有界線形作用素
X, Y をノルム空間とし,T はX からY への線形作用素とする. つまり
T(x+y) =T x+T y, T(αx) = αT x, x, y ∈X, α∈C.
命題線形作用素T :X −→Y に対して以下は同値.
(1) T は 0で連続 (2) T は連続
(3) T は有界 i.e., (∃M)(∀x∈X)(kT xk ≤Mkxk)
T が有界のとき
kTk= sup{kT xk | kxk= 1}
によって作用素のノルムを定義する.
命題X.Y をノルム空間とする.
(1) X1 は X の稠密な部分空間, Y は完備, T :X1 −→Y が有界線形作用素ならば 有界線形作用素T˜ : X −→ Y で, ˜T|X1 = T, kTk = kT˜k となるものが一意的 に存在する.
(2) T :X −→Y が上への線形写像で
∃m >0 ∀x∈X mkxk ≤ kT xk ならば有界な逆作用素T−1 が存在する.
(3) Y が完備のとき, X からY への有界線形作用素の全体B(X, Y) はノルム kTk= sup{kT xk | kxk= 1}= inf{M | kT xk ≤Mkxk ∀x}
によってBanach 空間になる.
以下, ヒルベルト空間H 上の有界線形作用素の全体 B(H, H)(= B(H)) について 述べることにする.
B(H) の構造
• B(H) は Banach空間
• ノルム
kTk= sup{kT xk | kxk= 1}= sup{|(T x|y)| | kxk=kyk= 1}
• 代数(algebra): S, T ∈B(H), x∈H に対して (ST)x=S(T x) によって積ST を定義する.
kSTk ≤ kSkkTk が成立する.
• 対合(involution): T ∈B(H), x, y ∈H に対して H 3x7→(T x|y)∈C
はH 上の有界線形汎関数になる. 従って Riesz の定理により (T x|y) = (x|zy)
となるzy がただ一つ定まる. この対応で有界線形作用素 T∗ :H3y 7→zy ∈H
が定義でき,このT からT∗を構成する操作*を対合(involution)という. S, T ∈ B(H), α∈C に対して
kTk=kT∗k, (ST)∗ =T∗S∗, (αT)∗ =αT∗, (T∗)∗ =T が成立する.
• 対合とノルムの関係
kT∗Tk=kTk2
いろいろな作用素
T が自己共役作用素(self-adjoint operator), エルミート作用素(hermitian) である とは
T =T∗ ⇔(T x|y) = (x|T y), ∀x, y ∈H ⇔(T x|x)∈R, ∀x∈H V が等距離作用素(isometry) であるとは
kV xk=kxk, ∀x⇔(V x|V y) = (x|y), ∀x, y ⇔V∗V = 1 U がユニタリ作用素(unitary)であるとは
U は上へのisometry ⇔U∗U = 1 =UU∗
射影作用素(projection): H の閉部分空間K に対してH =K⊕K⊥ と直交分解で きる. このときH 3x=y+z ∈K⊕K⊥という分解をもとにP :H 3 x7→y ∈K が定義できる. この作用素P を射影作用素といい, P = P2 = P∗ であることがわか る.
逆にP =P∗ =P2 を満たしているときP は直交分解H =P H ⊕(1−P)H に対 応する射影になっている.
部分等距離作用素(partial isometry): ある閉部分空間からある閉部分空間の上への 等距離作用素
⇔V∗V : 射影 ⇔V V∗ : 射影 縮小写像(contraction): ノルムが1 以下の作用素 kTk<1 のときS = 1 +T +T2+· · · ∈B(H)で
(1−T)S=S(1−T) = 1 となる.
T が正値作用素(positive operator)であるとは,
∀x∈H (T x|x)≥0
となること. 特にT =T∗ である.
T が正値, S ∈B(H) ならば S∗T S も正値.
自己共役作用素に順序を考える. すでに有限次元の場合に順序を導入したが同じア イデアである. S, T 自己共役作用素に対して
S ≤T ⇔T −S が正値作用素 ⇔ ∀x∈H (Sx|x)≤(T x|x) と定義する. 射影作用素 P, Qにこの順序を考えると
P ≤Q⇔P H ⊂QH ⇔P Q=P =QP となる.
