地下水排水施設を活用したカニの代替生息環境の創出
独立行政法人 土 木 研 究 所 正会員 尾 澤 卓 思 国土交通省 和 歌 山 河 川 国 道 事 務 所 正会員 白波瀬 卓哉 国土交通省 神戸港湾空港技術調査事務所 正会員 ○鈴 木 淳 国土交通省 和 歌 山 河 川 国 道 事 務 所 和 佐 喜 平 1.はじめに
図-1 位置図
紀の川大堰は紀の川河口より約 6.2km に建設中の 河口堰である。紀の川大堰の建設に伴い現在の固定 堰(新六ヶ井堰)までの区間(約 500m)が淡水化される。
この区間にはレキ干潟が存在し、その干潟では平成 10 年 10 月に干潟レッドデータブック1)で希少種に指 定されているタイワンヒライソモドキという汽水域 に生息するカニが確認された。さらに紀の川では大 部分がこの区間に生息しており、紀の川大堰運用に より大きな影響を受けることになる。そのため、和 歌山河川国道事務所では失われるレキ干潟保全の観 点から、タイワンヒライソモドキを指標種とし、紀 の川大堰下流右岸に代替生息地(図-1)としてレキ干 潟を造成した。
2.タイワンヒライソモドキの試験移植の実施 これまでカニ類の移植はほとんど事例がないため、
移植の実現性検証をするため試験移植を行った。試 験移植地の選定に際しては、タイワンヒライソモド キの現生息環境調査を事前に行い、底質、生息地盤 高、塩分濃度、後背地の植生、転石帯の配置などの 特徴をふまえ、試験移植地(図-1)を造成した。
3.試験移植の実施結果 3.1 競合種の増加
試験移植地における生息密度は、移植直後に減少 したものの、その後は時期的なばらつきはあるもの の一定の生息数、繁殖活動が確認され、移植自体が 可能であるとの結論を得た。(図-2)しかし、試験移 植地において、タイワンヒライソモドキの競合種で あるケフサイソガニの増加が確認された。
図-2 カニの生息密度推移
ケフサイソガニは、これまでの室内捕食実験から タイワンヒライソモドキを捕食することが確認され ており、タイワンヒライソモドキの生息に影響を与 えている可能性が考えられた。
3.2 競合種の特徴
これまでの現生息環境調査からタイワンヒライソ モドキとケフサイソガニはほぼ同じ地盤高で生息し ていることが確認された。また、水路の漏水による 淡水流入部分では、ケフサイソガニの生息密度がタ イワンヒライソモドキに比べ低いことが分かった。
(図-3)
キーワード 希少種 ,指標種 , 地下水 , 干潟 , 既存施設の活用 , ミティゲーション施設 連絡先 〒640-8272 和歌山県和歌山市砂山南 3-1-15 国土交通省和歌山河川国道事務所 TEL073-402-0265
紀 の 川 大 堰
新 六 ヶ 井 堰 淡水化区域
500m N
現生息地(右岸)
現生息地(左岸)
試験移植地① 試験移植地②
紀の川
ミティゲーション施設造成地
図-1 位置図 タイワンヒライソモドキ
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0 100.0 120.0
1998年10月 1999年2月 1999年6月 1999年10月 2000年2月 2000年6月 2000年10月 2001年2月 2001年6月 2001年10月 2002年2月 2002年6月 2002年10月
生息密度(個体/㎡)
試験移植地 タイワンヒライソモドキ 試験移植地 ケフサイソガニ
現生息地 タイワンヒライソモドキ 平均生息密度 31.4個体/m2 現生息地 ケフサイソガニ 平均生息密度 13.0個体/m2 試験移植地
試験移植地
土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月)
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VII‑064
● タイワンヒライソモドキ ×ケフサイソガニ
図-3 両種の生息地盤高
さらに、同状況を検証するためタイワンヒライソ モドキとケフサイソガニの塩分耐性実験を行った。
実験では現生息地において採補したタイワンヒライ ソ モ ド キ 及 び ケ フ サ イ ソ ガ ニ を 4 段 階 の 塩 分 (30,20,10,0psu※)に設定した水槽で、各 10 個体を単 独無餌で飼育し、約 2 ヶ月間にわたり生存個体数を 調査した。
(psu:1Kg の海水中に含まれる塩分の量(g))
図-4 塩分耐性実験結果
