体験の仕方の個人差に関する一研究 −体験傾向尺度作成の試みを通して− [ PDF
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(2) 以上のように、ひとくちに体験の仕方と言っても、そ. <本研究の仮説>. の内実は研究者によって異なる。そこで本研究では、従. 第一目的の仮説は、“個人差としての体験傾向が存在. 来の研究を参考にしながら、実際の体験がどのような順. する”である。. 序で進むのかに着目し、体験の仕方を次のように定義し. 第二目的は探索的な研究であるため、仮説を持たない。. た。1)「体験自覚」(体験がどの程度しっかり自覚さ. <本研究の意義>. れているか)、2)「体験チャンネル」(どのような方. “ある個人の体験の仕方の一貫した傾向”の個人差を. 法・側面を通して自覚されているのか/4チャンネルか. 体験傾向という言葉でとらえ、検討しようとした研究は. ら構成/Table3) 、3)「体験受容」(本人は体験をど. 他に例を見ない。従来の研究からも示唆される体験傾向. う受け止めているのか/受容的か否か) 。. を実証的に検討する意味は大きいといえる。. Table 3 4つの体験チャンネル チャンネル. 自覚の仕方. Ⅱ.方法 例. 異なる3つの体験内容をどのような体験の仕方で体験. 感情. 感情. 嬉しい、腹が立つ、悲しい、楽しい. 認知・思考. 認知・思考. どうしたらいい?、何が起こった?. からだの感じ. からだの感じ. もやもや、どきどき、わくわく. するか、大学生を対象に質問紙法により測定した。. 直接行動. 行動に伴い、 後から気づく. やけ食い→ストレスに気づく 貧乏揺り→イライラに気づく. <質問紙>. <体験傾向>. 異なる体験内容に対する体験の仕方を測定するため、. ここで冒頭で述べた疑問に戻りたい。体験の仕方の個. 異なる体験をすると思われる3つの場面(場面A・B・C). 人差、つまり、ある個人がどのような体験内容でも同じ. を設定し、それぞれの場面での体験の仕方を尋ねる形式. ような体験の仕方で経験する傾向は存在するのかという. の質問紙を作成した。さらに、質問紙には第二分析で使. 疑問である。Gendlin(1978)は、最初の2回の面接(に. 用する既成の尺度も加えたため、質問紙の構成は次のよ. おける体験過程の様式)を分析すれば、セラピーが成功. うになった。1)場面提示とイメージアップ → その. する患者かどうかを予測できるという研究を紹介してい. 場面での体験の仕方を尋ねる質問項目(×3場面)、2). る。このことから彼は、ある個人の特定の場面における. 既成の尺度を測定するための質問項目。. 体験の仕方は、その人の他の場面での体験の仕方と一致. 場面設定はは、予備調査と学生相談で仕事をしている. する部分が多いと考えていたことが伺える。また成瀬. 臨床心理士2名のアドバイスを参考に、大学生に思い浮. (1995)や河野(1989)も、セラピー場面での体験の仕方の. かべやすく、異なった体験がされるであろう3場面を選. 変化が日常場面での体験の仕方の変化に繋がると述べて. んだ(Table4)。. おり、特定の場面における体験の仕方の変化が、その人. Tabel 4 場面設定. のほかの場面における体験の仕方と関連していると考え. 場面A あなたには、こいつはできる奴だと認めている友達(Aさん)がいます。あるとき 他の友達から、Aさんがあなたを高く評価し、誉めていたという話を聞きました。 場面B あなたは、自分が希望する進路(特定の会社や大学院等)のために努力してきまし た。しかし、試験の結果は×。希望する進路に進めないことが明らかになりまし た。 場面C 昨日あなたは、自分の彼氏/彼女が自分以外の異性と2人きりでお酒を飲みに行った のを目撃しました。今日あなたが「昨日はどうしてた?」と尋ねても、「同性の友 達と飲みに行ってた」と答えます。. 尺度. ているのが伺える。このように、個人の体験の仕方の傾 向とでもいえるようなものの存在は、Gendlin や成瀬、 河野らの記述からも示唆される。本研究では、ある個人 の体験の仕方の一貫した傾向を体験傾向と名付ける。 <本研究の目的> 本研究の目的は、異なる体験内容に対する体験の仕方. 項目. 体験の仕方を測定するための質問項目は、文献や、体 験の仕方に関するインタビュー調査を参考に筆者が作成 し、体験の仕方および心理学の研究に詳しい者(フォー カシング経験3年以上で、心理学の論文作成経験のある. を数量的に測定し、その一致度を検討することで、個人. 者)4名が検討した。. 差としての体験傾向が存在するかどうか実証的に検討す. 比較検討のために、神経症傾向などの精神的健康状態. ることである(第一目的)。あわせて、もし体験傾向が. を測定する GHQ(General Health Questionnaire)と、. 存在するなら、どのような体験傾向がいかなる意味を持 つのか検討する(第二目的) 。. 生活の質を測定する QOL(Quality of Life)の下位尺度で.
