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主 文 1 特許庁が無効 号事件について平成 28 年 5 月 19 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 事実及び理由第 1 請求の趣旨主文同旨第 2 事案の概要本件は, 特許に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 争点は,1 訂正要件適合

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平成29年6月8日判決言渡 平成28年(行ケ)第10147号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成29年3月2日 判 決 原 告 カ ゴ メ 株 式 会 社 訴訟代理人弁護士 飯 村 敏 明 岩 坪 哲 速 見 禎 祥 弁理士 宮 下 洋 明 補 佐 人 田 村 茂 夫 松 本 岳 塚 副 成 石 井 僚 一 被 告 株 式 会 社 伊 藤 園 訴訟代理人弁護士 遠 山 友 寛 中 村 勝 彦 中 野 亮 介 呉 竹 辰 弁理士 内 藤 和 彦 北 谷 賢 次 補 佐 人 村 山 和 人 叶 英 樹

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主 文 1 特許庁が無効2015-800008号事件について平成28年5月19日 にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求の趣旨 主文同旨 第2 事案の概要 本件は,特許に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点 は,①訂正要件適合性判断の当否,②実施可能要件適合性判断の当否,③サポート 要件違反適合性判断の当否,及び,④公然実施による新規性喪失に関する認定判断 の当否である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「トマト含有飲料及びその製造方法,並びに,トマト含有飲料の 酸味抑制方法」とする発明について,平成23年4月20日(以下,「本件出願日」 という。),特許出願をし,平成25年2月1日,その特許権の設定登録(特許第5 189667号)を受けた(以下,「本件特許」という。甲1)。 原告が,平成27年1月9日に本件特許の無効審判請求(無効2015-800 008号)をした(甲55)ところ,被告は,平成28年1月5日,訂正請求をし た(甲53。以下,「本件訂正」という。)。特許庁は,平成28年5月19日,「特 許第5189667号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の 範囲のとおり,訂正後の請求項[1-7],[8-10],11について訂正すること を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月 27日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11記載の発明(それぞれ,

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本件発明1,本件発明2などといい,まとめて本件発明ということがある。)の要旨 は,以下のとおりである(下線は訂正部分を意味する。)。 「【請求項1】 糖度が9.4~10.0であり,糖酸比が19.0~30.0であり,グルタミ ン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が,0.36~0.42重量%であること を特徴とする,トマト含有飲料。 【請求項2】 粘度が350~1000cPである, 請求項1に記載のトマト含有飲料。 【請求項3】 トマト以外の野菜汁及び果汁の総含有量が0.0~5.0重量%である, 請求項1又は2に記載のトマト含有飲料。 【請求項4】 少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)とを含有する, 請求項1~3のいずれか一項に記載のトマト含有飲料。 【請求項5】 重曹(C)を含有する, 請求項1~4のいずれか一項に記載のトマト含有飲料。 【請求項6】 少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)と脱酸トマト汁(D)と を含有する, 請求項1~5のいずれか一項に記載のトマト含有飲料。 【請求項7】 pHが4.4~4.8である, 請求項1~6のいずれか一項に記載のトマト含有飲料。 【請求項8】

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少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)を配合することにより, 糖度が9.4~10.0及び糖酸比が19.0~30.0となるように,並びに, グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~0.42重量%とな るように,前記糖度及び前記糖酸比並びに前記グルタミン酸及びアスパラギン酸の 含有量を調整することを特徴とする, トマト含有飲料の製造方法。 【請求項9】 少なくとも重曹(C)を配合することにより,前記糖度及び前記糖酸比を調整す ることを特徴とする, 請求項8に記載のトマト含有飲料の製造方法。 【請求項10】 少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)と脱酸トマト汁(D)と を配合することにより,前記糖度及び前記糖酸比を調整することを特徴とする, 請求項8又は9に記載のトマト含有飲料の製造方法。 【請求項11】 少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)を配合することにより, 糖度が9.4~10.0及び糖酸比が19.0~30.0となるように,並びに, グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~0.42重量%とな るように,前記糖度及び前記糖酸比並びに前記グルタミン酸及びアスパラギン酸の 含有量を調整することを特徴とする, トマト含有飲料の酸味抑制方法。 3 審決の理由の要旨 (1) 訂正請求 ア 本件訂正による,具体的な訂正事項は以下のとおりである。 (訂正事項1) 請求項1~7からなる一群の請求項に係る訂正であって,特許請求の範囲の請求

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項1について次のとおり訂正する。 「【請求項1】 糖度が9.4~10.0であり,糖酸比が19.0~30.0であり,グルタミ ン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が,0.36~0.42重量%であること を特徴とする, トマト含有飲料。」 (訂正事項2) 請求項8~10からなる一群の請求項に係る訂正であって,特許請求の範囲の請 求項8について次のとおり訂正する。 「【請求項8】 少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)を配合することにより, 糖度が9.4~10.0及び糖酸比が19.0~30.0となるように,並びに, グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~0.42重量%とな るように,前記糖度及び前記糖酸比並びに前記グルタミン酸及びアスパラギン酸の 含有量を調整することを特徴とする トマト含有飲料の製造方法。」 (訂正事項3) 請求項11に係る訂正であって,特許請求の範囲の請求項11について次のとお り訂正する。 「【請求項11】 少なくともトマトペースト(A)と透明トマト汁(B)を配 合することにより,糖度が9.4~10.0及び糖酸比が19.0~30.0とな るように,並びに,グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~ 0.42重量%となるように,前記糖度及び前記糖酸比並びに前記グルタミン酸及 びアスパラギン酸の含有量を調整することを特徴とする, トマト含有飲料の酸味抑制方法。」 イ 訂正の適否

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訂正事項1~3は,糖度について「7.0~13.0」並びにグルタミン酸及び アスパラギン酸の含有量の合計(以下,「グルタミン酸等含有量」という。)につ いて「0.25~0.60重量%」とあったものを,それぞれ糖度について「9. 4~10.0」並びにグルタミン酸等含有量の合計について「0.36~0.42 重量%」と限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであ り,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 また,本件特許の設定登録時の明細書(本件訂正後も同じ。以下,本件訂正前後 を区別せず,「本件明細書」という。)の表1には,実施例1~3の各トマト含有 飲料について,糖度(Brix)値並びにグルタミン酸等含有量の合計値について, それぞれ,「9.4」及び「0.42」,「10.0」及び「0.37」,並びに 「9.5」及び「0.36」が記載されているから,願書に添付した明細書,特許 請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 したがって,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項 を目的とし,かつ,同条9項で準用する同法126条5項,6項の規定に適合する ので,訂正後の請求項1~7,8~10 ,11について本件訂正を認める。 (2) 原告の主張した無効理由の要旨 ア 無効理由1(実施可能要件) 本件特許は,その発明の詳細な説明の記載が,①課題と数値規定との実質的関係 が理解困難である点,及び,②実施例1~3以外の実施形態が再現困難である点に おいて,経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野におけ る通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載 したものではないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず, 請求項1~11に係る発明についての特許は同法123条1項4号に該当し,無効 とすべきである。 イ 無効理由2(サポート要件違反) 本件特許は,本件発明1~11が,①特許請求の範囲が規定する物性値の範囲ま