これらの実験結果から特に 0psu においてケフサイ ソガニは全滅するが、タイワンヒライソモドキは半 数近く残存することが確認された。(図-4)このよう な結果から、ケフサイソガニはタイワンヒライソモ ドキよりも適用する塩分範囲が狭く、特に淡水に弱 い事が分かった。
3.3 地下水排水施設を活用した代替生息地創出 タイワンヒライソモドキの代替生息地の造成にあ たっては、試験移植の結果や現生息環境調査結果を 踏まえ以下の点に留意して(平成 13 年 4 月)造成を行 った。(図-5)
造成地盤高:平均潮位(T.P+0.03m)+0.3m~朔望平 均潮位(T.P-1.01m)(現生息地の主な生息範囲 平均 潮位+0.1~-0.8m)
地盤材料:礫混じり砂(シルト・粘土分 13.0%)(現 生息地:シルト・粘土分 15%以下の礫混じり砂)
塩分濃度:現生息地盤高付近 T.P 0~-1.0m の塩分 濃度を以下に示す。
平水流量規模(37m3/s):現生息地 3.1~16.3psu、
代替生息地 14.5~16.3psu。低水流量規模(10m3/s):
現生息地 25.0~27.0psu、代替生息地 25.0~26.0psu。
淡水流入効果の創出:φ300、L=20.0m、2 本、ヒュ ーム管(多孔質)、計画水量 0.031m3/s(最大)。
現生息地において淡水流入部分にタワンヒライソ モドキの生息密度が高い状況を考慮し、既存の地下 水施設から排出される地下水を活用することで淡水 流入効果を創出した。
また、タイワンヒライソモドキがシルト、粘土分 の少ない環境に生息していたことから、地下水を排 出させることで沈殿するシルト、粘土等の細かな粒 子の土砂堆積の抑制を期待した。
背後地の植生:現生息地においてヨシ帯が存在し、
ここから供給される枯死片がタイワンヒライソモド キの重要な餌料となっていたため、代替生息地の背 後にヨシを移植した。
5.おわりに
平成 15 年度には、紀の川大堰の暫定運用を予定し ており、今後タイワンヒライソモドキの生息数の変 化や繁殖状況のモニタリングを通して地下水の流出 効果や代替生息地の機能について、検証していきた い。
参考文献
1) 世界自然保護基金日本委員会(1996),特集:日本における 干潟海岸とそこに生息する底生生物の現状,WWF Japan Science Report, Vol3 ,1996
図-5 タイワンヒライソモドキの代替生息地概要図
-1.2 -0.7 -0.2 0.3 0.8
0 50 100 150 200 250 300
個体数密度
地盤高(平均水面を0とした)
(個体/m2)
(m)
-1.2 -0.7 -0.2 0.3 0.8
0 50 100 個体数密度150 200 250 300
地盤高(平均水面を0とした)
(個体/m2)
(m)
淡水流入部
非淡水流入部
平均潮位+0.3m
礫帯(径20cm以上のものを含む様々な大きさのもの)
(勾配:1/10~1/4程度)
ヨシ帯造成 捨て石
礫混じり砂泥
(シルト・粘土分:15%以下)
約20m
↑より上部の植生・河畔林などに連続する
約7m
捨て石
礫帯(約1,000㎡)
(場所により傾斜等に変 化を付ける)
地下導水(地下水ドレーンから導水し、
ヨシ原内に湧水をしみ出させる)
約90m 平均潮位-1.0m
約7m 約20m
ヨシ帯造成 抗1
紀の川
紀の川 30m
↓より深所側の河床に 連続する
地下導水を経た
湧水がしみ出す 既存地下水
排水施設 新たに地下水を 導水:φ600
平均潮位+0.3m
礫帯(径20cm以上のものを含む様々な大きさのもの)
(勾配:1/10~1/4程度)
ヨシ帯造成 捨て石
礫混じり砂泥
(シルト・粘土分:15%以下)
約20m
↑より上部の植生・河畔林などに連続する
約7m
捨て石
礫帯(約1,000㎡)
(場所により傾斜等に変 化を付ける)
地下導水(地下水ドレーンから導水し、
ヨシ原内に湧水をしみ出させる)
約90m 平均潮位-1.0m
約7m 約20m
ヨシ帯造成 抗1
紀の川
紀の川 30m
↓より深所側の河床に 連続する
地下導水を経た 湧水がしみ出す 地下導水を経た
湧水がしみ出す 既存地下水
排水施設 新たに地下水を 導水:φ600
0psu設定水槽
0 2 4 6 8 10
0 20 40 60 経過日数
生残個体数
タイワンヒライソモドキ 生残数 ケフサイソガニ 生残数
平均干潮位-1.0m
(多孔質) ヒューム管
L=20.0m
φ300×2 本
土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月)
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