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バイリンガルの単語認知過程における語彙・概念構 造の比較研究

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(1)九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository. バイリンガルの単語認知過程における語彙・概念構 造の比較研究 榊, 祐子. https://doi.org/10.15017/1441005 出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(心理学), 課程博士 バージョン: 権利関係:Fulltext available..

(2) バイリンガルの単語認知過程における 語彙・概念構造の比較研究. 九州大学大学院人間環境学府 行動システム専攻 3HE08023S 榊 祐 子.

(3) 目次. 序 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第一章. 歴 史 的 考 察 1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10. 1 . バ イ リ ン ガ ル の 単 語 認 知 過 程 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 1 - 1 - 1 . 単 語 認 知 モ デ ル の 変 遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 1 - 1 - 2 . 共 有 説 の 発 展 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 1 - 1 - 3 . 概 念 共 有 説 か ら 発 達 仮 説 へ の 展 開 ・・・・・・・・・・16 1 - 1 - 4 . 非 対 称 モ デ ル の 提 案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 1 - 2 - 1 . 単 語 認 知 過 程 に お け る 概 念 シ ス テ ム ・・・・・・・・21 1 - 2 - 2 . 概 念 表 象 の 構 造 化 に 影 響 す る 要 因 ・・・・・・・・・・24. 第二章. 歴 史 的 考 察 2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27. 2 . 2 つ の 言 語 が 単 語 認 知 処 理 と 概 念 構 造 に 与 え る 影 響 ・・28 2 - 1 - 1 . 言 語 間 の 親 近 性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 2 - 1 - 2 . 系 統 論 的 観 点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 2 - 1 - 3 . 類 型 論 的 観 点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 2 - 1 - 4 . 言 語 間 の 親 近 性 と 単 語 認 知 過 程 ・・・・・・・・・・・・36 2 - 1 - 5 . 言 語 間 の 親 近 性 と 概 念 構 造 ・・・・・・・・・・・・・・・・39 2 - 2 - 1 . 第 2 言 語 の 習 得 レ ベ ル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 2 - 2 - 2 . バ イ リ ン ガ ル と は 何 か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 2 - 2 - 3 . バ イ リ ン ガ ル の 種 類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 2 - 2 - 4 . 第 2 言 語 の 習 得 レ ベ ル の 測 定 尺 度 ・・・・・・・・・・49. 2.

(4) 2-2-5.第2言語の習得レベルからみた バ イ リ ン ガ ル の 語 彙 ・ 概 念 構 造 ・・・・・・・・・・・・・50 2 - 3 . こ れ ま で の 研 究 の 問 題 点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53. 第三章. 実験的研究1. 語彙-概念レベルにおける 単 語 認 知 過 程 の 検 討 ・・・・・・・・・・・・・・55. 3 - 1 . 語 彙 - 概 念 レ ベ ル に お け る 単 語 認 知 過 程 の 検 討 ・・・・56 3-2.実験的考察1:語彙表象の競合の検証 ( 日 本 語 - 英 語 バ イ リ ン ガ ル ) ・・・・57 3-3.実験的考察2:語彙表象の競合の検証 ( 日 本 語 - 韓 国 語 バ イ リ ン ガ ル ) ・・65 3-4.実験的考察3:翻訳方向の非対称性の検証 ( 日 本 語 - 英 語 バ イ リ ン ガ ル ) ・・・・73 3-5.実験的考察4:翻訳方向の非対称性の検証 ( 日 本 語 - 韓 国 語 バ イ リ ン ガ ル ) ・・85 3-6.語彙-概念レベルにおける単語認知過程の. 第四章. 実験のまとめ. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101. 実験的研究2. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105. 概念レベルにおける単語認知過程の検討 4-1.概念レベルにおける単語認知過程の検討. ・・・・・・・・・106. 4-2.実験的考察5:カテゴリー群化の検証 ( 日 本 語 - 英 語 バ イ リ ン ガ ル ) ・・・・109. 3.

(5) 4-3.実験的考察6:カテゴリー群化の検証 ( 日 本 語 - 韓 国 語 バ イ リ ン ガ ル ) ・・・・・・・116 4 - 4 . 概 念 レ ベ ル に お け る 単 語 認 知 過 程 の 実 験 の ま と め ・・・ 130. 第五章 5-1.. 総 合 的 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132 これまでのバイリンガルの単語認知過程における 語 彙 ・ 概 念 構 造 モ デ ル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133. ・・・・133. 5-2.. 言語間の親近性と第2言語の習熟度という要因. 5-3.. 語 彙 - 概 念 レ ベ ル に お け る 語 彙 表 象 の 競 合 ・・・・・・・・・135. 5-4.. 語 彙 - 概 念 レ ベ ル に お け る 翻 訳 方 向 の 非 対 称 性 ・・・・・137. 5-5.. 概念レベルにおける単語認知過程. 5-6.. 言語間の親近性・第2言語の習熟レベルと 言語表記の問題. 引用文献. ・・・・・・・・・・・・・・・・139. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・143. 付録. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157. 謝辞. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・161. 4.

(6) 図表目次 第一章 図1-1. 単語連合モデルと概念媒介モデル. 図1-2. 概念表象と語彙表象の非対称モデル. 図1-3. 活性化拡散モデルにおける意味ネットワーク. 第二章 表2. 諸言語からみた単語の規則的対応. 図2-1. 日本語の左分かれ図. 図2-2. 英語の右分かれ図. 図2-3. バイリンガルのペナント型定義幅. 図2-4. 複合バイリンガリズムと等位バイリンガリズム. 図2-5. 二重・平衡・偏重バイリンガリズム. 第三章 表3-1. 実験1に用いられた6課題. 図3-1. 日英群における平均反応時間. 図3-2. 日韓群における平均反応時間. 図3-3. ストループ干渉における階層モデル. 表 3-2. 刺激の選定に用いた3基準. 表3-3. 実験3に用いられた8課題. 図3-4. 日英群における平均音読時間. 図3-5. 日英群における平均翻訳時間. 図3-6. 日韓群における平均音読時間. 5.

(7) 図3-7. 日韓群における平均翻訳時間. 図3-8. 日英-低習熟度群における翻訳過程の階層モデル. 図3-9. 日英-高習熟度群における翻訳過程の階層モデル. 図3-10. 日韓群における翻訳過程の階層モデル. 第四章 表4-1. 日 英 群 に お け る カ テ ゴ リ ー 群 化 の 程 度 (MRR)と 再 生 数. 表4-2. 日 韓 群 に お け る カ テ ゴ リ ー 群 化 の 程 度 (MRR)と 再 生 数. 図 4-1. 日英群の概念構造のモデル. 図 4-2. 日韓群の概念構造のモデル. 6.

(8) 序. 国際化の波によって,帰国子女など二つの言語を操ることのでき る バ イ リ ン ガ ル は 増 加 傾 向 を 示 し て い る 。 そ れ に 伴 い , 彼 (女 )ら が どのように二つの言語を理解しているのか,さらに言語が異なれば 人間が持つ認識も異なってくるのか,あるいはどんな言語や文化に もかかわらず普遍的な概念システムは存在するのかという問題が心 理学的視点から議論されてきた。 言語や文化の違いがイメージや認識といった認知機能にどのよう な影響を与えるのかという問題に対して,心理学では,単語や文を 実験材料として言語理解や習得のプロセスについての検証が試みら れてきた。これまで英語を中心とした様々な言語のバイリンガルを 対象とした研究が行われてきた。しかしながら言語の起源をや文法 構造を共有する言語を話すバイリンガルと,全く異なる文法構造や 文字形態を使用するバイリンガルを同等に扱うことが出来るのか, あるいはそのような要因に関わらず,共通した認知構造があるのか といった問題は未だ解決されていない。 また,第2言語の習熟度が高くなるにつれて,言語システムはど のように変化しているのかという問題については,これまで単語の 形態,音韻,意味レベルでの処理モデルや,語彙レベルと概念レベ ルでの関連性のモデルなど様々な認知過程のプロセスが検討されて きた。 そこで,本研究ではバイリンガルが習得した言語がどのような祖 語から派生した言語なのか,あるいは文法構造に類似点が見られる のかどうかといった言語学的要素などから,バイリンガルが習得し. 7.

