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外国人児童生徒教育に関する研究 -JSLを中心に- [ PDF

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本研究の目的と方法 本研究の目的は、外国人児童生徒への授業改善の視点 を示すと共に、その学習保障に関する提言を行うことに ある。 そのため、日本語と教科の統合学習である JSL カリキ ュラムにおける先行研究を整理すると共に、日本語教員 配置校の実践をもとに、JSL カリキュラムの授業づくり の検証や外国人児童生徒に対する教育制度の在り方の考 察を行う。 ケーススタディの対象は、義務教育課程に在籍する外 国人児童生徒たちに対して行われている JSL カリキュラ ムについて、福岡県内で特に積極的に取り入れている県 内の2都市(福岡市・北九州市)と外国人児童生徒が多 い静岡県浜松市の事例からその有効性と課題を考察し、 外国人児童生徒への学習指導の在り方を解明することと する。事例を「福岡市・北九州市」としたのは. 外国人 児童生徒の指導に関して、各学校、学級での在籍数が少 ない「分散型」地区の代表例として、「浜松市」としたの は.各学校、学級での在籍数が多い「集中型」地区の代表 例として、取り上げる必要があったからである。具体的 には、福岡市・北九州市・浜松市で、現在、直接外国人 児童生徒の教育に携わっている教師が、①外国人児童生 徒の教科学習に関する学習をどうとらえているか。②外 国人児童生徒を実際に指導している教師はどのような意

題目「外国人児童生徒教育に関する研究 ~JSL を中心に~」

キーワード:外国人児童生徒・JSL カリキュラム・生活言語能力・学習言語能力・日本語指導 教育システム専攻 竹中 仁志 目 次 序章 本研究の目的と方法 第1節問題の所在とその背景 第2節研究の目的と研究の方法 (1)研究の目的 (2)研究の方法 第1章 急増する外国人 第1節国境を超える民族 (1)ヨーロッパ諸国でのボーダレスな状況 (2)世界の国際人口移動の今後の動向 第2節日本における在住外国人の現状 (1)外国人を取り巻く諸問題 (2)増加する日系定住外国人 第2章 日本語指導が必要な子どもたちの現状 第1節外国人児童生徒の教育課題 (1)学力保障と言葉の問題 (2)生活言語と学習言語 第2節 日本語指導が必要な子どもたちの状況 (1)少数在籍校における困り感と支援 (2)日本語指導が必要な子どもたちの教育に求 められていること 第3節 子どもたちに必要な言語の力 (1)生活に必要な言語と教科学習に必要な言語 (2)日本語指導が必要な児童生徒が抱える困難 さ (3)日本語指導の初期段階から求められる教科 学習 第3章 JSL カリキュラムの成果と課題 第1節 JSL の子どもたちのことばの教育の変遷 第2節 JSL カリキュラム概要 (1)外国人児童生徒教育の目的と内容 (2)JSL カリキュラムの特徴 第3節タイプ別 JSL カリキュラムの特徴 (1)トピック型 JSL カリキュラム (2)教科志向型 JSL カリキュラム (3)2 つのカリキュラムの関連 第4章 先進地区における JSL カリキュラムによる 成果と考察 第1節日本語学級担当教師へのアンケートから見 えるもの 第2節 福岡市の JSL ケーススタディ (1)福岡市の外国人児童生徒の状況 (2)小学校における授業の実際と考察 (3)行政の取り組み 第3節北九州市の JSL ケーススタディ (1)北九州市の外国人市民の現状と特徴 (2)北九州市の JSL カリキュラム実践状況 第4節浜松市の JSL ケーススタディ (1)浜松市の外国人の状況 (2)外国人児童生徒への支援 終章 これからの外国人児童生徒教育 第1節文部科学省の外国人児童生徒への対応施策 第2節研究からの考察 (1)我が国におけるこれまでの外国人児童生徒 教育の成果 (2)これまでの外国人児童生徒教育における課 題 (3)外国人児童生徒教育のための日本語教室担 当教員からの声 第3節外国人児童生徒への日本語教育としての 「特別の教育課程」 第4節外国人児童生徒教育への提言 主要引用・参考文献

