平成
29 年度
卒業論文
第四元素を添加した Nb
3Sn の
上部臨界磁界及び臨界電流密度特性
小田部研究室
(学籍番号:16232209)
米塚 里奈
九州工業大学
情報工学部
電子情報工学科
指導教員:小田部 荘司 教授
平成
30 年 2 月 16 日
目次
第1章 序論---1 1.1 はじめに---1 1.2 超伝導現象---1 1.2.1 完全導電性---1 1.2.2 マイスナー効果(完全反磁性)---1 1.2.3 第一種・第二種超伝導体---2 1.3 超伝導体の種類---3 1.3.1 合金系超伝導体---3 1.3.2 化合物系超伝導体---3 1.4 超伝導応用---4 1.4.1 核磁気共鳴分析器(NMR) ---4 1.4.2 磁気共鳴画像(MRI) ---5 1.4.3 国際熱核融合実験炉(ITER) ---6 1.5 Nb3Sn 線材の作製方法---6 1.5.1 ブロンズ法---7 1.5.2 内部拡散法---8 1.5.3 PIT 法---9 1.6 元素添加効果---10 1.7 WHH 理論---10 1.8 ピン力密度のスケール則---11 1.9 磁束クリープ・フローモデル---11 1.10 目的---12 第2章 実験方法と試料の諸元---14 2.1 試料諸元---14 2.2 試料の断面観察---142.3 測定方法---18 2.3.1 臨界電流密度𝐽cの測定---18 2.3.2 上部臨界磁界𝐵c2の評価---21 2.3.3 電界-電流密度(𝐸-𝐽)特性の評価---22 第3章 実験結果と考察---23 3.1 実験結果---23 3.1.1 𝐵c2-𝑇特性---23 3.1.2 𝐽c-𝐵特性---24 3.1.3 𝐸-𝐽特性---26 3.2 考察---28 3.2.1 推定した0 K における𝐵c2---28 3.2.2 ピン力密度のスケール則による解析---30 3.2.3 磁束クリープ・フローモデルによる解析---32 第4章 まとめ---34 参考文献---35 謝辞---37 研究業績---37
図目次
表 1.1 マイスナー効果(a)𝑇c以上で磁界を加えたのち、𝑇c以下に冷やした場合 (b)𝑇c以下に冷やしてから磁界を加えた場合 ... 2 表 1.2 磁化の磁界依存性[1] (a)第一種超伝導体(b)第二種超伝導体 ... 3 表 1.3 金属系超伝導材料の臨界温度𝑇cと上部臨界磁界𝐻c2の関係... 4 表 1.4 磁界中の原子核スピンの運動 ... 5 表 1.5 トンネル型 MRI とオープン型 MRI ... 6 表 1.6 ITER の概要図 ... 7 表 1.7 ブロンズ法の模式図 ... 8 表 1.8 内部拡散法の模式図 ... 9 表 1.9 Nb3Sn 層における𝐽cの磁界変化(PIT 線材法、ブロンズ法線材、内部拡 散法RRP 線材) ... 10 表 2.1 ST-100 における試料断面 ... 15 表 2.2 Mg-100 における試料断面 ... 15 表 2.3 Hf-100 における試料断面 ... 15 表 2.4 Ge-100 における試料断面 ... 15 表 2.5 Ga-100 における試料断面 ... 16 表 2.6 Ta-100 における試料断面 ... 16 表 2.7 ST-100 における Nb3Sn 層断面 ... 16 表 2.8 Mg-100 における Nb3Sn 層断面... 16 表 2.9 Hf-100 における Nb3Sn 層断面 ... 16 表 2.10 Ge-100 における Nb3Sn 層断面 ... 16 表 2.11 Ga-100 における Nb3Sn 層断面 ... 17 表 2.12 Ta-100 における Nb3Sn 層断面 ... 17 表 2.13 超伝導体の磁気ヒステリシスループの例 ... 18 表 2.14 磁束線が侵入した場合の磁束密度の空間分布 ... 20 表 2.15 磁束線が侵入した場合の電流の流れ方 ... 20表 2.16 磁気モーメントの磁界特性(𝑚-𝐵特性)の例 ... 20 表 2.17 磁気モーメントの温度特性(𝑚-𝑇特性)の例 ... 21 表 2.18 𝛥𝑚′の温度依存性 ... 21 表 2.19 磁気モーメントの時間依存性(磁化緩和測定) ... 22 表 3.1 100 時間試料における𝐵c2-𝑇特性 ... 23 表 3.2 ST-100 における𝐽c-𝐵特性 ... 24 表 3.3 Mg-100 における𝐽c-𝐵特性 ... 24 表 3.4 Hf-100 における𝐽c-𝐵特性 ... 25 表 3.5 Ge-100 における𝐽c-𝐵特性 ... 25 表 3.6 Ga-100 における𝐽c-𝐵特性 ... 25 表 3.7 Ta-100 における𝐽c-𝐵特性 ... 25 表 3.8 ST-100 における𝐸-𝐽特性 ... 26 表 3.9 Mg-100 における𝐸-𝐽特性 ... 26 表 3.10 Hf-100 における𝐸-𝐽特性 ... 26 表 3.11 Ge-100 における𝐸-𝐽特性 ... 26 表 3.12 Ga-100 における𝐸-𝐽特性 ... 27 表 3.13 Ta-100 における𝐸-𝐽特性 ... 27 表 3.14 各試料における𝐵c2の温度依存性をゼロ磁界まで外挿し、得られた𝑇c∗ の例 ... 29 表 3.15 6 – 14 K における Hf-100 のピン力密度のスケール則の結果 ... 31 表 3.16 100 時間試料の 14 K におけるピン力密度のスケール則 ... 31 表 3.17 100 時間試料の 6 – 14 K における𝐽c-𝐵特性の実験結果と解析結果の 比較 ... 33
表目次
図 2.1 試料名と元素添加量 ... 14 図 2.2 100 時間試料の試料サイズ ... 15 図 3.1 100 時間試料おける𝐵c2-𝑇特性 ... 24 図 3.2 100 時間試料における推定される𝑇c∗, 𝐵c2(0), 𝐵c2∗ (0) ... 29 図 3.3 各試料のピン力密度のスケール測におけるγとδ ... 31 図 3.4 100 時間試料におけるピンニング・パラメータ ... 32第1章
