第3章 実験結果と考察
3.2 考察
3.2.1 推定した0 Kにおける𝐵c2
表 3.1 に示す、測定から得られた各試料の𝐵c2の温度依存性をゼロ磁界まで外 挿すると、図3.14 のように、実験値から得られた𝑇cに比べて、若干低い𝑇c∗が得 られる。これは、今回用いた試料サイズが大きいため Nb3Sn の生成の不均一さ が生じ、𝑇cがばらついた可能性がある。そこで本研究ではこの𝑇c∗を各試料の𝑇cと した。その結果を表3.2に示す。
ここで、実験より得られた𝐵c2から、下記の2つの手法を用いて低温度領域の 𝐵c2(𝑇)を評価する。1つめの手法では次の式を用いる。𝐵c2(𝑇)の温度依存性は経 験的に、
𝐵c2(𝑇) = 𝐵c2(0) × [1 − 𝑇
𝑇c∗] (3.1)
のように表せる。ここで、𝐵c2(0)は0 Kにおける𝐵c2の値である。この(3.1)式か ら𝐵c2(0)を決定した。また、2つめの手法では、第二種超伝導体における𝐵c2を記 述するWHH理論を用いて、𝐵c2(𝑇)の温度勾配から、
𝐵c2∗ (0) = 0.693 × 𝑇c∗|d𝐵c2 d𝑇 |
𝑇=𝑇c∗ (3.2)
の関係式を用いて0 Kの𝐵c2∗ (0)も評価した。𝐵c2∗ (0)は電子の平均自由行程がBCS のコヒーレンス長より十分に小さい極限(dirty limit)における上部臨界磁界の絶 対零度での値である[21]。各試料の𝐵c2(0)及び𝐵c2∗ (0)を表3.2に示す。
一般に(3.2)式から得られる𝐵c2∗ (0)に比べて、(2)式の評価の𝐵c2(0)の方が若干過 大評価される。今回得られた結果も同様の傾向を示した。
𝐵c2(0)の大小関係は、Ga < ST < Mg < Ge < Ta < Hf となっており、第四元素 を添加していないST試料と比べ、Mg, Ge, Ta, Hf添加試料の方が高い𝐵c2(0)が 得られた。また、ST試料より低い𝐵c2(0)はGa添加だけであった。𝐵c2∗ (0)の大小 関係は、Ga < ST < Ge < Mg < Ta < Hf となっており、GeとMgの大小関係が 逆転したが、ST 試料と比べると同様に Mg, Ge, Ta, Hf 添加試料の方が高い 𝐵c2∗ (0)が得られた。これより、Mg, Ge, Ta, Hfの第四元素添加によって𝐵c2が向 上したといえる。しかし、Ga 添加試料においては𝐵c2が向上していない。これ は、Gaの添加量が他の試料と比べ、過剰であったためだと考えられる。
図3.14 各試料における𝐵c2の温度依存性を ゼロ磁界まで外挿し得られた𝑇c∗の例
13 14 15 16 17 18
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Mg−100 Hf−100 Ge−100
T [K]
Bc2[T]
ST−100
Ta−100 Ga−100
Tc *
表3.2 100時間試料における推定される𝑇c∗, 𝐵c2(0), 𝐵c2∗ (0) ST-100 Mg-100 Hf-100 Ge-100 Ga-100 Ta-100
𝑇c∗ [K] 17.8 17.9 17.4 17.7 18.1 17.8
𝐵c2(0) [T] 32.4 34.0 37.4 34.5 29.9 36.6
𝐵c2∗ (0) [T] 22.4 23.5 25.9 23.1 20.7 25.3
3.2.2 ピン力密度のスケール則による解析
規格化磁場𝑏 = 𝐵/𝐵c2とする。ピン力密度𝐹p∝ 𝑏γ(1 − 𝑏)δをピン力密度のスケ ール則と呼ぶ。本研究では、𝐹p = 𝐽c × 𝐵の式より𝐹pを求めた。𝐵c2は3.2.1項に示 す𝐵c2(0)により求めた。
図3.15に、6 – 14 KにおけるHf-100のピン力密度のスケール則の結果を示す。
低磁界では各温度において一致しているが、高磁界では6、10 Kと14 Kで一致 していない。これは、14 Kにおける𝐵c2は実験で測定した結果の内挿により求め たが、6、10 Kにおける𝐵c2は𝐵c2の温度依存性が直線的に変化すると仮定した(3.1) 式により求めたためと考えられる。したがって、各試料におけるピン力密度のス ケール則の比較は、14 Kにおけるピン力密度のスケール則の結果を用いて行う。
