「都市型住宅づくりと設計者の役割」 都市型住宅地においては,限られた敷地を如何に有効に利用し,その中で個々に異なるユーザーの要 望に応えるべく提案が望まれる。敷地有効利用の観点からは既製のモデュールに捕らわれることなく自 由な寸法で設計することが望ましいのだが,大抵の場合はコスト的な問題から,建設時点において市場 に最も出回っているコストバランスの取れた材料の使用が不可欠であり,その部分での妥協はせざるを 得ない状況である。そのことを前提に考えると,間取りや構造構法の選定,リサイクル,リユース性能 の向上等を含めた無駄の無い建築計画が設計者に求められていると言える。 今回のプロジェクトは,生活環境の変化に対応するための増改築に,またそれに対応出来なくなった 場合の建て替えに,柔軟に対応できるリサイクル,リユース性能の高い都市型一戸建住宅の実証実験を 目的としたものである。本プロジェクトでは,建築材料のリサイクル,リユースを始めとして,空間的 リサイクルである増改築にも主眼をおいて,地場の工務店においても建設可能な,都市型住宅の新しい プロトタイプになりえる魅力ある,決して特殊解ではない提案が望まれた。 「有効な外部空間」 想定敷地に限らず都市型住宅地においては自由になる外部空間は限られており,大抵の場合は前面道 路側が唯一の外部空間である。都市に住むためには仕方ないと諦めるにはいささか寂しく思われ,魅力 ある都市型住宅とするために二つの異なった外部空間を用意した。一つは間口が狭く奥行きの深い,都 市において典型的な敷地のその狭い間口方向を更に分割して,細長い町屋の通り庭にも似た外部空間を 配した。もう一つは,どの敷地にも必ずある上空面を利用するための屋上である。 今日,都市部の小規模敷地に建てられている一戸建て住宅を見ると,道路面に既製品のポリカーボネ イト製のカーポートを設ける例が多く見受けられる。建蔽率から考えると何処かに余白部分を取ること になるが,それを全面道路に面して設けガレージとして利用しているのである。しかし,この様な配置 計画では,道路に面する部屋は極めて良好な環境になるのに対し,奥に配された部屋は居住環境的には 光の届かない,通風の少ない劣悪ものになる。 今回の計画では将来の増改築にも対応出来るように,有効な外部空間に面する諸室を少しでも多く取
第 2 章 新金物構法棟の設計と施工
2−1 設計の工夫と残された問題点 中澤建築設計事務所 中澤博史 るため,前述の余白部分を奥に配される部屋に面して庭として設けることとし た。その上で,各部屋同士の繋がりによる空間の柔軟性が確保でき,かつエレ ベータの導入後も環境上支障ない位置に外部空間を取る必要があり,通り庭を設 けた。奥の部屋はこの通り庭に切り取られた柔らかな光で満たされ,落ち着いた 外部空間を,道路に面する部屋はその動きのある外部空間を感じることになり, 全ての居室はこのいずれかの外部空間に面するように計画された。 また,屋上は都市に残された自然を感じる数少ない自由になる空間であり,上 空面の積極的利用への提案である。屋上は緑化によって環境・景観にも配慮し, さらには断熱効果も期待される。何より都市に住まう人にとって緑の空間を持つ ことは必要であろう。 「平面の図式化」 この建物は間口方向を2つに奥行き方向を3つに計6分割して計画した。図式 化すると図1の様になる。建物中央に階段と将来設置予定のエレベータの縦動 線,その南北の西側に居室,北東に通り庭,南東に水廻りを配した。図式を単純 化する。 居 室 外 部 空 間 ( 水 回 り︶ 階 段 E V 居 室 水 回 り 図1 平面図式「生活変化に対応できる計画」 ひと昔前は,夫婦二人に子供二人の四人家族を標準世帯として住宅を造り,また購入の基準としてい た。しかし,少子高齢化の現在このような世帯は標準型とはいえない。