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(東女医大誌 第33巻 筥12号頁658−659 昭和38年12月)
糖尿病の地域差と性差
東京女子医科大学衛生学教室 教授 諸 岡 妙 子
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(受付 昭和38年10月20日)
諸先生方それぞれの御専門の領域から,糖尿病 の臨床と病理について詳しいお話があったが,私
どもの教室の立場としては,きわめて大ざっぱな がら,目を大きく日本全体,また世界の中での糖 尿病の姿に向け,今回は特に「地域差」と「性差」
という二つの観点にしぼって,一言雪加させて頂
く.
戦争二三をひそめていた糖尿病も,戦後十七余 年を経た今日,祉会,経済諸状況の回復向上とと
もに,次第に増加の傾向がみられる.わが国では 西洋の国々に比べて,糖尿病の症状も軽く,昏睡 を起すような,いわゆる重症糖尿病が少ないとい う二とがいわれる.しかし,有病率,すなわち一 般の人々の中にどの位の糖尿病患者がいるか,本 入が知っている場合も知らぬ二合も含めて,一定 の標準以上の尿糖なり,血糖なりを有する人がど の位いるかという割合を知るのは中々むつかし い.最近,中山教授方の研究班で全国的にお調べ になった結果では,日本では40才以上でおよそ4
〜5%という数値が出されている.今一にこれに よって全国的に糖尿病者を概算すると,40才以上 の日本人およそ2,HIOO万人のうち,120万人の糖 尿病患者がいることになり,これに疑糖尿病者
(糖尿病前期状態者)を加えれば,およそ200万 人を数えることができよう.
この有病率は世界各国と此べて決して低いもの ではなく,(外国でも糖尿病の疫学的研究は始ま ったばかりで,比較するに足る資料はそれほどあ るわけでばないが,)大体同じようなもめで,有 病率に関する限りでは,糖尿病には大きな地域差 がないように思われる.
ところが死亡率一人口に対する死亡の割合一と なると,これは地域的に大きな差違が認められ
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図1 世界24力国の「糖尿病」年令訂正死亡率(人.「
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1957(1930年日本全国人口を標準人口として年令 訂正死亡率を算出した)
る.世界の主な国,24力国の糖尿病死亡率を図1 にかかげる.
糖尿病は40才を越すと急激に増え,死亡率も高 まる疾患であるから,中年以上の人口の多い地域 では当然粗死亡率は高く現われてくる.そこで人 口の年令構成の影響を考えなくてもよいように,
年令訂正死亡率によって,各国の糖尿病死亡の状 況の比較を試みることにする.
まず男では,日本は24力国の中で22位,ビリか ら3番目である. 口本より低いのはイングラン
ド・ウエールズと西ドイツの2力国のみである.
男の最高はセイロンで日本の4,7倍,ついでアメ リカ非白入は3.5倍,アメリカ白人は2.9倍の高 一658一.
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「糖尿病」死亡率男女比較(日本)
さである.ついで4倍以下のニェージランド,ベ ルギー,カナダ,オーストラリア,スイス等すべ て日本の2倍以上の高率である.
世界24雪国の中,男性が女性より高位の糖尿病 死亡率を呈するのは,セイロン男子がきわだって 女性より高いほかは,日本,ニェージランド,西 ドイツがわずかの差で男性が高いのみで,他はす べて女子の死亡率が男子のそれをはるかに越えて いる.女性の糖尿病死亡率は,日本は24力血中23 位である.女の最高はアメリカ非白人で,日本女 性に此べ実に6.9倍にも及び,ついでベルギーは 日本の4.8倍であり,3倍以下のアメリカ白人,
オランダ,カナダ,オーストラリア,いずれも日 本の3倍以上の高率である.
西欧諸国ないしは西欧化した地域では,多くは 女性の糖尿病死亡率がきわめて高く,女性が特に 高くない日本に比べると,その較差が甚だ大であ る。多くの国で,糖尿病によって日本の数倍の割 合で人が死に,殊に外国の女性が余計死ぬのであ
る.
日本では,病院を訪れる糖尿病患者は,昔から 今まで,いつでも男が多いことが知られている.
(尤も糖尿病と限らず,どんな病気でも,病院を 訪れる外来および入院患者は多くの揚合,女より
も男が多いのが通例であるが.)
図2によって,日本の糖尿病死亡率を,昔から 年代を追って見てくると,戦前は相当死亡率の高
かった時代もあったことがわかる.それでもせい
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ぜい人口10万対4余りで,外国の10〜15〜20など という率とは比べものにならない.戦前に比べて 終戦直後はだいぶ低くなったが,最近また増加し て,戦前の水準に追いつきそうな勢がみられる.
これを男女別にみることにする.まず図2のう ち粗死亡率でみると,戦前はずっと,男が女より 高率で,戦後も1950年までは男が高いのである が,1951年に男女同率となり,1952年にはじめて 女が高くなり,以後は年々女が高いという,わが 国の糖尿病死亡統計史上初の現象が出現したので
ある.
前述のように,糖尿病は中年から老年にかけて 死亡率が急に高まる疾患であるから,老人が多け れば,粗死亡率は高く出る.男と女とでは,女の 方が長命であって老人人口も多いから,粗死亡率 で見る限り,女の方が高く現われがちである.そ こで正しく比較するためには,男女の人口の年令 構成の差をなくした訂正死亡率によらねばならな い.そこで同じく図2の訂正死亡率によって男女 を比較すると,戦前は男女一定の間隔をおいて断 然男が高率であった.ところが,戦後になると,
男の死亡率は一時は幾分低下する傾向さえあった のに,女の死亡率は戦後上る一方であるか㌦つ いに男女同率となり,いまのところほとんど同率 のまま,ここ数年を経過している.この勢が進め ば,訂正死亡率でさえも,外国のように,女が男 より高位になる日が遠くないことが予想されるの
である.
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