(9) た言語間の関連性に注目した。関連性の高い言語と低い言語を話す バイリンガルに対して,これまで提案されてきた単語処理モデルが 適用されうるのか,新たな処理モデルが必要となるのか検証する。 また,バイリンガルの第2言語の習熟度についても,初級レベル から第1言語と同等に話せるレベルの段階まで,習得段階には大き な違いがある。習熟度の違いによって,2つの言語システムの関係 性や体系化に変化が見られるのかどうかという点についても明らか にする。さらに単語を刺激として,語彙レベルでの課題や内的表象 の体系化に関する課題を設定することで,様々な処理レベルから単 語認知過程を検証し,単語構造のより詳細な検討を試みる。 具体的には,バイリンガルが習得した2つの言語間の系統的,類 型的関連性が言語理解や概念構造にどのように影響を及ぼすのか, さらに第2言語を習得していく過程において,言語システムや概念 構造がどのように変遷していくのか実証的に研究していくことを目 的とする。そこで系統論的観点,類型論的観点から親近性の高いと 考えられる言語(日本語-韓国語)のバイリンガルと親近性の低い と考えられる言語(日本語-英語)のバイリンガルの認知構造につ いて比較検討を試みる。 第一章では,新しい言語を習得するとき,単語情報が処理される プロセスや,単語の語彙や概念表象がどのように構造化されている のか,それらのモデルについてこれまでの研究を概説する。単語認 知モデルの変遷や概念構造に影響する要因についても概説する。 第二章では,第1言語と第2言語の親近性が言語処理や概念構造 に及ぼす影響と,第2言語の習得レベルによって語彙や概念構造が どのように変化するのかという2つの問題について,最近までの研. 8.

(10) 究を概観する。 第三章では,実験的研究として,上に示した言語間の親近性と第 2言語の習熟度という2つの要因からバイリンガルの単語認知過程 を明らかにする。親近性の高い言語と低い言語を話すバイリンガル を設定し,語彙-概念レベルが関わる課題を用いる。これまでの単 語処理モデルが適用されるのか検証し,必要であれば新たな処理モ デルを提案する。さらに,習熟度の違いによって,2言語の単語認 知処理や概念構造が変化するのか明らかにする。 第四章では,単語認知過程を詳細に検証するため,より深いレベ ルに位置する概念システムでのカテゴリーの構造化について実験を 行なう。日英バイリンガルと日韓バイリンガルを対象とし,言語間 の親近性と第2言語の習熟度が概念構造に与える影響を検討し,概 念表象のモデルを提案する。 第五章は総合的考察を行なう。単語処理レベルの異なる一連の課 題に対して,上記の2つの要因がどのように関係するのか,これま で提案されてきた単語認知モデルの検証と修正モデルの必要性につ いて説明する。さらに,バイリンガルの単語認知過程についての今 後の展望についても述べる。. 9.

(11) 第一章 歴史的考察1. 10.

(12) 1. バイリンガルの単語認知過程. 本章では異なる言語を習得したバイリンガルがどのように単語を 処理しているのか,単語認知過程のプロセスについて説明する。2 つの言語の語彙と概念がどのように関連し合っているのか,概念は どのように構造化されているのか,これまでの研究を概観する。. 1-1-1. 単語認知モデルの変遷. バイリンガルの単語がどのように表象され,貯蔵されているのか という問題は,バイリンガル研究の長年の研究対象とされてきた。 単 語 は 形 態 ( 綴 り ) や 音 韻 ( 発 音 ), 意 味 な ど の 情 報 に 分 類 さ れ , 貯 蔵 さ れ て い る ( L e v e l t , 1 9 8 9 , 1 9 9 3 )。 形 態 情 報 や 音 韻 情 報 と い っ た 単 語 の 表 層 形 式 は 語 彙 表 象 と し て ,単 語 の 意 味 や イ メ ー ジ な ど よ り 抽 象 的 な 情 報 は 概 念 表 象 と し て ,2 つ の 表 象 レ ベ ル に 分 け ら れ る (De Groot, 1983)。 このような2つの表象レベルにおいて,第1言語と新たに習得し た 第 2 言 語 の 概 念 表 象 の 関 係 性 に つ い て は , coordinate model と compound model の 2 つ の 仮 説 が 主 張 さ れ , プ ラ イ ミ ン グ 課 題 や 連 想 課 題 , 語 彙 判 断 課 題 な ど を 用 い た 検 証 が 行 わ れ て き た (Weinreich, 1953; Ervin & Osgood, 1954)。 Coordinate model は , バ イ リ ン ガ ルの2つの語彙表象は独立し,それぞれの言語に独立した記憶シス テムが存在するという仮説である。語彙表象の直接的連結によって 2 つ の 言 語 は 結 び つ い て い る と い う 独 立( i n d e p e n d e n c e )説 で あ る 。 このモデルでは,言語ごとに固有の概念表象が独立して存在し,2. 11.

(13) つの言語の語彙表象からそれぞれの言語に対応する概念表象が活性 化 さ れ る (Kolers, 1963; Kolers & Gonzalez, 1980; Gerard, Linda & S c a r b o r o u g h , 1 9 8 9 ) 。例 え ば , 「 家 」と い う 単 語 を 思 い 浮 か べ た 時 , 日本の家は瓦屋根で覆われ,畳が敷かれた部屋というイメージが想 起される。それに対して,アメリカの家は,広い庭があり,板張り の床といった,習慣や文化に合わせたイメージが喚起される。 も う 1 つ の c o m p o u n d m o d e l で は ,語 彙 シ ス テ ム は 独 立 し て 存 在 す るが,概念知識は共通である。共通の概念システムを介して2つの 言 語 は 結 び つ い て い る と す る 共 有( i n t e r d e p e n d e n c e )説 で あ る 。こ の仮説では,概念表象は2つの言語で共有しているため,各言語の 語 彙 入 力 は 共 通 の 概 念 表 象 に ア ク セ ス す る (Chen & Ng, 1989; Potter, Eckardt & Feldman,1984; Kroll & Stewart, 1994; Durgunoglu & R o e d i g e r , 1 9 8 7 ) 。バ イ リ ン ガ ル の 記 憶 構 造 は 2 つ の 異 な る 表 象 レ ベ ルが階層的に関連し,2つの言語は異なる語彙記憶システムに,概 念は2つの言語に共通した抽象的記憶システムに貯蔵される。つま り ,日 本 語 と 英 語 の 場 合 , 「 家 」に つ い て の 音 韻 や 綴 り な ど 語 彙 レ ベ ルでの情報は異なるが,イメージとしては屋根があり,人が住むと いった共通の概念表象が想起されることになる。 バイリンガルの2言語の語彙情報の貯蔵形態に対するこれらの仮 説の妥当性については,実験で用いられる課題によって支持される 仮説が異なり,一貫した結論には達していない。語彙判断課題や単 語完成課題といった,言語の語彙表象レベルでの処理に関連する課 題 は , 独 立 説 を 支 持 す る (Gerard & Scarborough, 1989) 。 一 方 , 再 生課題など,意味や概念処理を必要とする課題では,共有説に適合 す る 結 果 が 得 ら れ て い る (Paivio, Clark & Lambert, 1988) 。 現 在. 12.

(14) のところは,語彙表象は2言語で独立し,それぞれの言語に対応す る概念表象は共通しているという共有説に基づいた階層構造モデル が 浸 透 し て い る (Kroll. &. Sholl,. 1992;. Kroll,. Michael. &. S a n k a r a n a r a y a n a n , 1 9 9 8 ; H e r e d i a , 1 9 9 7 )。. 1-1-2. 共有説の発展. 2つの言語に共通の概念システムがあるという共有説を発展させ, バ イ リ ン ガ ル の 単 語 処 理 モ デ ル の 先 駆 的 研 究 を 行 っ た の が ,P o t t e r , So, Von Eckaradt & Feldman(1984)で あ る 。 Potter ら (1984)は , 2 つの言語が共通の概念表象にどのようにアクセスしているのか,そ のプロセスについて,単語連合モデル. (word association model). と 概 念 媒 介 モ デ ル ( concept mediation model) の 2 つ の 仮 説 を 提 案 し た (図 1 - 1 参 照 )。 こ の 2 つ の 仮 説 に つ い て , 以 下 に 説 明 す る 。 単 語 連 合 モ デ ル (word association model)で は , 2 つ の 言 語 は 語 彙レベルで直接結びつきを持ち,第 1 言語の語彙表象のみが概念レ ベルとつながりを持つ。第2言語は第1言語を通じて概念表象を活 性化することができる。つまり,第2言語の意味を理解する場合, まず,語彙レベルで第 1 言語の翻訳同義語に訳し,概念表象にアク セスするというプロセスを経る。日本語を第 1 言語,英語を第2言 語とした場合, 「 house」と い う 単 語 は , 「 家 」と い う 第 1 言 語 を 通 じ て,その概念を活性化することが可能となる。 概 念 媒 介 モ デ ル ( concept mediation model) で は , 第 2 言 語 は 第 1言語と直接結びつきは持たず,2言語に共通した概念システムと 直接結びついている。そのため,第2言語の単語は概念に直接アク. 13.