(3) ある、心理領域のQOL を合わせて実施した。. 信頼性係数αは.760 であった。. <実施>. [体験チャンネル]全場面コミで因子分析(最尤法、プ. 国立大学(2つ)と私立大学(1つ)の学部授業にて. ロマックス回転)した結果、想定通りの4因子が確認さ. 質問紙を配布した。一部をのぞき、質問紙は翌週の授業. れた。「直接行動」 、「からだの感じ」 、「認知・思考」 、. にて回収した。配布部数は 422 部で回収部数は 138 部. 「感情」と命名した。場面ごとに因子分析(同条件)を. であった(回収率32.7%) 。. 行った結果も、場面B、場面Cでは全場面コミと同様の. Ⅲ.結果. 因子構造が得られた。場面Aのみ第一因子が「感情+か. <分析対象>. らだの感じ」となり、「感情」と「からだの感じ」を弁. 聴講生などの理由で年齢が 30 代以上の被調査者、全. 別できなかった。因子が斜交していたこともあり、各尺. ての質問項目に答えていない被調査者等を除いた 106 名. 度の尺度得点は因子得点係数行列を使用して算出した。. を分析対象とした。分析対象者の平均年齢は 19.6 歳. <第一分析:各場面での体験の仕方尺度得点の一致度>. (SD1.48)、性別は女性 58 名(54.7%) 、男性 48 名. 体験の仕方がどの程度似かよっているかを検討するた. (45.3%)であった。. め、相関係数および重相関係数と一致係数を求めた。. <第一分析:体験の仕方尺度の検討> (Table5 参照). Table6 に、各尺度の重相関係数と一致係数を示した。比. 本研究は、場面ごとの体験の仕方尺度の平均値の差を. 較的高い重相関係数・一致係数がみられ、ある個人が異. 検討したいわけではない。受容しやすい場面や感情的に. なる体験内容を同じやり方で体験する傾向である「体験. なりやすい場面などがあるのは当然とした上で、個人の. 傾向」が存在するという仮説は概ね支持された。. 体験の仕方の特徴が現れているかどうかを検討したいの である。そこで分析では、体験の仕方尺度の得点を場面 ごとにZ変換した得点を使用した。 Tabel 5 体験自覚・体験受容の項目 尺度 体験自覚2. 項目 この場面で自分のこころとからだが何を感じているか気づいている. 体験自覚3*. この場面で自分が何を感じたり行動しているか自覚していない. 体験自覚1. この場面での自分の感じや行動に敏感に気づいている. 体験自覚5*. この場面で自分のこころとからだの状態がどうなっているかわからない. この場面で私は、思わず何らかの仕草(例えば、こぶしを握りしめる、ガッツ ポーズ、貧乏揺すりなど)をしてしまっている 直接行動1 この場面で私は、思わず何らかの行動(例えば、ものを蹴飛ばす、飛び跳ねる、 やけ食いするなど)をしてしまっている 直接行動3 この場面で私は、感じたり考えたりするよりも先に、何か行動をしてしまってい る 直接行動2 この場面で私は、思わず何らかの表情(例えば、眉間にしわを寄せる、口元がほ ころぶなど)をしてしまっている からだの感じ2 この場面で私は、からだの一部分になんとも表現しがたい感じがあるのを感じて いる からだの感じ3 この場面で私は、言葉で言い表すのが難しいような感じをからだで感じている. Table6 体験の仕方の重相関係数・一致係数 尺度. 