序論
1.1
はじめに
1908 年にオランダの Heike Kamerlingh Onnes が世界で初めてヘリウムの液化 に成功した。1911 年には液体ヘリウムを用いて水銀の電気抵抗を測定する過程
において、4 K 近傍で電気抵抗が突然降下し、ゼロになることを発見した。1933
年には Fritz Walther Meissner によって超伝導体のマイスナー効果(完全反磁性)
が発見された。完全反磁性とは、超伝導体に外部磁界𝐻eを加えても超伝導内部
の磁束密度𝐵はゼロのまま変化しないという特性である。電気抵抗ゼロと完全反
磁性の 2 つの現象を超伝導現象といい、超伝導状態に対応する電気抵抗がゼロ
でない状態を常伝導状態という。
1957 年には John Bardeen、Leon Neil Cooper、John Robert Schrieffer らの BCS 理論により超伝導発現機構が説明された。BCS 理論では、超伝導体の臨界温度
𝑇cがおよそ30 K と考えられていたが、1986 年に Johannes Georg Bednorz と Karl
Alex Müller により、𝑇cが30 K を超える超伝導体が発見された。これ以降、高温 超伝導体の探索が続けられている。2015 年には Mikhail Eremets らによってH2S が超高圧化において203 K で超伝導体になることが発見された。
1.2
超伝導現象
1.2.1 完全導電性 超伝導体を冷やしていくと、ある温度で超伝導体の電気抵抗が消失する。この ように、電気抵抗がゼロの性質を完全導電性という。また、電気抵抗がゼロにな る温度を臨界温度𝑇cという。 1.2.2 マイスナー効果(完全反磁性)してから磁界を加えた場合を示す。いずれも𝑇c以下では完全反磁性状態が実現し ている。また、マイスナー効果は完全導電性とは独立なものである。 1.2.3 第一種・第二種超伝導体 超伝導体には第一種超伝導体と第二種超伝導体の 2 種類があり、超伝導状態 から常伝導状態へと遷移する状態によって分類される。 第一種超伝導体では、外部磁界𝐻eが臨界磁界𝐻cまでは完全反磁性を示し、𝐻c を超えると超伝導状態から常伝導状態へ遷移する。第二種超伝導体では、下部臨 界磁界𝐻c1まで完全反磁性を示し、𝐻c1を超えると磁束が侵入する。上部臨界磁界 𝐻c2以上となると超伝導状態は破壊され、常伝導状態に遷移する。 図1.1 マイスナー効果 (a)𝑇c以上で磁界を加えたのち、𝑇c以下に 冷やした場合(b)𝑇c以下に冷やしてから磁界を加えた場合
図1.2 磁化の磁界依存性[1] (a)第一種超伝導体、(b)第二種超伝導体
1.3
超伝導体の種類
1.3.1 合金系超伝導体 合金系超伝導体は、遷移金属合金と典型元素合金に分けられる。遷移金属合金 であるNb-Ti 系合金のメリットは、大型のインゴットが生産可能、安定化のため の Cu との複合加工が容易 、機械的歪みによる特性変化が小さいなどが挙げら れる。そのため、大量生産に適して安価である。 Nb-Ti 合金線材は MRI、粒子加速器、SMES などに利用され、またNb3Sn 高磁 界マグネットのバックアップコイルにも広く用いられている。[2] 1.3.2 化合物系超伝導体 化合物系超伝導体は、他の純金属や合金系超伝導体と比べると𝐻c2の値が大き い材料を得ることができる超伝導体で、A15 型金属間化合物のNb3Sn と 1.3.1 項 で紹介した合金系超伝導体Nb-Ti 合金を比較すると、約 2 倍の𝐻c2を持つことが 知られている。A15 型金属間化合物は、A3Bという化学式で表され、Nb3 Ge や Nb3Sn などがある。特に、Nb3Sn は高磁界 NMR 装置や核融合装置、無冷媒超伝 導マグネットなどに広く用いられており、更なる発展が期待されている。1.4
超伝導応用
1.4.1 核磁気共鳴分析器(NMR)
核磁気共鳴分析器は、核磁気共鳴現象(Nuclear Magnetic Resonance)を利用した
機器で、化学物質の構造の決定や、タンパク質などの立体構造の解析に利用され ている。核磁気共鳴分析では、結晶化できない物質を水溶液の状態で解析ができ るが、分子量が大きな物質では解析が困難である。[4] 核磁気共鳴現象とは、磁界中の原子核に共鳴周波数の電磁波を外部から加え ると、電磁波からエネルギーを吸収し、放出する現象である。原子核は陽子と中 性子から成り、陽子数と中性子数のいずれかが偶数でない原子核は磁気モーメ ントを持つ。磁気モーメントは均一な静磁界𝐵0の中に置かれると、ラーモア歳差 運動を行う。その周波数𝑣0をラーモア周波数と呼び、 𝑣0 = 𝛾 2𝜋𝐵0 (1.1) のように𝐵0に比例する。また、磁気回転比γは原子核の種類に固有な定数であ る。[5] 図1.3 金属系超伝導材料の臨界温度𝑇cと上部臨界磁界𝐻c2の関 係[3] A15 型金属間化合物は 2 つの群(点線)がある。Nb3Sn のよ うに化学量論比組成が容易に得られる群と、そうでない群。A15 型金属間化合物のNb3Sn と 1.3.1 項で紹介した合金系超伝導体 Nb-Ti 合金を比較すると、約 2 倍の𝐻c2を持つ。
1.4.2 磁気共鳴画像(MRI)
磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging)は、核磁気共鳴現象を原理とする画
像化技術である。MRI では、体内の水(水素原子核)の NMR 信号強度を濃淡に 変換して画像化する。NMR の信号は非常に微弱なため、ノイズが少なく、安定 な磁界を発生する超伝導マグネットが必要となる。 MRI 装置は、トンネル型とオープン型があり、広く普及しているのはトンネ ル型である。トンネル型は1 – 2 T の高磁界を発生する場合に有利で、オープン 型はMRI で観察しながら簡単な診察や手術ができるという利点がある。[6] 図1.4 磁界中の原子核スピンの運動 磁気モーメントは均一 な静磁界𝐵0の中に置かれると、ラーモア歳差運動を行う。そ の周波数𝑣0をラーモア周波数という。