(15) セスすることができる。 「 h o u s e 」 と い う 単 語 か ら で も ,「 家 」 と い う 単語からでも,それらの概念表象は喚起されることになる。 こ れ ら の モ デ ル の 妥 当 性 を 検 証 す る た め に ,P o t t e r ら ( 1 9 8 4 ) は 2 言語間の翻訳課題と絵の命名課題を比較する実験を行なった。それ ぞれのモデルについての予想は次のようなものであった。単語連合 モデルでは,第2言語は第 1 言語と語彙レベルでの結びつきを持つ が,概念システムとは直接的なつながりは持たない。そのため,第 1言語から第2言語への翻訳課題では,語彙的結びつきにより行わ れる。一方,第2言語で絵の命名課題では,絵のイメージから概念 表象,第1言語の単語の検索を経て第2言語での発話というプロセ スをとる。これら2つの処理過程の違いから,第2言語での単語の 翻訳より絵の命名課題の方が時間を要すると予測される。 それに対して,概念媒介モデルでは,第1言語の単語,第2言語 の単語とも概念システムと直接連合している。第1言語から第2言 語への翻訳は第1言語の単語の認知,概念表象の検索,第2言語で の発話というプロセスとなるのに対し,絵の命名課題は,絵のイメ ージの認知,概念表象の検索,第2言語での発話というプロセスを とる。したがって,単語の翻訳課題も絵の命名課題に要する時間は 変わらないという仮説が成り立つ。実験の結果,第2言語への翻訳 と第2言語における絵の命名時間はほぼ等しかったことから,概念 媒介モデルが支持された。. 14.

(16) 単語連合モデル. 概念媒介モデル. 図1-1. 単語連合モデルと概念媒介モデル. ( adopted from Potter, So Von Eckaradt & Feldman, 1984). 1. 1. L1 は 第 1 言 語 , L2 は 第 2 言 語 を 示 す . 15.

(17) 1-1-3. 概念共有説から発達仮説への展開. Potter ら ( 1984) の 研 究 で は , 概 念 媒 介 モ デ ル を 支 持 す る 実 験 結 果が得られた。言語学習者が第2言語の新しい単語を習得するプロ セスを語彙と概念レベルの関係からみると,言語熟達のレベルによ って,語彙と概念の2つの関係性は変遷することが考えられる。こ れ が 発 達 仮 説 ( developmental hypothesis) で あ る 。 第 2 言 語 の 習 熟 度 が 低 い 段 階 で は , 第 2 言 語 の 語 彙 も 少 な く ,概 念表象も蓄積されていない。そのため,第2言語の新しい単語は, 翻訳同義語である第1言語の単語を通じて意味を理解し,習得が可 能となる。つまり,第2言語習得の初期段階では,単語連合モデル に基づく単語理解システムを適用しているといえる。 第2言語の熟達が進むと,第1言語の翻訳同義語を介さずとも, 第2言語から直接概念レベルにアクセスし,概念表象が活性化され るようになる。第1言語からも第2言語からも概念表象との結びつ きが形成されるという概念媒介モデルによる単語理解システムが考 えられる。第2言語の習得レベルによって,単語と単語のつながり から概念への直接的な結びつきへの発達的シフトがみられ,単語連 想モデルから概念媒介モデルへ移行するという見解がとれる。 この発達モデルを支持する研究は多く,英語を中心として,第2 言語の習熟レベルが異なる対象者を設定し,新しい単語がどのよう に学習されるのか,ストループ課題や単語の命名課題等により検証 さ れ て い る 。 Chen & Leung(1989)は 中 国 語 と 英 語 の 習 得 プ ロ セ ス に ついて,大学生を熟達群,小学生を初心者群として絵の命名課題と 2言語での翻訳課題を実施した。その結果,初心者群は第1言語で. 16.

(18) ある中国語を介した翻訳が行われ,単語連合説を支持した。熟達群 では,第2言語での絵の命名と翻訳課題の時間が等しくなり,第2 言語と概念の結びつきが形成されている概念媒介モデルによる単語 構造となっていた。 Chen & Ho (1986)も ま た 中 国 語 と 英 語 を 用 い て , ス ト ル ー プ 課 題 に よ る 検 証 を 行 な っ た 。 実 験 参 加 者 は 英 語 ( L2) の 習 熟 度 が 異 な る 小学生,中学生,高校生,大学生であった。英語の習熟度が高くな ると,第2言語でインクの色を答える場合,第1言語の単語よりも 第2言語の色名単語の方がストループ干渉は強くなるという結果が 示された。つまり,第2言語の熟達に伴い,第2言語の単語が概念 に直接アクセスし,単語処理を行っていることが明らかとなった。 日 本 語 と 英 語 を 対 象 と し た も の と し て は , 川 上 ( 1994) の 実 験 が ある。中学生,高校生,大学生に英語のプライミング課題を行った 結果,第2言語の習熟度がもっとも高い大学生群では,プライミン グによる意味的促進効果がみられたのに対して,中学生群,高校生 群ではその効果は生じなかった。英語の初級学習者と上級学習者で は,異なる単語処理のプロセスを経ることが示唆された。 これらの研究は,第2言語の熟達に伴い語彙表象と概念表象の結 び つ き は 変 化 し , 単 語 連 合 モ デ ル か ら 概 念 媒 介 モ デ ル へ と シ フ ト す る こ と を 示 す 。発 達 仮 説 を 支 持 す る 研 究 は 他 に も み ら れ( C h e n & Ng, 1989;. 苧 阪 , 1 9 9 0 ), 3 つ の 言 語 を 用 い た 実 験 で も , 習 熟 度 の. 違 い に よ り 単 語 処 理 が 変 化 す る こ と が 示 さ れ て い る (De Groot & Hoeks, 1995; De Groot & Poot, 1997). 17.

(19) 1-1-4. 非対称モデルの提案. バイリンガルの言語はどのように構造化されているのかという論 争については,共有説,つまり,2つの独立した語彙システムとそ れらに共通した概念システムを持つという説が発展を遂げた。さら に,共有説を第2言語の習得のプロセスにあてはめてみると,単語 連合モデルから概念媒介モデルへと変遷するという発達仮説が支持 さ れ た 。 こ の 主 張 を 受 け , Kroll & Stewart(1994)は , 新 た な 概 念 表 象と語彙表象の階層モデルを提案した。このモデルは,バイリンガ ルの語彙・概念構造において,2言語間の語彙的結びつき,ならび に語彙表象と概念的表象との強さが異なり,翻訳の方向の非対称性 を主張していることが特徴である。翻訳の非対称性は,第1言語か ら第2言語への翻訳は概念を介したルートで行われるのに対して, 第2言語から第1言語への翻訳は語彙的結びつきが強いことにより 生 起 す る と 仮 定 さ れ て い る ( 図 1 - 2 参 照 )。 K r o l l & S t e w a r t ( 1 9 9 4 )が 翻 訳 方 向 の 非 対 称 性 を 検 証 し た 実 験 は , 以下のようなものである。刺激リストとして,果物や乗り物など, 同じカテゴリーの項目から構成されたカテゴリーリストと,いくつ かのカテゴリーの項目から構成されたランダムリストを2言語(英 語,オランダ語)で準備した。翻訳課題を実施した結果,第1言語 から第2言語への翻訳の方が,第2言語から第1言語への翻訳より も反応時間が長く,カテゴリーリストの方がランダムリストよりも 時間を要していた。しかし,第2言語から第1言語への翻訳ではリ ストによる翻訳時間の違いは見られなかった。これは,第1言語か ら第2言語への翻訳は,第1言語の語彙システムから概念システム. 18.

(20) 図1-2. 概念表象と語彙表象の非対称モデル (Kroll and Stewart, 1994). 19.

