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力育成の試み : 教員養成課程における社会科教育 法関連授業の改善

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力育成の試み : 教員養成課程における社会科教育 法関連授業の改善

著者 寺尾 健夫

雑誌名 福井大学教育実践研究

巻 32

ページ 57‑68

発行年 2008‑01‑31

URL http://hdl.handle.net/10098/1647

(2)

1.問題設定

教員養成課程の学部教育において,社会科の授業作り や学習指導の能力育成を直接的に担っているのは社会科 教材研究や社会科教育法などの社会科教育法関連の教職 科目である。筆者が担当する社会科教材研究や社会科教 育法,模擬授業などの授業は3年前期の学生を対象にし たものから始まる。これらの授業の初期の段階で学生に 指導案を書かせてみて,例年強く感じる問題は,学生た ちが教師の教授活動に偏った授業構想しかできていない ことである。これは単に指導案の様式や作成に不慣れな ことのみに起因する問題ではない。その根本には,学生 たちの中に,「授業は教師が主導するものである」とい う強い観念があると思われる注1)。このような教師主導型 の授業観は学習指導案の書き方に端的に表れている。学 習指導案の学習過程表では,一般に,授業の基軸となる 要素を表中の最も左の欄に設けるが,学生の多くはこの 欄に教師の活動を設定し,発問,指示,説明といった教 授活動,資料,それに教えようとする内容を書いている。

そしてその右側の欄には教授活動に主導される形で子ど もの学習活動を書いている。ここで欠落しているのは,

学習過程で子どもがどの様に思考を進め,理解を深めて いくのか,そして教師はその実現のために何に留意して 指導を行うかについての言及である。つまり,子ども主 体の思考や理解の筋道を考えて学習過程を構成する発想 が欠落しているのである。学生が教師主導型の授業観に 支配されていることは,この型の指導案を書く学生が模 擬授業の初発段階においても極めて教師中心の指導を行 うことからも確認できる。おそらく高校で受けた講義式 の授業が大きく影響していると思われるが,教師主導の 授業観は学生を強く支配している。学生の中にはその指 導傾向が子どもの主体的学習を阻むと指摘されても,教 師主導型の授業がなぜ問題なのかまったく自覚できない

者もいる。

教師主導型授業観の問題点は次の4つにまとめられる。

①この授業観のもとでは,学習は基本的に教師が準備し た学習内容(知識)を子どもに伝達することによって成 り立つという観念が強く,子ども自身が知識や理解を構 築することで成り立つという考え方が希薄である。

②学習内容は教師が直接的に伝達するものと考えられて いるため,学習内容の習得では教材(資料)が媒介とな り,子どもが既有の知識や理解を用いて教材を解釈し,

知識や理解を作り上げることをとおして子ども自身が構 築,獲得していくものであるという考え方が希薄である。

③授業は教師の教授活動・教育(学習)内容・教材・子 どもの学習活動の4つが基本的要素となり,これらを組 織することで成り立つ。しかし,この授業観では単純に 学習内容,教師の説明,資料の3つを指標として授業を 捉える傾向にあり,上記の4つの基本的要素についての 理解や,要素相互の有機的関係を考えた授業作りの方法 についての理解が希薄である。

④社会事象の理解の深まりを単純に社会的な事柄につい ての知識や専門科学の知識の増大をもとにして捉える傾 向があり,理解の深まりは獲得される知識の質や,知識 獲得にはたらく思考(推論)を指標とした認識過程の明 確化によって捉えられることへの理解が希薄である。

教師主導型授業観の問題を克服し,学生の授業作成力 や学習指導力を向上させるには,上記の①〜④の特徴の 対極にあるような,望ましい社会科授業の基本的特徴を 理解させることが不可欠であり,この実現こそが社会科 教育法関連授業に課せられた大きな使命である。

以上のような問題意識をもとに,本稿では,筆者がこ れまで数年にわたって改善を試みてきた授業の成果と課 題を報告する。今回は「社会科教育法Ⅱ」の授業での試 みを紹介し,その効果を検討するとともに,今後の課題

思考場面の構成を基軸とした社会科授業プラン作成力育成の試み

―教員養成課程における社会科教育法関連授業の改善―

福井大学教育地域科学部 寺 尾 健 夫

本研究では,教員養成課程の社会科教育法関連科目における授業プラン作成力の指導方法改善の試み を紹介し,その効果を検討した。まず,子どもが主体となって社会的理解を深めることができ,また子 ども主体型の授業プラン作成を大学生に可能にする社会科授業プラン作成の方法を考案した。具体的に は,4つの要素(①トゥールミン図式,②思考場面の構成図,③学習過程表,④教材資料)を考案し,こ の4つの要素を用いた社会科授業プラン作成を社会科教育関連授業で指導した。そしてその効果を受講 学生へのアンケート調査をとおして分析したところ,4つの要素の中では特に思考場面の構成図を基軸に して4つの要素間の関連を密にすることで子ども主体の授業プランを作成しやすくなり,指導の効果が 高まることが明らかとなった。

キーワード:教員養成 社会科教育 社会科教育法 授業プラン 学習指導案 思考場面

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を明らかにする。

その手順として,まず社会科教育法Ⅱの授業構成を示 し,この授業で試みた社会科授業プラン作成力育成の工 夫を示す。続いて授業効果を検討するために行ったアン ケートによる意識調査(授業プラン作成方法に対する学 生の評価)の方法を示す。そしてこの調査結果の紹介と 考察をとおして授業の効果を検討し,試みた工夫の利点 と課題を明らかにする。

2.社会科教育法Ⅱの授業構成と授業効果の検討方法

(1)社会科教育法Ⅱの授業構成

授業目標 はじめに「社会科教育法Ⅱ」の授業構成を示 す。この授業は教員養成課程の教職科目として学部第3 学年前期で履修する,演習を基本とした授業である。中 学校社会科免許取得上の必修授業であり,例年,社会系 教育コースの学生約10名と他コースの学生3,4名が受 講している。第2学年の後期に開講している,講義を基 本とした「社会科教育法Ⅰ」の授業に続いて,社会科教 育に関する実践的な能力の発展を目ざしている。受講学 生はこの授業を履修した後,9月はじめから約1ヶ月間,