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での拡張ないし一般化が困難である点,及び,②特許請求の範囲が規定する原材料 及び配合までの拡張ないし一般化が困難である点において,発明の詳細な説明に記 載したものではないから,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず, 同法123条1項4号に該当し,無効とすべきである。 ウ 無効理由3(公然実施による新規性喪失) 本件発明1及び3は,その特許出願前に日本国内において公然実施をされた「C eleb De TOMATO(セレブ・デ・トマト)トマトジュースあいこ(大)」 (以下,「製品1」という。)又は「SWEET RUBY(カゴメ株式会社製造, キャップ表示11.2.10)」(以下,「製品2」という。)に係る発明(以下, それぞれ,「公用発明1」,「公用発明2」という。)であるから,特許法29条 1項2号の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法1 23条1項2号に該当し,無効とすべきである。 エ 無効理由4(刊行物公知による新規性喪失等) 本件発明1~4,7,8及び11は,その特許出願前に日本国内又は外国におい て,頒布された刊行物(特開2006-187233号公報。甲19)に記載され た発明(以下,「甲19発明」という。)であるから,特許法29条1項3号の規 定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条1項2 号に該当し,無効とすべきである。 また,予備的主張として,本件発明1~4,7,8及び11は,甲19発明及び 周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるから,同法29条2項によ り特許を受けることができず,その特許は同法123条1項2号により無効とすべ きである。 オ 無効理由5(進歩性欠如) 本件発明5,6,9及び10は,甲19発明及び周知技術に基づき当業者が容易 に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることが できないものであり,その特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべきで

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ある。 (3) 審決の判断 ア 無効理由1(実施可能要件)について (ア) 請求人(原告)は,本件発明の詳細な説明には,本件発明が解決しよ うとする課題として,トマト含有飲料において,主原料となるトマト以外の野菜汁 や果汁を配合しなくても,濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つ トマトの酸味が抑制された,と記載されている(【0008】)が,その解決手段で ある数値限定「糖度が7.0~13.0であり,糖酸比が19.0~30.0であ り」(【0042】)及び「グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が,0. 25 ~0.60重量%である」(【0043】)との実質的関係が,①本件明細書の 【0088】に記載されている「やや弱い」の評点が「1点」及び「-1点」であ ること,②風味の合計点の算出方法が不明であり,合計点の技術上の意味も不明で あること,及び,③本件明細書の【0090】の【表1】において,物性値及び風 味評価のカラムに「未実施」「未測定」の記載があることにより不明であるから,発 明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の,当業者が発明の技術上の意 義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない(特許法 施行規則24条の2)との規定に反する,と主張する。 しかし,①1点に「やや弱い」とあるのは,「やや強い」の誤記であること,②酸 味のマイナス数値は甘味及び濃厚の評価合計に加え,酸味のプラス数値は甘味及び 濃厚の評価合計から減じて評価の合計点を求めるのが合理的であるところ,それを 前提として評価の合計を計算すると,【表1】中の数値と整合すること,③本件発明 1~11の数値規定内の「トマト含有飲料」である,実施例1,2及び3のものに おいて,酸味が抑制され(マイナスの評価),甘み及び濃厚が増して(プラスの評価), 合計が2.5~3.9で総合評価が「○」とされ,上記数値規定外の比較例1,2, 参考例3,7~10において合計が記載され総合評価が「×」とされていることか らみて,比較例や参考例において,未測定,未実施の項目があるとしても,本件発

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明の課題と数値限定との関係が理解できないとはいえないことからすると,発明が 解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野にお ける通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記 載することによりしなければならない(特許法施行規則24条の2)との規定に反 するということはできない。 (イ) 請求人(原告)は,本件発明1~11の糖度が7.0~13.0で あり,糖酸比が19.0~30.0であり,グルタミン酸等含有量が,0.25~ 0.60重量%であるトマト含有飲料に含まれる下位概念たる「トマト含有飲料」 は,実施例1~3の配合により調製されたもの以外にも多岐にわたり得るので,実 施例1~3以外の実施形態は再現困難であると主張する。 しかし,本件発明の発明の詳細な説明の【0044】,【0060】及び【00 61】には,本件発明を実施する際の配合手法が記載され,同じく【0067】~ 【0069】には,具体的な実施例1~3が示され,そして,実施例1~3で得ら れている,糖度,糖酸比及びグルタミン酸等含有量の合計を参考にすれば,製造過 程において用いるトマトペースト及び透明濃縮トマト汁の濃度や配合を調整し,同 じく【0058】にあるように,酸味料,アミノ酸を適宜加えたり,あるいは,加 水することにより,本件発明の範囲のものとすることが,当業者にとって過度な試 行錯誤を課しているともいえない。 そうすると,請求人(原告)が主張するように,ことさら本件発明の発明特定事 項ではない限定を付した下位概念に相当する発明を想定して,当該発明を得るため に過度な試行錯誤を避けることができないからといって,本件発明が実施すること ができないとはいえないので,この点についても,請求人(原告)の主張は採用で きない。 (ウ) 以上のとおりであるから,本件特許は,その発明の詳細な説明の記 載が,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしているので,本件発明1~1 1についての特許は同法123条1項4号に該当しない。

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イ 無効理由2(サポート要件違反) 請求人(原告)は,特許請求の範囲が規定する物性値の範囲までの拡張ないし一 般化することは困難であると主張するので,以下に検討する。 発明の詳細な説明には,「糖度が9.4~10.0であり,糖酸比が19.0 ~ 30.0であり,グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が,0.36~ 0.42重量%である」本件発明1~7,及び「糖度が9.4~10.0及び糖酸 比が19.0~30.0となるように,並びに,グルタミン酸及びアスパラギン酸 の含有量の合計が0.36~0.42重量%となるように,前記糖度及び前記糖酸 比並びに前記グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量を調整する」本件発明8~ 11の物性値の組合せについて,官能評価が良好とされた実験データが,実施例1 ~3について示されている。 そして,糖度の酸度に対する比率である糖酸比について,糖度が甘みに寄与し, 酸度が酸味に寄与することから,糖酸比を高くすれば相対的に酸味に対して甘みが 強くなる方向に飲料の味が変化するという概略の傾向は理解でき,糖度を「9.4 ~10.0」の範囲に,及びグルタミン酸等含有量を「0.36~0.42重量%」 の範囲にしたもので,糖酸比を「19.0~30.0」としても,本件発明の課題 である「主原料となるトマト以外の野菜汁や果汁を配合しなくても,濃厚な味わい でフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された,新規なトマ ト含有飲料」を提供できることは,当業者なら想定し得るものといえる。 また,請求人(原告)が主張するように,トマト含有飲料の「濃厚な味わい」に は,糖度及び糖酸比以外に,温度や粘度等の多岐にわたる条件が寄与するとしても, 糖度及び糖酸比がトマト含有飲料の味わいに大きく影響することは明らかであり, 温度や粘度等の多岐にわたる条件の全てを個別に特定しなければ本件発明の課題を 解決できないというものでもないので,温度や粘度等の多岐にわたる条件を,発明 特定事項としなければならない理由はない。 以上のとおりであるから,本件発明で特定される「糖度が9.4~10.0」,