(21) へのアクセス,同じカテゴリー項目の概念表象の活性化,翻訳同義 語に対応する概念表象の検索といったプロセスをとること示したも の で あ る 。カ テ ゴ リ ー リ ス ト が 呈 示 さ れ る と ,果 物 カ テ ゴ リ ー の“ り ん ご ”,“ ミ カ ン ”,“ も も ” と い っ た 項 目 が 活 性 化 さ れ , そ の 中 か ら 一つだけ翻訳同義語として適切な項目を選択しなければならない。 そのために概念システムでカテゴリー干渉が生じると主張している。 一方,第2言語から第1言語への翻訳は,そのような効果は見られ なかったことから,第2言語と概念表象のリンクは相対的に弱いこ とが示唆された。 これらの結果から,第1言語から第2言語への翻訳は概念表象の 活性化によるルートがとられるのに対して,第2言語から第1言語 の翻訳は概念表象の影響は弱く,語彙レベルでの直接的経路により 行 わ れ る こ と が 示 唆 さ れ た( K r o l l & S t e w a r t , 1 9 9 4 ; K r o l l & C u r l e y , 1 9 8 8 )。 こ の モ デ ル は , Kroll & Stewart(1990)の 実 験 で , 第 2 言 語 の 発 達 的見解から次のように説明された。第2言語の単語を獲得する段階 で ,す で に 第 1 言 語 の 心 内 辞 書 は 概 念 と 強 い 結 び つ き が あ る 。 第 2 言語の初期の学習段階では,第2言語は第1言語と語彙的に結びつ い て い る が ,習 熟 度 が 高 く な る と ,概 念 と の 結 び つ き も 獲 得 さ れ る 。 その結果,第2言語の習得段階で各システム間の結びつきの強さに 差 が 生 じ る 。 つ ま り ,第 1 言 語 か ら 第 2 言 語 で は 概 念 的 結 び つ き が 強いが,第2言語から第1言語へは語彙的結びつきがより強いため に翻訳の非対称性が生じるのである。. 20.

(22) 1-2-1. 単語認知過程における概念システム. では,2つの言語の概念表象はどのように貯蔵されているのだろ うか。語彙レベルと概念レベルの関係性については,上述のように さまざまなモデルが提案されてきた。概念レベルにおいて,単語の 持つ意味や知識の体制化は,言語活動や思考を行なう上で重要な役 割を持つ。概念構造での体系化により内的表象は整理され,多くの 貯 蔵 が 可 能 と な る 。 日 本 語 で は ,“ り ん ご ” や “ ミ カ ン ” は “ 果 物 ” というカテゴリーに属する。それに対して,英語の果物カテゴリー にはどのような項目が含まれるのかといった概念表象の体系化は言 語間で異なる可能性がある。 概 念 表 象 や そ の 構 造 に 関 す る 問 題 は ,1 9 6 0 年 代 後 半 か ら 記 憶 研 究 において検討されてきた。概念に関する代表的なモデルとして,ネ ットワークモデルと集合論的モデル の2つのモデル が挙げられる (Collins & Quillian, 1969; Collins & Loftus, 1975; Smith, Shoben & Rips, 1974)。 ネ ッ ト ワ ー ク モ デ ル は Collins & Quillian( 1969) が 階 層 的 ネ ッ ト ワ ー ク モ デ ル ( hierarchical network model) と し て 提 唱 し た も のである。概念はカテゴリーの包含関係から階層構造をなし,それ ぞれの概念はノードとして表わされ,各ノードはリンクを通じて相 互 に ネ ッ ト ワ ー ク を 形 成 す る 。 こ の モ デ ル は , Collins & Loftus ら ( 1975) に よ っ て 活 性 化 拡 散 モ デ ル へ と 発 展 し , 概 念 表 象 は 階 層 構 造 で は な く , 概 念 や 属 性 の 意 味 的 関 連 性 (semantic relatedness)に 基づくネットワーク構造が構築されていることが提案された。単語 が呈示されると,それに対応する概念表象が活性化し,意味的関連. 21.

(23) 性を持つ他の概念表象へと活性化が伝播していくと考えられている。 一方,集合論的モデルでは,概念は意味的特性の集合によって表 象 さ れ る 。 Smith ら (1974)は , 概 念 表 象 は カ テ ゴ リ ー を 定 義 す る 特 性 の 集 合 か ら 構 成 さ れ る こ と を 仮 定 し た 特 性 比 較 モ デ ル (feature comparison model)を 発 表 し た 。概 念 の 意 味 的 特 性 は ,カ テ ゴ リ ー を 定 義 す る と き の 重 要 性 に よ っ て , 定 義 的 特 性 (defining feature)と 性 格 的 特 性 ( characteristic feature) の 2 つ に 分 類 さ れ る 。 定 義 的特性は,カテゴリーの対象にとって,基本的な特性であり,概念 を区別するために必要とされる本質的特徴である。それに対して, 性格的特性は,カテゴリーでは必ずしも必要とせず,付随的な特徴 で あ る 。例 え ば , “ ト リ ”と い う 概 念 の 定 義 的 特 性 は , “ 生 物 で あ る ”, “ 羽 が あ る ” ,“ 翼 が あ る ” な ど で あ り , 性 格 的 特 性 と し て は ,“ 飛 ぶ”などが挙げられる。 集合論的モデルと類似した2言語の概念モデルとしては,概念特 徴 分 散 モ デ ル ( distributed conceptual feature model ) が あ る 。 De Groot が 1992 年 に 発 表 し た も の で あ る が , こ の モ デ ル で は , 概 念はいくつかに分散した概念特徴から構成され,バイリンガルが習 得した2言語間で概念特徴を共有していると提案している。形態, 意 味 的 情 報 が 類 似 し た 同 根 語 ( cognates) や 具 象 語 は 非 同 根 語 や 抽 象語よりも,概念特徴の数が多い。2言語間で共有する概念特徴も 広く渡っていることから,単語認知処理も速くなることが示されて い る ( Kroll &. D e G r o o t , 1 9 9 7 )。 概 念 が い く つ か の 構 成 要 素 の 集. 合から成り立つと捉えている点が,集合論モデルの特徴と重なって いるといえる。 このように,2言語の概念表象の構造については,いくつかのモ. 22.

(24) デルに基づいた議論があるが,2つの言語を習得していく段階で, それぞれの単語の持つ概念の体系化に変化はみられるのだろうか。 様々な事象を再生するとき,知覚的特徴や属性による体制化が利用 される。この体制化の現象はカテゴリー化と呼ばれ,個々の事象の 認知にかかる負担を軽減し,効率的な処理を可能にする。内的表象 がどのようにカテゴリー化されているのかという問題は,カテゴリ ー 群 化 課 題 と い う 実 験 パ ラ ダ イ ム で 検 証 さ れ て き た ( Bousfield, 1953; Robbins & Nolan, 2000)。 既 有 知 識 の 体 制 化 に よ り , 自 由 再 生課題で同じカテゴリーに属する項目や類似した属性を持つ項目が 連続して再生されやすいという現象がカテゴリー群化である。 第2言語を習得するプロセスで,2言語間のカテゴリー群化の様 相 が 異 な る こ と は 既 に 知 ら れ て い る (Nott & Lambert, 1968; Lambert, Ignatow & Krauthamer, 1968; Dalrymple-Alford & Aamiry, 1969)。 これらの研究は,第1言語と第2言語で書かれた項目リストをバイ リンガルに呈示し,カテゴリー群化を調べることで,概念構造はそ れぞれの言語に基づいた体制化が行われるのか,それとも言語に関 わ ら ず ,共 通 の 意 味 カ テ ゴ リ ー が 形 成 さ れ る の か 調 べ た も の で あ る 。 言語独自のカテゴリーが形成されることを示した研究としては, Dalrymple-Alford & Aamiry( 1969) の 実 験 が あ る 。 英 語 と ア ラ ビ ア 語のリストを用いた自由再生課題において,異なる言語やカテゴリ ーの項目よりも,同じ言語やカテゴリーに属する項目リストにより 強 い カ テ ゴ リ ー 群 化 が 見 ら れ た 。こ の 結 果 か ら ,単 語 の 結 び つ き は , それぞれの言語ごとに同じカテゴリーがまとまっているという見解 が得られた。 一方,2言語に共通した意味カテゴリーが形成されることを示し. 23.

(25) た実験としては,英語とロシア語あるいは英語とフランス語といっ た2言語の単語が混在したリストで,単一言語のリスト呈示と同様 の カ テ ゴ リ ー 群 化 が 生 じ た こ と を 示 し た も の が あ る ( Lambert, Ignatow & Krauthammer, 1968)。 こ の 結 果 か ら , 言 語 の 相 違 を 超 え て共通の上位概念が活性化されることが実証された。. 1-2-2. 概念表象の構造化に影響する要因. カテゴリー群化に影響する要因として,語彙項目の典型性がある ( R o s c h ,S i m p s o n & M i l l e r , 1 9 7 6 ; 石 毛・箱 田 , 1 9 8 4 ) 。典 型( p r o t o t y p e ) とは,あるカテゴリーを示す最も代表的な事例であり,典型性の程 度に応じて,典型を中心とし,周囲に同じカテゴリーの事例が位置 す る ( Rosch, 1978)。 典 型 性 の 高 い 事 例 ほ ど カ テ ゴ リ ー 名 の 典 型 に 近い情報を含むため,相対的にみると典型性の低い事例の規準点と な る (Rosch, 1978;. 石 毛 ・ 箱 田 , 1984)。 そ の た め , 推 論 や 命 名 ,. カテゴリー化などの課題では,典型的な事例ほど処理が促進される 典 型 性 効 果 が 知 ら れ て い る ( S m i t h , S h o b e n & R i p s , 1 9 7 4 )。 この典型性効果は,意味的関連性から構成されるネットワーク構 造 か ら 説 明 さ れ る 。 Collins & Loftus( 1975) や Lachman, Lachman & B u t t e r f i e l d( 1 9 7 9 ) が 提 唱 し た 活 性 化 拡 散 モ デ ル に お け る 意 味 ネ ットワークでは,概念はノードで示され,それぞれの概念表象はリ ン ク で つ な が っ て い る( 図 1 - 3 参 照 )。概 念 の 意 味 的 関 連 性 が 強 け ればノードの意味的距離も短くなり,概念間で共通特性が多くなれ ば ,相 互 の 到 達 可 能 性( accessibility)も 高 く な る 。こ れ を 典 型 性 効果に当てはめると,典型性が高い項目はカテゴリー名の概念表象. 24.