附属小学校と附属中学校のどちらかで主免対応の教育実 習を行う。実習が目前に迫っているため,授業作りや学 習指導の実践的な能力・技能を習得しようとする意欲は 高く,学習効果が最も高まる時期にあると思われる。こ の様な背景からは,社会科教育法Ⅱの授業では,他の社 会科教育法関連授業に比べて,授業作りや学習指導に関 わる実践的な能力をより確実に習得できる可能性が高い。

しかしながらそのような実践的な能力・技能は多岐に わたっている。教材研究や学習指導案作成の能力から教 壇指導の実際的技能に至るまで様々あり,ひとつの授業 では育成しきれない。学習指導の実際に関する授業とし ては別に「社会教材研究」や「模擬授業」などの授業が 用意されている。そこでこの「社会科教育法Ⅱ」の授業 では,社会科授業作りの中核となっている授業プラン注2)

を作成する能力の育成を中心的な目標とした。

学生に示した学習目標は以下の3点である。

1)中学校社会科授業の望ましい実例をとおして社会科 授業の基底にある学力観や指導のポイントを理解する。

2)小・中学校社会科の授業設計の方法についての知識 を習得する。

3)社会科授業プラン作成をとおして小・中学校社会科 の授業設計の方法的な能力や技能を習得する。

一方,授業担当教員(筆者)が設定した授業目標は以 下の5つである。①〜④は本稿の1.で指摘した教師主 導型授業観の①〜④の問題点の克服に対応しているとと もに,実践的な能力・技能の発展と深く関係している社 会科授業プラン作成力の育成に焦点を当てた目標である。

①学習は子ども自身が知識や理解を構築することで成り 立つという考え方を理解させる。(学習観)

②学習内容は,教材(資料)が媒介となり,子どもが既

有の知識を用いてそれらを解釈し,知識や理解を作り上 げることをとおして子どもの中に構築,獲得されていく ものであるという考え方を理解させる。(知識観)

③授業は教授活動・学習内容・教材・学習活動,の4つ を基本要素とし,これらを有機的に関係づけて作られる ことや,これらの要素を組織した授業作りの方法につい ての知識を身につける。(授業観)

④社会事象の理解の深まりは,子どもが獲得する知識の 質やレベル,知識獲得にはたらく思考の類型を指標とし た認識過程の明確化によって捉えられることを理解する。

また,授業はこの様な認識過程を基軸にした授業の4つ の基本要素の組織化によって作られることを理解する。

(認知観)

⑤社会科授業プラン作成の実際的技能を習得する。

授業計画 「社会科教育法Ⅱ」の半期14回(15回目は評 価)の授業計画は表1に示すとおりである。この授業は 大きく2つのパートで構成されている。パート1では授 業プラン作成方法についての理論的な学習を行い,パー ト2ではパート1で習得した授業構成の要素や授業作り の方法についての知識をもとに授業プランを作成する。

授業での学習は以下のように展開する。

パート1ではまず,社会科の目標を学校教育全体から のマクロな視点で理解することから始める。そのため,

第1回の授業では教材として戦後初期の教育基本法成立 過程を探ったVTR(NHK番組)を視聴する。これに よって,学校教育の目的と社会科の目標とが密接に関係 していること,そのため教育の目的の実現において社会 科は他教科に比べてより中心的な役割を担っていること を理解する。このような学習は,学生が社会科教師とし ての自覚(アイデンティティ)をもつことにつながる。

第2回では,近年の社会科で重視されている考える力 や調べる力とはどのようなものか,転移力・応用力のあ る知識(社会を認識する上で重要な見方・考え方)や社 会理解のための方法的能力とは何かについて理解する。

第3回では,社会追究のための基軸となる問いや追究 過程のモデル,そして社会追究の過程ではたらく思考の タイプや思考の結果として形成される知識のタイプにつ いて事例を手がかりとして理解する。そして第4回では,

中学校社会科の単元構成の特徴について教科書単元の内 容構成の分析をとおして理解する。

第5回では,筆者が教師役を,学生が子ども役をして 模擬授業を行う。この回では学生は,筆者が開発した小 学校の社会科単元「高原の人々のくらし」の授業を学習 者の立場で受け,学習過程における子どもの理解の様相 を体験的に理解する。続いて第6回と第7回の授業では,

第5回の授業の経験で得た「事例単元における学習と理 解の過程」についての理解を基礎にして,社会理解の仕 組みとその指導方法を理解する(理論的理解)。そのた めに第6回ではまず,社会探求の過程と学習問題の把握 の仕方を理解する。そして第7回では,知識と思考の類

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型を指標とした単元・授業における認識過程の分析方法 を理解する。続いて次時の授業へのつなぎとして,この 認識過程の分析方法を応用して単元事例を分析する宿題 を課す。事例としたのは中学校社会科教科書地理単元「他 地域と結びつく国際都市福岡」(T社)である(応用的 理解)。

第8回では,宿題にしていた事例分析の結果を学生同 士で検討する。知識と思考の類型を分析指標にした事例 単元の認識過程図の検討をとおして単元分析力を伸ばす とともに,社会科授業作りの要素を総合的に理解する。

続いてパート2では,実習をとおして社会科授業プラ ン作成方法の理解と技能を段階的に発展させていく。そ のために第9回目の授業ではまず,授業プラン作成方法 として,「4点セットを基軸にした社会科授業プランの 作成方法」(詳しくは後述)を説明する。この回の授業 の後半部分では,次回で取り上げ,学生が発表すること になる授業プラン作成の第一の要素,トゥールミン図式 の考え方と作成方法について説明する。そして,宿題と して,作成する授業プランの対象単元を決定し,トゥー ルミン図式を作成させる。単元は,自分の教育実習中に 教える可能性の高い単元の中から選ばせる。

第10回では,学生は他の学生の前で,自分が作成した

トゥールミン図式を発表し,担当教員と他の学生から批 評を受ける注3)。教員は発表の直後に口頭で批評し,他の 学生は発表者の発表後にカードに批評を書いて,当日の 授業の終わりに発表者に渡す。また宿題として次回の前 日までに,トゥールミン図式の改善案と次回に検討する

「思考場面の構成図」を作成するように指示する。

第11回〜13回までの授業は,第10回と同様の形式で行 われる。第11回では思考場面の構成図,第12回では学習 過程表,第13回では授業で実際に用いる資料(教材資料)

について発表して相互に批評,検討し合う。学生は,自 分の発表内容について担当教員や他の学生から得た批評 を生かして授業プランを改善し,第14回までに4つの要 素(4点セット)すべてを揃えた授業プランを作成する。