1.4.3 国際熱核融合実験炉(ITER)
国際熱核融合実験炉(International Thermonuclear Experimental Reactor)は、核融 合エネルギーの科学的・技術的に実証可能であることを調査・検討するための実 験炉である。現在ITER 計画には、日本・欧州・米国・ロシア・中国・韓国・イ ンドの7 極が参加し計画が進められている。ITER の超伝導コイルには、トロイ ダル磁界(TF)コイル、不整磁界補正コイル(CC)、ポロイダル磁界(PF)コイル、中 心ソレノイド(CS)コイルの 4 種類がある。 トロイダル磁界(TF)コイルは、プラズマを閉じ込めるための磁界を発生するコ イルである。そして、トロイダル磁界(TF)コイルによって発生する不整磁界を補 正するためのコイルが不整磁界補正コイル(CC)である。ポロイダル磁界(PF)コイ ルは、プラズマに電流を流しプラズマの位置および形状を制御するコイルであ る。中心ソレノイド(CS)コイルは、電磁誘導によりプラズマを生成するためのコ イルである。 図1.5 トンネル型 MRI とオープン型 MRI[7] 広く普及して いるのはトンネル型である。トンネル型は1 – 2 T の高磁界を 発生する場合に有利で、オープン型はMRI で観察しながら簡 単な診察や手術ができるという利点がある。
1.5
Nb
3Sn 線材の作製方法
1.5.1 ブロンズ法 ブロンズ法とは、ブロンズ(Cu-Sn 合金)と Nb 芯を複数本複合し、線引き加工 後熱処理をすることで、Sn と Nb 芯との固体拡散により芯の表面から層を生成 させる方法である。 ブロンズ法は、Nb3Sn 線材の他の製法に比べると、極細芯の線材加工ができる ため交流損失が小さくなるなどの利点がある。欠点としては、Cu-Sn 合金の Sn 濃度を高めたいが、固有限の 15.8 wt.%を大きく超える Sn 濃度にすると断線が 発生しやすくなるため、16 wt.%程度までしか Sn 濃度が高められない。[9, 10] 図1.6 ITER の概要図[8] トロイダル磁界コイルは、プラズマを閉じ 込めるための磁界を発生するコイルである。そして、トロイダル磁界 コイルによって発生する不整磁界を補正するためのコイルが不整磁界 補正コイルである。ポロイダル磁界コイルは、プラズマに電流を流し プラズマの位置および形状を制御するコイルである。中心ソレノイド コイルは、電磁誘導によりプラズマを生成するためのコイルである。1.5.2 内部拡散法 内部拡散法とは、Cu マトリクス中に複数の Nb 芯と Sn-Ti 芯を配した複合体 を線引加工後熱処理し、Cu 中に Sn を拡散させブロンズとし、更に Nb 芯を Nb3Sn 芯に変化させる方法である。また、𝐵c2を高め、拡散を促進させるためにSn に少 量のTi を添加する。 内部拡散法ではCu、Sn、Nb などを用いるため、加工硬化が少なく、中間焼鈍 が不要で製造期間や製造コストの点で優れている。[11] 図1.7 ブロンズ法の模式図 ブロンズ(Cu-Sn 合金)と Nb 芯を複数本 複合し、線引き加工後熱処理をすることで、Sn と Nb 芯との固体拡散 により芯の表面から層を生成させる方法である。
1.5.3 PIT 法
PIT(Powder in Tube)法は、超伝導体粉末を金属管に充填し線材に加工後、熱 処理をする方法である。PIT 線材は、高磁界マグネットや 8 – 12 K で運転する伝 導冷却型超伝導マグネット、国際熱核融合実験炉(ITER)への応用が考えられてい る。[12] 図 1.9 には、PIT 法線材(Shape Metal Innovation 社)・ブロンズ法線材・
内部拡散法RRP(Restacked Rod Process)線材の Nb3Sn 層における𝐽cの磁界変化を
比較した。 PIT 法 Nb3Sn 線材は、Sn を含む粉末を Nb 合金チューブの内部に充填し、そ の外周にCu を配置したものを多数束ねた断面形状となっている。PIT 法では、 チューブ内部でCu-Sn 合金化が起こるため、加工硬化の影響が小さい状態で Sn 濃度を増加させることが可能となる。[13] 図1.8 内部拡散法の模式図 Cu マトリクス中に複数の Nb 芯と Sn-Ti 芯を配した複合体を線引加工後熱処理し、Cu 中に Sn を拡散させ ブロンズとし、更にNb 芯を Nb3Sn 芯に変化させる方法である。
1.6
元素添加効果
1.5.1 項で紹介したブロンズ法は、高磁界で高い𝐽c特性が得られる。この手法の ブロンズへの少量のチタン(Ti)添加は、Nb3Sn 層への固溶に伴った空格子点の増 加によりSn の格子拡散係数を増大させ、結果的に Nb3Sn の結晶成長を促進させ る。同様な効果はハフニウム(Hf)でも報告されている。更にこの添加は結晶粒の 微細化による結晶粒界面の増加と、コヒーレンス長が短くなる効果から、𝐽cと𝐵c2 が向上する。[14] 同様に、タンタル(Ta)、ガリウム(Ga)添加による𝐵c2の増加、ジルコニウム(Zr)、 マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)添加による𝐽cの増加が知られている。[15]1.7
WHH 理論
WHH(Werthamer-Helfand-Hohenberg)理論は、𝐵c2の実験結果の解析に用いられ る。電子の平均自由行程が BCS のコヒーレンス長より十分に小さい極限(dirty 図1.9 Nb3Sn 層における𝐽cの磁界変化(PIT 法線材、ブロンズ法線材、 内部拡散法RRP 線材)[12] PIT 法線材とブロンズ法線材を比較する と、12 T においては PIT 法線材の𝐽cがブロンズ法線材の𝐽cの約2 倍と なっている。limit)における上部臨界磁界の絶対零度での値を𝐵c2∗ (0)とすると、 𝐵c2∗ (0) = 0.693 × 𝑇c∗|d𝐵c2 d𝑇 |𝑇=𝑇c∗ (1.7) という関係がある。[16]