(26) 図1-3. 活性化拡散モデルにおける意味ネットワーク ( Lachman, Lachman & Butterfield, 1979). 25.

(27) に近接し,中心部分に集合しているのに対して,典型性が低い場合 は,それらの項目を基準点として周辺部分に位置し,リンクも長く なる。典型的な項目は,上位概念と近い距離に位置するため,活性 伝播も高く,再生されやすい。それに対して,典型性が低い項目は 項目間の意味的距離も遠く,上位概念からのリンクも長いため,活 性化の程度は低いと考えられる。. 26.

(28) 第二章 歴史的考察2. 27.

(29) 2. 2つの言語が単語認知処理と概念構造に与える影響. バイリンガルが習得した2つの言語の親近性が言語処理や概念構 造にどのように影響を及ぼすのか,また,第2言語を習得していく 過程において,言語処理や概念構造がどのように変遷していくのか という2つの問題について,これまでの研究を概観する。 系統論的観点,類型論的観点から親近性の高いと考えられる言語 のバイリンガルと親近性の低いと考えられる言語のバイリンガルの 単語認知過程がどのように行われているのか検証する。 さらに,第2言語を習得する段階で,2つの言語間の関係がどの ようなプロセスを経るのか検討する。第2言語の習熟度が高いレベ ルと低いレベルの習得者群を対象にした研究について概説する。. 2-1-1. 言語間の親近性. バイリンガルの言語システムについて検証する場合,彼らが第2 言語としてどういった言語を習得するのかということは,単語処理 プロセスに影響を及ぼす可能性がある。形態的あるいは音韻的に類 似した単語が存在するといった何らかの共通点を持つ言語とそうで ない言語がある事実を考慮すると,英語と日本語,韓国語と日本語 の言語間の関連性を同等に扱いうるのか疑問である。この章では日 本語と韓国語,日本語と英語の言語間の関連性について系統論的観 点,類型論的観点からそれぞれ考察する。言語学,心理言語学的観 点から日本語,英語,韓国語の特徴を対照的に検証し,その関連性 を考察する。. 28.

(30) 2-1-2. 系統論的観点. 系統論的観点から言語の関係性を検証する場合,音韻の規則的対 応 ,同 根 語 ( c o g n a t e ) の 存 在 や 文 法 の 類 似 点 な ど か ら ,ど の よ う な 系 統に属して発生してきたのか検証し,いくつかの言語が同一起源か ら 発 生 し た こ と を 証 明 す る と い う 方 法 を と る 。田 中 ・ 家 村 ・ 五 十 嵐 ・ 倉 又 ・ 中 村 ・ 樋 口 ( 1975)は ,系 統 論 的 観 点 に つ い て『 い く つ か の 言 語 が 共 通 の 起 源 に 由 来 す る と き ,こ れ ら の 言 語 は 同 系 で あ る と 言 い , 同 系 の 言 語 は 語 族 を 形 成 し , 共 通 起 源 と な る 言 語 を 祖 語 と 呼 ぶ 。』 ( p.202)と 述 べ て い る 。 英語はドイツ語,オランダ語などとゲルマン語派を形成し,さら にフランス語やイタリア語を含むイタリック語派とともにインド・ ヨ ー ロ ッ パ 語 族 を 形 成 す る こ と は す で に 知 ら れ て い る (堀 井 ,1997)。 インド・ヨーロッパ語族は,諸言語の親族関係の証明が最も進んで いる言語と言われ,ゲルマン語派に属する英語とドイツ語,ロマン ス語派に属するフランス語,イタリア語の単語を比較してみると, 形 態 や 意 味 が 類 似 し た も の が 多 く 存 在 す る ( 表 2 参 照 )。 日本語の系統については,分類が困難である,系統がはっきりし ていないとされてきたものの,かなり古くから,その系統を探る試 み は 行 わ れ て き た 。 ア ル タ イ 諸 語 を 系 統 と す る 説 (小 倉 , 1940)や , 南 方 ア ジ ア 諸 語 を 系 統 と す る 説 が 有 力 で あ る 。1 9 6 0 年 代 に は ( 村 山 , 1963)が ア ル タ イ 共 通 語 か ら 分 離 し た 東 部 ア ル タ イ 語 が 原 始 韓 系 言 語を含むいくつか言語への分裂が起こり,さらに原始韓系言語が新 羅語を経て韓国語へ,倭・高句麗共通語から原始日本語に,それぞ れ発達したとの論考を発表した。日本語と韓国語は同系である可能. 29.

(31) 表2 諸言語からみた単語の規則的対応 (堀 井 , 1997, p .4 を 改 変 し て 引 用 ). 日本語. 英語. ドイツ語. フランス語. イタリア語. 手. hand. Hand. main. mamo. 命. life. Leben. vie. vie. 夏. summer. Sommer. été. estate. 与える. give. geben. donner. donare. 30.

(32) 性 が 最 も 大 き い と さ れ て お り (田 中 他 , 1975), 金 沢 (1910)は 音 韻 対 応のみでなく固有語彙の比較や単語や形態素の文法面での比較を行 な い ,日 本 語 と 韓 国 語 の 関 係 に つ い て 検 証 し て い る .ま た ,服 部( 1 9 5 7 ) は 語 彙 項 目 の 一 致 か ら 親 族 関 係 を 比 較 し ,日 本 語 と 韓 国 語 の 間 に は , 類似した語彙の比率が高いことを明らかにしている。. 2-1-3. 類型論的観点. 言語類型論では各言語の持つ形態的特徴を基に世界の言語を分類 している。具体的には中国語のように品詞の区別がない孤立語,語 の文法関係が語尾変化によって表される屈折語,人間,無生物など 全 て の も の を 2 0 近 い 範 疇 に 分 け て 接 頭 辞 で 明 示 す る 範 疇 語 ,さ ら に 膠着語,抱合語などの4ないし5の型が設けられている。最近では 音韻組織や統語論的特徴も基準の一つに取り上げられている。 日本語と韓国語がアルタイ諸語とともに言語構造の上から類似点 が 多 い こ と は よ く 知 ら れ て い る 。大 江( 1 9 7 8 ) は そ れ ら の 特 徴 を こ れ までの研究を総括して,以下のようにまとめている。. (1). 日本語と韓国語では動詞の一種で活用を行う. (2). 述語に接尾する人称語尾がみられない. (3). 「r」と 「l」の 音 韻 的 区 別 が な い. (4). 指示語の体系が,コノ,ソノ,アノのような「近・中・ 遠」の3系列である. 大 野 ( 1980) は 日 本 語 と 韓 国 語 の 特 徴 に つ い て , 次 の よ う に ま と. 31.

(33) めている。. (5). 文法的には日本語,韓国語ともに膠着語に属する. (6). 動詞は文末にきて,動詞の下に助動詞がついて否定,過 去,推量などを表わす. (7). 助動詞は動詞の後に置かれ,前置詞ではなく,後置詞を 用いる. (8). 形容詞は名詞の前に来る。副詞は動詞の前に来る. 久 野 (1973)は 語 順 と い う 観 点 か ら 日 本 語 と 英 語 の 言 語 構 造 の 相 違 に注目し,次のような特徴を挙げている。まず日本語は韓国語と同 様 に , 目 的 語 (O)が 動 詞 (V)の 前 に く る SOV 語 で あ り , 英 語 な ど に み ら れ る 目 的 語 が 動 詞 の 後 に 現 わ れ る SVO 語 と は 著 し い 対 照 を な し て いる。. (9)日本語は後置詞的言語である 日 本 語 の 名 詞 の 格 は 助 詞 と い う 後 置 詞 に よ っ て 表 わ さ れ ,従 属 節 は 節 尾 に 現 れ る 助 詞 や 「時 (に ), 所 (に )」な ど の 形 式 名 詞 に よ っ て マークされる。. John went to Kobe by car with Mary. John は 車 デ Mary ト 神 戸 ニ 行 ッ タ .. [前 置 詞 ]. [助 詞 ]. (10)日本語は左枝分かれ的言語である 日本語の形容詞は名詞の前に置かれる。関係節は先行詞の前に現. 32.