第14回の授業では,作成した社会科授業プランを小グ ループに分かれて互いに検討する。そして最後に,プラ ンをまとめ上げる最終報告書の内容と形式を理解する。

最終報告書では授業プランの最終改善案を作成するとと もに,これまでの14回の授業における自分の学習を振り 返り,理解の深まりを流れとしてまとめる(自己評価)。 また,これまでに習得した授業分析の方法を応用して他 の学生の授業プランを批評し,理解を定着させる。

社会科教育法Ⅱでは,以上のような全14回の授業と最 表1 社会科教育法Ⅱの授業計画

パート/回 学習テーマ 学習目標

●日本国憲法,教育基本法の理念と社会科の役割 ◆社会科の特質と目標について理解する。

●社会科は子どもにどの様な能力や学力を伸ばそうとし ているか

◆近年の学び方・思考力重視の学力観と社会科の目標・方法の特徴を理解 する。

●社会を理解するしくみ −社会の追究的理解と「問い」

「知識」「思考」の種類

◆「問い」「知識」「思考」の類型および社会の追究的理解におけるこれ らの働きと関係について理解する。

●中学校社会科教科書の内容構成を分析する ◆中学校社会科の学習内容と単元構成の特徴について理解する。

●追究的社会科学習を学習者の立場で体験する ◆小学校社会科単元「高原の人々のくらし」の授業を学習者の立場で理解する。

●社会を理解するしくみとその指導①

−社会探求の過程と学習問題の把握

◆小学校社会科単元「高原の人々のくらし」を事例として学習構成の方法

(学習問題の設定方法,追究的理解過程の構成方法)を理解する。

●社会を理解する仕組みとその指導②

−思考と知識の類型を指標とした学習内容と認識過 程の分析−

◆分析事例を基にして知識と思考の類型を指標とした認識過程の分析方法を理解する。

小学校の単元「高原の人々のくらし」を事例とした認識過程図,学習過程表の説明

◆中学校社会科地理単元「他地域と結びつく国際都市福岡」の概要を理解し,

この単元の内容分析と認識過程図(知識構造図)を作成する課題(宿題)を知る。

宿題 中学校社会科教科書地理的分野の単元「地域の中心的役割をもつ福岡県」の記述内容を知識と思考を指標にして分析し,認識過程図に 表して提出する。→印刷して次時の授業の発表資料にする。

●中学校社会科単元の内容構成を分析する② ◆知識と思考の類型を指標にして分析した中学校社会科教科書地理的分野の単元「地域 の中心的役割をもつ福岡県」の認識過程図を検討する。

●4点セットを基軸にした社会科授業プランの作成方法

◆先輩のモデル授業プランの紹介と授業プランの4要素の概要を理解する。

(①トゥールミン図式,②思考場面の構成図,③学習過程表,④授業で用いる資料)

◆第一の要素「①トゥールミン図式」の作成方法を理解する。

宿題 単元選択と①トゥールミン図式を作成して提出する。→印刷して次時の授業の発表資料にする。

10 ●社会科授業プランを提案し検討する①

−トゥールミン図式

◆作成した①トゥールミン図式を発表し,良い点と問題点を検討する。

◆第二の要素「②思考場面の構成図」の作り方を理解する。

宿題 ①トゥールミン図式の改善案と②思考場面の構成図を作成して提出する。→印刷して次時の授業の発表資料にする。

11 ●社会科授業プランを提案し検討する②

−思考場面の構成図

◆①トゥールミン図式の改善案と作成した②思考場面の構成図を発表し,検討する。

◆第三の要素「③学習過程表」の作成方法を理解する。

宿題 ①トゥールミン図式,②思考場面の構成図の改善案と③学習過程表を作成して提出→次時の授業の発表資料にする。

12 ●社会科授業プランを提案し検討する③

−学習過程表(指導計画,目標も含む)

◆②思考場面の構成図の改善案と作成した③学習過程表を発表し,検討する。

◆第四の要素「④授業で実際に用いる資料」(資料教材)の作成と提示方法を理解する。

宿題 ②思考場面の構成図,③学習過程表を改善し,④資料教材を整備,完成させて4点セットとして提出→印刷して次時の授業の発表資料にする。

13 ●社会科授業プランを提案し検討する④

−授業で用いる資料

◆④資料教材の改善案を示すとともに,①〜④の要素(4点セット)すべてを整備した 社会科授業プランを発表する。

14 ●社会科授業プランを提案し検討する⑤

−相互検討会と最終報告書の内容と形式

◆これまでに作成した社会科授業プランを小グループに分かれて相互に検討する。

◆社会科授業プランを仕上げて示す最終報告書の内容と形式を理解する。

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(5)

終報告書の作成をとおして学生に社会科授業プラン作成 の能力を習得させるようにしている。ではこの様な授業 は,どの様な論理で社会科授業プラン作成力の育成を可 能にするのだろうか。この問いに答えるため,以下では,

社会科教育法Ⅱで授業作りの基礎となる社会科授業の基 本要素,それに社会科授業プラン作成の要素,そしてこ の授業プラン作成を習得させる方略を示す。

(2)社会科授業プラン作成力育成の方略

1)社会科授業の基本要素 社会科教育法Ⅱのパート1 ではまず,授業の初期の段階で,社会科授業プランの作 成の基礎になるものとして社会科授業の要素を解説する。

①学習過程の基本パターン 社会科授業の第一の要素は,

「学習過程(授業過程)の基本パターン」である。探究 的な学習過程は仮説−検証の過程を基本とする。そして この過程には,段階として①情報との出会い,②問題設 定,③予想,④情報の収集と予想の検証,⑤解明された ことのまとめ,⑥未解決な課題や新たな課題の確認,の 6段階がある。しかしこの基本パターンはあくまでもモ デルであり,他にもこれを拡張した様々なバリエーショ ンがあり得る。重要なのはこの基本パターンを指標にし て多様な学習過程を教師自身が工夫することである。

②学習問題の設定方法 社会科授業の第二の要素は,

「学習問題の設定方法」である。学習問題の設定方法に は表2のような4つのタイプがある(事象と子どもの既 有の認知構造との関係に着目した分類)。学習問題の設 定方法の第一のタイプ(タイプ①)は,親密性を問題設 定の契機にしたもので,子どもの既有の認知構造と新た に知る事象との共通性を認識させることで問題を把握さ せ,既有の認知構造を拡大させて理解を拡充・発展させ るタイプである。第二のタイプ(タイプ②)は,意外性 を契機にしたもので,子どもの認知構造と新たに知る事 象との差異を認識させて既有の認知構造をゆさぶり,認 知の安定に向けた思考をさせて理解の拡充と発展をもた らすタイプである。第三のタイプ(タイプ③)は,矛盾 を契機としたものである注4)。このタイプはさらに,(a)

