる様子を明瞭に観察できて いることが判る。

しかし、図9の枠線で示した観察箱の下角の位置にある セルの鉄針は二重に見えていることが判る。これは、塩化 ビニール板の壁によって光が反射・屈折しているためだと 考えられる。これを解決するためには、観察箱角の形状を 曲線状にするなどの対策が必要であろう。

また、図10に示すように、観察箱の上段のセルにおい ても上面から見た場合は鉄針が見えにくい。水を介して見 る鉄針と水面に浮き出たカプセルから水を介さず直接見 る鉄針の見え方とが光の屈折のため異なるからである。こ れは、回転鉄針の比重をより水に近づけることで回転鉄針 全体が水中に存在する状態にすることで改善できると考 えられる。

最後に、図11に示すように観察箱を電磁石の磁極の前 方に配置して磁場の三次元観察を行った。

鉄針の向きから、磁極から磁場が放射状に広がっている 様子が判る。永久磁石と同様、電磁石においても磁場を三

図8 永久磁石が発生する磁場の三次元観察

図9 観察箱側面から見た永久磁石の磁極付近の磁場

図10 観察箱上面から見た永久磁石の磁極付近の磁場

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168 次元的に捉えることができている。

4. おわりに

自由に回転する球状カプセルに鉄針を封入し、それらを 独立したセルに充填することで磁場を三次元的に観察で きる教材の開発を行った。その結果、永久磁石と電磁石に ついて磁場を三次元的に観察することに成功した。

しかし、様々な形状の永久磁石、電磁石、電流が発生す る磁場を三次元的により明瞭に観察するための以下のよ うな課題も明らかとなった。

第一に、回転鉄針の磁場に対する応答性の向上である。

回転鉄針の重心が球形カプセルの中心に一致していない と磁場に対する回転、特に重力の影響を強く受ける鉛直方 向の回転が阻害される。このためには、回転鉄針の重心の 精度良い決定とその個体差を少なくすることが必要であ る。

第二に、弱い磁場に対する回転鉄針の応答性の向上であ る。本稿で紹介した磁場観察は、1 T程度の強い磁場を発 生する永久磁石と電磁石について行った。学校現場でよく 使用されたり扱われたりする永久磁石、電磁石、電流が発 生する磁場および地球磁場の大きさは、これらの10分の 1から100 万分の1である。弱磁場に対する回転鉄針の 応答性の向上は、ひとつめに述べた問題を克服するととも に、鉄針を磁化させた磁針を用いることで可能になると考 えられる。また、このような三次元的に自由な回転が可能 な磁針が製作できれば、地球磁場の伏角の観測にも有効な 教材となり得ることが期待される。

第三に、回転鉄針の大きさの検討である。観察に用いる 磁場発生源の形状に適した大きさの回転鉄針を使用する

ことで、磁力線をより滑らかに描くことができ、様々な磁 場の詳細な観察が可能となる。

最後に、鉄針の視認性を上げるための観察箱の構造の改 良である。様々な方向から磁場を観察する場合、光の屈折・

反射によって鉄針が見えにくい位置が存在することが明 らかとなった。箱の角を曲面にすること、回転鉄針の比重 を水により近づけることが解決策として考えられる。

今後は以上のような点の改良をさらに進めていき、教 育現場でより有効に活用できる教材に高めていきたい。

参考文献

[1] 文部科学省, 小学校学習指導要領解説 理科編,2008,

pp.25-26,pp.47-48,pp.59-60.

[2] 文部科学省,中学校学習指導要領解説 理科編,2008, pp.33-38.

[3] 日高 敏隆他,みんなと学ぶ小学校理科5年,2013,

学校図書株式会社,p. 59. など.

[4] 岡村 定矩、藤嶋 昭他,2012,新しい科学2年,東京 書籍株式会社,pp. 164-166. など.

[5] 株式会社ナリカHP (http://www.rika.com/)

[6] 斉藤 吉彦,超電導現象を含む磁力線ダイナミクスの 大型演示,物理教育,2008, 第56巻第2号,pp. 111-116.

[7] 斉藤 吉彦,超伝導の磁場を観察するサイエンスショ ー,物理教育,2011, 第59巻第1号,pp. 22-23.

図11 電磁石の磁極付近の磁場

参照

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