(34) れる。文の名詞句や動詞句などの従属関係を図にすると左へ枝分 か れ し て い る こ と が わ か る (図 2 - 1 参 照 )。 一 方 , 英 語 は 基 本 的 に 右 分 か れ の 言 語 で あ る 。 (図 2 - 2 参 照 ). (11)疑問詞は節頭に移動しない 日 本 語 の 「何 , 誰 , ど こ 」と い っ た 疑 問 詞 は 文 頭 あ る い は 節 頭 に 義 務 的 に 移 動 し な く て も よ い が ,英 語 の 疑 問 詞 は 義 務 的 に 移 動 す る 。. Who did Mary kill? メアリーは誰を殺したのか?. 2つの観点から,日本語,韓国語,英語の関係性について,以下 のようにまとめられるであろう。系統論的観点からは,日本語と英 語 は 異 な る 起 源 よ り 発 生 し た こ と は 明 ら か で あ る 。英 語 は ,イ ン ド ・ ヨーロッパ語族に属し,日本語と韓国語は確固たる証拠はまだ得ら れていないが,ともにアルタイ語族という異なる語族に属している と考えられ,同系である可能性は高い。 また類型論的観点からみてみると,日本語と韓国語はともに,単 語に接頭辞や接尾辞などが付着する膠着語であり,文法的類似点も 多いが,英語は屈折語であり,語順の特徴も日本語と異なる。以上 のことより日本語と英語はより遠い関係であるのに対し,日本語と 韓国語は言語的親近性が高いといえる。. 33.

(35) 図2-1. 日 本 語 の 左 分 か れ 図 ( 久 野 , 1973). 34.

(36) 図2-2. 英 語 の 右 分 か れ 図 ( 久 野 , 1973). 35.

(37) 2-1-4. 言語間の親近性と単語認知過程. 上述したように,バイリンガルが習得した言語に注目すると,日 本語,英語,韓国語を例にとってみても,2言語間の関係性には違 いがあることがわかる。日本語と韓国語の特徴を比較すると,韓国 語はハングル文字という日本語とは異なる書記システムを用いるが, 文 法 構 造 で は 両 言 語 と も に , 目 的 語 ( O) が 動 詞 ( V) の 前 に 現 れ る S O V 語 で あ る こ と を は じ め と し て ( 久 野 , 1 9 7 3 ), 用 言 ( 動 詞 , 形 容 詞 ,形 容 動 詞 ) の 語 幹 に 補 助 動 詞 や 助 動 詞 が 続 く と い う 構 造 も 共 有 す る な ど 類 似 点 が 多 い (梅 田 , 1982)。 一 方 , 英 語 の 構 文 は SVO の 語 順 をとるなど,日本語との文法構造の相違は大きく,文化的背景につ いても両言語の共通部分は少ないことから,生起される単語の概念 の類似性は低いと予想される。 このように,バイリンガルの単語認知過程を検証する場合,2つ の言語間の関係性は,習得する言語によって異なる可能性は高いと 考えられるが,文字体系や文法構造がどのように語彙システムや概 念形成に影響しているのかという視点に着眼した研究は少ない。そ の多くは,実験者の当該国における母語を第1言語とし,英語を第 2言語として習得した学習者を対象に実験を行っている。 バイリンガルの単語処理のプロセスについては,命名課題,音読 課題,翻訳課題,プライミング課題などさまざまな実験課題が用い られてきた。これまで,語彙システムと概念システムの関係性を検 証した実験にどのような言語が使われていたのか概観する。 命名課題や翻訳課題による実験を行った. Kroll & Stewart(1994). は英語とオランダ語で書かれた刺激リストを用いた。同様に,翻訳. 36.

(38) 課題から,語彙と概念表象について検証した. Altarriba & Mathis. ( 1 9 9 7 ) は 英 語 と ス ペ イ ン 語 を 使 用 し て い る 。 M ä g i s t e( 1 9 8 4 ) の 研 究では,ドイツ語とスウェーデン語によるストループ課題を実施し た。これらの言語は,アルファベットによる書記体系を持つという 特徴だけでなく,インド・ヨーロッパ語族に属する点も共通してい る。そのため, 2つの言語で発音やつづりが類似している同根語 ( cognate) が 多 く 存 在 す る 。 例 え ば , 英 語 の “ cat” と フ ラ ン ス 語 の “ chat” の よ う な 場 合 で あ る 。 同 族 言 語 の 単 語 の 構 造 化 の 特 徴 に つ い て 調 べ た 研 究 に Sáchez-Casas, García-Albea & Davis( 1992) の 実 験 が あ る 。 彼 ら は,同族言語と非同族言語の単語を刺激として,プライミングによ る語彙判断課題を行った。反応時間は,同族言語の方が非同族言語 よりも速く,非同族言語ではプライミング効果が生じなかった。こ れは,同族言語の単語は,概念表象を共有し,単語間で近接してい るのに対し,非同族言語は,言語ごとに概念表象は独立して構造化 されているために,翻訳に時間を要するからであると結論付けてい る。つまり,2言語間で,同族言語と非同族言語は表象の構造化が 異なることを示唆した結果といえる。 さ ら に , Chen, Cheung & Lau( 1997)は , Kroll & Stewart(1994) の階層モデルが,英語の上級レベルを持つ中国語のバイリンガルに も適用されるのか,翻訳課題とカテゴリーマッチング課題から検証 した。翻訳時間は第2言語から第1言語への方が第1言語から第2 言語よりも速かった。また,第1言語から第2言語への翻訳,第2 言語から第1言語への翻訳の双方にカテゴリーマッチングの促進効 果が見られたが,意味的表象の活性化は第1言語から第2言語への. 37.

(39) 翻訳において,より強く生じていた。これらの結果が示すことは以 下の通りである。英語と中国語のように特徴を共有しない単語間の 翻訳過程は,第2言語と概念システムとのリンクは形成されるもの の,第2言語から第1言語への翻訳は語彙的リンクを通じて行なわ れる。一方,第1言語から第2言語への翻訳は概念を媒介した翻訳 という,翻訳方向の非対称性が生じていた。 2 言 語 を 用 い て ス ト ル ー プ 課 題 を 行 っ た 研 究 に は , Fang, Tzeng & Alva( 1981) の 実 験 が あ る 。 中 国 語 ― 英 語 , ス ペ イ ン 語 ― 英 語 , 日本語―英語のバイリンガルを対象に,2言語の色名単語を同じ言 語あるいは,もう一方の言語でインクの色を答えるというストルー プ課題を設定した。その結果,3つのバイリンガル群で干渉の生起 の仕方は異なっていた。言語内干渉の方が言語間干渉よりも大きか ったことは一般的な傾向であるが,2つの干渉の差は,形態的特徴 を共有しない2言語(中国語と英語,日本語と英語)は,特徴を共 有する2言語(スペイン語と英語)に比べると,より大きいことが 示 さ れ た 。 こ の 結 果 に つ い て , Fang ら ( 1981) は , バ イ リ ン ガ ル の 単語認知過程における形態や音韻情報の処理段階での影響に言及し, 第1言語と第2言語の形態・音韻情報がどのくらい類似しているの かという視点から検証することの必要性を示唆している。 一 方 ,言 語 間 の 親 近 性 に 注 目 し て ,Costa, Santesteban & Ivanova ( 2006) は 言 語 ス イ ッ チ ン グ が ど の よ う に 生 起 す る の か 検 証 し た 。 スペイン語-バスク語の学習者を親近性の低いバイリンガル群とし, 写真の命名課題を行なったが,その結果は,スペイン語と類似した カタロニア語を使用した. Costa & Santesteban( 2004) の 実 験 結 果. と 同 様 で あ っ た 。 こ の 結 果 か ら , Costa ら ( 2006) は , 言 語 間 の 親. 38.