子どもの認知構造と新たに知る事象との間の矛盾を認識 させるものと(b)新たに知る事象間の矛盾を認識させ るものの2つに分けられる。両者は子どもに,矛盾した 状況,すなわち問題状況を解決する思考を誘発し,その 結果,理解の拡充・発展を行わせるタイプである。第四 のタイプ(タイプ④)は,多様性を契機とするものであ る。新たに知る事象の解釈多様性や,事象についての他 の子どもの解釈の多様性の認識がもとになり,解釈の差 異を調整する思考を誘発し,認識を拡大・発展させるタ イプである。

ここに示した学習問題設定の4つの方法のうち,学部 の3年生が取り組むのに最も適しているのはタイプ③の 方法である。この時期の学生は教育実習を前にした授業 作りの入門期にあり,子ども理解の経験や授業作りの時 間も限られている。また,子どもはもちろんのこと,大

人の認識(思考)過程を分析した経験さえもない。その ため,思考の契機が最もダイナミックに現れ,思考過程 が明示されるタイプ③の方法,すなわち子どもに社会事 象についての矛盾を認識させて学習問題を設定する方法 を知ることから始めるのが最適と考えられるのである。

参考に,学生が作成した学習問題の事例を表3に示した。

③問いと知識の分類 社会科授業の第三の要素は,「問 いと知識」である。社会科授業では子どもに社会事象に ついての理解を深めることが大きな目標となっているが,

その達成の指標となるのが「問い」と「知識」の類型で ある。認識の深まりは獲得される「知識の質」によって 把握される。そして知識は問いの解決に応じて獲得され,

「問いの種類」が異なれば獲得される知識の質も変わっ てくる。より深い認識はより高い質の知識の獲得によっ て行われ,またその様な認識は様々な種類の問いをもと に,様々な質の知識や思考に支えられて可能になる。問 いや知識の類型についての考え方はいくつかあるが,授 業では社会科教育の分野での代表的な考え方となってい る岩田一彦氏の「問いと知識の類型」を紹介した注5)

④思考の類型と認識過程の構成図 社会科授業の第四と 第五の要素は,「思考の類型」と「認識過程の構成」で ある。この2つの要素は「認識過程の構成図」に表され る。これは知識と思考の類型を指標として,単元や授業 における子どもの認識過程の構造を表した図である。単 元や授業において子どもが獲得する知識の構造と,獲得 の過程で働く思考の流れを示している。この図では,資 料をもとにして①子どもがどの様な情報を読み取り,② 読み取った情報をどの様に関係づけ,③対象とする社会 事象の中にある社会的工夫やしくみを自分の解釈(判断

・主張)としてどの様に導き出すかが視覚的に分かるよ うにしてある。そのため学生はこの図を作ることで,単 元や授業で子どもに獲得させたい知識がどの様な構造を 持ったもので,どの様な認識過程を経てそのような知識 を獲得できるのかが理解できる。社会科教育法Ⅱでは,

筆者が開発した単元「高原の人々のくらし−長野県野辺 山原」の認識過程の構成図を事例に取り上げている注6)2)授業プラン作成力育成の方法的要素

社会科授業プラン作成力を育成するための要素として,

①トゥールミン図式,②思考場面の構成図,③学習過程 表,④授業で実際に用いる教材資料の4つ(4点セッ ト)を考えた。これらは(2)で示した社会科授業の4 つの基本要素を内包しているとともに,授業プランその ものの構成要素にもなっている。また,これらの要素は 個別にはたらくものではなく,4つを有機的に関連させ ていくことでより望ましい授業プランが作成できる。

以下では,4つの要素がどの様なものかを説明する。

また説明の中では理解の助けとして,学生が作成した4 点セットによる社会科授業プランの事例を示した。

①トゥールミン図式

トゥールミン図式は,イギリスの分析哲学者スティー

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(6)

ブン・トゥールミンの考えた議論のモデルを参考にして 作成したものである(図1を参照)。議論とは,根拠な いし前提に基づいて主張や結論を正当化しようとする言 論である(足立,1984:p.95)。日常的な推論において もいくつかの証拠となる事実から主張や結論を導き出し,

その主張や結論を正当化するための理由づけが行われて いる。子どもの社会理解の基底にも議論の基本構造があ る。議論の構造は,より厳密には多岐に分類されるが,

その基本モデルとしては図1にあるB→A,C→Dの2 つの矢印で示されるようなものが一般的である注7)。ここ では議論の基本モデルの理解と授業プラン作成における 利便性を考慮して,直観的把握が可能な三角形で表して いる注8)

図1では,「事実(資料)」が「論拠」にもとづいて推 理,解釈され一定の「解釈・判断・主張」が導き出され る関係が三角形で図示されている。社会科学習では基本 的に,子どもは資料の解釈をとおして社会的な見方・考 え方を獲得していく。この過程は,図1では事実・資料

(B)から解釈・判断・主張(A)に至るB→Aの過程 に対応している。解釈・判断・主張は,単元や授業で理 解させたい知識・理解目標に相当する(岩田氏の知識類 型では説明的知識に相当)。また事実は,授業で用いる 資料から読み取れる。このBからAに至る過程は,先述 の(2)で示した認識過程の構造図の中の,資料の読み 取りから事実認識,関係認識へと進む過程と対応している。

一方,子どもはこれとは別に,既有(既習)の見方・

考え方(これには子どもなりの視点や観点も含まれる)

を活用した思考も行っている。この思考はC→Dとして 表される。すなわち既有の知識を判断の論拠(理由づけ)

として活用し,B→Aの事実の解釈をより緻密なものに しているのである。子どもの主体性は彼らの視点や観点 が生かされるこの部分で発揮されるのであり,このよう な知識の応用的思考の場面を作ることで子どもは自分自 身で解釈を構築していくことができる。また,既有の社 会的見方・考え方をより質の高いものへと発展できる。

社会科授業は,論拠と主張の両方の部分で見方・考え方 を発展させるという二重の役割を担っているのである。

B→Aの過程に対して,論拠が活用されるC→Dの要 素が加わると,理由づけ(論拠)の中身に応じて必要と される事実(資料)も新たに増えてくる。その結果,解 釈・判断・主張(A)を導き出すために必要な事実が新 たに追加され,議論の構造がより緻密なものへと整備さ れてくる。