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識をもって指導をしているのか。③外国人児童生徒の指 導に関する問題点は何か。をアンケートとインタビュー で明らかにしていく。 論構成では、序章において、外国人児童生徒の現状か ら研究の目的を、その解明の方途として方法を述べる。 第1章において、 日本での外国人の急増している背景や、 日本における在住外国人の現状を論じる。第2章では、 日本語指導が必要な子どもたちの状況や対応について考 察を述べる。第3章では、JSL カリキュラムの教育効果 や課題などを明らかにする。第4章では、在籍学級での 「授業改善」と「受入れ体制づくり」の二つの面から、 授業改善の視点や具体的な支援例、異なる文化をもつ子 どもたちを受け入れる学級づくりにつながる授業につい て、浜松市と福岡市・北九州市の日本語学級担当教師へ のアンケートやインタビューから成果や課題を論じる。 そして、終章では、本研究を振り返り、外国人児童生徒 教育の考察を行い、これからの外国人児童生徒教育の提 言を行うものである。 序章 本研究の目的と方法 本章では、外国人児童生徒の教育の問題の所在とその 背景や研究の動機や目的、そしてそれを解明するための 方法を述べる。研究の目的と方法は、冒頭で述べている ので、ここでは問題の所在を述べる。 1990 年の入管法の改正施行にともない、日本語指導 の必要な外国人の子どもたちが増加しており、 日本語指 導が必要な日本国籍の児童生徒 は前回調査より 675 人 増加している。 日本の教師が、外国につながりをもつ児童生徒を担任 することもそれほどめずらしいことではなくなったとい える。その一方で、日本の学校教育は外国人の子どもた ちの言語的なニーズに応え切れておらず、学力問題は今 だに深刻である。 特に、外国人児童生徒の長期的支援の 視点に立った在籍学級における効果的な授業づくりに課 題が残されている。「日本語指導が必要な子どもたち」が、 授業内容を理解することができるためには、どのような 授業づくりが必要なのであろうか。全国的にも、「日常会 話は流暢なのに学習についていけない子どもたち」の存 在をどうしていくかが問題であり、その課題を解明する。 第1章 急増する外国人 本章では、日本を含め、世界の人の流れはどうなって いるのか、そしてどんな問題が生じてきたのか、今何が 問題になっているのか、そして日本政府はどんな取り組 みをしようとしているのかを概観する。 現在、グローパル化が進行する中で世界的な人口移動 が生じている。それにより今までにない変化や文化的髄 離をもとにした価値の衝突(文化的葛藤)が生じている。 義務教育の学齢期にある外国人児童生徒への教育は、本 来受け入れ国の自然法的な義務なのか、それとも条約に より科せられた義務の履行なのか、或いは人道上の立場 から行なわれているものなのか。このような外国人児童 生徒教育に関する根本的な問いかけは、先進諸国におい て、越境する雇用と人口移動によってもたらされたもの である。このような状況の中で、日本の外国人児童生徒 教育には何が求められているのであろうか。また、これ を指標として日本の国民教育を規定する基本的な理念は どうあるべきなのであろうか。 長期的に見れば人口の減少は避けられず、人手不足が 深刻になり、日本にとって外国人の受け入れ拡大は避け て通れない議論となる。そうなると、当然外国人児童生 徒の受け入れ問題が顕著になる。1990 年の入管法改正時 以上に地方の学校、とりわけ今まで 1 人もいなかったよ うな所でも外国人児童生徒を受け入れることも多くなる であろう。日本語指導が必要な子どもたちの編入があっ たときに、各受入れ校において、日本語が理解できない 子どもたちに対して行うべき支援を具体例で示していく 必要がある。国としては日本語能力が不十分である外国 人や日系定住外国人を日本社会の一員としてしっかりと 受け入れ、社会から排除されないようにする」ことが重 要である。 第2章 日本語指導が必要な子どもたちの現状 本章では、外国人児童生徒の学校における課題として 近年、特に注目されてきている問題である学力保障につ いて、その課題を明らかにする。特に日本語指導が必要 な子どもたちの学力を保障するときに必要な、日本語の 力について考える。「JSL カリキュラム」が開発されるに 至った経緯に、「日常会話は流暢なのに学習についていけ ない子どもたち」の存在があった。この子どもたちの現 状については、下表のようにカミンズ によって整理され た二つの言語能力、「伝達言語能力」(以下「生活言語能 日本語指導が必要な外国人児童生徒数(2014)