100時間試料の14 Kにおける測定結果から得られたピン力密度のスケール則 の結果を図 3.16に示す。また、各試料のピン力密度のスケール則におけるγとδ を表3.3に示す。各試料のγとδが違うことから、第四元素添加によりピンニング 特性が変化することがわかる。特にGa添加試料に関しては、他の試料と比較し、
γとδが極端に悪い。したがって、Ga添加試料は第四元素添加によりピンニング
特性が劣化したと考えられる。これは、Gaを過剰に添加しすぎたため、結晶粒 が粗大化したことが原因だと考えられる。
また、Ga添加試料を除く試料において、γとδに大きな差がないことから、ピ ンニング特性は大きく変化せず、今回の試料における𝐽c特性は𝐵c2の変化によっ て決定されていると考えられる。
図3.16 100時間試料の14 Kにおける ピン力密度のスケール則
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
B / Bc2
ST−100 Mg−100 Hf−100 Ga−100 Ta−100 Ge−100 14 K
Fp / Fpmax
図3.15 6 – 14 KにおけるHf-100の
ピン力密度のスケール則の結果
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
B / Bc2
14 K 6 K 10 K
Hf−100
Fp / Fpmax
表3.3 各試料のピン力密度のスケール則におけるγとδ
ST Mg Hf Ge Ga Ta
100 h 𝛾 0.48 0.48 0.55 0.57 0.32 0.60
δ 2.47 2.20 2.17 2.49 2.58 2.67
3.2.3 磁束クリープ・フローモデルによる解析
この試料のピンニング特性を調べるために、磁束クリープ・フローモデルを用 いて理論解析を行う。磁束クリープ・フローモデルの解析には各試料の実験結果 から得られた𝑇c∗、𝐵c2(0 K)を用い、ピン力の代表値𝐴m、磁界の依存性𝛾、温度の 依存性𝑚、磁束バンドル内の磁束数𝑔2をピンニング・パラメータとして、実験の 電界-電流密度(𝐸-𝐽特性)に一致するようにパラメータを決定した。表 3.4 に 100 時間試料におけるピンニング・パラメータを示す。また、100時間試料の6 – 14 K における𝐽c-𝐵特性の実験結果と解析結果の比較を図 3.17 に示す。パラメータ から導出した𝐽c-𝐵特性が線、実験値の𝐽c-𝐵特性がシンボルとなっている。
図 3.17 より、各試料で実験値と理論値が一致しており、理論値を用いて実験 結果を説明できていることがわかる。Ga添加試料と他の試料を比較すると、ピ ンニング・パラメータは小さく、𝐵c2(0 K)も低い。Ga添加試料を除く100時間試 料は、ピンニング・パラメータはほとんど変化していないが、𝐵c2(0 K)が大きく 変化している。したがって、Ga添加試料における𝐽cの劣化は、Gaの過剰な添加 により、𝐹p、𝐵c2ともに大きく低下したためだと考えられる。また、Ga添加試料 を除く 100 時間試料における𝐽cの向上は、元素添加による𝐵c2の向上によって生 じている可能性があると考えられる。
表3.4 100時間試料におけるピンニング・パラメータ
𝐴m(× 1010) 𝐵c2(0 K) 𝛾 𝑚 𝑔2
ST-100 5.40 32.4 0.60 1.20 1.0
Mg-100 5.50 34.0 0.60 1.20 1.0
Hf-100 5.70 37.4 0.60 1.20 1.0
Ge-100 5.20 34.5 0.47 1.20 1.0
Ga-100 2.50 29.9 0.32 1.20 1.0
Ta-100 5.60 36.6 0.62 1.20 1.0
図3.17 100時間試料の6 – 14 Kにおける𝐽c-𝐵特性の 実験結果と解析結果の比較