重相関係数 重相関係数 F値 0.526 19.735 ***. 一致係数. 体験自覚 0.600 a) 体験チャンネル 直接行動 0.529 19.983 *** 0.652 b) からだの感じ 0.505 17.616 *** 0.687 b) 認知・思考 0.404 10.064 *** 0.590 a) 感情 0.571 24.885 *** 0.642 b) 体験受容 0.482 15.557 *** 0.645 a) F値の自由度(2,103)/***=p<.001(両側検定) a)ケンドールの一致係数Wc b)ケンドールの一致係数W. <第二分析:体験傾向得点とGHQ・QOL の関連>. 直接行動4. からだの感じ1 この場面で私は、胸やお腹のあたりで何か(例えば、モヤモヤ、ムカムカ、ワク ワク、ドキドキなど)を感じている 認知・思考4 この場面で私は、どういうこうとが起こっているのか理解しようと努力している 認知・思考2. この場面で私は、何故こういう事態になったのか、原因を考えている. 認知・思考1. この場面で私は、何が起こったのかいろいろ考えている. 認知・思考3. この場面で私は、これからどうすればいいのかあれこれ考えている. 感情1. 体験受容2. この場面で私は、自分の感情(例えば、嬉しさ、怒り、悲しみ、楽しさなど)に どっぷり浸っている この場面で私は、自分の感情(例えば、嬉しさ、怒り、悲しみ、楽しさなど)で 満ちあふれている この場面で私は、自分の感情(例えば、嬉しさ、怒り、悲しみ、楽しさなど)を 繰り返し感じ続けている 自分に生じてきた感じや気持ち、考え、行動などを大事にしている. 体験受容4. 自分に生じてきた感じや気持ち、考え、行動などを意味のあるものと感じている. 体験受容1. 自分に生じてきた感じや気持ち、考え、行動などを、そのまま素直に認めている. 感情4 感情3. *印は逆転項目. [体験自覚]因子分析結果を参考に、4項目を決定した。 信頼性係数αは.729 であった。 [体験受容]因子分析結果を参考に、3項目を決定した。. 第一分析によって、体験傾向が存在するという仮説が 支持された。そこで、各分析対象者の場面A、場面B、 場面Cの体験の仕方尺度得点を集計したものを、体験傾 向得点とした(以下、「体験受容(傾向)」のように記 す)。体験傾向得点と GHQ・QOL との相関を Table7 に示した。体験自覚(傾向)と GHQ のうつ傾向、およ び、体験受容(傾向)と GHQ の不安と不眠・社会的活 動障害の間に有意な相関が見られた。 Table 7 体験傾向得点とGHQ・QOLの相関 不安と 不眠 0.123. 体験自覚(傾向) 体験チャンネル(傾向) 直接行動(傾向) 0.102 からだの感じ(傾向) 0.143 認知・思考(傾向) 0.093 感情(傾向) 0.104 体験受容(傾向) 0.196 * *=p<.05、**=p<.01(両側検定). 身体的 症状 0.175. GHQ うつ傾向. 0.155 0.085 0.127 0.114 0.191 *. 0.258 ** 0.092 0.143 0.080 0.098 0.161. 社会的 活動障害 0.160. QOL 心理的領 域 -0.061. 0.057 0.053 0.126 0.074 0.038. -0.008 0.034 -0.022 -0.032 0.068.