このように,図1の三角形で表されている議論の構造 は単元や授業の指導で教師が子ども自身に作らせたいと 考えている理解の構造でもある。学習の進行とともに変 化する理解の構造を動的に示すと図2のようになる。△

ABCは△A B C へ,そして△A B C へと継続的,

段階的により質の高いものへと拡大・発展していくので ある。

表2 学習問題の設定方法

図1 トゥールミン図式 図2 トゥールミン図式の拡大・発展

タイプ① タイプ② タイプ③ タイプ④

問題設定の 契機

親密性の認知 意外性の認知 矛盾の認知 多様性の認知

子どもの既有の認 知 構 造 と新たに知る事象 と の 共 通性の認識

子どもの既有の認 知 構 造 と新たに知る事象 と の 差 異の認識

(a)子どもの既有の認 知 構 造と新たに知る事 象 と の 間の矛盾の認識

(b)新たに知る事象間の矛 盾の認識

新たに知る事象の 多 様 性 や他の子どもの解 釈 の 多 様性の認識

認識作用 既有の認知構造の拡大 認知的不協和の克服 矛盾(問題)状態の解決 差異の調整 解決の結果 既有理解の拡充と発展(知識の量的な発展と質的な発展)

― 61 ―

(7)

図3 学生が作成した社会科授業プランの事例

― 62 ―

(8)

以上のようなトゥールミン図式を作成することで,単 元の学習内容や教材の分析,中心発問の分析が促進され る。すなわち,三角形の各頂点を検討することは,「解 釈・判断・主張」の部分は単元や授業の知識目標は何か を,また「論拠」は伸ばしたい子どもの既有の見方・考 え方は何かを,そして「事実(資料)」は論拠をテコにし て解釈・判断・主張を作るための支えは何かを考えるこ とになり,このようなトゥールミン図式の作成作業を行 うことで単元や授業における理解の論理構造を把握でき るのである。

②思考場面の構成図

従来の授業作りでは,単元や授業のレベルで目標,学 習内容,学習計画を段階的に分析・確定し,学習過程表 の作成へと進むのが一般的であった。しかしこれでは子 ども主体の授業作りは難しい。なぜなら現在の学習過程 表では,形式上の制約から,指導や子どもの学習の様相 が断片的にしか表現できていない。そのため,子どもが 授業全体をとおしてどの様な認識過程をたどり,これに 対して教師が適宜どの様な指導を行えればよいかが不明 確になっている。そこで学習過程表作成の前段階の要素 として設定したのが「思考場面の構成図」である。

思考場面の構成図は,学習過程における子どもの思考 の内実と,指導者としてそれに関わる教師の活動の実質

(発問,説明,指示,資料提示など)とを場面を追った 関係的流れ図として表したものである(図3参照)。こ 表3 学生が作成した学習問題一覧

(MQ)

スーパーではどうして福井で作っていない物まで売ることができるのだろう?

スーパーでは安い値段で品揃えも豊富なのにどうして他の店も利用しているの だろう?

なぜ家から近いエブリよりも遠いYプラザへ買い物にいくのだろう?

私たちは毎日大量の水を使っているがその水がなくなることはないのだろうか?

昔に比べてなぜこんなにも水の使用量が増えたのだろう?

同じ車なのになぜ価格の高いハイブリッド車が売れるのだろう?

同じ地域なのになぜ区分の方法が違うのか?

同じ世界地図なのになぜ中心に描かれている国が違うのか?

人が住んでいない沖ノ鳥島になぜ多額の費用をかけているのだろう?

安全でおいしい国内産小麦があるのになぜアメリカ産小麦を多く輸入している のか?

日本車はなぜ国内だけでなく海外でも売れているのか?

なぜ海外の工場での生産がこのように増えたのだろう?

日本は加工貿易が得意なのに,どうして部品の輸出が増えてきているのだろう?

なぜ都市に人口が集中し過密化が起こっているのだろう?

岩手県ではなぜ伝統工業を大切にしながら近代工業が発展しているのだろう?

なぜ福井県の小京都は福井市でなく周辺都市である大野市と小浜市に指定された のだろう?

自然災害の発生件数は増えてきているのになぜ被災者数は減っているのだろう?

藤原氏は皇族でないのにどうして摂政関白を世襲することができたのだろう?

義経は死んだのにどうして守護・地頭はなくならなかったのだろうか?

なぜ元(王朝)は日本に勝つことができなかったのだろう?

倒幕の動きがあるのに御家人はどうして幕府に味方しなかったのだろう?

農民は不満を持っていたにもかかわらずなぜ一揆を起こさなかったのだろうか?

伊能忠敬はなぜこのような正確な地図が作れたのか?

江戸幕府はなぜ方針を転換して開国したのか?

イギリス人はインドの木綿産業に貢献していたのになぜ大反乱が起こったのか?

日本はなぜ二院制をとっているのだろう?

日本はなぜ首相をなぜ選挙(国民投票)で選ばないのだろう?

選挙は国民が政治に参加する重要な機会なのになぜ投票率が低下しているのか?

注:①学生はこの表に示された学習問題のそれぞれに対応した授業プランを作成し ている。

②この表では,前期開講の社会科教育法Ⅱは履修したが,履修上の都合で後期 に行った2回目のアンケート調査を受けられなかったために今回の調査対象か ら外した学生が作成した学習問題も示してある。③MQはMain Questionの略。

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の作成では,学生は学習問題設定の方法や学習における 子どもの認識過程(学習内容の習得に至るまでの子ども の理解の筋道,その過程で子ども自身が活用する知識,

思考によって導き出される情報や知識,資料解釈の能力

・技能など)の分析を迫られる。そのため学生が子ども の立場から学習過程を分析したり,支援的な教師の指導 の在り方を構想したりする力を伸ばすことが期待できる。

③学習過程表

学習過程表は教授−学習過程をどの様に展開するかを 示した表である。表では,教師と子ども,学習内容,そ して学習の媒介となる教材(資料)という授業の4つの 基本要素の関わり合いが捉えやすいように3つの欄を設 け,左から右へと順に,子どもの「学習活動(習得する 学習内容の記述も含む)」,「資料」,「教師の支援(指導)