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「糖酸比が19.0~30.0」及び「グルタミン酸等含有量が,0.36~0. 42重量%」は,実施例1~3により裏付けられたものであり,発明の詳細な説明 において,本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載され た範囲を超えたものということはできない。 したがって,本件特許は,本件発明1~11が発明の詳細な説明に記載したもの であって,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満た しているので,同法123条1項4号に該当せず,無効とすることはできない。 ウ 無効理由3(公然実施による新規性喪失) (ア) 製品1に基づく無効理由3について a 製品1は,本件特許出願前に公然と譲渡されていたものと認められ る。 「製品1」は,以下の事項を備えているものと認められる。 「糖度が9.4であり,糖酸比が26.7であり,グルタミン酸等含有量が,0. 249重量%である,トマトジュース。」(公用発明1) b 対比・判断 (本件発明1について) 公用発明1の「糖度が9.4であり」,「糖酸比が26.7であり」及び「トマ トジュース」は,それぞれ本件発明1の「糖度が9.4~10.0であり」,「糖 酸比が19.0~30.0であり」及び「トマト含有飲料」に相当する。 しかし,公用発明1の「グルタミン酸等含有量が0.249重量%である」こと については,本件発明1の「グルタミン酸等含有量が0.36~0.42重量%で ある」と対比する上で,有効数字を2桁として揃えると,上記公用発明1の特定は 「グルタミン酸等含有量が少なくとも0.25重量%である」となるが,これは, 本件発明1の「グルタミン酸等含有量が0.36~0.42重量%である」ことと 相違する(相違点1)。 よって,両者は,同一の発明ではない。

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(本件発明3について) 本件発明3が引用する本件発明1について上記で検討した事項に加えて,公用発 明1の「トマトジュース」は,トマト以外の野菜汁及び果汁を加えていないことは 明らかであるから,公用発明1の「トマトジュース」は,本件発明3の「トマト以 外の野菜汁及び果汁の総含有量が0.0~5.0重量%である」に相当する。 しかし,両者は相違点1を有し,同一の発明ではない。 c したがって,本件発明1及び3は,その特許出願前に日本国内にお いて公然実施をされた公用発明1ではなく,特許法29条1項2号の規定により特 許を受けることができないものではないから,その特許は同法123条1項2号に 該当せず,無効とすることはできない。 (イ) 製品2に基づく無効理由3について a 製品2は,本件出願日前に公然実施されていたものと認められる。 「製品2」は,以下の事項を備えているものと認められる。 「糖度が11.0であり,糖酸比が18.97であり,グルタミン酸等含有量が, 0.546重量%~0.573重量%である,原材料がトマトで品名がトマトピュ ーレである飲用を目的として製造されたジュース。」(公用発明2) b 対比・判断 (本件発明1について) 公用発明2の「原材料がトマトで品名がトマトピューレである飲用を目的として 製造されたジュース」は,本件発明1の「トマト含有飲料」に相当する。 また,公用発明2の「糖酸比が18.97であり」については,本件発明1の 「糖 酸比が19.0~30.0であり」と対比する上で,有効数字を3桁として揃える と,上記公用発明2の特定は「糖酸比が19.0であり」となるので,本件発明1 の「糖酸比が19.0~30.0であり」に相当する。 しかし,公用発明2の「糖度が11.0であり」及び「グルタミン酸等含有量が, 0.546重量%~0.573重量%である」ことは,本件発明1の「糖度が9.

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4~10.0であり」及び「グルタミン酸等含有量が,0.36~0.42重量% である」ことと相違する(相違点2)。 よって,両者は,同一の発明ではない。 (本件発明3について) 公用発明2の「原材料がトマトで品名がトマトピューレである飲用を目的として 製造されたジュース」は,トマト以外の野菜汁及び果汁を加えていないから,本件 発明3の「トマト以外の野菜汁及び果汁の総含有量が0.0~5.0重量%である」 に相当する。 しかし,両者は,相違点2を有している。 よって,両者は,同一の発明ではない。 c したがって,本件発明1及び3は,その特許出願前に日本国内にお いて公然実施をされた公用発明2ではなく,特許法29条1項2号の規定により特 許を受けることができないものでないから,その特許は同法123条1項2号に該 当せず,無効とすることはできない。 エ 無効理由4(刊行物公知による新規性喪失等) (ア) 甲19発明 「市販の生のトマト(桃太郎 T-93 新潟産)を用い,エステラーゼで処理し, 屈折糖度(Bx)8.21°であり,グルタミン酸等含有量が328.9(mg/ 100g)含まれ,屈折糖度(Bx)8.41°であり,グルタミン酸等含有量が 336.7(mg/100g)含まれ,屈折糖度(Bx)8.47°であり,グル タミン酸等の含有量が330.4(mg/100g)含まれ,又は,屈折糖度(B x)8.98°であり,グルタミン酸等含有量が338.8(mg/100g)含 まれ,ジュース,野菜飲料に食品で通常用いられる任意成分と共に配合される,香 気物質である有機酸が遊離して香気成分が増加した,酵素処理トマト分離液。」 (イ) 本件発明1と甲19発明との対比・判断 (一致点)

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「トマト含有飲料」である点。 (相違点3) 甲19発明の「屈折糖度(Bx)」が「8.21°」,「8.41°」,「8. 47°」又は「8.98°」であるのに対し,本件発明1の「糖度が9.4~10. 0」である点。 (相違点4) 甲19発明が,「グルタミン酸等含有量が」「0.3289重量%」,「0.3 367重量%」,「0.3304重量%」,又は「0.3388重量%」含まれる ことになるのに対し,本件発明1の「グルタミン酸等含有量が,0.36~0.4 2重量%である」点。 (相違点5) 本件発明1は,「糖酸比が19.0~30.0であ」るのに対して,甲19発明 は,そのように特定されていない点。 よって,両者は,同一の発明ではない。 (ウ) 相違点5について 請求人(原告)は,本件出願日当時の技術常識として,国内品種のトマト果実の 酸度は,0.40程度であると主張し,一般にトマト含有飲料の原材料に用いられ る桃太郎トマトの酸度も,0.30から0.40程度であると主張している。 しかし,甲19発明のトマト処理液は,桃太郎T-93新潟産を水洗浄した後, 40分間蒸煮した後,40℃まで冷却,ミキサーにて粉砕し,加熱トマトホモジネ ート1195gを得た後,このホモジネートを90℃達温殺菌後,40℃まで冷却 し,ブタ膵臓由来エステラーゼ(シグマ社製)0.01gを加え,40℃で16時 間静置して反応させ,90℃達温殺菌後,35℃まで冷却し,40メッシュ金網に て固形物を除いて得たものである。そうすると,仮にトマト果実の酸度が,0.4 0程度であったとしても,40分の煮沸,90℃殺菌,エステラーゼを加えた酵素 処理を含む上記処理を経たトマト処理液の酸度も0.40程度であるということは