大雑把な作用素の種類の紹介は終わったが, 多くの場面でどのような作用素を対象 として考えているのか, 少し具体的に述べてみる.
両側シフト(bilateral shift)
可分Hilbert空間の正規直交基底を {xn}n∈Z とする. このときBxi =xi+1 (i∈Z) と定義すると B はH 上の有界線形作用素に拡張できる. この B を両側シフトとい う. B はユニタリ作用素である.
片側シフト(unilateral shift)
可分Hilbert空間の正規直交基底を {xn}n∈N とする. このときSxi =xi+1 (i∈N) と定義すると S はH 上の有界線形作用素に拡張できる. この S を片側シフトとい う. S は等距離作用素であるがユニタリ作用素ではない. S∗ は部分等距離作用素であ る.
対角作用素(diagonal operator)
Hilbert空間の正規直交基底を {xn}n∈Z を選んで Dxi =λixi (λi ∈C)
という形にできる有界線形作用素Dのこと. (対角行列の無限次元版) 掛け算作用素(multiplication operator)
測度空間 (Ω,B, µ) に対して, 2乗可積分な関数全体L2(Ω,B, µ)はHilbert空間に なる. 本質的に有界な関数f ∈L∞(Ω,B, µ)に対して
(M(f)g)(ω) = f(ω)g(ω), g ∈L2(Ω), ω∈Ω
と定義すると M(f) は L2(Ω) 上の有界線形作用素になる. この作用素を掛け算作用 素という. (対角行列の一般化または対角作用素の連続版)
積分核作用素
K ∈L2(Ω×Ω)つまり
Z Z
|K(s, t)|2dsdt <∞
となる関数を用いて定義される次のようなL2(Ω)上の有界線形作用素.
(T f)(t) = Z
K(s, t)f(s)ds f ∈L2(Ω).
群からできるユニタリ作用素
離散群G に対してG上の複素数値関数ξ で X
g∈G
|ξ(g)|2 <∞
を満たすもの全体を`2(G) と表す. `2(G) はHilbert空間になる. G の各元g に対し て`2(G)上のユニタリ作用素が
(λ(g)ξ)(h) =ξ(g−1h), (ρ(g)ξ)(h) = ξ(hg)
によって定義できる. このとき λ : G3 g 7→ λ(g) ∈ B(`2(G)), ρ : G3 g 7→ λ(g) ∈ B(`2(G))は群準同型になる. これをGの左正則表現,右正則表現という.
われわれが扱う無限次元の作用素についていろいろ述べたが, 有限次元の行列に対 応するものとして有限階作用素(finite rank operator)がある. つまりT ∈B(H)で値 域T H が有限次元空間となるものである. T H の一次独立なベクトルをx1, x2, . . . , xn とすると, x ∈H に対してT x は x1, x2, . . . , xn の一次結合で表せる. このときx か らT x のx1 の係数への写像はH上の有界線形作用素になるから, Rieszの定理より, T x の x1 の係数は適当なy1 ∈ H を用いて (x|y1) と表されることになる. 同様の議 論を用いて
T x= (x|y1)x1+ (x|y2)x2+· · ·+ (x|yn)xn
となることがわかる. このような有限階作用素を次のように表すこともある T =x1⊗y1 +x2⊗y2+· · ·+xn⊗yn.
有限階作用素でノルムの意味で近似できる有界線形作用素(有限階作用素のノルム 極限になる作用素)を完全連続作用素(compact operator)という. 完全連続作用素は 弱収束列を強収束列に写す線形写像という特徴付けもある. (∀y ∈ H (T xn|y) → (T x|y)⇒ kT xn−T xk →0)
T を完全連続作用素, {xn}を H の完全正規直交系とする.
X
n
|(T xn|xn)|<∞
のときT をトレースクラス作用素(trace class operator)という.
X
n
|(T xn|xn)|2 <∞
のとき T をヒルベルトシュミット作用素という. これらの概念は完全正規直交系の 選び方に依存しないことがわかる.