と留意点」の欄を設定した。また,最も左には時系列の 欄を設け,どの様な段階で授業を展開するかを示した。

学習過程表は,思考場面の構成図を,授業の基本要素を 指標にして,互いの関係が分かるように表の形式に合わ せて整理し直したものである。学生は学習過程表の作成 をとおして,子どもが追究的な学習を進めるには教師が どの様な発問,指示,説明,助言,評価を行って彼らの 学習を支援すればよいかを分析する力を習得できる。

④授業で実際に用いる教材資料(教材資料)

最後に,教材としての資料(教材資料)を授業で用い るのと同じものに加工・整理して提示する。資料に必要 な条件は,トゥールミン図式の作成をとおして明らかに した「単元や授業の学習内容」の習得を保障するもので あるとともに,問いや学習問題の成立を誘発し,学習の 動機づけや興味・関心の喚起に役立つといった条件を備 えるように教育的観点から加工することである。

以上の4点セットは個別に完成させるものではない。

①の要素から②の要素の作成へと対象を増やしながら,

要素間の関係を継続的に検討し,個々の要素を修正・発 展させていき,最終的に①〜④を全体として整備された ものに完成させるのである。この作業をとおして社会科 授業作りの総合的理解が深まるのであり,この点にこそ 4点セットの方法による指導の教育的意義がある。

(3)アンケート調査による授業効果の検討

今回の指導の効果を探るために,4点セットによる授 業作りの方法が実際の授業作りにどの様に役立ち,課題 があるかを問うアンケート調査を実施した。調査は2005 年度と2006年度の2年度にわたって実施し,4つの方法 的要素それぞれに対する評価とこの方法全体への総合的 な評価を記述させた。調査対象としたのは,社会科教育 法Ⅱを受講し,続いて9月に4週間の教育実習を受けた 大 学 生 で,2005年 度 は12名(小 学 校4名,中 学 校8 名),2006年度は11名(小学校4名,中学校7名)の合 計23名であった。

調 査 の 時 期 は,1回 目 が 社 会 科 教 育 法 Ⅱ の 終 了 時 点,2回目は9月の附属学校での主免教育実習を経て大

学後期の授業に参加した時点であった。1回目の調査は,

学生が自作の社会科授業プランをまとめ,最終報告書と して完成する中で,自分の授業プラン作成の経験を基に して回答するもので,8月上旬に行った。2回目の調査 は教育実習を終えた10月中旬の時点で行った。後期開講 の社会科教育法関連授業の第1回の授業の中で,教育実 習での授業作りの経験を基に利点と課題を記述させた。

4.結果と考察

アンケートの回答内容の分析では,まず4点セットに よる授業プラン作成方法の要素である①トゥールミン図 式,②思考場面の構成図,③学習過程表,④教材資料の 各要素を役立ったと書いている学生数を調べた。実習前 の授業プラン完成時(以下,実習前と呼ぶ)と実習後の 時点の2つの時点でのアンケートへの記述内容を分析し た結果,各々の時点で各要素を役立ったと評価した学生 数の割合(%)は,図4‐1(2005年度)と図4‐2(2006 年度)のグラフのようになった。また,2005年度と2006 年度を総合した結果は図5のグラフのようになった。

4点セットの各要素に対する評価順位など,全体的傾 向としては調査した2つの年度で大きなちがいは認めら れなかった。そこで,2005年度と2006年度の結果のデー タを総合し分析を進めることにした(以下図5参照)。 1)4点セットの各要素に対する評価の全体傾向

はじめに実習前の授業プラン完成時での評価を見てみ ると,役立ったと評価した割合が最も高かったのは②の 思考場面の構成図(83%)である。次いで①のトゥール ミン図式(70%)が続く。一方,③学習過程表と④教材 資料の評価は同率の26%で,前の2つの要素に比べ,か け離れて低い評価であった。

次に実習後の時点での評価を見てみると,役立ったと 評価した割合が最も高かったのは②の思考場面の構成図 で,83%と実習前と同じく高い評価を受けている。次い で第2位となったのは③学習過程表への評価(52%)で,

約半数の学生が役立ったと評価している。実習前に比べ てこの要素に対する評価は倍増しており,教育実習中に 学習過程表を作成する中では社会科教育法Ⅱで習得した この要素の意義が実感できていたことを示している。

一方,①トゥールミン図式への評価の割合を見ると,

実習前には70%と高かったにもかかわらず,実習後には 26%と半分以下に激減している。この様な顕著な特徴が

生じた原因については後の部分で改めて検討する。

最後に,④教材資料が役立ったと評価した学生の割合は 実習前に26パーセントと低かったが,実習後には17パー セントとさらに低くなっている。これについても,なぜ 評価が低いのか,また実習を経ることでなぜさらに評価 が下がったのかを,アンケートの具体的な回答内容を手 がかりにして検討してみることにする。

2)各要素に対する評価

以下では,アンケートへの回答内容を手がかりにし

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て,4点セットの各要素が授業プラン作りに役立つ理由 と,今後の改善の課題を探ってみよう。

①トゥールミン図式への評価の内容

まず①トゥールミン図式に対する評価の内容を検討す る(以下,引用文の文末に示した括弧内の数値は当該の 理由を書いた学生数)。トゥールミン図式がどの様に役 に立ったかの理由を見てみると,実習前では,「資料と 論拠,解釈・判断・主張,との関係が明確に整理できた」

(6人),あるいは「因果関係的,追究的に考えること ができた」(2人)と授業全体における理解の論理を捉 えるのに役立ったことを積極的に評価している。また,

指導との関係においては「授業で教えたいことを明確に でき,授業の方向性を見失うことを防げた」(10人)と 評価している。また,わずか1名であったが,「①トゥ ールミン図式は②思考場面の構成図や③学習過程表を作 成する上で役立った」(1人)と,筆者が理解を期待し ていたように,トゥールミン図式の作成が授業プラン作 り全体の基軸となると評価している学生もいた。

一方,実習後では,①トゥールミン図式が役立ったと 評価した学生は5人のみであった。この5人についても,

社会科教育法Ⅱで作成したトゥールミン図式と同様の図 を作成したと述べた者はいなかった。作成はしなかった が「①トゥールミン図式の考え方で教材研究をしたので 授業の流れが考えやすかった」(3人),あるいは「トゥ ールミン図式の頂点Aを指導案の目標として書いた」(1 人)と述べている学生がいる反面,「作成しなかった」(4 人),「難しくて使えなかった」(4人)と,教育実習で は直接的には活用できなかったとする学生が多かった。