仮にそのような標準型世帯を理 想とし将来設計を立てたとしても瞬時にそのような家族形態になることはそうそうない。また家族形態 は多様化しその形態もフレキシブルである。自分自身でさえ 10 年後 20 年後のことを断定することはで きないだろう。それならば住宅も今の生活を楽しめる形にしておいて将来の変化にも対応できる形が都 市型住宅では望ましいのではないだろうか。今回の計画では,このような変化に対してもなおざりの空 間とならによう留意した。当初の平面計画では二人暮らしの夫婦を想定し,1階はリビング,2階はダ イニングと吹き抜け,3階は主寝室が配置される。リフォーム後は,夫婦に子供二人,親一人が同居す ることと想定し,当初のリビング,ダイニングの吹き抜け部分にそれぞれ増床され,対応する。1階に 親の居室,2階にリビング・ダイニングと主寝室,3階に子供室を2部屋設ける。階段室をはさみなが らも,視線・光・風は通るので空間の一体感は充分に生まれる。加齢に伴う住宅計画も適切にまとめ,便 図3 立面図
所,洗面所の壁を取り除き一つの空間とすることでバリアフリーに対応することが可能となっている。ま た,各階への移動の介助となるほか,玄関土間から1階床までの昇降も可能となるホームエレベータも 設置できる計画としている。 「連続する空間」 今回の計画は,リフォームの実験において増床できる吹き抜け空間を造る必要があった。建設当初夫 婦二人だけの生活が,後に家族が増え,吹き抜け部分に床を造って対応するという想定である。リフォー ム実験までの2年限定だが,折角の吹き抜け空間であるから何か特徴的なものにしようと考え,4層が 連続する空間を試みた。 限られた狭い敷地に建つ住宅は,自然と縦に積層されることになり,各階に設けられる床により,自 ずと領域の断絶がもたらされる。昔の民家での部屋と部屋とが襖で仕切られ,それぞれが深い関係性を 強く意識されていたのとは対照的である。今回の計画ではこの関係性を縦に展開するべく,吹き抜けを 層毎にずらし,必要部分はガラス戸や格子で仕切ることで領域を広げ,1階から塔屋までの4層の連続 空間となる計画とした。民家の襖の開閉による空間の一体感への変化の点においては,平面的に繋がら ない分若干劣るが,道路側の採光を奥の部屋まで導け,共有できる点では勝っていると思われる。(しか し,残念ながら今回の施工では非常に厳しい予算的制約のために階段室が壁で覆われることとなった。) こうして各居室は2層分の高さを持ちダイナミックで非常に開放的な空間となった。 「SEとSI」 実証実験では,近畿大都市圏の木造需要が高いことから在来構法と新金物構法の2つの構法による検 証がなされることになる。新金物構法は接合部に金物を使い,構造パネルで耐力壁を構成するもので,鉄 骨造の鉄骨を集成材に置き換えた木造と理解して貰えれば分かりやすい。近年別々のメーカー数社が開
発し,建てられている比較的新しいものであり,詳しい内容は他者のレポートに譲るが,今回採用され たのも SE 構法と呼ばれるその新金物構法の一つである。 リフォーム性能を高めるため構造体と内装及び設備が分かれたスケルトン・インフィル(SI)の状態 が望ましく,耐力壁を殆ど必要としないこの SE 構法は打って付けの構法といえる。間仕切り壁が耐力壁 から解放され,自由に配置,撤去でき,比較的大きな空間も容易に取ることができる。また,日本人の 南向き信仰による大開口や,玄関と車庫による道路面の耐力壁の不釣り合いからも解消されることにな る。さらに,接合部の金物に止められたピンを外すことによりリサイクル性能も高まるという,良いこ と尽くめの構法である。 あえて難点を上げるとすれば,その特徴である集成材の疑心にあると思われる。