九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
生体防御機構に着目した新しい大腸がん予防法と治 療法に関する基盤研究
藤本, 京子
http://hdl.handle.net/2324/1654993
出版情報:Kyushu University, 2015, 博士(農学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
氏 名 :藤本 京子
論文題名 :生体防御機構に着目した新しい大腸がん予防法と治療法に関する基盤研究 区 分 :乙
論 文 内 容 の 要 旨
国立がん研究センターがん対策情報センターが公表している 2011 年のがん罹患数の推計値によ ると、男女共に胃がんが最も多く、続いて、大腸、肺、前立腺、乳房の順となっている。生涯でが んに罹患する確率は、男女ともに50%と報告されており、がん発症の予防や治療法の開発は喫緊の 課題である。本研究では、最近増加傾向にある大腸がんに着目し、腫瘍発生における生体防御機構 の役割を明らかにすること、および、腫瘍サイズに関与する因子を同定することにより、新しい視 点から、今までにない大腸がんの予防・治療法を提案することを目的とした基盤的研究を行った。
モデル系として、散発性の大腸がんでは 80%以上において Apc 遺伝子に変異が見られることか ら、Apc遺伝子に変異を持つApcMin/+(C57BL/6J)マウスを採用し、その腸管に発生した腫瘍を対 象に解析した。まず、生体防御機能である薬物排除を担うP糖タンパク質(P-gp)と腫瘍発生の関 連を解析した。P-gpは、膜輸送タンパク質であり、薬剤や毒性のある化合物の排除活性を持つこと で異物の排除による生体防御機能を担っており、腸管においては腸管上皮細胞の管腔側膜に存在し ていることが知られている。P-gpを欠損したマウスでは、腸管腫瘍の発生が阻害されるという結果 に着目し、P-gp活性の競合阻害剤であるベラパミル投与がApcMin/+マウス腸管内での腫瘍発生に与 える影響を解析した。その結果、ベラパミル投与により腫瘍発生は有意に減少したことから、異物 の排除機構が腫瘍発生に直接的に関与していることを明らかにした。この結果は、ベラパミルなど の阻害剤によるP-gp機能阻害が、大腸がん化学予防法となりうることを示している。
次に、生体防御機構として免疫系に注目し、腸管内に存在するパイエル板と腸管腫瘍発生の関連 を解析した。パイエル板は腸管上皮細胞の直下に位置するリンパ小節の集合体であり、腸管免疫を 司っている組織であるが、腸管腫瘍との関連は不明である。トウモロコシ外皮から抽出したアラビ ノキシラン(CHAX)の摂食がパイエル板数を増加させることに着目し、CHAX摂食によりパイエ ル板数が増加した ApcMin/+マウスにおける腸管腫瘍数を検討したところ、腸管腫瘍数が有意に減少 することを明らかにした。この結果は、腸管免疫を司っているパイエル板は腸管腫瘍発生を抑制し ていることを示唆しており、CHAX摂食などによるパイエル板の増加等の腸管免疫刺激は、大腸が ん化学予防法となりうることを示している。
一般的には、肉眼的な腫瘍の大きさは悪性度と相関している場合が多いと考えられており、腫瘍 の大きさは、その後の治療方針を決める上でも非常に重要な因子である。ベラパミルやCHAX摂食 による腸管腫瘍発生解析では、腫瘍発生は有意に抑制されたが、生じた腸管腫瘍の平均サイズには 有意差が認められなかった。そこで、腫瘍サイズに関与する遺伝子の同定を行った。ApcMin/+マウ スの腸管には様々な腫瘍が存在することから、サイズの異なる腫瘍を採取し、それぞれの腫瘍サイ ズで発現している遺伝子の発現を網羅的に解析した。その結果、腫瘍サイズと最も相関して発現量 が増加する遺伝子として、Trefoil factor family 2(Tff2)遺伝子を同定した。次に、Tff2遺伝子を安 定発現させたヒト大腸がん由来の DLD-1 細胞をヌードマウスの皮下に注射した後、形成される移 植腫瘍のサイズを測定したところ、Tff2遺伝子安定発現株による移植腫瘍は対照群の移植腫瘍に比 べ、サイズが増大することを明らかにした。この結果は、Tff2遺伝子が、腫瘍サイズの増大に関与
している可能性を示唆している。
以上、ヒトにおいて男女ともに罹患数の上昇がみられる大腸がんの予防法や治療法の開発を目指 し、異物の排除機構と免疫機構の2つの生体防御機構に着目し腸管腫瘍の発生との関連を解析した 結果、異物の排除機構の阻害、および、免疫機構の刺激により腸管腫瘍発生の抑制が可能である事 を明らかにし、さらに、腫瘍発生後の腫瘍サイズに関与する因子としてTff2遺伝子を同定した。本 論文の成果は、がん医学分野におけるがん発生機構に重要な知見をもたらし、新しいがん予防法や 治療法の進展に寄与することが期待される。