このように,実習前は高い評価を受けながら,実際の 教育実習では活用されていないという事実からは,トゥ ールミン図式を実践の場で活用しやすくする方法の解明 が大きな課題になっていると思われる。

②思考場面の構成図への評価の内容

②の思考場面の構成図は学生の評価の割合が最も高か った要素である。その理由を見てみよう。

実習前の回答を見ると,「これを作ることによって子 どもの思考の流れや子どもがどの様に変化するかがよく 分かり,子どもの思考を中心にした授業をどの様に構成 すべきかがよく分かった」(11人)とする理由が最も多 く,思考場面の構成図を作成することで子どもを主体と した認識過程(思考過程)が作れるようになったことを 高く評価している。また教師の指導方法に関して,「矛 盾を設定することで,子どもに興味づけができたり,な ぜ発問(MQ)が作りやすくなったりした」(5人),あ るいは「授業の流れが分かりやすくなった」(3人)と 評価している。さらに,「思考場面の構成図によって『ト ゥールミン図式』の重要性が理解でき,『学習過程表』

を考える際に思考場面の構成図が役立つことがよく分か った」(2人)と述べて,②思考場面図の作成を中核と しながら,これを①トゥールミン図式や③学習過程表の 作成と関係づけながら授業プランを作成する方法の利点 を積極的に評価している。これらの記述からは,社会科 教育法Ⅱの終了時においては,この授業で予め設定して いた授業目標がある程度達成できていたことがうかがわ れる。

一方,実習後のアンケート調査の回答を見ると,「思 図5 4点セットの評価

図4‐1 2005年度の評価

図6‐1 小学校実習者の評価

図4‐2 2006年度の評価

図6‐2 中学校実習者の評価

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考場面の構成図を作ることで子どもの理解や思考の流れ を整理でき,子どもの側から考える授業の大切さが分か った」(3人)との指摘があった。実習前と同様に,こ の要素を整備することで子ども主体の認識過程を明確に でき,これに即した授業作りができる利点を高く評価し ていると言えよう。また教師の指導方法解明への利点と して,「授業の流れ,組み立てや発問をどうすべきか分 かった」(1人),「発問の仕方を変えるなどして,不測 の事態に臨機応変の対応ができるようになった」(1人)

と評価している。さらに,②思考場面の構成図の作成が 授業プランの作成全体に対してどの様に貢献するかにつ いて,「自分自身の考えを整理し,全体を踏まえた上で 順序よく考えることができた」(1人),あるいは「授業 作りでは②思考場面の構成図が中心となり,これに肉づ けすることで授業ができる」(1人),さらに「学習過程 表を作る前に思考場面の構成図を作ることでポイントが 明確になり,各段階に分けた学習過程表ができて指導し やすかった」(1人)と指摘している。この様な記述か らは,社会科教育法Ⅱの目標である授業プラン作成力の 習得においては思考場面の構成図が中心的な働きをして いることが推測される。

③学習過程表への評価の内容

続いて③学習過程表への評価の内容を見てみよう。実 習前の記述では,「資料とMQ,SQを表の真ん中(の 欄)に提示することで,授業の流れや資料を媒介とした 子どもと教師のやりとりがあることが明確になった。そ して,子どもの思考過程を把握できると同時に教師の支 援も平行して捉えられる」(7人)と評価しており,予 め授業の基本要素を表現形式(欄)として組み込んであ る学習過程表の作成をとおして,教師,教材,子どもと いった授業の基本要素の役割や活動を関係的に捉えられ ることに利点を見出していることが分かる。また授業プ ラン作り全体への学習過程表の貢献に着目して評価した 記述例として,「学習過程表は②思考場面の構成図で考 えた思考の流れを授業の流れに書き変えるために必要で ある」(3人),あるいは「①トゥールミン図式や②思考 場面の構成図を利用することで学習過程表の作成がしや すく,教師がどの様に行動すれば子どもが授業でしっか り学べるかがわかった」(4人)などの指摘があった。

また学習過程表の表現形式の利点として,「子どもの 学習活動と教師の支援,留意点に番号を付けて書く欄が あるので,学習活動がより明確になり,(欄を横断して)

対応した番号を付けることで全体的にも部分的にも授業 の展開を確認できる」(2人),あるいは「子どもの発言 を予想するのに役立った」ことを評価している学生もい た。さらに,社会科教育法Ⅱの授業では詳しい説明はし なかったのであるが,学習過程表の前の部分に書いてお く「単元の目標」,「学習計画」,「本時の目標」などの項 目について新しく学んだこととして,「本時の目標や単 元の目標を因果関係的に書く必要があること,資料活用

や関心・意欲・態度も目標の中に書くべきということを 学んだ」(1人)ことを評価した学生もいた。問題点と しては「思考の流れを授業の流れにするのは難しい」(1 人)との指摘があった。

一方,実習後の評価では具体的な理由の言及は少ない が,「学習過程表は授業の全体像を確認できる生命線で ある」(1人),あるいは「授業内容の整理に役立った」

(2人),「資料提示の仕方やタイミングが適切か,教師 の支援が適切かの見直しに最適である」(1人)ことが 指摘されている。学習過程表は,教育実習では学習指導 案作成の中核に位置づくものである。附属中学校では2 年前から,学習過程表の形式を社会科教育法Ⅱと同じに 揃えてもらっていることもあって,学んだ学習過程表を そのまま作成すればよく,応用して考える場面が少なか ったのでその意義が意識されにくかったのかも知れない。

④教材資料への評価の内容

4番目に④教材資料についての評価の内容を見てみよ う。この要素に対する評価の割合は実習前も実習後も低 かった。実習前では,「資料は導入部分では子どもの関 心をひき,展開部分で矛盾の発見の要素となったり矛盾 解決の手がかりとなったりする重要なものと分かった」

(1人)との指摘があり,授業プラン作り全体における

④教材資料への評価としては「資料から何を読み取れば よいか分かったために①②が資料選択に役立った」(1 人),「④が③の学習過程表の流れを円滑にした」という 指摘がなされている。また,資料選択力について,「同 じ内容の資料でもどちらが分かりやすく面白いか見極め る力がついてきた」(1人),「資料の集め方にも色々あ ることを学んだ」(1人)という指摘があった。