(40) 近 性 は ,言 語 ス イ ッ チ ン グ の 遂 行 に は 影 響 し な い と 結 論 付 け て い る 。 このように,英語と中国語など,異なる祖語から派生し(中国語 は シ ナ ・ チ ベ ッ ト 語 族 , 英 語 は イ ン ド ・ ヨ ー ロ ッ パ 語 族 ), 書 記 シ ス テムも漢字とアルファベット文字とそれぞれ異なる言語を使用した 実 験 結 果 と , Altarriba & Mathis( 1997)や. Mägiste( 1984)ら の 実. 験から得られた知見を同等に扱うことができるのかというと問いに ついては,未だ明らかにされていない。. 2-1-5. 言語間の親近性と概念構造. バイリンガルの単語認知処理は語彙表象や概念表象が関与するこ とで成立し,その処理過程に2つの言語間の親近性が影響する可能 性が示された。単語処理過程において,より高次で複雑なレベルで ある内的表象の構造化は,言語独自か,共通に行われるのかという 2つの対立する見解が得られている。この異なる結果を生み出す要 因の1つには,実験で使用された2言語の親近性が考えられる。2 つの言語の親近性は,使用される文字体系や文法構造,文化的背景 などから捉えられる。 例 え ば , Lambert, Ignatow & Krauthamer (1968)の 実 験 で は , 英 語 , フ ラ ン ス 語 , ロ シ ア 語 が 用 い ら れ , 同 様 の 結 果 を 示 し た Kolers (1965)の 研 究 で も 英 語 と フ ラ ン ス 語 か ら リ ス ト が 構 成 さ れ て い た 。 英語とフランス語のようにインド・ヨーロッパ語族に属し,アルフ ァ ベ ッ ト を 用 い る 言 語 と , Dalrymple-Alford & Aamiry( 1969) の 実 験で使用された英語,アラビア語のように文字体系も言語の背景に ある文化も異なる言語間では,概念構造や意味カテゴリーの構築は. 39.

(41) 異なることが予想される。 これまでにも言語間の親近性が,内的表象の構造に影響すること はいくつかの研究で示されてきた。文化的に共有部分があり,同じ ヨーロッパ圏で用いられる,ドイツ語,フランス語,英語について は , 言 語 の 違 い を 超 え て 共 通 の 連 想 関 係 が み ら れ た (Rosenzweig, 1 9 6 1 ) 。そ れ に 対 し て ,日 本 語 と ド イ ツ 語 の 概 念 表 象 の 活 性 化 は 言 語 特 有 の 連 想 反 応 や プ ラ イ ミ ン グ 効 果 が 生 じ て い る ( 三 宅 , 2 0 0 2 )。 さ らに,言語間で共有する特徴が少なく,言語間の親近性が低いと考 えられる日本語と英語の話者については,分類課題で言語固有の反 応 を 示 し て い る (Athanasopoulos, 2007)。 文字体系から見た言語間の親近性について,例えば,日本語と中 国語では,両言語ともアジア圏にあり漢字を使用するという点で, 単語のイメージや概念表象は共通する部分が多いと思われる。漢字 という表記体系を共有する日本語と中国語は,果物,乗り物,鳥と いったカテゴリーは言語間で相関が高く,典型性の評定もかなり一 致 す る ( 干 ・ 杉 村 , 1 9 9 3 )。 一 方 , 英 語 と 中 国 語 で は 典 型 性 評 価 は 異 な る ( B a r s a l o u & S e w e l l , 1 9 8 4 )。 こ の こ と か ら ,“ 家 ” に 対 す る イ メージや, “ 最 も 鳥 ら し い 鳥 は 何 か ? ”と い う 内 的 表 象 の カ テ ゴ リ ー の 項 目 は ,言 語 が 持 つ 文 化 的 背 景 の 影 響 を 受 け て い る と 考 え ら れ る 。 このように,2つの単語構造を追究した実験では,その実験計画 において,言語間の特徴をどれくらい共有しているのか,2言語の 親近性を統制した実験パラダイムによって検証されてこなかった。 2言語の知識の体制化について,どの言語を第2言語として習得す るかによって,第1言語と独立したカテゴリー構造が形成されるの か ,あ る い は ,共 通 の 構 造 と な る の か 明 確 な 結 論 は 得 ら れ て い な い 。. 40.

(42) 2-2-1. 第2言語の習得レベル. どのような言語を習得するのかという2言語間の親近性と同様に, 新しい言語をどのように習得するのかという第2言語の習得度もバ イリンガルの単語処理に影響を及ぼすことが考えられる。第2言語 習 得 に よ り ,モ ノ リ ン ガ ル か ら バ イ リ ン ガ ル へ の 変 遷 が み ら れ る が , ここでは,バイリンガルの定義とその種類についてまとめ,単語認 知過程において,第2言語の習得レベルがどのように取り扱われて きたのか概説する。. 2-2-2. バイリンガルとは何か. 2つの言語に習熟しているという人に対して用いられる“バイリ ン ガ ル ”の 定 義 は ,現 在 に い た る ま で さ ま ざ ま な 形 で な さ れ て い る 。 図2―3のペナント型定義幅に示されているように, 『2つの言語を 母 語 話 者 の よ う に コ ン ト ロ ー ル で き る こ と 』 (Bloomfield, 1933, p . 5 6 ) と い う 狭 義 な も の か ら『 あ る 言 語 の 話 者 が も う 一 つ の 言 語 で 完 結 し , か つ 有 意 味 で あ る 発 話 が で き る 時 点 』 (Haugen, 1953, p.7, Baetns Beardsmore, 1982 よ り 引 用 )と い う 広 義 な も の ま で 実 に 幅 広 いレベルにわたってバイリンガルの定義がなされている。その中間 的位置にあるものとして『同一人物によって2つないし,それ以上 の 言 語 が 交 互 に 使 用 さ れ る こ と 』 (Mackey, 1962, p.52)や 『 2 つ の 言 語 を 交 互 に 使 用 す る こ と 』 (Weinreich, 1953, p.1)と い う も の が あ る が , こ れ ら の 定 義 を ふ ま え て , 山 本 (1991)は バ イ リ ン ガ リ ズ ム を 『 2 つ の 言 語 を 使 用 す る 能 力 を 持 つ こ と 』, バ イ リ ン ガ ル を 『 2 つ. 41.

(43) 図2-3. バ イ リ ン ガ ル の ペ ナ ン ト 型 定 義 幅 (山 本 , 1991). 42.

(44) の言語を使用する能力を持つ人』と定義している。 バイリンガルを定義する上での特徴としてあげられるのは,言語 を話す能力は常に一定ではなく,また固定した状態で保持されるわ けではないということである。そのために上に述べたような言語能 力についていくつかの段階を含んだ形で定義がなされるのであろう。 同一人物の言語習熟過程においても,第2言語の場合は特に,言語 を獲得するまでの過程を含め習熟してからも言語能力を同一レベル で 維 持 す る こ と は 困 難 と 考 え ら れ る 。 Yamamoto(1987)は バ イ リ ン ガ リ ズ ム と い う も の は 『 動 的 な 過 程 』 (dynamic process)で あ り 『 静 的 な 属 性 』 (static attribution)で は な い と 表 現 し て い る 。 こ の よ う にバイリンガルの定義は言語の習熟過程における発達的観点からと らえる必要があろう。. 2-2-3. バイリンガルの種類. 先に述べたような様々なバイリンガルの定義が用いられているよ うに,バイリンガルの下位範疇もいくつかのパターンがある。山本 (1991)は バ イ リ ン ガ ル を 個 人 , 社 会 と い う 単 位 に 基 づ い て , 個 人 バ イ リ ン ガ ル (individual. bilingualism) と 社 会 バ イ リ ン ガ ル. (societal bilingualism)と い う 枠 組 み か ら バ イ リ ン ガ ル の 下 位 範 疇をとらえている。以下は個人バイリンガルについてまとめたもの である。個人バイリンガリズムとは,バイリンガルが経験した習熟 過程と2言語間の言語の能力がどのようなものであるかといった観 点からバイリンガル個人に焦点をあてた枠組みである。. 43.

