博士論文審査報告書
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全文
(2) 固 体 中 に 励 起 さ れ た 電 子 − 正 孔 対が ク ー ロ ン 相 互 作 用 に よ り 束 縛 状 態 を 形 成 し た 素 励 起 を 励 起 子 と よ ぶ 。水 素 分 子 の よ う に 、 励 起 子 が お 互 い を 束 縛 し 分 子 状態になった素励起を励起子分子とよぶ。これらの素励起は電気伝導には寄与 し な い が 、 基 礎 吸 収 端 近 傍 の光 学 的 特 性 を 支 配 す る 。 こ れ ま で 様 々 な 物 質 で 励 起子や励起子分子の光学的特性の研究が行われてきたが、その手法はほとんど がいわゆる静的な分光法によるものであった。その中で、物質の光学的特性を 調べることは、本質的には励起子などの分極をともなう素励起と電磁波が電磁 的相互作用した結果生じる分極振動−電磁波結合モードであるポラリトンを調 べ る こ と に 他 な ら な い と の 認 識 が 確 立 さ れ て き た 。 パ ル ス 幅 が 100fs 未 満 の 超 短 パ ル ス レ ー ザ ー が 普 及 し 始 め た 1 9 9 0 年 代 以 降 、光 励 起 さ れ た 励 起 子 や 励 起 子 分子の位相が揃っているコヒーレント領域と呼ばれる時間領域を調べることが 四 光 波 混 合 (FWM) 法 な ど の 実 験 手 法 に よ っ て 可 能 と な り 、 励 起 子 − 励 起 子 分 子 系のダイナミクスが次第に明らかになりつつある。 六 方 晶 半 導 体 は そ の 一 軸 性 対 称 性か ら 、 価 電 子 帯 は Γ 点 で も 縮 退 が 解 け エ ネ ル ギ ー の 高 い ほ う か ら A , B, C 価 電 子 帯 と 呼 ば れ る 3 つ の バ ン ド で 構 成 さ れ て い る 。バ ン ド の 対 称 性 は 、理 論 的 に は 価 電 子 帯 が AΓ9 , BΓ7 , CΓ7 、伝 導 帯 が Γ7 で あ る 。 複 雑 な バ ン ド 構 造 を 反 映 し て、 励 起 子 構 造 は 非 常 に 複 雑 に な る 。 し か し 、 六 方 晶 半 導 体 に は 励 起 子 な ら び に励 起 子 分 子 束 縛 エ ネ ル ギ ー が 比 較 的 大 き い も の が 多く、古くから励起子−励起子分子系の研究対象となっていた。なかでも窒化 ガ リ ウ ム (GaN)と 酸 化 亜 鉛 (ZnO) は 、 室 温 で の エ ネ ル ギ ー ギ ャ ッ プ が 両 者 と も 約 3 . 4 e V と 紫 外 域 に 存 在 す る こ と 、大 き な 励 起 子 束 縛 エ ネ ル ギ ー を も つ こ と が 発 見 されて以来、工学的、物理的観点から多くの研究者の興味を引き付けてきた。 一方で結晶成長が難しく、励起子や励起子分子のコヒーレント領域におけるダ イナミクスという基礎物性研究に耐えられるだけの良質の結晶を得ることが困 難 で あ っ た 。 そ の た め 両 物 質と も 、 コ ヒ ー レ ン ト 領 域 に お け る 励 起 子 と 励 起 子 分 子の ダ イ ナ ミ ク ス に 関 す る理 解 は 未 だ 不 十 分 で あ る。 