一方,実習後では,「社会科教育法Ⅱの授業で学んだ ことが資料選びに役立った」(2名),あるいは社会科教 育法Ⅱで教えた,「資料は授業で実際に用いる資料とし て揃える」という方針を生かした結果,「実際に使う大 きさや形にしてみることが大事」(1人)であると再認 識している学生もいた。また,④教材資料について新し く学んだこととして,「実際に使用できる資料は少ない ことが分かり,厳選すべきことに気づいた」(2人),「児 童書が本当によく役立つことが分かった」(1人)とい う指摘があった。

また,授業改善への提言として,「社会科教育法Ⅱで は,④教材資料は最後にではなく,授業作りの比較的早 い段階で提示し,資料についても適切かどうか一緒に検 討したりコメントしたりしてもらえるとよい」(2人)

という指摘があった。筆者も同意見であり,今後の改善 に反映させたい。

3)4点セットによる授業プラン作成方法への評価 最後に,4点セットによる社会科授業プラン作成方法 全体に対する評価を見てみよう。実習前の授業プランを 完成させた時点で見ると,4点セットによる方法は次の 様に評価されている。

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まず,授業プラン作成上の利点としては,「4つをし っかり作ることで授業のねらいが明確になり,整理して 授業を作れた」(4人),「生徒の思考の流れが明確にな るので細かい配慮ができて授業構成が明確になり,方向 性を見失うことがなくなった」(3人)と,目標達成の 道筋を押さえた授業構成ができることを指摘している。

そして,授業プラン作成の具体的な方法に関して,「① トゥールミン図式によって授業内容のポイントが整理で き,②思考場面の構成図によってスムーズな学習の流れ を作ることができる」(1人)としている。また「4つ の要素を考えてプランを作成したことで単元全体の認識 過程図よりもさらに細かい教材研究ができた」(1人), あるいは「しっかりとした③学習過程表を作成するには,

①トゥールミン図式による目標設定と②思考場面の構成 図によって学習者の思考の流れをきちんと設定しておく べきことに気づいた」(1人)と評価している。また,

この方法をプラン作成のためのツールとして活用する観 点から,「全体として授業作成のツールとして役立った」

(1人)と評価している学生もいた。この他,「子ども が考える授業を考えられるようになった」(1人)と教 師主導型から子ども主体の授業観への移行がうかがわれ る評価もあった。

一方,実習後の時点の調査では,4点セットによる授 業プラン作成方法全体への積極的評価として以下のよう な指摘があった。「授業作りの基本的流れや方法などが 身につく根本になるものだと思った」(4人),あるいは

「授業の基本的流れや子どもの思考の流れを明確にし,

指導案の作成を容易で迅速なものにするのでとても重要 であった」(1人)という指摘である。また,社会科教 育法Ⅱでの学習の意義を評価したものとして,「②思考 場面の構成図の作成による授業作りを予め経験していた ので,子ども主体の授業作りの大切さを認識できた」(1 人)とする指摘もある。また,大学での授業の限界を踏 まえた上で,「4点セットによる方法は実習中には時間 がなくて活用できないがそれでよい。実習前の準備とし ての役割がある。半年で4点セットの各要素を丁寧に作 ることで授業作りの基礎的な力がしっかり身についたと 感じた」(1人)と社会科教育法Ⅱにおける授業プラン 作成の意義を積極的に評価する指摘もあった。

しかし,他方では問題点や課題も指摘されている。

それらは,「4点セットを用いるのは大変時間がかかる」

(2人),「役に立ったが使いこなせなかったので数をこ なして慣れることが大切」(1人),「発問の仕方,説明 や指示の仕方の工夫,発言の引き出し方,処理の仕方を 身につける点については改善すべき。指導案の書き方は 身についたが実行力に欠けた形式だけの指導案作りだっ た」(1人)といった問題点や改善点の指摘である。

この他,改善点として以下のような指摘があった。「4 点セットを作るのが目的ではない。これは授業を作るた めのツールとしてこそ意味がある。社会科教育法Ⅱでは

その視点が弱い」(1人),「子どもの反応は予想外のも のが多いので,それに対応できる4点セットが必要であ る」(1名),「子どもの実態をみてから作成すると大学 の授業で作成したのとはまた異なった4点セットができ るのではないか」(1人)などである。今後の検討課題 である。

さらに「4点セットで作った授業で模擬授業をしたか った」(1人)という指摘があったが,これについては 社会科教育法Ⅱに時間的制約があるので難しい。実施し ても中途半端に終わるので,今後は別に開講されている

「模擬授業」との連携を検討する必要があろう。

小学校実習者と中学校実習者のグループに分けて,4点 セットの各要素に対する評価の割合を見たところ,図6

‐1(小学校)と図6‐2(中学校)のグラフのようにな った。これを見ると,小学校実習者では実習後に①トゥ ールミン図式への評価が著しく低下している。「トゥー ルミン図式は小学校3年では難しい」(1人)との指摘 にあるように,小学校の実状に合うように再検討が必要 なのかも知れない。

最後に,①トゥールミン図式と②思考場面の構成図の 関係を見ると,実習前の評価では相関係数0.44(p<.05,

スピアマンの順位相関)とかなりの相関が見られたにも かかわらず,実習後の評価では有意な相関は認められな かった。このことから実際の授業プラン作成場面におい ては①トゥールミン図式と②思考場面図の関連的活用が 難しかったと推測され,この点の改善の課題も明らかと なった。

4.まとめと課題

これまで検討してきた社会科教育法Ⅱの授業は,本稿 の1.で指摘したような,教師主導型の授業観に起因す る社会科授業作りの4つの問題点の克服をめざして改善 を試みたものであった。この授業では,学生に子ども主 体の社会科授業作成力を育成する指標として,同じく本 稿の2.で示したような①学習観,②知識観,③授業観,

④認知観に対応した4つの授業目標を設定した。そして これらの目標を達成する方法として「4点セットに基づ く授業プラン作成方法」を取り入れた授業を試みた。そ の結果,社会科授業プランを完成させた時点と教育実習 後の時点でのアンケート結果の考察からは,今回の試み について以下のような効果と課題が明かになった。

<トゥールミン図式>

・この図式の作成は,学習内容を把握できるとともに,

授業全体における因果関係的,追究的な理解の論理を 捉えるのに役立つ。

・この図式の作成は授業プラン作りの基軸となる。

・しかしこの図式を実践の場で活用しやすくする方法の 解明が大きな課題となっている。

<思考場面の構成図>

・思考場面の構成図を作成することで子どもを主体とし

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参照

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