1.8
ピン力密度のスケール則
規格化磁場𝑏 = 𝐵/𝐵c2とする。ピン力密度𝐹p∝ 𝑏γ(1 − 𝑏)δをピン力密度のスケ ール則と呼ぶ。ピン力密度のスケール則は、特定の温度および磁界下でのピン力 密度を測定せずに推定が可能というメリットをもつ。[17]1.9
磁束クリープ・フローモデル
磁束クリープの影響がない仮想的な臨界電流密度を𝐽c0とする。この𝐽c0の温度 及び磁界依存性を、 𝐽c0= 𝐴 (1 − 𝑇 𝑇c) 𝑚 𝐵𝛾−1(1 − 𝐵 𝐵c2) 2 (1.9) のように表すことができる。ここで、𝑗 = 𝐽/𝐽c0とおく。𝑗 ≤ 1では、ピンニング作 用により超伝導全体で磁束線が止められた状態であり電界は発生しない。しか し、𝑗 > 1では磁束分布が安定ではなくなり、磁束線が運動し磁束フロー状態と なる。発生する電界𝐸ffは、 𝐸ff = 0; 𝑗 ≤ 1 = 𝜌f(𝐽 − 𝐽c0); 𝑗 > 1 (1.10) で与えられる。𝜌fはフロー比抵抗である。熱活性化によりピン止めされた磁束線 の一部がピンニングセンターから飛び出すため、実際には𝑗 ≤ 1であっても電界 が生じる。これを磁束クリープという。この磁束クリープにより生じる電界𝐸cr は、となる。また、ピンニング・ポテンシャル𝑈0はバルク超伝導体の場合、以下の式 で表される。 𝑈0 = 0.835𝑔 2𝑘 B𝐽c01 2⁄ (2π)3 2⁄ 𝐵1 4⁄ (1.12) そして、𝐸cr、𝐸ffの2 つの寄与からなる電界𝐸が 𝐸 = (𝐸cr2 + 𝐸ff2)1 2⁄ (1.13) により近似的に与えられると仮定すると、𝑗 < 1では電界𝐸はクリープ電界𝐸crの みとなり、𝑗 ≫ 1ではフロー電界𝐸ffが支配的になる。また超伝導内部は、作製法 や拡散温度等により超伝導層が不均一となり、ピン力の強さも分布することが 知られている。[18, 19]
1.10
目的
超伝導Nb3Sn は、NMR 分析装置などの超伝導マグネットに利用され、高磁界 において優れた𝐽cを持つ超伝導材料である。更なる高磁界領域での応用利用のた めには、より一層の𝐽c特性向上が必要である。まず、Nb3Sn の歴史について紹介 する。 1954 年、Bell 研の Matthias のグループによって Nb3Sn が発見された。次いで、 1961 年に Kunzler らは Sn を過剰に加えた Nb+Sn の混合粉末を Nb シースに充 填し、線材に加工後熱処理を行うことで、4.2 K、8.8 T、芯あたり 1500 A/mm2の 𝐽cを得た。日本では、1965 年に Nb シースと Sn を積層し加工後熱処理する Nb3Sn 多層丸線材が発表された。Nb3Sn の長尺線材は、RCA 社の Hanak らにより作製 された。ハステロイテープの上に、連続的な化学蒸着法により Nb3Sn 層を付着 させ、その上に安定化 Ag 層を被覆する方法である。また GE 社では、Nb 基盤 テープを溶融 Sn 浴中を連続的に通過させて Sn を付着し、950℃で熱処理して Nb と Sn の拡散により Nb3Sn 層を生成、さらにその上に安定化 Cu テープを貼 り付けた Nb3Sn テープが開発された。1970 年代には、IGC 社により Nb3Sn 拡 散テープを用いた 15 T 級の物性研究用マグネットが市販された。また、Nb3Sn 拡散テープはBrookhaven 研の 110 m 長の超伝導送電テストケーブルにも用いら れた。[20] Nb3Sn 作製方法の一つにブロンズ法がある。ブロンズ法とは、ニオブとブロン ズを合わせ、熱拡散処理を行うことで、ニオブとブロンズの境界に Nb Sn を生成する方法である。ブロンズに少量のTi を添加することで、Nb3Sn の成長促進、
𝐵c2と𝐽c特性が向上することが知られている。また、Ti 以外にも添加により同様
の効果を示す元素添加がある。現在、Ti と同時に第四元素を添加することによ
って、𝐵c2と𝐽c特性が向上する可能性があるのか、どのような元素または組み合
わせがどの特性に有効なのか十分に調査されていない。そこで、本研究では
Nb3Sn 用ブロンズ(組成:Cu-15Sn-0.3Ti)に第四元素として Mg, Hf, Ge, Ga, Ta 元
素を添加し、𝐵c2と𝐽c特性を測定することで、第四元素添加がこれらの特性にど
第2章
実験方法と試料の諸元
2.1
試料諸元
今回測定に使用したNb3Sn は、1.5.1 項に示すブロンズ法を用いて作製された。 作製元は株式会社大阪合金工業所である。Ti 添加されたブロンズ (Cu-15Sn-0.3Ti)を出発材料とし、このブロンズに更に Mg、Ga、Ge、Hf、Ta を第四元素と して添加した。 また、700℃の熱処理を 100 時間で行った。表 2.1 に試料名と元素添加量を示 す。添加量が最も多い Ga は、現在+10.0 mass%程度まで添加可能であることが 確認されており、今回は試験的に+5.00 mass%とした。添加量が最小の Ta は、限 界値である+0.08 mass%とした。2.2
試料の断面観察
試料の断面観察および Nb3 Sn 層の厚さの評価は EPMA(Electron Probe Micro
Analyzer)を用いて、株式会社大阪合金工業所が行った。表 2.2 に各試料における 試料サイズを示す。また、図2.1 – 2.6 には各試料における断面図、図 2.7 – 2.12 にはNb3Sn 層の断面を示す。図中の黒い領域が銅、薄い灰色の領域(上下二つ)が ニオブ、ニオブ層の上または下にある白い領域が Nb3Sn 層である。上下二つの ニオブ層の間に挟まれている灰色の層がブロンズとなっている。 表2.1 試料名と元素添加量