(45) (12)同時バイリンガリズム 継続バイリンガリズム. (simultaneous bilingualism) (sequential bilingualism). これは2つの言語がいつどのような順序で習得されたかという時 間的見地からとらえたものである。同時バイリンガルは幼児期から 同時に2つの言語に接する機会を持ち,同時に2言語を習得する環 境を持った人たちを指している。例えば,両親が異なる言語を使用 する家庭に生まれ,2言語を常に耳にしながら育ったバイリンガル などがこの範疇にはいる。一方,継続バイリンガルとは第1言語が ある程度習得された段階で,第2言語を学習し始めた人々である。 しかし,ある程度習熟したというのかはどの段階を指すのかとい う 問 題 に 対 し て は 研 究 者 の 間 で も 意 見 は 分 か れ る (Brown, 1973; 中 島 , 1976)。 例 え ば. McLaughlin(1978)は 3 歳 と い う 年 齢 を 基 準 と し. て,3歳以後に2つ目の言語に接触し始めた場合は継続バイリンガ ルとしている。しかし3才という生活年齢を恣意的に基準におくこ とに対し,言語発達の速度は個人によってそれぞれ異なることや幼 児が置かれている言語環境を考慮していないという問題も指摘され て い る (山 本 , 1991)。. (13)複合バイリンガリズム. (compound bilingualism)/. 等位バイリンガリズム. (coordinate bilingualism). バイリンガルの2つの言語における同義語がそれぞれの言語シス テムにおいてどのような意味内容を喚起するかという点からバイリ ンガリズムを捉えた下位範疇である。 Ervin & Osgood(1954)の 定 義 に よ れ ば 複 合 バ イ リ ン ガ ル と は 2 つ の 異 な る 言 語 間 に 1 つ の 共 通 の 意 味 体 系 を 持 ち , ど ち ら の 言 語 (刺. 44.

(46) 激 )で 表 現 (図 2 - 4 : SA/SB)さ れ て も そ れ か ら 喚 起 さ れ る 意 味 内 容 ( 反 応 ) は 同 じ ( 図 2 - 4 : R A / R B ) と 考 ら れ て い る 。例 え ば 学 校 教 育 の 場で第2の言語を外国語として習得し始め,その言語に習熟した者 や2つの言語をどのような場面でも常に交互に使用する環境に育っ た 子 供 な ど が 挙 げ ら れ る ( 図 2 - 4 参 照 )。 等位バイリンガルは2つの言語それぞれに対して別個の意味体系 を持っており,そのため使用される言語によって喚起される意味内 容は異なり,どちらの言語が用いられたかによってバイリンガルが 見せる態度や引き起こされる感情は違ったものになる。図2-4に お け る S A と い う 刺 激 語 か ら 引 き 起 こ さ れ た R A と い う 反 応 は ,S B か ら 引 き 起 こ さ れ た R B と い う 反 応 と は 異 な る 。例 と し て は 家 庭 で 1 つ の言語を習得し学校などでもう一つの言語を習得した人や,第 1 言 語とは異なる言語が話されている地域で第 1 言語への翻訳に頼らず その言語を習得した人などが挙げられる。つまり異なる環境で2つ の 言 語 を 習 得 し ,そ の 結 果 , 別 個 の 意 味 体 系 を 持 つ に 至 っ た 者 と 考 えられよう。 しかしバイリンガリズムが動的過程であるという観点から複合バ イリンガルと等位バイリンガルの区分を考えてみた場合,両者を独 立 し た 存 在 と し て 捉 え る こ と に 対 す る 批 判 も あ る (Taylor, 1976)。 中 学 校 か ら 外 国 語 と し て 英 語 を 習 い 始 め た 学 生 が , 「家 」と い う 日 本 語 と 「house」と い う 英 語 に 対 し て 異 な る イ メ ー ジ を 持 つ こ と も 考 え ら れ る し ,初 め は 外 国 語 と し て 学 び 始 め 複 合 的 反 応 を 示 し て い た が , 習熟度が上がるにつれ等位バイリンガル的反応をみせるようになる 可能性もある。こういった場合,複合バイリンガルか等位バイリン ガルかの区分は極めて曖昧なものとなってしまう。むしろこの区分. 45.

(47) 図2-4. 複合バイリンガリズムと等位バイリンガリズム (山 本 , 1991). 46.

(48) は言語環境や言語習得の程度によって変化していくバイリンガリズ ムの継続的な状態を示しているといえる。. (14)平衡バイリンガリズム. ( equilingualism )/. 二重バイリンガリズム. ( ambilingualism )/. 偏重バイリンガリズム. ( dominant bilingualism ). バイリンガルの2つの言語能力を比較し,その間に優劣があるか どうかという観点からとらえたものである。平衡バイリンガリズム は 均 衡 バ イ リ ン ガ リ ズ ム (balanced bilingualism) と も 呼 ば れ , 両 言語能力の間に差がない状態を指し,偏重バイリンガリズムは両者 に優劣がある場合を指している。ここで示す両言語能力とはバイリ ンガル自身が持つ2つの言語能力をさしており,各言語を第 1 言語 とするモノリンガルの言語能力との差を比較したものではない。二 重バイリンガリズムは,バイリンガル自身の2言語能力が均衡した ものであり,さらにモノリンガルの言語能力と比較しても差がみら れ な い 状 態 を 意 味 し て い る (図 2 - 5 参 照 )。 しかし,2言語能力に差がないという均衡バイリンガリズムと二 重バイリンガリズム,特に二重バイリンガリズムについては実際に 存 在 す る こ と が 可 能 な の か 疑 問 が 呈 さ れ て い る (山 本 , 1991)。 ま ず 2つの言語を均衡に習得し,維持しておくためには,2つの言語に よる入力も均衡に行なわれる必要があるが,全ての事について2言 語を用いて経験する可能性は極めて低いからである。さらに文化的 特徴を持つ事象をその文化圏で使用されない言語で表現する場合, 困 難 を 伴 う こ と が 多 い 。 例 と し て Ervin-Tripp(1968)が ア メ リ カ 在 住の日本人女性を対象に行なった実験では,アメリカの料理や生活. 47.

(49) 図2-5. 二重・平衡・偏重バイリンガリズム (山 本 , 1991). 48.

(50) に関することと,日本の祭や正月など日本文化に関することを英語 で説明してもらったところ,日本文化に関わりのある話題について は日本語の混入や文法の乱れ,言いよどみなどがみられている。こ のような理由から,現実にはこれらの段階にまで到達しないバイリ ンガルのほうが多く,2言語間に能力の差のある偏重バイリンガリ ズムの状態がより一般的であると予想される。. 2-2-4. 第2言語の習得レベルの測定尺度. バイリンガルの単語認知過程を検証する場合,対象者の言語能力 を 測 定 す る こ と は 必 要 な 条 件 で あ る 。し か し な が ら , “バイリンガル である”あるいは“どの程度のバイリンガルか”ということを示す の は 非 常 に 困 難 な 問 題 で あ る 。 ど の よ う な 尺 度 や 実 験 課 題 が ,第 2 言語の習熟レベルの測定に用いられてきたのか,以下に示す。 海外における滞在期間,いつ第2言語を学習し始めたか,どのよ うな環境で習得したかといった基準や第2言語レベルに対する自己 評定から,第 2 言語の習得レベルを分類した実験は非常に多くみら れる。これらは外的要因からバイリンガルの程度を測定したものと ら え る こ と が で き る (Cristoffanini, Kirsner & Milech, 1986; Ehri & Ryan, 1980)。 一方,検証可能な実験課題から,習得レベルを測定する方法もあ る 。Fang ら (1981)は ,中 国 語 優 位 の 実 験 参 加 者 の 英 語 能 力 を 図 る た めに,英語と中国語の色名単語の命名時間を測った。これは,2言 語 を 使 用 し た ス ト ル ー プ 課 題 を 設 定 し た Preston & Lambert (1969) の実験に倣ったものである。. 49.

(51) Preston & Lambert(1969)は ス ト ル ー プ 課 題 を 用 い て バ イ リ ン ガ ル の2つの言語システムの関連性を検証した。これは内的要因からバ イリンガルの程度を測定したものである。2つの言語の色名単語と 色パッチが刺激として用いられた。色パッチのインクの色を2言語 で命名する課題と,色名とインクの色が不一致の単語のインクの色 を2言語で命名する課題を行なった。色パッチのインクの色を答え る時,2言語間で反応時間に差がなければ均衡バイリンガルとみな している。 言語属性を持たない刺激のインクの色を答えるためには言語シス テムに語彙アクセスし音韻情報を生成する過程を経ていると考えら れるが,2言語間でインクの色の命名に差がみられないということ は2つの言語システムに同等に語彙アクセスしていると解釈される。 語彙アクセスは単語情報処理過程の一部といえることから,言語属 性を持たないインクの命名において2言語間で同等にストループ干 渉が生じるということはバイリンガルの言語能力を推測する1つの 尺 度 と 考 え ら れ る 。 松 見 (1994)も こ の 方 法 を 採 用 し て , 日 本 語 を 第 1言語とする参加者の英語の習得レベルを測定している。. 2-2-5. 第2言語の習得レベルからみたバイリンガルの 語彙・概念構造. 第2言語の習熟レベルという視点に基づき,ストループ課題や翻 訳課題,プライミング課題など様々なタイプの実験課題から,バイ リンガルの単語構造は検証されてきた。新しい言語を習得すること で,単語の認知処理のプロセスはどのように変化するのか,その変. 50.

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