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できない。 甲20によると,酸度は栽培種で0.3~0.6%程度と幅があり,甲48には, 「桃太郎 T-93」の酸度が0.61とも記載されているから,甲19発明に用 いられているトマトの酸度が必ずしも0.30~0.40程度であるとはいえない。 また,甲19発明の酸度を0.30~0.40程度に調整する動機付けもない。 そうすると,甲19発明のトマト分離液の酸度を0.3~0.4として,甲19 発明の屈折糖度(Bx)8.21°~8.98°を除して,糖酸比が19.0~3 0.0であるとすることはできず,上記相違点5の本件発明1に係る構成を当業者 が容易になし得たとすることはできない。 したがって,本件発明1は,甲19発明とはいえないから,特許法29条1項3 号に該当せず,また,予備的主張としてされた,本件発明1が甲19発明及び周知 技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるともいえないから,同法29条 2項の規定により特許を受けることができないものでもない。 (エ) 本件発明2~4,7,8及び11について 本件発明2~4及び7は,本件請求項1を引用し,本件発明1にさらに限定を付 加するものであるので,本件発明2~4及び7についても,本件発明1と同様に, 甲19発明とはいえないから,特許法29条1項3号に該当せず,また,甲19発 明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるともいえないから, 同法29条2項の規定により特許を受けることができないものでもない 本件発明8及び11は,「トマト含有飲料の製造方法」及び「トマト含有飲料の 酸味抑制方法」についての発明であるが,上記相違点3,4及び5は,本件発明8 及び11と甲19発明との相違点でもあるから,本件発明8及び11は,いずれも 本件発明1と同様に,甲19発明とはいえず,特許法29条1項3号に該当しない し,また,甲19発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものである ともいえないから,同法29条2項の規定により特許を受けることができないもの でもない。

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(オ) 小括 したがって,本件発明1~4,7,8,及び11は,甲19発明でないから,特 許法29条1項3号に該当しないので,その特許は同法123条1項2号に該当せ ず,無効とすることはできない。 また,本件発明1~4,7,8,及び11は,甲19発明及び周知技術に基づき 当業者が容易に発明できたものでなく,同法29条2項の規定により特許を受ける ことができないものでもないから,その特許は同法123条1項2号に該当せず, 無効とすることはできない。 オ 無効理由5(進歩性欠如) 本件発明5及び6は,本件請求項1を引用し,本件発明1にさらに限定を付加す るものであるので,本件発明5及び6についても,本件発明1と同様に,甲19発 明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえないから, 特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。 本件発明9及び10は,本件請求項8を引用し,本件発明8にさらに限定を付加 するものであるので,本件発明9及び10についても,本件発明8と同様に,甲1 9発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえないか ら,同法29条2項の規定により特許を受けることができないものではない。 したがって,本件発明5,6,9及び10は,甲19発明及び周知技術に基づき 当業者が容易に発明できたものでないから,同法29条2項の規定により特許を受 けることができないものではないので,その特許は同法123条1項2号に該当せ ず,無効とすることはできない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(訂正要件適合性判断の誤り) (1) 本件訂正後の数値範囲の組合せが本件明細書に記載された事項ではなく, 本件明細書の記載から自明でもないこと 本件訂正の根拠となった実施例1~3の記載を見て,本件訂正後の本件発明の数

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値範囲において本件発明の効果があるとは読み取れないし,酸度の数値範囲は0. 31%~0.53%と広く,実施例1~3と同様の風味が実現されているとは考え 難い。 単に本件明細書に記載されている数値範囲内で減縮すれば必ず,願書に添付した 明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内となるものではなく,訂 正後の数値範囲に関する技術的事項が明細書等に記載されている必要がある(「特 許・実用新案審査ハンドブック」の事例29参照)。本件明細書には,本件訂正後の 数値範囲の組合せはどこにも記載されておらず,記載されているのと同然であると もいえないから,本件訂正は新規な技術的事項を導入するものである。 (2) 実施例を各構成要素に分解した上で,各要素の最大値及び最小値の範囲を 設定することは,明細書の記載のない新たな事項の創出に他ならないこと 本件訂正は,実施例1~3から,発明の要旨の3変数のうち,糖度及びグルタミ ン酸等含有量につき,最大値と最小値を採用して数値限定の上下限としたものであ るが,それらの実施例に記載された数値を任意に組み合わせて上下限としたもので あって,新規な技術事項を導入するものである。 (3) 本件訂正後の糖度,糖酸比,グルタミン酸等含有量の数値範囲の組合せが 本件発明の効果を奏さないことが本件明細書の記載から明らかなこと 本件訂正後は,糖度が10.0で糖酸比が19.0の場合には酸度0.526と なるが,このようなトマト含有飲料においてトマトの甘みによりトマトの酸味が隠 ぺいされ得ることは,本件明細書の記載から明らかではない。本件訂正は,訂正根 拠となる実施例1~3の酸度を大きく逸脱する範囲を権利範囲として設定するもの であり,実施例1~3の記載に依拠したものではなく,新規事項の加入である。 2 取消事由2(実施可能要件適合性判断の誤り) (1) 特許法施行規則24条の2違反に関する判断の誤り 審決は,本件特許は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のそ の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を

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理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない(特許法施行 規則24条の2)との規定に反するということはできない,と判断した。 しかし,本件発明が解決しようとする課題がどのようなものか,本件明細書の記 載から当業者は理解することができない。 本件発明の課題は,「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマ トの酸味が抑制された,新規なトマト含有飲料・・・を提供することにある」。しか し,「フルーツトマト」の定義は明確ではなく,本件明細書においても特定されてい ない。また,「甘み」「酸味」「濃厚」は,それぞれどのような風味を指すのか,理解 することができない。さらに,本件出願日前から,本件訂正後の発明には該当しな い「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制さ れた」製品1が市場に流通しており,これを含まない「濃厚な味わいでフルーツト マトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された」とはどのような風味を指 すのか,理解することができない。 (2) 再現困難性に関する認定及び判断の誤り 審決は,ことさら本件発明の発明特定事項ではない限定を付した下位概念に相当 する発明を想定して,当該発明を得るために過度な試行錯誤を避けることができな いからといって,本件発明を実施することができないとすることはできない,と判 断した。 しかし,本件特許については,請求項に上位概念の発明が記載されており,発明 の詳細な説明にその上位概念に含まれる一部の下位概念についての実施の形態のみ が実施可能に記載されている。すなわち,本件特許の発明特定事項は,糖度9.4 ~10.0,糖酸比19.0~30.0,かつ,グルタミン酸等含有量が0.36 ~0.42重量%という原材料を問わないトマト含有飲料という上位概念であるの に対して,実施例1~3に記載されているのは,脱酸トマト汁X,脱酸トマト汁Y, 又は重曹が配合されたトマト含有飲料という一部の下位概念にすぎない。 そして,他の下位概念である,青果トマトから搾汁しただけのフレッシュトマト