Composition (mass%) 100 時間 Cu-15Sn-0.3Ti ST-100 +0.50Mg Mg-100 +0.50Hf Hf-100 +0.05Ge Ge-100 +5.00Ga Ga-100 +0.08Ta Ta-100
表2.2 100 時間試料の試料サイズ
ST-100 Mg-100 Hf-100 Ge-100 Ga-100 Ta-100
Length[mm] 4.70 4.50 3.40 4.60 4.20 4.55 Width[mm] 2.40 3.30 3.20 2.90 3.30 3.30 Sample thickness[mm] 0.413 0.247 0.254 0.365 0.235 0.385 Nb3Sn layer Thickness [μm] 2.68 22.1 24.4 27.2 14.7 30.8 図2.1 ST-100 における試料断面 図2.2 Mg-100 における試料断面
図2.5 Ga-100 における試料断面 図2.6 Ta-100 における試料断面
図2.7 ST-100 における Nb3Sn 層断面 図2.8 Mg-100 における Nb3Sn 層断面
2.3
測定方法
今回の測定には、SQUID 磁力計(MPMS7)を用いた。第四元素添加により、𝐽c、 𝑇c、𝐵c2が変化している可能性があるため、4.2 – 14 K における直流磁化測定の結 果から、各温度における𝐽c-𝐵特性を求めた。また、𝑇c近傍における直流磁化率の 温度依存性から𝐵c2-𝑇特性を求めた。 磁束クリープ・フローモデルを用いて、各試料における𝐽cの向上が、𝐹pと𝐵c2の 変化のどちらが支配的かを明らかにするため、6 – 14 K における磁化緩和測定を 行った。その結果から各温度における電界-電流密度(𝐸-𝐽)特性を求めた。 2.3.1 臨界電流密度𝐽cの測定 超伝導体の磁気ヒステリシスループの例を図2.13 に示す。直流磁化測定にお いて、図2.13 中の赤線に示す初期磁化の影響をなくすために測定前に-2 T 印加 した。また、𝐽cは磁気ヒステリシス曲線におけるヒステリシスの幅Δ𝑚を以下の 式に代入することにより求めた。 𝐽c = 6 𝑤2(3𝑙 − 𝑤)𝑑Δ𝑚 (2.1) 𝑙 は試料の長さ、𝑤(𝑙 > 𝑤) が幅、𝑑 が厚さである。ここで、式(2.1)の導出を 行う。長さ𝑙、幅𝑤(𝑙 > 𝑤)の平板状超伝導体の広い面に垂直に磁界を加えた場合 について考える。試料に座標を設け、試料の幅方向、長さ方向、厚さ方向を軸 図2.13 超伝導体の磁気ヒステリシスループの例 −7 −6 −5 −4 −3 −2 −1 0 1 2 3 4 5 6 7 −0.3 −0.2 −0.1 0 0.1 0.2 0.3 B [T] m [e m u ] Δmとし、試料の中心を原点とする。四方向から試料へ磁束が侵入し、これを遮蔽 する電流は、臨界電流密度が等方的ならば、Bean モデル(ピン力密度が磁束密 度に比例する、つまり臨界電流密度が磁束密度に対して一定であると仮定した 場合の第二種超伝導体内部の磁束分布モデル)を仮定すると図 2.14 の斜線部 分を流れる環状電流となる。この微小幅d𝑥に流れる微小電流d𝐼cをとする。この 細い電流路の z 軸方向のサイズをd𝑧とするとd𝐼c = 𝐽cd𝑥d𝑧である。さらに幅d𝑥 の帯に囲まれた領域の面積を𝑆とすると、𝑆は𝑥のみの関数と表すことができ、 𝑆 = 4𝑥 (𝑥 +𝑙 − 𝑤 2 ) = 4𝑥2+ 2𝑥(𝑙 − 𝑦) (2.2) となる。 また、この微小電流によって発生する磁気モーメントはd𝑚 = 𝑆d𝐽cとなる。し たがって、発生する磁気モーメントは 𝑚 = ∬ 𝑆(𝑥)𝐽cd𝑥d𝑧 = 𝐽c𝑑 ∫ 𝑆(𝑥) d𝑥 (2.3) となる。ここで、𝑑は超伝導体の厚みである。これを計算すると 𝑚 =𝐽c𝑤 2(3𝑙 − 𝑤)𝑑 12 (2.4) となる。図 2.14 における磁束密度の空間分布は、下部が外部磁界の増磁過程、 上部が減磁過程を表す。また、図2.14 を𝑐軸方向正から俯瞰した図が図 2.15 で ある。電流のループと微小幅d𝑥の範囲に帯に囲まれた領域を図に示す。 したがって、式(2.3), 𝛥𝑚 = 𝑚/2を用いて、 𝛥𝑚 =𝐽c𝑤 2(3𝑙 − 𝑤)𝑑 6 (2.5) これを変形すると式(2.1)となる。 図 2.16 に磁気モーメントの磁界特性(𝑚-𝐵特性)の例を示す。ここで、図中に おける白抜き丸が理論値、黒塗り丸が実験値である。一部の結果でフラックス ジャンプが発生したため、多項式近似を用いて、フラックスジャンプが発生し ていない場合の𝑚-𝐵特性を推定した。推定した𝑚-𝐵特性と(2.1)式を用いて、𝐽c-𝐵 特性を求めた。ここで、電界基準は1.0 × 10−9 V/mとした。
図2.14 磁束線が侵入した場合の磁束密度の空間分布 図2.15 磁束線が侵入した場合の電流の流れ方 図2.16 磁気モーメントの磁界特性(𝑚-𝐵特性)の例 0 1 2 3 4 5 6 7 −6 −4 −2 0 2 4 6 B [T] m [e m u ] Mg−100 6K
2.3.2 上部臨界磁界𝐵c2の評価 図2.17 に示すように、𝐵c2の温度特性を調べるために、温度が𝑇c以下の状態で 磁界を一様に印加した状態(ゼロ磁界中冷却)から温度を𝑇c以上まで徐々に変化 させ、温度が𝑇c以上の状態で磁界を一様に印加し、𝑇c以下まで温度下げた状態 (磁界中冷却)において、そのときの磁気モーメント𝑚を測定した。このとき得ら れた𝑚 -𝑇特性において、ゼロ磁界中冷却と磁界中冷却の磁気モーメントの差を 𝛥𝑚′としたとき、𝛥𝑚′が1.0 × 10−9 A・m2となる𝑇の値を𝑇 cとした。図2.18 には 𝛥𝑚′の温度依存性を示す。 図2.17 磁気モーメントの温度特性(𝑚-𝑇特性)の例