最 近 に な っ て 、GaN に 対 し て は 有 機 金 属 気 相 成 長 (MOVPE) 法 と 横 方 向 成 長 (LEO) 法 を 組 み 合 わ せ た 結 晶 成 長 法 、Z n O に 関 し て は 種 結 晶 を 用 い た 気 相 輸 送 ( S V T ) 法 に よ り 、 ほ ぼ 無 歪 か つ 転 位 密 度 や 残 留 キ ャ リ ア 密度 の 低 い 高 品 質 の 結 晶 を 作 製 す る こ と が 可 能 に な っ た 。 こ の よ う な 結 晶 を 用 い れ ば GaN 、 ZnO に お け る 励 起 子 − 励 起 子 分 子 系 ダ イナミクスの解明が可能になると期待される。 本 論 文 は 、著 者 が 、高 品 質 な GaN お よ び ZnO 結 晶 を 試 料 と し 、コ ヒ ー レ ン ト 領 域 の 励 起 子 な ら び に 励 起 子 分 子 ダ イ ナ ミ ク ス を 、試 料 温 度 1 0 K に お い て F W M 法 によって研 究 した 成 果 をまとめたものである。 本論文 は 5 章 から 構 成 さ れ て いる。以下、各章ごとに概要を述べ、評価を加える。 第 1 章 は 序 論 であり、 六方晶半導体におけるバ ン ド 構造 に 基 づいた 励 起 子 、 励起子分子構造をまとめるとともに、従来の研究を概観し、研究の目的を明ら かにしている。 第 2 章 で は 、実 験 手 段 と し て 用 い る F W M 法 に よ っ て 励 起 子 − 励 起 子 分 子 系 の. 1.
(3) 位 相 緩 和 ダ イ ナ ミ ク ス を 観 測す る 原 理 と 、 以 下 の 章 に お け る 実 験 結 果 を 解 釈 す る上で必要不可欠な理論的背景について手際よくまとめている。 第 3 章 で は 、 GaN に お け る 励 起 子 − 励 起 子 分 子 系 の 位 相 緩 和 ダ イ ナ ミ ク ス に 関 す る 研 究 成 果 を ま と め て い る 。 実 験 に 用 い た 結 晶 は c 面 G a N で あ り 、M O V P E 法 と LEO 法 を 組 み 合 わ せ て 作 製 さ れ た も の で あ る 。 厚 さ が 70µm 程 度 で あ る の で 、全 て の 実 験 は励 起 光 の 偏光 が c 軸 に垂 直 に な る 条件 、 すなわち レ ー ザ ー の 波 数 ベ ク ト ル を k 、 電 場 ベ ク ト ル を E と す る と き 、 k // c か つ E ⊥ c な る 条 件 下 で 行 っ て い る 。 従 って 、 本 章 では 、 伝 導 帯 の電 子 と A(B)価 電 子 帯 の正 孔 の 束 縛 状 態 で あ る A (B ) 励 起 子 の う ち 、 既 約 表 現 Γ5 に 属 す る 励 起 子 状 態 だ け に 着 目 し て い る 。 導 入 部 に 続 く 第 2 節 で は 、 励 起 子 の ダ イ ナ ミ ク ス を A ,B 励 起 子 共 鳴 励 起 下 で 調 べ て い る 。 ス ペ ク ト ル 半 値 幅 は 、 線 形 分 光 法 で 同 定 さ れ た 縦 -横 励 起 子 (LT) 分裂エネルギーより大きいことを示している。その結果、本試料においてポラ リ ト ン 効 果 は 励 起 子 レ ベ ル の不 均 一 さ に 隠 さ れ て い る た め 、 励 起 子 描 像 に も と づいた議論で十分であると結論付けている。シグナルの偏光依存性から、シグ ナル生 成 過 程において励起子-励起子散乱状態が 決定的な 役割を 演じていると す る 最 近 の 理 論 を 支 持 す る 結果 を 得 て い る 。 