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ジュースや,トマトペーストを所定の割合で加水しただけの濃縮還元トマトジュー スを実施するためには,仮にグルタミン酸やアスパラギン酸は後から添加するとし ても,「糖度9.4~10.0」かつ「糖酸比19.0~30.0」の青果トマト, 「糖度9.4~10.0」かつ「糖酸比19.0~30.0」のトマトペーストが 必要となるが,このような青果トマトやトマトペーストが存在することは被告にお いて何ら立証されていない。 また,審決は,酸味料,アミノ酸を適宜加えたり,あるいは,加水することによ り,本件発明の範囲のものとすることが,当業者にとって過度な試行錯誤を課して いるともいえない,と判断した。しかし,「濃厚な味わいでフルーツトマトのような 甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された」官能に影響を与えないようにグルタミ ン酸及びアスパラギン酸のみを所望の量調整する方法は,本件明細書には開示され ていない。 当業者は,実施例1~3以外の実施の形態については,原材料の配合量が示され ていないから,糖度,糖酸比,グルタミン酸等含有量をその都度測定した上で,風 味評価の官能試験を実施しなければならず,過度の試行錯誤が要求される。 (3) グルタミン酸等の経時劣化性の看過 アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)が経時変化することは,本件出願 日当時,技術常識であった。 本件明細書には,グルタミン酸等含有量を経時変化させない方法や,上記経時変 化を適切に予想する方法が開示されていないから,当業者は,流通時にグルタミン 酸等含有量が0.36~0.42重量%であるトマト含有飲料をどのようにして製 造し,実施すればよいのか理解できない。 (4) 本件明細書の官能評価について 本件明細書の官能評価(【0090】【表1】)は,食品や飲料の官能評価において 必要な考慮要素を欠いており,何らの定義のない「酸味」「甘み」「濃厚」という風 味評価をしているものである。また,上記官能評価においては,総合評価の基準が

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全く理解できない。 3 取消事由3(サポート要件適合性判断の誤り) (1) 拡張又は一般化の判断の誤り 審決は,糖酸比について,糖度が甘みに寄与し,酸度が酸味に寄与することから, 糖酸比を高くすれば相対的に酸味に対して甘みが強くなる方向に飲料の味が変化す るという概略の傾向は理解でき,糖度を9.4~10.0の範囲に,及びグルタミ ン酸等含有量を0.36~0.42重量%の範囲にしたもので,糖酸比を19.0 ~30.0としても,本件発明の課題である「主原料となるトマト以外の野菜汁や 果汁を配合しなくても,濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つト マトの酸味が抑制された,新規なトマト含有飲料」を提供できることは,当業者な ら想定し得るものといえる,と判断した。 しかし,人間の味覚は糖の持つ甘味に対しては寛大で,糖含有量の高いほど嗜好 度も高まるが,酸味に対してはきわめて厳格であり,ある濃度を限界にして,それ 以上になると急激に嗜好度が減退するような傾向を持っている(甲2の1)。したが って,酸含有量の変化は味覚に対して強い影響を与えるものであり,酸含有量が広 範囲であっても,官能試験も経ずに同様の味覚が実現できると当業者が理解するこ とはできない。また,酸含有量が同一ならば糖酸度を高めると酸味は減少するから, 酸含有量が一定の幅で変化し得るとした場合,糖酸比が高くとも同時に酸度が高け れば嗜好度は急激に減退する(=酸味を強く感じる)のであり,審決が判断するよ うに「糖酸比を高くすれば相対的に酸味に対して甘みが強くなる」との関係は当然 に成立するものではない。 また,そもそも,「概略の傾向」が理解できるだけで,従来存在するトマト含有飲 料とは異なることが前提である「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあ り且つトマトの酸味が抑制された,新規なトマト含有飲料」の課題を解決すること ができる数値範囲がどの程度であるかを当業者が理解できるとする根拠はない。実 施例1の糖度とグルタミン酸等含有量を据え置いた状態で糖酸比を本件発明1の数

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値範囲内である19.0としたトマト含有飲料(以下,「想定例」という。)の評点 は,概ね酸味「-0.2」,甘み「0.8」,濃厚「1.0」で合計「2.0」点と なり,比較例1,2や参考例7と同程度か,それ未満となる。 実施例1~3のみでは,本件発明の数値限定により所望の効果が得られると理解 することはできない。 (2) 発明特定事項の欠落に関する認定及び判断の誤り ア 一般に,トマト含有飲料中には,本件明細書【0090】【表1】で測定 されたpH,Brix(糖度),酸度,糖酸比,酸度/総アミノ酸,粘度,総アミノ 酸量,グルタミン酸量,アスパラギン酸量,クエン酸量というスペック以外にも, 様々な成分,性状によって呈味が左右されることは本件出願日当時における技術常 識であった。例えば,含有される成分としては塩分やリコピン,各種ビタミン類, ナトリウム,カルシウム,マグネシウム,カリウム等の各種栄養素,フルフラール 等の各種香気成分などが挙げられる。そして,これらの各種成分がトマト含有飲料 の風味に影響を与えることは当業者にとって周知の技術常識である。 そうすると,仮に実施例1~3のトマト含有飲料が「濃厚な味わいでフルーツト マトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された」効果があるとしても,そ のような効果が本件発明1の発明特定事項である糖度,糖酸比,グルタミン酸等含 有量という三つのパラメータのみによって得られることは,本件明細書を見ても当 業者は理解できない。 したがって,技術常識に照らしても,本件明細書の記載に照らしても,当業者は, 「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つトマトの酸味が抑制され た」効果を奏するために,糖度,糖酸比,グルタミン酸等含有量だけを特定すれば 足り,他の項目を特定しなくても当該効果を実現できると理解することはできない。 イ 粘度 (ア) 本件発明1,3~11においては,粘度の規定が存在しないから,例 えば,本件発明1は,あらゆる粘度のトマト含有飲料を発明の要旨に含むこととな