しかし,接着技術の 進歩した現在,その耐久性は 100 年あると言われており,ホルムアルデヒド放出量も JAS 規格の FC0 基 準をクリアした物を使用することから問題ないレベルと言える。唯一,集成材が持つその表情に好みが 分かれる程度である。 ただし,現在この構法で施工できるのはメーカーから認定を受けた建設業者に限られており,それだ け施工の精度が必要であり難しい。今後はオープンなシステムになっていくことを願う。 「防火規制」 準防火地域内での3階建ての建築物は構造種別にかかわらず,いくつかの仕様(表1)が規定されて いる。この中で法 62 条1項以外の規定は強制的に行わなくてはならないが,法 62 条1項で規定されて いる耐火種別は3つの選択肢(耐火建築物又は準耐火建築物又は準防木3仕様)の中から選択すること になる。この内,準耐火建築物にはさらに3つの種類があり,合計5つの選択肢(表2)が有ることに なるが,実質木造で造れるのは準耐火建築物(イ準耐)と準防木3仕様の二つとなる。 準耐火建築物(イ準耐)と準防木3仕様はどちらの方が有利かはその時の条件によって異なり一概に は言えないが,準耐火建築物(イ準耐)の方が簡単だと言う理由で選択されるケースが多く,また主流 である。 今回の計画では,後のリフォーム実験で増床させる都合上,接合金物を露出させておくことと,木造 の良さを表す目的から梁を現しにするため,その小径が12cm以上なら被覆の必要のない準防木3仕様と した。また,今回は行っていないが,狭小地であるから3階建てにするというケースが一般的だと思わ れるが,この仕様なら真壁にすることが可能であり,少しではあるが室内の有効面積が広くなる。 しかしその反面,この仕様は隣地境界線からの距離に応じた外壁開口部の制限が非常に厳しい。詳し くは省略するが,その距離が少なければ開口面積も小さくなり,閉鎖的な住宅になってしまう。それを 避けるため今回の実験住宅では,隣地境界側に防火構造の壁が造ってあり,その中の開口部は制限から 外され自由なものとなり,そこから採光,通風を確保している。 表1 準防火地域内3階建て建築物の制限 法 令 内 容 法62条1項 耐火建築物又は準耐火建築物又は準防木3仕様 法62条2項 延焼の恐れのある部分の外壁、軒裏−防火構造 隣地境界線、道路中心線から1階 3m 2階以上5mの範囲内 法63条 屋根 不燃材料 法64条 延焼の恐れのある部分の開口部 防火設備 例)アルミサッシ(防火戸)+網入りガラス
表2 耐火建築物 表3 準耐火建築物(イ準耐)の仕様規定(建設省告示 1358 号 h12.5.24) 表4 準防木3仕様(建設省告示 1905 号 s62.11.10) 表5 イ準耐と準防木3仕様の比較 耐 火 種 別 概 要 適 用 例 耐火建築物 主要構造部−耐火構造 RC造、S造 (法2条九の二号) (主要構造部耐火被 覆) 準耐火建築物(イ準耐) 主要構造部−準耐火構造 木造(3階建) (法2条九の三号イ) 準耐火建築物(ロ−1準耐) 外壁−−−−耐火構造 CB造 (法2条九の三号ロ、令109条の3一号) 準耐火建築物(ロ−2準耐) 主要構造部−不燃材料 S造(主要構造部不燃) (法2条九の三号ロ、令109条の3二号) 準防木3仕様 木造(3階建) (令136条の2) 主要構造部 準耐火構造 延焼部 軒裏 防火構造 屋根 不燃材料 延焼部 開口部 防火設備 延焼部 延焼の恐れのある部分 開口部制限 外壁 防火構造 軒裏 防火構造 外壁屋内側の柱、梁 小径12cm以上なら防火被覆必要なし 床又は天井 防火被覆 屋根又は天井 防火被覆 3階室の区画 間仕切壁 戸 準耐火建築物(イ準耐) 準防木3仕様 真壁、化粧梁 燃え代設計(35mm)で可 巾12cm以上で可 開口部制限 なし あり 階段裏防火被覆 強化石膏ボード12cm なし 外壁室内側 石膏ボード15cm 石膏ボード12cm