こ の こ と は 逆 に 実 験 の 妥 当 性 を 証 明している。さらに、時間領域でシグナルの温度依存性を測定し、励起子のフ ォ ノ ン に よ る 散 乱 を 調 べ て い る 。 位 相 緩 和 時 間 か ら A ,B 励 起 子 の 均 一 線 幅 を 求 め 、そ れ が 60K ま で 線 形 に 変化 す る こ と を 見 出 し 、 位 相 緩 和 時 間の 温 度 依 存 性 は 音 響 フ ォ ノ ン 散 乱 が 支 配 し て い る と 結 論 付 け て い る 。ま た 、 励 起 子 -音 響 フ ォ ノ ン 相 互 作 用 係 数 の 定 量 も 行っ て い る 。 最 新 の 報 告 値 に 照 ら し 合 わ せ そ れ は 妥 当 な値 で あ る と 認め ら れ る 。第 3 節 で は、 励 起 波 長 を長 波 長 に 調整 し 、 励 起 子 分 子 を 2 光子吸収過程によって 直 接 生 成 した 時 の シグナルに つ い て論 じ て い る 。 偏光選択則を 用 いた 議 論 か ら観 測 さ れ た スペクトル の中 に 、2 つ の A 励 起 子 か ら な る AA 励 起 子 分 子 、A と B 励 起 子 か ら な る ヘ テ ロ AB 励 起 子 分 子 に 起 因 す る シ グ ナ ル を 認 め 、 そ れ ぞ れ の束 縛 エ ネ ル ギ ー を 同 定 し て い る 。 さ ら に 時 間 領 域 でのシグナルをもとに位相緩和の物理を詳細に検討し、励起子分子生成は、系 内 の 散 乱 を 抑 制 す る こ と を 見 出 し て い る 。G a N に お け る ヘ テ ロ A B 励 起 子 分 子 の 観 測 は 本 研 究 が 初 め て で あ り、 そ の 発 見 と 束 縛 エ ネ ル ギ ー の 定 量 は 高 く 評 価 で きる。 第 4 章 で は 、 ZnO に お け る 励 起 子 − 励 起 子 分 子 系 の 位 相 緩 和 ダ イ ナ ミ ク ス に 関 す る 研 究 成 果 を ま と め て い る 。 実 験 に 用 い た 結 晶 は 、 c 面 ZnO で あ り SVT 法 で 作 製 さ れ た 厚 さ 5 0 0 µm の も の で あ る 。 導 入 部 に 続 く 第 2 節 は A ,B 励 起 子 に 関 す る 記 述 で あ り 、 そ の 中 で ま ず 価 電 子 帯 の 対 称 性 を 論 じ て い る 。 ZnO で は 、 他 の 六 方 晶 半 導 体 と は 異 な り AΓ7 , BΓ9 , CΓ7 で あ る と い う の が 定 説 で あ る 。 著 者 は 、. E // c な る 条 件 で 光 学 活 性 と な る 既 約 表 現 Γ1 に 属 す る 励 起 子 を 利 用 し て こ の 定 説 の 検 証 を 試 みている。 入 射 光 の 偏 光 条 件を 様 々 に 変 化 さ せ た 実 験 から 、A 励 起 子 に は Γ1 状 態 が 含 ま れ な い こ と を 示 し て い る 。 さ ら に 、 Γ7 対 称 性 価 電 子 帯 に 特 有 な 分 散 関 係 における k ⊥cで の 波 数 線 形 項 に 起 因 する ポ ラ リ ト ン分 散 の 変 化 を 利 用 し た 実 験 を 行 い 、 得 ら れ た E ⊥ c, k // c と E ⊥ c, k ⊥ c の 条 件 で シ グ ナ ル に 出 現. 2.