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る。 しかし,粘度が高すぎれば呑み辛くなり,飲用に堪えないことは,自明であり, 糖度,糖酸比,グルタミン酸等含有量を本件発明の範囲内とほぼ同一にしても,粘 度を違えると,官能評価結果は,粘度の違いによりバラつきを示した(甲58 試 験1)。グルタミン酸等含有量が限定されたことによって粘度調整が不要になるとも 理解できない。 (イ) 本件発明2は,粘度について350~1000cPとの特定がある。 しかし,実施例1~3の粘度は,405cP,388cP,543cPであり, 粘度が350~1000cPの範囲において「濃厚な味わいでフルーツトマトのよ うな甘みがあり且つトマトの酸味が抑制された」との効果を奏することは何ら確認 されていない。したがって,本件発明2は粘度を特定しているものの,その数値範 囲は明細書に記載された範囲を大きく逸脱しており,当業者は,粘度が350~1 000cPの範囲において課題解決されると認識できない。 また,比較例1は粘度1800cPで「粘度過多」として総合評価が「××」と されている。しかし,上記粘度1800cPは,12rpmに回転数を落として測 定されたものである。一方,実施例1~3の粘度は回転数60rpmの粘度計で測 定されたものである。トマト含有飲料のような非ニュートン流体は回転数を変える と粘度の数値が変化することが知られており,回転数を低くすると,同じトマト含 有飲料でも粘度は変化する(甲63)。比較例1の粘度は回転数を60rpmで適切 に試験すれば,1800cPより低くなり,350~1000cPの範囲に含まれ る可能性もある。このような点からも,当業者は,粘度が350~1000cPの 範囲において課題解決されると認識できない。 (3) 酸味の逸脱 本件明細書【0041】の記載によると,ある糖度が隠ぺいしうる酸度の範囲は 決まっていることが本件発明の前提である。そして,それを確認したのが実施例1 ~3である。

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ところが,実施例1~3によって隠ぺいされている酸度は0.344~0.44 8に留まっている。これに対し,本件発明1は0.313~0.526の酸度を有 するトマト含有飲料が発明の要旨に含まれることになるが,このようなトマト含有 飲料の酸味がトマト自身の甘味によって隠ぺいされるかは,実施例1~3を含め, 本件明細書上一切確認されておらず,示唆もない。したがって,本件発明1は「風 味(酸味)」の評価に影響を及ぼし,発明の詳細な説明にサポートされていない酸味 を含むトマト含有飲料まで拡張化されることになる。 (4) グルタミン酸等含有量の課題解決手段としての意義の不存在 グルタミン酸等含有量が「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且 つトマトの酸味が抑制された」との課題を実現するために,どのような技術的意義 があるのかは不明である。後記4(2)ア(イ)の甲58の試験2で示すとおり,グルタ ミン酸等含有量を本件発明の数値範囲(0.36~0.42重量%)内外で変化さ せたが,風味が異なるものとは認められなかった。このことは,グルタミン酸等含 有量の要件が本件発明の課題解決に何ら寄与しておらず,その要件の存在により課 題が解決できることを当業者が認識できないことを表している。 4 取消事由4(公然実施による新規性喪失に関する認定及び判断の誤り) (1) 公用発明1との相違点1の認定の誤り 本件発明は,グルタミン酸等含有量が0.36~0.42質量%であり,公用発 明1は,グルタミン酸等含有量が少なくとも0.25質量%であるから,両者は一 部で重複していることを,審決は看過している。グルタミン酸等含有量の経時変化 を考慮すると,製造直後の製品1のグルタミン酸等含有量は本件発明の同含有量の 範囲内において一致した可能性がある。 (2) 公用発明1が実質同一発明であることの看過 ア グルタミン酸等含有量が0.36~0.42であることの技術的意義の 不存在 (ア) 本件明細書【0043】においては,「アミノ酸含有量が高いと,ト

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マト含有飲料の旨味(コク)が増す傾向にある。」と記載されているが,そもそも, 本件明細書においては「甘み」「酸味」「濃厚」しか評価されておらず,「旨味(コク)」 は評価の対象外とされている。さらに,同段落の記載によると,グルタミン酸等含 有量が少ないほど,トマトの酸味が抑制され,かつ,トマト本来の甘みが際立つと 理解される。 しかし,本件発明におけるグルタミン酸等含有量の下限値(0.36重量%)の 根拠となる実施例3は,酸味の評点が実施例1(最も良好)と実施例2(最も不良) の中間値であり,本件明細書の酸味抑制という課題解決との技術的因果関係がない。 また,「甘み」については,糖度が同一(9.4)である実施例1と比較例2にお いて,グルタミン酸等含有量がより低い比較例2の方が「甘み」の評価が悪く(0. 3),グルタミン酸等含有量がより高い実施例1の方が「甘み」の評価が良い(0. 8)など,本件明細書【0043】の記載に反する効果が証明されている。 本件明細書【0043】の「旨味(コク)」をあえて「濃厚」という評価項目を指 すと理解するならば,「旨味(コク)」が最も高いはずの実施例1(合計0.42重 量%)が最も評価が低く(濃厚1.0),「旨味(コク)」が最も低いはずの実施例3 (合計0.36重量%)が最も評価が高い(濃厚1.8)という逆転現象を起こし ており,「濃厚な味わい」という課題との技術的因果関係も見いだせない。 本件明細書からは,グルタミン酸等含有量が,0.36~0.42重量%である ことの技術的意義を一切見出すことができない上に,【0043】で述べられている 内容と官能試験結果(【0090】)自体に矛盾が生じている。 (イ) 甲58の試験2において,グルタミン酸等含有量以外の数値範囲をほ ぼ同一のものに揃えた上で,グルタミン酸等含有量を,0.33,0.36,0. 41,0.42,0.43,0.45(各重量%)という6種類のサンプルを準備 し,パネラーが違いを識別できるか実験したが,パネラーは何ら違いを識別できな かった。とりわけ,0.33重量%のものと0.45重量%のものも識別できなか ったから,公用発明1(0.25重量%)と本件発明(0.36重量%)に,風味

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向上・酸味抑制という課題解決の上での差異がないといえる。したがって,トマト 含有飲料の「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘味があり酸味が抑制された」 課題に対し,グルタミン酸等含有量が0.36~0.42重量%という数値範囲は 何ら寄与していない。 イ グルタミン酸等含有量が0.36~0.42重量%というトマト含有飲 料は,本件出願日前から周知のものとなっており(甲19,66~72),本件発明 1は,公用発明1のグルタミン酸等含有量を上記周知事項に置換・転換したにすぎ ないから,公用発明1と実質同一発明というべきである。 ウ 発明の課題・本質からみた新規性の不存在 本件発明が課題とする「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且つ 酸味が抑制された」風味のトマト含有飲料は,すでに公用発明1において本件出願 日前から具現化していたのであって,本件発明は公用発明1と全く同一である。し たがって,本件発明の課題という特許出願の根本から考えて,本件発明には何らの 新規性もない。本件発明のグルタミン酸等含有量は人為的な区切りにすぎない。 需要者が「フルーツトマトらしい」と感じる風味にグルタミン酸等含有量が0. 36~0.42重量%であることが何ら寄与していないことは,甲58の試験3(公 用発明1が「フルーツトマトらしさ」について1位であった試験)でも確認されて いる。 (3) 公用発明2が実質同一発明であることの看過 グルタミン酸等含有量は経時劣化する。 製品2の製造年月日は2010(平成22)年5月17日であることから,賞味 期限(製造年月日から1年)である2011(平成23)年5月17日までは流通 におかれていたと解するのが妥当である。累乗近似を用いた12か月相当の逆算値 は0.501%であり,訂正後の請求項1における上限(0.42%)との差は微 差に過ぎない。当該上限値に格別の技術的意義はないから,公用発明2と本件発明 は,実質的に同一発明と認定されるべきであった。