2.3.3 電界-電流密度(𝐸-𝐽)特性の評価 𝑇c以下の状態で磁界を印加し、時間と共に減衰する磁気モーメントを測定した。 これを磁化緩和測定といい、その例を図 2.19 に示す。磁化緩和測定には、磁界 の印加の方法が2 種類ある。 (a) 試料に対して十分大きな磁界を印加して、目的の磁界まで下げて、試料内部 に磁束を十分トラップさせる方法。 (b) 十分大きな磁界を印加することなく、目的磁界を印加し試料内部に磁束を侵 入させる方法。 今回は、(a)で測定を行った。試料内部に磁束を印加したとき、内部の磁束を保 つために、一定の遮蔽電流を流そうとする。しかし、時間に対して対数的に遮蔽 電流の減衰が発生し、このときの遮蔽電流は磁化から求めることができる。以上 より、磁化の緩和測定から𝐸-𝐽特性が得られる。𝐽は(2.6)式により求めた。 𝐽 = 6(𝑚 − 𝑚 ∗) 𝑤2(3𝑙 − 𝑤)𝑑 (2.6) 𝑚∗は磁気ヒステリシスより求めた磁化補正値である。𝐸は(2.7)式により求めた。 𝐸 = − 𝜇0𝐺 2𝑑(𝑙 + 𝑤)・ d𝑚 d𝑡 (2.7) 𝑙は試料の長さ、𝑤(𝑙 > 𝑤)が幅、𝑑が厚さ、𝑚∗が磁気モーメント、𝐺が電界補正値 である。電界補正値は試料サイズの積分により求めた。 図2.19 磁気モーメントの時間依存性(磁化緩和測定) 102 104 0 1 2 m [emu ] t [sec] 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T Mg−100
第3章
実験結果と考察
3.1
実験結果
3.1.1 𝐵c2-𝑇特性 一定磁界𝐵 = 1.0 × 10−3, 1, 3, 5, 7 Tでのゼロ磁界中冷却と磁界中冷却の磁気モ ーメントの差が 1.0 × 10−9 A・m2となるときの𝐵 -𝑇 c特性を𝐵c2 -𝑇特性とした。 100 時間試料における𝐵c2-𝑇特性を図 3.1 に示す。 また、𝐵 = 0(1.0 × 10−3), 1, 3, 5, 7 Tでの各試料の𝑇 cを表3.1 に示す。各試料に おける𝐵c2の変化の比較は、3.2.1 項で行う。 図3.1 100 時間試料における𝐵c2-𝑇特性 12 13 14 15 16 17 18 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Mg−100 Hf−100 Ge−100 T [K] Bc2 [T ] ST−100 Ta−100 Ga−1003.1.2 𝐽c-𝐵特性 各試料において、4.2 – 14 K における直流磁化測定の結果から、𝐽c-𝐵特性を求 めた。𝐽c-𝐵特性を図 3.2 – 3.7 に示す。白抜きのシンボルが実験値、黒塗りのシン ボルが解析値である。 100 時間試料では、Ga 添加試料の𝐽cが一番小さく、Hf 添加試料で一番大きく なった。各試料において、𝐽cが変化しているため第四元素添加により𝐹pまたは𝐵c2 が変化することがわかった。各試料における𝐽cは、ピンニング特性または𝐵c2の 変化のどちらにより決定されているかについての議論は3.2.2、3.2.3 項において 述べる。 表3.1 100 時間試料における𝐵c2-𝑇特性 𝑇c
B [T] ST-100 Mg-100 Hf-100 Ge-100 Ga-100 Ta-100
0 17.8 17.9 17.4 17.6 18.1 17.8 1 17.0 17.0 16.7 16.8 17.1 16.8 3 15.7 15.9 15.7 15.6 15.8 15.7 5 14.7 14.9 14.8 14.6 14.6 14.9 7 13.7 13.9 14.0 13.5 13.5 14.0 図3.2 ST-100 における𝐽c-𝐵特性 0 1 2 3 4 5 6 7 107 108 109 1010 1011 B [T] Jc [A /m 2 ] ST−100 14 K 10 K 6 K 4.2 K 図3.3 Mg-100 における𝐽c-𝐵特性 0 1 2 3 4 5 6 7 107 108 109 1010 1011 B [T] Jc [A /m 2 ] Mg−100 14 K 10 K 6 K 4.2 K
図3.4 Hf-100 における𝐽c-𝐵特性 0 1 2 3 4 5 6 7 107 108 109 1010 1011 B [T] Jc [A /m 2 ] Hf−100 14 K 10 K 6 K 4.2 K 図3.5 Ge-100 における𝐽c-𝐵特性 0 1 2 3 4 5 6 7 107 108 109 1010 1011 B [T] Jc [A /m 2 ] Ge−100 14 K 10 K 6 K 4.2 K 図3.6 Ga-100 における𝐽c-𝐵特性 0 1 2 3 4 5 6 7 107 108 109 1010 1011 B [T] Jc [A /m 2 ] Ga−100 14 K 10 K 6 K 4.2 K 図3.7 Ta-100 における𝐽c-𝐵特性 0 1 2 3 4 5 6 7 107 108 109 1010 1011 B [T] Jc [A /m 2 ] Ta−100 14 K 10 K 6 K 4.2 K
3.1.3 𝐸-𝐽特性 各試料における磁化緩和測定から得られた𝐸-𝐽特性の測定結果を、図 3.8 – 3.13 に示す。これらの 𝐸-𝐽特性を基に磁束クリープ・フローモデルを用いて、ピンニ ング・パラメータを求めた。その結果から、各試料における𝐽cは、𝐹pまたは𝐵c2の 変化のどちらにより決定されているかについて調べた。その結果は3.2.3 項に示 す。 図3.8 ST-100 における𝐸-𝐽特性 108 109 1010 1011 10−12 10−11 10−10 10−9 J [A/m2] E [V /m] ST−100 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T 図3.9 Mg-100 における𝐸-𝐽特性 108 109 1010 1011 10−12 10−11 10−10 10−9 J [A/m2] E [V /m ] Mg−100 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T 図3.10 Hf-100 における𝐸-𝐽特性 108 109 1010 1011 10−12 10−11 10−10 10−9 J [A/m2] E [V /m ] Hf−100 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T 図3.11 Ge-100 における𝐸-𝐽特性 108 109 1010 1011 10−12 10−11 10−10 10−9 J [A/m2] E [V /m ] Ge−100 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T