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力」とする)と「学習言語能力」のモデルから説明する ことができる。「生活言語能力」は、日常的な生活場面に おいて、対面で口頭のコミュニケーションをする力であ る。これが、「日常会話」といわれる言語能力に相当する。 「生活言語能力」は、その言語環境で生活していれば、1 年から 2 年で獲得されるという。「学習言語能力」は、教 室での教科学習の際に必要とされる力、いわゆる、認知 的に高次の言語活動を行う力である。この獲得には、5 年から 7 年を要するといわれている。つまり、前述の「日 常会話は流暢なのに学習についていけない子どもたち」 は、生活言語能力は習得できているが、学習言語能力が 身についていない状態であるということである。 図表:2-7カミンズの「2言語共有説」(氷山説) 第3章 JSL カリキュラムの成果と課題 本章では、第2章で述べたカミンズの2言語理論を基 にして作られた JSL カリキュラムの特徴について論じる。 JSL カリキュラムは従来型のカリキュラムのように学習 項目を固定した順序で配置するものではなく、教師自身 が柔軟にカリキュラムを組み立てていくことをねらいと している。JSL カリキュラムは、初期指導を終えた後に、 日本語指導と並行して実施するためのカリキュラムであ り、文型や語彙などを中心にした日本語指導とこの JSL カリキュラムとを有機的に組み合わせることにより、子 どもたちを学習活動に参加させていくことをねらってい る。そのねらいを簡潔に表現するならば、日本語の習得 を通して学校での学習活動に参加するための力の育成を 目指したものである。JSL カリキュラムでは、大きく2 つのタイプを想定している。一つは、 各教科に共通した 学ぶ力の育成をめざすもので、具体物や直接体験を通し て、指導者や友達と関わって学んでいく授業の「トピッ ク型」JSL カリキュラムであり、もう一つは在籍学級で 行う授業よりもきめ細かな学習活動にし、学習支援と適 切な日本語支援を行うことで各教科の学習が進められる ようになることを目的としている「教科志向型」JSL カ リキュラムである。 第4章 JSL カリキュラムによる成果と考察。 第1節 アンケートから見えるもの 本章では、福岡市・北九州市・浜松市の日本語担当教 員に対して行ったものである。①児童生徒の言語習得状 況に関わるもの②JSL カリキュラムに関わるもの③外国 人児童生徒を指導するに当たっての課題という3項目に ついて調査したものを考察した。 例えば、設問 1 で「外国人児童が日本人と同じように クラスで教科授業についていくのは難しい。」に対して、 「そう思う」「どちらとも思えない」を合わせると 80% 以上の数値になった。このことから日本語の能力が学習 内容を理解するための大きな要因であると考えている教 員は多いことが判明した。また、他の設問では、「母語で の能力と日本での学習は関係ない」と捉えている教員が 多かった(82%)。だが、ヴィゴツキーが「外国語の習得に 成功するかどうかは、ある程度母語の成熟度にかかって いる」 と述べている母語の力についても注目すると、担 当教師との意識とのズレも見られた。その他の設問に対 しても考察を行ったが、特筆すべきは、ほとんどの担当 教員が外国人児童生徒教育において教員間の温度差があ ると回答していることと、JSL カリキュラムの使用に関 して二極化を呈していることである。 第2節 福岡市の JSL ケーススタディ 福岡市には、日本語指導担当教員が配置されており、 博多区、東区を中心に、小学校 11 校 18 名、中学校4校 5 名、合計 15 校校 23 名専任の教師が配置されている。 日本語指導の内容や方法については、児童・生徒の実 態に応じ、授業中の取り出し指導や授業への入り込み指 導、休み時間や放課後を利用した補習等を実施し授業や 学校生活に対応できる日本語能力を習得させるとともに、 教科等の指導を行っている。児童生徒理解を受け入れる ための学校運営への参画を進めるための具体的な事例把 握等を進めるための充実した研修を行っている。 図表: 外国人児童生徒教育における実態調査