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糖度の差も微差であり,実質同一の範囲とされるべきであった。 5 取消事由5(刊行物に基づく進歩性欠如の判断の誤り) (1) 審決は,本件発明1は,糖酸比が19.0~30.0であるのに対して, 甲19発明は,そのように特定されていない点で相違する(相違点5)とした上で, 相違点5について,①仮にトマト果実の酸度が0.40程度であったとしても,4 0分の煮沸,90℃殺菌,エステラーゼを加えた酵素処理を含む上記処理を経たト マト処理液の酸度も0.40程度であるということはできない,②甲20によると, 酸度は栽培種で0.3~0.6%と幅があり,乙3には,「桃太郎 T-93」の酸 度が0.61とも記載されているから,甲19発明に用いられているトマトの酸度 が必ずしも0.30~0.40程度であるとはいえない,③甲19発明の酸度を0. 30~0.40程度に調整する動機付けもない,として,甲19発明に基づく想到 容易性を否定した。 (2) 新規性と進歩性の議論の混同 審決の上記判断①,②は,甲19に酸度0.40,すなわち,本件発明の要旨事 項の範囲内である「糖酸比20.5~22.4」が開示されているか否かを検討し ているものである。審決は,新規性喪失の判断と進歩性欠如の判断を混同している。 (3) 想到容易性 0.3~0.4の酸度のトマトが一般的に存在し,この事実が出願時技術水準を 構築していた(甲20~26)。したがって,当該酸度を選択し,甲19発明の糖度 (8.98)に当てはめ,糖酸比を19.0~30.0とすることは,単なる技術 常識の適用であり,本件発明の糖酸比の下限19.0に何らの技術的意義もないか ら,甲19発明を相違点5のような構成とすることは,当業者にとって容易想到で ある。 なお,高糖度トマトの要素という普遍的課題(甲6,53,57)に基づき糖度 を9.4とすることは,設計事項の域を出るものではなく,容易に推考することが できる。

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(4) 審決の矛盾 審決は,糖酸比を高くすれば,酸味に対して甘みが強くなるから,糖酸比を19. 0~30.0とすることで,「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがあり且 つトマトの酸味が抑制された,新規なトマト含有飲料」を当業者は容易に想定でき たと判断している。しかし,この判断と甲19発明の相違点5の判断において,甲 19発明の糖酸比を本件発明の範囲にする動機付けがないとすることとは,矛盾し ている。 第4 被告の主張 1 取消事由1に対し (1) 本件訂正は,特許請求の範囲に記載された数値を限定するものであるから, 特許請求の範囲を減縮するものであることは明らかである。 (2) 原告は,①本件訂正後の数値範囲で実施例と同様の効果を奏するとの記載 がないこと,②本件訂正後の数値範囲による酸度が広範囲であること,及び,③本 件訂正後の数値範囲の組合せが,本件明細書に記載された事項ではなく,その記載 から自明でもないため,本件訂正が,新たな技術事項を導入するものである,と主 張する。 しかし,①及び②は,特許法上の訂正要件とは何ら関係のない主張である。また, ③原告がその根拠とする「特許・実用新案審査ハンドブック」の事例29は,訂正 後の特許請求の範囲に記載された数値範囲の上限値と下限値がいずれも出願当初の 明細書等に一切記載されていない事案に関するものであり,実施例に訂正後の数値 範囲の上限値及び下限値が出願当初の明細書に記載されている本件とは関係がない。 (3) 原告は,本件訂正後の特許請求の範囲に記載された各数値範囲の上限値及 び下限値の組合せの具体例が本件明細書に記載されていないから,本件訂正が新規 事項の追加に当たる,と主張する。 しかし,上記主張は,特許訂正要件との関係において,いかなる論拠に基づくも のか,明らかにされていない。

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(4) 原告は,本件明細書の記載に照らしても,本件訂正後の数値範囲の組合せ が本件発明の効果を奏さない,と主張する。 しかし,上記主張は,訂正要件にかかる特許法134条の2第1項のいずれの文 言とも関連するものではなく,失当である。 2 取消事由2に対し (1) 「特許法施行規則24条の2違反に関する判断の誤り」について ア 原告は,本件発明の課題として記載される風味につき,①「フルーツト マト」「甘味」「酸味」とは何かが理解できず,②本件明細書に記載された風味の評 価方法等があいまいであるから,上記課題が当業者において理解できない,と主張 する。 しかし,①一般的な「フルーツトマト」の認識(乙6~11,14)から,当業 者においては,その意義は十分認識可能な程度に明確である。しかも,「フルーツト マト」そのものではなく,「フルーツトマトのような甘み」である。「甘味」「酸味」 は味覚の基本味の一つであるから,「フルーツトマトのような甘味」「トマトの酸味」 及びこれが「抑制された」味も,当業者において,容易に認識可能である。 また,②本件明細書記載の風味の評価方法の技術的意味は明確であるし,「濃厚」 の用語はトマトの味を表現するものとして一般的に用いられている(乙10,11, 13~16)から,当業者においては,あえて定義するまでもなく,認識可能な程 度の技術常識となっていたといえる。 イ 原告は,本件発明の課題として記載される風味を善解すれば,製品1の 風味がこれに含まれるのは当然であるが,公用発明1の各数値が本件発明の数値範 囲外であり,より本件発明の課題の理解を困難にする旨主張する。 しかし,特許法施行規則24条の2の規定は明細書中の発明の詳細な説明の記載 に関する規定であるから,当該規定に対する違反の有無は,端的に明細書の記載か らのみ判断されるものである。したがって,原告が主張するような公用発明1の本 件発明の構成要件に対する充足性は,特許法施行規則24条の2違反該当性の議論