「根強い3階建て住宅需要」 近畿大学のある東大阪市とその周辺の各市は大阪府下の中でも特に狭小住宅地の多い地域である。 それらは都市人口が急速に増加していった昭和の高度成長期に建てられた建売住宅が多く,これらの 住宅が平成に入り築 30 ∼ 35 年を経てどんどん建替え時期を迎え,建替えられた住宅のほとんどが3 階建てに建替わっている。3階建てになる要因としてマイカーの普及と床面積の増加が考えられる。 いまどきの一戸建て住宅で車庫のない家はほとんどないし,部屋数も3DKに狭い浴室・洗面だった ものが,生活スタイルの変化とともに4LDKと広い浴室・洗面が求められるようになり,狭小敷地 においては3階建てにならざるを得ない。また,100 ㎡を超える比較的広い敷地での2世帯同居希望 も多く,やはり3階建てとなる。 建替え以外の新規住宅供給においては,この地域の特徴として一戸建て住宅の最大の供給者は地元 建売住宅業者である。建売住宅の仕組みから見て,ユーザーの購入できる価格と希望する間取りから 逆算すると,土地バブルの崩壊以後徐々に地価は下がってはいるが条件のよい場所は依然高く,結果 として3階建てにならざるを得ない状況は続いている。 「地域ビルダーの取り組み」 前記のように平成に入って建替え・分譲共に3階建て住宅の供給が急速に増加している時期に阪神 淡路大震災が起こった。この地震が甚大な被害をもたらしたことは周知の事実だが,これ以後建築基 準法が大幅に改正され,特に木造在来工法は厳しい規制が加わった。それまでの木造在来工法は地場 の工務店・大工が慣れ親しんだ扱いやすい工法だったため,何ら構造的根拠もないまま,そのまま3 階建て住宅にも使われてきたが,様々な問題点が明らかにとなり新たな工法が模索され始めた。 また,構造的問題以外にも大工技能の低下による施工精度のばらつきの問題やコストダウンのため の工期短縮の問題,家族構成の変化に伴う増改築のしやすさの問題などにも対応できるような工法が 求められるようになった。 こうした要求に応えるために震災以後様々な新工法が開発されたが,そのほとんどが在来工法の欠 点である柱・梁の断面欠損を少なくするために特殊な金物を用いた工法である。 工法によって金物の形状も様々であるが多くは依然としてピン構造で筋かいもしくは面材を多用し なければならなかったが唯一「SE構法」だけが小断面でありながらラーメン構造として計算できる 工法であった。そこで今回の実大実験の新工法棟に「SE構法」が採用され,100 棟を超える施工実 績のある当社が指名された。 「SE構法の特徴と新工法棟の仕様」 「SE構法」は日本の集成材トップメーカーであるセブン工業が開発した工法で,長野オリンピック のメイン会場となったエムウェーブや鳥羽の海の博物館などで培った大断面集成材と特殊金物の技術 をもとに住宅用に新たに開発したものである。 性能の高い構造的用集成材と他工法にはない強いSE金物を使い,大臣認定を受けた独自の構造計 算ソフトによって立体応力解析され,非常に精度の高いプレカットによって製作される。施工も認定 を受けた登録施工店だけが許されているが,簡単なピンとボルトだけで組み立てができるため,施工 精度のばらつきが非常に少ないのも特徴である。ピンとボルトだけで組み立てができるということは 解体時にも躯体を大きく傷つけることなくばらすことができ,今回の実大実験の大きなテーマである リサイクルにも対応できる工法である。 新工法棟では外壁材に窯業系の防火サイディングを採用したがリサイクル時を考慮し,サイディン グの張り合わせ部にできるだけコーキングの少ない,四方あいじゃくり仕様で取り付けにもビスを使 わない金具止め工法とした。 2−2 地域ビルダーと新金物構法 タイコーハウジング・コア 栗山立己