(4) す る ビ ー ト 周 期 の 変 化 を 解 析す る こ と に よ っ て 、 上 記 結 果 を 確 認 し て い る 。 こ の 結 果 か ら 、 定 説 の AΓ7 , BΓ9 , CΓ7 は 正 し い 構 造 で は な く 、 実 際 は AΓ9 , BΓ7 , CΓ7 の 構 造であることが指摘されている。この価電子帯の対称性に対する知見には、大 き な 意 義 が あ る と 認 め ら れ る。 本 試 料 で の ポ ラ リ ト ン 描 像 成 立 の 妥 当 性 に つ い て は 、ス ペ ク ト ル 半 値 幅 が LT 分 裂 エ ネ ル ギ ー 値 よ り 小 さ い こ と を 示 す こ と で 証 明している。. 第 3 節で は 、励 起 子-励 起 子 分 子 系 を 調 べ て い る 。偏 光 選 択 則 か. ら 、A A 励 起 子 分 子 、 ヘ テ ロ A B 励 起 子 分 子 、 さ ら に 2 つ の B 励 起 子 か ら な る B B 励起子分子に起因するシグナルをスペクトルの中に見出し、それぞれの束縛エ ネ ル ギ ー を 同 定 し て い る 。 F W M に よ る ZnO の 励 起 子 分 子 束 縛 エ ネ ル ギ ー の 同 定 は こ れ が 始 め て で あ り 、 評 価 で き る 。F W M シ グ ナ ル 生 成 過 程 に お け る 励 起 子 -励 起 子 散 乱 状 態 の 寄 与 の 仕 方 を 、励 起 波 長 依 存 性 の 実 験 か ら 詳 細 に 検 討 し て い る 。 こ の 過 程 で 、Z n O に お け る F W M シ グ ナ ル の 解 釈 、 特 に A , B 励 起 子 共 鳴 励 起 条 件 よ り 短 波 長 励 起 時 に 観 測さ れ る 、 励 起 パ ル ス 程 度 と い う 速 い 位 相 緩 和 時 間 の 説 明 に は 、ポ ラ リ ト ン 描 像 が 不 可 欠 で あ る こ と を 見 出 し て い る 。さ ら に 、F W M シ グ ナ ル の 温 度 依 存 性 を 測 定し 、 励 起 子 分 子 及 び 励 起 子 の フ ォ ノ ン に よ る 散 乱 に つ い て 調 べ て い る 。励 起 子 - 音 響 及 び 光 学 フ ォ ノ ン な ら び に 励 起 子 分 子 - 音 響 フ ォ ノ ン 相 互 作 用 係 数 を 初 め て 定 量 し て い る 。 こ の 知 見 は ZnO で は 世 界 で 初 め て 得 ら れ た も の で あ る 。第 4 節 で は 、C 励 起 子 共 鳴 励 起 下 で の F W M シ グ ナ ル に つ い て 論 じ て い る 。 ス ペ ク ト ル に 2 つ の C 励 起 子 か ら な る CC 励 起 子 分 子 か ら の シ グ ナ ル を 見 出 し 、 そ の 束 縛エ ネ ル ギ ー を 同 定 し て い る 。 さ ら に シ グ ナ ル の 解 釈 に は ポ ラ リ ト ン 描 像 が 欠 か せ な い こ と を 示 し て い る 。Z n O に お け る C C 励 起 子 分 子 束 縛 エ ネ ル ギ ー 同 定 の み な ら ず 、 六 方 晶 半 導 体の C 励 起 子 領 域 から FWM を観測した前例はなく、この成果は高く評価できる。 第 5 章 「 総 括 」で は 、 本 研 究を 通 し て 得ら れ た 知 見 をまとめるとともに今 後 の展望を述べている。. 以 上 を 要 す る に 、著 者 は 六 方 晶 半 導 体 G a N お よ び Z n O の 複 雑 な 励 起 子 − 励 起 子分子系におけるコヒーレント領域での詳細なダイナミクスを初めて明らかに した。この業績は、物性物理学への寄与が多大であるとともに、電子物性工学 な ら び に 光 物 性 工 学 へ の 貢 献 が 大 き い と 評 価 で き る 。よ っ て 本 論 文 は 、博 士( 工 学)の学位論文として価値あるものと認める。. 2004 年 2 月 審査員. 主査. 早稲田大学教授. 工学博士(早稲田大学). 宗田孝之. 早稲田大学教授. 工学博士(早稲田大学). 尾崎. 早稲田大学教授. 工学博士(東北大学). 堀越佳治. 早稲田大学教授. 工学博士(早稲田大学). 大木義路. 早稲田大学教授. 博士(理学)(大阪大学) 竹内. 淳. 北海道大学助教授. 工学博士(大阪大学). 智. 3. 足立. 肇.
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