図3.12 Ga-100 における𝐸-𝐽特性 108 109 1010 1011 10−12 10−11 10−10 10−9 J [A/m2] E [V /m ] Ga−100 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T 図3.13 Ta-100 における𝐸-𝐽特性 108 109 1010 1011 10−12 10−11 10−10 10−9 J [A/m2] E [V /m ] Ta−100 6 K 4 T 6 K 6 T 10 K 2 T 10 K 4 T 10 K 6 T 14 K 1 T 14 K 3 T
3.2
考察
3.2.1 推定した0 K における𝐵c2 表 3.1 に示す、測定から得られた各試料の𝐵c2の温度依存性をゼロ磁界まで外 挿すると、図3.14 のように、実験値から得られた𝑇cに比べて、若干低い𝑇c∗が得 られる。これは、今回用いた試料サイズが大きいため Nb3Sn の生成の不均一さ が生じ、𝑇cがばらついた可能性がある。そこで本研究ではこの𝑇c∗を各試料の𝑇 cと した。その結果を表3.2 に示す。 ここで、実験より得られた𝐵c2から、下記の2 つの手法を用いて低温度領域の 𝐵c2(𝑇)を評価する。1 つめの手法では次の式を用いる。𝐵c2(𝑇)の温度依存性は経 験的に、 𝐵c2(𝑇) = 𝐵c2(0) × [1 − 𝑇 𝑇c∗] (3.1) のように表せる。ここで、𝐵c2(0)は 0 K における𝐵c2の値である。この(3.1)式か ら𝐵c2(0)を決定した。また、2 つめの手法では、第二種超伝導体における𝐵c2を記 述するWHH 理論を用いて、𝐵c2(𝑇)の温度勾配から、 𝐵c2∗ (0) = 0.693 × 𝑇c∗|d𝐵c2 d𝑇 |𝑇=𝑇c∗ (3.2) の関係式を用いて0 K の𝐵c2∗ (0)も評価した。𝐵 c2∗ (0)は電子の平均自由行程が BCS のコヒーレンス長より十分に小さい極限(dirty limit)における上部臨界磁界の絶 対零度での値である[21]。各試料の𝐵c2(0)及び𝐵c2∗ (0)を表 3.2 に示す。 一般に(3.2)式から得られる𝐵c2∗ (0)に比べて、(2)式の評価の𝐵 c2(0)の方が若干過 大評価される。今回得られた結果も同様の傾向を示した。 𝐵c2(0)の大小関係は、Ga < ST < Mg < Ge < Ta < Hf となっており、第四元素 を添加していないST 試料と比べ、Mg, Ge, Ta, Hf 添加試料の方が高い𝐵c2(0)が 得られた。また、ST 試料より低い𝐵c2(0)は Ga 添加だけであった。𝐵c2∗ (0)の大小 関係は、Ga < ST < Ge < Mg < Ta < Hf となっており、Ge と Mg の大小関係が 逆転したが、ST 試料と比べると同様に Mg, Ge, Ta, Hf 添加試料の方が高い 𝐵c2∗ (0)が得られた。これより、Mg, Ge, Ta, Hf の第四元素添加によって𝐵c2が向 上したといえる。しかし、Ga 添加試料においては𝐵c2が向上していない。これ は、Ga の添加量が他の試料と比べ、過剰であったためだと考えられる。図3.14 各試料における𝐵c2の温度依存性を ゼロ磁界まで外挿し得られた𝑇c∗の例 13 14 15 16 17 18 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Mg−100 Hf−100 Ge−100 T [K] Bc 2 [T ] ST−100 Ta−100 Ga−100 Tc * 表3.2 100 時間試料における推定される𝑇c∗, 𝐵 c2(0), 𝐵c2∗ (0)
ST-100 Mg-100 Hf-100 Ge-100 Ga-100 Ta-100
𝑇c∗ [K] 17.8 17.9 17.4 17.7 18.1 17.8
𝐵c2(0) [T] 32.4 34.0 37.4 34.5 29.9 36.6
3.2.2 ピン力密度のスケール則による解析 規格化磁場𝑏 = 𝐵/𝐵c2とする。ピン力密度𝐹p∝ 𝑏γ(1 − 𝑏)δをピン力密度のスケ ール則と呼ぶ。本研究では、𝐹p = 𝐽c × 𝐵の式より𝐹pを求めた。𝐵c2は3.2.1 項に示 す𝐵c2(0)により求めた。 図3.15 に、6 – 14 K における Hf-100 のピン力密度のスケール則の結果を示す。 低磁界では各温度において一致しているが、高磁界では6、10 K と 14 K で一致 していない。これは、14 K における𝐵c2は実験で測定した結果の内挿により求め たが、6、10 K における𝐵c2は𝐵c2の温度依存性が直線的に変化すると仮定した(3.1) 式により求めたためと考えられる。したがって、各試料におけるピン力密度のス ケール則の比較は、14 K におけるピン力密度のスケール則の結果を用いて行う。 100 時間試料の 14 K における測定結果から得られたピン力密度のスケール則 の結果を図 3.16 に示す。また、各試料のピン力密度のスケール則におけるγとδ を表3.3 に示す。各試料のγとδが違うことから、第四元素添加によりピンニング 特性が変化することがわかる。特にGa 添加試料に関しては、他の試料と比較し、 γとδが極端に悪い。したがって、Ga 添加試料は第四元素添加によりピンニング 特性が劣化したと考えられる。これは、Ga を過剰に添加しすぎたため、結晶粒 が粗大化したことが原因だと考えられる。 また、Ga 添加試料を除く試料において、γとδに大きな差がないことから、ピ ンニング特性は大きく変化せず、今回の試料における𝐽c特性は𝐵c2の変化によっ て決定されていると考えられる。