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第3節北九州市の JSL ケーススタディ JSL カリキュラムのよさの分析と発信については、授 業研究を校内研修だけでなく、研究大会等、他校の教員 に授業を公開することで行うことにより、JSL カリキュ ラムのよさや作り方を広く発信している。北九州市の専 任教員が研修会での講師となるなど、専任教員の研究成 果も着実に上がってきている。さらに、JSL カリキュラ ムの原理を生かして在籍学級での授業に転用した新しい スタイルの授業の開発の可能性を追求している。また、 北九州市においては、外国人児童生徒が市内各地に分散 して生活しているが、日本語指導体制の改善の中心手立 てとして、JSL カリキュラムを活用した授業の研究も進 んでいる。課題については、外国人児童生徒の在籍校と 非在籍校では、大きな差があることである。非在籍校で は、初期日本語指導や JSL カリキュラム、日本語指導員 の訪問システムなどについての認識が十分でなく、負担 感を現実以上に感じている。 第4節 浜松市の JSL ケーススタディ 外国人の子どもの不就学の解消を喫緊の課題と捉え、 不就学を生み出さない仕組みを構築するため、2011 年度 (平成 23 年度)から 3 か年計画で、「外国人の子ども の不就学ゼロ作戦」事業を実施している。こうした浜松 市の取り組みも年々成果をあげてきているが、新たな課 題も見えてきている。その1つが教材開発であり、ニー ズに対して足りないのが現状である。今後の展望として は教材や教具を閲覧、貸し出しできるリソースセンター を設置したり、教科指導の実践例を蓄積、紹介したりす ることで、誰でも外国人児童生徒の学習支援に当たれる ような環境作りに着手している。 終章 「これからの外国人児童生徒教育」 本章では、文部科学省の外国人児童生徒へのこれまで の対応施策から平成26年度から施行される外国人児童 生徒への日本語教育としての「特別の教育課程」を概観 し、先のアンケート調査の考察とも合わせながら、これ からの外国人児童生徒教育への提言をする。さて、文科 省は「外国人の子弟には就学義務が課せられていないが、 我が国の公立小・中学校への就学を希望する場合には、 これらの者を受け入れることとしており、受け入れた後 の取扱いについては、授業料不徴収、教科書の無償給与 など、日本人児童生徒と同様に取り扱うことになってい る。このような外国人児童生徒の我が国の学校への受入 れに当たっては、日本語指導や生活面・学習面での指導 について特段の配慮が必要である。」とし、文科省は、こ れまでも様々な対策をとってきた。JSL カリキュラム開 発においても、その普及事業も展開してきている。しか し、アンケートにもあるように教育現場では使いにくい といった声も現実にはある。日本語学級の担任さえ使用 してないこともある。今回調査した結果から、最大の課 題は、教育現場の人材不足であり、外国人児童生徒の教 育の教師間の「温度差」である。言い換えれば、日本語 教育に携わる専門家が、本来ならば日本語教室には必要 であると言える。では、専門家としての研修を積んだ教 員は、全て日本語教室の担当者になるかというと、そう ではない現実のゆがみ・矛盾を感じざるを得ないのであ る。また、実際に児童生徒の指導に携わる教員に、日本 語教育法を専門的に研修する機会も十分でない現状があ る。こういった問題を解決していくためには、まず外国 人児童生徒の指導が一部分の教師に任せられているよう な状態から、学校内のすべての教師が外国人児童生徒の 指導に関わっていく状態へと直していく必要がある。 特に 1 校あたりの外国人児童生徒の在籍数が少ない場 合、外国人児童生徒の指導がある一定の教師にのみに委 ねられ、その教師の負担が非常に大きくなっている場合 がある。こういった状態を改善するためには、学校長をは じめとする管理職が率先し外国人児童生徒を学校全体で 受け入れる体制を整える必要がある。特定の教師だけで なく、すべての教師が学校全体として外国人児童生徒を 受け入れるような意識を持つことにより、現在の多くの 問題を改善でき、外国人児童生徒へのきめ細かな指導に つながるからである。また、教員がじっくりと外国人児童 生徒と向き合って教育できないという切実な問題も声と してあがってきた。原因は、教職員の人事問題である。 定期異動によって日本語指導に熱心に関わっていた教員 が非在籍校に異動したり、校内人事においても、短期間 で担任が替わったりしているのが、この外国人児童生徒 教育の最大の課題ではなかろうか。 以上のような課題の解決が、外国人児童生徒教育の充 実と外国人児童生徒の学習保障につながっていくと提言 する。 主要参考・引用文献 ① ジム・カミンズ(著)・中島和子(訳著)(2011) 『言語マイノリティを支える教育』慶応義塾大 学出版会 ② 松尾知明 (2011) 国立教育政策研究所紀要 第 140 集 外国人児童生徒と学力保障 ③ 文科省初等中等教育局国際教育課『学校教育に おける JSL カリキュラムの開発について(最終 報告)』小学校編 ④ 川上郁雄・石井恵理子・池上摩希子・齋藤ひろ み・野山広編(2009)『「移動する子どもたち」 のことばの教育を創造する―ESL 教育と JSL 教 育の共振―』ココ出版

参照

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