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と何ら関係がない。 (2) 「再現困難性に関する認定及び判断の誤り」について ア 本件発明は,「糖度,糖酸比,並びにグルタミン酸等含有量が各数値範囲 に限定されたことを特徴とするトマト含有飲料」であり,原材料については,本件 特許の請求項には記載がないから,上位概念において共通するものとして総括され る性質のものではない。 また,本件発明について,審査基準記載の「発明の詳細な説明にその上位概念に 含まれる「一部の下位概念」についての実施の形態のみが実施可能に記載されてい る」と判断するためには,構成要件を充足する下位概念に,発明の詳細な説明の記 載からは実施可能でないものが存在していることが必要であるが,原告はそのよう な下位概念を具体的に示していない。 イ 原告は,本件明細書記載の実施例以外の形態について,原材料の配合が 示されておらず,配合したものについて各要素の数値をその都度測定し,さらに風 味評価をしなければならず,過度の試行錯誤を要求する旨主張する。 しかし,特許請求の範囲において,数値範囲はそれぞれ明確に記載されているの であるから,本件明細書における本件発明実施のための配合方法等の記載及びトマ ト含有飲料の製造販売を業として行う当業者における技術常識を踏まえると,本件 発明の実施たるトマト含有飲料の製造において,当てずっぽうの配合などが行われ ることはなく,過度の試行錯誤を要求するものではない。仮に,配合後の調製品の 風味評価を行うとしても,風味評価自体は,当業者が一般的に用いる手法の下で官 能試験を行うものであり,当業者にとって特段試行錯誤を要する内容ではない。 (3) 「グルタミン酸等の経時劣化性の看過」について 経時変化する成分等が含まれる発明に関して,明細書の記載中にそのような経時 変化の下でも当該成分の濃度等が維持される方法の開示が必要であることや,実施 例において当該発明の実施品の流通時の数値範囲の記載が要求されることなどが特 許要件であることについては,特許法上の規定及び審査基準等からは一切認められ

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ない。 また,トマト含有飲料中に含まれるグルタミン酸等が経時劣化するといった現象 が,出願時の技術常識になっていたとの事実は存在しない。 3 取消事由3に対し (1) 「拡張又は一般化の判断の誤り」について ア 原告は,糖酸比が高くとも,酸度が高ければ嗜好度が急激に減退すると して,審決が,本件発明の数値範囲内において,糖酸比を高くすれば相対的に酸味 に対して甘みが強くなる方向に飲料の味が変化するという概略の傾向は理解できる, と認定した点は誤りである旨主張する。 しかし,原告が示した,甲2の1に記載された図1.2.6及び,当該図と図1. 2.4を合成した図(以下,「原告合成図」という。)は,横軸及び縦軸に数値の記 載がなく,各軸が何を示しているかは不明であり,原告合成図が何を示しているの か全く不明であるし,本件発明に当てはまるものではない。 また,原告が引用する甲2の1の「人間の味覚は酸味に対し極めて厳格であり, ある濃度を限界にして,それ以上になると急激に嗜好度が減退するような傾向も持 っている。」との記載については,トマト汁に特化したものでなく,また,トマト汁 全般に該当するものではないため,本件発明のトマト含有飲料に当てはまるもので はない。 さらに,原告は,審決の「糖酸比を高くすれば相対的に酸味に対して甘味が強く なる」との認定が,「酸含有量が同一ならば」という前提があって初めて成り立つ, と主張する。しかし,糖酸比は糖度の酸度に対する比率であることから,糖度が甘 みに寄与し,酸度が酸味に寄与することから,糖酸比を高くすれば相対的に酸味に 対して甘みが強くなる方向に飲料の味が変化する,との審決の説明は,糖酸比のよ うなパラメータ同士の比率を示した値の論理的な性質そのものの説明であり,原告 が主張するような「酸含有量が同一ならば」との前提は不要である。 イ 原告は,審決が本件発明の数値範囲のうち,実施例に記載のない範囲に

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つき,概略の傾向が理解できる,と認定した点について,原告独自の論理を用いて 「想定例」なる事例を創出し,特許請求の範囲において課題が解決できない,と主 張する。 原告は実施例と比較例の官能評価の結果から,想定例の酸味評価を「-0.2」 と想定しているところ,その理由は想定例の糖酸比が「実施例2(22.3)比較 例1(17.6)のほぼ中間(19.0)である」からとのことである。しかし, なぜ糖酸比が実施例2と比較例1の中間という理由だけで,糖度の違いなどを十分 考慮せずに,想定例の酸味を想定できるのか,十分な説明がされておらず,到底理 解できるものではない。 ウ 本件明細書においては,実施例1~3として,本件発明の数値範囲に対 応した具体的な実施例の記載がされている。当該記載に加え,本件出願日当時の当 業者の技術常識を踏まえると,実施例1~3の数値,並びに比較例1及び2の数値 に鑑み,本件発明の数値範囲内であれば本件明細書に記載された発明の課題を解決 できると当業者が認識できる程度に具体例が記載されているため,本件発明の数値 範囲内については発明の詳細な説明において開示された内容を拡張又は一般化でき ることは明らかである。 (2) 「発明特定事項の欠落に関する認定及び判断の誤り」について ア 原告は,トマト含有飲料の一般論として,塩分,リコピン,各種ビタミ ン類,ナトリウム,カルシウム,マグネシウム,カリウム等の各種栄養素,フラフ ラール等の各種香気成分なども呈味を作用しうるため,本件明細書を読んでも,三 つのパラメータのみによって効果が得られることは,当業者には理解できない旨主 張する。 しかし,本件発明はトマト含有飲料が本件明細書記載の風味を有するとの効果を 奏するためには,所定の数値範囲の糖度等が重要であることを見いだしたものであ り,当該効果を達成するために,他の要因の関与がないことを述べたものではない。 また,トマト含有飲料を含めた食品分野の特許実務においては,温度や粘度等の多

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岐にわたる条件の全てを個別に特定しなければ特許発明の課題を解決できないとい うものでもないので,温度や粘度等の多岐にわたる条件を,発明特定事項としなけ ればならない理由はない。 イ 原告は,特許請求の範囲において粘度が特定されていない本件発明1, 3~11について,原告が自ら行った実験結果(甲58 試験1)に基づく主張を する。 しかし,原告が甲58の試験1において用いた粘度の調整方法である遠心分離は, 粘度調整に用いられるものではなく,遠心分離の方法により調製された検体は,当 業者が想定するような一般的なトマト含有飲料からはかけ離れたものであり,粘度 の違いのみによる官能評価の変化を評価する対象としては,極めて不適切な組成と なっている。 ウ 原告は,本件発明1はあらゆる粘度のトマト含有飲料を発明の要旨を含 むと主張するが,特許請求の範囲の解釈については,当然に当業者の技術常識も考 慮すべきであり,本件発明が一定の風味を有するトマト含有飲料を得ようとするも のであることからすれば,その粘度については,当業者の技術常識として,一般的 にトマト含有飲料として成立し得る範囲内のものであることは当然であって,原告 が主張するような「あらゆる粘度」のものを含むものではない。 エ 原告は,本件発明2について,本件明細書記載の実施例の粘度が,それ ぞれ405cp,388cp,543cpであるから,特許請求の範囲に記載され た350~1000cpの範囲において効果を奏するかは確認されていないと主張 する。 上記主張自体,発明特定事項とは何ら関係ないものであるが,サポート要件に関 し,請求項は,発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張又 は一般化した記載とすることは認められている。本件発明2の記載についても,請 求項に係る発明が,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業 者が認識できるように記載された範囲内であることから,上記のような「拡張又は

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