図3.16 100 時間試料の 14 K における ピン力密度のスケール則 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 B / Bc2 ST−100 Mg−100 Hf−100 Ga−100 Ta−100 Ge−100 14 K Fp / Fp m ax 図3.15 6 – 14 K における Hf-100 の ピン力密度のスケール則の結果 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 B / Bc2 14 K 6 K 10 K Hf−100 Fp / Fp m ax 表3.3 各試料のピン力密度のスケール則におけるγとδ ST Mg Hf Ge Ga Ta 100 h 𝛾 0.48 0.48 0.55 0.57 0.32 0.60 δ 2.47 2.20 2.17 2.49 2.58 2.67
3.2.3 磁束クリープ・フローモデルによる解析 この試料のピンニング特性を調べるために、磁束クリープ・フローモデルを用 いて理論解析を行う。磁束クリープ・フローモデルの解析には各試料の実験結果 から得られた𝑇c∗、𝐵c2(0 K)を用い、ピン力の代表値𝐴m、磁界の依存性𝛾、温度の 依存性𝑚、磁束バンドル内の磁束数𝑔2をピンニング・パラメータとして、実験の 電界-電流密度(𝐸-𝐽特性)に一致するようにパラメータを決定した。表 3.4 に 100 時間試料におけるピンニング・パラメータを示す。また、100 時間試料の 6 – 14 K における𝐽c-𝐵特性の実験結果と解析結果の比較を図 3.17 に示す。パラメータ から導出した𝐽c-𝐵特性が線、実験値の𝐽c-𝐵特性がシンボルとなっている。 図 3.17 より、各試料で実験値と理論値が一致しており、理論値を用いて実験 結果を説明できていることがわかる。Ga 添加試料と他の試料を比較すると、ピ ンニング・パラメータは小さく、𝐵c2(0 K)も低い。Ga 添加試料を除く 100 時間試 料は、ピンニング・パラメータはほとんど変化していないが、𝐵c2(0 K)が大きく 変化している。したがって、Ga 添加試料における𝐽cの劣化は、Ga の過剰な添加 により、𝐹p、𝐵c2ともに大きく低下したためだと考えられる。また、Ga 添加試料 を除く 100 時間試料における𝐽cの向上は、元素添加による𝐵c2の向上によって生 じている可能性があると考えられる。 表3.4 100 時間試料におけるピンニング・パラメータ 𝐴m(× 1010) 𝐵c2(0 K) 𝛾 𝑚 𝑔2 ST-100 5.40 32.4 0.60 1.20 1.0 Mg-100 5.50 34.0 0.60 1.20 1.0 Hf-100 5.70 37.4 0.60 1.20 1.0 Ge-100 5.20 34.5 0.47 1.20 1.0 Ga-100 2.50 29.9 0.32 1.20 1.0 Ta-100 5.60 36.6 0.62 1.20 1.0
図3.17 100 時間試料の 6 – 14 K における𝐽c-𝐵特性の 実験結果と解析結果の比較
第4章
まとめ
本研究では Nb3Sn 用ブロンズ(組成:Cu-15Sn-0.3Ti)に第四元素として Mg, Hf, Ge, Ga, Ta 元素を添加し、𝐵c2と𝐽c特性を測定することで、第四元素添加がこれら の特性にどのような影響を与えるかについて調べた。測定に用いた試料は、 700℃の熱処理を 100 時間行った。今回の実験では、4.2 – 14 K における直流磁 化測定の結果から、各温度における𝐽c-𝐵特性を求めた。また、𝐽c-𝐵特性からピン 力密度のスケール則を行った。𝑇c近傍における直流磁化率の温度依存性から𝐵c2 -𝑇特性を求めた。各試料における𝐽cの向上には、𝐹pと𝐵c2の変化のどちらが支配的 かについて磁束クリープ・フローモデルを用いて調査するために、6 – 14 K にお ける磁化緩和測定を行い、その結果から各温度における𝐸-𝐽(電界-電流密度)特性 を求めた。 𝐽c-𝐵特性では、Hf 添加試料の𝐽cが一番高く、Ga 添加試料の𝐽cが一番低い結果と なった。各試料において、𝐽cが変化しているため第四元素添加により𝐹pまたは𝐵c2 が変化することがわかった。 𝐵c2-𝑇特性では、Hf 添加試料の𝐵c2が一番高く、Ga 添加試料の𝐵c2が一番低い結 果となった。 ピン力密度のスケール則による解析では、Ga 添加試料が他の試料と比較して 非常に悪い結果となった。したがって、Ga 添加試料は第四元素添加によりピン ニング特性が劣化したと考えられる。ただし、Ga 添加試料を除く試料において、 γとδに大きな差がないことから、ピンニング特性は大きく変化せず、今回の試料 における𝐽c特性は𝐵c2の変化によって決定されていると考えられる。 また、この試料のピンニング特性を磁束クリープ・フローモデルを用いて解析 を行った。Ga 添加試料と他の試料を比較すると、ピンニング・パラメータは小 さく、𝐵c2(0 K)も低い。Ga 添加試料を除く 100 時間試料は、ピンニング・パラメ ータはほとんど変化していないが、𝐵c2(0 K)が大きく変化している。したがって、 Ga 添加試料における𝐽cの劣化は、Ga の過剰な添加量により、𝐹p、𝐵c2ともに大き く低下したためだと考えられる。また、Ga 添加試料を除く 100 時間試料におけ る𝐽cの向上は、元素添加による𝐵c2の向上によって生じている可能性があると考 えられる。参考文献
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