(4) Ⅳ.考察. するならば、“個人差としての体験の傾向は存在すると. <体験の仕方尺度の分析より>. いえる。しかし、ある人の一つの場面での体験の仕方を. 体験の仕方測定尺度は、概ね尺度作成時の想定通りに. 詳細に観察したからといって、その人の他の場面での体. なった。ここでは、想定通りにならなかった部分を取り. 験の仕方を予測するのは困難である”ということになる。. 上げたい。. ではなぜ、本研究ではこの程度の一貫性しか見出すこ. 体験自覚、体験受容では、場面A、B、Cにおける因. とが出来なかったのであろうか?原因の一つとして考え. 子分析の結果がほぼ安定していた(注:本レジメの「結. られるのが“体験内容(場面)と個人の交互作用”とい. 果」では触れていない)のに対し、体験チャンネルでは、. う視点である。本研究では、Z変換によって“体験内容. 場面Aの因子構造と場面B、Cの因子構造が異なってい. が被調査者全体に与える一般的な影響”は取り除いたも. た(場面Aで「感情」と「からだの感じ」が同じ因子に. のの、“体験内容がある特定の個人にだけ与える特殊な. なった)のは何故か?各場面の特徴に注目すると、場面. 影響”は取り除けていない。それ故、設定した場面があ. B・Cは多くの人にとって不快な体験内容であり、場面. る被調査者だけに特殊な意味を持った場合、“体験内容. Aは快な体験内容である。この体験内容の質的な違いが、. (場面)と個人の交互作用”が生じ、重相関係数や一致. 体験チャンネルの構造に影響を与えた可能性がある。不. 係数が低下する恐れがある。交互作用がどの程度頻繁に. 快な体験では、感情とからだの感じは比較的別なものと. 生じるかという問題や研究法の問題も含め、今後検討し. して感じられるが、快な体験では、感情とからだの感じ. ていかねばならない。. は同時に体験され、その二つを区別することは難しいの. <体験傾向とGHQ・QOL の関連について>. かも知れない。このことはよく検討せねばならない。体. 体験傾向の一部と GHQ の一部の下位尺度の間に有意. 験内容によって体験の仕方の構造が影響を受けるという. な相関が見られたが、最も高い体験自覚(傾向)とうつ. 可能性は、これまで体験の内容と体験の仕方を全く別の. 傾向の間の相関ですら、.258 である。ここでは、自分の. もののように論じてきた筆者に、根本的な部分での再考. 体験を明瞭に意識しやすい者は自分の不快な体験にとら. を迫るものである。田嶌(1996)の、「体験様式という語. われてしまいやすいのかもしれないという可能性を指摘. を用いる際最も問題になるのは、体験内容と体験様式を. するのみで、性急な判断は避けたい。逆に、体験傾向と. 具体的にはどこで区別するかということである」という. GHQ・QOL の相関が無相関/弱い相関にとどまるとい. 指摘をよく吟味し、今後、体験の仕方とは何であるかを. うことから、体験傾向が精神的健康さや生活の質とは関. 再検討する必要がある。. 連が弱い/ない概念であるということを指摘しておきた. <体験傾向概念について>. い。今後体験傾向がどのような性質を持つのか検討する. 重相関係数と一致係数を用いた分析で、体験傾向概念. 際に、比較する尺度を再検討する必要があるだろう。. の妥当性は支持された。まずは、従来の研究からも読み. <今後の課題>. 取れる、“ある個人の体験の仕方の一貫した傾向”の存. 今後の課題として、1)体験内容と体験様式の違いを. 在を数量的に取り出すことができたことを評価したい。. どのように考えていくか、2)体験内容(場面)と個人. その上で筆者は、当初思い描いていた程には、“ある. の交互作用という要因をどのように考え、研究計画に組. 個人の体験の仕方の一貫性”が見られないことを問題に. み込んでいくか、3)体験傾向がいかなる性質を持つも. したい。認知・思考チャンネルの重相関係数(.404)のよ. のなのか、特徴をよく捉える為の視点の再検討も含め考. うに、係数が.5 を切るようでは、ある個人の一つの場面. える必要がある、の3点が確認された。. での体験の仕方を観察しても、その人が他の場面で同じ 様な体験の仕方をするかどうか、ある程度の確信をもっ て予測できないからである。本研究の結果を忠実に解釈.
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